ネットサービスのブランディングと経営者

shi3z氏の記事をみていろいろ思ったことを書いてみる。


まあ、上記の記事そのものについては、なにがいいたいのか心情的には想像できても、論理的には筋が通っているのか、いまいち判断できないので、氏の記事を断片的に読んでて連想した思考について書いてみる。おそらくshi3z氏も最後に書いてあるようにいろいろ深く考えたことを、はっきりと結論のでないまま記事にしたのだろう。


shi3z氏の記事のテーマは、ネットサービスの開始時のプロモーションのありかたと、経営者が露出することの善悪のふたつだろう。


前者については、ネットサービスに限らず、およそ新製品のプロモーションが最大効果を発揮するのは、大々的な発表・プロモーションと発売を合わせる垂直立ち上げだというのは変わらないと思う。ただし、ネットサービスで考慮しなければいけないのは、発表と同時にユーザが殺到して、サービスが本当にうまく動くかどうかが保証できない点だ。その場合、ネットサービスの悪評を垂直立ち上げすることになってしまう。また、サービスの使い勝手がいいか、サービスを開始するまでわからないことが多いので、ユーザの反応をみてチューニングをしてサービスの完成度があがっていくことがほとんどだ。


なんで、僕はネットサービスはひっそりとはじめて、自信がついたところで大々的なプロモーションをすべきだと思う。(特にお金をかけるプロモーションの場合)


ただ、きちんと完成度をあげられるのであれば、大々的な発表と同時にサービス開始が、やっぱり、一番効率がいい。また、ある程度の初速はサービスの見極めにも必要なことが多いので、最初から派手な発表をできれば目指すべきだ。あと、派手な発表を最初からやってもいいのはイベント代わりの捨て企画。成功しても失敗してもどっちでもいいってやつ。これは最初からプロモーションしていい。


といったところが結論になると思うのだが、ここまで書いていて、きっとshi3z氏がいっている大々的な発表の意味って違うかもしれないなと気がついた。世の中、ユーザ視点でなく、業界向け、資本市場向け、世間向けに発表することが多いというのが問題なのかもしれない。それについては、競合相手に公開情報提供していいことないと思うので、可能であればやめたほうがいいと思います。ひっこみつかなくなるし。



経営者が会社のプロモーションに前面にでることについてはどうだろう。


これは成功すれば、お金のかからないプロモーションになるので、資金に余裕がないベンチャー企業は積極的に利用したほうがいい。ただ、メディアにとりあげてもらうために、刺激的なキャラを演出した場合は、宣伝にはなるが、敵が増える(特に業界)パターンが多くなりそうだから、損得がどうかは微妙。刺激的なキャラもだいたいのパターンはだぶつき気味だし目立とうとすると相当めちゃくちゃやらないとだめな勝負に突入するかも。でも、メディアである程度の発言力を確保しているshi3z氏のポジションは現在のUE社にとっては外せない貴重な宣伝力だから、露出は続けるべきでしょうね。経営者の人格が会社の自由なブランディングに障害になる可能性があるのは、もっと先。そのときでもコンシューマー相手のマスプロモーションをやるときに経営者がでなければいいだけですから、別に心配する必要はない。


なのでshi3z氏のこれまでの自分を経営者として露出してきた戦略は方向的にはまったく正しかったと結論できる。じゃあ、なんで彼が違和感を感じているのだろうかと想像すると、おそらくはshi3z氏がこれまでおこなったブランディングが、あまり彼の意図しない結果になっているからだろう。


shi3z氏と話したことのある人間ならわかると思うが、彼はいわゆる「天才肌」の人間だ。彼がこれまでに見せてきた数々の才能の片鱗をみても、おそらくは実際に天才であるといってもいいだろう。彼のまわりにも彼の才能を評価する人間が多いから、彼自身もそれを自覚しているのだと思う。だが、実際に会って直接コミュニケーションして彼の天才を納得させられたとしてもそれをメディアを通じておこなうのは難しい。多数を相手にするメディアでは伝えられるイメージのパターンの数が減るのだ。なぜかというと、ほとんどのひとはランダムでとりとめのない他人の発言なんか聞きたくないから、メディアを選択して情報を入手しようとする場合は、どういう情報が聞きたいか先入観を持っているはずだからだ。人間なんて自分の聞きたい情報以外は耳にはいらない。だから、経営者が情報発信をする場合につたえられる情報のパターンはそれほど多くはならない。


なんで、糸井重里さんのほぼ日というスタイルに目が向いたのだろう。でも、これってテレビでいうと、タモリ黒柳徹子のポジションに近いと思うんだけど、これができるためには汎用的な知名度と影響力が必要だから、この手法をそのままできる人間はネット業界には、ひろゆきぐらいしかいないと思う。


なんで、だんだん長文がめんどくさくなってきたので、いろいろ途中の議論を、はしょって書くと、ブログを通じて伝わる自分の経営者の人格のメリット・デメリットを考えるのであれば、shi3z氏はクリエイター気質のプロデューサーを目指すか、経営者をめざすか、(少なくとも自分のブランディングに関しては)、どっちかに決めたほうがいいと思う。まあ、後者はないだろうし、あったとしても今ではないから、ようするに経営者としてふるまわないように見せたほうがいいんじゃないかと僕は思う。人間は嫉妬深いから、クリエイター兼経営者なんてキャラ設定は反感もたれて受け入れてもらえる確率を下げる。もっと、わかりやすいキャラにしたほうがいい。その場合は実績のあるほうをベースにするべきで、経営者のキャラはもっと会社が成功するまで封印したほうがいい。成功を夢見る若手ベンチャー経営者のブログなんてたくさんあるけど、そのタイプのブログでは、青臭いフレッシュさと、滲み出るセンスや頭の良さを感じさせるように手垢のついていない自分の専門分野に関しての深い洞察を書いているぐらいでよくて、一般的な経営論とか語るのは効率が悪い。レベルファイブの日野社長やスマブラの桜井さんが経営論を語っているところなんて見たことはないし(あったらごめんなさい)、そもそも、だれも期待していないと思う。損得を考えるのであれば、みんなが期待する情報やイメージを発信するのを基本とするのが安全だ。


もし、経営者方向にブランディングするんだったら、自分を露出するのではなく、もっと徹底的にだれか社員を決めてプロデュースすべきだと思うけど、shi3z氏との差を埋められる素材はいないんじゃないかなあ。しらないけど。


でも、まあ、上に書いてあることは、損得を考えた経営者のブランディングを追求するならばということなので、ぶっちゃけ僕個人の結論としてはshi3z氏はいまのままでいいと思っています。ブランディングとしても十分に成功しているし、これ以上望まなくてもいいじゃん。自社サービスのマスプロモーションは、また別の手法を考えればいいじゃんと思います。