立川浦々 『公務員、中田忍の悪徳8』 (ガガガ文庫)

「あんな子供、生むんじゃなかった……!!」

異世界エルフ・アリエルを救えず、最大の理解者だった一ノ瀬由奈とは断絶してしまった。決定的に間違えた中田忍は、新たな最後の協力者を巻き込み、自身のルーツをたどりはじめ、やがて己の人生を賭けた結論を出す。

仕方あるまい。

大人だろうと、何百年生きていようと、万能の魔法が使えようと。

孤独にだけは、敵わないのだ。

「この世界は須く俺たちを嫌っている」。福祉生活課長の視点で、己のルーツを振り返ったとき、忍はどんな結論を出し、そんな救いのない世界でどのように生きようとするのか。わりとびっくりする事実が次々と出てきて、最終回という感じがしなかったシリーズ最終巻。同人版も合わせて九冊もかけたはずなのに、あっという間に駆け抜けていった気がする。寂しい。けど、書くべきことは書ききったのかな。個人的には、時たま地の文に出てくる「かわいい」の意味がわかったのがよかった。読み終わったなら表紙をもう一度見てほしい。お疲れ様でした。

カミツキレイニー 『魔女と猟犬5』 (ガガガ文庫)

「相容れるよ。同じ人間でしょ? 人間なら話し合おうよ」

「人間だから話し合えないんだ。一体、何を見てきたのさ」

〈花咲く島国オズ〉。その島では、王家を名乗るエメラルド家と、それに反発する南部戦線による激しい内戦が続いていた。銃器を求めてオズへ上陸したハルカリたちは、南部戦線を指揮する魔女グレンダ・ポピーと接触する。一方、ロロとテレサリサたちもオズ島に住む最凶最悪と名高い“西の魔女”を求めて島に上陸するが、オズ王に謁見した一行は、西の魔女がすでに討伐されたと聞かされる。

オズ島に集結した魔女たちは、その闇に踏み込んでゆく。オズの魔法使いをモチーフにしたシリーズ五巻。“異世界人”の力で成り上がった元農家の王家と暗愚のカカシの王。危険な割礼術で魔術師を創り出す魔法学園。学園で学び実験台にされた子どもたちの10年に渡る罪と罰。内戦。あまりにドロドロしている。ダークファンタジーのお膳立てとしては満点。ここまで描いてきたものへの信頼もあり、ろくでもないことが起こる予感しかしない。ただこれ、ここまでおそらく前後編の前編なのよね。本当に良かったので、できるだけ早く続きをお願いします……

江波光則 『ソリッドステート・オーバーライド』 (ガガガ文庫)

革命は終わり革命は続く。

無限に彼らは思考し推論し無限の答えを吐き出していく。終わらない思考を繰り返す。

だから、彼らは、思考金属(シンク・メタル)なのだ。

いくらか未来のこと。二体のロボット(ソリッドステート)、マシューとガルシアは、ヒトのいなくなった戦場をポンコツトラックで駆けながら放送を垂れ流し続けていた。戦線に沿って旅を続けていたふたりは、戦場にいるはずのない「人間」の少女、マリアベルと出会う。

人にならねばならない・人になってはならない・何も見てはならない。三つの原則を課されたうえで役割を付与(ロールアウト)されたロボット(ソリッドステート)たちは、無限に思考を上書き(オーバーライド)し、革命(オーバーライド)を続ける。終わらない革命の物語であり、数百年に及ぶロボットとヒトの物語でもある。ロボットとロボットの対話、ロボットとヒトの対話だったり各々の独白だったりを駆使しつつ、物語の最初から最後までとにかく考えることを止めない。読めば読むだけ気づけることがある。近未来SFであり、哲学的、思弁的小説の面もあり、キャラクター小説としてもとてもキュートだと思う。非常に多面的な小説だと思う。いろんなひとの感想を読んでみたいタイプの小説なので、いろんなひとに読まれるといいな。まごうことなき傑作でした。

秀章 『純情ギャルと不器用マッチョの恋は焦れったい』 (ガガガ文庫)

明るくて、優しくて、力強い……そんな屈託のない笑顔。

それを目の当たりにした瞬間、犬浦が言うところの『これ好き!』が、俺の中に湧き上がった。

そして、その感情を『恋』と呼ぶのだと、俺はほどなくして理解した。

筋トレをこよなく愛する超高校級のマッチョ、須田。SNSフォロワー50万人の人気急上昇中JKインフルエンサー、犬浦。高校入学から疎遠になっていた二人は、犬浦のモデルデビューのため、須田がパーソナルトレーナーになることで再接近を果たす。だが、両者の思いは果てしなくすれ違っていた。

対照的だけど似たところもある。高校生ふたりのかわいらしい両片想いラブコメ。意識しすぎてちゃんと話ができない、自分は相手に嫌われているのではないか。うじうじうだうだする姿までかわいらしい。男子グループと女子グループの視点の似たところ、違うところも、さり気なく鋭く切り取っている。このあたりは青春小説の名手たる作者ならではだと思う。タイトルをいい意味で裏切らない、良いラブコメでした。

赤城大空 『【悲報】お嬢様系底辺ダンジョン配信者、配信切り忘れに気づかず同業者をボコってしまう2 けど相手が若手最強の迷惑系配信者だったらしくアホ程バズって伝説になってますわ!?』 (ガガガ文庫)

「ですわ! ですわ!」

トンテンカン!

「ですわ! ですわ!」

トンテンカン!

バズりまくって収益化を達成してから間もなく憧れのセツナお嬢様の生みの親に認知され、数千万単位のスパチャを稼ぎ、短い間に人生が一変した山田カリン。だがその身に秘められた真の実力は、本人を含めて誰も知らないのだった。

フィスト◯ァックお嬢様のダンジョン攻略配信第二巻。良かった。語彙がインターネットなのでお気楽に読みやすいのもあるけど、圧倒的な光と善性の小説なのよね。人気が出るのもわかる。現代社会でダンジョンがあちこちに出現するようになったらどうなるか(法整備とか)に触れるあたりも作者らしい。カクヨムでも読めるので読んでみるといい。自分は引き続き紙で追いかけていきます。


kakuyomu.jp