MAD BLOOM OF LIFE

  
打ち捨てられた聖地
ぽっかりとそこにあらわれている
  
そこにはぽっかりと虚空にむけて黒い穴が空き、
幾億千万の粒子と宇宙のロジックによるハーモニーが
饒舌に何かを発している
  
ほんとうに生きているものたち。
  
  
  

とある写真を見ながら

  
私がもっとも愛するのは
蝉の鳴く夏のある一日
部屋で本の世界を旅しながら
ねっとりと汗のついた指を見つめる
そんな瞬間であったことを
突如として思い出した。
  
冷めているけれど
その瞬間、
その感覚の目撃者であること。
その感覚すらもぽっかりと
手にとるような
  
  

ふりそそぐ

夜の闇にそびえたつ一本の樹
水がふりそそぐように
光を浴びている
  
葉から水泡が出て
昇っていくように見えるのは気のせいだろうか
  
包むように照らす青白い蛍光の灯りが
むしろあたたかく映ることもある
  
息をする、息を。
静かに漂う生々しさ。
  
その姿を見て、自らの息をとめかけていたことに
気がつく。
  
なにかを待ちながら。
  
  

黒への欲望

   
夜の船に揺られて、帰路につく。
   
この街はなんという街だろう。
さらに揺られて、吸い込まれるような光のない空間。
   
揺られるなかでぽっかりと浮かぶ黒の闇。
闇に囲まれてますます黒く。深く、口を空けている。
息づいている。
  
終わりのない空間が口を空けて待ちうけている。
黒く塗りつぶしたい欲望。
そのことの安らぎ。
  
その向こうにあるものを掴み取る。
  

真夜中のホームで

  
仲間たちと心地よい時間を過ごした後に。
緑深き森の横に立つ。
  
すうっと嗅いだ薫り。
冷んやりと世界の秘密をあばくような。
  
冷徹で、しかし明らかなる生命の薫り。
  
ここにも息づいている。
この都会でも、確かにある艶めかしさ、気配を、野蛮さを
知らしめている。
  
気をつけろ。
うっかりすると捕まえられる。
捕らえられたなら、戻ってはこれない。
  
それでも。
ホームという地点で、その薫りを嗅ぐという安らぎ。
  
  

明け方というには

  
明け方というにはあまりにも元気な鳥の声。
外を見れば、川が近いためか霧が濃い。
  
ここに住みあらためて感じるのは、風は夜中も変わらず吹き、
寝静まったあとも緑はざわめき、生き物たちは夜も蠢いている
ということだ。
  
果てしない夜に向きあうようなこわさもあるが、うすい布をへだてて
そんな世界が広がるへりに住んでいるというのも悪くない。

徒然に歩く

  
ひさしぶりに晴れ、暑いくらいの土曜日。
近所の文化伝承館を訪れたあと、散歩をしながら帰る。
  
このあたりは木々も多いが、道端や路地に咲く花も多い。
グラハム・ベルは散歩に出るたび、旅に出るたびに
ポケットに入れた花の種を撒いて歩いていたらしい。
ここに来てから、私もベルのようにいつもポケットに
花の種を忍ばせておこうか、などと思ったりする。
  

  

    

  

  

  

  
  
神社とお寺も多いこの町には、毎朝8時と宵は6時と8時、
川の向こうのお寺からの鐘の音が響きわたる。