ジークムント・バウマン『リキッド・モダニティ 液状化する社会』(大月書店)

リキッド・モダニティ―液状化する社会
いかにも翻訳ものという感じで、しかもけっこううねっている文体なので取っつきにくいけれど、いろいろと「目からうろこ」的な記述がある。印象に残った部分を抜き出してみると、

いま、一般に「公的課題」とみなされているもの、あるいは、そう解釈されているものは、とどのつまり、公人の個人的問題にすぎない。民主政治の伝統的問題ーー公人による公務遂行が、国民、あるいは、選挙民の福祉と幸福に、どれほど有益かーーは、福祉にたいする集団的責任、幸福な社会、公正な社会などについての公的関心を道連れに、公的な場から姿を消した。(p92)

もし、現代的進歩があまりにもみなれない形をしているので、現代にほんとうに進歩はあるのかと疑われるのは、進歩の意味が他の近代的要素同様、極度に「個人化」したためだ。別のいい方をすれば、進歩が規制緩和され、民営化されたのだ。(p175)

共同体的世界は、共同体の外にあるものがすべて、どうでもよくなったときに完成する。もっと正確にいえば、共同体の外が共同体の敵対者、混乱を武器としてふりかざす敵にあふれた、待ち伏せと陰謀の未開地に見えたときに完成する。共同体的世界の内的調和は、出口の向こう側にひろがる暗い密林を背景にすると、余計に光り輝いてみえる。...中略...「包括的共同体」というのは言語矛盾である。共同体的同胞愛は、仲間殺しの先天的傾向なしでは考えられず、また、成立せず、絶対機能しえない。(p222-223)

など。

いま、フランスで若者たちを中心に現政権に異議をとなえる行動が起こっているけど、こういうニュースを見ると、本書での指摘は今の日本でこそ当たっている、と感じざるをえない。

『UP』2006/4月(東京大学出版会)

毎年この時期に掲載されている「アンケート 東大教師が新入生にすすめる本」。今年は冒頭に本田由紀氏が書いていた。ちなみに「これだけは読んでおこうー研究者の立場から」というテーマで本田氏がすすめていたのは、

の3冊。


というわけで、別に東大の新入生でもなんでもないのだけど、読んでみた。ただし高いので、図書館で借り出して。

末木文美士『仏教 vs.倫理』(ちくま新書)

仏教vs.倫理 (ちくま新書)
これは収穫。
著者は仏教学の研究者。(全く知らないけど、その分野では著名な方かもしれない)
すでに書評が出ていたので、いちおうリンクしておく。
http://www.yomiuri.co.jp/book/author/20060228bk01.htm
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/dokusho/news/20060319ddm015070067000c.html

本書の読みどころは、「究極の他者」としての「死者」を扱う第3部だろう。
日本においてひろく普及していて、それゆえに「堕落」もしている葬式仏教を批判的に乗り越えて、その現代的な再生をはかることを提案する。
高い戒名など、さまざまな批判がおおっぴらに語られる葬式仏教であるけれど、「死」と直接に結びついて普及した「葬式仏教」であるからこそ、他者中の他者である「死者」との対話が開かれて、自己を見つめ直す契機ともなりやすいのではないか、という。
関連して言及されるヒロシマ靖国の問題への著者の視点も、また違った角度でちょっと新鮮だ。
声高にならず、一般市民の視線と生活態度に即した形での倫理のあり方(=再構築)を求める姿勢には、共感を覚えた。
おすすめ。

「図書」2006年春(岩波書店)

岩波新書<新赤版1000点突破>リニューアル」という特集号。冒頭で斎藤美奈子佐藤俊樹永江朗の3氏による対談がある。この中で斎藤が、

そういう変化のきわめつけが、1994年に出た永六輔さんの『大往生』。岩波新書は、この本で「わしはもう何でも出すのじゃ!」という印象を与えたのは事実。新書のイメージはここで大きく変わりますよね。そこから『バカの壁』へは一直線に見える。『大往生』がバカの壁への足場を築いた(笑)。

と述べているが、まあその通りかもしれない。
加えていうと、永六輔が「新赤版」で出した新書のうち、3冊が「新赤版」1000点の売れ行きベストテンにランクインしているとのこと。
(こぼればなし、より)

東浩紀 編著『波状言論S改』(青土社)

波状言論S改―社会学・メタゲーム・自由
北田暁大宮台真司大澤真幸鈴木謙介といった若手+中堅どころ?の社会学者との対論をまとめたもの。ここで名前が出ている人たちのよい読者では全くないのだけど、あちこちに突っかかりながら進んでいく議論を追いかけていると、この10年くらいでリバタリアニズムが浸透しつつある社会状況とともに、そうした社会が抱えることになる何とも言えない憂鬱さが、おぼろげながら見えてくる。
対談のわりには分かりやすい本ではないと思うけど、いまの気分を読み解く上では参考になる(ような気がする)。