野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

間宮芳生『現代音楽の冒険』

間宮芳生『現代音楽の冒険』(岩波新書)読了。昨年、国立音大に講義に行った時に、駅の近くの古本屋で見つけて購入したもの。日本のバルトークとも言われる間宮芳生さんの思考には、ずっと興味があったのに、これまで文章を読む機会がなかった。

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ヴァイオリン、ピアノ、打楽器、コントラバスというジャズのような編成のソナタの第2楽章は、ジャズのようで、1989年に京大西部講堂で開催したコンサート『ケージバン』でピアノをジャズピアノの芦津直人さんに弾いてもらったことを思い出す。間宮さんの民謡、ジャズ、現代音楽に対する独自の立ち位置は、とても面白いし、フィンランドのヨーイクに興味を抱いた経緯なども、興味深く読んだ。また改めて間宮作品を聞き返す良い機会になった。

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河合拓始「自然真営楽」/JACSHA/Percussionist 's Art

河合拓始さんのコンサート『自然真営楽』の動画が公開になったので、全編鑑賞。大いに刺激を受ける。シーンごとにテイストも大きく異なり、全編通して安藤昌益(1703-1762)のテキストに基づきシアター的な要素もあり、全体で一つの大きな作品となっている。とても面白い。

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JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)とKIAC(城崎国際アートセンター)のミーティング。今月中旬から下旬にかけてKIACでの滞在制作に向けて。今回はレコーディングをするが、レコーディングは市民に開かれたレコーディングを目指しているので、そのイメージの共有など。

 

Steven Schick著『The Percussionist's Art -Same Bed, Different Dreams』(University of Rochester Press)読了。以前、パーカッショニストのEnrico Bertelliの家に泊めてもらった時に、本棚にあったのでパラパラ斜め読みしたら面白そうだったので、自分でも購入してみた。現代音楽を専門にする打楽器奏者が書いた本で、打楽器奏者ならではの本だった。例えば、複雑な打楽器の曲をどうやって覚えるかについて、筆者の具体的な方法が書いてあったり、ツアー先で楽器をどう調達するかとか、楽器をどうやって並べるかとか、演奏家ならではのプラクティカルな視点での話もいっぱいあって面白い。また、実際に譜例を出しながら、具体的な楽曲について解説してもらえるのも面白い。ヘトヘトになるまで必死に叩くように指示されている曲で、脱力で超絶技巧の著者は本当にヘトヘトになる演技はしたくないので、楽器を自分から遠くにして物理的にヘトヘトになるように配置して本当にヘトヘトになるようにしたなどの話も面白かった。譜面に誠実に取り組む人なのだと思う。きっと良い演奏家であり良い先生だと思う。

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門限ズ/竹野相撲甚句ファンファーレゲエ/高松市美術館

門限ズの打ち合わせ。大分県の佐伯でのプロジェクトに関して。演劇、音楽、ダンス、マネジメントとジャンル横断するバンド門限ズは、細々と、しかし活動が継続している。

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ちなみに佐伯では藤井光さんの個展もやっているらしい。

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城崎国際アートセンターで昨年度、JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)としてレジデンスした際に、竹野中学校吹奏楽部にJACSHAの《竹野相撲甚句ファンファーレゲエ》を伝授したのだが、昨日、地域のお祭りで再演してくれたそうで動画を見せていただく。こうして展開していくのは嬉しい。中学生が「のむろんは?」と声をかけてくれたとの話を聞き、覚えてもらえててさらに嬉しい。

 

高松市美術館の開館閉館の音楽が、館内で流れているとのこと。YouTubeでも音源が聴けるように公開になった。サヌカイトという地域資源である石の楽器を、ワークショップで集まった地域の人々50人に好き勝手に慣らしてもらったり、少しだけディレクションしたりして作った曲。市民の皆さんの声で「ごゆっくり!」、「まーたーねーーー!」などの声も。滋賀県立美術館の閉館の音楽も、子どもの声が味わい深いことも思い出す。

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カライモブックス/発信の仕方/砂連尾との対話

本日も里村さんが仕事が休みで、お出かけすることに。京都にあったカライモブックスが昨年11月に水俣に移転したので、一度行ってみたかったのだが、ついに念願叶う。

 

karaimobooks.stores.jp

 

奥田順平さん、奥田直美さんのお二人に再会。順平さんから、水俣に移住しての生活のこと、こちらで石牟礼道子さんを知る人々のリアクション、水俣病チッソに対する様々な立ち位置の人のことなど、非常に生々しい体験談を聞かせていただき、2時間くらい長居をしてしまう。里村さんが編集で関わった中野裕介さんの石牟礼道子を参照した展覧会に基づく冊子も、販売していただけることに!本屋さんとは本を売り買いする場所のように思われるが、本を売り買いすることを介して、様々なコミュニケーションが行われる場でもある。

 

里村さんと色々話す。話すとアイディアが膨らみ飛び火する。情報をどう発信するかについて考える時に、次の4つを考える。

 

1 熊本ローカルの人に向けて

2 国内の遠くの人に向けて

3 海外の人に向けて

4 未来の人に向けて

 

(この4つだけ考えていると、「死者に向けて」とか「大地に向けて」とかがないと突っ込まれそうだが、、、、)

 

1つ目の熊本ローカルの人に向けては、人との直接的なコミュニケーションできる場を作りたいと思うし、大太鼓収蔵館、カライモブックスに行ったので、余計にそう思う。2つ目の国内の遠くの人に向けては、このブログを書いていることもあるのだけど、podcastとかやったらどうか、と以前、里村さんに提案いただき、まだ実現できていない。3つ目の海外向けなのだが、今後海外でどういう活動をしたいかを考えて、それに応じてウェブサイトの英語ページのコンテンツ(テキスト/音源など)を充実させてみたいと思う。せっかく九州に住んでいるので、韓国との交流プロジェクトを立ち上げたいと思っている。4つ目の未来の人々に向けては、自分の過去の活動の中から、未来の人が面白く活用/展開できる材料を発掘し公開することがしたい。

 

帰宅後、砂連尾さんに連絡しようと思ってパソコンを開くと、砂連尾さんからも連絡があり、砂連尾さんと話す。砂連尾さんから依頼の要件の話をして後は、里村さんも加わって歓談。近況報告に、琵琶を奏でると画面の向こうで砂連尾さんが踊ったり、砂連尾さんが新たに通い始めた合気道の教室の話を聞かせてもらったり。例によって、砂連尾さんから次々に質問をされるので答えているうちに、こちらが言語化できていないことが言葉になっていくので、さすが「理」という名前の人だなぁ、と思う(里村さんの名前は「真理」だ)。一年前に砂連尾さんが熊本に遊びに来てくれた時と比べて、里村さんもぼくも、熊本への向き合う態度が変わってきた、と砂連尾さんが感じてくれたことに、自分たちとしても手応えを感じる良い対話だった。

 

宇土市太鼓収蔵館の名物館長

里村さんがオフなのでお出かけ。宇土市太鼓収蔵館は、コロナ禍に一度行ってみたが当時は休館していた。コロナも明けて開館しているようなので、とりあえず地域の文化を勉強する意味で行ってみようと思い出かけた。

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巨大な大太鼓が収蔵されているが、なんと自由に叩いていいという。そして、館長の坂本さんが実演してくださり、さらには、教えてくださる。坂本さんの太鼓の腕前は、相当なものだ。こちらが興味を持って話を聞いていくと、坂本さんの太鼓に関する知識は非常に奥深く、しかも、宇土の太鼓のことだけでなく、それ以外の太鼓のことや和太鼓のコンクールのことまで詳しい。気がつくと、どんどんレクチャーが続き、色んな叩き方を伝授していただき、死ぬ気で全力で叩いてヘトヘトになる叩き方のご指導を受けたり、ついには里村さんと二人でアンサンブルしたりもした。閉館時刻を1時間以上オーバーして坂本さんが話し続けてくれて、入館料100円は安すぎる。お客さんが来たらぜひ連れて行きたい。

 

科学館、博物館、美術館などで、『ハンズオン展示』として、実際に触れる展示をすることがある。また、学芸員や鑑賞ボランティアによるギャラリートークなどを交えて、対話型で鑑賞することもある。また、展示への理解を深めるためにワークショップなどを実施することもある。この太鼓収蔵館は、江戸時代から伝わる文化財である太鼓を物として展示して見せるだけでなく、太鼓を演奏するという行為自体を実際に体験する。江戸時代から伝わる文化は、太鼓という物だけにあるのではなく、太鼓を通して人々が営む行為自体にもあるのだ。そのことを、理屈抜きに体感できる画期的な施設である。それも坂本館長の実演のおかげである。この館長は只者ではない。また、来たいと思ったし、宇土の太鼓文化をもっと知りたい、と思った。

 

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同じ宇土の獅子舞の動画を見てみたが、銅鑼が鳴っていて、熊本は中国大陸に近いだけあって、音楽も中国に近いなぁ、と思う。

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地域の芸能リサーチ、少しずつ始めていきたい。

肥後の琵琶師 近世から近代への変遷/天吹/遊び場について

安田宗生『肥後の琵琶師 近世から近代への変遷』(三弥井書店)読了。肥後琵琶を始めて、もうすぐ2ヶ月になる。熊本大学名誉教授の安田宗生先生がまとめられた本は、肥後琵琶について大枠をつかむのに、とても良い本だった。近代の肥後琵琶は、筑前琵琶の影響も受けているが、熊本出身で九州を中心に全国で活躍した講談師の美當一調(1847-1928)の軍談に影響を受けているとのこと。美當一調のwikipediaを見ると、「肥後琵琶の形式を講談に取り入れた」とあるので、肥後琵琶が美當一調に影響し、美當一調が肥後琵琶の山鹿良之さんに影響した、ということか。美當一調の音源も入手して聴いてみたいと思った。

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熊本に住んでいて、九州で色々リサーチしたいと思っているところから、肥後琵琶に出会った。盲僧が演奏する琵琶から連想するのは、虚無僧が演奏する尺八である。九州における尺八ってどうなんだろう、と思ったら、薩摩に伝わる天吹という尺八に似た楽器の存在を知った。

 

明治になると郷中教育を受け継いだ「学舎」の青少年を中心に琵琶・天吹をかじらない者はいないというぐらい盛んでしたが、明治30年ごろ、勉強の妨げになるとして禁止令が出されことをきっかけにして一気に衰微し

 

とのこと。勉強の妨げになるほど熱中し禁じられた天吹、一方で明治に全国に広がった薩摩琵琶の対照的なこと。天吹のことも、もっと知りたくなった。

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里村さんが休みなので、スイーツを食べたり、話を聞いてもらったりもした。誤解を恐れずに書くと、「学び」という洗脳に毒される前の子どもの「遊び」性に基づく芸術音楽の解体=創造の場を作りたい、という欲望がある。子どもがいる場所の多くは、教育の場であることが多く、子どもたちの中で「遊び」が貧困化しているのではないか、という勝手な危機感もなくはなく、そして、ぼくは「遊び」が大好物なので、そうした「遊び場」を作りたいと願っている。それは、ぼくにとって渇望する場であり、そうした場を必要とする人もいるであろうと思う(『だじゃれ音楽研究会』は、その好例だと思う)。それを熊本で作れないか、そのためにどうすればいいのか、について考えている。それと、資本主義をどう卒業するかと、自分がどういう生き方をするかは、連関してくると思うので、その辺が絡まり合って分からなくなりそうなので、そのことを日々考えている。肥後琵琶弾きは旅芸人ではあるので、旅芸人のことも考える日々であり、と同時に、遊び場をつくる=場所を開く、ことについても考えている。少しずつ、言葉にしていき整理したい。

 

 

高松市美術館の開館・閉館の音楽/ラヴィ・シャンカル

高松市美術館の開館・閉館の音楽をまもなく公開するということで、公開にあたっての作曲者のコメントを求められていたので作文する。この音楽が毎日美術館で流れると思うと、嬉しい。

 

Oliver Craske著『Indian Sun -The Life and Music of Ravi Shankar』読了。シタール奏者/作曲家のラヴィ・シャンカルの92年にわたる生涯を描く600ページを超える大作で読み応え十分だった。

www.olivercraske.com

「世界のしょうない音楽祭」で田中先生のシタールに毎年触れていたので、2020年にラヴィ・シャンカル生誕100年なので、良い機会だと思って購入したのだが、他にも読みたい本がいっぱいあって後回しになっていた。いざ、読み始めてみると、予想以上に面白くびっくりした。そもそも、子どもの頃はお兄さんの舞踊団の一員として世界中をツアーしていて、ダンサーになるつもりだったことも驚きだった。若い頃は映画音楽の仕事をいっぱいやっている。欧米で演奏し始めた頃は、解説を加えたり、西洋人向けの構成にして分かりやすく工夫したりした。ビートルズジョージ・ハリスンがラヴィのシタールに惚れ込み、ロックの世界でも一躍有名になる。シタール協奏曲は何曲も書いていて、オーケストラとの共演も多い。ヴァイオリンのメニューインと共演したり、ジャズのジョン・コルトレーンの共演したり越境コラボも多く、尺八の山本邦山と六段もやっている。パリで採譜の助手についたのがフィリップ・グラスで後に有名になったグラスと共作。女性との恋愛も相当で、娘の一人は歌手のノラ・ジョーンズ。別の娘はシタール奏者のアヌーシュカ・シャンカル。90歳過ぎても、毎日練習は欠かさなかった。

 

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