なんとFF(日産のLMP1マシン・その2)。

ERSの持っている機能を,最大限に引き出すためのディメンション。


 ベン・ボウルビーの発想を端的に要約してしまえば,こういうことのようです。にしても,FFレイアウトとは,相当に挑戦的なディメンションであります。この挑戦的なディメンションが,どれだけの戦闘力として表現されるのか。現段階では,テスト・セッションの状態などがチェックできるわけではありませんから,持てる潜在能力が実際に表現できる能力となり得るのか,それとも潜在能力が隠れたままになるのか,判断は相当に難しいと思うわけですが,少なくともデルタウィングを手掛けたベン・ボウルビーはLMP1−Hを手掛けるにあたっても,独創的な発想を存分に落とし込んできた,とは言えるように思います。



 ファースト・チームは第2次キャンプの行われる鹿児島へと移動,着々とシーズン開幕へ向けた準備を進めているわけですが,相変わらずフットボールを離れまして,日産からのリリースをもとに書いていこう,と思います。


 さて。このLMP1−Hを考えるときに,最も重要な技術要素となるのは冒頭部分にも書いた,「ERSの持っている機能の最大化(であり,最適化)」ではなかろうか,と思います。端的に書けば,ERSを最大限に機能させるために,どのようなパワーユニットを構築するか,であり,どのようなディメンションを採用するか,であります。まず,パワーユニットから見ていきますと,オートスポーツさんの記事(と,この記事のベースとなったオートスポーツさんの記事(UK・英語))を斜め読みしてみますと,日産は8MJを発生するERSの搭載を想定しているようです。このリリースでは,搭載されるエンジンは3000cc・V型6気筒ツインターボとのことです。単体重量がどの程度か,あるいはどこまでコンパクトな設計になっているのか,など,このリリースからは読み取ることのできない部分を含めて,日産は“パワーユニット”についてはLMP1に関する技術規則,というよりもフォーミュラ・マシンについての技術規則に近い発想を持っているのではないか,と見ています。


 つぎに,ディメンションであります。


 ミッドシップ・レイアウト,という固定概念を外してLMP1−Hについての技術規則を読み直してみれば,確かに多様なアプローチをこの技術規則は許容している,と見ることもできます。かつてのグループC規定も,技術的に多様なアプローチを許容しうるものでしたが,ディメンションについても独自性を許容しうるものだった,とまでの記憶はありません。その意味で,現行の技術規則は相当にメーカに自由度を与えるものとなっている,と見ることもできるわけです。


 そこで,です。日産はなぜ,ミッドシップ・レイアウトではなく,FFレイアウトの採用に踏み切ったか,をシロート目線で推理してみよう,と思います。


 ここでも鍵となるのが,“ERS”ではなかろうか,と思うのです。ベン・ボウルビーはエネルギー回収効率をどれだけ高められるか,同時にどれだけ短時間に回収したエネルギーを使えるか,に着目していることが読み取れます。物理な話をすれば,運動エネルギーは速度の2乗に比例もしますが,同時に重量にも比例しています。フロント・アクスルに搭載するERS,その機能を最大限に生かすためには,重量物をERSの近くへと搭載することで,運動エネルギーの絶対値を高めたい。となると,タイア攻撃性も当然に高まることを意味するわけだから,ミッドシップ・レイアウトを採用するレーシング・マシンとは大きく異なるフロント・タイアを装着する必要性が出てくる。結果的に,ミッドシップ・レイアウトを採用するLMP1−Hと前後が逆転したようなタイア・サイズを採用することになるし,重量配分も大きく異なることから空力的な処理も必然的に異なることになる,と。


 というような理解をすればいいのかな,とは思うのでありますが,ホントに未知数な部分が多いマシンである,というのが正直な印象であります。メカニカルな部分だけで言うならば,確かに興味深いマシンなのですが,レーシング・マシンは技術的に興味深いだけで足りるものではありません。「強さ」に技術が関連付けられていることが求められる。強さを引き出せるアプローチであることを,期待したいと思います。

「まったく異なる方法」とはFRか(日産のLMP1マシン)。

興味深い推論だな,とは思います。


 “spy photo”を見る限り,興味深い推論,というだけでなく,確度の高い推論という評価もできる,かも知れません。知れませんが,個人的には違う推論の可能性を考えてみたい,と思います。たとえば,LMP1マシンのデザインを担当しているのがデルタウィング,そしてZEOD RCを担当した人間と同じであるならば,どこかに独創的なレーシング・マシンとの共通性を感じ取ることができるはずですし,空力的な処理などにも引き継がれている要素技術があるのではないか,と思うわけです。


 相も変わらず,の低空飛行な更新頻度で申し訳ありません。にもかかわらず今回はフットボールを離れまして,レーシングな話をオートスポーツさんのニュース記事をもとに個人的な推論,と言いますか,希望的観測を書いてみよう,と思います。


 R391をサルテへと持ち込んで以降,スポーツ・プロトタイプへファクトリー参戦せず,プライベティアへの技術支援(実際には,セミ・ファクトリー体制での「技術支援」をしていた時期もあるように思いますが。)という形でスポーツ・プロトタイプへのコミットをしていた日産でありますが,2015シーズンからLMP1クラスに参戦する,とのアナウンスが昨年されています。このアナウンスの段階では,どのようなレーシング・マシンを持ち込むのか,という部分には踏み込んでいなかったものの,これまでの“R・・・”というスポーツ・プロトタイプに与えられてきたコードネームを使わずに,“GT−R”とのネーミングを採用していること(となると,BCNR33時代のGTマシンを思い浮かべるオールド・ファンのひともおられるかな,と思います。),加えて,こちらの記事で紹介されている,


 「ライバルたちに対し、まったく異なる方法で勝ちたいと思っている。我々は、ポルシェ、アウディトヨタと同じ枠のマシンに収めるつもりはない。他とは違ったものを目指している」


とのパーマー副社長のコメントを受けてのこと,ではないかと思いますが,日産はLMP1マシンにFRレイアウトを採用してくるのではないか,との観測が流れていたのだとか。そして,テストを行っている,と思われる画像によって,FRレイアウトであるとの観測,その確度が上がっているようにも感じられるわけです。ですけれど,(シロートですから大きく空振りする可能性は当然ありますが)違う見方もしてみたいわけです。


 ではまず,“ガレージ56”枠で参戦したレーシング・マシンを思い浮かべてみることにします。


 これらのレーシング・マシンは,どのようなディメンションを持っていたでしょうか。このディメンションを基盤として,LMP1マシンについての技術規定を充足するディメンション,フォルムへと変化させるとすれば,どのようなものとなるでしょうか。


 思うよりも,ロングノーズなスポーツ・プロトタイプ,という姿が導き出されるのではないでしょうか。オートスポーツさんのCGイメージでも,特徴的なフロント・セクションが描き出されていますが,恐らく,デルタウィングからZEOD RCへと引き継がれたマシン・ディメンションが,LMP1規定と組み合わされているのではないかな,と思うわけです。むしろ,個人的な興味はハイブリッド・システムをどのようにレイアウトするか,という部分です。たとえば,ZEOD RCでは専用設計のフロント・タイアを用意して,徹底的にフロント・セクションを絞り込んでいましたが,このディメンションが大幅に変化することになります。そのときに意識するのは,ハイブリッド・システムのレイアウトではないかな,と思います。モータをどの位置に搭載するか,であったり,バッテリ・ハウジングをどの位置にするか,などであります。物理的な特性を考えるならば,重量物はできるだけ車体中央部,それも低い位置に搭載したいはずです。メディアがエンジン・ベイと考えている位置にLMP1−Hにおける重要な技術要素であるバッテリ(あるいはキャパシタ)が搭載される可能性もあるかな,と思うのです。


 もうひとつ。オートスポーツさんの記事にも掲載されている,“spy photo”についての疑問であります。


 最大限好意的に書けば,かつて日産が手掛けたグループCマシンとの共通性を感じるサイド・セクションに思われますが,現代的な空力処理を意識したサイド・セクションだろうか,という疑問が浮かびます。むしろ,今回のような“スパイ・フォト”の可能性を考慮して,サイド・セクションには擬装を施してくる,と考えるのが自然ではないか,と思うのです。ZEOD RCを思い返してみると,モータ駆動,という部分がクローズアップされてはいましたが,モータ駆動とエンジン駆動を組み合わせてひとつのサイクルとしていた,ということを考えると,ZEOD RCも小排気量エンジンを搭載するスポーツ・プロトタイプ,と見ることができるはずです。けれど,このZEOD RCにはシャークフィン部分にエア・インテークが装着されてはいませんでした。であれば,サイド・セクションにエア・インテークが装備されていたと見るべきでしょうし,バッテリやモータの冷却などを考えてみても,サイド・セクションの造形には大きな鍵があったのではないか,と思います。この鍵を,スポーツ・プロトタイプにも持ち込んでくる可能性は,決して低くはないのではないか,と思うのです。


 さらに書けば。ZEOD RCでは,小排気量エンジンの可能性を探っていた,と見ることもできるかな,と思います。サルテでの12ラップをひとつのサイクルとして捉え,11ラップをエンジン駆動で走破する。そのときに使われるのは,直列3気筒・1500ccのエンジンだったと記憶しています。LMP1規定で勝負権を,となれば,恐らくは違う解が導かれるだろうとは思いますが,小排気量でも勝負を挑めることはポルシェが示してもいるはずです。重量物を可能な限りコンパクトに仕立てることができるならば,スタイリングも既存のスタイリングに収める必然性がない,とも言えます。ZEOD RCがLMP1マシンを仕立てるにあたってのテストベッド的な意味合いを持っていたのであれば,何らかの共通性がLMP1マシンには見出せるはずです。そして個人的には,ZEOD RCの血統をLMP1マシンにも感じたい,と思います。


 日産としては,“マーケティング”を意識してGT−Rというコードネームを選択した,のかも知れませんが,個人的な思いとしては,独創的なレーシング・マシンを基盤とするLMP1マシンを見てみたい,と思っています。

GS F。

搭載されるエンジンを基準にして選びたいレクサス。


 そんな見方もできるかな,と思います。


 環境性能面での要求基準が高まっている現代にあっては,なかなか真正面から「走ってナンボ」を訴求するのは難しいものがありますし,高性能な部分を強調するとしても,環境性能との折り合いをどのようにつけるのか,がより強く問われていくはずです。であれば恐らく,レクサス・ディビジョンも中長期的にはFレンジにもダウンサイジングという発想を落とし込んでいくのではないか,と推理していますが,レクサス・ディビジョンの主要なマーケットである北米市場の嗜好を思えば,“V型8気筒”というエンジン形式は「高性能」という部分を訴求するにあたって大きな意味を持っているはずです。


 トータル・バランスでクルマを選ぶ,という見方をするならば,ともすれば違う解が導かれる(個人的にも,直列4気筒エンジンとハイブリッド・システムを組み合わせたGS300hを「理」で考えるならば選ぶ)かも知れませんが,「エンジンを買う」という見方でクルマを選ぶとすれば,かなり有力な選択肢になるのではないかな,と思うわけです。



 今回は,フットボールを離れましてひさびさにクルマ方面の話をこちらの記事をもとにちょっと短めの方向で書いていこう,と思います。


 デトロイト・モーターショーに出展される,“GS F”であります。このGS Fでありますが,どのような位置付けなのか,この記事だけでは正確に理解することが難しいものがありまして,レクサスからのリリースも読んでみたのでありますが,少なくともコンセプト・モデルというわけではないようですし,デザイン・スタディという表現もリリースには使われていません。であれば,導入時期こそ明確なアナウンスがなされていないものの,Fレンジへの「実質的な」追加モデルである,と理解していいようです。


 では,エンジンの話に戻ろう,と思います。


 こちらの記事をまとめたエディターさんによれば,搭載されるエンジンは5000?・V型8気筒エンジンである,とのことです。であれば,恐らく搭載されているエンジンはIS FやRC Fに搭載されている2UR−GSE型であることが推察されます。「源流対策」という言葉とともに欧州メーカに大きなインパクトを与えたUZ型エンジン,その後継機種であるUR型をベースとする高性能エンジンであります。ここで注目したいのは,トヨタ(レクサス・ディビジョン)は「ターボ過給」という選択肢を採用していないこと,です。欧州各メーカはセグメントを問わず“ダウンサイジング・コンセプト”を導入,ターボ・エンジンを搭載しています。排気量を従来車種よりも引き下げる反面で,絶対的な性能を確保するためにターボ過給を掛ける(であれば,基本的にはパワーを引き出すことだけを意識したセッティングではなく,低回転域から過給がかかる,実質的に排気量を落としていないようなトルク感を与えるセッティングへと変化しています)。対してトヨタは,ダウンサイジングという発想ではなくて,ハイブリッド・システムを基盤とする“パワープラント”を採用することで環境性能面での独自性(そして,欧州メーカに対する優位性)を訴求する,という立ち位置を取っているように思われます。この立ち位置の「例外」がこの2UR−GSE型ではないかな,と思うわけです。この推察通りであるとすれば,レクサス・ディビジョンはセグメントEのスポーツ・セダンに搭載する,という部分を意識してでしょう,(基本的にはディチューンを施す方向で)再調律を施しているようです。


 個人的には,「トヨタが考えるダウンサイジング・エンジン」にも興味がありますし,より小さな排気量でも魅力的なスポーツ・エンジンができるのではないか(たとえば,セグメントDであるISにGR型をベースとするV型6気筒・ツインターボを搭載する,新たな“IS F”を用意してほしい),という期待を持っているのは確かです。と同時に,ターボ過給を掛けない,自然吸気エンジンの楽しさを真正面から訴求する車種を大事に育て続けてほしい,とも思っています。


 ハイブリッド・システムを搭載するクルマもいいし,ディーゼルを搭載するクルマもいい。ダウンサイジング・ターボも悪くない。そして,高性能なエンジンを搭載するクルマもまた,あっていいはずです。いろいろなエンジンをそれぞれの顧客が自分のライフスタイル,使用環境や好みなどによって「選べること」に価値がある,と私は思っていますが,同時にエンジンを買う,という意識を持てる,そんなエンジンが存在し続けていることもまた,大きな価値であるように私には思えるのです。

初戴冠(第91回東京箱根間往復大学駅伝競走)。

平塚中継所の時点で,首位チームとの差は49秒。


 この49秒差を46秒差へと縮め,芦ノ湖の決勝点へと向かう第5区へとつないでいく。そして第5区では,この46秒差を縮めるだけでなく,4分59秒というアドバンテージを築いて復路へと向かうことができた。チームとして,どの区間を鍵として位置付け,どういう戦い方を狙っていたのか,その姿を垣間見ることができたのが,この第3区以降ではなかったか,と思います。


 往路優勝そのものも当然にうれしかったのですが,それ以上に総合優勝の可能性が現実的な視界として見えてきたような感じがして,(チーム関係者でもないのに)このタイム差がセイフティ・リードになるのか,それとも追われる立場になったことがチームにネガティブな影響を与えてしまって,このアドバンテージが削られてしまうのだろうか,などと,復路はまだまだ始まっていないのに,そんなことを思い浮かべてしまったのも確かです。チーム関係者でもない,単なるアウトサイドなのにちょっとした怖さを感じてしまったわけです。しかしながら,そんなネガティブな思考は,かなり早い段階でポジティブな意識で上書きされました。芦ノ湖畔を飛び出していった選手の姿,そして立ち上がりの走り方を見て,彼らは首位というポジションにプレッシャーを感じるのではなくて,首位で復路を戦えることの楽しさ,うれしさを存分に感じながら走っているように感じられたのです。首位のポジションを「守る」走り方には見えなかった。実際に区間首位,あるいは区間2位という成績を積み重ねて,フレッシュ・グリーンの襷を大手町の決勝点へと運び,10時間50分を切るタイム(10時間49分27秒)を記録してみせた。望み得る,最高の形での初戴冠ではないかな,と思います。


 ここ数年,年初のエントリは駅伝関係に集中しておりますが,今年も駅伝,と言いましても全日本実業団ではなくて,箱根駅伝について書いていきたい,と思います。いつもならば,俯瞰的にレースを振り返りながら書いていくところでありますが,タイトルにも掲げたように我が出身校の初戴冠でもあり,今回は青山学院視点で書いていこう,と思います。


 まずは,往路での戦い方に注目してみます。


 一般に,箱根駅伝で「エース区間」と言えば,鶴見中継所から戸塚中継所までの第2区,と認識されます。されますが,振り返ってみるに青山学院は必ずしも,エース区間を文字通りのエース区間(主導権を早い段階で掌握して,勝負を仕掛ける区間)として位置付けてはいなかったように感じられます。むしろ,駒澤大学東洋大学,そして今大会で言えば明治大学などの有力チームとのタイム差を意識して,首位を奪えるタイミングを狙えるポジションを取り続けることを戦い方の中心に据えていたのではないかな,と思うのです。たとえば,歴史的に意識される往路の軸が「第2区」であるとして,今季の青山学院はこの軸をもうちょっと広く,「第3区以降」と見ていたのではないか,と思うのです。そして,勝負を仕掛けるポイントを第5区にセットしていたのではないかな,と。と考えるならば,小田原中継所の時点で首位チームとのタイム差は46秒差,というのは狙い通りだったのではないかな,と思うのですが,この区間で2位とのタイム差を4分59秒へと広げ,往路優勝という結果を引き出したことは,個人的には少なからぬ驚きでした。


 であると同時に,復路を戦う選手たちには,この往路優勝という結果が大きな刺激として作用していたようです。


 ともすれば,4分59秒差というタイム差は,チームに「隙」を生じさせる要素になる,かも知れません。この隙が見えてしまえば,ライバル・チームはこの隙を見逃すことなくタイム差を詰めに来るだろうし,タイム差が詰まっている,という実感があれば,より「追い掛ける立場」の持っている強みが増していくことにもなるはずです。復路を戦う強豪チームは,青山学院がタイム差を守りに入ることをどこかで意識していたかも知れません。セイフティ・リードと思っていてくれれば,小さいなりにも付け入るべき隙が生じるはずだ,と。しかし実際には,付け入る隙を生じさせることはありませんでした。4分59秒差,というタイム差を着実に広げていくことができていたわけです。むしろ,焦りからリズムを崩したとすれば,それは追い掛ける側だったかも知れません。何とかしてタイムを詰めようとしてオーバーペースで立ち上がってしまって,逆に後半の走りに悪影響を及ぼしてしまう,というように。実際,復路を戦う選手の「攻める姿勢」はタイム差として見えているように思います。小田原中継所の段階ではタイム差を5分42秒差へと広げ,平塚中継所では8分21秒というタイム差を構築します。そして最終的には,2位に入った駒澤大学とのタイム差は10分50秒。長めのマクラでも書きましたが,望み得る,最高の形で復路をも戦い抜き,総合優勝という結果を引き出したわけです。


 中継を担当したメディアだけでなく,活字メディアでも取り上げられていたようですが,復路の選手たちは往路の成績で総合優勝という結果が導かれた,と言われないようにしよう,と言っていたとか。この意識が,4分59秒というタイム差を「守る」のではなく,総合優勝を奪いに行く,という意識,そしてさらなるタイム差を積み上げていくための原動力となっていたようなのです。個人的には団体競技,ではあるけれど,個人競技の側面も強く持っているのが駅伝という競技ではないか,と思っていますが,この「個人競技」の側面がポジティブな方向に作用していたのが今季の青山学院ではないかな,と思います。チームとしての結束は相当に強いものがあるようにアウトサイドからも感じられますが,強い結束と同時に,ひとりひとりの選手が持っている意識が強いことも感じられます。誰かひとりの選手が持っている強みを最大限に生かす,という要素が今季の青山学院,その戦い方の大きな鍵だっただろうことも感じられますが,この鍵だけでなく,復路を戦ったそれぞれの選手が,往路の戦いぶりに大きな刺激を受け,ベストを尽くしていったことが結果として,10時間50分を切るという快挙へと結び付いていったように思うわけです。


 いずれにしても。私が実際に青山キャンパスに在籍していたときには,箱根駅伝の舞台で青山学院のユニフォームを目にすることができるとは想像もしていませんでした。そんな状態だったのが,フレッシュ・グリーンのユニフォームを目にすることができるようになり,シード権を獲得できるようになり,出雲駅伝などで存在感を示すようになっていった。そしてついに,箱根を制するに至った。うれしい限り,であります。

ココロの作用(2014的御用納めに代えて)。

そもそも,納めるほどの更新頻度か,と。


 ご指摘通り,でございます。


 予告もなしに長期のお休みをいただいてしまいまして申し訳ありません,な店主でございます。


 書いておきたいこと,書いておかないといけないかな,なんて思うことも結構いろいろとあったのは確かなのでありますが,ひとえに個人的な処理能力の不足が超低空飛行,と言いますか,予定外の長期休暇の主要因でございます。まいどの繁忙期を過ぎて,やっと更新ペースを取り戻せるかな,と思っていると,結局繁忙期が再びご到来で,もともとそれほどキャパシティが大きくはない処理能力,その大部分をエントリ更新以外の部分に振り向けざるを得ず,結局予告もなしに長期間のお休みをいただくことになってしまった,というわけであります。


 いつも通りにしているつもりでも,余裕がいつの間にかなくなっていく。


 恐らく,シーズン終盤のファースト・チームの置かれていた状況もこのようなものだったのかも知れません。2014シーズンを俯瞰的に見るならば,戦い方の微調整はある時期まで相当程度に機能していたように感じられます。自分たちが狙う理想の戦い方を徹底して表現するかのような戦い方ではなくて,自分たちが狙う戦い方と,勝ち点3を積み上げるためのアプローチを折り合わせる,そんな戦い方を狙っていたように感じられるのですが,ある時期から,その現実的な姿勢が影を潜めていったようにも感じられます。全34節が終了した段階で最終的にトップの位置にいればいい,というような,いい意味での割り切りが見えれば理想的だった,と思うのですが,「欠くことのできないピース(浦和の戦い方を決定的に左右する戦力)」が負傷によって欠けてしまった影響も相まって,どこか首位という立場が自分たちを追い込んでいってしまったようにも感じられるのです。「勝ち点1」の価値は,確かに評価が難しいものがあるとは思いますが,見方によっては相手から勝ち点2を奪った,という見方もできるはずです。どのゲームの話か,恐らく具体的にイメージできるか,と思いますが,あの段階でのファースト・チームは,コーチング・スタッフを含めて,「自分たちから自分たちを追い込んでしまっていた」ように思うのです。相手が掛け与えてくるプレッシャーに対して,そのプレッシャーを等身大に受け止めるだけの心理的な余裕を失い,自分たちが持っていたはずの物理的なアドバンテージをどこかに置き忘れてしまったように思うのです。

 
 どのような競技,どのような領域であっても,心理面での安定は自らの能力をしっかりと引き出すための必須要件だろう,と思います。と同時に,「我,いまだ木鶏たり得ず」との言葉を残した力士もいると聞き及んでいますが,それだけ,心理的な安定を保ち続けることは難しいことでもある,と思います。この難しい要素に対して,どれだけしっかりと向き合えるのか,が問われているのだろう,と思いますし,個人的には,「木鶏ではない自分(うろたえてしまう自分)」をどれだけ意識できるか,がひとつの鍵なのかな,と思います。


 心理的に追い込まれる状況になったときに,どれだけ心理面でのバランスを取り戻せるのか。


 戦略的な課題(戦力設計面など)や,戦術的な課題(ミラー・ゲームに持ち込まれると,自分たちの持っている強みをしっかりと表現できるものの,今季は4を主戦パッケージとして押し出すチームに対して苦戦する傾向が強く,4に対しての処方箋として構築されたはずの可変パッケージがその機能を大きく落としてしまっているように感じられること)など,クリアすべき課題もあるように思いますが,心理面でのマネージメント,コーチング・スタッフからのマネージメントだけでなく,オン・ザ・ピッチでのマネージメントの重要性(チームがいつもの戦い方を失いかけているときに,誰がいつもの戦い方へと引き戻す,そのきっかけをチームに与えるのか)もまた,来季に向けて意識すべき大きな課題ではないかな,と。


 というようなことを,実際に心理的に追い込まれて(と言いますか,自分から自分を追い込んでしまって),なかなかエントリを上げる日常を取り戻すことができなかった実体験を踏まえて思うのであります。


 相変わらずの遅筆堂ではありますし,更新頻度もそれほど大きく引き上げることはできないかな,とは思いますが,少なくとも,書いておこうと思うことに対しては,余裕を持って対処していこう,と思っています。速報性だったり,即時性はもともとそれほど強くありませんでしたが,より時期に外れたエントリが増えてしまう,かも知れません。であれば,ちょっと違った見方を書いていくことができれば,なんて思ったりもしています。また,かなり書いていない欧州のフットボールやもうひとつの軸足でもあるラグビーフットボール,あるいは自分のアンテナに引っかかったこともしっかりと書いていければ,などとも思っております。


 それでは,よい年をお迎えくださいませ。

対徳島戦(14−27)。

ボールがどこまで動いてくれるのか,予測が相当に難しい。


 予測が難しいのみならず,ボールがピッチの影響を受けないエリアを見つけるのが難しい。ボールをミートした瞬間,足下からスプラッシュが上がる。パスを繰り出そうにも,予想できないタイミングでボールに急激なブレーキが掛かり,ボールは動きを止めてしまう。浦和が狙うフットボールを表現することは事実上不可能,と言っていい。であれば,ボールを浮かせた状態で「エリアを奪いに行く」戦い方へと切り替えざるを得ない。ここまで浦和が狙ってきた戦い方からは大きく離れた,だけでなく,ラグビー的,とも言える戦い方を表現せざるを得なかった。「普段着」とは違う戦い方を基盤としながらも,この基盤を揺るがすことなく勝ち点3を積み上げることができた,ということが最も大きな収穫ではないかな,と思うのです。


 繁忙期はとりあえず脱したにもかかわらず,相変わらず更新頻度が低空飛行状態,なおかつ遅筆堂状態も絶賛継続中で申し訳ない限りでございます,の徳島戦であります。


 ボーイズマッチの段階で,今節は対戦相手以外にも「戦わなくてはならない相手」があるな,と感じさせる,そんなコンディションでありました。であれば,今節は浦和が狙う戦い方を表現するための「前提条件」が抜け落ちていた,と見ることもできるはずです。


 日曜日の中野田,そのピッチ・コンディションによって,いつもとは大きく違う戦い方を基盤としながら勝ち点を積み上げる必要に迫られた。そこで導き出されたアプローチが,「エリアを奪いに行く」戦い方,ある意味でラグビー的なボールの動かし方へとつながっていたものと思います。たとえば,いつも通りにビルドアップをしようとすれば,予想外な位置でボールにブレーキがかかってしまう可能性が高かったはずです。ウォーミングアップ・セッションの段階でも,いつも通りのミドルレンジ・パスではパスを受けるべきフットボーラーにまでボールが届いてくれない状態であることが見て取れました。そんな状態で,「普段通り」の戦い方をしてしまえば,相手にボール奪取位置を自分たちから提供することになりかねない,そんなピッチ・コンディションだったわけです。パス・レンジをしっかりと自分たちでコントロールするためには,ボールを「浮かせて」コントロールすることが求められる。加えて,リスク・マネージメントとのバランスを意識して,相手のエリアで攻撃の起点を作りたい。最終ラインやセントラル・ミッドフィールドのポジショニングなどからも,シンプルにボールを縦に動かすことで攻撃を組み立てると同時に,ボール・コントロールを失ったときのリスク・マネージメントを意識する,という「いつもとは違う戦い方」の意識が見て取れたように思います。


 この意識を,先制点を奪われた直後の時間帯であっても失わなかったこと,が今節での鍵ではないかな,と感じます。


 おおざっぱに試合の流れを振り返るに,立ち上がりの時間帯から,いつもとは違う戦い方ではあるとしても,自分たちが主導権を掌握する形で試合を動かしていたように感じます。ならば,どのように自分たちの戦い方を調整し,その調整した戦い方をひとつのイメージに束ねてきたか,が明確に感じ取れたように思うのです。


 しかしながら,フットボールという競技は理詰めのアプローチを徹底することが結果と直線的に結び付いてくれるとは限らない,というのも確かです。先制点を奪う,という意味で言えば,相手に先手を取られてしまった。相手ボールホルダーが右サイドへと繰り出した縦へのフィード,そのフィードは,雨によって大きな影響を受けていた中野田のピッチにあってごく例外的な,水の影響をそれほど受けていないエリアを狙い澄ますかのようなものだったのです。いつ,パスに予想外のブレーキが掛かってしまっても不思議のないピッチで,この局面だけは不思議とボールにブレーキが掛かることがなかった。数少ない好機を相手はモノにした,と言うべきでしょう。


 試合の主導権を掌握しながら,スコアを動かすという意味で言えば相手の後手を踏むことになった。そこで動揺するのではなく,今節において狙う戦い方を徹底することができた。高い位置に攻撃の起点を置き,そこからシンプルにボールを動かしていく。ユニットによるコンビネーションから相手守備ブロックを揺さぶり,ゴールを奪うことができずとも,高い位置でリスタートの起点を奪うことができれば,得点を奪うチャンスへと結びついていく。立ち上がりの時間帯から,しっかりとピッチに表現されていた形で,しかも失点を喫した時間帯からそれほど時間を置かずに試合をイーブンな状態へと引き戻すこととなるFKにしても,追加点(にして決勝点)を挙げることとなるFKにしても,チームとしての狙いが結果へと結び付いたものではないかな,と思います。


 端的に書いてしまえば,今節は「浦和が狙うフットボール」からは程遠い,けれど「勝ち点3」を着実に積み上げることが求められていた,という意味で難しい試合ではなかったかな,と思います。加えて,試合を動かす,という意味で言うならば相手の後手を踏みもしています。これまでの浦和を考えるならば,後手を精算できるかどうか,という見方もできた,かも知れません。知れませんが,日曜日のファースト・チームは冷静に状況を判断しながら,普段着とは大きく違う(ラグビー的な)フットボールで結果を引き寄せるためのアプローチを繰り返していたように思います。そして,勝ち点3を積み上げる,というミッションをクリアしてみせた。今節積み上げた勝ち点3は,ライバルとの勝ち点差を広げるという意味で重要な意味を持っているのは当然ですが,チームがどれだけの柔軟性をもって試合に臨み,結果を引き寄せていけるのか,という意味でも,決して小さくない意味を持った「勝ち点3」でもあるだろう,と思っています。

対柏戦(14−24)。

これまでとは違う結果を,引き出せるはず。


 そんな予感,あるいは期待感を持たせてくれる,立ち上がりの時間帯だったように思います。


 繁忙期は抜け出したはずなのに,相変わらずの低空飛行状態,のみならず時期に遅れまくっておりまして申し訳ありません,の柏戦であります。ですので,短めの方向で思うところをまとめておこう,と思います。


 さて。立ち上がりの時間帯であります。この時間帯に先制点を奪取することはできなかったものの,このときの攻撃の流れは,“ミラーゲーム”を狙って相手が持ち込んできたパッケージに対する処方箋を,浦和が明確に描き出しているだろうことを感じさせるものでした。今節の相手は,高い位置から積極的にプレッシャーを掛け与える,というよりもブロックの安定性,浦和の攻撃ユニットに対して数的同数な状態をつくり出すことを意識した戦い方を徹底していたようです。この相手守備ブロックに対してどのようなチャレンジを仕掛けていくのか(=ビルドアップからフィニッシュへの流れをどのようにして組み立て,攻撃リズムを生み出していくか)という部分の約束事,戦術的なイメージがチームとして共有されているように感じさせる,そんな立ち上がりの時間帯であったように思います。


 アクションを起こしているボール・ホルダーに対して,どのようなアクションを連動させ,ボールを呼び込み攻撃を連動させていくのか。


 スプリントが要求されるのは当然として,そのスプリントを意味のあるスプリントとするために,しっかりとした状況判断ができることなど,“インテリジェンス”も当然に要求される。そのバランスが,しっかりと整っている。FKから先制点を奪取した局面にせよ,2点目を奪取した局面にせよ,決して立ち上がりの時間帯にチームが表現した形とは同じではありませんが,戦術的な基盤と,この持っている能力とがしっかりとバランスしている,機能に裏打ちされたコンビネーションがピッチに表現された,という意味で言えば,浦和が狙うフットボールがしっかりと表現された局面であり,時間帯ではなかったかな,と思います。


 対して,課題面であります。


 数的優位な状態を生かし切れなかったこと,も課題かも知れませんが,追加点を奪取するために攻撃的な姿勢を強めすぎなかったこと,をポジティブな要素として捉えておきたい,と思います。ビルドアップから攻撃面でのギアを引き上げる,という段階までを取り出せば,確かに圧倒的な優位を構築できていたかな,と思います。思いますが,ここで攻撃面へと重心を傾けすぎてしまうと,数的不利に陥っているはずの相手に対して「使える」スペースをサーヴィスすることにもなりかねない。チーム・バランスのインバランスを最低限度に抑え込めていた,という側面から見るならば,ポジティブに見ることもできるのではないか,と思うわけです。むしろ,チーム・バランスの不安定性,という側面から言うならば,失点を喫することとなった局面を含めて,2点目を奪取したあとの時間帯が課題かな,と思います。失点の局面を振り返ってみるに,浦和はなかなか相手ボールホルダーに対して有効なチャレンジを仕掛けられていなかった,という印象が残っています。相手の仕掛けてくる攻撃に対して,チャレンジを仕掛けるべき位置をなかなか見出せずに相手の後手を踏む形へと追い込まれてしまったように感じるわけです。ビルドアップから攻撃面でのギアを引き上げる,というタイミングでボール・コントロールを相手に奪われる,といいますか,自分たちからボール・コントロールを相手に譲り渡すような形になってしまうと,チーム・バランスが攻撃方向に傾いている状態,守備応対面から見れば理想的とは言えない状態から守備ブロックを整え直すことが求められるものの,チーム・バランスが必ずしもコンパクトな状態を保てていなかったがために,守備ブロックを整え直すだけの時間がなかなか取りきれないと同時に,相手ボール・ホルダーに対するファースト・ディフェンスが有効に仕掛けられない状態に嵌り込み,結果として相手の後手を踏み続けてしまう,という悪循環に陥りがちですが,この局面もこのような悪循環にチームが嵌り込んでいたような印象です。攻撃面での意識と,守備応対面での意識をどのようにバランスさせ,ハーフタイムへと持ち込むか。今季,ゲーム・クロックが45:00から再び動き出し,60:00前後の時間を表示するまでの時間帯をどう戦うか(後半立ち上がりから15分前後の時間帯,どれだけ相手に主導権を譲り渡すことなく,狙う戦い方へと相手を引き込んでおけるか)が課題として見えていた試合は決して少なくない,という印象がありますが,この時間帯の戦い方をより難しいものとするか,それとも自分たちの狙う戦い方へと相手を早い段階で嵌め込み直せるか,今節で言うならば,2点目を奪取したあとの戦い方が鍵となるように思うのです。それだけに,ゲーム・マネージメントという部分で詰められる要素があるように感じますし,しっかりと課題をクリアして,詰めるべき部分を詰めてほしい,と思うところです。


 と,長めになってしまうわけですが。


 これまで,なかなか結果を引き出すことができなかった相手が3連戦の初戦であり,ここで「勝ち点3」を積み上げることができたことで3連戦を戦っていくためのリズムがつかめたのではないか,と感じます。フィットネスを維持するだけでも難しい部分があるか,とは思いますが,この流れを手放すことなく「勝ち点3」を着実に積み上げていくためのアプローチを続けていってほしい,と思います。