ポスドク、博士の就職問題がボンボンの甘えにしか見えない理由

大「脳」洋航海記:学振PD騒動雑感:なぜポスドクの人件費は「生活保護」扱いされるのかという良エントリーがでているので、あえて逆張りしてみる。なお、ポスドク問題、日本の科学行政問題を気にしている人たちのほとんどが以下のことをわかった上で意見を述べているということをぜひ理解しておいていただきたい。

共感を得られにくい理由

  • 裕福だから(恵まれているから)
  • 全員が全員好きなことを仕事にできるわけでないから
  • 生活ができないのは博士だけじゃないから
  • 弱者でなく強者であるはずだから
  • 税金は弱者に使うべきだから

「博士課程まで行けたこと」=「裕福な証拠」でしょ?

大学闘争に明け暮れていたイメージのある団塊の世代(60代)は、5人に1人から10人に1人しか大学に行っていない。世代別大学経験者、修士課程進学者のいる割合 with 投票率で試算した内容によれば、修士課程に進学しているのは100人に1人。博士課程に進学しているのは300人に1人ぐらい。

次の人口ボリュームゾーンたる団塊ジュニア(30後半〜40代)でも、大学へは4人に1人。修士課程へは50人に1人(小学校・中学校の1クラスに1人)、博士課程へは200人に1人(1学年3人ぐらい)。

全年代でみても、大学へは4人に1人、修士課程へは50人に1人、博士課程へは250人に1人。大学、修士課程、博士課程へいかない理由はいろいろあれど、多くは経済的事情が多かったはず。今の博士課程の学生やポスドク、博士号所持者が学生時代どんなに苦労して、自分で学費を稼いでいたとしても、博士課程まで学校に通える状況であったという事実が、自分でがんばろうと何しようと進学できなかった多くの人にとっては、裕福な証拠そのものにとられるのはしょうがない。

誰もが好きなことを仕事にできるわけではない

博士課程に進むも進まないも自分の意思で選択可能であるため、すべての人から「好きだからその道に進んだ」と判断される。しかも、博士課程の学生が増えた現在でも、同年代中の博士課程進学者は1%以下。なので、具体的な個人像を知ることなく、イメージが先行してしまう。

アカデミックポストの増加要望やポスドクのポスト増加要望は、好きだからその道に進んだ上に、好きなことを仕事にさせろと要望しているようにしか見えない。

一方で、99%の人、あるいは、99.5%の人のほとんどが自分が好きなことを仕事にできてるわけではない。そんな人たちからみれば、働こうと思えば、他にも働き口があるのに自分の好きなことを仕事にできないならば死んでしまうとアピールする博士号取得者はわがままな人たちにしか見えないのもしょうがない。

生活がおびやかされているのは博士号取得者だけでない

統計局:労働力調査(基本集計) 平成22年10月分(速報)結果によれば、10月の完全失業率(季節調整値)は5.1%。完全失業者は300万人ぐらい。1990年から始まった大学院重点化により毎年1万人博士号取得者が輩出されているとして20年で20万人。もちろん、完全失業者数に含まれていると思うけど、300万人よりも博士号取得者の20万人の生活を保護しろという理屈は普通とおらない。

優秀だったら自分で職をみつけなよ

博士就職難話の鉄板切り返し「そんなに優秀なら自分で起業しろよ」でも書いたとおり、優秀さをアピールすればするほど、周りの人の反応は冷たくなる。

税金を投入する必要はあるの?

科学行政の話をするときには、原資が税金であることが多い。博士課程まで勉強できるほどめぐまれていて、好きなことを仕事にできて、優秀である博士に税金を投入しなければならないというのは、何か釈然としない気分の人が多いはず。特に起業家の人たちは、お金稼ぐことの厳しさを知っているので、よりその気持ちが強くなるのもしょうがない。

おわりに

という見方をされているという大前提を持たないといけない。また、「つまり、博士号取得者は死ねってことでしょ!」とやけになってはいけない。立場が変われば見方が変わるのだから、しょうがない。

私やあなたが日本の農家、保育園・幼稚園、初等教育の教員、各種公務員(キャリア、警察、自衛隊、裁判官、検察官)、政治家をどういうようにみているのか、そして、見られている側はどういうように自分達を把握しているかを考えたら、立場が変われば見方が変わるのは当たり前と納得してくれるはず。

一方で、私の親や兄弟の最終学歴は高校卒業で、博士課程で何やっているかなんて基本的にわからないのだけど、「科学や技術こそが日本にとって重要だ」と言ってくれて、教育費削減などには強く反対してくれている。中の人を身近に知っているかどうかで、見方は結構変わる。

何か解決したり、何か提案できるわけじゃないけど、こういう見方があるということだけは頭にいれておかないといけないと自戒している。

親や兄弟、祖父母を味方につけよう

身近なところで、自分の親や兄弟、祖父母に理解してもらうようにがんばろう。もうすぐ、年末だし、正月とかに話す機会もあると思うし。うまくすれば、賛同者を4倍に増やせるはず。まあ、それでも全有権者の2%なのだけど。