リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

中絶したとたんにヒト意識になる

中野東禅 『生と死を学ぶ教室「別れの手紙」』

著者が仏教系女子大の四回生の生命倫理の授業で行った「自己シミュレーション」の作品とのこと。課題は人工妊娠中絶、人工生殖、遺伝子操作などの3つから1つを選び、短編小説風でもよいということで自分がどう行動するかをシミュレーションするとのこと。その中で2つ中絶に関わるストーリーがありました。そのうち一つを著者のコメントも付けて紹介します。

中絶したとたんにヒト意識になる
Cさんの感覚

 自分ではなく、周りの人が妊娠したら、子供の生存権を主張して中絶に反対するが、自分のことだったら中絶をしてしまいそうです。今の自分の生活の質(QOL)を犠牲にして子供を産んでも結局その子を幸せにできないからです。
 ただ、出産の痛みや、喜びを感じたことがないからかもしれないが、自分の子供と自覚していても、私にとって胎児はヒトになっていない感じです。
 しかし、中絶した瞬間から、ヒトとしての意識になり、殺してしまったという負い目や罪意識が発生し、水子供養を行い、同じ過ちを繰り返さないように心に決めるだろう。
 これが自分の率直なところです。自分の立場を尊重して実行する前に「それでいいのか」と疑問を持ち、後悔しないように、責任ある選択をすることの必要性を感じる。


 この学生が気付いていることは、おなかの赤ちゃんは実感として遠い存在だが、中絶をしたとたんに、その子はヒトとなって自分にのしかかってくるということです。この視点はなかなか気付かないことです。人工妊娠中絶は簡単にしておいて、あとで水子供養に走る人の「負い目」がここから始まると考えると納得できるものがあります。


 まずこの著者は無自覚に「お腹の中の赤ちゃん」を持ち出しています。受精卵が着床し、育っていって、やがて「胎児」になる……といった知識もなく、妊娠=お腹に赤ちゃんがいる状態だと考えているのでしょうね。生命倫理学者には、妊娠=生命=赤ちゃん、中絶しない⇒誕生する(流産する可能性など微塵も考えていない)と短絡させてしまう人が少なくありません。また、中絶よりも妊娠を継続して出産に至る方が何十倍もリスクが高いことも知らない人がよくいます。
 この著者は中絶に関して「絶対的生命尊重」と「QOL」、あるいは「生命の尊厳性」と「人間の欲望・都合」の二項対立でしか捉えていません。この本が出たのは2001年ですが、「現在の女性学生は、かなりの割合で、性行為体験があり、なくても違和感が少ない」としており、「中ねん以上の人が感じるような抵抗感はなく、妊娠についても、人工妊娠中絶についても、かなり日常的なこととして身近なことのようです」とも書いています。次のようなことも書いています。

 それほど日常化している若者の性体験・妊娠体験・中絶体験の中でのシミュレーションですから、人工妊娠中絶が法律違反であるとか、人間の良心に照らして罪であるとか、死生学、生命倫理学に照らしてみるとかより先に、日常的感覚が先に立つということがよく分かります。


死生学や生命倫理学が「日常的感覚」から外れたものであることを自ら暴露しています。学問って生きた人間に役立つものではないのでしょうか。

米最高裁、中絶薬入手制限に懐疑的 原告資格を問題視

Reuters, By Andrew Chung、 John Kruzel, 2024年3月27日午前 10:00 GMT+92時間前更新

[ワシントン 26日 ロイター] - 米連邦最高裁は26日、経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の使用を制限した下級審の判断の是非について口頭弁論を開いた。判事らは原告の反中絶団体や医師らが同薬の使用禁止を求める訴えを起こす法的資格があるかに懐疑的見解を表し、制限を支持しない可能性を示唆した。
 ルイジアナ州の連邦高裁は昨年8月、同薬の使用や入手方法を制限する判断を示していた。
 食品医薬品局(FDA)は同薬を使える期間を妊娠7週間以内から10週間以内に延ばし、対面診療なしで郵送での処方を認める規制緩和を行ってきたが、高裁の判断が維持されれば規制緩和が撤回されることになる。
 原告の医師らはこれまで、同薬で合併症を引き起こした患者を処置することになれば良心に反し、損害を被ると主張。口頭弁論では原告に損害を主張する法的資格があるのかが焦点となった。
 保守派のカバノー判事は、連邦法の下で医療従事者が中絶手術の執刀や介助を強要されることはないと指摘。同じく保守派のバレット判事も「良心的拒否」は中絶手術への直接関与に限定されると述べた。
 最高裁は2022年、中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェード」判決を覆しており、同裁に持ち込まれた中絶関連の訴訟としてはそれ以来の重要事案となる。

米最高裁、経口妊娠中絶薬の使用許可を当面維持

JETROビジネス単信

米最高裁、経口妊娠中絶薬の使用許可を当面維持(米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

最高裁、経口妊娠中絶薬の使用許可を当面維持
(米国)

ニューヨーク発

2023年04月26日

 米国の最高裁判所は4月21日、経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の使用許可の見直しにあたり審理が続く中、審理中は薬の流通を当面維持する判断を下した。

 最高裁が2022年6月24日に、1973年の「ロー対ウェイド判決」を破棄してから(2022年6月27日記事参照)、これまで全米で認められていた女性のための人工妊娠中絶権が消失し、人工中絶に関わる法律は各州に委ねられることとなった。これを受け、ジョージア州テキサス州など人工中絶に否定的な州においては、中絶禁止法が施行された(2022年7月22日記事参照)。ニューヨーク・タイムズ紙電子版によると、4月24日現在、全米の13州において人工中絶が全面的に禁止されている。

 2022年11月18日には、人工中絶反対派のヒポクラティック医学同盟やキリスト教医科歯科協会などが、2000年に経口中絶薬を承認した米国食品医薬品局(FDA)をテキサス州地方裁判所に提訴PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。原告は経口中絶薬を禁止すべき理由として、手術による中絶よりも母体に合併症を引き起こす可能性が高いことを指摘している。2023年4月7日にテキサス州地方裁判所は、経口中絶薬の使用禁止を承認したが、司法省は同日、この判決を不服として強く反対外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますするとし、控訴するとともに差し止めを求める予定だとしていた。

 また、利害関係者によるテキサス州の連邦裁判官の判決を非難する申立書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますには、大手製薬会社役員を多く含む500人以上が署名した。申立書は、過去数十年にわたる科学的証拠とFDAの権限を無視することは全ての医薬品の承認を危険にさらすとし、「もともとリスクが伴う新薬の発見と開発に対して規制の不確実を加えることは、投資の誘因を低下させ、われわれの産業を特徴づけるイノベーションを危険にさらすことになる」と述べている。

 経口中絶薬「ミフェプレックス」は2000年に、そのジェネリック版「ミフェプリストン」は2019年に、FDAに承認された(注)。現在、使用には一定の資格を満たしたプログラムの承認を受けた医療従事者からの処方箋が必要となっている。FDAは2023年1月3日、「ミフェプリストン」を薬局で入手可能にするガイダンス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。これにともない、大手薬局店のウォルグリーンは、同店で入手可能にする手続きを始める予定だと発表していたものの、中絶反対派の共和党が優勢な州からの非難を懸念し、それらの州では、合法化されていても利用可能にはしないとした(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版1月13日)。この判断を受けて、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)は、ウォルグリーンとは取引しないと、自身のツイッターに投稿した。他方、ニューヨーク(NY)州のキャシー・ホークル知事(民主党)は3月9日、ウォルグリーン、CVSおよびライトエイドに対し、経口中絶薬をNY州で利用可能にするために、州内の認定を受けた店舗での調剤・販売や処方箋を有する患者への薬の郵送を約束するか、と回答を求める文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を送っている。

 ホークルNY州知事は4月21日、最高裁の判断について、「バイデン政権と司法省の判断に敬意を表す」とした上で、「中絶反対派の過激派は、われわれが知る生殖医療ケアを完全に撲滅することを望んでいる」「NY州は生殖医療ケアを必要とする人の避難所であり続けることを保証する」との声明を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしている。


(注)「ミフェプリストン」(「ミフェプレックス」と「ミフェプリストン」の総称)は、もう1つの避妊薬「ミソプロストール」と併用される投与方法がとられている。

(吉田奈津絵)

(米国)

ビジネス短信 c3df161725ba4778

日本に限らず世界同時多発的少子化の中で「国の富は産まれても子が産まれない」少子化の潮流

*Yahoo Japan NEWS, 3/26(火) 9:05

日本に限らず世界同時多発的少子化の中で「国の富は産まれても子が産まれない」少子化の潮流(荒川和久) - エキスパート - Yahoo!ニュース

ご紹介します。日本はもはや国の富を生むのも難しくなりつつありますが……。

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター


世界的な出生減
 前回の記事(「出生インセンティブ政策では出生率はあがらなかった」シンガポール出生率0.97)で、日本に限らず東アジア諸国が軒並み低出生化しており、その中でもむしろ日本は健闘している方であるという話を書いたが、低出生化は、東アジアだけではなく欧州でも北米でも同様である。

 わかる範囲で最新の各国の合計特殊出生率(2023年速報値を含むので後日数字が修正される可能性がある)を列挙すれば、フィンランドは1.26、ノルウェーは1.40、スウェーデンも1.45、ドイツは1.35、イタリアは1.21、スペインは1.14、ポーランドも1.18である。よく「見習え」といわれるフランスもいつのまにか1.67にまで下がっているし、アメリカも1.62である。

 これらの国々は国連及び世界銀行の定義で「高所得国」とされているが、それら高所得国といわれる国はことごとく低出生化が加速している。それで「経済発展すればするほど少子化が進む」とも言われたりするのだが、これは厳密には正しくはない。

 「経済発展→少子化」という因果ではなく、「経済発展によってもたらされる医療の発達や公衆衛生の改善」によって「乳幼児などを含む子どもの死亡率が下がる」から「出生数が減る」のである。言い換えれば、「生まれてきた子どもたちが子どものうちに死なずに元気なままで育つから、多産する必要がなくなる」ということである。

 日本でも戦前から戦後まもなくまで出生率が高かったのは、この子どもの死亡率が高かったためである(参照→なぜ昔の日本人は、4人も5人も出産したのか?出生数を見るだけではわからない自然の摂理)。

 逆にいえば、アフリカなどの低所得国の出生率が高いのは、それだけ生まれてきた子が大人になる前に死んでしまうからこそ多く産むという出産メカニズムによる。


幼児死亡率と出生率の相関
 今回は、日本だけではなく、世界の5歳未満の幼児の出生千対死亡率と出生率との相関をみていただきたい。大陸間の分布をわかりやすくするために色分けしている。数値は2021年のもので統一した。

 まず、青色の「欧州・北米」はほとんどが幼児死亡率10以下に収まっている。同時に、出生率も2.0以下だ。アジアにおいても、日本や韓国などの高所得国に位置づけられるところは同じ分布である。

 一方でアフリカなどの低所得国は、幼児死亡率が100を超えるところも多く、だからこそ出生率も6を超えている。図表内に線で示した通り、「死亡率が10を下回れば、出生率も2を下回る」というのが明らかである(中東など一部例外もあるが)。

 このように子どもの死亡率と出生率とは強い正の相関があり、日本や欧州諸国の少子化は、視点を変えれば「生まれてきた子は死ななくなった」ということであり、決して悪いことでもない。


20世紀の人口爆発
 20世紀に入って、世界は人口爆発といっていいほどの人口増加になった。日本の人口も明治時代の約4100万人から3倍強の1.2億人となったが、世界の人口はもっと膨らんでおり、1900年時点の約16億人から80億人へと5倍増である。


 これは子どもがこの期間だけ異常に多く生まれたわけではなく、この間に乳幼児死亡率が先進国をはじめとして全世界的に下がったことによる「子どもが死ななくなったがゆえの人口増」なのである。加えて、同時に高齢者の長寿化もあわせて、全年齢帯の死亡率が下がるという「多産少死」時代でもあった。死ななくなったことでの人口増加なのであり、決して出生だけに人口増減は依存するのではない。

 そして、冒頭に述べた通り、現代は「子の早逝のリスクのために多産する必要性がなくなった」がゆえの少子化なのである。決して、各国の政策だけの問題ではなく、こうして人間の出産のメカニズムが大きく影響している点は留意しておくべきだろう。


増えるのは子ではなくなる
 とはいえ、実は現代の問題は、このような自然の摂理を超えた部分での少子化が見られている点が問題でもある。前掲したグラフにおいて、幼児死亡率が10以上であるにもかかわらず、出生率が2を切る国が増えているのである。

 具体的に言えば、中南米では、ブラジル、メキシコ、コロンビア、ジャマイカ、アジアでは北朝鮮ベトナム、インド(2021年時点ではインドは出生率2を超えているがもはやこの領域に突入している)、中東ではイランなど。

 これらの国はまだ高所得国に分類されておらず、中進国、中所得国に該当し、幼児死亡率もまだ低いとはいえないのにもかかわらず少子化が進行している。これは国としての中間層が子を持てなくなっているということでもある。

 そう考えると、「高所得国だから、先進国だから少子化になる」ということではなく、どこの国においても「一部の富裕層は子を持てるが中間層が子を持てなくなっている」ということではないか。

 国全体が数字の上では豊かになっても、人口ボリュームの多い中間層が子を持てなくなればそれは、出産メカニズムの範囲を超えた少子化となっていくのだろう。

 お金だけが産まれても子どもが産まれなくなる。

各国憲法の世界的調査:性と生殖に関する健康と権利に関する憲法上のコミットメントをマッピングする

Lucía Berro Pizzarossacorresponding author and Katrina Perehudoff, MSc, LLM

Global Survey of National Constitutions - PMC
Health Hum Rights. 2017 Dec; 19(2): 279–293.

仮訳します。

要旨
 経済的、社会的及び文化的権利委員会(CESCR)が2016年に発表した一般的意見第22号は、性と生殖に関する健康(SRH)の権利を尊重し、保護し、履行する国家の法的義務を明確にしている。私たちの研究は、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の権利が尊重され、保護され、履行されているかどうか、これらの規定がどの程度包括的で非差別的であるかどうか、そしてこの権利と他の人権との相互関係がどの程度認められているかどうかを調査するために、世界中の国内憲法を分析している。アクセスした195の憲法のうち、27の憲法がセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスを謳い、7つの憲法がこの権利に制限的なアプローチを採用している。27の憲法では、最も頻繁に、性的健康と家族計画の決定の尊重、性的健康の保護、リプロダクティブ・ヘルスケアと家族計画サービスの提供(履行)が規定されている。27の憲法のほとんどは、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の権利を十分に尊重すること、リプロダクティブ・ヘルス、家族計画、中絶サービスを第三者の干渉から守ること、性の健康と中絶へのアクセスのあらゆる側面を満たすことに失敗している。27憲法のうち3憲法はSRHに対する普遍的権利を謳い、その他の憲法は特定の弱者グループ(女性や子どもなど)を保護し、かつ/または権利保持者の範囲をカップルに限定している。27の憲法のうち、9つの憲法が、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスへの権利を、教育、科学、および/またはセクシュアリティと生殖について自律的に決定する権利と明確に結びつけている。私たちの結果は、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスと権利の実現を追求する憲法改革を追跡するためのベースライン指標として、また国内法改革を通じてこれらの権利の実現に尽力する将来の法律家のためのビルディング・ブロックとして役立つ。


はじめに
 セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対する権利は、国際人権法の中でますます発展してきている。国際連合(UN)の人権システムは、これが人権であることを繰り返し確認しており、国際社会的、経済的及び文化的権利に関する規約(ICESCR)の健康に対する権利の下に初めて明記された1。健康に対する権利の範囲と内容は、CESCRが一般的意見第14号で解釈し、女性と男性は、生殖するかどうか、いつ生殖するかを決定する自由を有し、安全で、効果的で、手頃な価格で受け入れ可能な家族計画の方法を知らされ、利用する権利と、適切な医療サービスを利用する権利を有すると具体的に述べている。

 人口と開発に関する国際会議(ICPD)」(1994年、カイロ)は、人口統計目標を達成するための生殖管理から、強制、差別、暴力のない、セクシュアル&リプロダクティブに対するより包括的かつ積極的なアプローチへと言説を転換させた。ICPDは、セクシュアリティと健康を人権として結びつけ、女性が自らの身体とセクシュアリティに対する主体性を持つことが、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスと本質的に結びついていることを明らかにした2。北京行動綱領(1995年)は、セクシュアル・ライツの概念を具体化した最初の宣言であり、ICPDの定義を拡大し、自らのセクシュアリティをコントロールし、決定する権利を支持することで、セクシュアリティリプロダクティブ・ヘルスをカバーするようにした3。

 2016年、欧州人権規約委員会(CESCR)は一般的意見第22号において、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利を実現するための国家の義務を幅広く取り上げた。このコメントは明確な人権に基づくアプローチを採用し、この権利がすでに存在する国際人権文書に基づき、長年にわたって承認を享受してきた健康と生殖に関する権利の不可欠な一部であることを確認している。一般的意見第22号は、5つの革新的な要素を含んでいる:

  1. ライフサイクル・アプローチを採用し、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスという概念が「妊産婦の健康」の限界を超えたものであることを強化する;
  2. セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利は、他の人権と不可分であり、相互に依存していることを認識する;
  3. この権利に関するあらゆる形態の強制的な慣行を拒否する;
  4. ジェンダーに配慮したアプローチを推進し、女性の生殖能力のために、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対する女性の権利の実現が、女性のあらゆる範囲の健康の権利の実現に不可欠であることを認識する;
  5. 政策とプログラムの設計と実施において、平等と多重差別の横断的問題に対する交差的アプローチを採用する5。


 こうした法的な進展にもかかわらず、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利を実際に実現するためには、多くの進展が必要である。さらに、安全でない中絶は、毎年47,000人の妊産婦死亡と500万人の妊産婦障害を引き起こしていると推定されている7 。

 ランセット委員会は、女性と女児の健康のニーズと権利に対応するための「社会的、法的、規制的環境」の必要性を強調し、女性の地位委員会は、規範的、法的、政策的枠組みの強化を各国に求め続けている9。

 国際基準に合致した国内法を採択することは、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスと権利の実現に対する政府のコミットメントを示すものである10。これらの権利の指標として認識されているように、法制化は、実践におけるこれらの権利の尊重、保護、履行を改善するための第一歩となりうる。国内憲法は、政府の責任と個人の権利の最も重要な表現であり、したがって人権に対する国家のコミットメントを承認するのに最も適したチャネルの一つである。憲法は、その後の政策、プログラム、サービスを実行するための枠組みを提供する。多くの司法管轄区において、憲法は違反があった場合の執行と救済を支援し、リプロダクティブ・ヘルスを求める戦略的訴訟において重要な成功要因となっている11。出産時の母子感染予防のための必須医薬品へのアクセスを求めた「トリートメント・アクション・キャンペーン対南アフリカ保健省」のような極めて重要な訴訟は、特定の権利、特にリプロダクティブ・ヘルス憲法で保護することがいかに強力であるかを示している12。

 毎年20カ国が憲法を改正しており、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスと権利に対する国家のコミットメントを強化する機会となっている。このプロセスにおいて、憲法制定者はしばしば他の司法管轄権や国際法からインスピレーションを得ようとする13。私たちの目的は、世界中の国内憲法においてセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利を記述するために使用されている言語や概念を調査することである。これらの憲法条文は、国内法改正を通じてこれらの権利の実現に尽力する将来の法律家にとって、積み木となる可能性がある。


方法論
 セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関する憲法上の権利について、尊重-保護-充足の類型がどのように適用されているか、また、どの程度包括的で非差別的な規定となっているか、さらに、これらの権利と他の人権との間の明確な相互関係がどの程度認められているかを調査するために、一般的意見第22号に明示されている人権の枠組みを適用する。


分析の枠組み
 リプロダクティブ・ヘルス」と「セクシュアル・ヘルス」というキーワードが、私たちの研究のバックボーンとなっている。一般的意見第22号は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスを「十分な情報を得た上で、自由かつ責任ある意思決定を行う自由」と定義し、「個人が自らの生殖行動に関して、十分な情報を得た上で、自由かつ責任ある意思決定を行うことができるよう、様々なリプロダクティブ・ヘルスに関する情報、物品、施設およびサービスへのアクセス」と定義している14。また、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスは「セクシュアリティに関連する身体的、感情的、精神的および社会的な幸福の状態」と定義されている15。

 一般的意見第22号に示されたセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスを尊重し、保護し、充足させる法的義務は、標準化された用語を用いて締約国に明確な指針を与えている。尊重の義務は、国家がセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスを行使する個人の権利を妨害しないことを要求する。その例として、中絶を犯罪とする法律や慣行、成人同士の同意に基づく性行為を制限する法律や慣行、中絶や避妊へのアクセスに第三者の許可を必要とする法律や慣行、公的またはドナー資金によるプログラムから特定の保健サービスを除外する法律や慣行など、保健サービスや情報へのアクセスを制限または拒否することが挙げられる16。

 保護する義務の下で、国家はセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対する権利を第三者の干渉から保護しなければならない17。例としては、保健サービスに対して実際的または手続き上の障壁を課す私立の保健クリニック、または保険会社や製薬会社から保護することが含まれる18。国家は、第三者が完全性を傷つけたり、権利の享受を損なうような行動をとることを禁止する法律や政策を導入しなければならない。例えば、すべての青少年が、婚姻状況にかかわらず、家族計画を含むセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関する年齢に応じた情報を入手できるようにしなければならない19。

 履行責任は、国家に対し、「セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対する権利の完全な実現を確保するために、適切な立法、行政、予算、司法、促進、その他の措置を採用する」ことを義務づけている20 。国家は、緊急避妊や安全な中絶サービスへのアクセスを含め、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルス・ケアへの普遍的なアクセスを確保するための措置を講じなければならない。国家は、すべての人にセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関する包括的な教育を提供し、個人がセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対する権利を自律的に行使することを妨げる社会的障壁を根絶するための措置を講じることが求められる21。

 家族計画と中絶の具体的な側面に関連して、一般的意見第22号は、中絶サービスを健康に対する権利の不可欠な部分として認識し、国家は、中絶を含む保健施設、サービス、物品、情報への個人または特定の集団のアクセスを犯罪化、妨害、またはその他の方法で弱体化させる法律、政策、慣行を廃止または撤廃する義務があると指摘している22。

 尊重し、保護し、履行する義務は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関連する個人や集団に対する差別を撤廃する国家の直接的な法的義務と本質的に結びついている。差別は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関す る個人の自主性を損ない、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関す る様々な情報、商品、サービスへの平等なアクセスを損なう23 。平等と非差別の原則はICESCRの第2条1項に根ざしているが、一般的意見第22号はさらに、女性と男性の平等は、直接的・間接的差別の撤廃と、形式的・実質的平等の保証を必要とする横断的な目的であることを強調している24 。交差的差別は、貧しい女性、障害者、移住者、先住民族やその他の少数民族、青少年、LGBTI、HIV/AIDSとともに生きる人々などの集団に不釣り合いな影響を与える可能性がある。一般的意見第22号は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関連するインターセックストランスジェンダーの人々特有のニーズにも言及している25。

 さらに、一般的意見第22号は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対する権利は、国家が健康の根底にある社会的決定要因に取り組むことを要求するものであり、それは他の人権と不可分であり、相互依存的なものであり、ICESCRや他の文書に謳われているこの幅広い権利の実現なしには達成できないことを認識している26。


調査戦略
 本研究では、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利が国内憲法に導入されているかどうか、またどのように導入されているかを調査している。2015年3月と2016年4月に、比較憲法プロジェクトのウェブサイトで公開されている世界保健機関(WHO)加盟195カ国の憲法を、「リプロダクティブ」「リプロダクション」「セクシュアル」「リプロダクティブ・ヘルス」「家族計画」「中絶」というキーワードで検索した。遺伝物質や生殖物質の使用、物質的・非物質的条件の経済と再生産、芸術・文化・音響の再生産、(自然)環境の保護と再生産、権限や管轄権の委譲、セクシュアル・ハラスメントや犯罪の訴訟手続きに関する条項は除外した。

 メルトンと同僚は、一度だけの単語を使用し、複雑な相互参照ではなく、トピックごとに焦点を絞った憲法条文が、明確な解釈のために最も重要であると示唆している27。私たちは、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利の明確性と法域間の比較可能性を最大化するために、憲法公約の中で明確に定義された用語と概念を特定することによって、このリスクを最小限に抑えた28。

 私たちは、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利と、家族計画と中絶という特定の概念に関する憲法条項を分類するために、三者類型論を適用した。次に、平等と非差別のレンズを通してこれらの規定を分析し、普遍的に適用される規定、社会的弱者への特別な配慮、権利保持者の範囲を制限する文言、多重差別を認めるものなどを憲法内で探した。また、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利と他の人権との間に、憲法上の明確な連関があれば報告する。


結果
 セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関する権利の少なくとも1つの側面が明記された国内憲法は27件(図1)であった。


性的健康の権利
 性的健康の尊重は、2つの憲法では性的権利について決定したり行使したりする積極的権利として、3つの憲法では性的完全性または性的安全に対する消極的権利として枠付けされている(表1)。権利保護の観点からは、13の憲法で国家は性的搾取、虐待、暴力から守らねばならず、4つの憲法で国家はそのような行為を罰することが義務づけられている。

表1(一部要約)
リプロダクティブ・ヘルスへの権利】
〔尊重義務〕
生殖に関する決定を行う権利:エクアドル(2011年 Art.66[10])、南アフリカ(2012年 Art.12[2])、ジンバブエ(2013 年 Art.52)、リプロダクティブ・ヘルスへの権利:ネパール [女性対象](2015 年 Art.38)、リプロダクティブ・ライツの尊重:エクアドル [すべての労働者](2011 年 Art.332)
〔保護〕
生殖過程および妊娠中の特別な保護:ニカラグア [女性](2015年 Art.74);リプロダクティブ・ヘルスに影響を及ぼす労働リスクの排除:エクアドル(2011年 Art.332)
〔充足〕
リプロダクティブ・ヘルスケアを提供する国家義務:フィジー(2013年 Art.38)、ケニア(2010年 Art.43[1]、南アフリカ(2012 年 Art. 27[1])【市民および永住者】、ジンバブエ(2013 年 Art.76);国家は生殖期に必要なサービスおよび施設へのアクセスを確保するための政策を追求する:ネパール(2015年 Art.51[j][3]);国家は、貧困層のための生殖医療に関する特別計画を策定する義務を負う:パラグアイ(2011年 Art.61);国家は、リプロダクティブ・ヘルスを促進し、提供するプログラム、行動、サービスへの永続的、適時、非排他的なアクセスを保証するものとし、国家はリプロダクティブ・ヘルスに関する行動とサービスを確保する責任を負う:エクアドル(2011年 Arts.32&363)。

【中絶】
表1は原文のURLで参照してください。
〔尊重義務〕
リプロダクティブ・ヘルスケアを提供する国家義務:フィジー(2013年 Art.38)、ケニア(2010年 Art. 43[1])、南アフリカ(2012 年 Art. 27[1][市民および永住者])、ジンバブエ(2013 年 Art. 76);国家は、生殖期に必要なサービスおよび施設へのアクセスを確保するための政策を追求する:ネパール(2015年 Art.51[j][3]);国家は、貧困層のための生殖医療に関する特別計画を策定する義務を負う:パラグアイ(2011年 Art.61);国家は、リプロダクティブ・ヘルスを促進し、提供するプログラム、行動、サービスへの永続的、適時、非排他的なアクセスを保証するものとし、国家はリプロダクティブ・ヘルスに関する行動とサービスを確保する責任を負う:エクアドル(2011年 Arts.32&363)
〔保護義務〕〔充足義務〕については皆無。

リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の権利
 4つの憲法が、リプロダクティブ・ヘルスを尊重することを国家に求めている(表1参照)。リプロダクティブ・ヘルスは2つの憲法で保護されている。7つの憲法が、リプロダクティブ・ヘルスケアを提供する明確な国家義務を含んでいる。

 4つの憲法に予算配分に関する具体的な規定があり、そのすべてがリプロダクティブ・ヘルスケアに関するもの である。フィジー南アフリカジンバブエ憲法は、リプロダクテ ィブ・ヘルスを含む健康への権利の漸進的な実現を達成するため に、国家は利用可能な資源の範囲内で、合理的な立法措置 その他の措置を講じなければならないと定めている。国家の説明責任を強化するため、フィジー憲法は、国家が権利を実施するための資源がないと主張する場合、資源がないことを示すのは国家の責任であると要求している。


家族計画と避妊
 家族計画の決定を尊重する義務については、3つの憲法が言及している(表1参照)。家族計画を立てる権利を保護する憲法はない。家族計画を履行する国家の義務は、3つの憲法に明記されている。ポルトガル憲法は、家族計画に関する情報と方法の利用を実現する国家責任の顕著な例を示している(強調):

 家族を保護するために、国家は特に次の責務を負う: (d)個人の自由を尊重し、そのために必要な情報と方法および手段へのアクセスを促進することによって、家族計画を立てる権利を保障し、母性と父性が意識的に計画されるために必要な法的および技術的な取り決めを組織する30。

 ポルトガル憲法は、情報へのアクセスとその情報に基づいて行動する手段を通じて家族計画を保証することを国家に課している。

 ポルトガル憲法は、情報へのアクセスとその情報に基づいて行動する手段を通じて、家族計画を保証することを国家に課している。家族計画は、中国、ベトナム、トルコの憲法における、国の人口抑制目標に対する個人の義務や責務に似ている。


中絶
 中絶に関する具体的な憲法上の規定があるのは3カ国である: ケニアスワジランドソマリアである(表1参照)。中絶を「非合法」、「違法」、「許されない」といった否定的な言葉でとらえているが、どの法律も、中絶が許されるさまざまな根拠を認めている31 。セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利の要素として、中絶サービスを保護または履行する義務を認めている憲法はない。

非差別、平等、多重差別
 普遍的権利は、フィジーケニア南アフリカ憲法に明確に謳われており、誰もがリプロダクティブ・ヘルスケアを利用する権利があることを認めている。さらに、ボリビア憲法は、「女性も男性もセクシュアル&リプロダクティブ・ライツの行使が保障される」とし、「すべての人、特に女性は」性的暴力から解放される権利を有するとしている32。

 エクアドル憲法は、「二重に弱い立場にある人」として多重差別を取り上げているが、これは性的暴力の状況にある人への優先的ケアという文脈でのみ言及されている33。


妊産婦の健康への特別な配慮
 エクアドル憲法は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関 する行動とサービスを、特に妊娠、出産、産後の期間に確保す る国家の責任を明記している。パラグアイベネズエラ憲法では、母性と妊産婦の健康は特別に保護されている。ニカラグア憲法は、妊娠中の女性に対する特別な保護を定め、有給の出産休暇も規定している。

 エチオピア憲法は、「女性の権利」条項のもと、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスと権利を規定している。この規定は、不平等と差別の歴史的遺産を認め、それに対抗するための積極的措置を規定している。この点に関して、同条項は「妊娠と出産から生じる危害を予防し、健康を守るために、女性は家族計画、教育情報、能力を利用する権利を有する」と定めている34 。ネパールの憲法も同様のアプローチを採用し、特に次のように述べている: 「最も包括的な憲法のひとつであるネパールの法律は、他の憲法がそうであるように、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の権利を、一定の年齢、生殖能力、婚姻関係や市民権のある女性に限定していない。


その他の社会的弱者の権利
 複数の憲法が、貧困層、子どもや若者、高齢者、労働者など、社会的弱者特有のニーズを認めている。パラグアイ憲法は、資源に乏しい人々のためのリプロダクティブ・ヘルスケアの特別計画を策定するよう政府に求めている。8つの憲法が、権利を保護すべき重要な集団として子どもたちに言及しているが、性的搾取、虐待、暴力からの保護に関してのみ言及している。ブラジル、ドミニカ共和国ギニア憲法は、青少年と若者の性的権利を、この場合は性的搾取や虐待から明確に保護している。エクアドル憲法は、高齢者が性的搾取から保護される権利を取り上げている。ソマリア憲法は、労働者、特に女性の性的虐待からの保護に言及している。一方、エクアドル憲法は、すべての労働者のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の尊重を保証し、「リプロダクティブ・ヘルスに影響を及ぼす労働リスクの排除」を義務づけている36 。

 これらの規定が、歴史的に法の保護が必要とみなされてきた女性や子どもといった特定の脆弱な集団を取り上げていることは注目に値する。セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利には、憲法の規定ではほとんど取り上げられていなかった若者や高齢者を含む、すべてのライフステージに固有のニーズと脆弱性を包含するライフサイクル・アプローチが必要である。さらに、子どもたちの性的健康を保護する権利を認めることは崇高なコミットメントであるが、子どもたちよりも積極的に自らのセクシュアリティを主張する青少年の、性的健康の尊重、保護、充足に関する権利を扱わないことを正当化するものではない。これらの人々やその他の人々のセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関する権利の全領域を純粋に捉えようとする憲法制定者は、年齢やジェンダーだけでなく、人種、障害、性的指向など、差別の多層性を考慮し、これらの権利の尊重、保護、充足に等しく重点を置くだろう。


カップルの権利を制限する
 ブラジルとベネズエラ憲法は、家族計画の権利をカップルに与えているが、これは異性間の一夫一婦制の関係にある2人に限定されている。ブラジル憲法は、異性間カップルの生殖に関する権利のみを保護し、次のように述べている: 「家族」とは、特に「男女の安定した結合」を指している38。同じように、ベネズエラ憲法は、「夫婦は、何人の子どもを妊娠したいかを、自由かつ責任を持って決定する権利を有する」と定めている39。

 これらの結果は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスと権利の権利者を決定することに関する歴史的な課題と論争を裏付けるものである。1966年の人口宣言で初めて「家族」が言及されたことから、1974年の世界人口行動計画では「すべてのカップルと個人」が言及されるまでに、権利保持者が誰であるかについての議論は発展してきた40。一般的意見第22号は、すべての個人と集団が差別のないセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利を享受することを明確に示している41。


他の人権との不可分性と相互依存性
 5つの憲法(ブラジル、ポルトガルエクアドルパラグアイベネズエラ)は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利の行使に関して、自由で自律的な意思決定を行うことの重要性に特に言及している。例えば、エクアドルは、「自由への権利」を謳った憲法の第6章に、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利に関する条項を盛り込んでいる。この自由への権利との本質的な関係は、セクシュアリティと性的生活・指向に関する事項を決定する権利と、健康とリプロダクティブ・ヘルスへの権利の両方を指している。これらの例に関連して、南アフリカジンバブエ憲法は、身体の自律の権利の要素として、生殖に関する事柄を決定する権利を謳っている。

 セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関連する情報や教育へのアクセスは、健康の権利と教育の権利、科学の進歩とその応用の恩恵を享受する権利(「科学への権利」として知られる)との相互関係を反映し、国内の憲法に引用されている。健康と教育に対する権利の相互依存が注目される一方で、健康と関連技術に関する情報と教育も、あまり知られていない科学に対する権利の範囲に含まれる。文化的権利分野の国連特別報告者は、「科学に対する権利と文化に対する権利の両方が、自己決定的かつエンパワーメントされた方法で情報通信その他の技術にアクセスし利用する権利を含むと理解されるべきである」と強調している42。例えば、ブラジル憲法は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利を行使するための教育的・科学的資源を提供することを国家に義務づけている。エクアドルエチオピアパラグアイポルトガルベネズエラ憲法は、教育と情報がセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利を効果的に享受するための不可欠な前提条件であることを認めている。特筆すべきは、エチオピア憲法が、キャパシティビルディングを組み込んだ革新的なものであることだ。


考察
 我々の研究は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利が、国内憲法において普遍的に尊重され、保護され、実現されているわけではないことを示している。この権利の何らかの側面を認めている27の憲法のうち、最も多く取り上げられているのは、自分のセクシュアル・ヘルス&家族計画に関する意思決定の尊重、セクシュアル・ヘルス保護、セクシュアル・ヘルスケア&リプロダクティブ・ヘルスケア&家族計画サービスの提供(履行)であった。中絶に関する憲法上の明示的な言及は、一連の狭い例外が適用されない限り、中絶を禁止する役割を果たした。リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の権利の普遍的な承認と尊重、リプロダクティブ・ヘルス、家族計画、中絶サービスの第三者からの干渉からの保護、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスと中絶へのアクセスのあらゆる側面の履行に関して、ほとんどの憲法にはまだ大きな欠点が存在する。すべての個人と集団に対して明確に普遍的な規定はほとんどないが、女性、母性、子どもといった脆弱な集団やライフサイクルを保護する規定が多く、権利保持者の範囲を制限している条文さえある。エクアドル憲法は、性的暴力の文脈でのみ多重差別を取り上げている。さまざまな憲法が、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利と、教育、科学、セクシュアリティとリプロダクティブに関する事柄を自由かつ責任を持って決定する権利との間に、明確な相互関係を描いている。


セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利への「セクシュアル」の導入
 ウィーンの世界人権会議宣言と女性に対する暴力に関する宣言がもたらした大きな転換点を受け、一般的意見第22号は「セクシュアル・ヘルス」と「リプロダクティブ・ヘルス」を同等に認めている44 。WHOは、セクシュアル・ヘルスは、特定の人権、すなわち性的権利の尊重と保護なしには達成・維持できないことを認識している。しかし、我々の調査結果によれば、性的健康に関する言及は憲法に頻繁に見られるものの、その大半は否定的なものであり、虐待や搾取の対象とならない権利を、侵害と闘うという矯正的な意味で表現している。重要なのは、エクアドル憲法だけが、自分の性生活について自由に決定する権利や、性的健康ケアを受ける権利など、性的権利の肯定的な概念に向かっていることである。


意思決定の自律性と強制からの自由
 セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスについて自由かつ責任を持って決定する権利について明確に言及している憲法は5つしかない。しかし、女性が自らのセクシュアル&リプロダクティブ機能に対する主体性を法的に認めることが国際的にかなり支持されているにもかかわらず、中国、ベトナム、トルコの憲法は、生殖の問題に対する制限的なアプローチを維持していることが確認された。トルコの憲法は、「国家は、家族計画の指導とその実践を確保するために、必要な措置を講じ、必要な組織を設置する」と定めている46。この種の規定は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対する権利の承認を、政府の人口統計学的目標に従って、政府が「責任ある」と考える方法で行使することを条件としている。このアプローチは、人口増加をコントロールするために、個人の生殖能力を道具化するものである47。そうすることで、これらの規定は、個人の身体をコントロールする自由と、自由で、十分な情報を得た上で、責任ある決断を下す能力を妨害することで、尊重すべき国家の義務に反することになる48。


強固な憲法条文と国内政策の一貫性
 エクアドル憲法は、尊重-保護-充足の枠組みが憲法上の公約にどのように完全に統合されうるかについて、確固とした例を示している。第一に、エクアドル憲法は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに取り組み、あらゆるライフステージにおいて、子どもを産んだか否かにかかわらず、すべての人々の健康のニーズを捉える、包括的でライフサイクル的なアプローチを採用している50。これは、権利者としての「女性」や「母親」、あるいは妊産婦の健康に対する狭い権利の枠を超えたものである51。第二に、エクアドル憲法は、セクシュアル・ リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)を、消極的な観点(性暴 力からの保護と性的安全の保障)と積極的な観点(自分の性、性生活と性 指向、健康とリプロダクティブ・ライフについて、十分な情報を得た上で、 自主的かつ責任を持って自由に決定する権利、子どもを何人産むかを決 める権利)の両方から認めている。この憲法は、自分の性生活に関する秘密を保護する唯一の憲法である。特筆すべきは、憲法は、セクシュアリティに関する決定を強制されることのない安全な条件へのアクセスを促進することによって、これらの権利を実現することを政府に義務づけていることである。第三に、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスケアに関する規定は、利用可能性(「恒久的、適時」)、アクセス可能性(「非排他的」、「普遍性」)、受容可能性(「異文化間主義」、「ジェンダーおよび世代間のアプローチを伴う」)、および質(「質」、「有効性」、「生命倫理」)という人権の要素を考慮している52。 第四に、これらの規定のほとんどは普遍的なものであり、高齢者や学生を含む社会的弱者に合わせたものもある。憲法は、性暴力の状況において「二重に弱い立場にある」人々への優先的なケアの必要性を認めている。

 しかし、憲法を国内政策に効果的に反映させ、その一貫性を確保するためには注意が必要である。エクアドルのケースは、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利を憲法がしっかりと保護しているにもかかわらず、矛盾した(二次的な)国内法や不十分な保健サービスによって、これらの権利の享受が妨げられているこの現象の好例となる。このような背景から、国内法では妊娠中絶がごくわずかな例外を除いて犯罪とされ、女性にとって壊滅的な健康被害をもたらしている。1995~2000年の妊産婦死亡の18%は安全でない妊娠中絶によるものであった54 。

 生命に対する憲法上の権利とセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対する憲法上の権利の緊張関係
不思議なことに、エクアドルの2011年の憲法改正では、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに関する強固な規定が導入された一方で、1980年代に採択された、受胎時からの生命を認識し保証する規定が維持された55。受胎時からの生命の保護とセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利との間の緊張関係は、一般的意見第22号や他の多くの国連機関によって取り上げられてきた。この一般的意見は、安全な中絶を提供し、これらのサービスの利用可能性を保証し、中絶へのアクセスを犯罪化または制限するすべての法律の廃止を含め、アクセスに対するすべての障壁を取り除くという国家の義務を明確に認めている56。さらに、生命に対する権利に関する新しい一般的意見も起草中であり、入手可能なバージョンは一般的意見第22号と同じ路線を踏襲しており、締約国が中絶へのアクセスを制限することを選択したとしても、その結果、妊娠中の母親の生命に対する権利や残虐な、非人道的な、品位を傷つける取り扱いや刑罰にさらすことの禁止など、ICCPRに基づく他の権利を侵害することはできないと述べている57。したがって、国家の国際的義務に従って、このような憲法上の規定は廃止されなければならず、中絶の全面的禁止を根拠づけることはできない。これらの規制は、特に母親を深刻な健康リスクにさらすことなく、母親の生命を保護するために必要な治療的中絶や、妊娠を継続することが母親に深刻な精神的苦痛を与えるような状況に対する法的例外を維持するものとする58。


限界
 本研究の潜在的な限界のひとつは、検索範囲に関するものである。私たちは、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対する権利から、国際法で明確に規定されている用語を意図的に選んだ。私たちの検索では、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利を暗黙のうちに規定したり、他の関連する権利の規定で「捕捉」している憲法が検出されなかった可能性がある。例えば、健康に対する権利を謳った憲法は、その範囲にリプロダクティブ・ヘルスを含めることができる。しかし、私たちの調査では、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスを中心に明示的に枠組みされていない関連する権利は含まれておらず、また、児童婚/同意年齢や女性に対する暴力に関する規定など、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対する権利に影響を与える間接的な推進要因や要素も含まれていなかった。というのも、私たちの研究の範囲は、国際法の下で解明され、最近委員会によって一般的意見第22号で肯定されたこれらの概念に、国内の憲法がどのように対処しているかを理解することだったからである。

 私たちの研究に内在するさらなる限界は、国内憲法における用語が、国際法で合意された基準とは異なる解釈と適用を受ける可能性があることである。この現象は必然的に、本研究で特定した憲法条項の潜在的影響力を制限する。


今後の課題
 国際社会は、ICPDと北京行動計画においてセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利を承認しているが、世界の開発アジェンダはこれまで、リプロダクティブ・ヘルスと権利の問題を避けてきた。ヤミンとブーランジェは、女性の健康において持続可能な進歩を遂げるためには、女性のエンパワーメントという核心的な問題に取り組むために、セクシュアリティリプロダクティブ・ヘルスを包括した取り組みが必要であると強調している59。現在では、生殖能力とは独立したライフサイクルのアプローチを考慮したセクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスを中心に、女性の健康を再構築することに大きな注目が集まっている。より広範な開発の観点からは、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利の実現もまた、持続可能な開発目標(SDGs)の主要な目的のひとつであり、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利を包含する人権条約への直接的な言及は、ターゲットそのものに見られる60。2017年7月、ハイレベル政治フォーラムは、SDGs 3と5のテーマ別レビューを実施し、2015年以降の進展はわずかであることを示した。これらの目標の達成には、国家が衡平性を確保し、人権とジェンダー平等を実現し、保護し、促進し、科学研究とイノベーションへの適切かつ持続的な資金と投資を確保することなど、さらなる取り組みが必要である61。女性と子ども、青少年の健康のための世界戦略(2016-2030)」は、特に権利の享受に対する障壁を取り除き、ジェンダー平等を促進することによって、健康と幸福への権利を達成できる「実現可能な環境を拡大する」ことを主要目標としている62。

 今後の研究では、国内憲法から国内政策への転換を検証する必要がある。法律と政策を実際に実施するための重要な要素のひとつは、十分かつ持続可能な資金調達である。リプロダクティブ・ヘルスに投資する国家責任を明記することは、特に緊縮財政の時代には悪名高い課題であったこれらの権利を実現するための心強い戦略であることが証明されるかもしれない。また、リプロダクティブ・ライツ・センターが開発したモニ タリングツールは、適切な予算が配分されることが、国家が公約を遵守 しているかどうかを評価するために不可欠な要素であると考 えている64 。さらに、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対す る権利は、緊縮財政に伴う国家予算の削減によって、真っ先に悪影 響を受ける65 。シャレヴは、避妊薬が国家予算を失った最初の種類の薬であり、中絶が無料医療サービスから削除された最初の内科的行為であったクロアチアの例を挙げている66 。セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利の法的認識と予算配分に関する具体的な規定が、これらの権利の実現を支援するだけでなく、政府行政の変化や経済的・社会的な争いに耐えることができるかどうか、またどのように耐えることができるかについて、今後の研究を向けることができる。


国内法に対する主な提言
 憲法は、すべての国内法と同様に、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利を保護・促進するための人権アプローチに適合すべきである。具体的には、各国政府は、差別なくすべての個人のこれらの権利を尊重し、保護し、実現することを明示すべきである。

 第一に、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスおよび権利の完全な享受に対する障壁を憲法から取り除くべきである。一般的意見第22号に沿い、各国政府は家族計画における強制的な慣行や中絶に対する制限的なアプローチを憲法に成文化することをやめるべきである。第二に、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに対する権利は、男女、インターセックストランスジェンダーの人々のさまざまなニーズや、ライフサイクルのさまざまな段階における彼らのニーズに配慮した形で枠組みされるべきである。セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスは、憲法上、平等な保護と促進に値する。これには、自分のセクシュアリティと生殖について、強制されることなく、十分な情報を得た上で決定する権利や、避妊、包括的なセクシュアリティ教育へのアクセス、安全な中絶サービスなど、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスに必要なヘルスケアを利用する権利が含まれる。さらに、セクシュアル&リプロダクティブ・ライツを謳う権利のパラダイムを取り入れることが極めて重要である。第三に、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利が他の人権と不可分であり、相互依存関係にあることを再確認することが重要である。本稿は、セクシュアル&リプロダクティブ・ヘルスへの権利の実現に真にコミットする将来の憲法制定者や政府が考慮しうる既存の憲法条文の例を提供するものである。

References
上記の原文のURLで参照してください。

米最高裁前で中絶ロボットが中絶薬を配布する

エイドアクセス プレスリリース 2024年3月24日

Abortion Roe-bots to dispense abortion pills in front of the Supreme Court. @ AidAccess

 中絶薬を全50州で提供する遠隔医療中絶サービスAid Accessは、Women on WavesおよびAbortion Access Frontと共同で、ワシントンD.C.最高裁判所前で中絶ロボットを公開する予定である。 これらのロボットは、一般に中絶薬として知られるミフェプリストンを米国東部標準時の3月26日午前8時30分に配布する。


 中絶ロボットは、法的保護が中絶提供者を懲罰的措置から保護するシールド法の州内から遠隔操作される。[1] [2]

 最高裁判所は、薬による中絶の重要な要素であるミフェプリストンの登録状況を審議するため、米国東部標準時間午前9時に召集される。この決定は、郵送による中絶薬の入手可能性に計り知れない影響を与える。

 ミフェプリストンは、妊娠を終了させるためにミソプロストールと組み合わせて使用される。世界保健機関(WHO)は、遠隔医療による中絶サービスや、妊娠13週までは医療従事者の直接の監視なしに中絶薬ミフェプリストンとミソプロストールを自宅で使用することを推奨しています。過去数十年の科学的研究により、郵送による遠隔医療による中絶は非常に安全で、クリニックでの中絶と同様であることが示されています[3] [4] [5]。

 エイド・アクセスの遠隔医療による中絶サービスを利用した女性たちを代表するアミカスブリーフは、このようなサービスの不可欠な役割を強調している[6]。

 いくつかの研究は、遠隔医療による中絶サービスを希望する最も一般的な理由は、クリニックでの治療を受ける余裕がないこと(73.5%)、プライバシー(49.3%)、クリニックの距離(40.4%)であることを示している[7] [8] [9] [10]。遠隔医療による中絶サービスを受けた人々の多くは、連邦政府の貧困レベル以下で、社会的に脆弱な環境で暮らしている。[11] [12]

 遠隔医療による中絶サービスは、イギリス、フランス、カナダ、アイルランドニュージーランド、そして2022年12月からはアメリカを含むいくつかの国で確立されている。

 エイド・アクセスは、この件に関する今後の最高裁判所の判決とは関係なく、50州すべてにおいて郵送またはRoe-botsによる中絶薬の提供を継続することを約束している。

中絶ピル日本女性が中絶薬を手に入れるのにパートナーの同意が必要になる理由

31 August 2022, By Rupert Wingfield-Hayes, BBC News, Tokyo


一年半前のBBCの記事ですが偶然見つけました。染谷明日香さんのコメントが載っています。
Abortion pill: Why Japanese women will need their partner's consent to get a tablet

仮訳します。

中絶薬  なぜ日本人女性はタブレットを手に入れるのにパートナーの同意が必要になるのか?

日本の女性が中絶ピルを使用するにはパートナーの同意が必要になる


 アメリカではロー対ウェイド戦の廃止をめぐっていまだに議論が続いているが、日本ではいわゆる内科的中絶の合法化をめぐって、それほど騒がしくない議論が繰り広げられている。

 5月、厚生省の高官は、英国の製薬会社ラインファーマ・インターナショナルが製造する中絶薬をついに承認することになったと国会で述べた。

 しかし同高官はまた、ピルを投与する前に女性は依然として「パートナーの同意を得る」必要があると述べた。

 手術ではなくピルを使った内科的中絶は、34年前にフランスで合法化された。イギリスでは1991年に、アメリカでは2000年に承認された。

 スウェーデンでは中絶の90%以上をピルが占め、スコットランドでは約70%をピルが占めている。


 しかし、ジェンダー平等に関して実績の乏しい日本は、女性のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に関連する医薬品の承認に極めて時間がかかったという歴史がある。

 避妊薬や避妊ピルの承認には30年かかったが、男性のインポテンツ治療薬バイアグラの承認にはわずか6カ月しかかからなかったと、この国のキャンペーン関係者は冗談めかして言う。どちらも1999年に発売されたが、後者が先だった。

 避妊用ピルにはいまだに規制があり、高価で使用しにくくなっている。すべては、日本で中絶が合法化された経緯にさかのぼる。

 日本は1948年に世界で初めて中絶法を制定した国のひとつである。

 しかし、それは優生保護法の一部だった。この法律は、女性が生殖に関する健康をコントロールできるようにすることとは何の関係もなかった。むしろ、「劣った」出産を防ぐためのものだった。


 優生保護法の第1条には、「優生学的見地から劣った子孫の出生を防止し、母親の生命と健康を保護すること」とある。

 優生保護法は1996年に名称が変更され、母体健康保護法となった。

 しかし、旧法の多くの側面は残った。そのため、今日に至るまで、中絶を望む女性は、夫やパートナー、場合によっては恋人の書面による許可を得なければならない。

 太田みなみ*に起こったことがまさにそれである。
 恋人がセックスの際にコンドームの着用を拒否したため、彼女は妊娠したのだ。日本では、コンドームはいまだに主要な避妊手段である。

 大田によれば、恋人は中絶を許可する書類にサインすることを拒否したと言う。

 「私が彼に避妊するように頼まなければならなかったのはおかしいです」と彼女は言う。「彼がコンドームを使いたくないと決めたのに、私は中絶するために彼の許可が必要だった」。

 「妊娠は私自身と私の体に起こったことなのに、他人の許可が必要だった。それが私を無力にした。自分の体や将来について決断できなかった」。

 アメリカとは異なり、日本の中絶観は宗教的な信念によって左右されるものではない。むしろ、家父長制の長い歴史と、女性と母性の役割に対する深い伝統的な考え方に由来している。


日本は母親にとって最悪の先進国なのだろうか?
 「それは非常に深いところにある」と太田は言う。「日本で妊娠すると、その女性は母親になる。いったん母親になれば、子供のためにすべてを投げ出さなければならない。素晴らしいことのはずだ。自分の体なのに、妊娠してしまったら、もう自分の体ではなくなってしまう」。

 病院や診療所に入院する必要があるため、中絶薬を入手するのは難しく、費用もかかる。

 「日本では、中絶ピルを服用した後、患者をモニターするために入院しなければならない。従来の外科的中絶よりも時間がかかります」と日本産婦人科医会の前田津紀夫副会長はBBCに語った。

 英国を含む他の多くの国では、現在、女性が自宅で中絶薬を自分で投与することは合法である。


 「母体健康保護法では、中絶は内科的中絶でなければならないとされている。ですから、残念ながら現在の法律では、中絶薬を市販することはできません。それは違法です」と前田医師は付け加えた。

 女性のセクシュアル・ヘルスを求める活動家たちは、これは医学的な問題というよりも、医療機関が儲かるビジネスを守るためだと言う。

 「多くの決断は、高齢で子供を抱くことのない体を持っている男性によって下されると思います」と、自身のNGOを運営するセクシュアル・ヘルス活動家の染谷明日香は言う。

 セクシュアル・ヘルス・キャンペーナーの染谷明日香は、避妊に関する女性の自主性を高めるよう働きかけている。
 彼女によれば、中絶を容易にすることに対して、男性優位の日本の体制はいまだに大きな抵抗があるという。


 女性が中絶しやすくすれば、中絶を選ぶ女性の数が増えるという主張だ。だから、中絶を困難で費用のかかるものにするのだ。

 しかし、他の国々の証拠が示すように、これは女性の選択肢を狭め、苦しみを増やすだけで、望まない妊娠を減らすことにはつながらない。

 結局のところ、性教育を改善し、男性にコンドームを使わせるのではなく、日本人女性が避妊の主導権を握ることに答えがあるとミズは言う。

 ヨーロッパでは避妊ピルが最も一般的な避妊法である。日本ではわずか3%の女性しか使用していない。

 彼女はこう付け加える。 「若い女の子や女性の声に耳を傾けた政策がもっと作られることを望んでいます」。

投稿者の身元を保護するため、一部名前を変えている。

ホビーロビーはトランプのリプロダクティブ・ライツ破壊球となりうるか

TNR, Susan Rinkunas/March 25, 2024

米国の超保守派は「この運動の根底にあるのは、人々の身体を支配し、セックスは既婚者の間でのみ子孫を残すためのものだという数十年来の規範を復活させたい」と願い、「受精卵の着床」を防ぐ避妊や緊急避妊を攻撃しようとしている。

How Hobby Lobby Could Be Trump’s Reproductive Rights Wrecking Ball | The New Republic


仮訳します。

 2014年の最高裁判決は、トランプ再選とコムストック法復活の可能性を見つめる中で、より重大な意味を持つ。

 連邦最高裁サミュエル・アリート準判事は、ホビーロビー対バーウェル訴訟の多数意見を書いた。


 10年前、サミュエル・アリト判事がホビー・ロビー対バーウェル訴訟の多数意見を書いたとき、彼は少なくとも公式には誰も尋ねていなかった疑問に対する答えを提供した。原告であるキリスト教徒が経営する2つの企業は、緊急避妊薬(E.C.)として知られる種類の避妊法をカバーすることを医療保険提供者に義務付ける「医療費負担適正化法(Affordable Care Act)」に異議を唱えた。俗に「モーニングアフターピル」として知られるE.C.は、精子卵子と受精するのを阻止するか、そもそも卵子が放出されるのを阻止することによって妊娠を防ぐために、性行為後に作用する。しかし、中絶反対運動家たちは、モーニングアフターピルIUDは受精卵の子宮への着床を阻止するものであり、それは中絶に等しいと信じている。

 最高裁は、避妊義務付けは、4種類の避妊法(プランBとエラの2種類のE.C.ピルと2種類のIUD)は中絶薬であると考えるこれらの雇用主の宗教的信条に違反するとして、原告側の判決を下した。アリトは意見書の中で、これら4つの方法は「すでに受精した卵子が子宮に付着するのを阻害することによって、それ以上発育するのを妨げる効果があるかもしれない」と書いた。そして脚注で、原告側は生命は受精から始まると信じているが、政府の科学者たちは着床から始まると言っている、と説明した。


 アリトは判決に至るまで、そのすべてを語る必要はなかった。「カリフォルニア大学デービス校法学部の教授で、中絶をめぐる法廷闘争の歴史に詳しいメアリー・ジーグラー氏は言う。彼はただ、『この人たちはこう信じている』と言えばよかったのです」。(アリトがヤジを飛ばしたといえば、ホビー・ロビー事件は、彼が保守派の献金者に結果をリークしたとされる事件である)。ニューヨーク大学ロースクールのメリッサ・マーレイ教授は、「ロー対ウェイドがなくなった今、アリトの意見は中絶反対運動にとって、10年前よりもさらに大きな贈り物になるかもしれない」と言う。

 「ドッブス事件後、これらの避妊法をめぐる問題は、実際、中絶薬として分類し直せるかどうかということである。そして、問題は避妊ではなく、中絶なのです」とマレーは言う。「ホビーロビーはその基礎を築いた。」

 共和党が議会抜きで中絶を禁止しようと画策していることを考えると、議員たちが何を中絶薬とみなすかはますます重要になってくる。最高裁が明日、中絶薬ミフェプリストンの入手を制限する可能性のある訴訟で弁論を行う際、ロー最高裁の崩壊後に作られた法理論とも争うことになる。ビクトリア朝時代のゾンビのような中絶禁止法、1873年の連邦コムストック法がよみがえり、現在では中絶に使われるあらゆる薬物や器具の所持、販売、郵送を犯罪としているのだ。


 ミフェプリストンの件がどうなろうと、プロジェクト2025の背後にいる保守的な活動家たちは、トランプ政権が中絶薬の全国的な出荷を禁止するためにコムストックを施行することを望んでいる。これが何を意味するかは想像に難くない。もし中絶反対活動家たちが、プランBやIUDが中絶の原因であると考えるなら(ホビーロビーが後押しした考えである)、彼らはコムストックのもとでそれらも禁止しようとするかもしれない。「もしモーニングアフターピルが堕胎薬であり、コムストック法が堕胎薬の郵送を禁止するのであれば、緊急避妊薬の郵送も禁止されると考えるのは、それほど飛躍したことではありません」とジーグラー氏は言う。ミフェプリストンが最初のターゲットになるだろうが、保守派は「緊急避妊について何かしたいということを隠していない」と彼女は言う。

 キリスト教右派の法律事務所ADF(Alliance Defending Freedom)は、ホビー・ロビー事件の原告代理人として、ミフェプリストン事件を提起し、2月の準備書面でコムストック事件についての見解を裁判所に求めた。(中絶薬裁判の原告である中絶反対医師のグループには、訴えを起こす法的な資格はないに等しいが、ADFのもう一つの裁判である303クリエイティブのコロラド州のウェブサイト・デザイナーも同様である。最高裁は昨年6月、彼女に有利な判決を下した。

 ジーグラーは、プロジェクト2025の背後にいる活動家や、コムストックを後押しするジョナサン・ミッチェル弁護士は、この法令を間違って読んでいると述べた。しかし、トランプが勝利し、コムストックに友好的な司法長官を指名すれば、それは選挙戦に突入する。そしてそれは、ミフェプリストン、クリニックでの中絶のための消耗品、緊急避妊以外にも影響を及ぼす可能性がある。


 マレーは、トランプ政権がFDA承認の薬による中絶プロトコルの2番目の薬であるミソプロストールのような、中絶を誘発することが知られている他の薬にもコムストック禁止令を適用する可能性は「大いにあり得る」と述べた。ミソプロストールは妊娠を終わらせるために単独で使用することができ、流産を経験した人々にも処方される。(ミソプロストールはもともと潰瘍治療薬として認可されたもので、ブラジルのフェミニストたちが後に適応外使用を発見した)。「すべての賭けは外れました」と彼女は言う。「もしミソプロストールがペニスの病気の治療に使われ、人々がそのための切り分けを見つけることができるのであれば、私はミソプロストールについてもっと良く感じるでしょう」。彼女は、1965年のグリスウォルド対コネチカットの画期的な判決で争われたコネチカットの法律が、性感染症の予防に役立つという理由で、コンドームを除外する一方で、ダイアフラムとピルを禁止したことを指摘した。

 議会は1971年にその部分を廃止する良識があったが、だからといって避妊が安全だということにはならない。保守派は何十年もの間、避妊と中絶を混同してきた、とジーグラーは言う。1990年代後半、Pharmacists for Lifeという団体は、最初のモーニングアフターピルを "緊急中絶 "と呼んだ。アリトのホビーロビー意見は、バースコントロールを中絶と混同した唯一の最高裁判決ではないとマレーは指摘する。クラレンス・トーマス判事は、2019年の「Box v. Planned Parenthood」という事件でこのマントルを手に入れ、賛成意見を用いて、避妊運動の優生学に満ちた歴史を中絶の歴史に接ぎ木しようとした。(彼は間違っている:優生法は中絶ではなく、強制不妊手術に依存しており、19世紀に中絶を制限する最初の取り組みは、主に白人の出生率を高めることを目的としていた)。

 マレイが「ヴィクトリア朝の抑圧の熱の夢」と評したコムストックは、明確な避妊の項目がなくなっても、「不道徳な目的」での郵送物も禁止している。もし保守派が本当に最大主義を貫きたいのであれば、あらゆる避妊が "不道徳 "であると主張できるだろう、と彼女は言う。では、なぜ中絶反対派の活動家たちは、緊急避妊のように意図しない妊娠を防ぐのに役立つ、昔からある普通の避妊具を標的にしたいのだろうか? なぜなら、この運動の根底にあるのは、人々の身体を支配し、セックスは既婚者の間でのみ子孫を残すためのものだという数十年来の規範を復活させたいという願望だからだ。


 もし最高裁がコムストックを復活させれば、グリスウォルドを覆すことなく、一部の避妊法の禁止を事実上容認することになる。「グリスウォルドのような有名な判例を覆すことになれば、裁判所は文字通り大混乱に陥るだろう。「避妊のない世界がノーマライズされれば、グリスウォルドを覆すのはもっと簡単になる」。

 トランプ政権がコムストックを引き合いに出して緊急避妊とIUDの郵送を禁止した場合、擁護派は上訴する可能性があるが、この最高裁がそれを止めるかどうかは未知数である。ミシガン大学のリア・リットマン教授は、アレックス・ワグナー・トゥナイトに出演した際、かなり懐疑的な発言をし、2014年の判決に結びつけた。「ホビー・ロビー対バーウェル事件で最高裁は、一部の雇用主は、ある種の避妊法は堕胎薬であると信じ、その信念に基づいて行動する権利があり、従って従業員にそのような形態の健康保険を提供する必要はない、と本質的に述べた。「共和党最高裁は、法の限界を試すためなら基本的にどんなことでもやらせてくれるだろうし、法律に制定することなく連邦政府による中絶禁止を実現させようとするだろう。

 それに対してワグナーは、「だからカマラ・ハリスは今日ミネソタにいたのだ。民主党が州を支配している青い州にいて、必要だと思うすべての保護があっても、ホワイトハウスに誰が座っているかが重要なのだ」。コムストックにとって、大統領が誰であるかが重要なのは事実だ。そして、その大統領がジョー・バイデンであり、中絶禁止を全米で実現させうる人物と、あまりに接近した再戦を見つめている八十代の男性である場合、もっと多くのことを行う必要がある。もしそれが失敗に終われば、民主党は少なくとも有権者にコムストックの存在と共和党がそれを維持することに満足していることを知らしめることができるだろう。


 マレーは、バイデン政権が魔法のような思考にふけっている可能性があることを認め、現時点での賢明な行動は、ミフェプリストン訴訟を前にして最高裁に信用されないよう、コムストックの潜在的脅威を無視することだと考えている。「もう遅すぎる。"その船は出航した"。あとは民主党が爆弾を解除するかどうかだ。「民主党議員の多くが、この法案がもたらす脅威を理解しているとは思えない。「コムストックを廃止してほしいか?100%そうだ。そうなると思うか?おそらくしない。

 確かに、民主党議員はローを連邦法に成文化しようとしたことがある。その努力は、引退する2人の上院議員フィリバスター(議事妨害)を強要したおかげで、失敗に終わった。バイデンはこの分野では挫折したが、選挙運動でコムストックについて語り、女性が選挙権を得る前に書かれた全国的な中絶禁止令を共和党が支持しているかどうかを記録に残すよう議会指導者に働きかけることで、失ったものを取り戻すことができるだろう。中絶が選挙を制するこの時代に、民主党が両院で、そう下院でさえも投票を強行し、女性や妊娠中の人々をさらに服従させようとするこの共和党の露骨な計画についてキャンペーンを展開しなければ、中絶に関して実質的な何かを提供することに対する民主党の反感を裏付けることになる。しかし、もし民主党がコムストックに警鐘を鳴らせば、私たち全員をビクトリア朝時代の刑務所から救ってくれるかもしれないし、11月に勝利する可能性さえある。

The Birth Control Handbook and the Montreal Health Press

Atlas Obscura, BY TAO TAO HOLMES, MARCH 31, 2016

The Illegal Birth Control Handbook That Spread Across College Campuses in 1968 - Atlas Obscura

 これより10年以上早く、日本では中絶が合法化され、1950年代には大企業ぐるみでの家族計画運動が盛んだったことを思うと隔世の感がある。

1968年、大学のキャンパスに広まった違法な避妊ハンドブック
カナダのティーンエイジャーのグループが、避妊に関する最初の一般的なテキストを書いた

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避妊ハンドブック第2版のページ。
避妊ハンドブック』第2版のページ。CANADIAN MUSEUM OF HUMAN RIGHTS/USED WITH PERMISSION

 1968年にマギル大学の学生たちによって最初に印刷された『避妊ハンドブック』は、先駆的なテキストだった。それはまた、違法でもあった。


 大学生はしばしばセックスをすることを求めている。しかし、1960年代後半になると、彼らは避妊、中絶、そしてその間にあるあらゆることに関する、セックスに関するより多くの情報も求めていた。カナダのモントリオールでは、ある学生グループが法律を公然と犯して、性の健康についての重要な情報を提供するテキストを出版した。

 そのような情報を見つけることがほとんど不可能だった当時、彼らの避妊ハンドブックは何百万部も配布され、カナダ全土とアメリカからリクエストが殺到していた。

 第2版 中絶はハンドブックで扱われた主要なトピックだった。チェルニアックは、彼らは決して反出産主義者ではなく、女性に選択肢を与えたかっただけだと強調する。(画像:カナダ人権博物館/許可を得て使用)

 新聞紙に白黒で印刷されたハンドブックは、1968年から1975年の間に12版を重ね、性的健康教育に対して大胆な政治的・分析的アプローチをとった。

 1968年当時、カナダの刑法では、避妊法の普及、販売、広告はすべて違法であり、中絶は終身禁固刑に処されていた。米国では、1843年に「わいせつな文学や不道徳な用途の物品の取引や流通を抑制する法律」として成立したコムストック法が、避妊具や中絶薬、それに関連するものの出版、所持、流通を犯罪としていた。1971年になって初めて、議会は避妊に関するコムストックの文言を削除した。

「政治の中心にケアを」岡野八代さんが問うリベラルの不正義

毎日新聞 清水有香 2024/3/24 14:00(最終更新 3/24 14:00)

「政治の中心にケアを」 岡野八代さんが問うリベラルの不正義 | 毎日新聞

 「このままでは人間社会はもたないですよ。だから変えないといけない」。同志社大の岡野八代教授(政治学)は危機感をあらわにした。

 例えば少子化の加速。それは子育てに冷淡な社会の一面を映し出す。自民党の裏金問題の一方で、生活苦を自己責任にするこの国の理不尽な現実に、私たちは目を閉ざしたままでいいのだろうか。フェミニズム思想を専門とする岡野さんが新著『ケアの倫理』(岩波新書)で唱えるのは、ケアを中心にした社会変革だ。

 <誰もがケアされる/する人びとである>。この原点から政治を、社会を、どのように構想できるかを本書は問いかける。


社会制度を問う「ケアの倫理」
 そもそもケアとは何だろう。

 一般には気遣いや世話と訳される。専門職による介護や手当てという意味もある。その相手が他者であれ自分であれ、「気にかける」ことが本質にはある。ケアは社会に遍在し、どんな人間もケアなしには生きていけない。

 にもかかわらず、家事や育児に代表されるケアの営みは「母性」「女らしさ」と結びつけられ、不当におとしめられてきた。本書は女性たちが歴史的に担わされてきたケアを起点に、それを「人類的な活動」として捉え直す。

 「ケアは人間にとって不可欠なもの。なのに、経済的にも社会的にも評価されずにきた。このギャップは一体何を意味しているのかという問いは、現在に至るまで解決されていないのです」

 その問いの中心にあるのが、ケアの「倫理」をめぐる議論だ。…

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