両側の山が迫った林道は
古の峠に上がる終点に近づき
風は渓から吹き上がる。
◆渓へ下る
「木洩れ日が綺麗やね」
終点手前の道標から
林道を別れ渓へ下る山道に入り
奥物部の森の懐へ分け入った。
◆長笹谷
カヤハゲ南山懐より出流
長笹谷の渓底に山道は降りる。
幾度も土石流に吞まれた渓は
今年も若葉を見せてくれた。
渓辺で一休みしたのち
里の杣が架けた橋を渡り
カヤハゲの山腹に分け入る。
山があるから雲が雨になり
この恵みはこれからも変わらず
森が一時姿を変えようとも
人が心配することは何もない。
◆カヤハゲ
「足首自由で快適で」
雨水が長年かけて造った渓は
深く切れ落ち急峻な斜面を登り返す。
新しい登山靴の調子いいようだな。
「逆光が綺麗なね」
ザレた斜面を登った山道は
支流が交わる尾根筋に上がった。
木陰から見返る白髪山の森。
これも多くの山が重なり山脈を成す
四国ならではの風景かもしれないな。
お猿さんが観る風景だよな。
◆森の中のもう一つの森
長笹谷から急登を終えた
山道はヌル谷入りなだらかになり
この先には私たちが35年かよう
奥物部の森のまほらがある。
「焚火のシーズンやね」
ここはヌル谷が長年かけて
土砂を堆積させた山中の平坦地で
雨が少なと渓水は伏流する。
「バイケイソウが茂った」
初夏 梅に似た花を
咲かせるのが名の由来。
一本していこうか。
地に深く山霊坐して滴れり 有馬朗人