『夏の名残の薔薇』恩田陸。★★★★★☆☆☆☆☆

めっきり読書力が落ちている。
基本的に一度開いた本は最後まで読むのだが、この本は三度ほど挫折して読み直した。
キャラクタは魅力的で、つまり頭の回転が速くて、読みながらふんふんとうなずくことが多かったんだけど、「去年マリエンバートで」の挿入が多すぎる。試みが全面に出てしまっていて、煮詰まっていないカレーを食べているような感じ。

去年マリエンバートで」を読んで・観てから読むとかなり印象が変わるのだろうなぁ、とは思うけれど、なかなか見る機会はなさそう。
そういえば、「ちょっと前の本・映画・音楽」って、今は手に入りやすくなったのか、入りにくくなったのか。オンライン古書店のカタログがあるように、それなりの代価を払えば手にはいる時代なのだろうか?

『塩の街』(有川浩)

もう一冊。とても面白かったので、続けて同じ作者の『塩の街』も読んで見た。
塩の意味は見当がついていたんだけれど、ホントにこのワンテーマで押し切ってきたね。
結末は、やはりこれもちょっと詰めが甘い印象。「自分はすごい」とあまりに主張しすぎ。語らせずに語る、というのが作者の腕の見せ所ではないだろうか?ホントにすごい人は表舞台に出てこない(どころか存在も気づかせない)はずだ*1

*1:酒見版孔明の影響がここにも

『空の中』(有川浩)

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読んでて感想を書いてなかった。
作者自身が「ラピュタのような」と書いているけれど、ジャンル分けすると航空自衛隊と怪獣ものと青春もの。青春ものに関しては「分かりやすい恋」で、多分こうなろうんだろうなぁ、という流れそのままで、心地は良いし適度に気恥ずかしいがあまり印象に残らない。しかし、怪獣もの、と書いたジャンルの前提が奇想でそれだけでこの小説は勝っている。
この小説には関係ない事なんだけど、ぼくはエンドマークがついた後の小説世界を想像する事が良くある。「そして二人は結婚して幸せに暮らしました」の続きが大事だろ、と思うように。読者としてのぼくは、その小説内の世界とここにある自分の世界との折り合いをどうやらつけようとしているらしい。
これでは小説家になれないわけだ。SF作家やファンタジー作家の、エンドマーク以降の世界に対する感覚を聞いて見たいものだ。
そうそう。本作の白眉は、土佐弁がとっても暖かかったこと。

『泣き虫弱虫諸葛孔明』(酒見賢一)

読了。物語は、孔明がようやく出櫨したところで終わってしまう。「ここから赤壁とか馬謖とかあるのに!」と思わないでもないが、後半一気読みだったためだろうか、満腹感がある。たぶん、この物語は続く。続いているのだろう。
なんだか、いつまでも酒見氏の語り口調で話を聞いていたい、子守唄を聞いていたいような欲求がちらほら。本書の主題は孔明なんだけど、ぼくにとってそれはたぶん二の次で話を聞いていたい*1
さてさて。中盤まではそんな軽口が面白かったんだけど、そこから後半の山場、三顧の礼あたりから劉玄徳の置かれている「曹操と戦えば負けると分かっているのに、戦わなければ社会的に抹殺されてしまう」というどうしようもない立場の鬱々とした玄徳の心情が語られる。これがつらい。いま仕事で追い詰められている自分自身が微妙に重なって、他人事ではない感じがしたりしなかったり。
そのシンクロの複線となったのが、三顧の礼の前講釈である、酒見賢一氏の小説観。
小説を書くことで、量子化でぶれている物語が(酒見氏の中で)固定されて失われることがあること。ぼくは、吉原幸子氏の「これから」の一文、「書いてしまえば書けないことが書かないうちなら 書かれようとしているのだ」を思い出した*2
酒見氏は言う、物語が固定される恐怖と、小説家としての衝動がそれと対立する、と。これは面白い。あるていど自由のあるクリエィティブな仕事には、この苦悩が付きまとうのだな。産みの苦しみは、それを選択する代わりに、生まれなかった何百もの可能性を捨てる事になる。それに向き合うということなんだな。

*1:某漫画か

*2:恩田陸氏もこの一文をどこかで引用していたような

『ライトノベル☆めった斬り!』のブックガイド。

計31冊。案外読んでる。
ベスト3は、『六番目の小夜子』《十二国記》『空の中』。
* 003 (1980-p122-d),《ダーティペア高千穂遙(1980〜)
* 005 (1982-p124-d),《キマイラ・吼》夢枕貘(1982〜)
* 006 (1982-p125-e),《銀河英雄伝説田中芳樹(1982〜1988)
* 012 (1986-p131-d),《アルスラーン戦記田中芳樹(1986〜)
* 013 (1986-p131-b),《ガルディーン》火浦功(1986〜)
* 015 (1987-p133-c),《創竜伝田中芳樹(1987〜)
* 017 (1988-p135-e),《ロードス島戦記水野良(1986〜1993)
* 021 (1988-p138-c),《風の大陸竹河聖(1988〜)
* 022 (1988-p138-a),《魔獣戦士ルナ・ヴァルガー秋津透(1988〜1993)
* 024 (1989-p140-a),《フォーチュンクエスト》深沢美潮(1989〜2003)
* 027 (1989-p142-b),《無責任》吉岡平(1989〜1991)
* 028 (1990-p143-b),《スレイヤーズ!》神坂一(1990〜2000)
* 031 (1990-p169-e),《星虫》岩本隆雄(1990〜)
* 033 (1990-p171-b),《ゴクドーくん》中村うさぎ(1991〜2001)
* 037 (1992-p174-c),《十二国記小野不由美(1992〜)
* 038 (1992-p175-e),『六番目の小夜子恩田陸(1992)
* 039 (1993-p176-c),《デルフィニア戦記茅田砂胡(1993〜1998)
* 046 (1995-p182-f),『タイム・リープ あしたはきのう』高畑京一郎(1995)
* 048 (1995-p184-d),《風の白猿神》滝川羊(1995〜)
* 049 (1996-p184-d),《ブラックロッド古橋秀之(1996〜2000)
* 051 (1996-p186-c),《星界森岡浩之(1996〜)
* 061 (1998-p193-a),《ブギーポップ上遠野浩平(1998〜)
* 075 (2000-p236-b),《キノの旅時雨沢恵一(2000〜)
* 077 (2000-p237-d),《虚空》上遠野浩平(2000〜2002)
* 085 (2001-p244-f),『かめくん』北野勇作(2001)
* 088 (2001-p246-f),『紫骸城事件上遠野浩平(2001)
* 090 (2002-p248-f),『NHKにようこそ』滝本竜彦(2002)
* 091 (2002-p249-a),《悪魔のミカタうえお久光(2002〜)
* 096 (2003-p253-a),《涼宮ハルヒ谷川流(2003〜)
* 099 (2004-p255-c),『新本格魔法少女りすか西尾維新(2004)
* 100 (2004-p256-e),『空の中』有川浩(2004)