SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

推しの殺人

[著者:遠藤かたる/宝島社]

 被害者の事務所社長は相当のクズで、陰で所属アイドルへの脅迫に暴行、さらに薬物使用の疑いもある。素直に自首していれば情状酌量の余地もあっただろうに。たとえバレなかったとしても、殺人と共犯としての死体遺棄の事実の重荷は一生抱えていかなければならないだろうになあ……ってまあそれじゃ話は盛り上がらないか、とか思いながら追っていました。

 「本当はイズミが殺したんじゃなくて、真犯人は別にいるのでは……?」みたいな捻った仕掛けを疑ってたんですが、特にそんな事もなく。ストレートにアイドルグループメンバーの殺人と死体隠蔽をやらかした後にどう逃げ切るか、と言う展開の内容でした。

 正直結末の幕切れは語りが足りなくて不満だったんですけど、光と闇を携えたまま行く末を曖昧に濁して終わらせるやり方もありと言えばありなのかなあと。一方でバレるかバレないかの逃げ切りの中盤展開は、テンポ良くハラハラさせられる緊張感も増し増しで非常に読み応えありな面白さでした。

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 1時間目

[著者:さがら総/イラスト:ももこ/MF文庫J]

 話の道筋がいくつか示されていて、その内のどこに向かって行くんだろうなあと眺めながら読み進めていました。

 例えば天神と星花の関係、天神とラノベ作家、天神と進学塾、塾講師、塾生たちとの交流……などなど。天神を中心に色々な出来事はあったけど、今回のメインは天神と進学塾存亡の危機の話だったかな。最終的にそこの解決へと向かって行ったので。

 星花との関係については、盛り込まれていた内容としては初回でも充分と感じたんですが、メインイベントを張るにはまだまだこれから、と言った所でしょうかね。

幸せジャンクション キャンピングカーが運んだ小さな奇跡

[著者:香住泰/ディスカヴァー・トゥエンティワン]

 前触れもなく理不尽な失職を喰らって、社長から餞別代りにキャンピングカーを一方的かつ強引に受け取りながらも、主人公の浜浦ってどこか落ち着き払っていると言うか達観してるよなあって初期の頃の印象でした。

 60歳と言う年齢を考えたらある程度は落ち着いた心境になれるものなのか? しかしそれにしてもかなりの大事に見舞われても然程動じないのは、本当に中身が出来た人なのか、それとも複雑な事情を抱えているのか……なんて事を考えながら浜浦とキャンピングカーの行く先を追っていました。

 その辺りの事情は終盤で分かって来るんですけど……この物語を都合の良い展開と取るか、それとも浜浦の人間性が導いた必然と取るか。まああんまり捻くれた捉え方はしないように自重しながら、素直に出会いの数々と人生の挫折と好転を噛み締めるように読んでみました。

死にたがりの君に贈る物語

[著者:綾崎隼/ポプラ文庫]

 単行本では既読(と言うのを忘れていて文庫版を買っちゃって、読んでからも途中まで忘れていてようやく再読している事に気付く)。

 以前読んだ時も強く思った事で、「自分には果たして、こんなに純恋ほど作品の続刊を死ぬほど望んで望んで愛してやまない小説に出会った事があっただろうか?」って深く深く考えさせられてしまいました。

 正直に言えば「最近はないかなあ」で、過去にあったかと言えば思い返せば切望してた作品はちらほらあったような気もしますが、もう記憶も定かではないです。さすがに『続刊途絶えたら(物理的に)死にたい』とはならないですけど、絶望するくらいの作品は自分の中にもかつてはあったかも知れません。

 ひとつ自分自身に言い聞かせているのは、『何らかの事情で長らく未完のまま続刊が途絶えたとしても、作者が存命なら続きを望み続けて諦めるな!』と。もしかしたら作品を通して訴えたかった中には、そう言った側面もあったのかも?

トンデモワンダーズ 下 <カラス編>

[著者:人間六度/企画・原案:sasakure.UK/メディアワークス文庫]

 自身がプログラムであり、その役割と存在意義をついに知った少女は、作られた世界でたったひとり現実と繋がる少年の心を救う事が出来るのか?

 上巻ではテラの行動と心の動きが主だったのに対して、この下巻はカラス=天島月彦の現実世界での状態、過去の父との確執、治療世界における存在と心の葛藤や揺れ動きなどが主に描かれています。

 もちろんそれだけでなく、存在理由を確信してどうにかカラスの心を救いたいと願う、テラの彼女らしい無茶通しな奮闘ぶりも大いに盛り上がを見せるひとつです。

 『プログラム』と『人間』……月彦が現実世界に戻れば決して共存する事は出来ない二人。どんな結末を遂げるのかと興味と不安交じりで追い続けていました。

 個人的には本当に大満足な結末のラストシーンで。最後の最後に『歌ってみる』で締める辺りは、何となく原作を意識されているかのような素晴らしい演出だなあと思いました。