髪の色を変えに美容院にいきました。染める前には髪の生え際の皮膚を保護するためのクリーム(ワセリン?)を塗ってもらうんだけど、担当の美容師さんの手つきがアレで、耳元に塗ってもらう時、とうとう堪えきれず少し声を漏らしてしまった。
 その後、シャンプーがあまりに気持ちよくて眠ってしまい、寝返りを打ちかけた。

サンドイッチマンになった僕は街頭に立って、通りを往来する人々から容赦なく罵声を浴びせられ火の付いたタバコや空き缶などのゴミを投げつけられ、しまいには小便まで引っ掛けられた。僕はただ立っていただけなのに。

悲しくなると河川敷へ逃げる癖は、小学生以来変らない。西日は傾き、人々は家路に帰るというのに、僕はいつまでも土手に座り込み俯いていた。なんだってこんな目に遭わないといけないんだろうと肩からぶら下げた広告板を覗き込むが、よく見えない。僕はなんとか広告を見ようと体を丸め覗き込む。(きっと、そうだ。僕が悪いんじゃない。ここに書かれていることのために、僕はつぶてを投げられるのだ。罵られるのだ。)

ところが、あまりに前傾の姿勢になったため、僕の体はバランスを失い、ごろごろと土手を転がり河へと落ちた。だが、僕にはもう岸に上がるつもりはなかった。幸いサンドイッチ板が水に浮くようなので、このまま流れるに身を任せ、どこかへでも行ってやろう。


河口を過ぎ、港湾を離れ外海をふた月行くと、僕はパナマへと流れ着いた。僕はここでバナナを栽培し、バナナ王になろう。嫌な事は全て忘れられるさ。

おごってやるからって言われたので、素直な僕はおじさんに連れられて女性の胸を揉みに出かけました。そういうのって初めてだったんだけど、期待(期待?)してたより、楽しくなかったです。だって全然リアルじゃないから。誰だか知らない人なんて人見知りしてしまうよ。元祖ピュアっ子とは僕のことだ。

とにかく足が速くなったのだ。どういう訳だかは全体分からない。でも、僕の足は実に速く走れるようになって、それはもう風のように飛ぶように駆けることが出来るのだ。おかげで僕はいつでも渋滞知らず、するすると間隙をすり抜け駆け抜けていったのだけれども、ついに交差点にいた巡査に呼び止められて「おいおい、そりゃ違法だよ」という訳で後ろ手に縄をされて連行、あれよあれよという間に裁かれて、一生涯、公道私道原野を問わず駆け回らないことと制約をつけられ、質素だけど頑丈な一戸と美しい女を与えられ、足が腐るまで楽をして暮らしましたとさ。

高校を卒業して以来、僕が地元を離れているせいもあって音信不通となっていた友人から、突然連絡があった。

彼は電話越しにつぶやく。「…えらいことになってしまったけん、ちょっと出てきてくれん」と未だに訛りの抜けない彼の声は弱弱しく震え、ただならぬ事態であることは明らかだ。中学生の頃から大仁田厚に心酔し男気を貫く事を信条としている僕はすぐさま彼の助けとなるべく、TVを消し、歯を磨き、寝癖を整え、夕飯の残りにはラップをかけ冷蔵庫にしまい、火の元を点検し、飛行機に飛び乗った。

故郷の街はいつもの年と同じように雪が積もっていた。でも、この地方都市自体は変わらないように見えて変わり続けており、その違和感に僕は不覚にもセンチメンタルな気持ちになり、ほろほろと涙をこぼしつつも彼の呼び出したスーパーマーケットへと向かった。

店内に入り、野菜の高騰に驚愕し、それに比べてえのきたけの妙に安いことに感心し、ふと我に返り、本来の目的を果たすため目に付いた店員に事情を話すと、彼女は怪訝な表情をしながらも僕を事務所へと通してくれた。

その事務所は、蛍光灯が黄色くなるほどタバコの煙で充満していた。友人は部屋の中央に置かれたテーブルに店長とおぼしき男性(スーパーの店長は大体ガタイがいいので見当がつくのだ)と向かい合う格好で座っていた。店長は僕を一瞥し、言った。
「あんたが身元引受人かね」
「いや、事情がよく掴めていないのですが」
「万引きだよ、万引き」と店長は口の端を醜く歪めるように言い放った。友人は俯き、顔をそむけた。
僕は驚きを隠せなかった。すると、店長は側に置いてあった何かをどんとわざとらしく大きな音を立てて、テーブルの真ん中に置いた。
「まったく、子供じゃあるまいし、学生さんがこんなものを万引きするとはね」


――ここで一度目が覚める――


「と、とにかく、お金ならお支払いしますから、なるべく穏便に」
と財布を取り出そうとする僕を制止し、店長は言った。
「いいか、こういうことは金の問題じゃないんだよ。品物は買ったことにしてこいつを自由にしちまうのは簡単だ。でもな、万引きというのはたちの悪い癌と同じで一度万引きしたやつは必ず再犯するんだよ」
「じゃあ、警察に引き渡すという事ですか。それだけは見逃してやってください」
「見逃す事はできないな」
「そんな!なんでもしますから!」
店長の眼の奥がぎらりと光った


――ここで、おしっこがしたくなって再び目が覚める――


僕は店長の要求どおり、友人に対して「愛の行為」を示す事となった。緊張からか疲弊しきっていた彼は、僕と店長との長いやりとりに耐え切れず、眠りこけていた。それはまさに天使の寝顔だった。僕は、その眠れる天使に対して「愛の行為」を・・・
だが、これは友人を助けるためなんだ。覚悟を決めろと自分に言い聞かせ、僕は眠る彼の頬を平手で思い切り打った。

彼の頬が流血に赤く染まると店長はようやく僕らを解放してくれた。外に出ると、重い雪雲が割れ夕暮れの太陽がのぞいてい、西の空もまた赤かった。


こういった男気の通し方というのはなんだか21世紀的ではないな、と最近では思っている。