夢3b
「はじめに言ったわ。わたしはみんなを不幸にする。だから、あなたはわたしを殺さないといけないって。でも、あなたはそうはしなかった。すごく嬉しかった。本当にありがとう。わたしを生かしておいてくれて」
その満ちたりた声色に、大切な思い出が汚されていく気がする。
彼女はもういないのかもしれない。彼がいうように、変わってしまったのだろうか。
それとも最初からすべてまやかしで、彼女は僕を欺いていたのかもしれない。
だとしたら、おそらく、僕には悩む理由なんてないのだろう。
僕のことなんてお構いなしに、彼女の影は語り続ける。
「でも、それももうおしまい。あなたはあなたの信じる正義に従って、ここまで来たわ。だからわたしは、ここで死ぬの。それがあなたのすること。そして、それがわたしの役割の終わり」
明るく微笑んで、彼女は言葉を継いだ。
「ほら、早くしないと、またたくさんの人たちが死ぬわ。ここには誰もいないし、わたしはなにもしないから。今ならとても簡単に、何もかもが終わらせられる。それが、いつも間違うあなたの、大事な大事な使命だもの」
だとしても、みんなを幸せにするのが僕の願いだから。
そう答えることしかできない僕に。
彼女は少し躊躇って、呆れたように、でも、とても優しく囁いた。
「あなたは神さまじゃないわ。でも、ここにいるのよ」
もう、迷いはなかった。そして彼女も、嘘をついてはいなかった。
それを理解しながら、乾いた心は機械のように体を動かして、僕のすべきことを行い、
二つの影は重なり、一つになる。
夢3a
唐突に開けた空は橙色に焼けて、周囲の暗い壁を照らしている。
広いバルコニーに一人で立つ人影は、間違いなく記憶の中の少女だった。
気配を感じて振り返った彼女は、変わらないあの透明な声で、すこし照れたように語りかける。
「幸せに生きてみようと思ったけれど、あまり上手くいかなかったみたい。でも、後悔はしていないわ。これだけが、わたしのできることだった。そしてなにより、あなたにもう一度会えたんだもの」
背筋を伸ばして立つ彼女の言葉に迷いはない。
沈み行く日の残り火が与える金色の縁取りが、悪魔とまで呼ばれる彼女の姿を、聖女のような荘厳さで包む。
一縷の望みを託して告げた投降の求めに、彼女は懐かしい、あの困ったようなトーンで答えた。
「もしかして、まだ気づいていないかもしれないけれど、あなたはまた間違ってるわ」
追憶に浸りそうになる僕に、彼女は続いて語りかける。
「でも、まったく気づいてないってことはないでしょう? あなたは十分にみんなを泣かしてきたんだから」
ごめんなさい、それはもう、わたしの口からいうことじゃないのね
くすくすと笑う彼女の姿に、期待を絶たれたことを確認せずにはいられない。
同時に、これまでにない彼女への憎しみが生まれてきたことを理解する。
心のどこかで拒絶していた事実が、今、実体をもって心を黒く染めていくのを感じた。
ずっと信じたくなかった。ずっと信じていたのに。
神聖性包茎アルセスカムリ
神聖包茎アルセスカムリは神性人間である。
猫と竜の争いの余波を喰らってネタキャラにされた彼は
今日もゴミ缶モデルとして各地でゆらぎすぎの後始末に走り回るのだ。