Bill Evans / Consecration

Consecration I

Consecration I

Consecration II

Consecration II

The Brilliant

The Brilliant

  • 1980年8月31日〜9月7日録音。
  • Bill Evans (p), Marc Johnson (b), Joe Labarbera (ds)

1980年。ビル・エヴァンス最晩年のライヴ。

 ヨーロッパ・ツアーから帰国したエヴァンスは、8月下旬からツアーを再開、ロサンゼルスを経てサンフランシスコの老舗ジャズ・クラブ 『キーストーン・コーナー』 に8月31日から9月7日まで連続8日間にわたって出演する。その音源が前述の 『コンセクレイション』 と 『ザ・ラスト・ワルツ』 となる。
 8日にサンフランシスコからニューヨークに戻り、翌9日から 『ファット・チューズデイズ』 に出演。2日目にあたる10日の夜が生涯最後のステージとなる。


 1980年9月15日、ビル・エヴァンス、他界。享年51。死因は、肝硬変、出血性潰瘍ならびに気管支肺炎とされる。


中山康樹著 『ビル・エヴァンス名盤物語』 音楽出版社


 1979〜80年のビル・エヴァンスは、若手のメンバーを加えたトリオで、精力的にライヴ演奏を行った。
 マーク・ジョンソン(b)、ジョー・ラバーバラ(ds)という編成は、通称“ラスト・トリオ”と呼ばれているが、この3人はスタジオ録音を残しておらず(管楽器を加えたアルバム1枚があるのみ。)、その代わりにエヴァンスの死後、大量のライヴ・アルバムが発表されている。
 本記事で紹介する "Consecration" および "The Brilliant" という作品は、サンフランシスコのジャズ・クラブ、キーストーン・コーナーにおけるライヴ音源を CD 化したもので、文字通りビル・エヴァンスの“ラスト・レコーディング”となっている。エヴァンス自身、この時の演奏が録音されていることを知らなかったとも言われ、演奏は完璧と呼べるものではなく、彼にしては珍しくミス・タッチの目立つ場面も聴かれる。しかし、リリカルと評されるエヴァンスのピアノが、ここまで激しく荒々しく変貌を遂げた記録として、これらの作品には大きな価値があると思う。


 晩年のビル・エヴァンスのピアノは緊張感が強く、BGM には適さない。しかし、その魅力に一度とり憑かれてしまうと、何度も聴き返したくなるのである。

Bill Evans / The Paris Concert

THE PARIS CONCERT 1

THE PARIS CONCERT 1

  • 1979年11月26日録音。
  • Bill Evans (p), Marc Johnson (b), Joe Labarbera (ds)

 ビル・エヴァンスの死後、1983年と84年に発表されたライヴ・アルバム。
 "Edition 1" は全8曲入り。"Edition 2" は全6曲(ほか最後にインタビューがついている)入り。合計1時間41分の演奏が、2枚のディスクに収められている。エヴァンス最晩年の通称「ラスト・トリオ」は、スタジオ録音がなく、代わりにライヴ盤がブートレッグ含めて大量に出回っているのだが、本作はその中でも最も良質な演奏を記録したアルバムといって良いのではないだろうか。
 ポール・サイモン作の感動的な "I Do It For Your Love" から始まる "Edition 1"、17分を超える "Nardis" で締めくくられる "Edition 2"、いずれも甲乙つけがたい演奏内容である。

Bill Evans / We Will Meet Again

  • 1979年8月6〜9日録音。
  • Bill Evans (p, el-p), Tom Harrell (tp), Larry Schneider (ts, ss), Marc Johnson (b), Joe LaBarbera (ds)

 ビル・エヴァンスが最後に残したスタジオ録音作品であり、彼の生前に発表された最後のアルバムである。
 全8曲入り。うち7曲がエヴァンス作曲のオリジナルであり、新メンバーを加えたクインテット編成でもって力をこめた作品だということがわかるのだが、その割に地味なアルバムなのだ。音が軽いのである。
 ……と、ここまで書いてから久しぶりに MP3 音源を聴きなおしてみた。音が軽いのはそのとおりだが、そんなに悪くはないじゃないか。トム・ハレルのトランペットの音はすごくリラックスしているようだし、マーク・ジョンソンとジョー・ラバーベラのリズム隊は最強だ。前作 "Affinity" と比べると、フュージョン的な要素がなくなった分、純粋にジャズとして楽しめるようになっているのではないだろうか。

Bill Evans / Affinity

アフィニティ

アフィニティ

  • 1978年10〜11月録音。
  • Bill Evans (p, el-p), Toots Thielemans (hca), Larry Schneider (as, ts, fl), Marc Johnson (b), Eliot Zigmund (ds)

 ピアニスト、ビル・エヴァンスが、天才ハーモニカ奏者、トゥーツ・シールマンスと共演した企画盤。
 全9曲入り。全面的にピアノとハーモニカをフューチャーした構成になっていて、特にエコーの深くかかったハーモニカのサウンドが素晴らしい出来である。(逆に他のメンバーは伴奏レベルに留まっている。)また、曲によって「ピアノとハーモニカ」のデュオ、「ピアノとハーモニカとベース」のトリオ、全員参加のクインテットと、異なる編成で演奏を行っている。
 アルバム後半で、エヴァンスはエレクトリック・ピアノを弾いているのだが、エヴァンスのエレピは音色の美しさはあるものの、フレーズやハーモニーの点であまり特徴を出し切っていないように思う。
 (1) "I Do It For Your Love" はシンガー・ソングライターポール・サイモンのカヴァー。原曲はコード進行が複雑な割に、メロディの起伏が乏しく、つまらない曲だと思っていたのだが、ここではエヴァンスのアレンジによって、きわめてドラマチックなバラードとして見事に蘇っている。

Bill Evans / New Conversations

 ピアノとエレクトリック・ピアノによる一人多重録音作品第3弾。
 全8曲入り。うち半分がエヴァンス作曲のオリジナル新曲である。多重録音の過去作品に比べて、ジャズよりもポップ・ソング寄りの選曲になっているようだ。本作の良い点は抜群のリズム感である。リズムマシンのたぐいを用いない多重録音なのに、イン・テンポの曲ではよくスウィングしている。
 一方、本作の悪い点はエレピの用い方である。アコースティック・ピアノのコードの上に、エレピのコードを重ねたりしているため、全体に音がギラギラしすぎているところがあって、今聴くと妙に古臭く感じるのだ。

Bill Evans / You Must Believe In Spring

You Must Believe in Spring

You Must Believe in Spring

  • 1977年8月23〜25日録音。
  • Bill Evans (p), Eddie Gomez (b), Eliot Zigmund (ds)

 1977年8月に録音された後期ビル・エヴァンス・トリオの最高傑作。
 より正確にいえば、70年代後半のエヴァンスはトリオの新作を発表しておらず、当時の人気は下降線、ジャズ界では過去の人という扱いになりつつあったのだ。前作、"I Will Say Goodbye" (77年録音、80年発表)にも同じことがいえるのだが、本作が発表されたのは彼の死後、1981年のことである。エヴァンスは "You Must Believe In Spring" を遺し、そして伝説となったのだ。
 オリジナル LP は全7曲入り。CD は3曲追加。"I Will Say Goodbye" から3ヶ月後、同じメンバーによる演奏とあって、同様のコンセプトで作られたアルバムだと思われるのだが、かなり印象が異なる作品になっている。メロディアスな楽曲が揃っているというのもあるし、短調の曲が多いのもある。しかし、それ以上に、エヴァンスのピアノの全ての音が、痛いくらいシリアスに響くのである。
 また、エディ・ゴメスも素晴らしい。本作における彼の役割はオブリガートを奏することに徹している。ベースが唄っているのだ。

『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』というタイトルは、ミシェル・ルグラン作曲のミュージカル映画、『ロシュフォールの恋人たち』 の挿入歌から。
 春の到来を信じよ! というエヴァンスからの力強いメッセージ・ソングである。

Bill Evans / I Will Say Goodbye

I Will Say Goodbye

I Will Say Goodbye

  • 1977年5月11〜13日録音。
  • Bill Evans (p), Eddie Gomez (b), Eliot Zigmund (ds)

 1977年、ビル・エヴァンスは、Fantasy レーベルから Warner Bros. へ移籍する。同年5月に録音された "I Will Say Goodbye" は、エヴァンスが Fantasy に残した最後のレコーディングである。しかし、本作が発売されたのは1980年1月のことだ。ピアノ・トリオは(少なくともアメリカでは)売れない。そういう時代だったのである。
 全10曲入り。エヴァンス作曲は1曲のみで、ほかはカヴァー曲またはスタンダード・ナンバーを取り上げている。ビル・エヴァンスのレギュラー・トリオにとって、70年代になってから初めてのスタジオ録音作品ということで、非常に力の入った内容である。音質もそれ以前のものに比べ、格段に向上している。また何よりもエヴァンスのピアノが充実していて、彼の指先は鍵盤の端から端まで縦横無尽に動き回る。一方、エディ・ゴメスのベースは、どういうわけかイコライザーで低域をカットしており、全くベースらしからぬ変な音を鳴らしている。もっともこれは本作に限った話ではなく、同時期に録音されたチック・コリアマッコイ・タイナーとの共演盤でも、ゴメスはしょぼい音を出しているのだが。
 そんなわけで、トリオのサウンドとしてはかなりアンバランスな出来ではあるが、その分、ピアノが活躍し、不足を補って余りある作品となっているのだ。特に傑出しているのは、ハービー・ハンコック作曲の (2) "Dolphin Dance"。長調短調が複雑に交錯する曲だが、こんなに美しく演奏されるとは驚くほかない。
 アルバム・タイトルは、ミシェル・ルグラン作曲の曲名から。本作は、同曲の異なるバージョンが2種類収録されており、Fantasy への決別を暗示しているといわれている。
 しかし、本作を発表後、80年9月にエヴァンスは急死。まさか、こんな形で本当の別れが来ようとは誰が予測しえただろうか。