社会保障改悪の年表

2023年8月2日付 赤旗等より

1973年 福祉元年
老人医療費無料化、健保改正(家族7割、高額療養費)、年金給付水準引き上げ・物価賃金スライド制
81 第二次臨時行政調査会が発足
82 医師養成の削減を閣議決定
83 老人医療費無料を廃止
84 健保本人窓口負担を無料から1割に。
国保の国庫負担割合を大幅引き下げ
97 健保本人の窓口負担を1割から2割に
医師養成数削減の継続を閣議決定
2002 高齢者の医療費窓口負担を定額から1~2割に
03 健保本人の窓口負担3割
04 年金制度大改悪(マクロ経済スライド導入など)
生活保護老齢加算削減を開始
05 介護施設の食費・居住費を全額自己負担に
06 介護保険改悪で軽度者のサービスと利上げ開始
生活保護老齢加算廃止
一定所得以上の高齢者の医療費を3割に
08 後期高齢者医療制度導入
12 社会保障・税の一体改革
13 「特例水準解消」を口実に年金削減開始
(年金はその後の11年間で実質7%以上減)
生活保護法改悪し親族扶養強化
生活保護の生活補助基準削減を開始
14 70~74歳の医療費負担を段階的に2割に
15 年金の経済マクロスライドを初めて実施
生活保護の生活扶助、住宅扶助、冬季加算削減
介護保険給付から要支援者を排除
一定所得以上の介護利用料を1割負担から2割負担に
特養ホームの入所を要介護3以上に限定
18 国保都道府県化」開始。国保料値上げラッシュ
一定所得以上の介護利用料を3割負担に
22 一定所得以上の75歳以上の医療費を2割負担に

福島第一原発事故:2018年国内避難民の人権に関する国連特別報告者の調査後ステートメント

調査終了後のステートメント
国内避難民の人権に関する特別報告者の日本国における調査
2022年10月7日

I. はじめに

  東京、2022年10月7日 –国内避難民(IDPs (Internally Displaced Persons: IDPs) とは、内戦や暴力行為、深刻な人権侵害や、自然もしくは人為的災害などによって家を追われ、自国内での避難生活を余儀なくされている人々を指す。)の人権に関する国連の特別報告者としての私の立場で、日本国政府との合意の上、2022年9月26日から10月7日まで、日本国への公式訪問を実施することができたことを光栄に思う。私の訪問は、2011年の東日本大震災津波の後に続いて発生した福島第一原子力発電所災害によって移動を余儀なくされたIDPs(日本国では「避難者」としても知られている)の人権状況を、国内避難に関する指導原則という国際的な法的枠組みと、国内避難民のための恒久的な解決策に関する機関間常設委員会枠組みの範囲内で調査し評価することを主な目的としている。
  私の訪問期間中には、東京でミーティングの機会を持ち、その後、福島県京都府広島県に移動した。私は、国、都道府県及び市町村自治体レベルで、行政官や議員と面談した。また、被害者である国内避難民、この災害による影響を受けた福島県の地域社会、市民社会団体、これらの問題に関して専門知識を有する弁護士及び学術研究者とも面談する機会を得た。私は、IDPsから心を動かされる直接の証言を聴き、この災害とこの災害後の救済措置に関連する研究について聴き、またこれらに関連する文書を受け取った。さらに、日本国における自然災害及び人為的災害によって避難を余儀なくされた人々の保護と支援に対する権利に関連する法律を検討することができた。これらの法律には、特に、災害救助法*1災害対策基本法*2原子力損害の賠償に関する法律*3、福島復興再生特別措置法*4、及び東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律*5を含む。
  私は、日本国外務省に対して、私の任務に優れた協力をし、国際的かつ綿密な調査に対する開放性を示し、及び任務に関する特別報告者の委任事項を尊重していただいたことに関して、謝意を表明する。私は、私の訪問に関連する報告を行い、情報を提供していただいたその他関係省庁にも感謝する。また、現地の状況の実態に関する詳細な情報を提供していただいた福島県京都府広島県の各県当局と、会津若松市大熊町双葉町いわき市京都市の各市町当局にも感謝する。私は、この問題に関する状況の概要を提供していただいたさまざまな市民社会団体、弁護士及び研究者の方々と、とりわけ母親、若者、高齢者、障害のある人を含む国内強制移動と今回の原子力災害の被害者の皆様、並びに今回の原子力発電所事故以来直面してきた困難に関する詳細を共有していただいた人権擁護者の皆様に感謝する。
  このステートメントは、私の訪問に基づく予備的所見のみを示している。政府及び他のステークホルダーに対する私の完全な分析と勧告は今後数ヵ月間で作成され、2023年6月の人権理事会で報告される。

II. 強制移動の状況と背景

  2011年3月11日の東日本大震災津波及び原子力災害は、ほとんど前例のない三重の災害だった。日本国の東部沖で発生したマグニチュード9.0の地震(日本国における観測史上最大の地震)は、最大40メートルに及ぶ津波を発生させたことに加えて、非常に甚大な破壊をもたらした。この災害の結果、2万人を超える人々が亡くなったか、又は行方不明となった一方で、100万棟以上の建物が完全に又は部分的に破壊された。
  津波は次に福島第一原子力発電所原子力事故を引き起こしたが、同原子力発電所ではこの規模の自然災害の可能性に対応することができるような緊急事態のための準備や減災措置がなされていなかった。最大14メートルの波は福島第一原子力発電所の防波堤を越え、同原子力発電所のタービン建屋が浸水し、そのことにより電源喪失を生じさせた。初期の災害に続く数日で、同原子力発電所内で発生した一連の炉心溶融や水素爆発は放射能汚染の放出を引き起こした。この事態に対して、日本国政府は、約11万人の住民が居住する福島第一原子力発電所から20キロメートル圏内を強制避難区域とした。この初期の境界線は、道路を通って移動する必要がある人々の人数の観点から、運用上の考慮に基づいて決定された。なぜなら、この段階で避難区域を拡大することは、福島第一原子力発電所に最も近いところに居住する住民が迅速に避難する能力を制限する可能性があった交通渋滞を発生させていた可能性があったからである。結局のところ、この強制避難区域は高濃度の放射能の影響を受けやすいと考えられるこの半径の外側の地域を含むように拡大され、最終的に福島県の合計15万4千人の住民が避難した。
  この原子力災害が放射線被ばくの観点から及ぼしうる影響の可能性は、事故後数週間から数ヵ月をかけてゆっくりとしか明らかにならないため、隣接県の住民や避難指示を受けていない福島県内に住む人々を含む、さらに多くの市民が彼ら/彼女らの自宅から避難した。災害が発生した区域から放射能がどのようにして広がるのかに関してははっきりしておらず、また放射線被ばくやそのような放射能のリスクに関する公的な情報も錯綜していたことを考慮すると、多くの日本国の市民、特に子どものいる人々は、この災害の影響に関するより信頼できる情報が利用可能になるまで、避難をすることが最も安全であると感じていた。この災害の最中には、少なくとも合計47万人以上の人々が避難を余儀なくされた*6
  IDPsに対する当初の政府による支援は災害救助法を通じて提供され、後にこの災害により特化した福島復興再生特別措置法(2011年)を通じて行われた。この法律は、医療、福祉、住宅支援、教育及びその他のサービスへのアクセスをIDPsに提供するための措置の概要を示している。また、文部科学省(MEXT)内に設置された原子力損害賠償紛争審査会は、東京電力(TEPCO)が被害者に対して提供すべき賠償に関する一連の指針や過程を2011年に策定し、その後、TEPCOはこの災害の被害者に対して賠償の支払いを開始した。これらの措置を初期に採用したことは称賛に値するが、その一方で、IDPsがこれらの給付を利用することができるのかという点に関して、特に避難が当局によって「自主的」と呼ばれる人々に対しては相当程度の差別が存在し続けていた。これらの措置は、その後、2012年に成立した被災者の生活に対する支援措置の推進に関する法律により補完された。この法律は、帰還か避難かに関して、被災者自身が選択をする被災者の権利も認めている。しかしながら、この法律の完全な実施は、10年が経過した今も実現していない。また、IDPsが受けた支援やサービスのレベルは、IDPsの保護と支援に対する一貫した国のアプローチが存在していたというよりは、IDPsが避難した都道府県の政策に大きく依存していた。
  近年、IDPs自身の将来を決めるためにIDPsを支援することから転換し、IDPsを説得して帰還させるか、又はいかなる支援も失う事態に直面させる方向に向かっている。住宅支援は、福島県外に居住するIDPsに対しては打ち切られてきた。復興資金は、以前避難指示が出ていた町で物的な社会基盤施設の再建のために用いられることが多くなっている。他の復興の取り組みには、原子力発電所廃炉のための作業や、福島県にハイテク産業基盤の構築を目指す福島イノベーション・コースト構想などの開発計画が含まれる。基本的なサービスや、IDPsが所在し続け居住している地域での地方自治体のサービスに関する照会先を提供するために、全国26ヵ所に福島ヘルプデスクを設置することは、特に強制移動の初期においては情報の普及を可能にする上で役に立ってきたし、良い実践であるが、サービスの照会だけではIDPsのすべてのニーズに対処することはできない。
  一方で、全国で何百ものIDPの原告が提訴し、政府とTEPCOの双方に対して訴訟を続けており、民法原子力損害の賠償に関する法律に基づいてこの災害に関する基本的な支援と賠償を求めている。また、多くのIDPsは、同時に裁判外紛争解決手続ADR)も行っている。

III. 福島原子力災害における国内避難民の人権

  国内避難に関する指導原則は、IDPsとは、「…特に自然災害若しくは人為的災害の影響の結果として、又はその影響を避けるために、自らの住居若しくは常居所から逃れ又は離れることを強制され又は余儀なくされている者、又はこのような人々の集団であり、国際的に承認された国境を越えていない者」であると規定している。
  2011年の福島原子力災害においては、強制避難指示を理由として避難を余儀なくされたIDPsである「強制避難者」と呼ばれる人々も、避難指示はないものの、避難しなくてはならないと感じたIDPsである「自主避難者」と呼ばれる人々も、国際法の下でのIDPsである。災害を契機とする避難する権利は、移動の自由に基づく人権である。
  さらに、IDPsに対して人道的支援、保護及び実現可能な恒久的な解決策を提供することにおいては、区別はない。また、私がこの点に関して強調したいことは、国際法の下では、IDPsは強制移動に関する彼ら/彼女らの地位にかかわらず、依然として日本国の市民であり、この国の他のすべての市民が持っている権利を有しているということである。したがって、IDPsの保護における国家の主要な責任を果たす上で、IDPsが彼ら/彼女らの人権を通常通り行使できる状況が促進されることが重要である。

IV. 強制移動におけるIDPsの権利

安全及び安心に対する権利と住居に対する権利

  上記で述べたように、実際のリスク又は認識されているリスクからの安全を求める権利は、移動の自由と関連する権利である。この点は、福島原子力災害による多くのIDPsが経験してきた多様な強制移動という点を考慮すると、検討されなければならない重要な点である。統計調査は、福島県からのIDPsの大多数が安全と安心を探し求めながら、6ヵ月間で4回以上避難したことと、彼ら/彼女らが自分たち自身の権利行使に影響を与えたさまざまな状況を経験していることを示している。
幸いなことに、福島県と受け入れ側の他の都道府県及び市町村の計画を含む日本国のいくつかの政策は、可能な場合には仮設住宅を提供した。特にこの重要な支援は、仮設住宅、公的な住居施設の利用及び家賃補助などの形態を取っている。残念なことに、住宅支援の多くは打ち切られてきたが、この住宅支援の打ち切りが貧困な状態にある人々、生活手段のない人々、高齢者、障害のある人たちに特に深刻な影響を与えてきた。さらに、ある種の公営住宅に今も居住しているIDPsは、現在、彼ら/彼女らを相手取って提訴された立ち退き訴訟に直面している。IDPsがどこにいようとも、政府は、特に脆弱な状態にあるIDPsに対して住宅支援の提供を再開すべきであると勧告する。

家族生活に対する権利

  家族生活に対する権利は、私的な場と公的な場の両方で安定性を提供するほとんどの社会において必要不可欠な権利である。特に強制避難指示を受けていないIDPsの間では、子どもを持つ母親が安全を求めることを可能にするために選択がなされたが、その一方で、夫などの従来の稼ぎ手は家計収入を確保するために残った。残念ながら、このような状況は家族に2つの世帯を維持することを余儀なくさせ、このことが経済的困難を生じさせている。さらに、そのようなIDPsの中では高い離婚率が見られる。
  二世代以上の大家族は離散傾向があり、高齢者のIDPsは元の家族から離れて暮らし、自分たち自身で生活することを余儀なくされた。統計的研究は、家庭崩壊のすべての事案の中で30パーセント近くがこの地震の後に起こったことを示している。災害救助法に基づく緊急の仮設住宅の入居制限のために、避難の初期段階に制度的に離散された家族に関する多くの事例がある。将来に関する不透明さのために、この離散は解決されるよりもむしろ長期化する傾向にある。特に高齢者人口と心的外傷後ストレス障害PTSD)と診断された事例の中での高い不安のレベルは、そのような離散や支援制度の崩壊に端を発すると言われている。
  特に地方レベルでの社会福祉計画は、避難において離散した家族の一員の脆弱性に特に注意を払うべきであると勧告する。

生活手段に対する権利

  生活手段に対する権利は、いかなる文脈においても、IDPsの生計の中にある基本的人権である。この権利は、IDPsが尊厳を持って彼ら/彼女らの生活を再建することを可能にし、地域社会への帰属意識を提供することを可能にし、並びに経済的及び社会的な目的を持つことを可能にする。26ヵ所ある福島ヘルプデスクを通じた生活手段に関する機会の照会は、この点との関連で良い実践である。さらに、あるIDPsは避難先地域で中小企業を立ち上げ、避難者仲間や地元住民を雇用することができた。
  それにもかかわらず、研究と統計調査は、IDPsの「生産年齢人口」(20〜60歳)の20パーセントが失業していることを示している。この数値は、ほんの3パーセント未満という日本国のかなり低い失業率と比べると、高い割合である。さらに、特に女性からのいくつかの証言は、女性としての彼女たちの重荷を明らかにした。これらの重荷は、女性たちが避難中にシングルマザーになったことや、彼女たちが育児の責任のバランスをとる助けとなった元の場所でのパートタイムの仕事と同様の仕事を見つけることができないことを理由としていた。したがって、仕事を通して生活手段を再建することは、依然として進展していない。また、多くの女性は元の場所で育児を家族のネットワークに依存していたが、このようなネットワークは避難先地域には存在しない。
  IDPsが促進された企業資本を入手することができると同時に、情報を利用することができ、民間企業のプロモーションを行うことができる就職説明会やビジネスフェア、又は就職に関する仕組みのようなジョブマッチング制度で、生活手段のための既存のヘルプラインが強化されるべきであると強く勧告する。特にシングルマザーや働く母親のために育児の機会を拡大するための取り組みが至急実施されるべきであると勧告する。

健康に対する権利

  IDPsの健康に対する権利への影響は、常にすべての国内強制移動の状況の結果の1つである。身体と心の健康の両方がIDPsに関わる。なぜなら、IDPsは、新しい環境や将来への不安、普段の生活の中にあった家族や地域社会の支援構造が崩壊してまったことに慣れようと日々挑戦する中で、新しい状況に慣れるために苦闘しているからである。さらに、高齢者や障害のある人々は特に脆弱であり、これらの人々が一人暮らしの場合には著しく脆弱である。今回も、IDPsの間で高いレベルのPTSDが見られることを研究が示したということはそれほど驚くものではない。専門的なモニタリングと治療が、避難を余儀なくされた結果PTSDで苦しんでいる人々に対して提供されるべきであると勧告する。
  特に福島原子力災害は、住民とIDPsの両方の健康に対する放射線被ばくの影響に関して、とりわけ幼い子どもたちへの影響に関して、多くの問題を提起した。福島県は、例えば、甲状腺がんの無料スクリーニングを提供するという良い実践を実施したが、このような実践は定期的に継続されるべきであると勧告する。このような実践は、甲状腺がんを患う人々に対する集中した治療計画を確保するために、この問題の継続的なモニタリングを可能にし、経時的な健康上のリスクの変化を見るために必要とされる多くのデータを提供することになるだろう。

教育に対する権利

  教育はすべての人々にとって不可侵の権利だが、避難を余儀なくされるという経験はしばしばこの権利の享受を妨げる。教育に対する権利は、IDPsの子どもたちが避難を余儀なくされた結果として経験する可能性がある挫折や不平等を乗り越えるために必要となる知識や技術を深めるために、きわめて重要である。
  IDPの子どもたちは、慣れている学習環境から突然引き離されて、新しい状況に慣れることを強いられるときに、多くの場合、重大な課題に直面する。残念なことに、福島県から避難したIDPの子どもたちが、彼ら/彼女らの学習能力を実質的に危険にさらす可能性のある経験に心理的に挑戦しながら、クラスメートからのひどい非難やいじめに直面しているという多くの報告を受け取った。IDPの子どもたちは、彼ら/彼女らが離れるという「選択」をしたことや、彼ら/彼女らの親たちが避難者として多額の賠償金を不当に受け取っていると認識されたこと、又は避難者が放射能を「運んでいる」可能性があるというような放射能に関する誤った考えのために、いじめられてきた。福島原子力災害の被害者が直面するいじめをこの災害に関する副読本のような教材で認めることは、良い実践の1つである。2013年にいじめ防止対策推進法が成立したことは、この問題に広く取り組むための別の前向きな一歩であった。トラウマを抱えた子どもたちがこのような申立てを最初に行うことを待つのではなく、福島県から避難を余儀なくされた子どもたちや他の脆弱な集団が特に直面するいじめを監視し、いじめを積極的に根絶するためのより組織的な取り組みが、子どもたちの学習能力に悪影響を及ぼすこのような有害な行為を終わらせるために必要であると勧告する。
  さらに、2013年に達成可能な最高水準の心身の健康の享受に対するすべての人の権利に関する特別報告者によって最初に指摘され、2019年の日本国の第4回及び第5回を合わせた報告における総括所見で子どもの権利委員会によって繰り返された点であるが、教材が、放射線被ばくのリスクと、子どもが放射線被ばくに対してより脆弱であることを正確に反映すべきであると勧告する。私の訪問期間中、私は、放射線に関連するリスクを最小限にするように見える放射線に関する副読本を示された。これらの教材は、特に放射線被ばくのリスクが高ナトリウム食や野菜の少ない食事のリスクと比較することができると示唆し、バックグラウンドの放射線量として受け取られる比較的低量の放射線と、放射能汚染の結果として受け取られる可能性のあるかなり高い放射線量とを十分に区別していない。また、これらの教材は、子どもたちへの放射線の特定の影響に関する詳細な検討も行っていない。

参加に対する権利

  IDPsは、彼ら/彼女らに影響を及ぼす決定に参加する権利を有し、特に彼ら/彼女らの生活の保護と生活の再建に参加する権利を有する。IDPであることは、自分自身が通常の支援がない状態にあることを通常だと気づくことを意味する。私が受け取った多くの証言は、孤立と社会的排除を証明している。
  非営利組織や支援団体が立案した計画を対象とする政府、福島県及び地方自治体が提供する支援は、IDPsの情報に関するニーズの一部に答え、特に特定の避難先においてはIDPsと地元住民との間に連帯感を一般的に生み出しながら、IDPs間におけるネットワークの構築に関連する非営利組織や支援団体の活動の実施を可能にしてきたという意味で、大いに賞賛に値する。NPOに対するそのような支援は継続されるべきであり、抑制されるべきではないと勧告する。なぜなら、これらの集団は、可能な場合には、IDPsに対していくらかの社会的安定性を提供しているからである。さらに、そのようなNPOの計画及び支援は、避難先地域でのIDPsの社会的統合という観点から強化されるべきであると勧告する。
  これらの点に加えて、避難先の地方自治体を通じて、全国に離散したIDPsに故郷のニュースを発信するという福島県の実践は、確実に福島県に関する情報がIDPsに伝達されるようにしている。このようなニュースレターの適切性を確保するために、ニュースレターでIDPsが自分たち自身の話や意見を語ることによって、IDPs自身が参加することで、この良い実践が強化されるべきであると勧告する。また、このニュースレターは福島県の住民に対しても提供され、利用されるべきである。この方法をとることで、福島県に焦点を置いたいかなる復興及び復旧に関する構想も、住民とIDPs自身からの声で支えられ、福島県の市民の中の社会的一体性に貢献する理解と共感につながることが期待される意見交換を可能とする。
  最後に、地方自治体の選挙過程への投票を通した政治参加という日本国の制度は、IDPsがどこにいようとも、またIDPsが彼ら/彼女らの住民票を変更するまで、IDPsの選挙権剥奪を避ける良い実践である。多くのIDPsが彼ら/彼女らの居住地に住民票を保持しているので、「不在者投票」手続きを簡素にすることによってこの制度を強化しなければならない。少なくとも、特に孤立している人々、又はこの方法で彼ら/彼女らの投票する権利を実施することが困難であると感じる人々に対して支援が行われるべきである。

V. 恒久的な解決策におけるIDPsの権利

  国内避難民は、彼ら/彼女らの恒久的な解決策を探し求める中で、持続可能な帰還、持続可能な地域統合及び国内の他の地域での持続可能な定住という3つの選択肢がある。ここでのキーワードは「持続可能」であることであり、決定をする権利は、そのような「持続可能性」に関する完全な情報に基づいて、自由にかつ自主的に実施されるべきである。さらに、特に帰還に関するIDPsのための恒久的な解決策を策定する際には、IDPsに影響を与える決定に関する計画及び管理にIDPsが参加することができるように条件が整備されるべきである。言い換えると、IDPsの意見を聞かなければならない。

住居、土地及び財産の回復を含む十分な生活水準

  特に持続可能な住居を通した住まいに対する権利は、十分な生活水準の中の必要不可欠な部分であり、帰還したいという願望に寄与する。残念なことに、福島原子力災害は、放射線だけでなく、物理的な破壊という点で、多くの私有財産を破壊した。私たちが受け取った統計的研究と証言は、IDPsの住居の破損とそれらの放射能汚染のために、多くのIDPsが帰還に大きな抵抗を感じているという事実を示している。私がインタビューをしたIDPsの一部は、たとえ彼ら/彼女らの家が除染されても、庭を含む家を直接取り囲む場所や地元の森林は多くの場合除染されていないということと、土壌の放射線レベルに関する情報は入手可能ではないということを伝える。それに加えて、避難指示解除のための許容可能な放射線レベルとしての年間20ミリシーベルトという基準は再検討されるべきである。この基準は緊急被ばく状態にある公人のみに適用されているが、これらの指針が長期的な状態にある私人に対して適用されてしまうことになるだろう。帰還するか他の場所に定住するかに関するIDPsの決定を導くための完全かつ科学的に正確な情報をIDPs に提供するために、この基準の適合性を再評価することは有益であるだろう。
  さらに、たとえ帰還の意思が残っているとしても、帰還したいという意思はIDPsが経験してきた長期間避難を余儀なくされた状況に影響を受ける。十分な生活水準を可能にすることにつながる元の場所の居住地の損害を受けた財産の修理と除染の両方の促進に関して、特定の計画が立案されるべきであると勧告する。
  特に帰還困難区域からの人々に対して代替の住宅が政府と福島県によって提供されていたことは、現在の良い実践である。しかしながら、この実践は、これらの重要な住宅事業計画が成功するためには、帰還を促す他のインセンティブが提供されることを示している。
  雇用と生活手段へのアクセス強制移動中のIDPsの権利と同様に、恒久的な解決策の一部としての働く権利は、人の尊厳、生産性及び包摂にとって必要不可欠である。経済復興における政府と福島県の取り組みを評価する上で、帰還するIDPsに対して確実に提供されることを目的とするより具体的な取り組みが、雇用と事業の観点からIDPsの生活の再開のための条件を容易にすべきであると強く勧告する。農業従事者や漁業従事者などの農業部門に従事する帰還するIDPsに特に注意を払うべきである。これらのIDPsの生活手段は、彼ら/彼女らの生活手段の性質に起因する放射線のリスクや、彼ら/彼女らの生産物に対する需要を抑制する世評の悪化のために、より脆弱である可能性がある。これらのIDPsの意見は聞かなければならず、またこれらのIDPsの意見に対して対応しなければならない。

賠償と侵害の原因に関する情報を含む強制移動に関連する侵害に対する効果的な救済

  福島原子力災害に関連する強制移動の結果に関するもう1つの恒久的な解決策の基準は、効果的な救済の提供である。さまざまな日本国の法律がこれらの救済について定めており、現在、かなりの数の救済請求が裁判又はADRで行われている。
  この件に関しては、多くのIDPsが、そのような訴訟に関わっているか否かにかかわらず、優先事項として彼ら/彼女らが災害の状況を十分に理解することが重要であると述べている。なぜなら、そのことが、居住の選択肢を選ぶ上で、IDPsの助けとなるからである。この点に関して、真の対話が開始されるべきであると強く勧告する。

VI. 予備的な一般的結論

  私が日本国で実施した調査、インタビュー及び議論は、福島原子力災害に関連する多様な強制移動の原因に関するさまざまな視点、それらの軌跡、並びにIDPsの保護及び支援の現状の理解を可能にする上で、特に実りの多いものであった。日本国政府が取り組もうと努めている多くの問題が浮き彫りになった。さらに、対応が必要な問題もある。
  現段階では、上記を考慮して、私の予備的結論をここに示す。

1. IDPs(避難者と呼ばれる)は、強制避難指示が執行されている指定された地域から来たかそうでないかにかかわらず、全員が国内避難民であり、日本国の市民と同じ権利と権限を有する。したがって、援助や支援を受けるという点での「強制避難者」と「自主避難者」という分類は、実際にはやめるべきである。人道的な保護と支援は権利とニーズに基づくべきであり、国際人権法に根拠のない地位に基づく分類に基づいて行われるべきではない。

2. 日本国政府によって実施されている現在進行中の取り組みや良い実践は、福島県の復興に対する地域に基づいたアプローチを包摂的な方法で可能にしながら、IDPsと福島県の住民の両方を共に含む権利に基づいたアプローチを確保することで強化されるべきである。このアプローチは、復興と復旧に対する社会的一体性に基づいたアプローチを実施するために、避難中のIDPs、帰還するIDPs及び現在の福島県の住民に対する完全な情報と参加を含むことを必要とする。このアプローチは、住居と住居の回復、土地、財産、健康、生活手段及び安全に関する地域戦略を含むべきである。

3. 避難生活を続けるIDPsに関しては、避難中には、受け入れ先の地域社会への社会的統合という観点を含む、特に脆弱な人々のための住宅と生活手段の状況に関する基本的な支援が継続されるべきである。IDPsの権利の実施を保障することは、避難先地域においても、最終的にIDPsが帰還することを選択する場合においても、その両方で社会的一体性に大きく寄与するだろう。


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*1:昭和22年法律第118号

*2:昭和36年法律第223号

*3:昭和36年法律第147号

*4:平成24年法律第25号

*5:平成24年法律第48号

*6:復興庁の図表

小暮復命書 ③

小暮復命書②のうち歴史的仮名遣いや旧字・異字を部分的に現代的・ひらがなに置き換えたものをここに上げます。

「8.復命書及意見集/1 復命書及意見集の1」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B02031286700、本邦内政関係雑纂/植民地関係 第二巻(A-5-0-0-1_1_002)(外務省外交史料館

https://www.jacar.archives.go.jp/das/meta/B02031286700

★ご注意★ 旧漢字・異字体のうちタブレットやパソコンやブラウザで表示できない漢字があります。MS-Wordで表示できたものをブログに取り入れた段階で消失した漢字もあります。見つけ次第注釈を加えていますが、コピー・ペーストされる場合は原本のPDFとよく照合してください。



◆1枚目◆
マル秘印
◆2枚目 右片のみ◆

復命書

嘱託 小暮泰用

依命小職最近の朝鮮民事用動向並邑面行政の状況調査の為朝鮮へ出張したる処調査状況別紙添付の通に有之右及復命候也
昭和十九年七月三十一日


管理局長 竹内徳治 殿

◆3枚目◆

目次


一、戦時下朝鮮に於ける民心の趨勢 殊に知識階級の動向に関する忌憚なき意見

二、都市及農村に於ける食糧事情

三、今時在勤文官加俸令改正の官界並に民間に及したる影響

四、第一線行政の実情 殊に府、邑、面に於ける行政滲透の現状如何

五、私立専門学校等整備の知識階級に及したる影響

六、内地移住労務者送出家庭の実情

七、朝鮮内に於ける労務規制の状況並に学校報国隊の活動状況如何

以上

◆4枚目◆

一、戦時下朝鮮に於ける民心の趨勢
  殊に知識階級の動向に関する忌憚なき意見
 戦時下朝鮮に於ける民心の趨勢は大体平穏と見るべきものであって、往時大正八年当時と異なり独立を夢る者なく官民共に等しく皇国臣民として内地人と協力して克服せんとする傾向にあり、知識階級と雖も同様にして確固たる自主独立の成算なく寧ろ米英に依存する独立は今の現状より必ずしも良きものと断じ難く結局日本人として内地人と一致団結して時局を克服せんとする傾向にあり
 而して大いなる戦いに直面して朝鮮に在る二千五百万の同胞は聖なる皇民として斉して立って一億の一環としての戦いを闘いつつある、満州事変以来「内鮮一体」と云う言葉が言はれてからすでに十年の歳月が過ぎたのであるが、今やそうした言葉が不必要な程彼等の戦いは大きな熱情と真摯な努力とに依ってその生活の裡に行われている
 そうして愈々創氏制も実施され、徴兵制も実施され、学徒の動員も出陣も実施された、剣を持ち銃を執って内地人と共に苛烈なる第一線にも立ち名誉ある皇民として生き抜く姿は内地も朝鮮も殊更な区別する要もない程のものである
 此の現状は言葉だけではない、彼等は皇民としての生活に深く徹するその姿が今や男といわず女といわず老いたるも若きも唯ひたむきに突き進む唯一の道としてあるものと認識しつつある現状である、そうして此の現状は形の上からのみでなく精神的な内容に迄

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到達しつつ比いなき日本的生活の中に於いて、戦う為に大東亜戦争を勝ち抜く為に彼らはまず生活と戦っている、古い朝鮮式生活様式を捨てて新なる生活の形が激しい勢で日本化されて行くのであった、そして生活の錬成と言うことが今日の朝鮮人男女老幼に課せられた大きな命題となっている、
 以上が今日の朝鮮民心動向の一般的観察であろう、然し他方これとは正反対に悲観的な見方もある様である、即ち所謂思想的な人々や警察関係の方面に多く抱かれている見方である、更に一部の知識階級にして民族思想運動に興味を持つ人々がそれである
 兎に角朝鮮に於ける民心の動向、思想界の傾向が最近特に大東亜戦争後激しい変り方を見せている事は事実であって、私が今回朝鮮に出張して調査した個人的考えからこれを結論として端的にいうならば朝鮮の思想傾向は一般に大衆的には非常に良くなっている
 然し以上述べた様に多少悲観的傾向のあることも事実である、故に私は今回現地に於いて各層階級人と直接会い語った資料と対照して楽観論と悲観論と言う二つの分野に於いて見た儘、聞いた儘の事実を纏めて復命することにする、まず楽観論に就て最も変遷の激しい傾向としては朝鮮に於ける宗教界の革新激変であり、民族主義者並に共産主義者達の転向激増と質的向上であり、更に教徒運動の勃興状態である
 それは内外周知の如く朝鮮に於ける従来の宗教団体として最も有力なものは基督教と天道教であった、これらの宗教団体は在来宗教的色彩よりも政治的色彩をより多く持っていた、即ち基督教特に長老教派と天道教は恰も朝鮮に於ける民族独立運動の中核体を成して居ったが、今やこれらが大きな転換を示していることである、全鮮に於いて五十万以上の教徒を占め、而も質的に最も不良であった長老会教徒は、昭和十一年迄は神社不参拝運動を起し漸次

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その運動は全鮮に波及したが、昭和十六年大東亜戦争が勃発し無敵皇軍の赫々たる大勝利が展開されると同時に十七年の新春を迎え全鮮総会に於いて革新的な発足をなすべく国民的な声明を発し、従来誤っていた彼等の内部の規定をば改正し直にこれを実践に移さんが為に、日本的な革新要項に二十数項目を発表したのである
 又天道教は朝鮮に於ける類似宗教団体として最たる有力なるものであって、一時信徒百万を占むる大きな勢力を有して大正八年遂に独立万歳事件を主唱したのであったが、これも国家的に日本的な宗教に向上せしめんが為に教義を改正し日本的革新を行い、今や朝鮮の連盟運動に順応して各々長老、天道の如き国民連盟を組織し全鮮からの各代表者が悉く参加して等しく皇国臣民として国旗に敬礼し、皇国臣民の誓詞を斉誦し、万歳を唱え、神宮にも挙って参拝するといふ誠に感激的な状景を展開している現状である
 次ぎに転向者の激増と質的向上のことであるが、大東亜戦争後に於ける朝鮮人主義者の転向者は数に於いて増加し質に於いても相当向上した傾向を示している、従来は多くの転向者の中には単に打算的表面だけの人のあって実際に於いては仲々旧態を脱し切れない者も相当あったのである、然るに最近に於いては朝鮮人の将来は日本人になり切らねば救われる道は更にないと言う確固たる信念に生きる真実の転向者が続々として増加し今や相当数に達している現状である
 而して内地と朝鮮との一体は歴史的に必然的に規定された宿命であるが故に、世界にその比類を見ざる皇道精神を研究することに依って日本精神に生き、日本の国体に徹し、日常語に国語を常用しなければならないと言う画期的な思想方向が決定され、斯くする事に依って始めて朝鮮人は推進するのであると彼等多くの転向者は考えている、然らずして若しも仮想された内鮮一体論に逃悔しているならば必ず数年ならずして馬脚を現しその時こそ

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朝鮮人が永遠に日本から見放される時であると迄に彼等転向者達の考えは徹底して来た傾向を示している
 これと同時に彼等の内面的な革新と共に多くの真面目な実践運動が民間に於いて自発的に展開発進しつつある、即ち各地に於ける教化運動の勃興である、これも朝鮮の思想界と民心が良くなりつつある証左と私は思うのである、現在全鮮各地に八紘寮、大和塾、皇道会、学生塾、錬成道場の如き日本精神を基調にして集る教化運動団体が相当多く勃興している
 故に朝鮮の思想界と民心の趨勢に就いては上述の如き極端なる悲観論も無いではないが、然し以上の如く一般大衆の何と云っても光輝ある皇道街道を前進しているのであって、大体に於いて、それは非常に良くなって来たと言う結論を下しても間違いではなく、又今後指導当局としても更に研究調査の上適当な方法を以て押し切って行かねばならぬと思うのである
 次ぎに悲観論であるが、時局に伴う多少の苦痛その他種々の不満の為に民心の一部が漸次悪化しつつあると言う見方もあり得るし、亦斯の如き傾向も事実もある、即ち大東亜戦争の長期化に伴って種々思想上悪波紋、精神の弛緩等に依り彼等の中には、特に知識階級並に有産層の一部と民族主義者の中には反戦、反官的な厭世傾向もあり、早く事変が終れば良い等と考えている人もある
 更に最近の戦況を悲観し日本の将来、統制経済の将来と言うものに対して相当流言飛語が出て来ている地方もある、即ち統制経済に伴って起る影響、例えば物価が高くて困るとか、物資の欠乏、物資の自給の不円滑、配給制度の不公平と言う様な私生活上の苦しみ、又食糧対策が旨く行かぬと言う様な不平不満のあることは事実である
 特に地方の大地主や都会地の富豪階級の人々の中には日本の新体制、統制経済の強化方針は共産理論の実現ではないか、統制と

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言う名前を借りて実際は共産理論を実践するのではないかと言う一種の疑惑と恐怖を抱いている人も相当にある様であり、又似而非なる転向者達は蘇連の行き方が最も良い、蘇連は強い、現在日本のやり方は蘇連によく似てきているのではないか、故に共産理論は最も正しいのであると言う風に懐疑的に考えている人々も相当に多くなったことは事実である
 斯の如く考えている彼等は漸次日本の国力を疑い、或は朝鮮人第一次世界大戦のときに印度が英国に騙された様に、日本政府に騙されているのではないか、或は重慶政府が声明した様に日本は長期戦に依って経済的に思想的に行き詰るのではないかと言う様な全く愚しい考え方を抱いている人も最近各地に相当多く増加して来たことも事実である
 更に民族主義者の一部には内鮮一体への誤解も相当ある様に見ゆる節もある、例えば国語の奨励を以て朝鮮語の否認だと言う誤解もあり、諺文新聞を統制した事に付ても之れは過般京城に於いて開催された各界代表者懇談会の席上に於いても暗に関心を有する向もあったのである、特に今後決戦の遅速利鈍に依って彼等の思想も相当変化があるものと思われる、左に参考の為京城に於ける有志懇談会席上に於いて朝鮮人有志の希望する所の要点を記述することにする、尚出席者は左の通りである
  日 時  昭和十九年六月十七日午後五時
  場 所  京城府 白雲荘
  出席者    荒木民政課長
         小暮嘱託
         坂手属
         毎日新報編輯局長 鄭 寅翼
         〃   社会部長 洪 鐘仁

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         毎日新報社会次長 金村 承燾[壽に烈火](「燾」手書き)
         人文社代表  石田 耕造
         京城拓殖経済専門学校教授兼生徒監  玉岡 [セン?]珍(「王へんに比叡山の叡の左側」手書き)
         宗教家  李 重宰
         京城弁護士会副会長  姜 柄順
         実業家  李 晟煥
右記各有志から席上希望として述べられた要点の内主なる項目のみを挙ぐれば
(イ) 内地朝鮮間の人事の交流を最も頻繁ならしめ伝統的と見るべき一種特殊なる朝鮮的官僚気分を速かに改め、上意下達、下意上達を徹底せしむること
(ロ) 末端政治の強化、即ち邑、面長の人物選定並に邑面職員の増員と素質向上を図ること、之れにはまず待遇方法を講ずること
(ハ) 労務管理の改善、指導員の再錬成配置、
(ニ) 朝鮮奨学会を改造すること、特に官僚化、取締化の如きことを改め事を指導教化に努めること
(ホ) 内地に於ける朝鮮人労務者の多い所には各班に実力ある朝鮮人班長又は寮長を速やかに配置すること
(ヘ) 今後朝鮮より供出する労務者は従来の如き募集又は官の強制斡旋方法を改め指名徴用制を速かに実施すること
(ト) 今後朝鮮及朝鮮人問題の結論に付て吾人の希望とする所は綜合的に云えば理窟よりも情と涙を以て解決して貰いたい、
(チ) 対朝鮮人問題に付て、その善悪を問はず概括的に評論することは大に警戒すること、当局が余り監視し過ぎることを改め或る程度朝鮮人を信頼し朝鮮人に責任を持たせること
(リ) 配給制度の公平を図ること
(ヌ) 朝鮮には内地と異なる前官礼遇と言う特殊のブロックがあ

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る、即ち高官高位の退職者に全鮮各地の特殊機関の実権を与えていることである、之れが朝鮮統治の癌となる場合が極めて多い、これを速かに改革すること
(ル) 内鮮一体の完成は内鮮無差別の完成に始まる故に内地延長として朝鮮人にも参政権を与えよ
(ヲ) 併合当時は貴族並に上流階級を相手に朝鮮統治を行い、次ぎは第二次的に公職者を相手にして政治を行って来たが、然し之れは今の時勢には既に遅し、今後は青年並に大衆を相手とする根本政策を樹立せよ
(ワ) 御世辞を使う者のみを登用する制度を改め本当の人物を選び出すこと

二、都市及農村に於ける食糧事情
 朝鮮に於ける都市及農村の食糧事情は相当深刻のものあり、その実例として朝鮮に旅行する時汽車の窓より望むるも沿線の林野に於ける松木の皮を剥ぎたるもの相当見受くることがあるが沿線にあらざる深山には尚多く近き将来に於いて朝鮮の松木は或は枯死するのではないかと憂慮する人達も相当多い様である、併合以来故寺内総督を始め歴代総督は朝鮮の山林行政に相当力瘤を入れたる結果最近に至りては朝鮮の林相も稍良好になって来たが昨今の食糧事情に依る此の現象は実に憂慮に堪えざるものあり
 農村人及地方有志の忌憚なき意見を調査して見ると、従来大体に於いて朝鮮は食糧の自給自足不能に非ざるに拘らず斯る現象を呈するは行政当局のその措置宜しきを得ざるに基因する所多しと非難する地方もある、即ち配給、供出機構の不完全は勿論のこと、まずその衝に当るものの情実又は実情を知らざる盲目的行政の結果なりと彼等は非難している
 私が今回実地に於いて調査して見た所から考えて端的に言うと、

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朝鮮の食料事情は都市に於いては配給の面が、農村に於いては供出の面が問題の全部を浮彫していると言っても過言ではないと思う、
 勿論当局の食糧行政の行方としては供出量は生産高に依って決定されることにはなっている、即ち生産高より農家人口の一人当り一日何がしの消費引当量を農家保有量として爾余を供出量と定めこれを農家に供出を命ずることとなしていいる
 然るに今日朝鮮に於ける農業生産統計たるや大体に於いてそれは前年農村振興時代の柱纂なる統計数字を基準としているものにして衆目の見る所凡そそれは常に過大見積であると言う事に一致している、而も斯る過大なる生産統計の下に於いて尚個々農家の収穫高を決定する上に於いても相当の努力が払われているに拘らず多くは無意識的に稀には意識的に凹凸を生ずる場合が相当に多いことも事実である
(欄外手書きメモ:部分的には兎も角全般として首肯し難し、大正年末頃年々、七八百万石の移出ありし時代を如何に説明するか)
 斯る基礎に於いて個々の農家の具体的供出量が定められる、そうして此の供出令は文字通り至上命令とされ供出の完遂は勧奨よりも強圧強権を加えて強いられる場合が極めて多い状態である
 而も朝鮮の農民は純朴従順であって、そこには涙ぐましい数々の実話実情多い、或は明日の糧まで供出せる者あり或は彼等の何よりも大切なる農牛や家屋や家財道具等を売払って闇買をしてまでも自己の供出割当数量を完遂せる者もいる、従って部落に於いて勢力のある者、即ち所謂有力者その他富豪権力者を除いては出来以外の時に於ける農村の食糧事情は殆んど窮迫の状態にある、従って農業者にして尚朝飯粥は良い方で多くは糊口に苦しみ自己の生産物は全部供出に献げ自分は大豆、小豆の葉や草根木皮にて辛じて延命し顔は腫れ上り正に生不如死〔生くるは死するにしかず〕の惨状を呈し空腹の為め働く事も出来ず寝ている者も尠くない状態である
 斯の如き朝鮮農村の食糧事情よりして農民は食糧は生産しても自らは喰えない故に農村には増産意欲どころか寧ろ厭農思想が相

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当濃厚であり生産物を隠匿せんとする傾向が強くなって来た
  そこで供出督励者は農家や農家の周囲を捜索し炊事時に不意打的に踏み込み炊事釜や食物を検査し果ては面、駐在所等に呼出して尋問する等全く朝鮮でなくては見ることの出来ない奇異なる現象を彼所此所に露出している、宜しく今後は農民に食糧を保証し産業戦士として所遇するのが急務であり之が結局増産の最も有力な途である様に思われる
 一方翻って都市の食糧事情を見るに都市には殆んど完全に近い配給制度が実施され一人当たり一合四勺乃至二合三勺の配給を大体に於いて順調に受け満腹の程は期待し得ざるも一応不安はない状態に在る、一般に都市人は配給量の僅少なるが故に四六時中空腹感を訴えながらも尚定まった量を殆んど正確に配給を受けているのは農民にして一日一合程度も糧穀を喰えないのに比べて見る時は都市人は幸福と言わざるを得ない、農民の倉には糧穀はなくとも都市の食堂には猶何かの食物の備がある実情であって、此の点内地とは正反対の現象と言わざるを得ない
 而も都市人の中でも財力に余裕があり時局認識の足らざる薄志の徒は法網を潜って闇にて白米並にその他の食料品を買入れ(朝鮮に於ける白米一斗の闇価は六十円前後なり)自己の食生活を充実している者も相当にいる、同じ闇買にしても農民は自己の供出責任完遂の為にやり、都市人は自己の満腹の為にやる、之れも朝鮮ならでは見られざる誠に奇異なる対照である
 要するに朝鮮の食糧事情は都市方面の非農家は殆んど正確に近い所定量の配給を受けながら尚空腹を訴え、農村人は自ら食糧を生産しながら猶出来秋以外の時に於いては概して自家の食糧にも窮迫している実状である
  斯くして都市と謂はず農村と謂はず互に顔を合はせれば食物の話で都鄙の話題は殆んど食物に関するもののみであって全く食に

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かけては紳士も匹夫もない有様である、ここに「民は食を以て天となす」「衣食足って礼儀を知る」と言う古訓が如実に物語っている
 扨以上の如き朝鮮の食糧事情の窮乏の原因は何んであるか、又之れを如何にして是正するかに付て考えて見るに従来の耕地面積並に生産に関する統計は不正確であるにも拘らず未だ之れを以て基礎としていること、次ぎは反当収穫の見積等が実情に副はざる場合が多いこと、又農家の消費食糧の量を過少に規制したること、更に最近数年間凶作続きであったこと等であろうと思われる
 而して農家に於ける食糧の供出は叙上の弊に依って供出数量過多に失し中には全生産量を之れに充てても尚足らないものさえある、而も供出数量は確保すべきであるとの見地より無理に近い督励を加える為に農家は供出後翌日より殆んど食糧なき状態であり而も配給は必ずしもその翌日より支給せられない為殊に細農の困窮は甚だしい、又春窮期に於ける還元制の特配を受けるにしてもその量極めて少なく一日一人当一合未満の場合が多い、故に此の際思い切って統計をまず是正すると共に農家一日消費食糧を少くとも一人当四合以上とし、実情に依って農家の食糧を控除したる後、残余を全部供出せしむる様にするか、又は生産食糧一切を全面的に買上げ翌日より農家非農家の区別なく一定量の配給を行うか、何方でも急速に朝鮮の食糧事情の窮迫を救はなければならぬものと思う
  それから少し話が横道の様に考えるが朝鮮に於ける食糧問題解決に対し最も密接なる関係を有する問題の一つとして昭和十九年度朝鮮米穀生産責任数量決定額に付てこれを検討して見ると即ち今年度の食糧生産責任量は
   米   二千六百万石
   麦   一千六十三万石

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   其他雑穀 九百三十万石
   合計   四千五百九十三万石
となっているが一体此の数量は如何なる方法に依って算出決定されたものか専門家でない私が僅か三週間位の短時日の調査ではその正否を今直に確言することは出来ないがまずその中の米二千六百万に付て考えて見ると前古未曽有の大豊作と言はれた昭和十二年の米作数字を除いては朝鮮の米作生産史上に未だその前例のない数字である
 即ち昭和十四年の千四百万石と言う大凶作以後に於ける朝鮮の米生産高を調査して見るに同十五年の二千百万石、同十六年の二千四百万石、同十七年の千五百万石、同十八年の千八百万石であってその五ヶ年間の平均収穫高は千八百四十万石となっている、此の理由は近年朝鮮の気候は連続的旱魃の多い関係もあり更に鮮内の労働力も漸次減少し、又化学肥料の不足等がその原因であるものと思われる
 然らば昭和十九年即ち今年度の米作は果たして朝鮮の農業生産の隘路が解消されているかと言うに決してそうではない、戦局の進展に従い今年度より実施される徴兵制に伴い併せて農村青壮年の戦闘再配置等があり、更に国内科学工業の拡充に因り農業肥料生産の減縮は必然であると想像するに於いては例え此の儘天候が順調になっても二千六百万石と言う米収穫は容易なことではないと考えられる、即ち過去五ヶ年間の平均収穫量千八百四十万石に比すれば七百六十万石の増加であるから約四割に該当する数量が増加されたのである
 もっと詳しく言えば過去五ヶ年間に平均収穫量十石の農家とすれば四割増しの十四石がその生産責任量となった訳である、天候の変調如何に拘らず同一条件の下に四割増産と言うことは朝鮮農家としては甚しき過重の負?と言わざるを得ないのである、故に速

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かに此の数字に再検討をするか、又は現下時局に鑑み此の二千六百万石と言う数字が絶対的に国家が要請する量であれば鮮内科学肥料不足の対策として自給肥料の増産、適期施肥、施肥方法の適正化等に関する根本策の確立、そうして三百万戸以上の農家と十万戸以上の地主と数万の指導者が打って一丸となって人生最高の努力を傾注する様仕向けなければならないことと信ずるのである

三、今次在勤文官加俸令改正の官界並に民間に及したる影響
   此の問題に付て朝鮮人官吏及民間人に就て調査して見ると大略左の如き現状である
  即ち朝鮮人官吏に対する加俸支給に付ては
  イ、内鮮一体の理念を具現したるものにして寧ろその遅きに失したる憾あるも一層の責任感と明朗性を与えたりとなす者
  ロ、戦局の推移に鑑み先鋭化しつつある朝鮮民心を緩和せんとすることを企したる懐柔政策なりと為す者
  ハ、官界に於ける内鮮人の全面的無差別化は優秀なる内地人の渡鮮を阻害し内地人側に於ける人的貧困を来すべしと為す者
 等の見方ありて(イ)の観点に立つものは当然なりと為すが故に(ロ)の見地に在る者は政策なりと見るが故に本制度の実施は朝鮮統治上画期的恩典なるにも拘らず大なる感銘を与えざりしが如し、殊に瞠目すべきは該制度が一部上層官吏にのみその恩典に浴せしめたる点にして或は上に厚く下に薄きは親心に反するものなりと為し、甚しきに至ってはこれら上層指導階級を懐柔することに依ってこれらを一般民衆の宣撫に利用せんとするものなりと断ずるものさえある
 他方一般下級官吏は現下の如き物価高に比し著しく薄給にして

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殺人的の生活難なるに拘らず之を黙過したるは当局の企図に他意あるべしとなし真剣に之が穽鑿討議を敢えて試みる者もある
 要するに本制度は朝鮮民衆に内鮮一体の理念を制度的に実証具現せるものとして受入れられ朝鮮人官吏をして真の帝国官吏としての自覚を喚起せしめその責任の重大なるを感ぜしむるに多大なる貢献を為したるも之を一部の上層官吏の範囲に止めたるに基因する疑惑感は否定し得べからざるものありと謂ふべし
 更に此の問題に付て朝鮮人民間有力者の忌憚なき意見を調査して見るに、従来朝鮮人官吏には加俸を支給すべからざるものなることを理論的に説き永年朝鮮人の深刻なる反対心裡を抑制し来りたるに拘らず突然全く同一率の加俸を支給することとなったことに対してはまず驚きたるは朝鮮人官吏自身であったであろう
 而してその支給が一般的に非ずして一部分に過ぎざる故にその恩典に浴せざる階級の不平甚しく此の点は憂慮に堪えざるものありと見える、即ち生活に余裕なき判任官以下に支給せず比較的生活の安定を得たる高等官にのみ加俸を支給する結果高等官自身も心中疑心を抱くであろうと論ずる人が多い、その理由としては即ち戦後朝鮮人の高等官の数を減ずるは必然なりとして内心疑なき能はず、又反面判任官以下の不平相当深刻なる地方もあるが此の点は相当注目を要する問題と思う、事実として内地人と朝鮮人とが絶対平等となる理なきにも拘らず斯る同率の加俸を突然支給するは近き将来に於いて内地人側より不平又は反対運動起るべく、之を収拾することも困難であろうが更に一面朝鮮人の判任官以下に迄速かに加俸を普及することが出来ないとすれば之れ亦相当困難なる問題を惹起すべく結局今時の加俸の支給は技術的に見て拙劣なるものありと彼等は考えている

四、第一線行政の実情

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   殊に府邑面に於ける行政滲透の現状如何
 決戦下外地に於ける第一線行政の実情の真髄を調査することに付ては上司の内命もあり且又私自身の職柄多大の関心を以て可なり多方面の人々に会って語ったこともあったがまず南鮮と西鮮地方に於いては少々悲観したこともあった、それは或る地方の有力者の話を聞くと、その答えに曰く今日朝鮮の第一線行政は全く行詰りたる状態にして誠に寒心に堪えざるものありと言ったことである、その理由に曰く、朝鮮には昭和十六年頃より、これには「韓国以上」と言う合言葉が民間に流行したと言う、原因は社会情勢の急変と官紀の?頽により一般大衆の苦しみが増加し、遂に斯る言葉が流行する様になったが、まず旧韓国時代には一部富豪のみが苦しみたるに過ぎずして一般大衆は寧ろ今日の如き苦しみを体験したることがなかったが今日の現状は富豪よりも一般大衆がもっと苦しむ様になったと言うことである、然し斯の如き不評判の原因は結局戦局の進展に伴い色々と複雑な責任の負荷が多くなった為めであり、又此の複雑性の内容を彼等が理解し消化し得ないからであるものと思う、即ち上意下達、下意上通が円滑になってないからである
 事実朝鮮の第一線行政の実情は四年前に比し相当複雑となって来ている、戦局殊に大東亜戦争後に於ける戦局の進展に伴い朝鮮には各種の栄誉と責任が新に付加されて来ていることは事実である、今その主なるもののみを挙ぐるも
 イ、食糧を主としその他数十種に及ぶ農林畜産物の供出
 ロ、貯金及献金乃至献納
 ハ、労務の供出
 ニ、志願兵より徴兵制度
 ホ、特殊鉱工物増産
 ヘ、義務教育実施と教育整備

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 等にしてこれらの施策は殆んどその結果に於いて達成せられざるものなきはその都度当局者に依って半島官民の努力と協力に対する感謝の言葉を以て言明された通りである、即ち外形と結果に於いては上部の意図は殆んど第一線末端機関に滲透し従って第一線の官公吏亦聖戦完遂に奮闘しつつあるのがその現状であるものと見るのが普通であろう
 然らば之を以て直ちに朝鮮の第一線行政の実情は満足すべき状態であるかと言うに決してそうではない、問題はその結果に至る迄の過程と方法乃至は政治技術の如何にあるものと思う、此の点に関する限りは上部の意図は凡そ末端下部に滲透し居らないのが今日の実情であるものと思考す、為に総督政治に対する予期せざる疑惑、不平不満の生ずること尠しと見るのが正しい調査資料と思われる、故に斯の如き原因を一日も速かに除去することこそ朝鮮統治をして本然の姿に戻し明朗性あらしむる最大急務なり信ずるのである
 その原因の主なるもののみを挙ぐれば
 イ、郡守に至る迄の不滲透の原因
本府に於いては地方第一線の実情に通暁せず綜合的認識を欠く者が自己の分野にのみキョクチョク([足局][足蜀])して〔行きなやんで・ぐずぐずして〕余りにも理論的にのみ精微なる立案を為したるものが道に於いてはその多くが本府よりも素質低下なる属僚の手に依り之を咀嚼することなくその儘移牒せられ郡に集中されるのである、(而も本府の企画者の中には実際的経験及識見の乏しき者多く道の属僚中には亦知的に低下なる者多し)
 ロ、郡より邑面に至る間に於ける不滲透
郡邑面職員の知的不足と素質低下等に加ふるに弱馬駄重的に事務は之に集中輻輳する結果、重点事務たると否とに拘らず平等に無関心となり研究工夫は殆んどなく、且つ又邑面財政

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の凋渇はこれら諸優遇方策を只名目上のものたらしむる事になり一種の疲労感嫌悪感さえ抱き会議及上級官庁の監励出張に依り強調せらるる施策方法に関してのみ而もその結果特に最終的結果丶丶丶丶例えぱ食糧増産供出に就て謂へば播種面積拡張、耕種法の改善等は之を多く報告の上に於いてのみ達成しその虚偽の報告に基いて割当てられたる供出の達成にのみ全力を注ぎ為に民衆をして当局の施策の真義、重大性等を認識せしむることなく民衆に対して義と涙なきは固より無理強制暴竹(食糧供出に於ける殴打、家宅捜索、呼出拷問労務供出に於ける不意打的人質的拉致等)乃至稀には傷害致死事件等の発生を見る如き不祥事件すらある
斯くて供出は時に略奪性を帯び志願報国は強制となり寄附は徴収なる場合が多いと謂ふ
 ハ、邑面より民衆に至る間の不滲透
邑、面殊に面は第一線に於いて一般民衆との中間に立って本府の企図する一切の施策を担当実践する重要なる末端行政機関であるがその下に知識極めて定休にして国語も理解せず極めて不自然なる朝鮮語を以て記されたる公文通牒を受領し素朴なる思惟と下に活動する区長があり、此の区長に至り一切の理論的行政施策は褪色され殆んどその政治意義を消失するに至るものと思われる
 然ればこれらの弊害を如何にして取除くか、その是正の方策として主なるものを挙ぐれば
 イ、道の属官級に知的素質の優秀なる朝鮮人青年を多く増員すること
 ロ、府、邑、面の職員の水準を高むる意味に於いて中等程度の地方行政講習所の如き錬成教育を一層普及すること(現在の邑面職員の九割は小学程度)

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 ハ、区長の待遇を一層改善強化し優秀なる人物を配置すること
 ニ、本府及道の職員は質的向上を計り量的にはこれを減少することとし郡、邑、面殊に面職員の増員を断行すること
 等であるが、要するに以上の如く朝鮮の行政はその実施過程に於ける不正確なる方法と政治技術の足らざる所から本然の姿より逸脱する場合多く為に民衆に意図以上の又は意図せざる重き負担を負はせ一般民衆の認識並に能力が官の要請に追いつかぬ事になり依って民衆をして疑惑感、時には反感をすら抱かしむる場合が極めて多い、然し兎に角表面から見れば朝鮮の地方行政の第一線は皮相的にその結果の点に於いてのみは相当滲透せるものと謂ふべし

五、私立専門学校等整備の知識階級に及したる影響
 決戦下教育非常措置に依り朝鮮に於ける私立専門学校等の整備を行いたることに付て朝鮮人知識階級人等の意嚮を調査して見ると彼等曰く、此の措置は朝鮮人の知識階級を絶望的境地に追込み朝鮮人社会に於ける教育事業熱を奪い去ったと言う、蓋しそれは今日迄朝鮮に於ける私立専門学校が朝鮮人知識階級に対して演じた役割機能の全面消滅を意味するからである、一般的調査資料としては此の整備問題に対する朝鮮人特に教育家及知識階級層に於いては極めて不評判であり彼等の中には朝鮮の教育政策を疑ふ様になって来た人々も相当増加している
 各方面に於ける影響も極めて多種多様ではあるが今その重なるもののみを挙ぐれば大略左の通りである
 (イ)、朝鮮の過去に於いては私立専門学校には比較的組織津の優秀ならざる者及官公立学校に進学するを好まざる者、思想的に不穏なる者(此とて内地の私大に比すれば問題にならぬ程素朴なもの

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ではあるが)等が進学したと言う傾向があった、既に内地の文化系統私大への進学の途が塞がれた今日これらの学徒は近代文化の電動から閉出を喰ったと考える者もあり、此の事情は理工科系統学校拡充により専門学校生徒募集総数に於いて千二百名の増加を見たとしても進学希望数に照らして官公立専門学校の入学許可率に於ける内鮮の差別を徹底的に撤廃しない限り少しも緩和されることはないであろうと考える者も相当多い様である
 (ロ)、従来朝鮮に於いては私立専門学校が朝鮮文化の維持培養上に於いて大きな役割を演じたことは何人も否定出来ない事実である、既に早くも朝鮮語の教授及使用が全面的に禁止されたる今日に於いて私立専門学校等が整備されたるは今後朝鮮文化の最も有力なる維持培養の担当者を失ったと言うのである、尤も朝鮮文化が全部朝鮮文で記され、朝鮮語で語られるのみでないにして今日迄の朝鮮文化の有方はそうであったのであり、又現在も尚全朝鮮人中国語を解する者が僅か一割五分に過ぎない状態に於いては猶更のことであると言う
 (ハ)、元来朝鮮人社会には官公立教育機関の不足と相俟って教育事業熱は相当に旺盛であった、例え貧者と雖も且又相当吝嗇家でも事子弟の教育に関するときは多額の寄附を為し小学校の教育に於いてすら最近は克く内地人の数倍に匹敵する種々の負担に甘んじて堪えて来て実情であり知らざる者の悩みを詳かに歴史的に社会的に経験せる彼等としては当然なことと思うのであろう、殊に知識階級に於いて私立教育事業熱又は教育事業助成熱は最近一層旺盛となって来たがこれらは此度の私立専門学校等の精微を目睹して捨鉢的気持になり一切の私学事業への希望を捨てた観があって、正に朝鮮人の経営する教育機関を奪い去った感を与えたと同様な状態である
(ニ)、従来朝鮮の私立専門学校の教授の多くは外国留学又は内地留

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学生がその大半を占めていた、その教授陣は所謂朝鮮人知識階級の最高水準にあったことは否めない事実である
而して立派な皇国臣民としての最高の教育を受けそれだけの実力を有志しながらも官公立の大学専門学校の教授となることを許されなかった為に朝鮮人学者にとってはこれら私立学校の教授たることが一生聖なる学研の途に精進し象牙の塔に籠る唯一の途であり且つ学者としての生活戦線でもあったのである、故に一面これら朝鮮人教授陣の総退却はその多くが生活に余裕なき朝鮮人子弟に対して学者的生活の門戸を完封したものと彼等は考えている
(ホ)、最後に朝鮮に於ける女子専門学校の場合に就て調査して見るに近年知識階級の配偶者を養成提供すると共に一方余りに先端的な空虚な虚栄心(現在朝鮮人の文化程度を見て)を朝鮮人大衆に植え付け一部の識者並に大衆から白眼視された私立女子専門学校を整備した事は善悪相半ばするといわれている、蓋しその整理方針に於いて政治的技術の足らざること並に内地のそれに比し余りに酷に失したと言う点及び教授陣の総退却とは男子専門学校の場合に準じて之も相当悪影響を及ぼしている様である

ハ、内地移住労務者送出家庭の実情
 従来朝鮮に於ける労務資源は一般に豊富低廉といわれて来たが支那事変が始まって以来朝鮮の大陸前進兵站基地としての重要性が非常に高まり各種の重要産業が急激に勃興し朝鮮自体に対する労務事情も急激に変り従って内地向の労務供出の需給調整に相当困難を生じて来たのである、更に朝鮮労務者の内地移住は単に労力問題に止らず内鮮一体と言うケンチからして大きな政治問題とも見られるのである
 然し戦争に勝つ為には斯の如き多少困難な事情にあっても国家

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至上命令に依って無理にでも内地へ送り出さなければならない今日である、然らば無理を押して内地へ送出された朝鮮人労務者の残留家庭の実情は果して如何であろうか、一言を以て之れをいうならば実に惨憺目に余るものがあると云っても過言ではない
 蓋し朝鮮人労働者の内地進出の実情に当っての人質的略奪的拉致等が朝鮮民情に及ぼす悪影響もさることながら送出即ち彼等の家計収入の停止を意味する場合が極めて多い様である、その詳細なる統計は明かでないが最近の一例を挙げてその間の実情を考察するに次の様である
 大邸府の斡旋に係る山口県下沖宇部炭鉱労務者九百六十七人に就て調査して見ると一人平均七十六円二十六銭の内稼働先の諸支出平均六十二円五十八銭を控除し残額十三円六十八銭が毎月一人当りの純収入にして謂わば之れが家族の生活費用に充てらるべきものである 斯の如く一人当りの月収入は極めて僅少にして何人も現下の如き物価高の時に之にて残留家族が生活出来るとは考えられない事実であり、更に次の様なことに依って一層激化されるのである
(イ)、右の純収入の中から若干労務者自身の私的支出があること
(ロ)、内地に於ける稼先地元の貯蓄目標達成と逃亡防止策としての貯金の半強制的実施及払出の事実上の禁止等があって到底右金額の送金は不可能であること
(ハ)、平均額が右の通りであって個別的には多寡の凹凸があり中には病気等の為赤字収入の者もあること、而も収入の多い者と雖もそれは問題にならない程の極めて僅少な総金額であること
 以上の如くにして彼等としては此の労務送出は家計収入の停止となるのであり況や作業中不具?疾となりて帰還せる場合に於いてはその家庭にとっては更に一家の破滅ともなるのである
 然しこれらの事情に対する異論もある様である、即ち労務援護や

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労務協会のことや残留家族殊に婦人の積極的活動に依る収入の確保等があるではないかと言うのがそれであるが、然し朝鮮の労務援護に就て云えば左の如き二つの方法があるであろう、その一つは隣保相助を挙ぐるであろうが、之れも朝鮮の農民と労働者の大衆は未だ斯る良風美俗の実践者たる為には余りにも貧困過ぎる現状であり、その二は労務協会の援護であるが之れも労務者一人当り五円を財源とする本会の実情は之の予算も現実的には宴会その他の費用に充てられている現状である
 更に残留家族殊に腐女子の労働はどうであるかに就て調査して見るに、朝鮮の都市に於いての一家支柱たりし男子に残留婦女子が代替し得ることの出来ないことは固よりであるが農村に於いても土壌の瘠薄性と耕種法殊に農具の未発達、高率の小作料、旱水害、その他の各種夫役等の増加の多い今日に於いては全家族総動員して労務に従事し以て漸く家計を維持したる農民が戸主又は長男等の働き手を送出したる後婦女子の労働をしてその損失を補償代替更に進んでは家計の好転を図り得ないことは明白な事実であって、此の点自然的条件に恵まれ耕種法その他営農の発達したる内地農村と同一に考えることは出来ないのである、況や朝鮮農村の婦女子はその九割以上が殆んど無教育であり青少年は徴兵実施とそれに伴う各種の錬成その他の行事の為に実際的には働手たる意義を大いに減殺されているのである
 斯して送出後の家計は如何なる形に於いても補われない場合が多い、以上を要するに送出は彼等家計収入の停止となり作業契約期間の更新等に依り長期に亘るときは破滅を招来する者が極めて多いのである、音信不通、突然なる死因不明の死亡電報等に至てはその家族に対していう言葉を知らない程気の毒な状態である、然し彼等残留家族は家計と生活に苦しみながら一日も早く帰還することを待ちあぐんでいる状態である、私が今回旅行中慶北義城邑中

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里洞金本奎東(二十三才)なるものが昭和十八年七月一日北海道へ官の斡旋に依り渡航した家庭を直接訪問して調査したるに、最初官の斡旋の時は北海道松前郡大沼村荒谷瀬崎組に於いて本俸九十五円、手当を加え合計月収百三十円となる見込みとの契約にて北海道より迎えに来た内地人労務管理人に引率され渡航したる後既に一年近くになっても送金もなければ音信もない家に残された今年六十三才の老母一人が病気と生活難に因り殆んど瀕死の状態に陥っている実情を目撃した、斯の如き実情は此の義城のみならず西鮮、北鮮地方に極めて多く、これら送出家庭に於ける残留家族の援護は緊急を要すべき問題と思われる
 その中にも軍方面の徴用者の中には克く家庭との通信、送金棟があって残留家族にありても比較的安心し生活上にも左程不便を感ぜざるも、特に一般炭鉱並にその他会社等の関係に在りては右の如く送出後殆んど音信を断ち尚家庭より音信するも返信なく半年乃至一年を経るも仕送金無きものもありてその残留家族特に老父母や病妻等は生不如死の如き悲惨な状態であるのみならずその安否をすら案じつつ不安感を有する者極めて多く、此の如きは当事者の家庭現状にのみ限らず今後朝鮮から労務者送出上大なる影響を与うるものとして憂慮に堪えないのである
 又仮に朝鮮農村に於ける男子労力に代って婦女子勤労へと一層強化するにしても今日の朝鮮婦女子の特殊立場を没却して唯盲目的に働かす事ばかりは大いに警戒しなければならぬと思う、即ち人口増強上重要使命を持つ婦人の保健問題又は内地婦女子と異って殆んど無教育である彼女達が良く働ける様に仕向ける特殊施設と対策がなければならぬ、例えば共同炊事、託児所、保健婦設置、食糧特配等は特に緊急を要する条件であろう
 朝鮮農村の婦人殊に南朝鮮地方の農村婦人は勤労、増産意欲に乏しく、又家事と育児だけでも力一杯であって実際問題として増

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産への勤労提供の余裕もない実情である、ここにまず問題となるのは農家の生活改善であり勤労増産の意欲を旺盛ならしめ容易に増産勤労部門へ挺身出来る様その環境を作り上げることが大切であろう
 第一に増産勤労婦人隣組隊の如きものを組織して生活の共同化を期し家庭生活も勤労作業も此の共同化された組織と精神に於いてなさねばならぬと思う、そして託児所を設け又保健婦を成る可く多く嘱託し農村妊婦の保護、育児の輔導等に努めて行けば或は朝鮮婦人も容易に労働に親しみ得るであろうと思われる
 之れには従来と異った相当しっかりした指導者を多く必要とするが、更に託児所、保健婦、共同炊事、食糧の特配等の指導者を得ることが最も大切であるものと思う、然し今日の朝鮮農村の現状として農村自体では到底そう言う適当な人を得ることは不可能であろう、ここで此の問題に対して真剣に考えさせられることは中等以上の教育を受けた都会の女性達が華やかに飾って喫茶店から映画館へと空虚な生活を送る嘆わしい現実である此の女性等の胸中に果して国を想い非常時局を認識して勝つ為の仕事に尊い汗を注ぐ誠があるかと言う問題である、然し全然ないのではないが多くの場合生活の環境がしからしめたのであると思う
 故に此の際思い切った積極的錬成対策を樹立して此等の女性を総動員してせめて農繁期の数ヶ月だけでも農村に住込ませ、保健婦として託児所の保姆として奉仕せしめれば真に婦人労働力の完全なる活用が可能であるものと思われる、之れは金肥を何百叺〔かます〕使う以上の実質的効果があるものと思われる、之れがせめて朝鮮婦女子の勤労強化指導の一策ともなるであろうと信ずるのである

七、朝鮮内に於ける労務規則の状況並に学校報国隊の活動状況如何
  従来朝鮮内に於いては労務給源が比較的豊富であった為に支那

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変勃発後も当初は何等綜合的計画なく労務動員は必要に応じてその都度行われた、所がその後動員の度数と員数が各種階級を通じて激増されるに従って略〔ほぼ〕大東亜戦争勃発頃より本格的労務規制が行われる様になったのである
  而して今日に於いては既に労務動員は最早略頭打の状態に近づき種々なる問題を露出しつつあり動員の成績は概して予期の成果を納め得ない状態にある、今その重なる点を挙ぐれば次の様である
 (イ)、朝鮮に於ける労務動員の方式
凡そ徴用、官斡旋、勤労報国隊、出動隊の如き四つの方式がある
徴用は今日迄の所極めて特別なる場合は別問題として現員徴用(之も最近の事例に属す)以外は行われなかった、然しながら今後は徴用の方式を大いに強化活用する必要に迫られ且つそれが予期される事態に立到ったのである
官斡旋は従来の報国隊と共に最も多く採用された方式であって朝鮮内に於ける労務動員は大体此の方式に依って為されたのである
又出動隊は多く地元に於ける土木工事例えば増米用の溜池工事等への参加の様な場合に採られつつある方式である、然しながら動員を受くる民衆にとっては徴用と官斡旋時には出動隊も報国隊も全く同様に解されている状態である
(ロ)、労務給源
朝鮮内の労務給源は既に頭打の状態にあると言うのが実状であろうと思われる
今尚余裕があると見る向も相当に在るが然し之れは頭数のみを見、人は男女共に内地人男女と同等の能力を有するものと言う前提の下に立っている見解である、端的には労銀の想外の昂騰がその一つの証拠であり又朝鮮人の婦女子は潜勢力と

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しては存在するが現実の家計収入をもたらすべき労働力としては一般に評価し得ない実状にある、斯の如く観じて来るときは朝鮮内の労務給源は非常に逼迫を告げていると言うべきである
絶対的頭数の上から見て朝鮮の労務給源が今尚豊富であると言う見解から更に男子を動員することは可能であるが、然る時は婦女子のみが残ることとなり朝鮮の特殊事情からその実質的労働力は実に薄弱なものとなるから此の点深く実態の観察調査が必要であるものと思われる
一例を見ると慶北安東郡の如きは総人口十七万人の内農業労務者が六万人、一般労務者に登録されたのが九千九百二十九人となっている、此の一般労務者約一万人からは既に昭和十四年以降内地へ供出したもの六千四百二十六人、北鮮地方へ略八百人合計八千人近く既に送出したのであるから残有の労働力としては極めて僅少となっているにも拘らず今年更に残留労務者数よりも多く内地送出を命ぜられてある為め第一線に於ける当局者及農村に於いては食糧増産上多大なる影響を及ぼすものとして憂慮しある状態である
(ハ)、動員の実情
徴用は別としてその他如何なる方式に依るも出動は全く拉致同様な状態である
それは若し事前に於いて之を知らせば皆逃亡するからである、そこで夜襲、誘出、その他各種の方策を講じて人質的略奪拉致の事例が多くなるのである、何故に事前に知らせれば彼等は逃亡するか、要するにそこには彼等を精神的に惹付ける何物もなかったことから生ずるものと思われる、内鮮を通じて労務管理の拙悪極まることは往々にして彼等の心身を破壊することのみならず残留家族の生活困難乃至破滅が屡々〔しばしば〕あった

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からである
殊に西北朝鮮地方の労務管理は全く御話にならない程惨酷である、故に彼等は寧ろ軍関係の事業に徴用されるのを希望する程である
斯くて朝鮮内の労務規制は全く予期の成績を挙げていない、如何にして円満に出動させるか、如何にして逃亡を防止するかが朝鮮内に於ける労務規制の焦点となっている現状である
(ニ)、労銀
朝鮮の労働力も右の様に愈々逼迫している為如何なる事業も請負人に労働者を官公署が斡旋するのでなければ到底事業遂行は不可能である、故に個人が自由契約に依り四苦八苦して労働者を雇入れることになると全く驚く程想外の高賃金を要求されるのである
反之〔これにはんし〕官公署の事業は予算その他の関係にて右の如き高い賃金は支払えない、そこで多くは部落連盟に請負でやらせる、故に朝鮮の部落民は官の事業には殆んど夫役(強制奉仕)の心構えにて参加すると言う実情である
 (ホ)、学校報国隊の活動状況
朝鮮も最近は勤労教育の強調に伴い学校報国隊の活動は文字通り予期以上の成績を挙げているが然しそこには簡単に看過し得ない種々な問題が惹起していることも事実である、即ち
1. 上司又は一般に対する見物式の出動で実跡の挙らざるものあること
2. 学校に依って勤労の時間、程度に於いて著しき差別のあること
3. 児童生徒の個々人の心身の状態を無視し一率に過重なる勤労を課し全く心身疲労し切って親達の憂慮惻々なるものあること

◆30枚目◆

 一般に朝鮮の地方農村には勤労過重なる場合が多く極端な〔例?〕になれば三食とも草根木皮の粥腹である為体錬の時間にすら貧血率倒する頑是ない子供が勇々しくも鍬や鎌を手にし文字通り身を粉にして勤労に従事しつつあるのを目睹し一掬の涙なきを得ない実情である
 朝鮮の労務規制の現状と学徒報国隊の活動状況は大略以上の如くであって端的に云えば悲観すべき点極めて多く此れを如何にして今後是正し円滑化させるかに付て考えて見るに労務管理の根本的革新が先決問題であることは言う迄もない、上欄にも少し述べてあるが如く一体朝鮮には戦争に必要な物資も豊富であり労働力も過剰する程にあったので、之れを戦力化するか否かは一にかかって勤労管理の善否にあったのである、それが労務管理の根本対策が足らなかった為めに今日早や行詰まりを示す悲観的状態に至ったことは誠に残念と言わざるを得ないのである
 朝鮮の労務者をして真に日本人としての所謂玉砕的勤労をなさしむる為には従来の如き形式観念的勤労管理を捨てまず日本人としての国体思想の自覚、戦争精神の興揚、特に彼等に対する後顧無憂の生活援護、労力涵養の生活必需物資の充足等精神的生活的に亘る幾多の指導的条件が必要である、即ち朝鮮の労務管理は思想管理、生活官吏に迄及ぼさなければ万全を期することは不可能であるものと思う
 朝鮮に於ける従来の労務管理が如何であったかかに就てはその現実の状況を要点だけ上欄に略述してあるが、今之れを詳細にするには相当長文にもなるし、又最早や内外周知のことに属する故に、茲〔ここ〕に更めて蛇足を付するを避けるのであるが、然し矛盾している二つの要点だけを指摘して速に改善したいのである
 第一は未だ朝鮮にはあらゆる部門に亘り資本利潤の確保とその増進を図る目的の下に行われていること

◆31枚目◆

第二は自由主義者乃至はマルクス理論を肯定しかねない即〔ち〕反資本主義的インテリーに依って組織せられていることの多い〔こ〕とである、そうして此の二つの精神要点は必然的に相矛盾し、朝鮮の労務管理担当者は常に此の矛盾の中に苦悩しつつあることである
 そこへ最近特に大東亜戦争勃発以後急に湧発された国体主義的大勢の前に朝鮮人は官民上下殆んど戸惑いしつつそれぞれ異なった思想と考え方を内包しつつ表面的に形の上では兎に角大勢に順応して来た様に見えることも事実であるが然し本当のことを言うと勢い朝鮮人の国体観念戦争挺身は多く形式的ならざるを得ないのであり、従って幾多の内在的困難を生じて来ている
 更に最近に至り非職業労務、即ち徴用、学徒、女子挺身隊の如きものが混入され朝鮮に於ける勤労管理はその困難性を益々加重して来た感がする
 要するに朝鮮に於ける労務管理問題の根本対策としてはまず今迄の様な官の斡旋とか一般募集の如き方法をやめて所謂皇国的制度を強化し国民皆兵としての指導精神の下に日本的給与、国体的勤労管理に戻らなければならない、即ち徴用をもっと強化し一応等しく赤子としての報国性所謂同一の資格と同一の重要性に、家族主義を融合したる絶対標準の保証を原則とし、之れに内鮮間に於ける特殊事情や勤労者個人の歴史的地位、能力、知識、技術、勤怠、労務量等を加算条件とすることである、要するに原則としては全家族を養い各員をして各々その性能に応じて尽忠報国を為し得る迄の向上を為さしめ得ることの絶対保証を速に実践しなければならないと思われる
 以上を以て簡単ながら上司より内命を受けた調査事項の復命を終ることにする
以 上

小暮復命書 ②

小暮復命書がカタカナ文なのでひらがなに直したものを上げます。

「8.復命書及意見集/1 復命書及意見集の1」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B02031286700、本邦内政関係雑纂/植民地関係 第二巻(A-5-0-0-1_1_002)(外務省外交史料館

https://www.jacar.archives.go.jp/das/meta/B02031286700

★ご注意★ 旧漢字・異字体のうちタブレットやパソコンやブラウザで表示できない漢字があります。MS-Wordで表示できたものをブログに取り入れた段階で消失した漢字もあります。見つけ次第注釈を加えていますが、コピー・ペーストされる場合は原本のPDFとよく照合してください。



◆1枚目◆
マル秘印
◆2枚目 右片のみ◆

復命書

嘱託 小暮泰用

依命小職最近の朝鮮民事用動向竝邑面行政の状況調査の為朝鮮へ出張したる處調査状況別紙添付の通に有之右及復命候也
昭和十九年七月三十一日


管理局長 竹内德治 殿

◆3枚目◆

目次


一、戦時下朝鮮に於ける民心の趨勢 殊に知識階級の動向に関する忌憚なき意見

二、都市及農村に於ける食糧事情

三、今時在勤文官加俸令改正の官界並に民間に及したる影響

四、第一線行政の實情 殊に府、邑、面に於ける行政滲透の現状如何

五、私立専門學校等整備の知識階級に及したる影響

六、内地移住労務者送出家庭の實情

七、朝鮮内に於ける労務規制の状況並に学校報国隊の活動状況如何

以上

◆4枚目◆

一、戦時下朝鮮に於ける民心の趨勢
  殊に知識階級の動向に関する忌憚なき意見
 戰時下朝鮮に於ける民心の趨勢は大體平穩と見るべきものであって、往時大正八年當時と異なり獨立を夢る者なく官民共に等しく皇國臣民として内地人と協力して克服せんとする傾向にあり、知識階級と雖も同樣にして確固たる自主獨立の成算なく寧ろ米英に依存する獨立は今の現狀より必ずしも良きものと斷じ難く結局日本人として内地人と一致團結して時局を克服せんとする傾向にあり
 而して大いなる戦ひに直面して朝鮮に在る二千五百萬の同胞は聖なる皇民として齊して立って一億の一環としての戦ひを闘いつつある、満州事変以来「内鮮一体」と云う言葉が言はれてからすでに十年の歳月が過ぎたのであるが、今やさうした言葉が不必要な程彼等の戦ひは大きな熱情と真摯な努力とに依って其の生活の裡に行はれて居る
 そうして愈々創氏制も實施され、徴兵制も實施され、學徒の動員も出陣も實施された、劔を持ち銃を執って内地人と共に苛烈なる第一線にも立ち名譽ある皇民として生き抜く姿は内地も朝鮮も殊更な區別する要もない程のものである
 此の現狀は言葉だけではない、彼等は皇民としての生活に深く徹する其の姿が今や男と云はず女と云はず老いたるも若きも唯ひたむきに突き進む唯一の道としてあるものと認識しつつある現狀である、そうして此の現狀は形の上からのみでなく精神的な内容に迄

◆5枚目◆

到達しつつ比ひなき日本的生活の中に於て、戰う爲に大東亞戰爭を勝ち拔く爲に彼らは先づ生活と戰って居る、古い朝鮮式生活樣式を捨てて新なる生活の形が激しい勢で日本化されて行くのであった、そして生活の錬成と云ふことが今日の朝鮮人男女老幼に課せられた大きな命題となって居る、
 以上が今日の朝鮮民心動向の一般的觀察であらう、然し他方これとは正反對に悲觀的な見方もある樣である、卽ち所謂思想的な人々や警察關係の方面に多く抱かれて居る見方である、更に一部の知識階級にして民族思想運動に興味を持つ人々がそれである
 兎に角朝鮮に於ける民心の動向、思想界の傾向が最近特に大東亞戦争後激しい變り方を見せている事は事實であって、私が今囘朝鮮に出張して調査した個人的考へからこれを結論として端的に言ふならば朝鮮の思想傾向は一般に大衆的には非常に良くなって居る
 然し以上述べた樣に多少悲觀的傾向のあることも事實である、故に私は今囘現地に於て各層階級人と直接會ひ語った資料と對照して樂觀論と悲觀論と云ふ二つの分野に於て見た儘、聞いた儘の事實を纏めて復命することにする、先づ樂觀論に就て最も變遷の激しい傾向としては朝鮮に於ける宗敎界の革新激變であり、民族主義者並に共産主義者達の轉向激增と質的向上であり、更に敎徒運動の勃興狀態である
 それは内外周知の如く朝鮮に於ける從來の宗敎團体として最も有力なものは基督敎と天道敎であった、之等の宗敎團体は在來宗敎的色彩よりも政治的色彩をより多く持って居た、卽ち基督敎特に長老敎派と天道敎は恰も朝鮮に於ける民族獨立運動の中核体を成して居ったが、今や之等が大きな轉換を示して居ることである、全鮮に於て五十萬以上の敎徒を占め、而も質的に最も不良であった長老會敎徒は、昭和十一年迄は神社不參拜運動を起し漸次

◆6枚目◆

其の運動は全鮮に波及したが、昭和十六年大東亞戰爭が勃發し無敵皇軍の赫々たる大勝利が展開されると同時に十七年の新春を迎へ全鮮總會に於て革新的な發足をなすべく國民的な聲明を發し、從來誤ってゐた彼等の内部の規定をば改正し直にこれを實踐に移さんが爲に、日本的な革新要項に二十數項目を發表したのである
 又天道敎は朝鮮に於ける類似宗敎團體として最たる有力なるものであって、一時信徒百萬を占むる大きな勢力を有して大正八年遂に獨立萬歳事件を主唱したのであったが、これも國家的に日本的な宗敎に向上せしめんが爲に敎義を改正し日本的革新を行ひ、今や朝鮮の連盟運動に順應して各々長老、天道の如き國民連盟を組織し全鮮からの各代表者が悉く參加して等しく皇國臣民として國旗に敬禮し、皇國臣民の誓詞を齊誦し、萬歳を唱へ、神宮にも擧って參拜するといふ誠に感激的な狀景を展開してゐる現狀である
 次ぎに轉向者の激增と質的向上のことであるが、大東亞戰爭後に於ける朝鮮人主義者の轉向者は數に於て增加し質に於ても相當向上した傾向を示してゐる、從來は多くの轉向者の中には單に打算的表面だけの人のあって實際に於ては仲々舊態を脱し切れない者も相當あったのである、然るに最近に於ては朝鮮人の將來は日本人になり切らねば救はれる道は更にないと云ふ確固たる信念に生きる眞實の轉向者が續々として增加し今や相當數に達して居る現狀である
 而して内地と朝鮮との一体は歴史的に必然的に規定された宿命であるが故に、世界に其の比類を見ざる皇道精神を研究することに依って日本精神に生き、日本の國体に徹し、日常語に國語を常用しなければならないと云ふ畫期的な思想方向が決定され、斯くする事に依って始めて朝鮮人は推進するのであると彼等多くの轉向者は考へて居る、然らずして若しも假想された内鮮一體論に逃悔して居るならば必ず數年ならずして馬脚を現はし其の時こそ

◆7枚目◆

朝鮮人が永遠に日本から見放される時であると迄に彼等轉向者達の考えは徹底して來た傾向を示して居る
 これと同時に彼等の内面的な革新と共に多くの眞面目な實踐運動が民間に於て自發的に展開發進しつつある、卽ち各地に於ける敎化運動の勃興である、これも朝鮮の思想界と民心が良くなりつつある證左と私は思ふのである、現在全鮮各地に八紘寮、大和塾、皇道會、學生塾、錬成道場の如き日本精神を基調にして集る敎化運動團体が相當多く勃興して居る
 故に朝鮮の思想界と民心の趨勢に就いては上述の如き極端なる悲觀論も無いではないが、然し以上の如く一般大衆の何と云っても光輝ある皇道街道を前進して居るのであって、大体に於て、それは非常に良くなって來たと云ふ結論を下しても間違ひではなく、又今後指導當局としても更に研究調査の上適當な方法を以て押し切って行かねばならぬと思ふのである
 次ぎに悲觀論であるが、時局に伴う多少の苦痛其の他種々の不滿の爲に民心の一部が漸次惡化しつつあると云ふ見方もあり得るし、亦斯の如き傾向も事実もある、卽ち大東亞戰爭の長期化に伴って種々思想上惡波紋、精神の弛緩等に依り彼等の中には、特に知識階級並に有産層の一部と民族主義者の中には反戰、反官的な厭世傾向もあり、早く事變が終れば良い等と考へてゐる人もある
 更に最近の戰況を悲觀し日本の將來、統制經濟の將來と云ふものに對して相當流言飛語が出て來てゐる地方もある、卽ち統制經濟に伴って起る影響、例へば物價が高くて困るとか、物資の缺乏、物資の自給の不圓滑、配給制度の不公平と云ふ樣な私生活上の苦しみ、又食糧對策が旨く行かぬと云ふ樣な不平不滿のあることは事實である
 特に地方の大地主や都會地の富豪階級の人々の中には日本の新体制、統制經濟の强化方針は共産理論の實現ではないか、統制と

◆8枚目◆

云ふ名前を借りて實際は共産理論を實踐するのではないかと云ふ一種の疑惑と恐怖を抱いてゐる人も相當にある樣であり、又似而非なる轉向者達は蘇聯の行き方が最も良い、蘇聯は强い、現在日本のやり方は蘇聯によく似てきているのではないか、故に共産理論は最も正しいのであると云ふ風に懷疑的に考へて居る人々も相當に多くなったことは事實である
 斯の如く考へて居る彼等は漸次日本の國力を疑ひ、或は朝鮮人は第一次世界大戰のときに印度が英國に騙された樣に、日本政府に騙されて居るのではないか、或は重慶政府が聲明した樣に日本は長期戰に依って經濟的に思想的に行き詰るのではないかと云ふ樣な全く愚しい考へ方を抱いて居る人も最近各地に相當多く增加して來たことも事實である
 更に民族主義者の一部には内鮮一体への誤解も相當ある樣に見ゆる節もある、例へば國語の奬勵を以て朝鮮語の否認だと云ふ誤解もあり、諺文新聞を統制した事に付ても之れは過般京城に於て開催された各界代表者懇談會の席上に於ても暗に關心を有する向もあったのである、特に今後決戰の遲速利鈍に依って彼等の思想も相當變化があるものと思はれる、左に參考の爲京城に於ける有志懇談會席上に於て朝鮮人有志の希望する所の要點を記述することにする、尚出席者は左の通りである
  日 時  昭和十九年六月十七日午後五時
  場 所  京城府 白雲莊
  出席者    荒木民政課長
         小暮嘱託
         坂手屬
         毎日新報編輯局長 鄭 寅翼
         〃   社會部長 洪 鐘仁

◆9枚目◆

         毎日新報社會次長 金村 承燾(「燾」手書き)
         人文社代表  石田 耕造
         京城拓殖經濟專門學校敎授兼生徒監  玉岡 璿珍(「璿」手書き)
         宗教家  李 重宰
         京城辯護士會副會長  姜 柄順
         實業家  李 晟煥
右記各有志から席上希望として述べられた要點の内主なる項目のみを擧ぐれば
(イ) 内地朝鮮間の人事の交流を最も頻繁ならしめ傳統的と見るべき一種特殊なる朝鮮的官僚氣分を速かに改め、上意下達、下意上達を徹底せしむること
(ロ) 末端政治の强化、即ち邑、面長の人物選定並に邑面職員の增員と素質向上を圖ること、之れには先づ待遇方法を講ずること
(ハ) 勞務管理の改善、指導員の再錬成配置、
(ニ) 朝鮮奨学會を改造すること、特に官僚化、取締化の如きことを改め事を指導教化に努めること
(ホ) 内地に於ける朝鮮人勞務者の多い所には各班に實力ある朝鮮人班長又は寮長を速やかに配置すること
(ヘ) 今後朝鮮より供出する勞務者は從來の如き募集又は官の强制斡旋方法を改め指名徴用制を速かに實施すること
(ト) 今後朝鮮及朝鮮人問題の結論に付て吾人の希望とする所は綜合的に云へば理窟よりも情と涙を以て解決して貰いたい、
(チ) 對朝鮮人問題に付て、其の善惡を問はず概括的に評論することは大に警戒すること、當局が餘り監視し過ぎることを改め或る程度朝鮮人を信賴し朝鮮人に責任を持たせること
(リ) 配給制度の公平を圖ること
(ヌ) 朝鮮には内地と異なる前官禮遇と云ふ特殊のブロックがあ

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る、卽ち高官高位の退職者に全鮮各地の特殊機關の實權を與へて居ることである、之れが朝鮮統治の癌となる場合が極めて多い、これを速かに改革すること
(ル) 内鮮一体の完成は内鮮無差別の完成に始まる故に内地延長として朝鮮人にも參政權を與へよ
(ヲ) 併合當時は貴族並に上流階級を相手に朝鮮統治を行ひ、次ぎは第二次的に公職者を相手にして政治を行って來たが、然し之れは今の時勢には旣に遲し、今後は靑年並に大衆を相手とする根本政策を樹立せよ
(ワ) 御世辭を使う者のみを登用する制度を改め本當の人物を選び出すこと

二、都市及農村に於ける食糧事情
 朝鮮に於ける都市及農村の食糧事情は相當深刻のものあり、其の實例として朝鮮に旅行する時汽車の窓より望むるも沿線の林野に於ける松木の皮を剥ぎたるもの相當見受くることがあるが沿線にあらざる深山には尚多く近き將來に於て朝鮮の松木は或は枯死するのではないかと憂慮する人達も相當多い樣である、併合以來故寺内總督を始め歴代總督は朝鮮の山林行政に相當力瘤を入れたる結果最近に至りては朝鮮の林相も稍良好になって來たが昨今の食糧事情に依る此の現象は實に憂慮に堪へざるものあり
 農村人及地方有志の忌憚なき意見を調査して見ると、從來大体に於て朝鮮は食糧の自給自足不能に非ざるに拘らず斯る現象を呈するは行政當局の其の措置宜しきを得ざるに基因する所多しと非難する地方もある、卽ち配給、供出機構の不完全は勿論のこと、先づ其の衝に當るものの情實又は實情を知らざる盲目的行政の結果なりと彼等は非難して居る
 私が今囘實地に於て調査して見た所から考へて端的に云ふと、

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朝鮮の食料事情は都市に於ては配給の面が、農村に於ては供出の面が問題の全部を浮彫してゐると言っても過言ではないと思ふ、
 勿論當局の食糧行政の行方としては供出量は生産高に依って決定されることにはなって居る、卽ち生産高より農家人口の一人當り一日何がしの消費引當量を農家保有量として爾餘を供出量と定めこれを農家に供出を命ずることとなしていゐる
 然るに今日朝鮮に於ける農業生産統計たるや大体に於てそれは前年農村振興時代の柱纂なる統計數字を基準として居るものにして衆目の見る所凡そそれは常に過大見積であると云ふ事に一致して居る、而も斯る過大なる生産統計の下に於て尚個々農家の收穫高を決定する上に於ても相當の努力が拂われて居るに拘らず多くは無意識的に稀には意識的に凹凸を生ずる場合が相當に多いことも事實である
(欄外手書きメモ:部分的には兎も角全般として首肯し難し、大正年末頃年々、七八百万石の移出ありし時代を如何に説明するか)
 斯る基礎に於て個々の農家の具体的供出量が定められる、そうして此の供出令は文字通り至上命令とされ供出の完遂は勸奬よりも强壓强權を加へて强ひられる場合が極めて多い狀態である
 而も朝鮮の農民は純朴從順であって、そこには涙ぐましい數々の實話實情多い、或は明日の糧まで供出せる者あり或は彼等の何よりも大切なる農牛や家屋や家財道具等を賣拂って闇買をしてまでも自己の供出割當數量を完遂せる者も居る、從って部落に於て勢力のある者、卽ち所謂有力者其の他富豪權力者を除いては出來以外の時に於ける農村の食糧事情は殆んど窮迫の狀態にある、從って農業者にして尚朝飯粥は良い方で多くは糊口に苦しみ自己の生産物は全部供出に献げ自分は大豆、小豆の葉や草根木皮にて辛じて延命し顏は腫れ上り正に生不如死〔生くるは死するにしかず〕の慘狀を呈し空腹の爲め働く事も出來ず寢て居る者も尠くない狀態である
 斯の如き朝鮮農村の食糧事情よりして農民は食糧は生産しても自らは喰へない故に農村には增産意慾どころか寧ろ厭農思想が相

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當濃厚であり生産物を隱匿せんとする傾向が强くなって來た
  そこで供出督勵者は農家や農家の周圍を搜索し炊事時に不意打的に踏み込み炊事釜や食物を檢査し果ては面、駐在所等に呼出して尋問する等全く朝鮮でなくては見ることの出來ない奇異なる現象を彼所此所に露出して居る、宜しく今後は農民に食糧を保證し産業戰士として所遇するのが急務であり之が結局增産の最も有力な途である樣に思はれる
 一方飜って都市の食糧事情を見るに都市には殆んど完全に近い配給制度が實施され一人當たり一合四勺乃至二合三勺の配給を大体に於て順調に受け滿腹の程は期待し得ざるも一應不安はない狀態に在る、一般に都市人は配給量の僅少なるが故に四六時中空腹感を訴へながらも尚定まった量を殆んど正確に配給を受けて居るのは農民にして一日一合程度も糧穀を喰へないのに比べて見る時は都市人は幸福と言はざるを得ない、農民の倉には糧穀はなくとも都市の食堂には猶何かの食物の備がある實情であって、此の點内地とは正反對の現象と言はざるを得ない
 而も都市人の中でも財力に餘裕があり時局認識の足らざる薄志の徒は法網を潛って闇にて白米並に其の他の食料品を買入れ(朝鮮に於ける白米一斗の闇價は六十圓前後なり)自己の食生活を充實して居る者も相當に居る、同じ闇買にしても農民は自己の供出責任完遂の爲にやり、都市人は自己の滿腹の爲にやる、之れも朝鮮ならでは見られざる誠に奇異なる對照である
 要するに朝鮮の食糧事情は都市方面の非農家は殆んど正確に近い所定量の配給を受けながら尚空腹を訴へ、農村人は自ら食糧を生産し乍ら猶出來秋以外の時に於いては概して自家の食糧にも窮迫して居る實狀である
  斯くして都市と謂はず農村と謂はず互に顏を合はせれば食物の話で都鄙の話題は殆んど食物に關するもののみであって全く食に

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かけては紳士も匹夫もない有樣である、ここに「民は食を以て天となす」「衣食足って禮儀を知る」と云ふ古訓が如實に物語って居る
 扨以上の如き朝鮮の食糧事情の窮乏の原因は何んであるか、又之れを如何にして是正するかに付て考へて見るに從來の耕地面積並に生産に關する統計は不正確であるにも拘らず未だ之れを以て基礎としてゐること、次ぎは反當收穫の見積等が實情に副はざる場合が多いこと、又農家の消費食糧の量を過少に規制したること、更に最近數年間凶作續きであったこと等であらうと思はれる
 而して農家に於ける食糧の供出は敍上の弊に依って供出數量過多に失し中には全生産量を之れに充てても尚足らないものさへある、而も供出數量は確保すべきであるとの見地より無理に近い督勵を加へる爲に農家は供出後翌日より殆んど食糧なき狀態であり而も配給は必ずしも其の翌日より支給せられない爲殊に細農の困窮は甚だしい、又春窮期に於ける還元制の特配を受けるにしても其の量極めて少なく一日一人當一合未滿の場合が多い、故に此の際思ひ切って統計を先づ是正すると共に農家一日消費食糧を少くとも一人當四合以上とし、實情に依って農家の食糧を控除したる後、殘餘を全部供出せしむる樣にするか、又は生産食糧一切を全面的に買上げ翌日より農家非農家の區別なく一定量の配給を行ふか、何方でも急速に朝鮮の食糧事情の窮迫を救はなければならぬものと思ふ
  それから少し話が橫道の樣に考へるが朝鮮に於ける食糧問題解決に對し最も密接なる關係を有する問題の一つとして昭和十九年度朝鮮米穀生産責任數量決定額に付てこれを檢討して見ると卽ち今年度の食糧生産責任量は
   米   二千六百萬石
   麥   一千六十三萬石

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   其他雑穀 九百三十萬石
   合計   四千五百九十三萬石
となってゐるが一体此の數量は如何なる方法に依って算出決定されたものか專門家でない私が僅か三週間位の短時日の調査ではその正否を今直に確言することは出來ないが先づ其の中の米二千六百萬に付て考へて見ると前古未曾有の大豐作と言はれた昭和十二年の米作數字を除いては朝鮮の米作生産史上に未だ其の前例のない數字である
 卽ち昭和十四年の千四百萬石と云ふ大凶作以後に於ける朝鮮の米生産高を調査して見るに同十五年の二千百萬石、同十六年の二千四百萬石、同十七年の千五百萬石、同十八年の千八百萬石であってその五ヶ年間の平均收穫高は千八百四十萬石となって居る、此の理由は近年朝鮮の氣候は連續的旱魃の多い關係もあり更に鮮内の勞働力も漸次減少し、又化學肥料の不足等が其の原因であるものと思はれる
 然らば昭和十九年卽ち今年度の米作は果たして朝鮮の農業生産の隘路が解消されて居るかと云ふに決してそうではない、戰局の進展に從ひ今年度より實施される徴兵制に伴い併せて農村靑壯年の戰鬪再配置等があり、更に國内科學工業の擴充に因り農業肥料生産の減縮は必然であると想像するに於ては例へ此の儘天候が順調になっても二千六百萬石と云ふ米收穫は容易なことではないと考へられる、卽ち過去五ヶ年間の平均收穫量千八百四十萬石に比すれば七百六十萬石の增加であるから約四割に該當する數量が增加されたのである
 もっと詳しく言へば過去五ヶ年間に平均收穫量十石の農家とすれば四割增しの十四石が其の生産責任量となった譯である、天候の變調如何に拘らず同一條件の下に四割增産と云ふことは朝鮮農家としては甚しき過重の負儋と言はざるを得ないのである、故に速

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かに此の數字に再檢討をするか、又は現下時局に鑑み此の二千六百萬石と云ふ數字が絶對的に國家が要請する量であれば鮮内科學肥料不足の對策として自給肥料の增産、適期施肥、施肥方法の適正化等に關する根本策の確立、そうして三百萬戸以上の農家と十萬戸以上の地主と數萬の指導者が打って一丸となって人生最高の努力を傾注する樣仕向けなければならないことと信ずるのである

三、今次在勤文官加俸令改正の官界並に民間に及したる影響
   此の問題に付て朝鮮人官吏及民間人に就て調査して見ると大略左の如き現狀である
  卽ち朝鮮人官吏に對する加俸支給に付ては
  イ、内鮮一体の理念を具現したるものにして寧ろ其の遲きに失したる憾あるも一層の責任感と明朗性を與へたりとなす者
  ロ、戰局の推移に鑑み先鋭化しつつある朝鮮民心を緩和せんとすることを企したる懷柔政策なりと爲す者
  ハ、官界に於ける内鮮人の全面的無差別化は優秀なる内地人の渡鮮を阻害し内地人側に於ける人的貧困を來すべしと爲す者
 等の見方ありて(イ)の觀點に立つものは當然なりと爲すが故に(ロ)の見地に在る者は政策なりと見るが故に本制度の實施は朝鮮統治上劃期的恩典なるにも拘らず大なる感銘を與へざりしが如し、殊に瞠目すべきは該制度が一部上層官吏にのみ其の恩典に浴せしめたる點にして或は上に厚く下に薄きは親心に反するものなりと爲し、甚しきに至っては之等上層指導階級を懷柔することに依って之等を一般民衆の宣撫に利用せんとするものなりと斷ずるものさへある
 他方一般下級官吏は現下の如き物價高に比し著しく薄給にして

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殺人的の生活難なるに拘らず之を默過したるは當局の企圖に他意あるべしとなし眞劍に之が穽鑿討議を敢へて試みる者もある
 要するに本制度は朝鮮民衆に内鮮一体の理念を制度的に實證具現せるものとして受入れられ朝鮮人官吏をして眞の帝國官吏としての自覺を喚起せしめ其の責任の重大なるを感ぜしむるに多大なる貢献を爲したるも之を一部の上層官吏の範圍に止めたるに基因する疑惑感は否定し得べからざるものありと謂ふべし
 更に此の問題に付て朝鮮人民間有力者の忌憚なき意見を調査して見るに、從來朝鮮人官吏には加俸を支給すべからざるものなることを理論的に説き永年朝鮮人の深刻なる反對心裡を抑制し來りたるに拘らず突然全く同一率の加俸を支給することとなったことに對しては先づ驚きたるは朝鮮人官吏自身であったであらう
 而して其の支給が一般的に非ずして一部分に過ぎざる故に其の恩典に浴せざる階級の不平甚しく此の點は憂慮に堪へざるものありと見へる、卽ち生活に餘裕なき判任官以下に支給せず比較的生活の安定を得たる高等官にのみ加俸を支給する結果高等官自身も心中疑心を抱くであらうと論ずる人が多い、其の理由としては卽ち戰後朝鮮人の高等官の數を減ずるは必然なりとして内心疑なき能はず、又反面判任官以下の不平相當深刻なる地方もあるが此の點は相當注目を要する問題と思ふ、事實として内地人と朝鮮人とが絶對平等となる理なきにも拘らず斯る同率の加俸を突然支給するは近き將來に於て内地人側より不平又は反對運動起るべく、之を收拾することも困難であらうが更に一面朝鮮人の判任官以下に迄速かに加俸を普及することが出來ないとすれば之れ亦相當困難なる問題を惹起すべく結局今時の加俸の支給は技術的に見て拙劣なるものありと彼等は考へて居る

四、第一線行政の實情

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   殊に府邑面に於ける行政滲透の現狀如何
 決戰下外地に於ける第一線行政の實情の眞髓を調査することに付ては上司の内命もあり且又私自身の職柄多大の關心を以て可なり多方面の人々に會って語ったこともあったが先づ南鮮と西鮮地方に於ては少々悲觀したこともあった、それは或る地方の有力者の話を聞くと、其の答へに曰く今日朝鮮の第一線行政は全く行詰りたる狀態にして誠に寒心に堪へざるものありと言ったことである、其の理由に曰く、朝鮮には昭和十六年頃より、これには「韓國以上」と云ふ合言葉が民間に流行したと云ふ、原因は社會情勢の急變と官紀の㾱頽により一般大衆の苦しみが增加し、遂に斯る言葉が流行する樣になったが、先づ舊韓國時代には一部富豪のみが苦しみたるに過ぎずして一般大衆は寧ろ今日の如き苦しみを体驗したることがなかったが今日の現狀は富豪よりも一般大衆がもっと苦しむ樣になったと云ふことである、然し斯の如き不評判の原因は結局戰局の進展に伴ひ色々と複雜な責任の負荷が多くなった爲めであり、又此の複雜性の内容を彼等が理解し消化し得ないからであるものと思ふ、卽ち上意下達、下意上通が圓滑になってないからである
 事實朝鮮の第一線行政の實情は四年前に比し相當複雜となって來て居る、戰局殊に大東亞戰爭後に於ける戰局の進展に伴ひ朝鮮には各種の榮譽と責任が新に付加されて來て居ることは事實である、今其の主なるもののみを擧ぐるも
 イ、食糧を主とし其の他數十種に及ぶ農林畜産物の供出
 ロ、貯金及献金乃至献納
 ハ、勞務の供出
 ニ、志願兵より徴兵制度
 ホ、特殊鑛工物增産
 ヘ、義務敎育實施と敎育整備

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 等にして之等の施策は殆んど其の結果に於て達成せられざるものなきは其の都度當局者に依って半島官民の努力と協力に對する感謝の言葉を以て言明された通りである、卽ち外形と結果に於ては上部の意圖は殆んど第一線末端機關に滲透し從って第一線の官公吏亦聖戰完遂に奮鬪しつつあるのが其の現狀であるものと見るのが普通であらう
 然らば之を以て直ちに朝鮮の第一線行政の實情は滿足すべき狀態であるかと云ふに決してそうではない、問題は其の結果に至る迄の過程と方法乃至は政治技術の如何にあるものと思ふ、此の點に關する限りは上部の意圖は凡そ末端下部に滲透し居らないのが今日の實情であるものと思考す、爲に總督政治に對する豫期せざる疑惑、不平不滿の生ずること尠しと見るのが正しい調査資料と思はれる、故に斯の如き原因を一日も速かに除去することこそ朝鮮統治をして本然の姿に戻し明朗性あらしむる最大急務なり信ずるのである
 其の原因の主なるもののみを擧ぐれば
 イ、郡守に至る迄の不滲透の原因
本府に於ては地方第一線の實情に通曉せず綜合的認識を缺く者が自己の分野にのみ跼躅[足局][足蜀]して〔行きなやんで・ぐずぐずして〕餘りにも理論的にのみ精微なる立案を爲したるものが道に於ては其の多くが本府よりも素質低下なる屬僚の手に依り之を咀嚼することなく其の儘移牒せられ郡に集中されるのである、(而も本府の企劃者の中には實際的經驗及識見の乏しき者多く道の屬僚中には亦知的に低下なる者多し)
 ロ、郡より邑面に至る間に於ける不滲透
郡邑面職員の知的不足と素質低下等に加ふるに弱馬駄重的に事務は之に集中輻輳する結果、重點事務たると否とに拘らず平等に無關心となり研究工夫は殆んどなく、且つ又邑面財政

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の凋渇は之等諸優遇方策を只名目上のものたらしむる事になり一種の疲勞感嫌惡感さへ抱き會議及上級官廳の監勵出張に依り强調せらるる施策方法に關してのみ而も其の結果特に最終的結果丶丶丶丶例へぱ食糧增産供出に就て謂へば播種面積擴張、耕種法の改善等は之を多く報告の上に於てのみ達成し其の虚僞の報告に基いて割當てられたる供出の達成にのみ全力を注ぎ爲に民衆をして當局の施策の眞義、重大性等を認識せしむることなく民衆に對して義と涙なきは固より無理强制暴竹(食糧供出に於ける毆打、家宅搜索、呼出拷問勞務供出に於ける不意打的人質的拉致等)乃至稀には傷害致死事件等の發生を見る如き不祥事件すらある
斯くて供出は時に略奪性を帶び志願報國は强制となり寄附は徴收なる場合が多いと謂ふ
 ハ、邑面より民衆に至る間の不滲透
邑、面殊に面は第一線に於て一般民衆との中間に立って本府の企圖する一切の施策を擔當實踐する重要なる末端行政機關であるが其の下に知識極めて定休にして國語も理解せず極めて不自然なる朝鮮語を以て記されたる公文通牒を受領し素朴なる思惟と下に活動する區長があり、此の區長に至り一切の理論的行政施策は褪色され殆んど其の政治意義を消失するに至るものと思はれる
 然れば之等の弊害を如何にして取除くか、其の是正の方策として主なるものを擧ぐれば
 イ、道の屬官級に知的素質の優秀なる朝鮮人靑年を多く增員すること
 ロ、府、邑、面の職員の水準を高むる意味に於て中等程度の地方行政講習所の如き錬成敎育を一層普及すること(現在の邑面職員の九割は小學程度)

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 ハ、區長の待遇を一層改善强化し優秀なる人物を配置すること
 ニ、本府及道の職員は質的向上を計り量的にはこれを減少することとし郡、邑、面殊に面職員の增員を斷行すること
 等であるが、要するに以上の如く朝鮮の行政は其の實施過程に於ける不正確なる方法と政治技術の足らざる所から本然の姿より逸脱する場合多く爲に民衆に意圖以上の又は意圖せざる重き負擔を負はせ一般民衆の認識並に能力が官の要請に追ひつかぬ事になり依って民衆をして疑惑感、時には反感をすら抱かしむる場合が極めて多い、然し兎に角表面から見れば朝鮮の地方行政の第一線は皮相的に其の結果の點に於てのみは相當滲透せるものと謂ふべし

五、私立專門學校等整備の知識階級に及したる影響
 決戰下敎育非常措置に依り朝鮮に於ける私立專門學校等の整備を行ひたることに付て朝鮮人知識階級人等の意嚮を調査して見ると彼等曰く、此の措置は朝鮮人の知識階級を絶望的境地に追込み朝鮮人社會に於ける敎育事業熱を奪ひ去ったと云ふ、蓋しそれは今日迄朝鮮に於ける私立專門學校が朝鮮人知識階級に對して演じた役割機能の全面消滅を意味するからである、一般的調査資料としては此の整備問題に對する朝鮮人特に敎育家及知識階級層に於ては極めて不評判であり彼等の中には朝鮮の敎育政策を疑ふ樣になって來た人々も相當增加して居る
 各方面に於ける影響も極めて多種多樣ではあるが今其の重なるもののみを擧ぐれば大略左の通りである
 (イ)、朝鮮の過去に於ては私立專門學校には比較的組織津の優秀ならざる者及官公立學校に進學するを好まざる者、思想的に不穩なる者(此とて内地の私大に比すれば問題にならぬ程素朴なもの

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ではあるが)等が進學したと云ふ傾向があった、旣に内地の文化系統私大への進學の途が塞がれた今日之等の學徒は近代文化の電動から閉出を喰ったと考へる者もあり、此の事情は理工科系統學校擴充により專門學校生徒募集總數に於て千二百名の增加を見たとしても進學希望數に照らして官公立專門學校の入學許可率に於ける内鮮の差別を徹底的に撤廢しない限り少しも緩和されることはないであらうと考へる者も相當多い樣である
 (ロ)、從來朝鮮に於ては私立專門學校が朝鮮文化の維持培養上に於て大きな役割を演じたことは何人も否定出來ない事實である、旣に早くも朝鮮語の敎授及使用が全面的に禁止されたる今日に於て私立專門學校等が整備されたるは今後朝鮮文化の最も有力なる維持培養の擔當者を失ったと云ふのである、尤も朝鮮文化が全部朝鮮文で記され、朝鮮語で語られるのみでないにして今日迄の朝鮮文化の有方はそうであったのであり、又現在も尚全朝鮮人中國語を解する者が僅か一割五分に過ぎない狀態に於ては猶更のことであると云ふ
 (ハ)、元來朝鮮人社會には官公立敎育機關の不足と相俟って敎育事業熱は相當に旺盛であった、例へ貧者と雖も且又相當吝嗇家でも事子弟の敎育に關するときは多額の寄附を爲し小學校の敎育に於てすら最近は克く内地人の數倍に匹敵する種々の負擔に甘んじて堪へて來て實情であり知らざる者の惱みを詳かに歴史的に社會的に經驗せる彼等としては當然なことと思ふのであらう、殊に知識階級に於て私立敎育事業熱又は敎育事業助成熱は最近一層旺盛となって來たが之等は此度の私立專門學校等の精微を目睹して捨鉢的氣持になり一切の私學事業への希望を捨てた觀があって、正に朝鮮人の經營する敎育機關を奪ひ去った感を與えたと同樣な狀態である
 (ニ)、從來朝鮮の私立專門學校の敎授の多くは外國留學又は内地留

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學生が其の大半を占めて居た、其の敎授陣は所謂朝鮮人知識階級の最高水準にあったことは否めない事實である
而して立派な皇國臣民としての最高の敎育を受け其れ丈の實力を有志し乍らも官公立の大學專門學校の敎授となることを許されなかった爲に朝鮮人學者にとっては之等私立學校の敎授たることが一生聖なる學研の途に精進し象牙の塔に籠る唯一の途であり且つ學者としての生活戰線でもあったのである、故に一面之等朝鮮人敎授陣の總退却は其の多くが生活に餘裕なき朝鮮人子弟に對して學者的生活の門戸を完封したものと彼等は考へて居る
 (ホ)、最後に朝鮮に於ける女子專門學校の場合に就て調査して見るに近年知識階級の配偶者を養成提供すると共に一方餘りに先端的な空虚な虚榮心(現在朝鮮人の文化程度を見て)を朝鮮人大衆に植ゑ付け一部の識者並に大衆から白眼視された私立女子專門學校を整備した事は善惡相半ばすると云はれて居る、蓋し其の整理方針に於て政治的技術の足らざること並に内地の其れに比し餘りに酷に失したと云ふ點及び敎授陣の總退却とは男子專門學校の場合に準じて之も相當惡影響を及ぼして居る樣である

ハ、内地移住勞務者送出家庭の實情
 從來朝鮮に於ける勞務資源は一般に豐富低廉と云はれて來たが支那事變が始まって以來朝鮮の大陸前進兵站基地としての重要性が非常に高まり各種の重要産業が急激に勃興し朝鮮自体に對する勞務事情も急激に變り從って内地向の勞務供出の需給調整に相當困難を生じて來たのである、更に朝鮮勞務者の内地移住は單に勞力問題に止らず内鮮一体と云ふケンチからして大きな政治問題とも見られるのである
 然し戰爭に勝つ爲には斯の如き多少困難な事情にあっても國家

◆23枚目◆

至上命令に依って無理にでも内地へ送り出さなければならない今日である、然らば無理を押して内地へ送出された朝鮮人勞務者の殘留家庭の實情は果して如何であらうか、一言を以て之れを言ふならば實に慘憺目に餘るものがあると云っても過言ではない
 蓋し朝鮮人勞働者の内地進出の實情に當っての人質的略奪的拉致等が朝鮮民情に及ぼす惡影響もさること乍ら送出卽ち彼等の家計收入の停止を意味する場合が極めて多い樣である、其の詳細なる統計は明かでないが最近の一例を擧げて其の間の實情を考察するに次の樣である
 大邸府の斡旋に係る山口縣下沖宇部炭鑛勞務者九百六十七人に就て調査して見ると一人平均七十六圓二十六錢の内稼働先の諸支出平均六十二圓五十八錢を控除し殘額十三圓六十八錢が毎月一人當りの純收入にして謂はば之れが家族の生活費用に充てらるべきものである 斯の如く一人當りの月收入は極めて僅少にして何人も現下の如き物價高の時に之にて殘留家族が生活出來るとは考へられない事實であり、更に次の樣なことに依って一層激化されるのである
(イ)、右の純收入の中から若干勞務者自身の私的支出があること
(ロ)、内地に於ける稼先地元の貯蓄目標達成と逃亡防止策としての貯金の半强制的實施及拂出の事實上の禁止等があって到底右金額の送金は不可能であること
(ハ)、平均額が右の通りであって個別的には多寡の凹凸があり中には病氣等の爲赤字收入の者もあること、而も收入の多い者と雖も其れは問題にならない程の極めて僅少な總金額であること
 以上の如くにして彼等としては此の勞務送出は家計收入の停止となるのであり況や作業中不具㾱疾となりて歸還せる場合に於ては其の家庭にとっては更に一家の破滅ともなるのである
 然し之等の事情に對する異論もある樣である、卽ち勞務援護や

◆24枚目◆

勞務協會のことや殘留家族殊に婦人の積極的活動に依る收入の確保等があるではないかと云ふのが其れであるが、然し朝鮮の勞務援護に就て云へば左の如き二つの方法があるであらう、其の一つは鄰保相助を擧ぐるであらうが、之れも朝鮮の農民と勞働者の大衆は未だ斯る良風美俗の實踐者たる爲には餘りにも貧困過ぎる現狀であり、其の二は勞務協會の援護であるが之れも勞務者一人當り五圓を財源とする本會の實情は之の豫算も現實的には宴會其の他の費用に充てられて居る現狀である
 更に殘留家族殊に腐女子の勞働はどうであるかに就て調査して見るに、朝鮮の都市に於ての一家支柱たりし男子に殘留婦女子が代替し得ることの出來ないことは固よりであるが農村に於ても土壤の瘠薄性と耕種法殊に農具の未發達、高率の小作料、旱水害、其の他の各種夫役等の增加の多い今日に於いては全家族總動員して勞務に從事し以て漸く家計を維持したる農民が戸主又は長男等の働き手を送出したる後婦女子の勞働をして其の損失を補償代替更に進んでは家計の好轉を圖り得ないことは明白な事實であって、此の點自然的條件に惠まれ耕種法其の他營農の發達したる内地農村と同一に考へることは出來ないのである、況や朝鮮農村の婦女子は其の九割以上が殆んど無敎育であり靑少年は徴兵實施と其れに伴ふ各種の錬成其の他の行事の爲に實際的には働手たる意義を大いに減殺されて居るのである
 斯して送出後の家計は如何なる形に於ても補はれない場合が多い、以上を要するに送出は彼等家計收入の停止となり作業契約期間の更新等に依り長期に亘るときは破滅を招來する者が極めて多いのである、音信不通、突然なる死因不明の死亡電報等に至ては其の家族に對して言ふ言葉を知らない程氣の毒な狀態である、然し彼等殘留家族は家計と生活に苦しみ乍ら一日も早く歸還することを待ちあぐんで居る狀態である、私が今囘旅行中慶北義城邑中

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里洞金本奎東(二十三才)なるものが昭和十八年七月一日北海道へ官の斡旋に依り渡航した家庭を直接訪問して調査したるに、最初官の斡旋の時は北海道松前郡大沼村荒谷瀨崎組に於て本俸九十五圓、手當を加へ合計月收百三十圓となる見込みとの契約にて北海道より迎へに來た内地人勞務管理人に引率され渡航したる後旣に一年近くになっても送金もなければ音信もない家に殘された今年六十三才の老母一人が病氣と生活難に因り殆んど瀕死の狀態に陷って居る實情を目撃した、斯の如き實情は此の義城のみならず西鮮、北鮮地方に極めて多く、之等送出家庭に於ける殘留家族の援護は緊急を要すべき問題と思はれる
 其の中にも軍方面の徴用者の中には克く家庭との通信、送金棟があって殘留家族にありても比較的安心し生活上にも左程不便を感ぜざるも、特に一般炭鑛並に其の他會社等の關係に在りては右の如く送出後殆んど音信を斷ち尚家庭より音信するも返信なく半年乃至一年を經るも仕送金無きものもありて其の殘留家族特に老父母や病妻等は生不如死の如き悲慘な狀態であるのみならず其の安否をすら案じつつ不安感を有する者極めて多く、此の如きは當事者の家庭現狀にのみ限らず今後朝鮮から勞務者送出上大なる影響を與ふるものとして憂慮に堪へないのである
 又假に朝鮮農村に於ける男子勞力に代って婦女子勤勞へと一層强化するにしても今日の朝鮮婦女子の特殊立場を沒却して唯盲目的に働かす事ばかりは大いに警戒しなければならぬと思ふ、卽ち人口增强上重要使命を持つ婦人の保健問題又は内地婦女子と異って殆んど無敎育である彼女達が良く働ける樣に仕向ける特殊施設と對策がなければならぬ、例へば共同炊事、託兒所、保健婦設置、食糧特配等は特に緊急を要する條件であらう
 朝鮮農村の婦人殊に南朝鮮地方の農村婦人は勤勞、增産意慾に乏しく、又家事と育兒だけでも力一杯であって實際問題として增

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産への勤勞提供の餘裕もない實情である、ここに先づ問題となるのは農家の生活改善であり勤勞增産の意慾を旺盛ならしめ容易に增産勤勞部門へ挺身出來る樣其の環境を作り上げることが大切であらう
 第一に增産勤勞婦人鄰組隊の如きものを組織して生活の共同化を期し家庭生活も勤勞作業も此の共同化された組織と精神に於てなさねばならぬと思ふ、そして託兒所を設け又保健婦を成る可く多く囑託し農村姙婦の保護、育兒の輔導等に努めて行けば或は朝鮮婦人も容易に勞働に親しみ得るであらうと思はれる
 之れには從來と異った相當しっかりした指導者を多く必要とするが、更に託兒所、保健婦、共同炊事、食糧の特配等の指導者を得ることが最も大切であるものと思ふ、然し今日の朝鮮農村の現狀として農村自体では到底そう云ふ適當な人を得ることは不可能であらう、ここで此の問題に對して眞劍に考へさせられることは中等以上の敎育を受けた都會の女性達が華やかに飾って喫茶店から映畫館へと空虚な生活を送る嘆はしい現實である此の女性等の胸中に果して國を想ひ非常時局を認識して勝つ爲の仕事に尊い汗を注ぐ誠があるかと云ふ問題である、然し全然ないのではないが多くの場合生活の環境がしからしめたのであると思ふ
 故に此の際思ひ切った積極的錬成對策を樹立して此等の女性を總動員してせめて農繁期の數ヶ月丈でも農村に住込ませ、保健婦として託兒所の保姆として奉仕せしめれば眞に婦人勞働力の完全なる活用が可能であるものと思はれる、之れは金肥を何百叺〔かます〕使ふ以上の實質的效果があるものと思はれる、之れがせめて朝鮮婦女子の勤勞强化指導の一策ともなるであらうと信ずるのである

七、朝鮮内に於ける勞務規則の狀況竝に學校報國隊の活動狀況如何
  從來朝鮮内に於ては勞務給源が比較的豐富であった爲に支那

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變勃發後も當初は何等綜合的計畫なく勞務動員は必要に應じて其の都度行はれた、所が其の後動員の度數と員數が各種階級を通じて激增されるに從って略〔ほぼ〕大東亞戰爭勃發頃より本格的勞務規制が行はれる樣になったのである
  而して今日に於ては旣に勞務動員は最早略頭打の狀態に近づき種々なる問題を露出しつつあり動員の成績は概して豫期の成果を納め得ない狀態にある、今其の重なる點を擧ぐれば次の樣である
 (イ)、朝鮮に於ける勞務動員の方式
凡そ徴用、官斡旋、勤勞報國隊、出動隊の如き四つの方式がある
徴用は今日迄の所極めて特別なる場合は別問題として現員徴用(之も最近の事例に屬す)以外は行はれなかった、然し乍ら今後は徴用の方式を大いに强化活用する必要に迫られ且つ其れが豫期される事態に立到ったのである
官斡旋は從來の報國隊と共に最も多く採用された方式であって朝鮮内に於ける勞務動員は大體此の方式に依って爲されたのである
又出動隊は多く地元に於ける土木工事例へば增米用の溜池工事等への參加の樣な場合に採られつつある方式である、然し乍ら動員を受くる民衆にとっては徴用と官斡旋時には出動隊も報國隊も全く同樣に解されて居る狀態である
(ロ)、勞務給源
朝鮮内の勞務給源は旣に頭打の狀態にあると云ふのが實狀であらうと思はれる
今尚餘裕があると見る向も相當に在るが然し之れは頭數のみを見、人は男女共に内地人男女と同等の能力を有するものと云ふ前提の下に立ってゐる見解である、端的には勞銀の想外の昂騰が其の一つの證據であり又朝鮮人の婦女子は潛勢力と

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しては存在するが現実の家計収入をもたらすべき労働力としては一般に評価し得ない実状にある、斯の如く觀じて來るときは朝鮮内の勞務給源は非常に逼迫を告げてゐると云ふべきである
絶對的頭數の上から見て朝鮮の勞務給源が今尚豐富であると云ふ見解から更に男子を動員することは可能であるが、然る時は婦女子のみが殘ることとなり朝鮮の特殊事情から其の實質的勞働力は實に薄弱なものとなるから此の點深く實態の觀察調査が必要であるものと思はれる
一例を見ると慶北安東郡の如きは總人口十七萬人の内農業勞務者が六萬人、一般勞務者に登録されたのが九千九百二十九人となって居る、此の一般勞務者約一萬人からは旣に昭和十四年以降内地へ供出したもの六千四百二十六人、北鮮地方へ略八百人合計八千人近く旣に送出したのであるから殘有の勞働力としては極めて僅少となって居るにも拘らず今年更に殘留勞務者數よりも多く内地送出を命ぜられてある爲め第一線に於ける當局者及農村に於ては食糧增産上多大なる影響を及ぼすものとして憂慮しある狀態である
(ハ)、動員の實情
徴用は別として其の他如何なる方式に依るも出動は全く拉致同樣な狀態である
其れは若し事前に於て之を知らせば皆逃亡するからである、そこで夜襲、誘出、其の他各種の方策を講じて人質的略奪拉致の事例が多くなるのである、何故に事前に知らせれば彼等は逃亡するか、要するにそこには彼等を精神的に惹付ける何物もなかったことから生ずるものと思はれる、内鮮を通じて勞務管理の拙惡極まることは往々にして彼等の心身を破壊することのみならず殘留家族の生活困難乃至破滅が屢々〔しばしば〕あった

◆29枚目◆

からである
殊に西北朝鮮地方の勞務管理は全く御話にならない程慘酷である、故に彼等は寧ろ軍關係の事業に徴用されるのを希望する程である
斯くて朝鮮内の勞務規制は全く豫期の成績を擧げてゐない、如何にして圓滿に出動させるか、如何にして逃亡を防止するかが朝鮮内に於ける勞務規制の焦點となってゐる現狀である
(ニ)、勞銀
朝鮮の勞働力も右の樣に愈々逼迫してゐる爲如何なる事業も請負人に勞働者を官公署が斡旋するのでなければ到底事業遂行は不可能である、故に個人が自由契約に依り四苦八苦して勞働者を雇入れることになると全く驚く程想外の高賃金を要求されるのである
反之〔これにはんし〕官公署の事業は豫算其の他の關係にて右の如き高い賃金は支拂へない、そこで多くは部落聯盟に請負でやらせる、故に朝鮮の部落民は官の事業には殆んど夫役(强制奉仕)の心構えにて參加すると云ふ實情である
 (ホ)、學校報國隊の活動狀況
朝鮮も最近は勤勞敎育の强調に伴ひ學校報國隊の活動は文字通り豫期以上の成績を擧げてゐるが然しそこには簡單に看過し得ない種々な問題が惹起してゐることも事實である、卽ち
1. 上司又は一般に對する見物式の出動で實蹟の擧らざるものあること
2. 學校に依って勤勞の時間、程度に於て著しき差別のあること
3. 兒童生徒の個々人の心身の狀態を無視し一率に過重なる勤勞を課し全く心身疲勞し切って親達の憂慮惻々なるものあること

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 一般に朝鮮の地方農村には勤勞過重なる場合が多く極端な〔例?〕になれば三食とも草根木皮の粥腹である爲体錬の時間にすら貧血率倒する頑是ない子供が勇々しくも鍬や鎌を手にし文字通り身を粉にして勤勞に從事しつつあるのを目睹し一掬の涙なきを得ない實情である
 朝鮮の勞務規制の現狀と學徒報國隊の活動狀況は大略以上の如くであって端的に云へば悲觀すべき點極めて多く此れを如何にして今後是正し圓滑化させるかに付て考へて見るに勞務管理の根本的革新が先決問題であることは云ふ迄もない、上欄にも少し述べてあるが如く一体朝鮮には戰爭に必要な物資も豐富であり勞働力も過剩する程にあったので、之れを戰力化するか否かは一にかかって勤勞管理の善否にあったのである、其れが勞務管理の根本對策が足らなかった爲めに今日早や行詰まりを示す悲觀的狀態に至ったことは誠に殘念と言はざるを得ないのである
 朝鮮の勞務者をして眞に日本人としての所謂玉碎的勤勞をなさしむる爲には從來の如き形式觀念的勤勞管理を捨て先づ日本人としての國体思想の自覺、戰爭精神の興揚、特に彼等に對する後顧無憂の生活援護、勞力涵養の生活必需物資の充足等精神的生活的に亘る幾多の指導的條件が必要である、卽ち朝鮮の勞務管理は思想管理、生活官吏に迄及ぼさなければ萬全を期することは不可能であるものと思ふ
 朝鮮に於ける從來の勞務管理が如何であったかかに就ては其の現實の狀況を要點だけ上欄に略述してあるが、今之れを詳細にするには相當長文にもなるし、又最早や内外周知のことに屬する故に、茲〔ここ〕に更めて蛇足を付するを避けるのであるが、然し矛盾してゐる二つの要點丈を指摘して速に改善したいのである
 第一は未だ朝鮮にはあらゆる部門に亘り資本利潤の確保と其の增進を圖る目的の下に行はれて居ること

◆31枚目◆

第二は自由主義者乃至はマルクス理論を肯定しかねない卽〔ち〕反資本主義的インテリーに依って組織せられて居ることの多い〔こ〕とである、そうして此の二つの精神要點は必然的に相矛盾し、朝鮮の勞務管理擔當者は常に此の矛盾の中に苦惱しつつあることである
 そこへ最近特に大東亞戰爭勃發以後急に湧發された國体主義的大勢の前に朝鮮人は官民上下殆んど戸惑ひしつつそれぞれ異なった思想と考へ方を内包しつつ表面的に形の上では兎に角大勢に順應して來た樣に見ゑることも事實であるが然し本當のことを云ふと勢い朝鮮人の國体觀念戰爭挺身は多く形式的ならざるを得ないのであり、從って幾多の内在的困難を生じて來て居る
 更に最近に至り非職業勞務、卽ち徴用、學徒、女子挺身隊の如きものが混入され朝鮮に於ける勤勞管理は其の困難性を益々加重して來た感がする
 要するに朝鮮に於ける勞務管理問題の根本對策としては先づ今迄の樣な官の斡旋とか一般募集の如き方法をやめて所謂皇國的制度を强化し國民皆兵としての指導精神の下に日本的給與、國体的勤勞管理に戻らなければならない、卽ち徴用をもっと强化し一應等しく赤子としての報國性所謂同一の資格と同一の重要性に、家族主義を融合したる絶對標準の保證を原則とし、之れに内鮮間に於ける特殊事情や勤勞者個人の歴史的地位、能力、知識、技術、勤怠、勞務量等を加算條件とすることである、要するに原則としては全家族を養ひ各員をして各々其の性能に應じて盡忠報國を爲し得る迄の向上を爲さしめ得ることの絶對保證を速に實踐しなければならないと思はれる
 以上を以て簡單乍ら上司より内命を受けた調査事項の復命を終ることにする
以 上

小暮復命書

最近「小暮復命書』なるものの公開を知って、読んでいたのですが、読みにくいので丸写しをしてみました(手打ち)。
PDF原本と対照するため、内務省の罫紙ごとに区切ってあります。PDFのページと合致します。
〔 〕内は書き写しのときにわからなかったもののうち忘れそうなものを私が注意書きしたものです。(一箇所だけ手書きのコメントの写し)

「8.復命書及意見集/1 復命書及意見集の1」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B02031286700、本邦内政関係雑纂/植民地関係 第二巻(A-5-0-0-1_1_002)(外務省外交史料館

https://www.jacar.archives.go.jp/das/meta/B02031286700

★ご注意★ 旧漢字・異字体のうちタブレットやパソコンやブラウザで表示できない漢字があります。MS-Wordで表示できたものをブログに取り入れた段階で消失した漢字もあります。見つけ次第注釈を加えていますが、コピー・ペーストされる場合は原本のPDFとよく照合してください。



◆1枚目◆

マル秘印

◆2枚目 右片のみ◆


復命書

嘱託 小暮泰用

依命小職最近ノ朝鮮民事用動向竝邑面行政ノ状況調査ノ為朝鮮ヘ出張シタル處調査状況別紙添付ノ通ニ有之右及復命候也
昭和十九年七月三十一日


管理局長 竹内德治 殿

◆3枚目◆

目次


一、戦時下朝鮮ニ於ケル民心ノ趨勢 殊ニ知識階級ノ動向ニ関スル忌憚ナキ意見

二、都市及農村ニ於ケル食糧事情

三、今時在勤文官加俸令改正ノ官界並ニ民間ニ及シタル影響

四、第一線行政ノ實情 殊ニ府、邑、面ニ於ケル行政滲透ノ現状如何

五、私立専門學校等整備ノ知識階級ニ及シタル影響

六、内地移住労務者送出家庭ノ實情

七、朝鮮内ニ於ケル労務規制ノ状況並ニ学校報国隊ノ活動状況如何

以上

◆4枚目◆

一、戦時下朝鮮ニ於ケル民心ノ趨勢
  殊ニ知識階級ノ動向ニ関スル忌憚ナキ意見
 戰時下朝鮮ニ於ケル民心ノ趨勢ハ大體平穩ト見ルベキモノデアッテ、往時大正八年當時ト異ナリ獨立ヲ夢ル者ナク官民共ニ等シク皇國臣民トシテ内地人ト協力シテ克服セントスル傾向ニアリ、知識階級ト雖モ同樣ニシテ確固タル自主獨立ノ成算ナク寧ロ米英ニ依存スル獨立ハ今ノ現狀ヨリ必ズシモ良キモノト斷ジ難ク結局日本人トシテ内地人ト一致團結シテ時局ヲ克服セントスル傾向ニアリ
 而シテ大イナル戦ヒニ直面シテ朝鮮ニ在ル二千五百萬ノ同胞ハ聖ナル皇民トシテ齊シテ立ッテ一億ノ一環トシテノ戦ヒヲ闘イツツアル、満州事変以来「内鮮一体」ト云ウ言葉ガ言ハレテカラスデニ十年ノ歳月ガ過ギタノデアルガ、今ヤサウシタ言葉ガ不必要ナ程彼等ノ戦ヒハ大キナ熱情ト真摯ナ努力トニ依ッテ其ノ生活ノ裡ニ行ハレテ居ル
 ソウシテ愈々創氏制モ實施サレ、徴兵制モ實施サレ、學徒ノ動員モ出陣モ實施サレタ、劔ヲ持チ銃ヲ執ッテ内地人ト共ニ苛烈ナル第一線ニモ立チ名譽アル皇民トシテ生キ抜ク姿ハ内地モ朝鮮モ殊更ナ區別スル要モナイ程ノモノデアル
 此ノ現狀ハ言葉ダケデハナイ、彼等ハ皇民トシテノ生活ニ深ク徹スル其ノ姿ガ今ヤ男ト云ハズ女ト云ハズ老イタルモ若キモ唯ヒタムキニ突キ進ム唯一ノ道トシテアルモノト認識シツツアル現狀デアル、ソウシテ此ノ現狀ハ形ノ上カラノミデナク精神的ナ内容ニ迄

◆5枚目◆

到達シツツ比ヒナキ日本的生活ノ中ニ於テ、戰ウ爲ニ大東亞戰爭ヲ勝チ拔ク爲ニ彼ラハ先ヅ生活ト戰ッテ居ル、古イ朝鮮式生活樣式ヲ捨テテ新ナル生活ノ形ガ激シイ勢デ日本化サレテ行クノデアッタ、ソシテ生活ノ錬成ト云フコトガ今日ノ朝鮮人男女老幼ニ課セラレタ大キナ命題トナッテ居ル、
 以上ガ今日ノ朝鮮民心動向ノ一般的觀察デアラウ、然シ他方コレトハ正反對ニ悲觀的ナ見方モアル樣デアル、卽チ所謂思想的ナ人々ヤ警察關係ノ方面ニ多ク抱カレテ居ル見方デアル、更ニ一部ノ知識階級ニシテ民族思想運動ニ興味ヲ持ツ人々ガソレデアル
 兎ニ角朝鮮ニ於ケル民心ノ動向、思想界ノ傾向ガ最近特ニ大東亞戦争後激シイ變リ方ヲ見セテイル事ハ事實デアッテ、私ガ今囘朝鮮ニ出張シテ調査シタ個人的考ヘカラコレヲ結論トシテ端的ニ言フナラバ朝鮮ノ思想傾向ハ一般ニ大衆的ニハ非常ニ良クナッテ居ル
 然シ以上述ベタ樣ニ多少悲觀的傾向ノアルコトモ事實デアル、故ニ私ハ今囘現地ニ於テ各層階級人ト直接會ヒ語ッタ資料ト對照シテ樂觀論ト悲觀論ト云フ二ツノ分野ニ於テ見タ儘、聞イタ儘ノ事實ヲ纏メテ復命スルコトニスル、先ヅ樂觀論ニ就テ最モ變遷ノ激シイ傾向トシテハ朝鮮ニ於ケル宗敎界ノ革新激變デアリ、民族主義者並ニ共産主義者達ノ轉向激增ト質的向上デアリ、更ニ敎徒運動ノ勃興狀態デアル
 ソレハ内外周知ノ如ク朝鮮ニ於ケル從來ノ宗敎團体トシテ最モ有力ナモノハ基督敎ト天道敎デアッタ、之等ノ宗敎團体ハ在來宗敎的色彩ヨリモ政治的色彩ヲヨリ多ク持ッテ居タ、卽チ基督敎特ニ長老敎派ト天道敎ハ恰モ朝鮮ニ於ケル民族獨立運動ノ中核体ヲ成シテ居ッタガ、今ヤ之等ガ大キナ轉換ヲ示シテ居ルコトデアル、全鮮ニ於テ五十萬以上ノ敎徒ヲ占メ、而モ質的ニ最モ不良デアッタ長老會敎徒ハ、昭和十一年迄ハ神社不參拜運動ヲ起シ漸次

◆6枚目◆

其ノ運動ハ全鮮ニ波及シタガ、昭和十六年大東亞戰爭ガ勃發シ無敵皇軍ノ赫々タル大勝利ガ展開サレルト同時ニ十七年ノ新春ヲ迎ヘ全鮮總會ニ於テ革新的ナ發足ヲナスベク國民的ナ聲明ヲ發シ、從來誤ッテヰタ彼等ノ内部ノ規定ヲバ改正シ直ニコレヲ實踐ニ移サンガ爲ニ、日本的ナ革新要項ニ二十數項目ヲ發表シタノデアル
 又天道敎ハ朝鮮ニ於ケル類似宗敎團體トシテ最タル有力ナルモノデアッテ、一時信徒百萬ヲ占ムル大キナ勢力ヲ有シテ大正八年遂ニ獨立萬歳事件ヲ主唱シタノデアッタガ、コレモ國家的ニ日本的ナ宗敎ニ向上セシメンガ爲ニ敎義ヲ改正シ日本的革新ヲ行ヒ、今ヤ朝鮮ノ連盟運動ニ順應シテ各々長老、天道ノ如キ國民連盟ヲ組織シ全鮮カラノ各代表者ガ悉ク參加シテ等シク皇國臣民トシテ國旗ニ敬禮シ、皇國臣民ノ誓詞ヲ齊誦シ、萬歳ヲ唱ヘ、神宮ニモ擧ッテ參拜スルトイフ誠ニ感激的ナ狀景ヲ展開シテヰル現狀デアル
 次ギニ轉向者ノ激增ト質的向上ノコトデアルガ、大東亞戰爭後ニ於ケル朝鮮人主義者ノ轉向者ハ數ニ於テ增加シ質ニ於テモ相當向上シタ傾向ヲ示シテヰル、從來ハ多クノ轉向者ノ中ニハ單ニ打算的表面ダケノ人ノアッテ實際ニ於テハ仲々舊態ヲ脱シ切レナイ者モ相當アッタノデアル、然ルニ最近ニ於テハ朝鮮人ノ將來ハ日本人ニナリ切ラネバ救ハレル道ハ更ニナイト云フ確固タル信念ニ生キル眞實ノ轉向者ガ續々トシテ增加シ今ヤ相當數ニ達シテ居ル現狀デアル
 而シテ内地ト朝鮮トノ一体ハ歴史的ニ必然的ニ規定サレタ宿命デアルガ故ニ、世界ニ其ノ比類ヲ見ザル皇道精神ヲ研究スルコトニ依ッテ日本精神ニ生キ、日本ノ國体ニ徹シ、日常語ニ國語ヲ常用シナケレバナラナイト云フ畫期的ナ思想方向ガ決定サレ、斯クスル事ニ依ッテ始メテ朝鮮人ハ推進スルノデアルト彼等多クノ轉向者ハ考ヘテ居ル、然ラズシテ若シモ假想サレタ内鮮一體論ニ逃悔シテ居ルナラバ必ズ數年ナラズシテ馬脚ヲ現ハシ其ノ時コソ

◆7枚目◆

朝鮮人ガ永遠ニ日本カラ見放サレル時デアルト迄ニ彼等轉向者達ノ考エハ徹底シテ來タ傾向ヲ示シテ居ル
 コレト同時ニ彼等ノ内面的ナ革新ト共ニ多クノ眞面目ナ實踐運動ガ民間ニ於テ自發的ニ展開發進シツツアル、卽チ各地ニ於ケル敎化運動ノ勃興デアル、コレモ朝鮮ノ思想界ト民心ガ良クナリツツアル證左ト私ハ思フノデアル、現在全鮮各地ニ八紘寮、大和塾、皇道會、學生塾、錬成道場ノ如キ日本精神ヲ基調ニシテ集ル敎化運動團体ガ相當多ク勃興シテ居ル
 故ニ朝鮮ノ思想界ト民心ノ趨勢ニ就イテハ上述ノ如キ極端ナル悲觀論モ無イデハナイガ、然シ以上ノ如ク一般大衆ノ何ト云ッテモ光輝アル皇道街道ヲ前進シテ居ルノデアッテ、大体ニ於テ、ソレハ非常ニ良クナッテ來タト云フ結論ヲ下シテモ間違ヒデハナク、又今後指導當局トシテモ更ニ研究調査ノ上適當ナ方法ヲ以テ押シ切ッテ行カネバナラヌト思フノデアル
 次ギニ悲觀論デアルガ、時局ニ伴ウ多少ノ苦痛其ノ他種々ノ不滿ノ爲ニ民心ノ一部ガ漸次惡化シツツアルト云フ見方モアリ得ルシ、亦斯ノ如キ傾向モ事実モアル、卽チ大東亞戰爭ノ長期化ニ伴ッテ種々思想上惡波紋、精神ノ弛緩等ニ依リ彼等ノ中ニハ、特ニ知識階級並ニ有産層ノ一部ト民族主義者ノ中ニハ反戰、反官的ナ厭世傾向モアリ、早ク事變ガ終レバ良イ等ト考ヘテヰル人モアル
 更ニ最近ノ戰況ヲ悲觀シ日本ノ將來、統制經濟ノ將來ト云フモノニ對シテ相當流言飛語ガ出テ來テヰル地方モアル、卽チ統制經濟ニ伴ッテ起ル影響、例ヘバ物價ガ高クテ困ルトカ、物資ノ缺乏、物資ノ自給ノ不圓滑、配給制度ノ不公平ト云フ樣ナ私生活上ノ苦シミ、又食糧對策ガ旨ク行カヌト云フ樣ナ不平不滿ノアルコトハ事實デアル
 特ニ地方ノ大地主ヤ都會地ノ富豪階級ノ人々ノ中ニハ日本ノ新体制、統制經濟ノ强化方針ハ共産理論ノ實現デハナイカ、統制ト

◆8枚目◆

云フ名前ヲ借リテ實際ハ共産理論ヲ實踐スルノデハナイカト云フ一種ノ疑惑ト恐怖ヲ抱イテヰル人モ相當ニアル樣デアリ、又似而非ナル轉向者達ハ蘇聯ノ行キ方ガ最モ良イ、蘇聯ハ强イ、現在日本ノヤリ方ハ蘇聯ニヨク似テキテイルノデハナイカ、故ニ共産理論ハ最モ正シイノデアルト云フ風ニ懷疑的ニ考ヘテ居ル人々モ相當ニ多クナッタコトハ事實デアル
 斯ノ如ク考ヘテ居ル彼等ハ漸次日本ノ國力ヲ疑ヒ、或ハ朝鮮人ハ第一次世界大戰ノトキニ印度ガ英國ニ騙サレタ樣ニ、日本政府ニ騙サレテ居ルノデハナイカ、或ハ重慶政府ガ聲明シタ樣ニ日本ハ長期戰ニ依ッテ經濟的ニ思想的ニ行キ詰ルノデハナイカト云フ樣ナ全ク愚シイ考ヘ方ヲ抱イテ居ル人モ最近各地ニ相當多ク增加シテ來タコトモ事實デアル
 更ニ民族主義者ノ一部ニハ内鮮一体ヘノ誤解モ相當アル樣ニ見ユル節モアル、例ヘバ國語ノ奬勵ヲ以テ朝鮮語ノ否認ダト云フ誤解モアリ、諺文新聞ヲ統制シタ事ニ付テモ之レハ過般京城ニ於テ開催サレタ各界代表者懇談會ノ席上ニ於テモ暗ニ關心ヲ有スル向モアッタノデアル、特ニ今後決戰ノ遲速利鈍ニ依ッテ彼等ノ思想モ相當變化ガアルモノト思ハレル、左ニ參考ノ爲京城ニ於ケル有志懇談會席上ニ於テ朝鮮人有志ノ希望スル所ノ要點ヲ記述スルコトニスル、尚出席者ハ左ノ通リデアル
  日 時  昭和十九年六月十七日午後五時
  場 所  京城府 白雲莊
  出席者    荒木民政課長
         小暮嘱託
         坂手屬
         毎日新報編輯局長 鄭 寅翼
         〃   社會部長 洪 鐘仁

◆9枚目◆

         毎日新報社會次長 金村 承燾(「燾」手書キ)
         人文社代表  石田 耕造
         京城拓殖經濟專門學校敎授兼生徒監  玉岡 璿珍(「璿」手書キ)
         宗教家  李 重宰
         京城辯護士會副會長  姜 柄順
         實業家  李 晟煥
右記各有志カラ席上希望トシテ述ベラレタ要點ノ内主ナル項目ノミヲ擧グレバ
(イ) 内地朝鮮間ノ人事ノ交流ヲ最モ頻繁ナラシメ傳統的ト見ルベキ一種特殊ナル朝鮮的官僚氣分ヲ速カニ改メ、上意下達、下意上達ヲ徹底セシムルコト
(ロ) 末端政治ノ强化、即チ邑、面長ノ人物選定並ニ邑面職員ノ增員ト素質向上ヲ圖ルコト、之レニハ先ヅ待遇方法ヲ講ズルコト
(ハ) 勞務管理ノ改善、指導員ノ再錬成配置、
(ニ) 朝鮮奨学會ヲ改造スルコト、特ニ官僚化、取締化ノ如キコトヲ改メ事ヲ指導教化ニ努メルコト
(ホ) 内地ニ於ケル朝鮮人勞務者ノ多イ所ニハ各班ニ實力アル朝鮮人班長又ハ寮長ヲ速ヤカニ配置スルコト
(ヘ) 今後朝鮮ヨリ供出スル勞務者ハ從來ノ如キ募集又ハ官ノ强制斡旋方法ヲ改メ指名徴用制ヲ速カニ實施スルコト
(ト) 今後朝鮮及朝鮮人問題ノ結論ニ付テ吾人ノ希望トスル所ハ綜合的ニ云ヘバ理窟ヨリモ情ト涙ヲ以テ解決シテ貰イタイ、
(チ) 對朝鮮人問題ニ付テ、其ノ善惡ヲ問ハズ概括的ニ評論スルコトハ大ニ警戒スルコト、當局ガ餘リ監視シ過ギルコトヲ改メ或ル程度朝鮮人ヲ信賴シ朝鮮人ニ責任ヲ持タセルコト
(リ) 配給制度ノ公平ヲ圖ルコト
(ヌ) 朝鮮ニハ内地ト異ナル前官禮遇ト云フ特殊ノブロックガア

◆10枚目◆

ル、卽チ高官高位ノ退職者ニ全鮮各地ノ特殊機關ノ實權ヲ與ヘテ居ルコトデアル、之レガ朝鮮統治ノ癌トナル場合ガ極メテ多イ、コレヲ速カニ改革スルコト
(ル) 内鮮一体ノ完成ハ内鮮無差別ノ完成ニ始マル故ニ内地延長トシテ朝鮮人ニモ參政權ヲ與ヘヨ
(ヲ) 併合當時ハ貴族並ニ上流階級ヲ相手ニ朝鮮統治ヲ行ヒ、次ギハ第二次的ニ公職者ヲ相手ニシテ政治ヲ行ッテ來タガ、然シ之レハ今ノ時勢ニハ旣ニ遲シ、今後ハ靑年並ニ大衆ヲ相手トスル根本政策ヲ樹立セヨ
(ワ) 御世辭ヲ使ウ者ノミヲ登用スル制度ヲ改メ本當ノ人物ヲ選ビ出スコト

二、都市及農村ニ於ケル食糧事情
 朝鮮ニ於ケル都市及農村ノ食糧事情ハ相當深刻ノモノアリ、其ノ實例トシテ朝鮮ニ旅行スル時汽車ノ窓ヨリ望ムルモ沿線ノ林野ニ於ケル松木ノ皮ヲ剥ギタルモノ相當見受クルコトガアルガ沿線ニアラザル深山ニハ尚多ク近キ將來ニ於テ朝鮮ノ松木ハ或ハ枯死スルノデハナイカト憂慮スル人達モ相當多イ樣デアル、併合以來故寺内總督ヲ始メ歴代總督ハ朝鮮ノ山林行政ニ相當力瘤ヲ入レタル結果最近ニ至リテハ朝鮮ノ林相モ稍良好ニナッテ來タガ昨今ノ食糧事情ニ依ル此ノ現象ハ實ニ憂慮ニ堪ヘザルモノアリ
 農村人及地方有志ノ忌憚ナキ意見ヲ調査シテ見ルト、從來大体ニ於テ朝鮮ハ食糧ノ自給自足不能ニ非ザルニ拘ラズ斯ル現象ヲ呈スルハ行政當局ノ其ノ措置宜シキヲ得ザルニ基因スル所多シト非難スル地方モアル、卽チ配給、供出機構ノ不完全ハ勿論ノコト、先ヅ其ノ衝ニ當ルモノノ情實又ハ實情ヲ知ラザル盲目的行政ノ結果ナリト彼等ハ非難シテ居ル
 私ガ今囘實地ニ於テ調査シテ見タ所カラ考ヘテ端的ニ云フト、

◆11枚目◆

朝鮮ノ食料事情ハ都市ニ於テハ配給ノ面ガ、農村ニ於テハ供出ノ面ガ問題ノ全部ヲ浮彫シテヰルト言ッテモ過言デハナイト思フ、
 勿論當局ノ食糧行政ノ行方トシテハ供出量ハ生産高ニ依ッテ決定サレルコトニハナッテ居ル、卽チ生産高ヨリ農家人口ノ一人當リ一日何ガシノ消費引當量ヲ農家保有量トシテ爾餘ヲ供出量ト定メコレヲ農家ニ供出ヲ命ズルコトトナシテイヰル
 然ルニ今日朝鮮ニ於ケル農業生産統計タルヤ大体ニ於テソレハ前年農村振興時代ノ柱纂ナル統計數字ヲ基準トシテ居ルモノニシテ衆目ノ見ル所凡ソソレハ常ニ過大見積デアルト云フ事ニ一致シテ居ル、而モ斯ル過大ナル生産統計ノ下ニ於テ尚個々農家ノ收穫高ヲ決定スル上ニ於テモ相當ノ努力ガ拂ワレテ居ルニ拘ラズ多クハ無意識的ニ稀ニハ意識的ニ凹凸ヲ生ズル場合ガ相當ニ多イコトモ事實デアル
(欄外手書キメモ:部分的ニハ兎モ角全般トシテ首肯シ難シ、大正年末頃年々、七八百万石ノ移出アリシ時代ヲ如何ニ説明スルカ)
 斯ル基礎ニ於テ個々ノ農家ノ具体的供出量ガ定メラレル、ソウシテ此ノ供出令ハ文字通リ至上命令トサレ供出ノ完遂ハ勸奬ヨリモ强壓强權ヲ加ヘテ强ヒラレル場合ガ極メテ多イ狀態デアル
 而モ朝鮮ノ農民ハ純朴從順デアッテ、ソコニハ涙グマシイ數々ノ實話實情多イ、或ハ明日ノ糧マデ供出セル者アリ或ハ彼等ノ何ヨリモ大切ナル農牛ヤ家屋ヤ家財道具等ヲ賣拂ッテ闇買ヲシテマデモ自己ノ供出割當數量ヲ完遂セル者モ居ル、從ッテ部落ニ於テ勢力ノアル者、卽チ所謂有力者其ノ他富豪權力者ヲ除イテハ出來以外ノ時ニ於ケル農村ノ食糧事情ハ殆ンド窮迫ノ狀態ニアル、從ッテ農業者ニシテ尚朝飯粥ハ良イ方デ多クハ糊口ニ苦シミ自己ノ生産物ハ全部供出ニ献ゲ自分ハ大豆、小豆ノ葉ヤ草根木皮ニテ辛ジテ延命シ顏ハ腫レ上リ正ニ生不如死〔生くるは死するにしかず〕ノ慘狀ヲ呈シ空腹ノ爲メ働ク事モ出來ズ寢テ居ル者モ尠クナイ狀態デアル
 斯ノ如キ朝鮮農村ノ食糧事情ヨリシテ農民ハ食糧ハ生産シテモ自ラハ喰ヘナイ故ニ農村ニハ增産意慾ドコロカ寧ロ厭農思想ガ相

◆12枚目◆

當濃厚デアリ生産物ヲ隱匿セントスル傾向ガ强クナッテ來タ
  ソコデ供出督勵者ハ農家ヤ農家ノ周圍ヲ搜索シ炊事時ニ不意打的ニ踏ミ込ミ炊事釜ヤ食物ヲ檢査シ果テハ面、駐在所等ニ呼出シテ尋問スル等全ク朝鮮デナクテハ見ルコトノ出來ナイ奇異ナル現象ヲ彼所此所ニ露出シテ居ル、宜シク今後ハ農民ニ食糧ヲ保證シ産業戰士トシテ所遇スルノガ急務デアリ之ガ結局增産ノ最モ有力ナ途デアル樣ニ思ハレル
 一方飜ッテ都市ノ食糧事情ヲ見ルニ都市ニハ殆ンド完全ニ近イ配給制度ガ實施サレ一人當タリ一合四勺乃至二合三勺ノ配給ヲ大体ニ於テ順調ニ受ケ滿腹ノ程ハ期待シ得ザルモ一應不安ハナイ狀態ニ在ル、一般ニ都市人ハ配給量ノ僅少ナルガ故ニ四六時中空腹感ヲ訴ヘナガラモ尚定マッタ量ヲ殆ンド正確ニ配給ヲ受ケテ居ルノハ農民ニシテ一日一合程度モ糧穀ヲ喰ヘナイノニ比ベテ見ル時ハ都市人ハ幸福ト言ハザルヲ得ナイ、農民ノ倉ニハ糧穀ハナクトモ都市ノ食堂ニハ猶何カノ食物ノ備ガアル實情デアッテ、此ノ點内地トハ正反對ノ現象ト言ハザルヲ得ナイ
 而モ都市人ノ中デモ財力ニ餘裕ガアリ時局認識ノ足ラザル薄志ノ徒ハ法網ヲ潛ッテ闇ニテ白米並ニ其ノ他ノ食料品ヲ買入レ(朝鮮ニ於ケル白米一斗ノ闇價ハ六十圓前後ナリ)自己ノ食生活ヲ充實シテ居ル者モ相當ニ居ル、同ジ闇買ニシテモ農民ハ自己ノ供出責任完遂ノ爲ニヤリ、都市人ハ自己ノ滿腹ノ爲ニヤル、之レモ朝鮮ナラデハ見ラレザル誠ニ奇異ナル對照デアル
 要スルニ朝鮮ノ食糧事情ハ都市方面ノ非農家ハ殆ンド正確ニ近イ所定量ノ配給ヲ受ケナガラ尚空腹ヲ訴ヘ、農村人ハ自ラ食糧ヲ生産シ乍ラ猶出來秋以外ノ時ニ於イテハ概シテ自家ノ食糧ニモ窮迫シテ居ル實狀デアル
  斯クシテ都市ト謂ハズ農村ト謂ハズ互ニ顏ヲ合ハセレバ食物ノ話デ都鄙ノ話題ハ殆ンド食物ニ關スルモノノミデアッテ全ク食ニ

◆13枚目◆

カケテハ紳士モ匹夫モナイ有樣デアル、ココニ「民ハ食ヲ以テ天トナス」「衣食足ッテ禮儀ヲ知ル」ト云フ古訓ガ如實ニ物語ッテ居ル
 扨以上ノ如キ朝鮮ノ食糧事情ノ窮乏ノ原因ハ何ンデアルカ、又之レヲ如何ニシテ是正スルカニ付テ考ヘテ見ルニ從來ノ耕地面積並ニ生産ニ關スル統計ハ不正確デアルニモ拘ラズ未ダ之レヲ以テ基礎トシテヰルコト、次ギハ反當收穫ノ見積等ガ實情ニ副ハザル場合ガ多イコト、又農家ノ消費食糧ノ量ヲ過少ニ規制シタルコト、更ニ最近數年間凶作續キデアッタコト等デアラウト思ハレル
 而シテ農家ニ於ケル食糧ノ供出ハ敍上ノ弊ニ依ッテ供出數量過多ニ失シ中ニハ全生産量ヲ之レニ充テテモ尚足ラナイモノサヘアル、而モ供出數量ハ確保スベキデアルトノ見地ヨリ無理ニ近イ督勵ヲ加ヘル爲ニ農家ハ供出後翌日ヨリ殆ンド食糧ナキ狀態デアリ而モ配給ハ必ズシモ其ノ翌日ヨリ支給セラレナイ爲殊ニ細農ノ困窮ハ甚ダシイ、又春窮期ニ於ケル還元制ノ特配ヲ受ケルニシテモ其ノ量極メテ少ナク一日一人當一合未滿ノ場合ガ多イ、故ニ此ノ際思ヒ切ッテ統計ヲ先ヅ是正スルト共ニ農家一日消費食糧ヲ少クトモ一人當四合以上トシ、實情ニ依ッテ農家ノ食糧ヲ控除シタル後、殘餘ヲ全部供出セシムル樣ニスルカ、又ハ生産食糧一切ヲ全面的ニ買上ゲ翌日ヨリ農家非農家ノ區別ナク一定量ノ配給ヲ行フカ、何方デモ急速ニ朝鮮ノ食糧事情ノ窮迫ヲ救ハナケレバナラヌモノト思フ
  ソレカラ少シ話ガ橫道ノ樣ニ考ヘルガ朝鮮ニ於ケル食糧問題解決ニ對シ最モ密接ナル關係ヲ有スル問題ノ一ツトシテ昭和十九年度朝鮮米穀生産責任數量決定額ニ付テコレヲ檢討シテ見ルト卽チ今年度ノ食糧生産責任量ハ
   米   二千六百萬石
   麥   一千六十三萬石

◆14枚目◆

   其他雑穀 九百三十萬石
   合計   四千五百九十三萬石
トナッテヰルガ一体此ノ數量ハ如何ナル方法ニ依ッテ算出決定サレタモノカ專門家デナイ私ガ僅カ三週間位ノ短時日ノ調査デハソノ正否ヲ今直ニ確言スルコトハ出來ナイガ先ヅ其ノ中ノ米二千六百萬ニ付テ考ヘテ見ルト前古未曾有ノ大豐作ト言ハレタ昭和十二年ノ米作數字ヲ除イテハ朝鮮ノ米作生産史上ニ未ダ其ノ前例ノナイ數字デアル
 卽チ昭和十四年ノ千四百萬石ト云フ大凶作以後ニ於ケル朝鮮ノ米生産高ヲ調査シテ見ルニ同十五年ノ二千百萬石、同十六年ノ二千四百萬石、同十七年ノ千五百萬石、同十八年ノ千八百萬石デアッテソノ五ヶ年間ノ平均收穫高ハ千八百四十萬石トナッテ居ル、此ノ理由ハ近年朝鮮ノ氣候ハ連續的旱魃ノ多イ關係モアリ更ニ鮮内ノ勞働力モ漸次減少シ、又化學肥料ノ不足等ガ其ノ原因デアルモノト思ハレル
 然ラバ昭和十九年卽チ今年度ノ米作ハ果タシテ朝鮮ノ農業生産ノ隘路ガ解消サレテ居ルカト云フニ決シテソウデハナイ、戰局ノ進展ニ從ヒ今年度ヨリ實施サレル徴兵制ニ伴イ併セテ農村靑壯年ノ戰鬪再配置等ガアリ、更ニ國内科學工業ノ擴充ニ因リ農業肥料生産ノ減縮ハ必然デアルト想像スルニ於テハ例ヘ此ノ儘天候ガ順調ニナッテモ二千六百萬石ト云フ米收穫ハ容易ナコトデハナイト考ヘラレル、卽チ過去五ヶ年間ノ平均收穫量千八百四十萬石ニ比スレバ七百六十萬石ノ增加デアルカラ約四割ニ該當スル數量ガ增加サレタノデアル
 モット詳シク言ヘバ過去五ヶ年間ニ平均收穫量十石ノ農家トスレバ四割增シノ十四石ガ其ノ生産責任量トナッタ譯デアル、天候ノ變調如何ニ拘ラズ同一條件ノ下ニ四割增産ト云フコトハ朝鮮農家トシテハ甚シキ過重ノ負儋ト言ハザルヲ得ナイノデアル、故ニ速

◆15枚目◆

カニ此ノ數字ニ再檢討ヲスルカ、又ハ現下時局ニ鑑ミ此ノ二千六百萬石ト云フ數字ガ絶對的ニ國家ガ要請スル量デアレバ鮮内科學肥料不足ノ對策トシテ自給肥料ノ增産、適期施肥、施肥方法ノ適正化等ニ關スル根本策ノ確立、ソウシテ三百萬戸以上ノ農家ト十萬戸以上ノ地主ト數萬ノ指導者ガ打ッテ一丸トナッテ人生最高ノ努力ヲ傾注スル樣仕向ケナケレバナラナイコトト信ズルノデアル

三、今次在勤文官加俸令改正ノ官界並ニ民間ニ及シタル影響
   此ノ問題ニ付テ朝鮮人官吏及民間人ニ就テ調査シテ見ルト大略左ノ如キ現狀デアル
  卽チ朝鮮人官吏ニ對スル加俸支給ニ付テハ
  イ、内鮮一体ノ理念ヲ具現シタルモノニシテ寧ロ其ノ遲キニ失シタル憾アルモ一層ノ責任感ト明朗性ヲ與ヘタリトナス者
  ロ、戰局ノ推移ニ鑑ミ先鋭化シツツアル朝鮮民心ヲ緩和セントスルコトヲ企シタル懷柔政策ナリト爲ス者
  ハ、官界ニ於ケル内鮮人ノ全面的無差別化ハ優秀ナル内地人ノ渡鮮ヲ阻害シ内地人側ニ於ケル人的貧困ヲ來スベシト爲ス者
 等ノ見方アリテ(イ)ノ觀點ニ立ツモノハ當然ナリト爲スガ故ニ(ロ)ノ見地ニ在ル者ハ政策ナリト見ルガ故ニ本制度ノ實施ハ朝鮮統治上劃期的恩典ナルニモ拘ラズ大ナル感銘ヲ與ヘザリシガ如シ、殊ニ瞠目スベキハ該制度ガ一部上層官吏ニノミ其ノ恩典ニ浴セシメタル點ニシテ或ハ上ニ厚ク下ニ薄キハ親心ニ反スルモノナリト爲シ、甚シキニ至ッテハ之等上層指導階級ヲ懷柔スルコトニ依ッテ之等ヲ一般民衆ノ宣撫ニ利用セントスルモノナリト斷ズルモノサヘアル
 他方一般下級官吏ハ現下ノ如キ物價高ニ比シ著シク薄給ニシテ

◆16枚目◆

殺人的ノ生活難ナルニ拘ラズ之ヲ默過シタルハ當局ノ企圖ニ他意アルベシトナシ眞劍ニ之ガ穽鑿討議ヲ敢ヘテ試ミル者モアル
 要スルニ本制度ハ朝鮮民衆ニ内鮮一体ノ理念ヲ制度的ニ實證具現セルモノトシテ受入レラレ朝鮮人官吏ヲシテ眞ノ帝國官吏トシテノ自覺ヲ喚起セシメ其ノ責任ノ重大ナルヲ感ゼシムルニ多大ナル貢献ヲ爲シタルモ之ヲ一部ノ上層官吏ノ範圍ニ止メタルニ基因スル疑惑感ハ否定シ得ベカラザルモノアリト謂フベシ
 更ニ此ノ問題ニ付テ朝鮮人民間有力者ノ忌憚ナキ意見ヲ調査シテ見ルニ、從來朝鮮人官吏ニハ加俸ヲ支給スベカラザルモノナルコトヲ理論的ニ説キ永年朝鮮人ノ深刻ナル反對心裡ヲ抑制シ來リタルニ拘ラズ突然全ク同一率ノ加俸ヲ支給スルコトトナッタコトニ對シテハ先ヅ驚キタルハ朝鮮人官吏自身デアッタデアラウ
 而シテ其ノ支給ガ一般的ニ非ズシテ一部分ニ過ギザル故ニ其ノ恩典ニ浴セザル階級ノ不平甚シク此ノ點ハ憂慮ニ堪ヘザルモノアリト見ヘル、卽チ生活ニ餘裕ナキ判任官以下ニ支給セズ比較的生活ノ安定ヲ得タル高等官ニノミ加俸ヲ支給スル結果高等官自身モ心中疑心ヲ抱クデアラウト論ズル人ガ多イ、其ノ理由トシテハ卽チ戰後朝鮮人ノ高等官ノ數ヲ減ズルハ必然ナリトシテ内心疑ナキ能ハズ、又反面判任官以下ノ不平相當深刻ナル地方モアルガ此ノ點ハ相當注目ヲ要スル問題ト思フ、事實トシテ内地人ト朝鮮人トガ絶對平等トナル理ナキニモ拘ラズ斯ル同率ノ加俸ヲ突然支給スルハ近キ將來ニ於テ内地人側ヨリ不平又ハ反對運動起ルベク、之ヲ收拾スルコトモ困難デアラウガ更ニ一面朝鮮人ノ判任官以下ニ迄速カニ加俸ヲ普及スルコトガ出來ナイトスレバ之レ亦相當困難ナル問題ヲ惹起スベク結局今時ノ加俸ノ支給ハ技術的ニ見テ拙劣ナルモノアリト彼等ハ考ヘテ居ル

四、第一線行政ノ實情

◆17枚目◆

   殊ニ府邑面ニ於ケル行政滲透ノ現狀如何
 決戰下外地ニ於ケル第一線行政ノ實情ノ眞髓ヲ調査スルコトニ付テハ上司ノ内命モアリ且又私自身ノ職柄多大ノ關心ヲ以テ可ナリ多方面ノ人々ニ會ッテ語ッタコトモアッタガ先ヅ南鮮ト西鮮地方ニ於テハ少々悲觀シタコトモアッタ、ソレハ或ル地方ノ有力者ノ話ヲ聞クト、其ノ答ヘニ曰ク今日朝鮮ノ第一線行政ハ全ク行詰リタル狀態ニシテ誠ニ寒心ニ堪ヘザルモノアリト言ッタコトデアル、其ノ理由ニ曰ク、朝鮮ニハ昭和十六年頃ヨリ、コレニハ「韓國以上」ト云フ合言葉ガ民間ニ流行シタト云フ、原因ハ社會情勢ノ急變ト官紀ノ㾱頽ニヨリ一般大衆ノ苦シミガ增加シ、遂ニ斯ル言葉ガ流行スル樣ニナッタガ、先ヅ舊韓國時代ニハ一部富豪ノミガ苦シミタルニ過ギズシテ一般大衆ハ寧ロ今日ノ如キ苦シミヲ体驗シタルコトガナカッタガ今日ノ現狀ハ富豪ヨリモ一般大衆ガモット苦シム樣ニナッタト云フコトデアル、然シ斯ノ如キ不評判ノ原因ハ結局戰局ノ進展ニ伴ヒ色々ト複雜ナ責任ノ負荷ガ多クナッタ爲メデアリ、又此ノ複雜性ノ内容ヲ彼等ガ理解シ消化シ得ナイカラデアルモノト思フ、卽チ上意下達、下意上通ガ圓滑ニナッテナイカラデアル
 事實朝鮮ノ第一線行政ノ實情ハ四年前ニ比シ相當複雜トナッテ來テ居ル、戰局殊ニ大東亞戰爭後ニ於ケル戰局ノ進展ニ伴ヒ朝鮮ニハ各種ノ榮譽ト責任ガ新ニ付加サレテ來テ居ルコトハ事實デアル、今其ノ主ナルモノノミヲ擧グルモ
 イ、食糧ヲ主トシ其ノ他數十種ニ及ブ農林畜産物ノ供出
 ロ、貯金及献金乃至献納
 ハ、勞務ノ供出
 ニ、志願兵ヨリ徴兵制度
 ホ、特殊鑛工物增産
 ヘ、義務敎育實施ト敎育整備

◆18枚目◆

 等ニシテ之等ノ施策ハ殆ンド其ノ結果ニ於テ達成セラレザルモノナキハ其ノ都度當局者ニ依ッテ半島官民ノ努力ト協力ニ對スル感謝ノ言葉ヲ以テ言明サレタ通リデアル、卽チ外形ト結果ニ於テハ上部ノ意圖ハ殆ンド第一線末端機關ニ滲透シ從ッテ第一線ノ官公吏亦聖戰完遂ニ奮鬪シツツアルノガ其ノ現狀デアルモノト見ルノガ普通デアラウ
 然ラバ之ヲ以テ直チニ朝鮮ノ第一線行政ノ實情ハ滿足スベキ狀態デアルカト云フニ決シテソウデハナイ、問題ハ其ノ結果ニ至ル迄ノ過程ト方法乃至ハ政治技術ノ如何ニアルモノト思フ、此ノ點ニ關スル限リハ上部ノ意圖ハ凡ソ末端下部ニ滲透シ居ラナイノガ今日ノ實情デアルモノト思考ス、爲ニ總督政治ニ對スル豫期セザル疑惑、不平不滿ノ生ズルコト尠シト見ルノガ正シイ調査資料ト思ハレル、故ニ斯ノ如キ原因ヲ一日モ速カニ除去スルコトコソ朝鮮統治ヲシテ本然ノ姿ニ戻シ明朗性アラシムル最大急務ナリ信ズルノデアル
 其ノ原因ノ主ナルモノノミヲ擧グレバ
 イ、郡守ニ至ル迄ノ不滲透ノ原因
本府ニ於テハ地方第一線ノ實情ニ通曉セズ綜合的認識ヲ缺ク者ガ自己ノ分野ニノミとととシテ〔行きなやんで・ぐずぐずして〕餘リニモ理論的ニノミ精微ナル立案ヲ爲シタルモノガ道ニ於テハ其ノ多クガ本府ヨリモ素質低下ナル屬僚ノ手ニ依リ之ヲ咀嚼スルコトナク其ノ儘移牒セラレ郡ニ集中サレルノデアル、(而モ本府ノ企劃者ノ中ニハ實際的經驗及識見ノ乏シキ者多ク道ノ屬僚中ニハ亦知的ニ低下ナル者多シ)
 ロ、郡ヨリ邑面ニ至ル間ニ於ケル不滲透
郡邑面職員ノ知的不足ト素質低下等ニ加フルニ弱馬駄重的ニ事務ハ之ニ集中輻輳スル結果、重點事務タルト否トニ拘ラズ平等ニ無關心トナリ研究工夫ハ殆ンドナク、且ツ又邑面財政

◆19枚目◆

ノ凋渇ハ之等諸優遇方策ヲ只名目上ノモノタラシムル事ニナリ一種ノ疲勞感嫌惡感サヘ抱キ會議及上級官廳ノ監勵出張ニ依リ强調セラルル施策方法ニ關シテノミ而モ其ノ結果特ニ最終的結果丶丶丶丶例ヘパ食糧增産供出ニ就テ謂ヘバ播種面積擴張、耕種法ノ改善等ハ之ヲ多ク報告ノ上ニ於テノミ達成シ其ノ虚僞ノ報告ニ基イテ割當テラレタル供出ノ達成ニノミ全力ヲ注ギ爲ニ民衆ヲシテ當局ノ施策ノ眞義、重大性等ヲ認識セシムルコトナク民衆ニ對シテ義ト涙ナキハ固ヨリ無理强制暴竹(食糧供出ニ於ケル毆打、家宅搜索、呼出拷問勞務供出ニ於ケル不意打的人質的拉致等)乃至稀ニハ傷害致死事件等ノ發生ヲ見ル如キ不祥事件スラアル
斯クテ供出ハ時ニ略奪性ヲ帶ビ志願報國ハ强制トナリ寄附ハ徴收ナル場合ガ多イト謂フ
 ハ、邑面ヨリ民衆ニ至ル間ノ不滲透
邑、面殊ニ面ハ第一線ニ於テ一般民衆トノ中間ニ立ッテ本府ノ企圖スル一切ノ施策ヲ擔當實踐スル重要ナル末端行政機關デアルガ其ノ下ニ知識極メテ定休ニシテ國語モ理解セズ極メテ不自然ナル朝鮮語ヲ以テ記サレタル公文通牒ヲ受領シ素朴ナル思惟ト下ニ活動スル區長ガアリ、此ノ區長ニ至リ一切ノ理論的行政施策ハ褪色サレ殆ンド其ノ政治意義ヲ消失スルニ至ルモノト思ハレル
 然レバ之等ノ弊害ヲ如何ニシテ取除クカ、其ノ是正ノ方策トシテ主ナルモノヲ擧グレバ
 イ、道ノ屬官級ニ知的素質ノ優秀ナル朝鮮人靑年ヲ多ク增員スルコト
 ロ、府、邑、面ノ職員ノ水準ヲ高ムル意味ニ於テ中等程度ノ地方行政講習所ノ如キ錬成敎育ヲ一層普及スルコト(現在ノ邑面職員ノ九割ハ小學程度)

◆20枚目◆

 ハ、區長ノ待遇ヲ一層改善强化シ優秀ナル人物ヲ配置スルコト
 ニ、本府及道ノ職員ハ質的向上ヲ計リ量的ニハコレヲ減少スルコトトシ郡、邑、面殊ニ面職員ノ增員ヲ斷行スルコト
 等デアルガ、要スルニ以上ノ如ク朝鮮ノ行政ハ其ノ實施過程ニ於ケル不正確ナル方法ト政治技術ノ足ラザル所カラ本然ノ姿ヨリ逸脱スル場合多ク爲ニ民衆ニ意圖以上ノ又ハ意圖セザル重キ負擔ヲ負ハセ一般民衆ノ認識並ニ能力ガ官ノ要請ニ追ヒツカヌ事ニナリ依ッテ民衆ヲシテ疑惑感、時ニハ反感ヲスラ抱カシムル場合ガ極メテ多イ、然シ兎ニ角表面カラ見レバ朝鮮ノ地方行政ノ第一線ハ皮相的ニ其ノ結果ノ點ニ於テノミハ相當滲透セルモノト謂フベシ

五、私立專門學校等整備ノ知識階級ニ及シタル影響
 決戰下敎育非常措置ニ依リ朝鮮ニ於ケル私立專門學校等ノ整備ヲ行ヒタルコトニ付テ朝鮮人知識階級人等ノ意嚮ヲ調査シテ見ルト彼等曰ク、此ノ措置ハ朝鮮人ノ知識階級ヲ絶望的境地ニ追込ミ朝鮮人社會ニ於ケル敎育事業熱ヲ奪ヒ去ッタト云フ、蓋シソレハ今日迄朝鮮ニ於ケル私立專門學校ガ朝鮮人知識階級ニ對シテ演ジタ役割機能ノ全面消滅ヲ意味スルカラデアル、一般的調査資料トシテハ此ノ整備問題ニ對スル朝鮮人特ニ敎育家及知識階級層ニ於テハ極メテ不評判デアリ彼等ノ中ニハ朝鮮ノ敎育政策ヲ疑フ樣ニナッテ來タ人々モ相當增加シテ居ル
 各方面ニ於ケル影響モ極メテ多種多樣デハアルガ今其ノ重ナルモノノミヲ擧グレバ大略左ノ通リデアル
 (イ)、朝鮮ノ過去ニ於テハ私立專門學校ニハ比較的組織津ノ優秀ナラザル者及官公立學校ニ進學スルヲ好マザル者、思想的ニ不穩ナル者(此トテ内地ノ私大ニ比スレバ問題ニナラヌ程素朴ナモノ

◆21枚目◆

デハアルガ)等ガ進學シタト云フ傾向ガアッタ、旣ニ内地ノ文化系統私大ヘノ進學ノ途ガ塞ガレタ今日之等ノ學徒ハ近代文化ノ電動カラ閉出ヲ喰ッタト考ヘル者モアリ、此ノ事情ハ理工科系統學校擴充ニヨリ專門學校生徒募集總數ニ於テ千二百名ノ增加ヲ見タトシテモ進學希望數ニ照ラシテ官公立專門學校ノ入學許可率ニ於ケル内鮮ノ差別ヲ徹底的ニ撤廢シナイ限リ少シモ緩和サレルコトハナイデアラウト考ヘル者モ相當多イ樣デアル
 (ロ)、從來朝鮮ニ於テハ私立專門學校ガ朝鮮文化ノ維持培養上ニ於テ大キナ役割ヲ演ジタコトハ何人モ否定出來ナイ事實デアル、旣ニ早クモ朝鮮語ノ敎授及使用ガ全面的ニ禁止サレタル今日ニ於テ私立專門學校等ガ整備サレタルハ今後朝鮮文化ノ最モ有力ナル維持培養ノ擔當者ヲ失ッタト云フノデアル、尤モ朝鮮文化ガ全部朝鮮文デ記サレ、朝鮮語デ語ラレルノミデナイニシテ今日迄ノ朝鮮文化ノ有方ハソウデアッタノデアリ、又現在モ尚全朝鮮人中國語ヲ解スル者ガ僅カ一割五分ニ過ギナイ狀態ニ於テハ猶更ノコトデアルト云フ
 (ハ)、元來朝鮮人社會ニハ官公立敎育機關ノ不足ト相俟ッテ敎育事業熱ハ相當ニ旺盛デアッタ、例ヘ貧者ト雖モ且又相當吝嗇家デモ事子弟ノ敎育ニ關スルトキハ多額ノ寄附ヲ爲シ小學校ノ敎育ニ於テスラ最近ハ克ク内地人ノ數倍ニ匹敵スル種々ノ負擔ニ甘ンジテ堪ヘテ來テ實情デアリ知ラザル者ノ惱ミヲ詳カニ歴史的ニ社會的ニ經驗セル彼等トシテハ當然ナコトト思フノデアラウ、殊ニ知識階級ニ於テ私立敎育事業熱又ハ敎育事業助成熱ハ最近一層旺盛トナッテ來タガ之等ハ此度ノ私立專門學校等ノ精微ヲ目睹シテ捨鉢的氣持ニナリ一切ノ私學事業ヘノ希望ヲ捨テタ觀ガアッテ、正ニ朝鮮人ノ經營スル敎育機關ヲ奪ヒ去ッタ感ヲ與エタト同樣ナ狀態デアル
(ニ)、從來朝鮮ノ私立專門學校ノ敎授ノ多クハ外國留學又ハ内地留

◆22枚目◆

學生ガ其ノ大半ヲ占メテ居タ、其ノ敎授陣ハ所謂朝鮮人知識階級ノ最高水準ニアッタコトハ否メナイ事實デアル
而シテ立派ナ皇國臣民トシテノ最高ノ敎育ヲ受ケ其レ丈ノ實力ヲ有志シ乍ラモ官公立ノ大學專門學校ノ敎授トナルコトヲ許サレナカッタ爲ニ朝鮮人學者ニトッテハ之等私立學校ノ敎授タルコトガ一生聖ナル學研ノ途ニ精進シ象牙ノ塔ニ籠ル唯一ノ途デアリ且ツ學者トシテノ生活戰線デモアッタノデアル、故ニ一面之等朝鮮人敎授陣ノ總退却ハ其ノ多クガ生活ニ餘裕ナキ朝鮮人子弟ニ對シテ學者的生活ノ門戸ヲ完封シタモノト彼等ハ考ヘテ居ル
(ホ)、最後ニ朝鮮ニ於ケル女子專門學校ノ場合ニ就テ調査シテ見ルニ近年知識階級ノ配偶者ヲ養成提供スルト共ニ一方餘リニ先端的ナ空虚ナ虚榮心(現在朝鮮人ノ文化程度ヲ見テ)ヲ朝鮮人大衆ニ植ヱ付ケ一部ノ識者並ニ大衆カラ白眼視サレタ私立女子專門學校ヲ整備シタ事ハ善惡相半バスルト云ハレテ居ル、蓋シ其ノ整理方針ニ於テ政治的技術ノ足ラザルコト並ニ内地ノ其レニ比シ餘リニ酷ニ失シタト云フ點及ビ敎授陣ノ總退却トハ男子專門學校ノ場合ニ準ジテ之モ相當惡影響ヲ及ボシテ居ル樣デアル

ハ、内地移住勞務者送出家庭ノ實情
 從來朝鮮ニ於ケル勞務資源ハ一般ニ豐富低廉ト云ハレテ來タガ支那事變ガ始マッテ以來朝鮮ノ大陸前進兵站基地トシテノ重要性ガ非常ニ高マリ各種ノ重要産業ガ急激ニ勃興シ朝鮮自体ニ對スル勞務事情モ急激ニ變リ從ッテ内地向ノ勞務供出ノ需給調整ニ相當困難ヲ生ジテ來タノデアル、更ニ朝鮮勞務者ノ内地移住ハ單ニ勞力問題ニ止ラズ内鮮一体ト云フケンチカラシテ大キナ政治問題トモ見ラレルノデアル
 然シ戰爭ニ勝ツ爲ニハ斯ノ如キ多少困難ナ事情ニアッテモ國家

◆23枚目◆

至上命令ニ依ッテ無理ニデモ内地ヘ送リ出サナケレバナラナイ今日デアル、然ラバ無理ヲ押シテ内地ヘ送出サレタ朝鮮人勞務者ノ殘留家庭ノ實情ハ果シテ如何デアラウカ、一言ヲ以テ之レヲ言フナラバ實ニ慘憺目ニ餘ルモノガアルト云ッテモ過言デハナイ
 蓋シ朝鮮人勞働者ノ内地進出ノ實情ニ當ッテノ人質的略奪的拉致等ガ朝鮮民情ニ及ボス惡影響モサルコト乍ラ送出卽チ彼等ノ家計收入ノ停止ヲ意味スル場合ガ極メテ多イ樣デアル、其ノ詳細ナル統計ハ明カデナイガ最近ノ一例ヲ擧ゲテ其ノ間ノ實情ヲ考察スルニ次ノ樣デアル
 大邸府ノ斡旋ニ係ル山口縣下沖宇部炭鑛勞務者九百六十七人ニ就テ調査シテ見ルト一人平均七十六圓二十六錢ノ内稼働先ノ諸支出平均六十二圓五十八錢ヲ控除シ殘額十三圓六十八錢ガ毎月一人當リノ純收入ニシテ謂ハバ之レガ家族ノ生活費用ニ充テラルベキモノデアル 斯ノ如ク一人當リノ月收入ハ極メテ僅少ニシテ何人モ現下ノ如キ物價高ノ時ニ之ニテ殘留家族ガ生活出來ルトハ考ヘラレナイ事實デアリ、更ニ次ノ樣ナコトニ依ッテ一層激化サレルノデアル
(イ)、右ノ純收入ノ中カラ若干勞務者自身ノ私的支出ガアルコト
(ロ)、内地ニ於ケル稼先地元ノ貯蓄目標達成ト逃亡防止策トシテノ貯金ノ半强制的實施及拂出ノ事實上ノ禁止等ガアッテ到底右金額ノ送金ハ不可能デアルコト
(ハ)、平均額ガ右ノ通リデアッテ個別的ニハ多寡ノ凹凸ガアリ中ニハ病氣等ノ爲赤字收入ノ者モアルコト、而モ收入ノ多イ者ト雖モ其レハ問題ニナラナイ程ノ極メテ僅少ナ總金額デアルコト
 以上ノ如クニシテ彼等トシテハ此ノ勞務送出ハ家計收入ノ停止トナルノデアリ況ヤ作業中不具㾱疾トナリテ歸還セル場合ニ於テハ其ノ家庭ニトッテハ更ニ一家ノ破滅トモナルノデアル
 然シ之等ノ事情ニ對スル異論モアル樣デアル、卽チ勞務援護ヤ

◆24枚目◆

勞務協會ノコトヤ殘留家族殊ニ婦人ノ積極的活動ニ依ル收入ノ確保等ガアルデハナイカト云フノガ其レデアルガ、然シ朝鮮ノ勞務援護ニ就テ云ヘバ左ノ如キ二ツノ方法ガアルデアラウ、其ノ一ツハ鄰保相助ヲ擧グルデアラウガ、之レモ朝鮮ノ農民ト勞働者ノ大衆ハ未ダ斯ル良風美俗ノ實踐者タル爲ニハ餘リニモ貧困過ギル現狀デアリ、其ノ二ハ勞務協會ノ援護デアルガ之レモ勞務者一人當リ五圓ヲ財源トスル本會ノ實情ハ之ノ豫算モ現實的ニハ宴會其ノ他ノ費用ニ充テラレテ居ル現狀デアル
 更ニ殘留家族殊ニ腐女子ノ勞働ハドウデアルカニ就テ調査シテ見ルニ、朝鮮ノ都市ニ於テノ一家支柱タリシ男子ニ殘留婦女子ガ代替シ得ルコトノ出來ナイコトハ固ヨリデアルガ農村ニ於テモ土壤ノ瘠薄性ト耕種法殊ニ農具ノ未發達、高率ノ小作料、旱水害、其ノ他ノ各種夫役等ノ增加ノ多イ今日ニ於イテハ全家族總動員シテ勞務ニ從事シ以テ漸ク家計ヲ維持シタル農民ガ戸主又ハ長男等ノ働キ手ヲ送出シタル後婦女子ノ勞働ヲシテ其ノ損失ヲ補償代替更ニ進ンデハ家計ノ好轉ヲ圖リ得ナイコトハ明白ナ事實デアッテ、此ノ點自然的條件ニ惠マレ耕種法其ノ他營農ノ發達シタル内地農村ト同一ニ考ヘルコトハ出來ナイノデアル、況ヤ朝鮮農村ノ婦女子ハ其ノ九割以上ガ殆ンド無敎育デアリ靑少年ハ徴兵實施ト其レニ伴フ各種ノ錬成其ノ他ノ行事ノ爲ニ實際的ニハ働手タル意義ヲ大イニ減殺サレテ居ルノデアル
 斯シテ送出後ノ家計ハ如何ナル形ニ於テモ補ハレナイ場合ガ多イ、以上ヲ要スルニ送出ハ彼等家計收入ノ停止トナリ作業契約期間ノ更新等ニ依リ長期ニ亘ルトキハ破滅ヲ招來スル者ガ極メテ多イノデアル、音信不通、突然ナル死因不明ノ死亡電報等ニ至テハ其ノ家族ニ對シテ言フ言葉ヲ知ラナイ程氣ノ毒ナ狀態デアル、然シ彼等殘留家族ハ家計ト生活ニ苦シミ乍ラ一日モ早ク歸還スルコトヲ待チアグンデ居ル狀態デアル、私ガ今囘旅行中慶北義城邑中

◆25枚目◆

里洞金本奎東(二十三才)ナルモノガ昭和十八年七月一日北海道ヘ官ノ斡旋ニ依リ渡航シタ家庭ヲ直接訪問シテ調査シタルニ、最初官ノ斡旋ノ時ハ北海道松前郡大沼村荒谷瀨崎組ニ於テ本俸九十五圓、手當ヲ加ヘ合計月收百三十圓トナル見込ミトノ契約ニテ北海道ヨリ迎ヘニ來タ内地人勞務管理人ニ引率サレ渡航シタル後旣ニ一年近クニナッテモ送金モナケレバ音信モナイ家ニ殘サレタ今年六十三才ノ老母一人ガ病氣ト生活難ニ因リ殆ンド瀕死ノ狀態ニ陷ッテ居ル實情ヲ目撃シタ、斯ノ如キ實情ハ此ノ義城ノミナラズ西鮮、北鮮地方ニ極メテ多ク、之等送出家庭ニ於ケル殘留家族ノ援護ハ緊急ヲ要スベキ問題ト思ハレル
 其ノ中ニモ軍方面ノ徴用者ノ中ニハ克ク家庭トノ通信、送金棟ガアッテ殘留家族ニアリテモ比較的安心シ生活上ニモ左程不便ヲ感ゼザルモ、特ニ一般炭鑛並ニ其ノ他會社等ノ關係ニ在リテハ右ノ如ク送出後殆ンド音信ヲ斷チ尚家庭ヨリ音信スルモ返信ナク半年乃至一年ヲ經ルモ仕送金無キモノモアリテ其ノ殘留家族特ニ老父母ヤ病妻等ハ生不如死ノ如キ悲慘ナ狀態デアルノミナラズ其ノ安否ヲスラ案ジツツ不安感ヲ有スル者極メテ多ク、此ノ如キハ當事者ノ家庭現狀ニノミ限ラズ今後朝鮮カラ勞務者送出上大ナル影響ヲ與フルモノトシテ憂慮ニ堪ヘナイノデアル
 又假ニ朝鮮農村ニ於ケル男子勞力ニ代ッテ婦女子勤勞ヘト一層强化スルニシテモ今日ノ朝鮮婦女子ノ特殊立場ヲ沒却シテ唯盲目的ニ働カス事バカリハ大イニ警戒シナケレバナラヌト思フ、卽チ人口增强上重要使命ヲ持ツ婦人ノ保健問題又ハ内地婦女子ト異ッテ殆ンド無敎育デアル彼女達ガ良ク働ケル樣ニ仕向ケル特殊施設ト對策ガナケレバナラヌ、例ヘバ共同炊事、託兒所、保健婦設置、食糧特配等ハ特ニ緊急ヲ要スル條件デアラウ
 朝鮮農村ノ婦人殊ニ南朝鮮地方ノ農村婦人ハ勤勞、增産意慾ニ乏シク、又家事ト育兒ダケデモ力一杯デアッテ實際問題トシテ增

◆26枚目◆

産ヘノ勤勞提供ノ餘裕モナイ實情デアル、ココニ先ヅ問題トナルノハ農家ノ生活改善デアリ勤勞增産ノ意慾ヲ旺盛ナラシメ容易ニ增産勤勞部門ヘ挺身出來ル樣其ノ環境ヲ作リ上ゲルコトガ大切デアラウ
 第一ニ增産勤勞婦人鄰組隊ノ如キモノヲ組織シテ生活ノ共同化ヲ期シ家庭生活モ勤勞作業モ此ノ共同化サレタ組織ト精神ニ於テナサネバナラヌト思フ、ソシテ託兒所ヲ設ケ又保健婦ヲ成ル可ク多ク囑託シ農村姙婦ノ保護、育兒ノ輔導等ニ努メテ行ケバ或ハ朝鮮婦人モ容易ニ勞働ニ親シミ得ルデアラウト思ハレル
 之レニハ從來ト異ッタ相當シッカリシタ指導者ヲ多ク必要トスルガ、更ニ託兒所、保健婦、共同炊事、食糧ノ特配等ノ指導者ヲ得ルコトガ最モ大切デアルモノト思フ、然シ今日ノ朝鮮農村ノ現狀トシテ農村自体デハ到底ソウ云フ適當ナ人ヲ得ルコトハ不可能デアラウ、ココデ此ノ問題ニ對シテ眞劍ニ考ヘサセラレルコトハ中等以上ノ敎育ヲ受ケタ都會ノ女性達ガ華ヤカニ飾ッテ喫茶店カラ映畫館ヘト空虚ナ生活ヲ送ル嘆ハシイ現實デアル此ノ女性等ノ胸中ニ果シテ國ヲ想ヒ非常時局ヲ認識シテ勝ツ爲ノ仕事ニ尊イ汗ヲ注グ誠ガアルカト云フ問題デアル、然シ全然ナイノデハナイガ多クノ場合生活ノ環境ガシカラシメタノデアルト思フ
 故ニ此ノ際思ヒ切ッタ積極的錬成對策ヲ樹立シテ此等ノ女性ヲ總動員シテセメテ農繁期ノ數ヶ月丈デモ農村ニ住込マセ、保健婦トシテ託兒所ノ保姆トシテ奉仕セシメレバ眞ニ婦人勞働力ノ完全ナル活用ガ可能デアルモノト思ハレル、之レハ金肥ヲ何百叺〔かます〕使フ以上ノ實質的效果ガアルモノト思ハレル、之レガセメテ朝鮮婦女子ノ勤勞强化指導ノ一策トモナルデアラウト信ズルノデアル

七、朝鮮内ニ於ケル勞務規則ノ狀況竝ニ學校報國隊ノ活動狀況如何
  從來朝鮮内ニ於テハ勞務給源ガ比較的豐富デアッタ爲ニ支那

◆27枚目◆

變勃發後モ當初ハ何等綜合的計畫ナク勞務動員ハ必要ニ應ジテ其ノ都度行ハレタ、所ガ其ノ後動員ノ度數ト員數ガ各種階級ヲ通ジテ激增サレルニ從ッテ略〔ほぼ〕大東亞戰爭勃發頃ヨリ本格的勞務規制ガ行ハレル樣ニナッタノデアル
  而シテ今日ニ於テハ旣ニ勞務動員ハ最早略頭打ノ狀態ニ近ヅキ種々ナル問題ヲ露出シツツアリ動員ノ成績ハ概シテ豫期ノ成果ヲ納メ得ナイ狀態ニアル、今其ノ重ナル點ヲ擧グレバ次ノ樣デアル
 (イ)、朝鮮ニ於ケル勞務動員ノ方式
凡ソ徴用、官斡旋、勤勞報國隊、出動隊ノ如キ四ツノ方式ガアル
徴用ハ今日迄ノ所極メテ特別ナル場合ハ別問題トシテ現員徴用(之モ最近ノ事例ニ屬ス)以外ハ行ハレナカッタ、然シ乍ラ今後ハ徴用ノ方式ヲ大イニ强化活用スル必要ニ迫ラレ且ツ其レガ豫期サレル事態ニ立到ッタノデアル
官斡旋ハ從來ノ報國隊ト共ニ最モ多ク採用サレタ方式デアッテ朝鮮内ニ於ケル勞務動員ハ大體此ノ方式ニ依ッテ爲サレタノデアル
又出動隊ハ多ク地元ニ於ケル土木工事例ヘバ增米用ノ溜池工事等ヘノ參加ノ樣ナ場合ニ採ラレツツアル方式デアル、然シ乍ラ動員ヲ受クル民衆ニトッテハ徴用ト官斡旋時ニハ出動隊モ報國隊モ全ク同樣ニ解サレテ居ル狀態デアル
(ロ)、勞務給源
朝鮮内ノ勞務給源ハ旣ニ頭打ノ狀態ニアルト云フノガ實狀デアラウト思ハレル
今尚餘裕ガアルト見ル向モ相當ニ在ルガ然シ之レハ頭數ノミヲ見、人ハ男女共ニ内地人男女ト同等ノ能力ヲ有スルモノト云フ前提ノ下ニ立ッテヰル見解デアル、端的ニハ勞銀ノ想外ノ昂騰ガ其ノ一ツノ證據デアリ又朝鮮人ノ婦女子ハ潛勢力ト

◆28枚目◆

シテハ存在スルガ現実ノ家計収入ヲモタラスベキ労働力トシテハ一般ニ評価シ得ナイ実状ニアル、斯ノ如ク觀ジテ來ルトキハ朝鮮内ノ勞務給源ハ非常ニ逼迫ヲ告ゲテヰルト云フベキデアル
絶對的頭數ノ上カラ見テ朝鮮ノ勞務給源ガ今尚豐富デアルト云フ見解カラ更ニ男子ヲ動員スルコトハ可能デアルガ、然ル時ハ婦女子ノミガ殘ルコトトナリ朝鮮ノ特殊事情カラ其ノ實質的勞働力ハ實ニ薄弱ナモノトナルカラ此ノ點深ク實態ノ觀察調査ガ必要デアルモノト思ハレル
一例ヲ見ルト慶北安東郡ノ如キハ總人口十七萬人ノ内農業勞務者ガ六萬人、一般勞務者ニ登録サレタノガ九千九百二十九人トナッテ居ル、此ノ一般勞務者約一萬人カラハ旣ニ昭和十四年以降内地ヘ供出シタモノ六千四百二十六人、北鮮地方ヘ略八百人合計八千人近ク旣ニ送出シタノデアルカラ殘有ノ勞働力トシテハ極メテ僅少トナッテ居ルニモ拘ラズ今年更ニ殘留勞務者數ヨリモ多ク内地送出ヲ命ゼラレテアル爲メ第一線ニ於ケル當局者及農村ニ於テハ食糧增産上多大ナル影響ヲ及ボスモノトシテ憂慮シアル狀態デアル
(ハ)、動員ノ實情
徴用ハ別トシテ其ノ他如何ナル方式ニ依ルモ出動ハ全ク拉致同樣ナ狀態デアル
其レハ若シ事前ニ於テ之ヲ知ラセバ皆逃亡スルカラデアル、ソコデ夜襲、誘出、其ノ他各種ノ方策ヲ講ジテ人質的略奪拉致ノ事例ガ多クナルノデアル、何故ニ事前ニ知ラセレバ彼等ハ逃亡スルカ、要スルニソコニハ彼等ヲ精神的ニ惹付ケル何物モナカッタコトカラ生ズルモノト思ハレル、内鮮ヲ通ジテ勞務管理ノ拙惡極マルコトハ往々ニシテ彼等ノ心身ヲ破壊スルコトノミナラズ殘留家族ノ生活困難乃至破滅ガ屢々〔しばしば〕アッタ

◆29枚目◆

カラデアル
殊ニ西北朝鮮地方ノ勞務管理ハ全ク御話ニナラナイ程慘酷デアル、故ニ彼等ハ寧ロ軍關係ノ事業ニ徴用サレルノヲ希望スル程デアル
斯クテ朝鮮内ノ勞務規制ハ全ク豫期ノ成績ヲ擧ゲテヰナイ、如何ニシテ圓滿ニ出動サセルカ、如何ニシテ逃亡ヲ防止スルカガ朝鮮内ニ於ケル勞務規制ノ焦點トナッテヰル現狀デアル
(ニ)、勞銀
朝鮮ノ勞働力モ右ノ樣ニ愈々逼迫シテヰル爲如何ナル事業モ請負人ニ勞働者ヲ官公署ガ斡旋スルノデナケレバ到底事業遂行ハ不可能デアル、故ニ個人ガ自由契約ニ依リ四苦八苦シテ勞働者ヲ雇入レルコトニナルト全ク驚ク程想外ノ高賃金ヲ要求サレルノデアル
反之〔これにはんし〕官公署ノ事業ハ豫算其ノ他ノ關係ニテ右ノ如キ高イ賃金ハ支拂ヘナイ、ソコデ多クハ部落聯盟ニ請負デヤラセル、故ニ朝鮮ノ部落民ハ官ノ事業ニハ殆ンド夫役(强制奉仕)ノ心構エニテ參加スルト云フ實情デアル
 (ホ)、學校報國隊ノ活動狀況
朝鮮モ最近ハ勤勞敎育ノ强調ニ伴ヒ學校報國隊ノ活動ハ文字通リ豫期以上ノ成績ヲ擧ゲテヰルガ然シソコニハ簡單ニ看過シ得ナイ種々ナ問題ガ惹起シテヰルコトモ事實デアル、卽チ
1. 上司又ハ一般ニ對スル見物式ノ出動デ實蹟ノ擧ラザルモノアルコト
2. 學校ニ依ッテ勤勞ノ時間、程度ニ於テ著シキ差別ノアルコト
3. 兒童生徒ノ個々人ノ心身ノ狀態ヲ無視シ一率ニ過重ナル勤勞ヲ課シ全ク心身疲勞シ切ッテ親達ノ憂慮惻々ナルモノアルコト

◆30枚目◆

 一般ニ朝鮮ノ地方農村ニハ勤勞過重ナル場合ガ多ク極端ナ〔例?〕ニナレバ三食トモ草根木皮ノ粥腹デアル爲体錬ノ時間ニスラ貧血率倒スル頑是ナイ子供ガ勇々シクモ鍬ヤ鎌ヲ手ニシ文字通リ身ヲ粉ニシテ勤勞ニ從事シツツアルノヲ目睹シ一掬ノ涙ナキヲ得ナイ實情デアル
 朝鮮ノ勞務規制ノ現狀ト學徒報國隊ノ活動狀況ハ大略以上ノ如クデアッテ端的ニ云ヘバ悲觀スベキ點極メテ多ク此レヲ如何ニシテ今後是正シ圓滑化サセルカニ付テ考ヘテ見ルニ勞務管理ノ根本的革新ガ先決問題デアルコトハ云フ迄モナイ、上欄ニモ少シ述ベテアルガ如ク一体朝鮮ニハ戰爭ニ必要ナ物資モ豐富デアリ勞働力モ過剩スル程ニアッタノデ、之レヲ戰力化スルカ否カハ一ニカカッテ勤勞管理ノ善否ニアッタノデアル、其レガ勞務管理ノ根本對策ガ足ラナカッタ爲メニ今日早ヤ行詰マリヲ示ス悲觀的狀態ニ至ッタコトハ誠ニ殘念ト言ハザルヲ得ナイノデアル
 朝鮮ノ勞務者ヲシテ眞ニ日本人トシテノ所謂玉碎的勤勞ヲナサシムル爲ニハ從來ノ如キ形式觀念的勤勞管理ヲ捨テ先ヅ日本人トシテノ國体思想ノ自覺、戰爭精神ノ興揚、特ニ彼等ニ對スル後顧無憂ノ生活援護、勞力涵養ノ生活必需物資ノ充足等精神的生活的ニ亘ル幾多ノ指導的條件ガ必要デアル、卽チ朝鮮ノ勞務管理ハ思想管理、生活官吏ニ迄及ボサナケレバ萬全ヲ期スルコトハ不可能デアルモノト思フ
 朝鮮ニ於ケル從來ノ勞務管理ガ如何デアッタカカニ就テハ其ノ現實ノ狀況ヲ要點ダケ上欄ニ略述シテアルガ、今之レヲ詳細ニスルニハ相當長文ニモナルシ、又最早ヤ内外周知ノコトニ屬スル故ニ、茲〔ここ〕ニ更メテ蛇足ヲ付スルヲ避ケルノデアルガ、然シ矛盾シテヰル二ツノ要點丈ヲ指摘シテ速ニ改善シタイノデアル
 第一ハ未ダ朝鮮ニハアラユル部門ニ亘リ資本利潤ノ確保ト其ノ增進ヲ圖ル目的ノ下ニ行ハレテ居ルコト

◆31枚目◆

第二ハ自由主義者乃至ハマルクス理論ヲ肯定シカネナイ卽〔チ〕反資本主義的インテリーニ依ッテ組織セラレテ居ルコトノ多イ〔コ〕トデアル、ソウシテ此ノ二ツノ精神要點ハ必然的ニ相矛盾シ、朝鮮ノ勞務管理擔當者ハ常ニ此ノ矛盾ノ中ニ苦惱シツツアルコトデアル
 ソコヘ最近特ニ大東亞戰爭勃發以後急ニ湧發サレタ國体主義的大勢ノ前ニ朝鮮人ハ官民上下殆ンド戸惑ヒシツツソレゾレ異ナッタ思想ト考ヘ方ヲ内包シツツ表面的ニ形ノ上デハ兎ニ角大勢ニ順應シテ來タ樣ニ見ヱルコトモ事實デアルガ然シ本當ノコトヲ云フト勢イ朝鮮人ノ國体觀念戰爭挺身ハ多ク形式的ナラザルヲ得ナイノデアリ、從ッテ幾多ノ内在的困難ヲ生ジテ來テ居ル
 更ニ最近ニ至リ非職業勞務、卽チ徴用、學徒、女子挺身隊ノ如キモノガ混入サレ朝鮮ニ於ケル勤勞管理ハ其ノ困難性ヲ益々加重シテ來タ感ガスル
 要スルニ朝鮮ニ於ケル勞務管理問題ノ根本對策トシテハ先ヅ今迄ノ樣ナ官ノ斡旋トカ一般募集ノ如キ方法ヲヤメテ所謂皇國的制度ヲ强化シ國民皆兵トシテノ指導精神ノ下ニ日本的給與、國体的勤勞管理ニ戻ラナケレバナラナイ、卽チ徴用ヲモット强化シ一應等シク赤子トシテノ報國性所謂同一ノ資格ト同一ノ重要性ニ、家族主義ヲ融合シタル絶對標準ノ保證ヲ原則トシ、之レニ内鮮間ニ於ケル特殊事情ヤ勤勞者個人ノ歴史的地位、能力、知識、技術、勤怠、勞務量等ヲ加算條件トスルコトデアル、要スルニ原則トシテハ全家族ヲ養ヒ各員ヲシテ各々其ノ性能ニ應ジテ盡忠報國ヲ爲シ得ル迄ノ向上ヲ爲サシメ得ルコトノ絶對保證ヲ速ニ實踐シナケレバナラナイト思ハレル
 以上ヲ以テ簡單乍ラ上司ヨリ内命ヲ受ケタ調査事項ノ復命ヲ終ルコトニスル
以 上

憲法調査会

憲法審査会名簿 PDF (氏名、会派、連絡先)
現行の国民投票法は、最低投票率の規定がないこと、CMの量が資金力の多寡によって左右される恐れがある。これらを放置しておいて「改定」などありえない。