深呼吸する言葉・263
冷たく
湿った
京都の
朝。
痴話喧嘩の
怒号を
路地裏に
響かせながら
サンダルで
追いかける
厄介な
女。
恥も
遠慮も
隅際に
追いやり
道の
真ん中で
男の
腕を
振り
舞わす。
水溜まりには
鈍重な
雲。
終わらない
悪夢
みたいな
……
どうしようもない
朝
だった。
深呼吸する言葉・262
「よございましょ」
昔お婆ちゃんが電話口で話している
その言葉が格好良くって
何度も何度も
「よございましょ」
って真似して呟いていたな
深呼吸する言葉・2 61
歯医者の後
そのまま帰りたくなくて
フラフラと浮遊した。
小さな駅に降り立つと
線路脇の荒れ地に
棒立ちの菜の花。
息子よ …
春が来ているよ。
って心の中で呟いた。
お前と別れた冬が
少しずつ終わろうとしている。
深呼吸する言葉・260
今の世の中
嘘みたいな商売があるんだよ。
時代が変わってね。
たったこんなことするだけで、
たった一晩のうちに、
お金がザクザクっていうような、ね。
深呼吸する言葉・2 5 9
最後まで、阿吽の呼吸だった。
ありがとうって言葉が
別れの言葉だってことも
きっとあの人はわかっている。
ありがとう。
ありがとう。
深呼吸する言葉・258
正午前、バスに乗った。
車内には、
高齢者。
お年寄り。
老人。
シニア。
ふと、車窓から外をみた。
信号を待つ人すべてが、
高齢者。
お年寄り。
老人。
シニア。
これが、
最新の日本の風景で御座います。
深呼吸する言葉・257
機械仕掛けのように正確で
硝子細工のように脆い
女の心身。
ここ数日の不可解な挙動も
月のリズムに従ったまでのこと。