安冨歩、本多雅人著「今を生きる親鸞」




西洋的な考え方に疑問と限界を感じている今日この頃、本書の存在を知り購入しておいたものを読み終えた。


いくつか参考になることを学んだように思う。

  • 「他力」という概念。

安富歩氏著の「生きる技法」を読んだときにも感じたことだが、他者との関わりの中で生まれる流れ(これを「縁起」というらしい)の中で、流れに逆らわずagileにそしてleanに振る舞うことの重要さ。必要なのは本質的な流れを見極める力だろう。

これまであまり聞いたことの無い名前だったが、仏陀、竜樹、親鸞の流れを理解する上でスピノザを経由すると分かりやすいらしい。この辺りは東洋哲学と西洋哲学を統合的に理解する上で重要そうなので詳しく追いかけてみたい。


色々と良いきっかけが見つけられた気がするので良かった。

"Liars and Outliers: Enabling the Trust that Society Needs to Thrive" by Bruce Schneier




購入してからしばらく日が経ってしまったが、地道に読んでいたものが読み終わった。


セキュリティ分野に興味を持ち始めてから色々なものをネット上などで読みあさってきたが、この分野のエキスパートであるBruce Schneierの書いたものに巡り会うことは多く、彼が日々情報発信しているブログ:Schneier on Securityをはじめとして参考になるものが多かった。Bruce Schneierが最近Googleで行ったトークを見つけたので参考までに載せておこう。


本書は、日進月歩で進化するテクノロジーとそれに対応する社会を成り立たせる上で必要な「信頼」(trust)について考察している。社会は企業や国などの組織、それらを構成する個人、またそれらと関わりを持つ個人などが複雑に絡まり合って成り立っているが、各々の利害が対立することは多く、社会を正常に機能させるにはそれらの利害調整が必要となる。


組織とそれに属する個人との力関係を比べると、多くの場合は組織の力の方が圧倒的に強く、組織に属する個人はたとえ本人が正しいと信じる道が他にあったとしても組織に逆らって行動するのは難しい。組織の行動原理が常に社会の利益と一致していれば何も問題はないが、企業は社会の利益よりも企業利益を優先する宿命にあり、それに所属する個人も基本的にその行動原則に従わざるを得ない。


組織の行動を社会の利益から逸脱しないように制御するには社会的な圧力を加える必要があるが、力で制御される社会のコストは非常に高く、そのような社会に生きる個人の幸福を実現するのに最適ではないことは自明である。9.11後のアメリカのクレイジーなセキュリティ政策が良い失敗例であるが、特定の組織の利益が優先され社会の利益と一致しない行為が制御されないとこのようなことが起こる。



本書ではエアポートセキュリティを例に、異常なまでに入念な空港での荷物検査・身体検査のコストがいかに高く非効率であるか、また機能し得ないかということが解説されている。また、このような不合理をまかり通らせてしまうセキュリティの幻想の仕組みについてはBruce SchneierのTED PSUでのトークが詳しい。


ちなみに、空港のセキュリティがバイパス可能であることはJon Corbettが以下の動画で実証している。




現在のアメリカでは、異常に入念な空港での検査プロセスの域を超え、全ての電子的なコミュニケーションのデータを網羅的に収集しコンピュータで解析するという、行き着くところまで行ったと思えるようなことが実際に行われている。Edward Snowdenのリークによって明らかにされた最近の騒動であるが、数年前からWikileaksなどによって似たような事実は既に警告されてきた。ただ、個人がそれを知ったところで取れる行動というのは限られていて、一般人がワーワー騒いでも基本的には何も変わらない。ちなみにこのようなことが行われているのはアメリカだけでなく、アメリカはたまたま象徴としてやり玉に上がっているだけである。監視大国のイギリスはさらに酷く、フランスでもアメリカと似たようなことが行われていると報じられている。


このように、社会の利益と一致しない政策を強行する国家という主体、それらに圧力を加えられて従う企業という組織、その行動原理に従わざるを得ない個人といった構図は、本書で解説されている内容にまさに合致する。これらに対抗する社会的勢力として、Edward Snowdenのように組織に反旗を翻した個人やそれを支援するWikileaksやGuardianのようなジャーナリズムがあるが、暴走する巨大な組織を制御するには正直まだ力が足りないように思える。よって、本書のテーマである「信頼」(trust)が失われているというのが現在の社会の現状だろう。


このような現状を見るとかなり絶望的になるが、本書では歴史を振り返れば我々は長期的には正しい方向に進んできたと締めくくられている。


アメリカが力では社会を制御できないと気付く日は来るのだろうか。

"Makers: The New Industrial Revolution" by Chris Anderson



一応流行りものなのでしばらく前に買った本。イマイチ気乗りしないので本棚に寝かせつつダラダラ読んでいたものが今日読み終わった。

Makers Movementのコンセプトは面白いがずいぶん早いうちに萎んでしまったように思う。Cody Wilsonが言うように"Talk is nice"なのかもしれない。



やはり人を動かすには感情を刺激しないといけないと思うが、本書にはその刺激というかexcitementが足りないように思う。
ということでこちらの動画も載せておこう。


ただ、物作りの民主化というかオープンソース化は実際に起こっていると思うし、今後も止まらないだろう。
企業が彼らの目的に従って作っているものと実際に人々が欲しているものの間に乖離がある限りはこの流れは止まらないのかもしれない。

有川浩「塩の街」



この間読んだ「悪の教典」が面白かったため日本の小説にハマりつつあったところで友人から聞いてちょっと読んでみた。悪の教典ほど刺激的ではないもののユニークなストーリーでけっこうおもしろかった。


ストーリー以外で一つ面白いと思ったのは誰が主人公だか良く分からない書き方。何だか場面場面によって主人公が変わっているような感覚を覚えた。


ついでに同じく有川浩著の「図書館戦争」買っておいたのでまたそのうち読もう。

 貴志 祐介 「悪の教典」



ちょっと前に友人からもらったので読んでみた。


久しぶりに読んだ日本の小説だったが、刺激的で楽しめた。洋物というか米物の映画ばかり見ていて同じようなオーガナイズされた作りというか刺激の加え方に飽きていたのでちょうど良かった。やはり日本のようにディスオーガナイズドな環境からでないと生まれてこない発想というのはあるのかもしれない。


ちょっとググってみたところ、映画版の一部がYouTubeにあがっていたのでこちらも見てみた。

やはり役者の演技力などではハリウッドには及ばない部分も多く拙さを感じるが、まぁ楽しめた。技術的な力を磨いても超えられない発想力というのはあると思う。4部構成のような形になっていてYouTubeで見れるのは序章だけのようなのだが、そのうち続きも見てみたいと思う。後半を映像でどのように描いているのかは非常に楽しみだし、刺激的なはずだ。


これを気にYouTube上などにある最近の日本映画をいくつか見てみた。どれもハリウッド映画とは違う発想は感じるのだが、どうも日本映画は全体的に恐怖を心霊現象で表現する傾向が強いように思う。「リング」のように、ある種のリアリティを持たせそれを保ちつつ話を展開させるというか、その世界感の中に引き込んで逃がさないくらいのリアリティがあると面白いのだが、半端なリアリティと半端な演技力ではやっぱダメだなぁと感じる。やはり、「バトルロワイヤル」は面白かったと思った。


悪の教典」の映画版のリアリティがどのくらいその世界に引き込んでくれるかは楽しみである。

 安富歩 「生きる技法」



しばらく前に買った後に本棚に飾っておいた本だが、何となく気が向いて読んでみた。


本書で記憶に残ったのは、「自立とは依存すること」という考え方。
組織に依存せずに生きていけるようになることが目標だと思った数年前のことを思い出す。
Joi Itoもネットワークの中で生きながら必要なリソースはネットワークから調達するというようなことを言っていた。
Independentであることを強く意識し過ぎるとうまくいかないこともあるなぁと感じている今日この頃でもあるのでたまたま心に響いたのかもしれない。


依存することが自立というのはちょっと言い過ぎのような気もするが、困ったときに頼れる人がいるというのは良いと思う。

Mike Gancarz著 「UNIXという考え方」



UNIXの使い方ではなく思想について書かれた良書。少し古い本ではあるが今でも読む価値はある。原著ではなく訳本を買ったのは翻訳後に細かい間違い等が正されたという評判を見たからだったような気がする。値段もお買い得だったような。特別なフレーズ等には原語の表現が脚注に書かれているのが嬉しい。原著を読みたくなる衝動にもたびたび駆られたが、翻訳本にありがちな読んでいて感じるストレスは特に気にならなかったように思う。


本書はUNIXの思想について書かれている訳だが、その教訓はソフトウェア開発全般に通じるものと言っても良いと思う。また、近年のアジャイル的なソフトウェア開発方法論にも組み込まれているし、Lean StartupやInnovationの方法論にも繋がっている流れとなっている。


原著の2nd Edition↓がずいぶんと高く売られているのに気付いたが、内容にそこまで大きな変化はなさそうなので、本書を持っていれば問題無いように思う。