持家か賃貸か

 家を買うべきか借りるべきかと言う議論は様々な観点から繰り返し行われていますが、多くは「どちらが有利か」という損得勘定からの議論に終始し、「豊かな住生活を実現するためには」といったライフスタイル重視の議論が少ないようです。
 損得勘定ばかり云々していると、ある人の言葉ですが「持家と賃貸の違いは、家を借りているかカネを借りているかの違いに過ぎず、借りていることに変わりはない」などといやみを言いたくなるのも判る気がします。

中古住宅の価格

  • 日本の中古住宅は築後20年もたてば建物の価値はほとんどなくなり、土地値になってしまいます。ところが欧米では中古住宅の価値は下がらず、手入れの良い住宅はむしろ価値が上がります。この差はどこから来るのでしょうか。
  • 理由は:

1.日本はもともと住宅を堅固で恒久的なものとは考えない傾向があった。
 豊かな自然を住まいの中に取り入れる開放的な住宅構造(それを可能にする温暖な気候)、豊富な森林資源に恵まれ木材が容易に入手できる環境、更には豪華な住宅にこだわることを恥じとする風潮(現代ではこれは薄れているでしょうが)など、家を大事な財産として長期にわたり使用するという発想がもともと余りなかった。従い、中古住宅に価値を認めず、お金をかけて維持するより建て替えてしまうと言う傾向が強かったと言えるでしょう。
2.価値のある中古住宅が少ない。
 住宅の価値は住み手にとっての効用により決まります。その効用を決めるのは、①デザイン、②機能、③性能です。建てた本人が住み続けるなら、本人が効用を認めれば価値はあるわけですが、他人に売るなら誰もが認める効用が必要です。つまり普遍的なデザイン、機能、性能がなければ中古住宅の価値は低くなり、よい値段がつかないという結果になります。この点日本の戸建て住宅の多くは注文住宅で、住宅設計の素人である建築主の思いが強く反映された、言いかえれば他人には余り通用しない建築主固有の効用を満たすために設計されたものが多いと言えます。更に上記の通りその効用を長く維持すると言う発想がないとしたら、中古住宅によい値段がつくことは期待できません。
3.日本の住宅ローンは住宅の資産価値を重視しない。
 日本の金融機関は住宅ローンの融資額を主として借り手の返済能力(年収)により査定します。勿論住宅に抵当権は設定しますがあくまで補助的なものと言えます。(典型は生命保険が強制的に付保されることで、死ねば保険金でローンが返済されます。)一方、米国では融資額は住宅そのものの資産価値で査定されます。住宅の抵当価値が重要なのです。これは欧米に共通のやりかたで、新築・中古を問わず資産価値のない住宅にはローンは組めないわけです。そうなると、中古になっても資産価値(上の言い方をするなら、誰もが認める普遍的な効用)を維持する必要があり、新築時の設計から入居時のメンテナンスにわたり、住宅の所有者は価値を維持し、高める努力を払う事になるわけです。

  • 以上が主な理由と考えられますが、それぞれが相互に関連性のある大きなテーマですので、項を改めて考えてみます。

なぜ日本の住宅寿命は短いのか

耐久性が低いのか

  • 寿命が短い理由として先ず考えられるのが、日本の家は耐久性が低いという可能性です。でも本当にそうでしょうか? 確かに欧州の家は石造り・煉瓦造りが多く耐久性はありそうですが、米国は日本と同じで木造が中心です。気候のせいでしょうか。日本の多雨多湿の気候が住宅の寿命を縮めているのでしょうか。
  • 以前にある材木屋さんに家はどのくらいもつのか聞いたことがあります。答えは「しっかりした材木を使えば、柱や梁などの構造材は70年でも平気でもつ」ということでした。26年で建て替える必要はないということです。では多くの家は「しっかりした材木」を使っていないのでしょうか?古い家は確かに粗悪なものが多かった時期もあったようですが、どうやら耐久性が主な原因ではなさそうな気がします。

耐久性以外に考えられる原因として:

  • 日本人の生活習慣(古いものは簡単に棄ててしまう過度の消費志向)
  • ライフサイクルにあわせて変更できない間取り・構造
  • 中古住宅の価格(10年経つと中古住宅は土地値)

などがあります。次回から順次考えてみます。

早く壊すから沢山建てなきゃいけない

住宅の平均寿命

  • 住宅の平均寿命は前にも触れたとおり、日本が26年、米国44年、英国75年と言われています。日本が米国の約1/2、英国の1/3と非常に短い数字になっています。
  • 一方、人口当たりの住宅着工数は前回のデータのように、日本は米国の約2倍、英国の3倍となっています。これはまさに先ほどの住宅寿命の逆数、裏返しです。つまり、日本は家をたくさん建て過ぎというより(別のデータで、日本の現在の住宅戸数は約5,000万戸、米国は1億戸、ちょうど人口に比例した数字になっており、日本人が家をたくさん持っているということではありません)、早く壊し過ぎている、その結果たくさん建てる必要があるというのが正しい理解のようです。
  • ところで、住宅を早く壊すことによりふたつの問題が出てきます。
    • 経済的負担です。日本人は米国人の半分の年数で家を立て替えるわけですから、家計の住宅建設費負担は米国の2倍になります。リフォーム費用を考慮に入れても恐らく5割増くらいの負担をしていることになるのではないでしょうか。更に、日本の住宅建築費は米国より高いと言われています。最近米国も住宅建築費が上がってきて平均19万㌦(約2,000万円)になっていますが、平均面積が157㎡と日本の123㎡の3割ほど広いわけですから、実感としては4〜5割は日本の建築費の方が高いという感じでしょうか。両方あわせると、やはり日本人の住宅費負担は米国人の2倍程度になってしまいそうです。
    • もうひとつ、環境負荷の問題があります。建設廃材は年6,000万㌧、全産業廃棄物の15%を占める大きな発生源ですから、短いサイクルで家を立て替える今のやり方は、環境保全の面からも大きな問題をはらんでいます。

日本の住宅建築数は非常に多い

住宅着工数

 最近日本では近い将来住宅着工数が年間100万戸を割り込むだろうなどと、住宅建築数がどんどん減って行くように言われています。確かに住宅着工数はここ数年120万戸前後で、以前と比べるとかなり減っているのは事実ですが、そもそもこれらの数字は他国と比べてどうでしょうか? 欧米の住宅着工数と比べてみると面白い事がわかります。

住宅着工:総戸数

アメリカ イギリス フランス ドイツ 日本
U.S.A. U.K. FRANCE GERMANY JAPAN
年 (千戸) (戸) (戸) (戸) (戸)
Year (1,000Units) (Units) (Units) (Units) (Units)
1990 1,192.7 171,694 305,959 - 1,707,109
1991 1,013.9 170,784 299,217 - 1,370,126
1992 1,199.7 163,523 272,536 - 1,402,590
1993 1,287.6 192,850 252,590 - 1,485,684
1994 1,457.0 210,594 297,204 624,997 1,570,252
1995 1,354.1 177,805 283,396 553,177 1,470,330
1996 1,476.8 185,160 272,204 496,706 1,643,266
1997 1,474.0 200,704 270,082 451,624 1,387,014
1998 1,617.0 187,206 282,684 409,207 1,198,295
1999 1,666.5 189,537 310,726 377,520 1,214,601
2000 1,593.1 188,642 302,396 298,989 1,229,843
2001 1,602.7 193,154 293,087 256,731 1,173,858
2002 1,704.9 193,347 294,093 243,248 1,151,016
2003 1,848.4 - - - 1,160,083

出典:住宅金融公庫

  • 上の表を見ると、日本の住宅着工数は大雑把に言って米国と同等、英国やフランス、ドイツの4〜5倍といったところですね。
  • ところがこれらの国々は人口が違うわけで、人口1,000人当たりの年間住宅着工数を計算してみると、日本が約10戸に対し、米国は5戸,英国3戸,フランス5戸、ドイツ4戸くらいになります。
  • 人口当たりで見ると、どうやら日本の住宅建設は非常に多いようです。これは以前に見た住宅の平均寿命(日本26年、米国44年、英国75年)の裏返しということと思われます。

続きは明日。

情報の洪水

今日は息抜きで日記はお休み。

ところで家つくりに関する情報の多さには圧倒されます。木造住宅だけでも年に50〜60万戸も建てられているのですから、それだけ皆さん関心が高いということでしょうが、雑誌やネット上の家に関する記事はあきれるほどの多さですね。かく云う私もその一端を担おうとしているわけで、情報の洪水の中できらっと光るものに出来るか、まあがんばってみましょう。

それでは次回からまじめに始めてみます。

どこの国でも借家は持家より狭い

 ある経済学者が面白いことを言っています。借家が持家より狭くなるのは理由があり、これは世界共通だというのです。簡単に言うと:

  • 家を建てたり買ったりするときには、家を借りるときにはないコスト(工務店との契約、設計などに関する費用)が発生するが、これは1回きりで、家の規模が大きくなれば相対的にこのコストは安くなる。つまり持家は大きいほどコスト的に買い手にとって有利になる。
  • 一方、家を人に貸す場合、きれいに使ってくれるか、周りの住人とうまくやってくれるかなどのリスクがあり、貸し手にとってこのリスクは家が大きいほど大きくなる。(このリスクは持家の場合はない)
  • 従い、家を買ったり建てたりした場合、自分ですむなら大きい家のほうが相対的にコストが安くなり、人に貸すなら小さい家のほうがリスクは少なくなる。これがどこの国でも持家のほうが広く、借家が狭くなる理由だ、というのです。