「子育て支援金」を医療保険料で取る新たな「実質増税手法」は愚の骨頂 「子どもを産む」ことが経済的リスクに

現代ビジネスに4月12日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/127679

健康保険財源の「目的外使用」

結局は取りやすいところから取るということなのだろう。「子ども・子育て支援金」の財源を、公的医療保険の保険料に上乗せして徴収する法案を政府・自民党が押し通そうとしている。少子化対策の「子育て支援金」だと言えば、誰しも反対はしにくい。それを良いことに財源を「医療保険」から持っていこうというのは、かなり筋が悪い。

医療保険制度はあくまで「保険」なので、保険料によって賄われるのが前提だ。万が一病気になった場合の医療費を保険がカバーし、自己負担を低く抑えることができる。世界に冠たる仕組みだ、と政治家も役人も胸を張ってきた。だが、高齢化で医療費が大きく膨らんでいることもあり、決して医療保険制度に余裕があるわけではない。

にもかかわらず、その保険料に上乗せして「子育て支援金」の原資を集めるというのだ。子育て支援と健康維持は本来まったく関係がない。病気のリスクに備えるという健康保険の目的と、子育てを支援することに直接的なつながりはない。子どもが増えれば健康保険にとってもメリットがあるというのは屁理屈だ。

健康保険財源の「目的外使用」をいったん許せば、今後、さまざまな施策の財源として使われ、そのたびに保険料が上乗せされることになりかねない。国民の健康を守るには安全も必要だとなれば、防衛費にだって回すことができるかもしれない。それほど政府にとって都合の良い「財源」として健康保険料上乗せが使われようとしているのだ。

どう考えても可処分所得は減る

4月9日にこども家庭庁は支援金制度に伴う徴収額の試算を公表した。会社員などが入る被用者保険での、年収別の徴収額が初めて明らかになった。年収600万円の従業員の場合、2026年度は月額600円、27年度は月800円、28年度には月1000円が徴収される。年間にすれば12000円だ。夫婦共働きの場合、この2倍を負担することになる。また、同額を企業も負担しなければならない。さらに年収が増えれば負担額は増えていく。

本来は税金で賄わなければならないものを、保険料を給与天引きで徴収すれば、国民は文句を言う余地がない。実質的な「増税」を、国民に分かりにくい形で導入しようというわけだ。

この制度の導入に当たって岸田首相は、「実質負担はない」と言い続けてきた。徴収される金額が増えるのに、実質負担が増えないというのは理解に苦しむが、賃上げによって賄えるという。

おかしな話である。賃上げするのは企業の努力であって、岸田首相が求めたからと言って、中小企業が自動的に賃上げするという話ではない。徴収額の試算も、法案を通すギリギリになって公表、国会での議論を封じようという姿勢は明らかだ。野党も法案の撤回などを口では求めているが、国会の多数を握る自民党に本気で抵抗できるとは思っておらず、反対したというアリバイ作りに終わりそうだ。

岸田首相は「物価上昇を上回る賃上げを実現する」と言い続けているが、物価上昇率を引いた実質賃金は、2月まで23カ月連続でマイナスを続けている。賃金(名目)は上がっても、それ以上に物価が上昇しており、生活は苦しくなる一方だ。そこに社会保険料の徴収額増加が加われば、どう考えても使えるお金、可処分所得は減る。

出産・子育てのハードルを更に高く

最大の問題は、今回の保険料上乗せが、子どもを産むかどうかを考える現役世代の負担になることだ。多額の金融資産や不動産を持っていても所得が小さい高齢者は、社会保険料の徴収額が少ない。一方で働き盛りの若年層は賃金が増えると共に健康保険だけでなく年金掛け金の負担も重くのしかかる。「子育て支援金」で子どもを産み育てる若年世代を支えると言いながら、その世代から保険料を上乗せして取るというのは、論理矛盾だろう。

保険という仕組みは「リスク」に備えることを目的とする。政府は「子育て」を本気で、保険でカバーすべき事だと考えているのだろうか。だとすれば、皮肉なことに、「子どもを産む」ということが経済的に大きなリスクだということを、政府自らが認めたことになる。

国立社会保障・人口問題研究所の2021年の調査(結婚と出生に関する全国調査)では、既婚の夫婦(妻が35歳未満)が「理想の子どもの数」を持たない理由として「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と回答した人が77.8%に達した。

また、同調査で独身者に聞いた「結婚の障害」は「結婚資金(挙式や新生活の準備のための費用)」を上げた人が男性で47.5%、女性で43%に達し、いずれも「障害」の理由の中で最も多かった。

多くの若い人たちは、結婚して子どもを産むことができないのは経済的に余裕がないからだと言っているわけだ。そんな中で、子どもを産む可能性の高い現役世代に経済的な追加負担を求めることになれば、少子化問題は解決するどころか、さらに深刻化することになりかねない。

物流「2024年問題」はまだ序の口。トラック業界の試練はこれからだ ドライバー残業上限年960時間ルールがスタート

現代ビジネスに4月2日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/126842

電通過労自殺事件をきっかけに

トラックドライバーなどの残業時間の上限を年間960時間に制限するルールが4月1日からスタートした。全国の多くの地点間で翌日に荷物が届くのが当たり前といった、世界屈指の体制が維持できなくなるサービスの低下が懸念されている。今後、様々な分野で人手不足によってサービスが維持できなくなることが予想されており、物流業界は「日本問題」の最先端とも言える。だが、残念ながら問題を解決する打開策はまったく見えて来ない。

この残業時間規制は突然出てきた話ではない。長時間労働の是正が大きな課題として浮上したのは2016年秋。安倍晋三内閣が「働き方改革」に本格的に取り組むために「働き方改革実現会議」を立ち上げた時だった。人口の減少が本格化する中で、「労働生産性」を上げなければ日本経済は沈む、という危機感から始まったが、ひとつの事件をきっかけに、長時間労働の是正が最大テーマとなった。

事件とは、電通の新入社員がその1年前に自殺したのは過労によるものだったとして「労災認定」されたことだった。このニュースが大きく取り上げられたことで世の中の「長時間労働」に対する批判が噴出。その是正が「働き方改革」の最大テーマになった。世論を無視できなくなった安倍内閣は、財界の反対を押し切る形で2017年に残業時間の上限の厳格化を決定。残業の上限が「原則」年360時間、特別な場合でも「年720時間」「月100時間未満」と法律で決められた。そのルールが施行されたのは今から5年前、2019年のことだ。

5年間で問題解決せず

その段階からトラックドライバーの扱いが焦点になっていた。あまりにも現実との格差が大きかったからだ。深夜の長距離トラックなど、長時間の残業が当たり前だったのだ。そこで5年間の猶予期間が設けられたほか、上限時間も他の業種よりも長い年960時間に設定された。ハードルを低くして、しかも対策に5年という十分な時間を設けたわけだ。この5年の間に「問題」を解決してください、という話だったのだ。

最大の「問題」は、当然のことながら人手不足だ。トラックドライバーのなり手を増やさなければ、輸送力が2024年には14%減るという試算がされてきた。ドライバーを確保することが大きな課題だったわけだ。ところが、総務省労働力調査」の道路貨物運送業の「輸送・機械運転」従事者は2019年の86万人からほとんど増えておらず最新の2022年でも86万人にとどまっている。5年の猶予期間に人を増やすことに失敗したのだ。

なぜか。最大の「問題」はトラックドライバーの報酬が安いこと。長距離トラックのドライバーなど、かつては「稼げる」仕事というイメージがあったが、実際には違う。厚労省の調査では、トラックドライバーの年間所得は大型トラックでも477万円(2022年)と、全産業平均の497万円を下回る。2019年の457万円に比べると増えているものの、全産業平均に追いついていないのだ。つまり、稼ごうと思えば、長時間の残業をこなさなければならないわけだ。さらに残業時間規制が厳しくなれば、所得が減ることが想定される。結局、5年の間に若者を惹きつける職業に変身させることに失敗したわけだ。

稼ごうと思えば長時間残業しなければならないトラックドライバー。その就労環境は厳しい。2022年度の過労死などへの労災認定を見ると、「脳・心臓疾患」での労災認定は全産業で194件(うち死亡は54件)あったが、最も多い業種が「道路貨物運送業」の50件(死亡は19件)だった。2019年度には全産業で238件(うち死亡82件)で、「道路貨物運送業」は83件(死亡は27件)だったので、件数は減っているものの、業種としてダントツの1位であることに変わりはない。つまり、トラックドライバーが「身を削る」ことで利便性が成り立っている状況にはほとんど変化がなかったのである。つまり、5年間で労働環境を改善することにも失敗したわけだ。

高齢者が去れば働き手はなくなる

年間残業960時間という他産業より「緩い」規制で大騒ぎをしているが、今後、さらに状況は悪化を続けることになるのは間違いない。というのも他産業よりも「高齢化」が著しい体。道路運送業で働く人の年齢別構成を見ると、2022年は20歳代、30歳代が22.9%に過ぎない。圧倒的に多いのが50歳代で29.9%、60歳以上が18.9%に達する。つまり、48.8%が50歳以上なのだ。10年前の2012年には20歳代、30歳代は、50歳以上は36.2%だったから、高齢化が著しく進んでいることが分かる。

問題は今後、こうした高齢ドライバーが急速に減り始める一方、若年層労働者の総数は大きく減ることが確実なことだ。60歳代以上の人が多いタクシードライバーは、団塊の世代の引退で、一気に人手不足に喘ぎ、タクシー乗り場が大行列になるなど利用者の利便性に大きく影を落としている。残業規制の強化がなくても、トラックドライバーの深刻な不足は続き、今後も状況は悪化することになるだろう。

一方で、トラックドライバーは、女性がほとんど働いていない業種でもある。前出の「輸送・機械運転従事者」86万人のうち、女性はわずか3万人だ。つまり、長時間労働などキツい労働環境が、女性を職場から排除しているわけだ。

残業上限960時間は、他産業に比べて、まだまだ長い。業界の労災認定者が減らなければ、上限を他産業並みにさらに引き下げる必要も出てくるだろう。そんな状況の中でどうやったら消費者へのサービスを落とさずに維持できるのか。トラック業界の試練はこれからが本番だ。

なぜ賃上げなのに「海外なんて高くて行けない」と感じるのか…前代未聞の経済実験「円劣化バブル」の危うさ 円安政策で日本人はどんどん貧しくなっている

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https://president.jp/articles/-/80135

賃上げムードが高まっていることは確か

日経平均株価は3月決算配当権利落ちの3月28日にも4万円台を維持し、新年度相場入りした。1月4日の3万3288円から3カ月で20%も上げる急伸ぶりだが、それほどまでに株式市場は日本経済の「復活」を見込んでいるのだろうか。

3月28日に2024年度の予算が成立したのを受けて記者会見した岸田文雄首相はこう述べた。

「まず賃金が上がる。その結果、消費が活発化し、企業収益が伸びる。それを元手に企業が成長のための投資を行うことで、生産性が上がってくる。そして、それにより、賃金が持続的に上がるという好循環が実現する」「今、我々は、デフレから完全に脱却する千載一遇の歴史的チャンスを手にしています」

安倍晋三内閣以来、10年以上にわたって言い続けながら実現しなかった「経済好循環」を達成すると力強く宣言したのだ。

確かに大企業を中心に賃上げが進んでいる。連合が3月15日に公表した春闘の第1回集計では、賃上げ率が5.28%と1991年以来33年ぶりの5%超えとなった。第1回集計は積極的に賃上げに応じた大企業が多く含まれるので、最終的に全体で5%を超えるかどうかは微妙だが、前年に続いて賃上げムードが高まっていることは確かだ。

物価上昇率を賃上げ率が超えられるかが焦点

だが一方で、物価も上昇を続けている。総務省が3月22日に発表した2月の消費者物価指数は、「生鮮食品を除く総合」で前年同月比2.8%の上昇だった。政府は巨額の補助金を投じてガソリンや電気料金の抑制を行っているから、実態を見るには、その効果が除外される「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」指数がふさわしいが、これは3.2%上昇している。

中小企業の賃上げは大手並みとはいかないので、この物価上昇率を賃上げ率が超えられるかどうかが大きな焦点になっている。いくら名目の賃金が上がっても、物価上昇に追いつかなければ、消費量を増やすことは難しいから、岸田首相のいう賃金上昇の結果「消費が活発化」することには繋がらない。

今、政府も日銀も歴史的に稀な「実験」を行っている。物価の上昇を許容することで経済好循環が始まる、としているのだ。岸田首相の発言にもそれが表れている。「物価と賃金の好循環を回し、新たな経済ステージに移行する」と言うのだ。新たなステージとは、「賃金が上がることが当たり前という前向きな意識を、社会全体に定着させ」ることだ、というのだ。

経済政策的には過去にない実験をしている

本当に「物価が上がれば、賃金が上がる」のか。確かに、儲かっているのに賃上げをせず、内部留保を蓄えてきた大企業は、物価上昇で困窮する社員の不満を和らげるために賃上げをする余力があるのだろう。だが、多くの中小企業は物価上昇の中でそれに上乗せして賃上げを行う余力に乏しい。

政府は企業に対して、コスト増加分を価格に転嫁することを「奨励」している。下請け会社の納入価格引き上げを受け入れるよう中小企業庁公正取引委員会を使ってハッパもかけている。だが、考えれば分かることだが、そうして価格転嫁が進めばさらに物価が上昇するわけで、結局は賃金上昇率が物価上昇率に追いつかないということになるのではないか。物価を上昇させれば「物価と賃金の好循環」が起きるというのは経済政策的には過去にない実験である。

日本銀行ゼロ金利政策の解除を決めた。これで金利上昇が起きるのかと思いきや、植田和男総裁は「マイナス金利政策を解除しても当面緩和状態は続く」と発言している。通常は物価上昇、つまりインフレを抑えるために金利を引き上げるというのが教科書通りの手法だが、金融緩和状態が続くという。この発言を受けて、外国為替市場では円安が進んでいる。マイナス金利を解除すれば日米金利差が縮小して円高になると言ってきたエコノミストや為替アナリストの見立ては外れることとなった。ドル円相場は1ドル=152円直前まで円安が進み、1990年以来34年ぶりの円安水準になった。

安政策は日本人を貧しくしているだけではないのか

政府と日銀は一体となって「円安・物価引き上げ」政策を採っていると見ていいだろう。円安が進めば、輸入物価は上昇し、タイムラグを置いて消費者物価が上昇する。岸田首相が言う「物価が上がれば、賃金が上がる」という理論を実践しているようにみえる。

だがそうした円安政策は、日本人を貧しくしているだけではないのか。1ドル=151円台後半が34年ぶりと報道されているが、これは正しくない。34年前の1ドルと現在の1ドルではまったく価値が違うからだ。しかもここ数年の米国でのインフレによってさらにドルの価値は下がっている。つまり、日本円の価値は34年前どころかさらに下落していると見るべきなのだ。

それを示すのが「実質実効為替レート」。円の実力を示す指数だ。これによれば、2020年を100とした指数で2024年2月は70.25と2023年11月の71.44を下回って過去最低を記録した。1ドル=360円だった1970年1月の75.02を大きく下回っているのだ。円の力は1ドル=360円時代よりもさらに劣化していると言える。海外へ行ってレストランに入れば、日本円の弱さを痛感する。

日本の株高も物価高も「円の劣化」で説明がつく

逆に言えば、日本の株高も物価高も「円の劣化」の反映と言える。円建ての株価が大きく上昇しているが、ドル建てで見れば上昇率が低い。もちろん前述のようにドル自体も劣化しているから、それでも過剰評価かもしれない。例えば、世界史上の初期から通貨として価値保存に使われてきた金1グラムの円建て小売価格は、1月4日に1万375円だったものが3月27日には1万1773円になった。13%も上昇しているわけだ。日経平均株価の20%の上昇のうち、13%は「円の劣化」で説明が付くということになる。

つまり、株価が大きく上昇しているのは、日本経済が復活すると世界の投資家が見ている結果というわけではないのだ。

今、日本株やマンション価格の高騰を「バブルだ」という人がいる。だが1980年代後半のバブルを知っている人からすれば、その様相はまったく違うと感じるだろう。当時、土地や株価など資産価格の上昇は広く一般庶民の消費行動も大きく変え、まさに消費バブルが起きた。1台500万円以上の高級車が飛ぶように売れ、日産の自動車の名称から「シーマ現象」と呼ばれた。消費に一気に火がつき、企業収益も一気に改善した。その後の大幅な金利の引き上げや不動産融資の規制強化で一気に「バブル」が潰れることになる。

今がバブルだとすれば「円劣化バブル」だ

今の株価上昇を「バブル」だと呼ぶとすれば、かつてのバブルとはまったく様相の違う「円劣化バブル」と言えるだろう。そんな円劣化が悪性のインフレ(物価上昇)に火をつければ、一般庶民の生活は一段と苦しくなる。そうなれば、消費を増やすどころか、生活を守るために倹約に拍車をかけ、消費を抑える方向に行く。もちろん、株高の恩恵を受ける富裕層は消費を増やすかもしれないが、日本経済全体としての好循環が始まるのかどうか。

円の劣化はドルなど外貨で稼げる企業や人の収入を実態以上に大きく見せる。つまり、海外子会社が同じ利益を上げていても、円安が進めば円建ての利益は増える。しかし、大半の企業は日本円に転換して利益を国内に持ち込むわけではないので、日本の従業員の給与が増やせるわけではない。また、日本国内だけで商売をしている会社やそうした企業の従業員は、円の劣化によるコスト上昇を価格に転嫁すれば、販売自体が落ち込むことになりかねず、値上げすらできない。国内型産業は、円の劣化がモロにマイナスになる。

物価上昇を起こせば賃金が上がり、生活が良くなる――。今政府が進めている「壮大な実験」がどんな結果をもたらすことになるのか。その結果が出る時に日本の国民がどんな影響を受けるのか、今の段階では見通せない。

単身者の3割超は貯金ゼロ…新NISA登場でさらに深刻化する「投資できる人・できない人」の格差 20歳代の4割近くは貯金ゼロと見られている

プレジデントオンラインに3月19日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/79627

2024年1月だけで64万口座も増えた

今年から始まった新しいNISA(少額投資非課税制度)が人気を集めている。日本経済新聞の集計によると、証券19社のNISA口座数は2024年1月の1カ月間で64万口座増え、1530万口座に達した。1月は、2023年10~12月の1カ月平均の増加数の2倍のペースで伸びたという。旧制度でNISA口座を開設すれば、1月から自動的に新NISA口座に切り替わるため、昨年後半の段階から駆け込み開設が増えていたので、その人気にさらに拍車がかかっている、ということだろう。

特徴は若年層の口座開設が多いこと。日本証券業協会がまとめた昨年9月時点の証券会社におけるNISA口座数1356万口座のうち、54%が40歳代以下の口座で、中でも少額を長期にわたって積み立てる旧「つみたてNISA」(新制度は「つみたて投資枠」)は623万口座中80%が40歳代以下になっている〔日本証券業協会NISA口座開設・利用状況調査結果(2023年9月30日現在)について」〕。

旧NISAとは比べられないほど進化した「新NISA」

日本政府は長年、「貯蓄から投資へ」と言い続けてきた。ところが家計の金融資産構成は今でも諸外国に比べて圧倒的に現預金が多い。日本銀行がまとめた2023年3月末時点の統計では、日本の家計の金融資産の54%が現預金で、株式は11%、投資信託は4%程度に過ぎない。米国の場合は現預金は13%に過ぎず、株式が40%、投資信託が12%と「投資」が半分を超える。日本の家計の金融資産は増え続けていて、昨年6月末時点で2115兆円に達するが、そのうち1117兆円が現預金ということになる。

この「貯蓄」中心が、新NISAをきっかけに、いよいよ本格的に「投資」に動き出したと見ていい。理由は旧NISAとは比べられないほど進化した新NISAの制度設計だ。専門家の間では「神進化」を遂げたとまで言われている。政府がようやく「本気」になったように見える。

制度がどう変わったか。旧制度では「つみたてNISA」と「一般NISA」のいずれかを選び、総投資枠は前者が800万円、後者が600万円だった、これが新NISAでは「つみたて投資枠」と「成長投資枠(旧一般)」の併用が可能になり、総投資枠は一気に1800万円(うち成長投資枠は1200万円)に引き上げられた。年間の投資上限は旧制度の「つみたて」が40万円、「一般」が120万円だったものが、新制度では「つみたて」120万、「成長」240万円になった。

日本はまだまだ世界に冠たる資産大国

さらに大きいのが非課税期間である。配当や売却益に課税されない期間は、旧制度の「つみたて」は20年、一般は5年に過ぎなかったが、新制度は期限が撤廃されて恒久化された。しかも、資金が必要になって売却した場合に、空いた投資枠を翌年また使えるようになるという仕組みになった。配当や売却益に対する分離課税の税率は20%だから、このメリットは大きい。政府からすれば相当な税収減になる可能性もあるが、「投資」に家計資産をシフトさせることを優先したということだろう。

背景には、前述のように家計には1117兆円もの資産がある。日本の経済力低下が言われているが、まだまだ世界に冠たる資産大国であることには違いがない。ところが、この家計資産が「現預金」に置かれていることで、低金利の中でほとんど収益を生んでいない。この金融資産が「稼ぐ」ようになれば、家計はより豊かになるというわけだ。また、日本の株式などにも資金が回れば、企業の成長を下支えすることにもなる。

「日本に残された最後の切り札かもしれない」

岸田文雄内閣は、「資産所得倍増プラン」を打ち出したが、要は資産大国として持てる資産をフルに生かして収益を上げようという、いわば資産大国戦略に大きく舵を切ったのである。もちろん、そこには深刻な少子化で今後、公的年金制度が行き詰まってくることを見据え、自助努力で老後資金を確保してもらいたいという思惑も見え隠れするが、それはひとまず置いておこう。日本経済新聞編集委員でNISA制度に詳しい田村正之氏は、「個人金融資産の2115兆円は日本に残された最後の切り札かもしれない」と語る。現預金1117兆円のうち仮に10%の100兆円が株式市場に流入したとしても、株価には大きなインパクトを与えることは間違いない。

NISAの投資先で人気を集めているのが全世界株式インデックス型の投資信託や米国株のインデックス投信などだ。前出の田村編集委員によると、信託報酬の低いインデックス投信で1990年1月から月3万円を積み立て投資し続けた場合、2023年の配当込みの資産総額は6800万円になったと試算できるという。かつて老後に2000万円必要だというレポートが出て大騒ぎになったことがあったが、きちんと積み立てて、運用をしていれば、それをはるかに上回る資産形成が可能だということだ。全世界株のインデックスで、世界の成長と同程度のリターンが得られれば十分だということだ。

バブルの反省が過剰な「投資忌避」を招いていた

日本の場合、過去四半世紀にわたって株価は低迷し、超低金利政策が取られ続けたため、資金を株式に投じることは、一種のバクチのように捉えられてきた。1980年代のバブル景気に乗って、誰しもが株を買った時代への反省が、過剰な「投資忌避」につながっていたのだろう。

ようやく、世代が変わって「投資」へのアレルギーが消えてきたということも、「貯蓄から投資へ」が動き出した背景にある。

日経平均株価は、ようやくバブル期の最高値3万8915円を抜き、4万円の大台に乗せた。上がり方が急ピッチだったことから「バブルだ」という声も聞かれるが、バブル当時のムードを知っている筆者らの世代からすれば、まったく当時の雰囲気とは違うと感じている。当時は、NTT株の放出が国民的な株式投資ブームに火をつけたが、株を買えば短期間に儲かるというマネーゲームの色彩が強かった。実際の売却益だけでなく、保有株の価値が上がることによるいわゆる「資産効果」もあって、華々しい過剰消費へと突き進んで行った。

シーマ現象と呼ばれ、高級車が飛ぶように売れたことや、連日連夜、深夜まで繁華街が賑わったことが象徴的だった。企業も不動産投資などに大きく傾斜、地価高騰はまさにバブルを形成していった。

「過剰に株価が買われている」水準ではない

今、そんな景気の過熱感はほぼない。株価や不動産価格は上昇しているものの、それが過剰消費につながっているわけではない。高級品ブームはあっても、それが国民全体に広がっているわけではない。株価水準を見ても当時の株価収益率(PER)は60倍に達していたが、現在は予想収益ベースで16倍。企業の利益からみると、過剰に株価が買われているという水準ではない。

新NISAの口座開設はまだ続いており、今後もNISAブームは続きそうだ。制度が恒久化されたことで、長期にわたって投資資金が市場に入ってくることは間違いない。現状では多くの資金が世界株に流れているが、もちろん、世界の投資家の注目が日本市場に集まれば、世界株インデックスの中の日本株のウェートが高まっていく可能性はある。つまり、投資に回った資金のすべてが日本株に投資されなくても、日本株には追い風になるだろう。

もちろん、今の「貯蓄から投資」の風潮にも問題がないわけではない。むしろ深刻な課題が潜んでいる。格差の拡大だ。

投資できる人とできない人の格差が拡大する

若年層でも毎月一定額を投資に回せる人は決して多くない。給与水準が低すぎるのだ。20歳代の4割近くが貯金ゼロと見られている。全世代では単身者の33%、2人以上世帯の22%が貯蓄がないという調査もある。つまり、投資に回したくてもそんな余裕はない、という人たちが国民のかなりの割合を占めているのだ。

仮にそれ以外の人たちが毎月3万円の投資を行い、30年後に数千万円の金融資産を保有しているとして、まったく資産を持てずにいる人との格差は壊滅的に大きい。今後、進むと想定されるインフレ経済では、低収入の人たちの生活費の負担が大きくなる。ますます投資どころか貯蓄もできない、という人が増えかねないのだ。

結局、ここでも、岸田首相が言い続けている「物価上昇(インフレ)を上回る賃上げ」が実現するかどうかが大きな焦点になる。

 

訪日旅行客数が前年同月比1.9倍、コロナ前の最高更新に王手。儲かるサービス産業に転換するチャンス

現代ビジネスに3月25日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/126433

「世界で最も魅力的な国」

桜のシーズンが本番を迎え、外国人観光客の姿が急増している。円安も追い風になって日本旅行は世界的なブームになっており、新型コロナウイルス蔓延前の訪日客数を更新するのは時間の問題だ。インバウンド需要をどう日本経済復活の原動力にしていくかが問われている。

JNTO(日本政府観光局)が3月19日に発表した2024年2月の訪日該客数(推計)は、278万8000人と2023年2月の1.9倍に拡大した。2月としてはコロナ前の2019年2月の260万4322人を大きく上回り、過去最高を更新した。春節旧正月)が今年は2月中旬だったことや、うるう年で日数が1日多かったことも追い風になった。

春節の時期よりも訪日外国人が増えるのは本格的な桜の季節である4月。さらに夏休みのバカンスシーズンに入る7月が年間を通して最も多くなる。特に、桜が咲きほこる日本の美しい風景は近年人気が高く、京都や奈良といった著名観光地だけでなく、桜前線を追いかけるように北関東から東北へと外国人の人気スポットが広がっている。

4月のピークは2019年4月の292万人。今年4月の訪日客がこれを上回るかがひとつの焦点だ。また、過去の月間の最多記録は2019年7月の299万1190人で、今年の夏にこの記録を塗り替える可能性は十分にある。それぐらい外国人には日本は人気だ。

米国の大手旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー』が昨年10月3日に発表した読者投票によるランキング「リーダーズ・チョイス・アワード」の「世界で最も魅力的な国」に、「日本」が第1位(前年は2位)に選ばれた。同誌は高所得者層を中心に読者を持っているとされ、質の高い旅行へのニーズが強いとされる。

そうした読者に1位に選ばれるようになったのは、単に円安で「安い」ことだけが理由ではない。観光資源をふんだんに持つ日本への評価に加えて、旅行に慣れた人たちに期待感を持たせるだけのレベルの高いサービスや高品質の宿泊施設などを提供できるように、日本の事業者が変わりつつある証左でもある。

中国からの旅行客だけが不振だが

ひとつ、2019年にインバウンド客が押し寄せた当時と大きく光景が変わっていることがある。中国からの旅行客がまだまだ少ないことだ。2月をみると、今年は45万9400人で、トップの韓国の81万8500人、2位の台湾の50万2200人の後塵を拝している。2019年2月は国別トップで、72万3617人だったから、まだピークの3分2の水準に過ぎない。

2019年と比べると、米国からの訪日客が1.6倍、カナダや豪州が1.4倍、フランスやイタリアが1.3倍に増えている。当時と比べて街中に非アジア人の外国人が増えていると感じている人も多いだろう。ロシア・ウクライナ戦争や、中東での紛争の影響で、ヨーロッパ諸国への旅行が行きにくくなっていることも背景にありそうだ。

また、フィリピンやマレーシア、インドネシアベトナムからの訪日該客数が大きく増えている。旅行だけでなく、人手不足に喘ぐ日本が外国人の働き手を求めていることが統計に表れていると見られる。もちろん、アジア諸国が経済発展する一方、円安によって日本旅行がより身近になったことが何と言っても大きい。

中国からの旅行者の戻りが鈍い背景には、中国国内の景気悪化があるとみられる。2019年は7月と8月に1カ月で100万人超が中国からやってきていた。当時、全訪日客に占める中国からの訪日客の割合は39.7%に達していた。中国人観光客の爆買いで、百貨店などが潤っていた。

2月はこの比率がまだ16.5%にとどまっており、中国一辺倒のインバウンドではないことを示している。また、一方で、中国からの旅行客がコロナ前の水準に戻れば、一気に単月での訪日外客数の最高記録を更新することになるだろう。

「安い日本」からの脱却を

このインバウンド効果を日本経済の復活にどう結び付けていくか。2023年年間の訪日外客数は2506万人と、ピークだった2019年の3188万人の8割に満たない。にもかかわらず、外国人による消費額は推計の5兆2923億円と2019年を10%上回り、過去最高を記録した。外国人旅行者にもっと日本国内でお金を落としてもらう工夫がますます必要になる。

特に欧米からの比較的所得の高い旅行慣れした層に満足してもらえるような高い品質のサービスをきちんとした高い価格で提供することが重要だ。観光地の高級ホテルなど、かつてに比べると大幅に料金が引き上げられており、「安い日本」から脱却する動きが広がりつつある。日本人から見ると「高い」と感じても、外国人から見て適正に見える価格設定に変えていくことが必要だ。円安になっている分、どんどん値上げをして、外国人消費で儲けることがポイントだ。

観光地の土産物なども、日本の良い工芸品などを価格を引き上げて販売することができれば、これまで低いと指摘されてきた日本の生産性を引き上げることができる。儲けはできるだけ早期にサービス産業で働く従業員の給与アップにつなげていけば、経済と賃金の好循環が起きてくる。そのきっかけに外国人消費を生かすべきだろう。

政治倫理審査会が開かれたが「説明責任」は説明すれば良いわけではない。もはや「政治不信」どころか「政治家への絶望」

現代ビジネスに3月16日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/125916

幕引きを狙ったが

衆議院に続き参議院でも「政治倫理審査会」が開かれ、自民党安倍派を中心とする、派閥のパーティー券収入に関する、いわゆる「裏金」疑惑について、幹部議員が出席し、野党議員らの質問に答えた。岸田文雄首相は繰り返し「説明責任を果たすことが重要」と繰り返し発言しているが、果たして審査会の質疑で説明責任がはたされたのか。

「まったく真実が明らかになっていない」――。3月15日の参議院予算委員会で、前日の政治倫理審査会について、立憲民主党田名部匡代参議院議員が岸田首相に、こうかみついた。岸田首相は、「説明責任が尽くされたかどうかは、国民の皆さんが判断されることであります」といったん突き放したものの、さすがにマズいと思ったのか。「まだ疑念が残るということであるならば、引き続き説明責任を尽くしていかなければならない」と述べた。世耕弘成・前自民党参議院幹事長らの大物議員の出席で「説明責任は果たされた」として幕引きを図ることを狙っていたが、疑惑追及はまだまだ続くことになりそうだ。

これまでも事あるごとに岸田首相は「説明責任」という言葉を使ってきた。朝日新聞は2月14日時点で、岸田首相が「説明責任」という言葉を102回繰り返したと報じている。例えば、「関係者が『説明責任』を尽くすことは重要で、『説明責任』を果たすよう党として促しており、これからも『説明責任』を尽くすよう促していきたい」と国会で発言。結局、裏金問題の実態解明に踏み込むこともなく「言葉だけが空虚に響く論戦」だと朝日に切り捨てられている。

アカウンタビリティのことですよ

そもそも岸田首相はどういう意味で「説明責任」という言葉を使っているのか。

どうやら、政治倫理審査会に出席したり、記者会見を開いて、「説明」をすることが、説明責任だと思っているようだ。「説明」する「責任」である。だから、当初、政治倫理審査会にすることを多くの議員が拒絶したことに対して、岸田首相自らが審査会に出ると言い出し、他の元派閥幹部も出ざるを得なくなった。これで、岸田首相としては「説明責任」を果たすことになると考えたのだろう。だから、まったく実態が分からない答弁でも「説明責任が尽くされたかどうかは、国民の皆さんが判断されること」と言ってはばからなかったのだろう。

だが、「説明責任」とは本来、そんなに軽い言葉ではない。

国会で「説明責任」という言葉が正式に使われるようになったのは1999年に国会で成立し2001年4月から導入された「情報公開法」の議論においてだったとされる。

「米国などで使われていたアカウンタビリティを『説明する責務』『説明責任』という日本語にしたのです。ですから、きちんと理解してもらうことが前提で、単に説明すれば良いという話ではないのです」

当時、法案作成に携わった元総務庁行政管理局長の瀧上信光・千葉学園常務理事は語る。情報公開法の第一条には「(政府の)諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」という一文がある。

アカウンタビリティを説明責任と訳すのは今では広く定着しているが、元々、アカウンタブル、つまりアカウント(会計)できるという言葉の派生語である。アカウンタビリティはアカウントとレスポンスィビリティ(責任)の合成語という説明もよくされる。企業が決算書を作ったり、有価証券報告書で、細かく事業の内容を説明し、お金の流れを明らかにするのと同様、説明責任を果たすというのは自らの説明を裏付ける資料や証拠が不可欠なのだ。

肝心のことは「記憶にない」「私は知らない」で逃げおおせようとするのは、決して「説明責任」を果たしていることにはならないのだ。

本来ならば……

今回の問題では、派閥から裏金としてキックバックを受けた4800万円の収入を自身の政治団体政治資金収支報告書に記載しなかった疑いで安倍派の池田佳隆衆議院議員が逮捕され、4300万円が不記載で、略式起訴された谷川弥一衆議院議員議員辞職した。谷川氏には罰金100万円と公民権停止3年間の略式命令が下っており、3年間は立候補できない。政治家にとっては厳しい判決だ。

ところが、不記載金額が4000万円未満だったその他の多くの議員については、東京地検特捜部は立件を見送っている。金額で立件するかどうかを決めるのは地検の判断として致し方ないとして、立件されなかったから政治家として問題なし、ということにはならない。本来ならば議員資格を失うような不正行為なのだ。

何かキックバックの金額決定や不記載に関わったとなれば、法的にはともかく、政治家として道義的倫理的な責任は逮捕・議員辞職した2人と変わらない。少しでも責任を認めれば、議員辞職するしかなくなるため、何を聞かれても、知らぬ存ぜぬで押し通す他ない、ということなのだろう。

キックバックされたカネを何に使ったか。その「説明責任」もまったく果たされていない。地元の県議会議員や市議会議員に配ったと説明した議員もいたが、「選挙期間中であろうとなかろうと事実上の買収だ」と国会議員の秘書から地方自治体の議員になった元政治家も呆れる。区議会議員らに資金を配った柿沢未途・元法務副大臣は逮捕・起訴され、当初は買収の意図を否定したものの、結局、一審有罪となり、懲役2年、執行猶予5年の判決が下った。確定すれば5年間は立候補できなくなる。つまり、派閥からキックバックを受けた議員たちは、そのカネを何に使ったかも、口が裂けても言えなくなったわけだ。

テレビ中継を通じて、何を聞かれても、真実を語らない国会議員たちの姿を見て、子どもたちはどう思うのだろうか。もはや政府不信の域を越えて、政治家への絶望感が漂ってくる。

大規模量的緩和を修正へ。 「副作用」が強まり日銀がついに動く?

定期的に連載している『COMPASS』に2024年3月15日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://forum.cfo.jp/cfoforum/?p=30393/

 「消費者物価は去年までと同じような右上がりの動きが続くと予想している。そういう意味でデフレではなく、インフレの状態にあると考えている」

 日本銀行植田和男総裁は2024年2月22日の衆議院予算委員会に出席し、日本経済の現状についてこう述べた。前任の黒田東彦総裁以来、物価上昇目標として「2%」を掲げてきた日銀だが、海外でのインフレなどの余波もあり、国内でも1年以上にわたって2%を超える物価上昇率が続いてきた。それでも植田総裁は、まだ本格的なデフレ脱却に至っていないというスタンスを崩してこなかったが、ここへ来てようやく現状を「インフレ」だと認定したことになる。

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