SIDE ONE ~小説の感想を日々書き連ねる~

小説の感想を日々書き連ねるブログ

ハンチバック

[著者:市川沙央/文藝春秋]

 自分で読んでみて、どうにも物語に込められた著者の意図を理解出来た気がしなかったので、『ハンチバック 解説』とか検索かけて頼る事にしました。

 その結果、「読む人によってこんなに深い解釈や考察が出来るもんなんだなあ」って感心してばかりでした。

 特にエピローグ前の釈華の『独白』から、エピローグで語られている状況に至るまでがさっぱり理解出来なかったんですが、各所の考察や解説を読んでハッキリ理解出来るくらいには納得しました。なるほどねえ、と。

 釈華が田中に仕向けた行為に対しては、『生きる事への執着』『生きている事の実感』を得たいが為だったのかなあ、なんて思ったりもしましたが、的外れだったのかどうか。どうなんでしょうかね。

体育館の殺人

[著者:青崎有吾/東京創元社]

 この例えが適切かどうか、言って伝わるかどうかは分からないんですが……読んでいて思い浮かんだのは『金田一少年の事件簿』的なやつで。

 クセつよ主人公に常識人で振り回される助手役、事件発生からいくつもの謎の展開を経て「謎は全て解けた!」と主人公の謎解き語りで真相解明に至る、みたいな感じ。

 読んだ手応えや感じ方の賛否に、個人差が大きく出そうな所ではありそうですけどね。まあ個人的にはもの凄く大好きな話で実に満足な内容でした。

 あえて不満的な意見を言うなら、真犯人の動機や感情的な部分にもうちょい焦点を当てて欲しかった事くらいでしょうかね。裏染天馬シリーズとして続編あるみたいなので、今度そちらも読んでみたいです。

くじら島のナミ

[著者:浜口倫太郎/ディスカヴァー・トゥエンティワン]

ディスカヴァー文庫 くじら島のナミ

ディスカヴァー文庫 くじら島のナミ

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 どこか児童文学的な表現描写のように感じられたお話。とは言え、大人が読んでも存分に堪能出来る仕上がりになっていると思います。

 船の沈没事故で死に瀕した母親から、生まれたばかりの娘ナミを託された『超巨大クジラ』のジマ。クジラのジマと人間のナミとの異種族間同士の交流と生活。

 ジマとクジラの群れの生存を賭けた天敵シャチとの緊迫に満ちた戦い。そして難局を乗り越えた先に待っていたナミのジマとの別離……などなど、分かり易い内容ながらも見どころも面白さも満載でした。

Blue

[著者:葉真中顕/光文社]

 『平成の時代』を色濃く反映させた物語。特に音楽の歌詞や政治情勢などはリアルに盛り込まれていて、世代によってはこの世界観にドハマりしそうな雰囲気だったなあって印象でした。

 物語の内容は、家族を惨殺した犯人が自殺して幕を閉じるはずだった事件の背後に、正体不明の『真犯人』の影が浮上した事によって、その存在を追跡しゆくと言った展開。平成時代の幕が閉じるまで事件を追い続けた、刑事であるひとりの男の『執念』が実を結んだ、と言った感じだったでしょうかね。

 一見関係なさそうな人物や証言の断片が集まり、複雑な経緯を辿って真相に至るまでの構成は、長丁場でも引き込まれ続ける魅力があって見事なものでした。

 “真犯人の幕切れ”について。個人的にはこれで良かったかなと納得出来ました。登場人物達は色々複雑な思いでしょうけど、何となく真犯人自身がこの結末を望んでいたように思えてしまったので。

ロスト・ケア

[著者:葉真中顕/光文社]

 高齢化社会、在宅介護、介護業界の闇、高齢者の貧富格差、などなど。フィクションと注釈を入れられたとしても、どうしても現実社会のリアルと重なる部分で「これはノンフィクションか?」とつい思わされてしまいました。

 読んでいても、やはり創造の物語の中だけの出来事とはどうしても割り切り難くて、大体の結末は初期段階で何となく察せられるものの、残され突き付けられたものはやるせなく救いようがなく。

 じゃあどうすればよかったのかと考えてみても、結局『真犯人が手を染めた犯罪方法』以外に救われる道を思い浮かべる事は出来ませんでした。