ケータイにまつわる甘酸っぱ映画「全個世界都有電話(全世界どこでも電話)」

私が最初のケータイを持ち始めたのはかなり遅くて2001年。それがスマホになったのも遅くて2012年。歴代のケータイは何となく捨てられずに家に置いたまま。

おもしろいのは、「世界中電話はどこにでもある」というタイトルとは裏腹に電話を探しまわるシーンが半分くらい占めていること。昔の香港は市内通話がタダだったので気軽に店先の電話とか借りられたのに、今はすっかり様変わりしているようだ。

主人公の1人鍾哲が電話を探し回っているのは觀塘(クントン)。地図は香港映画のロケ地に詳しい「電影朝聖」さんが制作。

この辺りは工業地帯になっていて、倉庫や工場がビルの中にひしめき合っている。その中にあるレストランで高校の同級生3人鍾哲、レイモンド、アナが25年ぶりに会う。そこに登場する日本人シェフを演じているのが「狂舞派」を撮った黃修平(アダム・ウォン)。何故wしかも本人うれしそうw

黃修平以外にも最近の香港映画でお馴染みの俳優が多数ゲスト出演している。鍾哲のヨメが働いているカフェの同僚には阿正こと黃正宜が登場。

元々はラジオDJだが、お笑いのセンスを買われてViu TVのバラエティ番組にも出演。今年の叱咤樂壇頒獎典禮(叱咤音楽アワード)では司会を務め大好評だった。この短いシーンでもコメディエンヌっぷりをおおいに発揮していた。
登場人物それぞれのキャラクター設定が緻密。そしてみんな人間臭い。黃浩然(アモス・ウィー)監督はこういうリアルな日常を撮るのがほんとにうまい。

香港での一般公開は2023年8月。その年の台北電影節でも上映している。

夢が実現しない青春映画「填詞L(作詞家志望)」

広東語での作詞がテーマのこの映画は、翻訳難易度が最高レベル。翻訳した人に拍手。

監督は「金都(私のプリンス・エドワード)」の黃綺琳(ノリス・ウォン)。監督の自伝的映画だそうで、いくつかのエピソードは監督自身が経験したものだ。

主演の鍾雪瑩(ジョン・シュッイン)や、吴冰(サブリナ・ン)、鄧麗英(タン・ライイン)などの若手俳優がとてもフレッシュ。高齢化に歯止めがかからない香港芸能界の希望の星だ。

この映画は2000年以降の香港音楽界が背景になっているが、この頃はまさに広東語音楽の低迷期。1997年の香港返還以降、香港の歌手が広東語と北京語のCDを同時にリリースするのが普通になった。そして2003年の張國榮レスリー・チャン)と梅艷芳(アニタ・ムイ)の死。その後台湾の音楽やドラマが中国大陸で大ブームを起こす。そうこうしているうちにアジアでK-popが大流行。それに合わせて広東語音楽は中華圏でもマーケットの端の方に追いやられてしまった。それがそのまま今に続く。

そんな厳しい世界に、主人公は次々と果敢に挑戦する。そしてある日、その挑戦の過程こそが自分にとって貴重な体験だったのだと悟るのだ。

監督とプロデューサーが手出しで資金をかき集めたという話も泣ける。それでも去年の香港亞洲電影節や金馬影展でも上映され好評を得た。香港での一般公開は3月7日からだが、せめて赤字にならなければいいなあと思う。

上映後のQ&Aには監督とプロデューサー、兄役の潘宗孝(アーネスト・プン)が登壇した。実は原作の本があり、それも監督自身が執筆されたそう。

実物の監督はかなりおキレイ。

主演の鍾雪瑩は香港では作詞家としても有名で、実にこの役にぴったり。だとしたら彼女もあの数字方式で作詞をしているのだろうかw

香港と同時上映「盜月者(盗月者)」

香港では連日の舞台挨拶が功を奏して、既に2500万HKDの興行成績をおさめ大ヒット。映画の評判も概ね良く、まだまだ上映期間は伸びそう。マレーシア、イギリス、カナダ、アメリカ、オーストラリアの上映も決定。

私自身の感想も同じで予想以上に良かった。騙し合いのどんでん返しも、派手なアクションや銃撃戦も旧正月映画にぴったり。波多野裕介の音楽も映画をおおいに盛り上げている。そしてEdanの出番が多めだったのがうれしい。ヘタレ役の演技も良かった。

香港での撮影でメインとなる「萊寶行」はてっきりセットだと思ったら実在するお店だった。

これがこうなる。before&after

深水埗(サムスイポー)にある「廣生表行」は既に数年前に閉店されており、それをもとに作り替えた。まさに今回の撮影にうってつけの場所だ。

地下金庫や、下水道、マンホールから地面に出る部分は完全に作ったセット。

後ろに見えるのが下水道のセット。かなり大きい。

上映後のQ&Aには袁劍偉(ユエン・キムワイ)監督と、謎の日本人悪役を演じた田邊和也が登場した。

監督と通訳の息もぴったりで、ちゃんと話の最後にオチを用意して笑いを誘っていた。監督の人柄が滲み出たいいQ&Aだったと思う。

結局MIRRORの誰も来なかったのは残念だった。

今年の東京国際映画祭東京フィルメックスで「12怪盜」上映してくれないかなあ。

 

子供たちが戦う姿を映画で見せる「BIG」

いきなりアニメーションシーンから始まるのに度肝を抜かれ、その後でこのアニメーションの意味が分かる。

6組の家族が登場するが事情はそれぞれ。子供たちの病状も様々。それでもお互い助け合いながら子供が今一番したいことを実現しようと頑張る姿に胸を打たれる。

主演の子供たちがまず素晴らしい。上映後のQ&Aで魏徳聖ウェイ・ダーション)監督が答えていたが、主演の女の子はほぼ素人。でも監督が一目ぼれして口説き落としたそう。そして6人の母親役を演じる女優さんは実生活では子供がいない人ばかり。でも映画の中ではしっかりお母さんになっている。これまでの作品でも素人を多く起用してきたが、監督の人間を見抜く目はただものではない。

撮影中は厳しいという評判の魏徳聖監督だが、今回は子供が主演というのもあり、和気あいあいで楽しく撮影は進んだらしい。

闘病ものだが、間にアニメーショも挟んであり全体的にファンタジーとして仕上げてある。最後にバスを貸し切ってみんなで動物園に行くなんて本当ならあり得ないのだろうが、これは映画だから。エンターテインメント映画ととして成り立たせているところが魏徳聖監督のすごいところだと思う。

上映後のQ&Aでは監督と主演の菲菲(フェイフェイ)ちゃんが登場。

撮影当時9歳だった菲菲ちゃんも11歳になり髪もこれだけ伸びた。実物もとてもかわいい。

台湾では2023年12月1日から一般公開。海外では大阪アジアン映画祭が初上映。

微妙なお年頃の女の夢の先「莎莉(サリー)」

ロマンス詐欺だとかなりすましとか出会い系アプリのイメージはあまり良くないのに、それでもそれがきっかけで結婚するカップルも急増中。うまくマッチング出来れば、性格の不一致で離婚する率も低くなるらしい。

台中の田舎で養鶏場を営む林惠君は、両親を早くに亡くしたため、弟を女手一つで育て上げた。その弟も結婚が決まり、既に婚期を逃した惠君は居心地が悪い。上海に暮らす兄の娘が実家に戻ってきて惠君に出会い系アプリを紹介する。その気がない惠君だったが、あるフランス人とチャットのやり取りをするうちに恋心が芽生えるようになる。

そして周囲の反対を押し切り、単身フランスに乗り込む。

設定は世界中どこにでもありそうなお話で、肝心なのは話の落としどころだろう。監督は男性だが、微妙な年齢の女性の心理にどこまで迫れるかにかかっている。

だが男の頭の中でこねくり回した感は否めない。女としての自信をつけて田舎に帰るのだが、その後の彼女の人生を支えるほど長くは持たないと思う。一応ハッピーエンドだけど。

主演の劉品言(エスター・リウ)の変身ぶりは見もの。

これがこうなる。

まさに、おフランスマジック☆

いつもイケメンな役が多い林柏宏(リン・ボーホン)も

台中の市場にすっかり馴染んでいる。

男女ともに結婚していない人が多すぎて、昔よりは外圧は減っていると思うが親世代の頭の固さはなかなか変えられないかも。ここでも風水を信じる親戚のおばちゃんが惠君にやいのやいの言ってくる。まさに害悪でしかない。

自然の中で動物に囲まれて自給自足の生活なんてうらやましいと思う人の方が、多いと思うけどな。

衣裳も美術も音楽も最高「哀れなるものたち」

「ロブスター」「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」など変な映画ばかり撮るヨルゴス・ランティモス監督の最新作。

美術は豪華なスチームパンク調、衣装はちょうちん袖にミニスカート。音楽は何故か音程が外れている。そして広角レンズと魚眼レンズの多用で画面が歪みっぱなし。エンドロールは「女王陛下のお気に入り」の時より更に見にくくなっている。

どれもかわいい。

ブラックSFコメディで、胎児の脳を移植された女性が新たな生(性)を勝ち取る物語。ここで若くてきれいでまだ世の中のことが分かっていないというのがミソで、ほぼロイヤルストレートフラッシュなみの好条件である。尚且つ勉強してどんどん賢くなっていくのだから最強だ。

監督とエマ・ストーンマーク・ラファロ3人が映画のシーンを解説する動画があった。


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これによると船のシーンの背景はCGではなく、合成された背景を巨大なLED画面で映し出しているそう。今まではグリーンバックの前で俳優たちがCGチームの指示にそって演技をしていたわけだが、どちらが演技しやすいかといえば断然前者だろう。この方法は今後世界に広まりそう。

街並みや部屋もブタぺストに巨大なセットを建てて撮影している。このセットは全体も素晴らしいが細かい部分も手を抜いていない。ちょっとアールヌーヴォーでグロい。

床が布張り。こんなセット見たことない。

フォトブックとか出来たら是非欲しい。

人類に性欲がある限り「愛愛內含光(セックスを語るなら)」

Netflixで2月2日から配信開始。全8話。「セックスとは本来楽しいものである」という性善説に則ったドラマである。イギリスドラマ「セックス・エディケーション」ほど啓蒙色はないが、毎回最後に流れる動画でミニ知識が得られる。

最初っからがんがん飛ばしているが、撮影はデリケートでセックスシーンばかりなのに性的な部分の露出はまったくなく、男性のお尻さえ見えるか見えないかぐらい。スタッフの中に親密指導(インティマシーコーディネーター)がちゃんといるからだ。

主演は体を張った演技も厭わない強者ばかり。

主人公の邱曖(チウ・アイ)役を演じる詹子萱(ジャン・ズーシュエン)は大抜擢と言っていいだろう。最近では映画「罪後真相(罪の後)」で殺された恋人役を演じていたり、MVでの出演が多い。その新人女優の周りをがっちりベテランが取り囲んで、まるで日本の朝ドラのようだ。

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他の気になる出演者としては邱曖の親友CoCo役の李雪(エンジェル・リー)。

顔が陶紅や曾美慧孜と被っているが、「疫起(エピデミック)」「流麻溝十五號」などの話題作にも出演している。

家族それぞれが50代、40代、30代、20代の性の悩みを代表している形になっている。何歳になっても性の悩みは尽きないということだろう。本筋とあまり関係のない細かい設定も気になる。母親がTVでいつも見ているのがBLドラマだったりとかw
黃婕妤(レミー・ホアン)はMVで有名になった監督らしく、音楽のセンスもいい。

このドラマを観ていると、セックスに関する中国語も勉強できておもしろい。「打炮」とか「炮友」とかw

邱曖はセックスと愛情を切り離してセックスを楽しもうと試みるが、やはり相手に対して最低限の好意と思いやりがないと難しいだろう。だからと言ってセックスの相性が最高なら恋人や夫としても最高なのかというと、そうでもない。

それだけ奥が深いということだが、やり過ぎると飽きる。大事だけど、人生それだけじゃないのだ。