覚醒剤汚染

 酒井法子は将来を悲観して、首でも吊ってるんじゃないかと思っていたんですが、それはなさそう。


 今、仕事で覚醒剤依存症の人のリハビリ施設に月1で行っているのだけれど、酒井法子の旦那しかり、押尾学しかり、依存症になっていたのは間違いないと思う。覚醒剤の依存症は医療と司法の線引きが難しいところで、逮捕して刑務所に入れたところで、依存症は治らない。だけれど、刑務所から出てきた人がちゃんと依存症の治療につながるか、というと、これまた難しい。結局、再犯に至る。


 こういう人達も、一度ちゃんと覚醒剤依存症の治療を受けた方が良いと思うのだけれど、芸能人という立場上、難しいんだろうなあ。


 ちなみに、10/31、11/1と、川越で依存症看護(アディクション看護)の学会をうちの研究室主催でやります。興味の或る方は是非おいで下さい。

処遇困難例

 寝不足で死にそうだったので、最低限の仕事だけして、さっさと帰って来て、駅のホームをのったりのったり上がっていたら、真正面のエレベーターから駅員が血相を変えて担架を運び出している。これはもしかして私も心臓マッサージくらいお手伝いしないと駄目かも、と思い(心臓マッサージというのはエラく疲れるので、交代しながら何人かでやる)、ホームに戻った。そこに丁度電車が入ってきて、ドアが開くと、担架が待機していた辺りの車内で、ヘッドギアを被った男性が倒れて両手を上に突き上げて硬直している。一目見て、てんかん発作だと判った。


 発作中は動かしてはいけないというのがセオリーなのだけれど、どう見ても電車が発車出来なくて、困っている(苦笑)。そこで、極力動かさないように大人数で担架に水平移動して貰って、ホームに下ろした。電車はすぐさま発車、しばらくしてその発作を起こしていた人も意識が戻り、ベラベラ自分の名前やら年齢やらを話し出して、意識は極めて清明、麻痺も外傷も取り敢えずは無し、丁度救急隊が到着したので、引き渡してきた。


 その患者さん、ヘッドギアをしっかり被って、「デパケン飲んでます」とかしっかり話すものだから、てっきりどこかの医療機関につながっている人かと思ったら、そうではないらしい。都立××病院にかかっていたが断られて、他の病院へ行こうとしていたところらしい。家族に連絡を、と思って連絡先を訊こうとすると、ひどく嫌がる。どうやら、家族とは疎遠なようだ。どこか頼りになる医療機関やスタッフはいないか尋ねても、いないらしい。あちゃ〜、こりゃ地域で浮いちゃってる処遇困難ケースだあ、と思ったけれど、そこまで介入するのは通りすがりの一介の大学教員である私のすることではない。


 私が昔勤めていた全国的に有名な精神科病院は、こういう処遇困難な患者さんを嫌う病院だった。私がこの仕事に就く前に勤めていた病院は、ベッドが空いていれば処遇困難だろうが何だろうが、現場の苦労を考えず、入院させる病院だった。勿論、ボランティア精神からではない。単純に、空いているベッドが少ない方が病院が儲かるから、何でもかんでも患者を受け入れていただけだ。



 だけど、私はそれでも処遇困難例を受け入れる前の病院の方が好きだ。有名精神科病院は良い医療をしていて、良い看護も確かにしていたけれど、入り口で患者を選別するようなら、意味が無いと思う。誰からも見放されて、見捨てられて、他に行き場の無いような患者を抱えるのも、私は精神科病院の宿命だと思う。



 その倒れた人ともちょっとだけ話をしたけれど、確かに我が強そうで、医者やその他の医療スタッフと衝突しそうな感じはした。でも、誰も頼れない中で一人で懸命に生きていこうと頑張っている感じがした。こういう人は迷惑なのは、私だって百も承知だ。でも、誰かが、どこかが抱えなければ、いけないのではないかと思う。



 余談だが、その人が倒れている時、乗り合わせていた乗客の日本人は、遠巻きに見ているだけだった。側に居た、アフリカ系の外国人の男性の乗客だけが、手を貸してくれた。恥ずかしくないのか、日本人。

行為障害


 児童精神医学(精神科にも成人と小児があって、専門が分かれているのだ。勿論私の専門は成人の方)の範疇に入る疾病なので、あまり詳しくは知らないのだが、おおざっぱに言うと「反社会的な行動を持続的に繰り返し行う」児童の病気。病名は知っていたのだけれど、実際の患者さんを今日始めてみた。思ったのは、村上龍の「半島を出よ」に出てくるイシハラの元に集まる少年達や、「希望の国エクソダス」のポンちゃん達みたいだということ。



 詳しいことは書けないけれど、その子の反社会的行為に手を染めるところはイシハラの元に集まる少年達みたいだったし、インターネットやパソコンを活用して親から独立しようとするところは「希望の国エクソダス」のポンちゃんみたいだった。村上龍の書き方からすると、彼は多分行為障害という病名(というか概念?)は知らないのだと思うけれど。

 勿論、事実は小説と違うから、あの子は北海道に独立自治区を作ったり、北朝鮮のコマンドから日本を救ったりは出来ないだろう。でも、あの子みたいな子供達の万に一つの可能性を信じて、村上龍は「半島に出よ」や「希望の国エクソダス」のような小説を書いたのかもしれない、と思う。



 それにしても、非行に走る子供に手を焼いて、異物を見るような目で見て、物を扱うように接する親、というのはドラマや漫画や小説の中だけの話だと思っていたら、実在した。今日見たその子の親がまさにそうだった。本当にこんな親が居るのかと思って、びっくりした。



半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

希望の国のエクソダス

希望の国のエクソダス

ショック


 私が2年くらい担当しているある男性患者さん。一時期盗癖が酷くて隔離室を出入りしていたのだが、最近落ち着いていた。なので、時間制限付きで単独で病棟から出られるように医師に指示を貰ったのだが、2週間程度経ったところで離院。また棟内だけの生活に戻ったのだが、大きな問題は無く経過していた。ところが、抗精神病薬リスパダールからエビリファイに切り替えた途端、女性患者さんのところに夜這いに行った。仕方なく、男女混合ユニットから男性ユニットに移動(私の勤務している病棟は亜急性期の男女混合ユニットと急性期の男性ユニットがある)。はっきり言ってもう長期療養型病院に転院して貰うくらいしか今後の展望が無いのだが、家族がそれを望んでいなく、それならば今の環境で出来るだけ束縛の無い生活をして貰おうと主治医といつも相談していた。


 今日は男性ユニット勤務だったので、その患者さんのところに話をしに行った。すると、開口一番、「担当看護師を買えて下さい」。それは師長に相談しないと……、と返して、理由を尋ねると、「それは師長に話します」。


 正直、キレた。はっきり言ってどうしようもなさ過ぎるので、看護師の間でも嫌われ者の患者さんだが、私は担当なので何とかしなければといつも2年間頑張ってきた。その挙げ句が受け持ちを変えろ、と来たか! お前なんぞ誰にでもくれてやるわ!! 好きにしろ!! ……というのが本音。まあ幾ら何でも患者さんには言わなかったけれど、ナースステーションで怒り狂っていた。


 ……まあ、性的逸脱は全く無かった患者さんなので、多分、抗精神病薬をスイッチングしたことで病態が変わってきているのだとは思うのだけれど……。それは頭でわかっていても、ここまであからさまに拒絶されると、看護する気も失せる。私の2年間の努力は何だったんだ。


 精神科の看護師を始めて7年目になるが、患者さんに受け持ちを拒否されたのは始めてだ。ちょっとショックだ。

アドヒアランスとかコンプライアンスとか


 日勤。おばあちゃんナース達とお仕事だったのだが、おばあちゃんナース達、どっかりとナースステーションに座り込んで動かない動かない。1人でばたばたと走り回って仕事をこなした……。こういう光景を見ると、年をとるのは罪悪なんじゃないかという気がしてくる。流石に疲れて、帰ってきてビールをひっかけたら爆睡。さっき起きた。こういうことをしているから睡眠リズムが崩れて不眠症が悪化する。


 夕方、薬を飲むフリをしてぽいっとゴミ箱に捨てた患者さんを発見。本当に精神科は病識が無かったりアドヒアランスが不良な患者さんが多くて、悩ましい。教育的な働きかけを医師からも看護サイドからももっとしなければいけないのだと思うのだけれど、うちの病院ではあんまりそういう教育をしていない。というか、何かにつけ父権的なうちの病院ではアドヒアランスなんて言葉は使えない気がする。せいぜいコンプライアンス、であろう。

斎藤茂太氏亡くなる


 私はこの人の本は読んだことが無い。しかし、ほんの一時期この人の下で働いたことがあった。病棟に疥癬が発生して大わらわになっている時に理事長回診に来て、窓の外の木を見て「この木も大きくなっちゃったなあ。少し切らないと……」と、全然関係の無いことを呟いていたのが印象的だった。御冥福をお祈り致します。

精神科の火災


東京・板橋の病院で火災、患者死亡 容疑の患者の男逮捕
http://www.asahi.com/national/update/1015/TKY200610150077.html?ref=rss


 恐ろしい話だ、と思う。この記事によると、逮捕された男性患者はナースステーションからライターを持ち出したという。まずこの時点でまずい。更に、この男性患者は隔離室に入っていたらしいが、隔離室にライターを持ち込んでしまっている。入室前のボディチェックが甘かったのだろう。そして最も恐ろしいのが、放火した理由が。「近くの病室の入院患者が始終ドアをたたきうるさかったので、火を付ければやめると思った」というものであること。


 隔離室で1人患者が騒ぎ出し、周りの患者が反応して不穏化することは、珍しいことではない。そして、隔離室で患者が騒いでも、直ぐに静かにさせられるわけではない。或る程度は様子を見ることもあるし、騒げば要求が通ると思っている患者などの場合は敢えて無視する場合もある。周りの患者が反応し始めれば騒いでいる患者を沈静化させるよう処置をとるが、沈静化させようとして薬を使っても効かないこともある。今回の火災の場合、どのパターンだったのかは、わからない。


 病院などによると、男の病室は職員が開けたため逃げて無事だったが、死傷した患者の病室は鍵を開けるのが遅れたという、とネットの記事には書いてある。そもそも、精神科の病棟(特に閉鎖病棟)というのは、隔離・拘束をしている患者も多いし、そもそも病棟自体が非常口を含め施錠されている。窓も、人が出られない程度にしか開かない。加えて、精神科の患者さんは夜は殆どの人が睡眠薬を飲んで眠っているので、ちょっとしたことくらいでは起きないことが多い。だから、私も常々病院で火事や地震が起きたら、患者さんを助け切れないだろうな、とは思っていた。多分、病棟の鍵を開け、隔離室の鍵を開け、拘束を取って、……そこまですら、出来るだろうか、と思っていた。精神科は法律で他の科よりも看護師が少なくて構わないことになっている。だから、夜勤の人数なども少ない。60床くらいの閉鎖病棟で、夜勤の看護師が3人居れば多い方だと思う。そんな状況で火事や地震が起こったら……とても患者さんを助けきれない。


 まだニュースを見たばかりで頭の整理がついていないのだが、一つ言えるのは、他人事ではない、ということ。この事件には多くの問題が含まれている。きちんと考えなければいけない、と思う。