『恋人選びの心(I,II)』書評

ジェフリー・F・ミラー[長谷川眞理子訳]
(2002年7月15日刊行、岩波書店、東京, I: pp.i-viii, 1-314 / II: pp.i-viii, 315-618, [1-60], 本体価格各2,800円, ISBN:4-00-022823-4 [I] / ISBN:4-00-022824-2 [II])

【書評】※Copyright 2024 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

「心」は異性が進化させたのか——性淘汰理論の最前線

きわどいテーマの進化本だ.曲解や拡大解釈をしようと思えば,これほど容易な本はない.冒頭で著者は,本書全体の柱となる主張——「私たちの心は,生存のための装置としてではなく,求愛のための装置として進化した」(p.4)——を提示する.誤解してほしいと言わんばかりだ.

 

しかし,本書を正しく読むポイントは「配偶者選択による性淘汰の理論」——配偶者として異性に選んでもらえるような特徴が進化してくること——の理解にある.チャールズ・ダーウィンが1世紀以上も前に提唱したこの進化メカニズムは,ごく最近にいたるまで,進化学者の間ですら正当な扱いを受けてこなかった.

 

著者は,まずはじめに,性淘汰理論がなぜ進化学において継子扱いされ続けてきたのかを明らかにする.そして,この20年ほどの間に復活を遂げたこの理論を武器にして,現在の進化心理学が解明を目指している「ヒトの心の進化」をターゲットにして話を展開する.話題は実に広範である.男女の体形の差異に始まって,言語,芸術,スポーツ,思想,宗教などを取り上げ,それらの進化的起源を性淘汰理論で説明しようとする.

 

「そんなのただのお話しでは?」——これは予期される反応である.提出された仮説を待ちかまえる洗礼としてのテストは,その次の作業となるだろう.むしろ,本書は,これまで説明に窮してきたさまざまな現象に対する性淘汰理論からの解答を提唱したことに意義があると私は思う.だから,そのまま鵜呑みにしたり,冷笑しておしまいにするわけにはいかない.

 

本は読み手だけでなく書き手も選ぶのかもしれない.「ダーウィン革命はもっと性的革命に」(p.9)とか「人類進化をもっと物語的に考えるならば,恋愛コメディ」(p.588)とさらっと書いてしまえる著者が私にはうらやましい.

 

三中信宏(2002年8月30日※bk1公開|2024年5月9日※再公開)


【目次】
巻I
1.セントラルパーク
2.ダーウィンの非凡さ
3.脳のランナウェイ進化
4.恋人にふさわしい心
5.装飾の天才
6.更新世の求愛

 

巻II
7.からだに残された証拠
8.誘惑の技法
9.育ちのよさの美徳
10.シラノとシェヘラザード
11.恋人を口説くためのウィット
エピローグ
謝辞
訳者あとがき
原注
文献
索引

参考書
・ヘレナ・クローニン(1994)『性選択と利他行動』,工作舎
チャールズ・ダーウィン(1999-2000)『人間の進化と性淘汰』,文一総合出版
・アモツ・ザハヴィ,アヴィシャグ・ザハヴィ(2001)『生物進化とハンディキャップ原理』,白揚社

『西夏文字:その解読のプロセス[新装版]』半世紀ぶりの復刊

西田龍雄
(2024年5月下旬刊行予定、紀伊國屋書店、東京, 本体価格2,800円, ISBN:9784314012058版元ページ

書物復権2024〉の一冊として:西田龍雄西夏文字:その解読のプロセス』(1967年3月31日刊行,紀伊國屋書店紀伊國屋新書・A-30],東京, 209 pp. → 目次)が新装復刊決定との連絡が版元から届いた。ワタクシが最初に本書を手にしたのは半世紀前の高校生の頃だった。そのことは、昨年の〈書物復権2023〉の拙文:三中信宏みをつくし読書帖」に書いた。半世紀ぶりの復刊が現実となったことを心から喜びたい。西夏文字はおもしろいぞ。

『キミは文学を知らない。—— 小説家・山本兼一とわたしの好きな「文学」のこと』目次

山本英子
(2024年5月10日刊行、灯光舎[本と人生・第1巻]、京都, iv+212 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-909992-10-9版元ドットコム


【目次】
職業は、作家 1
挑んだ松本清張賞 25
直木三十五賞、候補は三回 55
善福寺川で悩む 83
決意は賀茂川で 111
キミは文学を知らない 161
シークエル 177

なお、このシリーズ〈本と人生〉の続巻はすでに公表されている:

  • 第2巻:三中信宏本棚の記憶』(2024年秋刊行予定)
  • 第3巻:光嶋裕介『読書と建築』(2025年秋刊行予定)

『ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか?:進化の仕組みを基礎から学ぶ』目次

河田雅圭
(2024年4月30日刊行、光文社[光文社新書・1307]、東京, 372 pp., 本体価格1,000円, ISBN:978-4-334-10292-0版元ページ

本書はワタクシの書評予定本リストの筆頭に入っている。今月中には各紙に配信されるだろう。


【目次】
はじめに 3

第1章 進化とは何か 17

1-1 そもそも進化とはなんだろうか? 18
1-2 有害な進化も起こりうる 51
1-3 ダーウィン進化論は時代遅れ? 63

第2章 変異・多様性とは何か 79

2-1 突然変異はランダムなのか? 80
2-2 多様性は高ければいいってもんじゃない 109
2-3 受け継がれるのは遺伝子だけか? 155

第3章 自然選択とは何か 185

3-1 種の保存のために生物は進化する? 186
3-2 生物は利己的な遺伝子に操られている? 210
3-3 生き残るためには常に進化しないといけない? 239

第4章 種・大進化とは何か 263

4-1 進化=種の誕生か? 264
4-2 大進化は小進化で説明できないのか? 296

 

おわりに 351
参考文献一覧 372

『温泉旅行の近現代』目次

高柳友彦
(2023年12月1日刊行、吉川弘文館、東京、218 pp., 本体価格1,700円, ISBN:978-4-642-05982-4版元ページ


【目次】
温泉旅行という文化―プロローグ 1

温泉旅行の黎明 江戸・明治期

 近世の温泉利用 8
 幕末から明治初期 22
 整備される道、宣伝される魅力 30

大衆化する温泉旅行 大正・昭和戦前戦時期

 湯治療養と観光・行楽 46
 不況下でも盛況 58
 戦時中の旅行ブームの到来 72

再興してゆく温泉旅行 昭和戦後期

 動き出した温泉旅行 90
 レジャーの走りヘルスセンター 104
 高度経済成長に湧く 111

多様化する温泉旅行 一九七〇年代以降

 団体旅行から少人数へ 136
 健康志向の高まりと湯治場 153
 バブル期の旅館改築・増築 160
 バブル崩壊と旅館の苦闘 173
 二一世紀の温泉旅行 185

 

コロナ禍、そしてこれから―エピローグ 201
あとがき 211
参考文献 214

『ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつ —— 争い・裏切り・協力・繁栄の謎を追う』目次

アシュリー・ウォード[夏目大訳]
(2024年3月26日刊行、ダイヤモンド社、東京, 729 pp., 本体価格2,000円, ISBN:978-4-478-11628-9版元ページ

700ページ超のブロックみたいな鈍器本。


【目次】
はじめに 4
1章 氷と嵐の世界に棲む謎の生物 29
2章 シロアリはコロニーを守るために自爆する 83
3章 イトヨが決断するとき 167
4章 渡り鳥は「群衆の叡智」で空を飛ぶ 235
5章 ネズミ、都市の嫌われ者が私たちに生き方を教えてくれる 309
6章 家族の死を悼むゾウ 357
7章 ライオン、オオカミ、ハイエナが生き延びるための策 411
8章 クジラ、イルカ、シャチ、最も謎めいた動物 495
9章 類人猿の戦争と平和 559
エピローグ 672

 

謝辞 694
訳者あとがき 698
参考文献 [704-722]
索引 [724-729]

『奇跡の薬16の物語:ペニシリンからリアップ、バイアグラ、新型コロナワクチンまで』目次

キース・ベロニーズ[渡辺正訳]
(2024年3月10日刊行、化学同人、京都, viii+279 pp., 本体価格2,600円, ISBN: 978-4-7598-2357-8 → 版元ページ


【目次】
序章 創薬のいま 1
1章 ペニシリン──元祖・抗生物質 25
2章 キニーネ──熱帯林の贈り物 43
3章 アスピリン──ヤナギの恵み 57
4章 リチウム──心に響く金属イオン 75
5章 イプロニアジド──10年限りの波乱万丈 87
6章 ジゴキシン──ゴッホも被害者? 95
7章 クロルジアゼポキシド──落ち着きなさい 111
8章 亜酸化窒素──しびれる笑い 121
9章 窒素マスタード──両極端のNとS 137
10章 ワルファリン──人を救った猫いらず 151
11章 ボツリヌス毒素──キレイもつくる最強の毒 167
12章 コールタール──臭くて黒いスグレモノ 183
13章 ミノキシジル──塗ってフサフサ 191
14章 フィナステリド──飲んでフサフサ 201
15章 バイアグラ──うれしい誤算 209
16章 新型コロナワクチン──究極のワザ 225
終章 世界の薬ふしぎ探検 233
謝辞 255
訳者あとがき 256
参照文献 [274-259]
索引 [279-275]

『生命はゲルでできている』目次

長田義仁
(2024年3月14日刊行,岩波書店[岩波科学ライブラリー・325],東京, vi+128 pp., 本体価格1,400円, ISBN:978-4-00-029725-7版元ページ


【目次】
1 世界はゲルに満ちている 1
2 ゲルをつくる 19
3 ゲルが示す不思議なふるまい 39
4 ゲルは環境に応答する 57
5 命を支える賢いゲル 73
6 ゲルは理想のバイオインターフェース 89
7 ゲルがつくる未来技術 103
終章 生命活動の舞台を理解する 119

 

あとがき 125
図版出典 128

『The Philosophy of Evolutionary Theory: Concepts, Inferences, and Probabilities』目次

Elliott Sober
(2024年2月刊行、Cambridge University Press, Cambridge, xviii+288 pp., ISBN:978-1-009-37603-7 [hbk] → 版元ページ


【目次】
List of Figures x
List of Tables xiii
Preface xv
Acknowledgments xviii

 

1. A Darwinian Introduction 1
2. Fitness and Natural Selection 16
3. Units of Selection 39
4. Common Ancestry 77
5. Drift 110
6. Mutation 141
7. Taxa and Genealogy 167
8. Adaptationism 206
9. Big-Picture Questions 230

 

References 258
Index 281