Muranaga's View

読書、美術鑑賞、ときにビジネスの日々

NHK BS テレビドラマ「舟を編む 〜私、辞書つくります〜」が秀逸。辞書を引きながら楽しんでいる

辞書を作ることに心血を注ぐ人たちを描いた三浦しをんの『舟を編む』。単行本だけでなく文庫本も持っていて、繰り返し読んでいる(文庫本には主人公・馬締光也が香具矢に宛てた恋文全文が掲載されているのだ)。

映画もよい出来だったと思うが、2月から放送されている NHK BS のテレビドラマ「舟を編む 〜私、辞書つくります〜」も素晴らしい。

www.nhk.jp

原作では第2部と言っていいだろう、後半戦の主人公、岸辺みどりが辞書編集者として成長するさまに焦点をあてたドラマである。「言葉」を大事にする原作の世界観をそのままに、辞書編集の仕事をさらにくわしく掘り下げ、また原作のエピソードを現代風にアレンジしている。

www.shochiku.co.jp

ドラマの中では、いろいろな言葉、その語釈が出てくる。たとえば「あきらめて、あきらめて、あきらめる。」は「明らめて、諦めて、明らめる。」つい手元にある辞書を引いてしまう。「物書堂の辞書アプリ」で、複数の国語辞書を横断で検索して、語釈を比較するのが楽しい。紙の「ぬめり感」にこだわっている(「こだわる」も本来はネガティブな意味だと『舟を編む』で知った)辞書編集者には、申し訳ないけれど、最近は紙の辞書を引いたり読んだりする機会は少なくなってしまった。

第3話で岸辺みどりは見出し語チェックのミスをしたように思う。「血潮・血汐」のチェックをせずに「千入」をチェックしていた。それはドラマ後半になって大事件になる伏線だろう。原作では見出し語から『ちしお【血潮・血汐】』が抜けていた問題である。映画では「他に抜けがないか」、すべての作業を中止して、泊まり込みで大々的にチェックする様が描かれていた。さてドラマではどうなるのか?楽しみである。

第4話では図版を検討している。「丑の刻参りの蠟燭は2本か3本か問題」「アルパカの首短過ぎる問題」などで取り上げられている図版は、三省堂の『大辞林』から引用されていることがわかった。

池田エライザの好演も光る。馬締光也演じる野田洋次郎は、長いセリフが大変だっただろう。

原作者である三浦しをんは、岩波書店小学館の辞書編集部へ取材をしており、また三省堂大辞林』の編集に携わった倉島節尚『辞書と日本語 国語辞典を解剖する』を参考文献に挙げている。

また原作が出版された後に、『三省堂国語辞典』(通称『三国』)の編集者である飯間浩明『辞書を編む』『三省堂国語辞典のひみつ』などが刊行されている。ドラマはこれらの本も参考にしているかもしれない。

辞書を引き引きドラマを楽しんでいるが、いくつかの辞書は、その最新版を購入していないことに気づいた。どうせなら 4月まで少し待とう。物書堂辞書アプリのストアは、毎年恒例「新学期・新生活応援セール」を開催してくれるからだ。

最後にここで紹介した『舟を編む』や『辞書を編む』の、当時の読書メモを掲載しておく:

新解さん」など個性的な辞書を読むのは楽しい。三浦しをんが辞書編集を題材に小説を書いたとあらば、もう読むしかない。期待通り、いや期待以上に面白かった。電車の中で思わず笑ってしまいそうになるのをこらえた。辞書編集者の言葉へのこだわり。言葉の力を改めて謳う(2011年10月7日)。

本屋大賞」を受賞したこともあって、2012年4月再読。著者の言葉へのこだわりがひしひしと伝わり、思わず辞書で確認したくなる言葉に溢れている。辞書編さんを通じてのさまざまな人間模様をめぐりながら言語化の力を改めて感じさせる。(2012年4月)

映画を観たのをきっかけに3度目の読み直し。大筋で原作を踏襲しつつも、原作を損なわない形で独自の世界を作り上げた映画もよかったと思う。(2014年1月)

岸辺みどりの辞書編集者としての成長に焦点をあてたNHK BSドラマをきっかけに読み直し。「言葉」を大事にする原作の世界観をそのままに、辞書編集の仕事をさらにくわしく掘り下げ、現代風にアレンジしており、好感の持てるドラマである。(2024年3月)
辞書編纂を描く好きな小説。単行本で読了済だが、真面目で不器用な主人公、馬締の恋文全文掲載とあらば、文庫版も買わざるを得ない。確かに香具矢さんが「ラブレターか自信が持てなかった」というだけのことはある。
辞書の編集者を描いた三浦しをんの小説『舟を編む』のリアルバージョン。『三省堂国語辞典』(三国)の編纂者の一人が辞書作りの現場を生き生きと紹介する。街中、雑誌などからの用例集め、そこから身を切るような取捨選択をして辞書に載せる言葉を選ぶ。そしてその一つ一つに真心を込めて語釈を書いていく。また現版の語釈も丁寧に見直していく。言葉に対する愛情がひしひしと伝わってくる。

生涯で145万もの用例を集めた見坊豪紀(けんぼうひでとし)が生み出した『三国』の編集方針は大きく二つ、ここ40-50年日本で広く使われている実例に基づいて項目を選び(実例主義)、中学生でもわかる説明を心がけている。この本で紹介されている第7版は2013年末に出版される予定。
三省堂国語辞典』通称『三国』の編纂者による『三国』の紹介・解説。現代日本語に気を配り、わかりやすい語釈をめざしている。同じ著者による『辞書を編む』が用例採集や語釈を書く辞書編纂の現場を描いたのに対し、この本は『三国』と言う辞書そのものを紹介する。

現代の日本で使われている言葉を選び、『三国』の語釈・例文の中ではどのように説明されているか。その理由・背景を丁寧に解説する。たとえば「的を得る」「全然大丈夫」などをあえて誤用と決めつけないなど、変わりゆく日本語に対して、ある意味、寛容な編纂方針である。若者の言葉「やばい」はもちろんのこと、インターネットでの笑いを示す "w" や「中の人」、「ふつうに」など、新しい言葉・語用も積極的に取り入れている。辞書編纂者による言葉についてのエッセイと言ってもよい本である。

この本に出てくる語例を、『新明解国語辞典』(通称:新解さん)や『大辞林』などで引いてみて比較すると、辞書の違いがわかって興味深い。

辞書編纂者である著者は、語釈を書くためにさまざまなことに実地にトライしている。最近のライターの仕組みを理解するために分解してみたり、「フラグが立つ」の本来の意味を知るためにプログラミングの勉強をしたり。『三国』をますます「読んで」みたくなる。

東芝の研究開発新棟「イノベーション・パレット」を見学する

東芝の研究開発新棟「イノベーション・パレット」を見学させてもらった。PR 動画制作チームに同伴させてもらって行ったので、素晴らしいオフィス環境だけでなく、ライブ実験場としての研究内容、そしてバックヤードの設備も案内していただいた。

www.toshiba-clip.com

イノベーション・パレット」パンフレット

イノベーション・パレット」パンフレット

研究所のシニアマネジャーになっている後輩たちが、わざわざ案内してくださったので、ちょっと恐縮。おかげで美味しいカフェテリアでランチをしながら、久しぶりに懐かしく話をすることができた。

僕は 1984年に東芝に入社(東京芝浦電気から東芝に改名し、浜松町に本社ビルができた時)、研究開発センターに配属され、2000年まで所属した。その後はビジネスの方に転じたが、僕自身にとっては社会人生活のスタート地点であり、原点である

サーバ・ネットワークルームを見学し、今も変わらず技術者たちが研究開発のための計算機・ネットワーク環境を作っているのを見て、当時は僕たちもイーサネット・ケーブルに自ら穴を開けて、「弁当箱」と呼んでいたアダプターを設置していたのを思い出した。

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旧館は 1961年に建てられているから、ちょうど僕と同い年ということになる。高層の新棟から見下ろすと、その旧館の解体が始まっている。ここに研究室があった時の冬は寒く、膝掛けをしながらプログラミングをしていたことを思い出す。

僕がいた頃と比べると、新棟は実に快適な研究開発環境であり、素敵な共創空間になっている。案内してくれた後輩をはじめ、完成にいたるまでの関係者たちのご苦労が偲ばれる。きっとさまざまな交渉・折衝があったことだろう。

「イノベーション・パレット」という名前の通り、「色とりどりの個性や専門性を重ね合わせて」新たな成果が生まれること、新たな未来を創造していくことを期待している。

Azure OpenAI Service:大規模言語モデルと連携するシステム構築を学ぶ

生成 AI は一般的な知識を学習した大規模言語モデル(LLM)で作られている。

それを実ビジネスに活用するには、企業内に固有な知識・文書を反映させる必要がある。それには事後学習(ファインチューニング)を行って、LLM 自体を強化するやり方もあるが、AI 技術者が多大な計算機資源を行って、学習・検証を行わなければならない。実際に学習データが用意できるかという問題もある。

したがって、より現実的なアプローチは、RAG(Retrieval-Augmented Generation)である。

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Azure OpenAI Service ベースで、RAG / グラウンディングを使った社内情報検索のできる Chat システムを作るためには、以下の2冊の本が参考になる。いずれも Azure OpenAI Service の入門書である。

  • 『Azure OpenAI ServiceではじめるChatGPT/LLMシステム構築入門』
  • 『Azure OpenAI Service実践ガイド ~ LLMを組み込んだシステム構築』

どちらも同じ読者層を狙った良書だと思うが、あえて特徴づけるとするならば、RAG を使ったシステム構築に詳しいのは前者、Azure OpenAI Service に対する全般的な理解をハンズオンで深めることができるのが後者、ということになるだろうか?

残念ながら Azure OpenAI Service を使える環境にないので、コードを動かさず読んだだけの感想になるが、ざっくりまとめると以下のようになる。

  • 『Azure OpenAI ServiceではじめるChatGPT/LLMシステム構築入門』

Azure OpenAI Service 入門書。RAG による社内情報検索と組み合わせた Chat システムの構築を事例として、LLM と組み合わせたシステム構築の概要が掴める。

特に RAG を使ったシステム構築に詳しい。on your data により、ノーコード・ローコードで Chat を作るところから始まり、プロンプト・フロー、AIオーケストレーションといったより高度なやりかたへ進む。

Copilot Stack という全体アーキテクチャ、およびそれを構成するAIオーケストレーションとして、ReAct(Reasoning & Acting)、グラウンディング/RAG、Function Calling、プラグイン、LangChain / Semantik Kernel と一通り説明されている。

基盤モデルとしてオープンソース系のものを使い、それをさらにファインチューニングすること、たとえば知識蒸留、枝刈りなどによるモデルの圧縮が説明されている

責任あるAIとしてのコンテンツフィルタリングにも言及している。

付録B の LLM 技術解説が、自然言語処理の歴史・Transformer の動き、RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)などコンパクトにまとまっていて、秀逸。

  • 『Azure OpenAI Service実践ガイド ~ LLMを組み込んだシステム構築』

Azure OpenAI Service 入門書。社内システムやデータベースを参照して、LLM と連携するシステム構築の概要が掴める。

生成AI入門、プロンプトエンジニアリングから始まり、Azure OpenAI Service をハンズオンで説明する。Web 上にサンプルコードがあるので、それを動かしながら理解を深めることが可能。

Copilot Stack の全体像、そしてそれを構成する各要素、AI Serach、グラウンディング/RAG、On your data、LangChain、Semantic Kernel、Function Calling、プロンプトフロー、プラグイン開発、ファインチューニング、AI Content Safety と一通り、その機能と実践を解説する。

索引がないのが残念。

RAG は、もともとある社内情報検索・文書検索の性能に依存することが多い。また文書をそのままの形式でデータベース化しても、よい答えが返ってこない可能性もある。Grounding のやり方として、ユーザが聞くと予想される質問・応答形式に直してからデータベースにするなど、さまざまな工夫が考えられる。

さらに AI オーケストレーションフレームワーク、LangChain について詳しく知りたいなら、以下の本が参考になる:

大規模言語モデルを構築したり、ファインチューニングしたりするには、本格的に AI・LLM の作り方を学ぶ必要がある。そのレベルの技術者は、HuggingFace にあるさまざまなオープンソース系の Transformer モデルをいじることが、最初の入口になるだろう:

社内の知識レベルを合わせるべく、『生成 AI 導入の教科書』を読む

デジタルマーケティングのための Web サイト構築、映像制作を生業とする会社にいるので、生成 AI の活用は必須マターである。

muranaga.hatenablog.com

昨年(2023年)末、僕が目を通した以下の本を候補に、読書会・勉強会を企画した。

  1. 保科学世(アクセンチュア)『生成AI時代の超仕事術大全』
    • 生成AIの仕事への活用、そのために必要なスキル、生成AIによる業界変化の未来を描く。包括的。ボリューム大(コンサルっぽい)
  2. 小沢健祐(オザケン)『生成AI 導入の教科書』
    • 生成AIを実際に導入する際の戦略・実践のポイントを描く。バランスよい構成。簡潔で実践的(現場のプロジェクトリーダーならでは)。生成AIの現状とビジネスの変革、プロンプトエンジニアリング術、導入済企業へのインタビューなど。
  3. 有園雄一『マイクロソフト Copilot の衝撃 生成AI時代のマーケティング
  4. 小林雅一『生成AI 「ChatGPT」を支える技術はどのようにビジネスを変え、人間の創造性を揺るがすのか』
    • 生成AIの技術と可能性について骨太に描く。より深く生成AIの歴史・技術を理解したいビジネスパーソン向け。
  5. 馬渕邦美『ジェネレーティブAIの衝撃』
    • 項目の概説を羅列してある印象。パナソニックコネクトなどへのインタビューに特徴。
  6. 池田朋弘『事例で学ぶ ChatGPT 最強の仕事術』
    • 文書作成・調査・企画立案・IT・営業マーケティング・外国語など状況別に有用なプロンプトの与え方を紹介。

知識レベルを合わせるという目的においては、1と2がよさそう。特に 2がコンサイスによくまとまっており、読書会向け。3はマーケティング限定、すぐに読める。4はいい本だが副読本という位置づけ。より深く理解したい人向け。5は参考程度。6 は実践的。読書会の後の実践編で活用できそう。

そう考え、2. 小沢健祐(オザケン)『生成AI 導入の教科書』の内容を Powerpoint にまとめて、読書会を実施した。より深く知りたい人は 4. を読んでもらい、すぐに実践してもらう人には 6. が参考になる。

以下は、資料を箇条書きに変換したもの。これも生成 AI を利用して行い、手で修正を入れた。

小澤健祐『生成 AI 導入の教科書』
  • 著者:AI 専門メディア(https://ainow.ai/)編集長、ディップ(株)でAI活用Pj推進
  • Chapter 1 AI は「作る時代」から「使う時代」へ ━ 生成AIとは
  • Chapter 2 「今までの DX は絆創膏」 ━ つぎはぎの DX と生成AI
  • Chapter 3 生成 AI によるビジネスモデルの変革
  • Chapter 4 生成 AI を社内で活用するために理解しておくべきこと
  • Chapter 5 「業務理解が第一歩」生成 AI の導入ステップ
  • Chapter 6 生成 AI の既存システムとの連携パターン
  • Chapter 7 生成 AI を活用するプロンプトエンジニアリング術
  • Chapter 8 これからの生成 AI をめぐる動向
  • Chapter 9 企業における AI 導入のベストプラクティス

各章の終わりに、ポイントがまとめてある

Chapter 1 AI は「作る時代」から「使う時代」へ ━ 生成AIとは
  • ChatGPT をはじめとする生成 AI の可能性
    • チャットというシンプルな会話形式で高度な AI をエンドユーザに提供
  • リスク・課題
    • ハルシネーション、バイアス、プライバシー、透明性・説明可能性、法規制、知的財産権
  • 大規模言語モデル(LLM=Large Language Model)
    • 自然言語の大規模な機械学習モデル:文の生成・要約・質疑応答・翻訳など
    • Transformer (GPT=Generative Pre-trained Transformer)
    • GPT-3: 1,750億 パラメタ *GPT-4: 1,100億パラメタ x 16モジュール = 1.8兆パラメタ
    • スケーリング則:パラメタ数・学習量 → モデルの性能向上
  • AIを「作る」ことの大変さ
    • 企画、データ収集、前処理、モデル選択・構築、PoC、実装、保守
  • AIを「使う」時代
    • 大規模な汎用モデル + 個別チューニング
    • 生成 AI でも「解決する課題は何か」が重要

*補足

  • Transformer の自己注意機構 … ある単語と他の単語との関係性を計算、文脈の中での単語の意味付けをベクトル化
  • Pre-trained (学習)… 文章の穴埋め問題を大量に解かせることで、予測能力を学習
  • Udemy 講座

udemy.benesse.co.jp

Chapter 2 「今までのDXは絆創膏」 ━ つぎはぎの DX と生成AI
  • 汎用AI ⇔ 特化型AI、 従来のAI(識別AI、分析AI)そして 生成AI
  • LLM による生成 AI= (汎用性の高い)自然言語処理に特化した AI
    • 言語:認知(思考) & コミュニケーション の根本 → それが AI で扱えるようになった
    • 自然言語理解・生成文章の品質、多様なアプリケーション、プログラミング応用
  • DX:データとデジタル技術で企業変革して、競争優位を生み出す
    • デジタイゼーション:非構造化データを構造化
    • デジタライゼーション:構造化データから新たな知識や洞察を得る
  • 絆創膏だった DX(局所最適)
    • 技術中心、ツール目的、現場感、組織文化、専門スキル不足
  • 根本治療の DX(全体最適、会社の基盤)
  • 生成AI が「ハブ」、各ツールと連携
    • 統合I/F、データ連携、自動化・最適化
Chapter 3 生成 AI によるビジネスモデルの変革
  • 生成 AI は1次情報を分析してまとめるのが得意
    • 2次情報を扱う人間の役割・重要性が変わる
    • (例)SNS、Web上コミュニケーション(chat)の自動化
    • (例)パーソナライズ(メッセージ、キュレーション)
  • 1次情報の収集力、2次情報生成の AI マネジメント力が鍵
  • 1次情報を持つ企業 と 生成 AI プラットフォーマー との連携
  • LLM をハブとした生成AI・各種アプリケーション連携
  • 業界特化の「バーティカルモデル」に生成 AI は期待される
Chapter 4 生成 AI を社内で活用するために理解しておくべきこと
  • 優先するのは現場の経験(Employee Experience)
    • LLM による生成 AI= あらゆる業務に対応する学習能力を持つ
    • 現場の課題、そして解決策を AI に提供する必要がある → 現場の担当者も AI 活用の場に参加し、ともに考え、動く
  • 汎用 AI(全体最適
    • ChatGPT で「要約」「報告書作成」「メール返信」などの業務効率化
  • 特化型 AI(部分最適
    • ChatGPT に複雑な現場のルール・業務フローをプロンプトで伝えるのは難しい
    • 既存システムと AI との連携が必要
    • データをセキュアに扱わなければならない → API によるシステムの連携、大量のプロンプトを与えなくても生成 AI に情報を渡せる
  • 「社内政治」で部署間の連携・協力体制確立が必須
Chapter 5 「業務理解が第一歩」生成 AI の導入ステップ
  1. 「生成AIを使う」プロジェクトの組成:
    • ドメイン知識を持つエキスパート:プロンプトの質を担保する
    • 現場を巻き込むプロジェクトマネジャー
    • 集中型 よりも ハブ&スポーク型:現場でのプロンプトエンジニアリング、緊密な連携が必要
  2. 現場のヒアリング
    • 負荷の高い業務は何か、優先度の高い課題の特定、それを解決するプロンプトの準備
    • インタビュー、ワークショップ、プロセスマッピング(可視化)、データ分析、プロジェクトへのフィードバック
  3. 生成 AI を中心にしたシステム全体像の設計:API による自社ツール・データ連携が重要
    • どのサービスで生成AIを活用するか … Copilot、プラグインAPIの活用
    • サービス同士の連携をどうするか … 既存ツール・データベースとの連携
    • 各部署のシステム構築の必要性:特化型AIによる効率化 … 特定の部署・業務
    • システムの目的と範囲:どのような機能?どのような価値?
    • ユーザインタフェース
    • 応答生成ロジック … 文脈を考慮して生成AIの応答を調整
    • モデルの統合と実装 … API によるシステム統合、性能・応答時間を考慮した最適化
    • ユーザフィードバック収集とシステムの改善
    • セキュリティとプライバシー
  4. 生成 AI の導入環境の構築
    • 最も重要なのは、生成 AI を活用するスキルの教育
      • プロンプトエンジニアリングの基本原則やベストプラクティスを教える
      • プロジェクトベースの学習
      • プロンプト・ライブラリ:テンプレートや例文をまとめたもの
      • ノウハウの共有とフィードバック
      • 実戦的なデモとワークショップ
      • 外部エキスパート、トレーナーの招へいドメイン知識を持つエキスパート:プロンプトの質を担保する
    • ソフトスキルの強化 … 人間と同様、AI とコラボする
    • データプライバシーと倫理的な使用
      • 生成 AI に提供するデータの匿名化
      • 学習データのバイアスを評価
      • 著作権への理解
  5. 特定部署でのテストの実施
Chapter 6 生成 AI の既存システムとの連携パターン
  • パターン1:独自に LLM を開発
  • パターン2:生成 AI 開発企業のサービスを活用
    • ChatGPT、MS Copilot を活用 … 高度なプロンプトエンジニアリングが必要
    • メリット … 専門知識・技術の低減、時間とコスト節約、最新技術、スケーラビリティ
    • デメリット … カスタマイズの制限、長期コスト、依存性、プライバシーとセキュリティ、透明性
  • パターン3:API 経由で生成 AI を利用する
    • ソフト開発技術者が必要、だがシステム統合・連携が可能
    • メリット/デメリット … パターン2と共通
  • パターン4:生成 AI が組み込まれたサービス活用
    • 例:企業向けのプロンプト共有サービス、各種プラグイン
  • パターン5:ノーコード・ローコードでアプリケーションを作成する (2023/12月情報)
    • 例:GPTs、Copilot Studio
    • 自然言語で Chat アプリを作成する:ソフト開発技術者不要
Chapter 7 生成 AI を活用するプロンプトエンジニアリング術
  • プロンプトエンジニアリング … LLM に入力する命令文の開発・最適化
    • 指示(具体的なタスク)、背景、入力データ、データの出力形式
  • プロンプトエンジニアリングのテクニック
    • Zero-shot
    • Few-shot:事例やデモを提供して、それを応答の条件付けとする
    • Chain-of-Thought (CoT):連鎖的な思考をさせる
    • Zero-shot CoT:「ステップバイステップで答えて」
    • Self-Consistency:Few-shot と CoT の組み合わせ
    • 知識生成プロンプティング:生成AI の知識と人間の知識のズレを調整
      • プロンプトに事実や定義を含める
      • プロンプトに関連するキーワードを含める
      • プロンプトに文脈や背景情報を含める
  • 生成 AI の文章生成の型
    • 0→1:文章生成
    • 1→10:文章拡張
    • 10→1:要約
    • 1→1:文章変換:翻訳、文章修正
  • 生成 AI の活用術
    • 具体的なキーワードを使う … 曖昧性・比喩・慣用表現は AI は苦手⇔プログラミングは得意
    • 項目に分けて指示する … # でマークアップ
    • ステップを明示してあげる
  • 生成 AI で重要性が増すソフトスキル
    • 「仕組み化力」 → 業務を作業に分解 → 人に任せる作業、AIにやらせる作業、自分がやる作業
    • 生成 AI をマネジメントする能力
Chapter 8 これからの生成 AI をめぐる動向
  • マルチモーダル化
  • Code Interpreter自然言語から Python を実行、ファイルベース
  • GPTs、Copilot Studio:自然言語で独自の Chat アプリを作成
  • さまざまなサービスと生成 AI が連携
  • AI アラインメント
    • AI の行動や意思決定が人間の価値観や目的と一致するように調整する
  • HAI(Human-AI Interacition)
    • 人間の心理・社会側面・倫理・法律などの視点を取り入れ、AI をより人間にとって使いやすく
Chapter 9 企業における AI 導入のベストプラクティス
  • Microsoft
    • Azure Open AI Services
    • 日本企業と欧米との違い
    • 小さな AI モデル
  • 日清食品
    • Nissin AI-chat powered by GPT-4 を1ケ月で公開
  • ベネッセ:AI チャット
    • 次世代コンタクトセンター、自由研究お助けAI
    • 次世代Webサイトプロジェクト with メンバーズ、ビービット
    • Webサイト制作・運用における生成AI活用
    • 体験を作る、誰の何のためのものか、差別化(自社独自)、プロンプト、入出力調整
  • ディップ
    • 社員全員の作るプロンプトを有識者が審査、200種類以上のプロンプトデータベース
  • SHIFT AI
    • 日本企業の遅れ:成功事例・ノウハウの共有が少ない
    • 広告クリエイティブの品質判断、コピーライティング、デザイン制作
    • カスタマーサポート、内部業務の効率化
  • ABEJA:130億の LLM
    • プロンプトによるチューニングには限界
    • 形式知は対応できるが、暗黙知・アナログ情報を学習できない
  • STORIA 法律事務所
  • 生成AI活用普及協会:AIの社会実装
Appendix 参考資料

「印象派 モネからアメリカへ」展(東京都美術館)

東京都美術館で開催されている「印象派 モネからアメリカへ」展は、マサチューセッツ州第2の都市ウスターにある美術館所蔵の展覧会である。

worcester2024.jp

Web サイトから概要を引用する:

第1回印象派展から150周年を迎える2024年、印象派がヨーロッパやアメリカへもたらした衝撃と影響をたどる展覧会を開催します。 19世紀後半、大都市パリには国外からも多くの画家が集いました。パリで印象派に触れ、学んだ画家たちは、新しい絵画の表現手法を自国へ持ち帰ります。 本展は、西洋美術の伝統を覆した印象派の革新性とその広がり、とりわけアメリカ各地で展開した印象派の諸相に注目します。

 アメリカ・ボストン近郊に位置するウスター美術館は、1898年の開館当初から印象派の作品を積極的に収集してきました。このたび、ほとんどが初来日となる同館の印象派コレクションを中心に、日本でもよく知られるモネ、ルノワールなどフランスの印象派にくわえ、ドイツや北欧の作家、国際的に活動したサージェント、さらにはアメリカの印象派を代表するハッサムらの作品が一堂に会します。これまで日本で紹介される機会の少なかった、知られざるアメリ印象派の魅力に触れていただく貴重な機会となります。

1898年の設立当時に集めた同時代のフランスの印象派の作品をはじめ、フランスから帰国したアメリカ人の印象派の画家たちの絵が並ぶ。後者は正直、初めて知る画家たちばかりである。

展覧会の入口の看板は、ハッサム《花摘み、フランス式庭園にて》という作品である。チャイルド・ハッサムは、ボストンからパリに留学、その間にバルビソン派や印象派など、さまざまな近代フランス絵画を目にして、それを応用した。

アメリカの印象派たちは、母国の風景や都市を題材に選ぶようになった。

ハッサム《コロンバス大通り、雨の日》1885年

ハッサムは、ボストンで当時開発されたばかりだったサウスエンド地区のコロンバス大通り沿いの部屋に居を構え、その往来を題材にした。

グリーンウッド《リンゴ園》1903年

ウスター出身のグリーンウッドも、印象派の様式をマサチューセッツの風景に適用させた。

グリーンウッド《雪どけ》1918年

グリーンウッドは、寒色系の影と暖色系の色彩を並べることで、凍える風景の中での太陽の暖かさを伝えている。

HARBS のさまざまなケーキを堪能した

サントリー美術館出光美術館を巡る一日。

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昼食はいつものようにミッドタウンの HARBS のランチサービスを楽しむ。パスタとサラダに、ハーフサイズのケーキと飲み物がつくセットである。

HARBS のケーキの中では、ミルクレープの大ファンなのだが、ランチサービスで選べる時とそうでない時がある。この日はミルクレープは選べず、ホワイトチョコレートケーキとアイリッシュチーズケーキを頼んだ。

一方、入口のショーウィンドウに並んでいた、チョコレートカスタードケーキも美味しそうで気になる。店員に聞くと、残り数が少ないらしい。そこでこのチョコレートカスタードケーキとミルクレープを買って、家で食べることにした。

あまり美味しそうに撮れてはいないけど…。至福。

「生誕300年記念 池大雅ー陽光の山水」展(出光美術館)

サントリー美術館のあとは、いつものように HARBS でランチ。その後、出光美術館に向かう。出光美術館では「生誕300年記念 池大雅ー陽光の山水」展が開催されている。

展示概要を Webサイト・チラシから引用する:

伊藤若冲円山応挙ら、日本美術を変革する個性的な画家たちが輩出され、百花繚乱の様相を呈した江戸時代中期の京都画壇。その中でもひときわ多くの人々に愛された画家に、池大雅(いけのたいが)(1723 - 76)がいます。幼い頃から神童としてその名を知られた大雅は、当時中国より新たに紹介された文人文化に深い憧れを抱き、かの地の絵画を典範とした作品を数多く描きました。一方で自然の光の中で描くことで培った抜群の色彩感覚と大らかな筆致、そして彼がこよなく愛した旅で得た経験によって、本場中国とは異なる、日本人の感性に合致した独自の文人画を創り上げたのです。

本展では、大雅が描いた作品の中から、山水画を中心とする代表作をピックアップして展示いたします。特に大雅が憧れた瀟湘八景、西湖といった中国の名勝と、自身がその足で訪れた日本の名所とを比較しながら、そのたぐいまれなる画業の変遷を追います。

晴れた日には戸外の白砂の上に屏風をひろげて絵筆をふるったという大雅の逸話の通り、その作品の前に立つと、きらめきに満ちた光や爽快な空気に包まれ、遠い中国の地でありながら、その風光の中に立っているかのような錯覚すら感じさせてくれます。厳選された名品を通して、「陽光の山水」と呼ぶにふさわしい大雅芸術の真骨頂を、心ゆくまでお楽しみください。

中国の山水画南宋画を見本としつつも、その画風は柔らかさを感じさせる。瀟湘八景(しょうしょうはっけい)という中国の名所を想像で描いた絵もあるが、日本の名所や四季といったモチーフを、時にほのぼのとさせてくれる人物を登場させて描いている。「陽光の中で描くことで磨かれた色彩感覚と筆致」とは、のちのフランスの印象派の考え方に通じるものがあるように感じた。