本当の事が何かというのは意外とつかみにくいのかもしれません

「全部ドッキリでした。」
僕が突然そう言われたのは夏休みの終わりのことでした。
「おつかれさまでした。」
という声とともに周りの人たちは解散していきます。いったい何がドッキリだったのだろう。
混乱した僕はとりあえず家に帰りました。しかし、家には入れず、両親には勝手に家に入るなと言われました。途方に暮れて歩いていると、友達とすれ違いました。僕は声をかけましたが知らんぷりされました。悲しくなってきた僕は彼女に電話してみました。
「もしもし」
「もしもし」
「なんかみんながおかしいんだ。」
「どうおかしいの?」
「どうって言われても・・・」
「それはきっと全部ドッキリだったからよ。」
「え?」
「その人たちはあなたの家族という設定だったり友達という設定だったり、あと彼女っていう設定だったりしただけ。」
「どういうこと・・・?」
「あなたの今までの人生全部ドッキリだったの」
そこで彼女は電話を切りました。そうか、ドッキリだったのか、なにもかもただの演出だったのか。そう思うと自然と涙が流れるのでした。
「さて、どうしよう」
どうしようにも僕には行くあてがありませんでした。僕はしかたなくとぼとぼと歩き始めました。

「あ、やっぱりここか」
僕が考えたり悩む時はいつも無意識にここにたどりつくのでした。
この季節だけは高い木々のさらに上から陽が射すのです。僕はそこで少し眠りました。
目が覚めた時、まだ陽は高いところにありました。
「あんまり眠らなかったのかな」
その時僕は不思議と少し清々しい気持ちでした。まっさらな自分。人はなかなか強い生き物です。僕はきっとどうにか生きていくのだろうと思います。考えてみたら与えられてばかりの人生だったかもしれません。それは演出でもしかたない。この日だまりからまた歩いて行こう。この場所だけは自分で見つけた場所なのだから。
そう決意を新たにしたところに誰か見覚えのある影が近づいてきます。その人は僕にこう言いました。
「大成功!」

物理の部屋

「ああ・・・私はなんというものを発明してしまったんだ・・・」
私は分岐した時空とコンタクトをとれる機械を発明してしまいました。まだ実験はしていませんが理論上間違いなく使える一品です。しかも相手側の出力入力する媒体を選ばないすぐれものです。
「何言ってるんですか。すごい発明ですよこれは。」
彼は僕の助手です。
「きみはぜんぜんわかってないよ!」
「わかってますよ。他の時空から技術を受け入れたり与えたりすることができます。」
「善い使い方をすればね!こういう機械は善い使い方より悪い使い方のほうが多いものなんだよ・・・」
「それはそうですが・・・まさか発表しない気ですか?」
「できないよ!どういうことかわかってないでしょ?まだ時空同士のコンタクトが行われたことが無いのはわかるよね?」
「どうしてそんなことがわかるんですか?」
「・・・あのね、今までどの時空からもコンタクトを受けたことないでしょ?」
「はい。」
「ということはこんな発明が全時空で初ってことになるわけ!」
「あ、なるほど。わかりました。しかしそれならなおさらすごい。」
「うん・・・」
「未だ進化の途中にある時空とコンタクトをとれば動物の進化の過程の謎が解けたり歴史の出来事の謎の部分を解明できるかもしれないわけですね。」
「急に回転速くなったね。うん、でもたしかに理論的にはそうなる。ただその時空が私たちと同じように進むかわからないんだよ。ただでさえどこかで分岐した世界だからね。それにまずそんな時空を見つけられるかがわからないんだよ。無限に分岐しているわけだからね。」
「たしかにそうですね。」
「それに他の時空の歴史に干渉することが必ずしも良いとは限らないと思うんだ。」
「たしかに、最初は全時空がその時の最高の水準まで上がったとしてもその後はお互い他人まかせになって高めあう競争は減衰しそうです。それにどうせ高い技術をもった時空は今でも分岐しているわけだからこのまま各時空の多様性を守るほうがいいのかもしれません。」
「そう、僕が言いたかったのはそういうこと。」
「しかし何もせずに捨てるのももったいないので1度実験して見ませんか?」
「きみ・・・それが他の時空にとって『観測』に相当したらどうするの?」
「そうでした。すみません。」
「うん。壊すよ。」
「はい。」
ガシャン
「これでよかったんだ。」
「はい。」

その時電話がなりました。
私は嫌な予感がしました。
「こちらそちらの近似値の博士です。聞こえますか?」

午睡

うつらうつら
こんな状態でいるくらいなら眠ったほうがマシです。おきているほうが様々な人に申し訳がないのです。
彼が私に近づいてきます。彼の躯はいつも不思議とひんやりとしていて気持ちがいいのでした。結局今日も私は彼の上で眠ってしまうのでしょうか。これは悪い習慣です。そんなことを考えながら私はそのまま

しばらく眠ったらすこし頭が冴えてきました。しかしなにかをするほどの気力はありません。私は彼の脚に自分の脚をすりよせたりからめたりしてあそびました。彼と私の動きにあわせて軋むような音がきこえます。彼の躯はすこし温かくなっていました。
私は夕方には彼と別れ帰路につきます。

今日も私は彼と一日を過ごします。今日は天気がいいので窓を開けてみましょう。心地良い風が部屋に入ります。高い陽はより良いルームメイクをしてくれています。最初こんなふうにすごすことに恥じらいや戸惑いを感じていた私も重なるたびに身をまかせることに慣れていきました。窓の開閉など取るに足らないことです。
今日は昨日より少しだけ彼と長い時間をともにすることができるのでした。少し疲れた私はそのまま目を閉じました。
それでも私は夜になる前には帰路につきます。

今日は彼に会わない日です。そんな日私は決して彼のことを考えたりはしません。彼は時々どこかにいっていたりはしますがすぐに私のもとに戻ってきてくれるのです。だから会わない日に彼のことをわざわざ考える必要などありません。

今日はアルバイトです。行ってきます。

二日ぶりに彼に会います。やはり彼はいつものように私を受け入れました。アルバイトの疲れが残っていた私は朝から彼の上で眠りました。私が朝から眠ってしまうのは珍しいことでしたが彼は表情ひとつ変えませんでした。彼は寡黙です。
起きた私は彼との重なりの余韻をすこしだけ味わったあと少しだけ彼と距離をおいて残りの一日を過ごしました。距離をおくと言っても手をのばせばとどく距離です。普段は午後彼の上で眠ってしまう私には少しだけ世界は新鮮でした。

しかし翌日の午後には私はまた彼にべったりとくっつき眠ってしまうのでした。昨日感じた新鮮さなど今日になればたいしたことではなくなってしまうのです。
そして今日もあと少しの時間私は彼とすごすのです。いつもより少し早く目が覚めた私は彼から離れないまま時計を見ます。

授業の終わりをつげるチャイムの音がきこえました。

小枝の話

「王様、白髪が・・・」
「・・・・・そうですか、もうそんな時期ですかか」
「まだあまりに早過ぎます!」
「いいから、いいから早く皆に伝えなさい。そして明日の朝までに準備させなさい。」
「かしこまりました。しかし本当に・・・」
「私も一度は通った道です。立場は違いましたけどね。これ以上の衰えを見せるわけにはいきません。」
「はい・・・」
「たしかにもう少し生きたいとは思いますが衰退した実例もいくらかありますからやはり国民が一番大事です。」

丘の上には小屋が建てられ、小屋の周りには幾百の兵士が配備されました。私はその小屋の中でその時を待ちます。
「さて、どのような方がここに来るのでしょう。できれば一度で来てほしいものです。どんなかたちであれ人が傷つくのは私は嫌です。」
こんなことをいくら呟いても私にはどうすることもできないことはわかっていました。私には何も出来ない。

金属と金属がぶつかる音がすこしずつ近づいてくるのがわかります。
「どうかこのような事がもう行われませんように。」
私はそう呟きましたが、本当にそう思ったかはわかりませんでした。

乱暴に扉が開かれましたた。入ってきた一人の男はその扉を丁寧を閉めました。男の顔はよく見えませんでしたが兵士とは違う甲冑を身に纏っていたのでこの男で間違いないことはすぐにわかりました。私は準備してあった剣を手にしました。
「王様、私は王様が自然死すると国が衰退するだなんて信じたくありません。」
驚きました。まさかそんな事を言われるだなんて。
「だから王様は逃げてください。」
「しかし・・・なにか証拠と言うかその・・・」
「大丈夫です。私がどうにかします。」
私は迷いました。本当にこの男を信じていいのか。私はいつの間にか手にした剣を置いていました。私は信じたいのかこの男を。
「わかりました。こちら側から外に出れば兵士はいません。私はいきます。あなたの為にも決して見つからないように。」
「はい。」

しかし私がそこで男に背を向けたのは間違いでした。
「信じたくはないですが本当に国が衰退したら困ります。私は王様がかつて剣術の達人と謳われていたことも知っています。」
そういうことか
私と同じだったなんて少しも気づきませんでした。不思議なものです。



翌年は豊饒を迎えた。