野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

高松市美術館の開館・閉館の音楽/ラヴィ・シャンカル

高松市美術館の開館・閉館の音楽をまもなく公開するということで、公開にあたっての作曲者のコメントを求められていたので作文する。この音楽が毎日美術館で流れると思うと、嬉しい。

 

Oliver Craske著『Indian Sun -The Life and Music of Ravi Shankar』読了。シタール奏者/作曲家のラヴィ・シャンカルの92年にわたる生涯を描く600ページを超える大作で読み応え十分だった。

www.olivercraske.com

「世界のしょうない音楽祭」で田中先生のシタールに毎年触れていたので、2020年にラヴィ・シャンカル生誕100年なので、良い機会だと思って購入したのだが、他にも読みたい本がいっぱいあって後回しになっていた。いざ、読み始めてみると、予想以上に面白くびっくりした。そもそも、子どもの頃はお兄さんの舞踊団の一員として世界中をツアーしていて、ダンサーになるつもりだったことも驚きだった。若い頃は映画音楽の仕事をいっぱいやっている。欧米で演奏し始めた頃は、解説を加えたり、西洋人向けの構成にして分かりやすく工夫したりした。ビートルズジョージ・ハリスンがラヴィのシタールに惚れ込み、ロックの世界でも一躍有名になる。シタール協奏曲は何曲も書いていて、オーケストラとの共演も多い。ヴァイオリンのメニューインと共演したり、ジャズのジョン・コルトレーンの共演したり越境コラボも多く、尺八の山本邦山と六段もやっている。パリで採譜の助手についたのがフィリップ・グラスで後に有名になったグラスと共作。女性との恋愛も相当で、娘の一人は歌手のノラ・ジョーンズ。別の娘はシタール奏者のアヌーシュカ・シャンカル。90歳過ぎても、毎日練習は欠かさなかった。

 

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健康診断/武田力さんと会う

保健所で行われている健康診断を受けにいく。昨年度はバタバタしていて受けそびれてしまったので、2年ぶり。

 

アーティスト/民俗芸能アーカイバーの武田力さんがこの週末、家族と熊本に戻って来ておられると聞き、お宅にお邪魔する。

 

yokohama-sozokaiwai.jp

 

コロナ禍にオンラインで対談をさせていただいたことがあるが、対面でお会いするのは初めて。初対面なのだ。ぼくは、肥後琵琶のことを結構語り、そのことに対して、朽木の六斎念仏踊りの話を聞く。六斎念仏踊りを、一度見に行きたいと思った。

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震災前の熊本の雰囲気の話も聞く。古い商店などが倒壊、半壊などで、震災後に一気に高層マンションが増えてしまったそうだ。個人商店が減り、チェーン店が増えていく。そんな世界に住みたいわけではないが、資本主義という仕組みに則っていると、気がつくと、「便利でつまらない世界の消費者」になるように仕向けられている。武田力さんは、そこに違和感を抱き、資本主義によって抹殺されようとしているものに目を向ける人だと思う。

 

ぼくは、「不便でも創造的に生み出す活動者」でありたい。いい加減、資本主義を卒業しても良いはずなので、資本主義から卒業するためのアートをしていきたい。熊倉敬聡が『脱芸術/脱資本主義論 ー来るべき〈幸福学〉のために』を著してから四半世紀が経とうとしているが、脱資本主義への道はまだまだだ。

 

www.keio-up.co.jp

 

それでも、イギリスのコミュニティ音楽の考え方、東南アジアで出会った多民族共存のための音楽創造、分断を無化するための『だじゃれ音楽』の実践、伝統とエンタメと権力との折り合いをつけてきた相撲に聞く『相撲聞芸術』などを経て、二項対立を回避し暴力を行使せずにパラダイムシフトする足掛かりは少しずつ作れている。

 

熊本に、ダンサーの柿崎麻莉子さんも住んでおられ、スペースも開かれていると知る。今度、訪ねてみよう。少しずつ自分にとっての熊本を描けていくといいなぁ、と思う。

www.fashionsnap.com

 

長崎次郎書店に寄ってから帰る。こだわりの選書が見られる大変素晴らしい老舗の書店であるが、6月から休業との告知。資本主義を卒業したいと改めて思う。では、どういう暮らしをして、どうやって食べていこうか?そのことを根底から考えることが、ぼくにとっての作曲だ。忙しくならないぞーー!!!

www.nagasaki-jiro.jp

 

 

American Music in the twentieth century

バンコクのAnant NarkkongのSNS投稿を見ると、彼はアメリカに1ヶ月滞在するみたいだ。何するのだろう?南川朱生さんのご紹介で繋いでもらったアメリカの鍵盤ハーモニカ奏者David Brancazioとやりとりをしている。彼はケンハモ奏者であるだけでなく、spontaneous compositionのワークショップをし集団即興的な音楽ゲームを考案し実践したり、コミュニティ・ストリートバンドthe Boston-Area Brigade of Activist Musiciansで活動したりもしている。面白い。ということで、アメリカについてなのだが、アメリカの作曲家に関する本、Kyle Gann『American Music in the twentieth century』読了した。

 

books.google.co.jp

 

アメリカの20世紀の作曲家について概説する本で、20世紀初頭から1990年代まで、とにかく多くの作曲家を紹介しまくってくれる本で、もちろん知っている比較的メジャーな作曲家の話が多いけれども、この本をリスニングガイドとして検索していくことで、随分新たな出会いがたくさんあった。

 

創作楽器のSkip La Planteとか、

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Mikel Rouseのトークショーの形態のオペラとか、

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Janice Giteckのガムランにインサピレーションを得た作品とか

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別府/香港の高校生たちとのワークショップ

草本利枝さん、岡本晃明さん、里村真理さんと打ち合わせ。別府で何かプロジェクトができないか、色々アイディアを飛びかわせる。別府の片岡祐介さんを訪ねたのは2年近くも前なのか。

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香港のCCCDの企画による高校生たちとのオンラインワークショップ。zoomだと、どうしても音がうまく伝わらないので、事前に自分達の演奏を動画で送ってもらうことになった。各自が作曲した曲を事前に聞いてみるが、ピアノを弾いている動画の譜面台に、ハローキティが描かれているノートが置いてあった。

 

そこで今日のワークショップの冒頭で、ハローキティの話をする。現在、熊本市現代美術館でサンリオ展を開催していることを告げ、里村さんも紹介し、彼女たちとハローキティの出会いについて語ってもらうと、だいたいみんな幼稚園の頃に出会ったとのことだった。香港でもキティちゃんは有名だった。

 

彼女たちの宿題にコメントして、宿題の動画を再生しながら、ぼくがピアノの生演奏で共演するセッションもやった。その後は、『瓦の音楽』、『プールの音楽会』、『ズーラシアの音楽』、『千住の1010人』の話を写真を交えながら説明し、音楽は楽器でもできるけれども、楽器じゃないと思われるものでも音楽ができることを説明する。そして、琵琶や三味線などに、「さわり」というノイズを発生される仕組みがあることも説明し、ピアノの鍵盤の上に鉛筆を置いて、鍵盤を弾くと鉛筆がカタカタとノイズを出すのを実演する。これも「さわり」。こういうノイズを排除しない考え方は、アンチ排除でインクルーシヴな発想で、そのことが1010人で音楽をすることにも繋がることも説明する。今日の宿題は、自分の楽器での演奏に、なんでもいいから身の回りで見つけた物を組み合わせた演奏の動画をとって送ること。どんなのが出てくるか、楽しみだなぁ。

 

 

 

 

 

 

フィリピンからの贈り物/日本の音楽・アジアの音楽/佐久間と新井のダンス

フィリピンのDayang Yraolaから、Tシャツが届く。ぼくが関わった『Music for 1000 bicycles』と『Lstening Biennale』のTシャツ。こうやってプロジェクトのTシャツがあり、着る度に思い出せる。ダヤンにありがとうのメッセージを送ると、ダヤンがギギーと一緒にいる写真が送られてくる。インドネシアの作曲家Gardika Gigih Pradiptaが、今マニラのフィリピン大学に3ヶ月レジデンスしているようだ。ギギーが活躍しているのは嬉しい。

 

岩波講座『日本の音楽・アジアの音楽第2巻』読了。熊本市内の古本屋で安く売っていたので、全9冊を買っのだが、飾っているだけだと高い買い物になってしまうので、全集を全部読もうと思っている。ようやく2巻まで読んだ。肥後琵琶リサーチを始めているので、久保田敏子先生が書かれた章『盲人音楽ー音楽専業職能集団の内と外ー』が、特に興味深く読めた。

 

www.kosho.or.jp

 

琵琶に煤竹をつけた竹ざわりを参考に、琵琶にプラスチックやウレタンなどをつけて響きの変化を遊んでみる。音の変化は面白い。

 

佐久間新さん(ジャワ舞踊家)から、新井英夫さん(体奏家)とのダンスの実験の動画をシェアしていただく。ALSを発症し車椅子のダンサーとなった新井さんと佐久間さん、そしてヘルパーの板坂さん、そして二人のタクヤ(音楽家の大井卓也さんと小日山拓也さん)がサポートしながら、身体と向き合う時間。大変刺激を受けるものだった。

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肥後琵琶リサーチ#5

2月28日に琵琶を購入してから、まもなく2ヶ月。熊本に移住してから、もうすぐ3年。肥後琵琶について、色々学ぶ日々が続く。本日は肥後琵琶リサーチ5回目。南関町地域おこし協力隊で肥後琵琶奏者の岩下小太郎さん、最後の琵琶法師とも言われた山鹿良之さん(1901-1996)から9年間琵琶語りを習ったという後藤昭子さんと。

 

玉名市立歴史博物館に晴眼者の琵琶奏者永松大悦さんが使っておられた肥後琵琶と達筆に書き綴った譜本が展示されているとのことで、見に行く。譜本は、戦争で物資が不足する中で、徐々に紙質が悪くなっているとのこと。

www.city.tamana.lg.jp

 

移動中の小太郎さんの車内のBGMは肥後琵琶の貴重な歴史的な記録音源が鳴り続ける。永松大悦さんの演奏を聴くと、琵琶は完全5度と4度の音程に調弦され、語りや歌の声と琵琶のピッチは、明確に連関しているのが聞き取れる。それが、単に合っているだけでなく、独特のグルーヴ感や揺らぎを持ちつつ、説得力がある。なるほど、山鹿さんの琵琶の調弦がユニークなのは、アート・リンゼイのギターの調弦が唯一無二であるのと同様。ロックギターの定型を知っている耳にアート・リンゼイの斬新さが魅力的であるように、肥後琵琶語りの定型を知った耳で聴くと、山鹿さんの特殊性の魅力が際立ってくる。山鹿さんの琵琶語りの魅力に迫るために、他の琵琶弾きの音源に耳馴染むことの必要性を痛感した。

 

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南関町まちの駅ゆたーっと、にて肥後琵琶定期演奏会。毎月1回開催していて、入場無料。南関の特産品(南関あげ、南関そうめん)の販売、廃校になった南関高校の美術工芸コースの卒業制作作品の展示も行われている。観客の高齢の方が多い。小太郎さんが導入に端唄を歌い、後藤さんが『道場寺』を語る。よく考えると、男性の芸として伝えられてきた肥後琵琶で、清姫の言葉を女性の声で語られるのは、希少な機会であることに気づく。最後に、小太郎さんが『狐葛の葉』を語る。狐の小別れのシーンは、当時子どもの出兵を経験した人に、リアリティがあるものとして受け取られていた、とのこと。肥後琵琶の様々なストーリーを、現代人がどのような文脈で真実味を持って聞けるかも、肥後琵琶を21世紀に着地させていくための課題の一つかもしれない。肥後琵琶が過去の遺産となるのか、21世紀の生きた芸能として続くのかの瀬戸際で、小太郎さんのような意欲的な方が存在することは本当に大きい。岡田利規さんがオペラ《夕鶴》を演出した際に、テキストは一切変えないにもかかわらず、ポスト資本主義、ポストトゥルース時代の演劇として描くことに成功していたことを、ふと思い出す。

 

山鹿さんの家があった場所(現在は更地)を経て、山鹿さんの位牌がある善光寺にお参りし、玉川流の始祖の堀教順さんの琵琶の形をしたお墓に墓参りをする。山鹿さんは堀さんの孫弟子にあたる。お花をお供えし、後藤さん、小太郎さんがそれぞれ琵琶語りをされる。ぼくも即興でご挨拶演奏をさせていただく。

 

片道2時間近い移動の帰り道も、ずっと琵琶の音源を聴きながら移動。後藤さんのお宅で夕ご飯もご馳走になり、肥後琵琶の世界を少しずつ教えていただく。インドネシアジョグジャカルタに住んだ時、カラウィタン(ジャワガムラン古典音楽)の奥深い世界を少しずつ体感していくプロセスを思い起こす。こうしたご縁に感謝。

 

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合唱の思考 柴田南雄論の試み

永原恵三『合唱の思考 柴田南雄論の試み』(春秋社)読了。宇土ブックオフに入った時、自分が読みたい本はないだろうと、ぼくは舐めていた。しかし、そこに、この本があり、郊外のブックオフに、柴田南雄に関する本がある熊本の文化度の高さに感激して購入。《追分節考》などのシアターピースで知られる作曲家のアプローチに、インドネシアのSutantoのことを思い出す。柴田南雄の音楽を通して、《千住の1010人》について色々考える機会をもらえた。

 

www.shunjusha.co.jp

 

空間的な音楽は、なかなか動画では体感しきれないけど、この曲の演奏動画も複数ネットに公開されている。よく考えると、この曲は団扇を指揮に使う作品である。ぼくが《帰ってきた千住の1010人》(2020)で、ファンファーレとして、ファとレが書いてある団扇を考えて、そのために巨大な団扇を準備した。その団扇は、《タリック・タンバン》(2023)の世界初演の時に使った。こんなところで柴田南雄と繋がれたのは嬉しい。

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