第5号 中国「鉄道省」を動かすエネルギー

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      第5号 (2011年8月19日)
   ▼ 中国「鉄道省」を動かすエネルギー
   ▼ 歴史教科書を読破 稲葉雅人NTT中国総代表
   ▼ 読者感想:ソフトパワーが足りない中国
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▼ 中国「鉄道省」を動かすエネルギー

 一面トップ記事のほど、中国の高速鉄道事故が、日本でも大きな話題をよんだ。ただ、ほとんどの日本大手メディアに報道されていないことがある。しかも、このことが今度の事故をめぐる中国社会の変化を説明するには、重要なポイントなっている気がする。

 これは事故が起きた当日の夜に、事故発生地に近い温州市の市民約1700人が自発的に献血に駆け付けたことだ。「何だ」と思う方が多いかもしれないが、最後まで読んでいただきたい。

 約16年前、私が中国のある大手新聞社に勤めていた。日本に行く直前で、会社を通してボランティア献血者の募集があった。所属されている部署には一人の枠があった。ボランティアと言いながら、実質的に2週間の休みと一ヵ月分の給料に相当する報酬がもらえることになっていた。だが、若者を中心とする30人余りの職場には手を上げる人がいなかった。結局は、もうすぐ定年する部長が出るしかなかった。

 去年北京に戻り、休日の繁華街で献血バスを見かけた。バスの前に若者が並んでいるのを見てびっくりした。しかも、話を聞いたら、献血は本当のボランティアで、休みがなし、「報酬」は牛乳一本だそうだ。係員さんから「休日にはいつも列を作ってますよ」と教えてくれた。正に隔世の感がある。

 献血に対する中国人意思の変化から、ボランティア精神や、社会的責任感が中国社会で高まってきた事情をわかってもらえるのではないかと思う。この変化によって生まれたエネルギーが、今度の事故でマスコミの報道やインタネットでの怒りとなったのだ。

 一方、「鉄道省」については、すでに日本のメディアに大きく取り上げられている。計画経済時代から、鉄道に関する行政部門と建設や運営など現業部門を一括管理。30年も改革し続けてきた中国において、「聖域」の一つとされてきた。

 事故直後、「鉄道省」の対応は恐らくいつも通りだったと思う。だが、その古い体質の管理が、すでに社会的責任感が高まる中国社会に不適応となってしまい、一連の騒動につながった。社会管理の刷新が中国の急務になっていることは、小生メルマガ第1号のなかで、『中国の「混乱」と「活力」』で取り上げている。今度のできごとはその一例であろう。

 この間、行政コスト透明性の欠如を背景に、中国の人民代表大会常務委員会が中央の各行政部門に対し、公務出張費、公用車の購入・維持費、公務接待費のいわゆる「三公経費」を公開するように指示した。そして、順次公開された「三公経費」がマスコミやネット上で話題を呼んだ。国民のエネルギーを活かし、「聖域」の改革に手をつけようとする中国の動きも見えてくる。

参考:
『中国の「混乱」と「活力」』
http://d.hatena.ne.jp/ou-sei/20110405/1305217707

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▼ 歴史教科書を読破 稲葉雅人NTT中国総代表

 「手を握る相手のことを知らないと商売になりません。中国の人のことをどれだけ知っているのかと自分たちに問いかけてみたところ、実はあまり知らないということが分かったのです」。

 「いまの日本は内向きの傾向にあると言われていますが、中国が日本にとって最大の貿易相手国となった現在、変化が激しい中国をもっと知るべきだ」と、去年8月北京に赴任した日本電信電話株式会社(NTT)理事、中国総代表の稲葉雅人さんは言う。

 稲葉さんが日本で中国のことをあまり知らないことに気がついたのは2005年、日本のリーダーを育てる目的で一流企業の幹部候補生を集めて開催される研修会「FORUM21」に参加した時だった。当時は小泉首相の靖国神社参拝などに中国が反応、日中関係が悪化し、「政冷経熱」と呼ばれていた。

 どうすれば日本と中国の関係を良くできるかを研究テーマにした稲葉さんは、中国人のことを知ることがその第一歩だと考え、80年代中国留学で身につけた語学力を生かし、2006年、仲間とともに、中国と日本の中学校歴史教科書の比較に着手した。

 1年間で参考書を含め200冊を読破し、仲間と議論を重ね、『日本と中国「歴史の接点」を考える』(角川学芸ブックス)にまとめた 。最も衝撃を受けったのは「南京虐殺事件」に関する記述だったという。「日本の教科書はわずか数行ですが、中国の教科書は2500字で、日本人の学生に手紙を書こうという練習問題もついている。両国の学生が話す機会があっても、議論にならないでしょう」。

 現在、NTTグループは約40社が中国で業務を展開し、数千人の中国人社員を抱えている。「日本と中国のかかわりはこれからも増えていくでしょう。どちらかが正しいということではありません。自分のことだけではなく、周囲のことも知るべきです。日本の将来はここにあります」と語る稲葉さんは、いまも激務の合間を縫って中国の勉強会などに熱心に参加している。

(人民中国ネット版より、写真などをご覧になる方は下記アドレスまで)
http://www.peoplechina.com.cn/home/second/2011-08/05/content_381724.htm

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▼ 読者感想:ソフトパワーが足りない中国

 先月のメルマガ「 縛られる日本メディアの中国報道」にも多くの感想をいただきました。特にマスコミ関係者からの意見が目立ちます。ここで一人のジャーナリストの感想を紹介します。

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 ご指摘の通り、確かに今の日本のメディアには、中国報道で「縛られた部分」があると思います。ただ、それは短期間では昨年の漁船衝突事件、もっと長期で考えれば、靖国神社参拝と反日デモ以来の日本人のメンタリティとかかわっていると思います。重要な記事を通さなかったというデスクの意識の中にも、日本人に広がっている中国に対する複雑な感情が影響を与えていると思うのです。

 日本人は震災でもご承知のように、激しいデモをして感情を爆発させることは少なく、表面的にはたいへん礼儀正しく、忍耐強いのですが、心のうちに芽生えた感情、偏見などは時間をかけて大きくなり、なかなかそれを拭い去ることはできないのです。

王さんも良くご承知のことと思いますが、今の日本では新聞、雑誌などで中国を温かく好意的に取り上げる報道に会うことはほとんどありません。むしろ無知と偏見、嫉妬と悪意に満ちたものではないかと思われる記事の方が圧倒的です。書店に並ぶ中国関係の本もそうしたものが大半です。

…(中略)…

 確かに経済力は発展し、オリンピックや万博を立派にやり遂げた。高速鉄道、高速道路、高層ビルで町並みは一新した。今や自転車の洪水は過去のもの。そうしたことはようやく日本人に知られてきているのですが、そのことが親しみの感情とは結びつかないのです。むしろ不安と嫉妬に駆られているといってもいいのかも知れません。

 経済力、軍事力などのハードパワーでは周囲の尊敬と親しみを獲得することはできません。お互いの理解と親しみを促進するのは、文化的なソフトパワーだと思いますが、現代の中国には魅力的なソフトパワーの発信が圧倒的に不足している。香港、台湾、韓国、そして日本からのソフトを楽しんで、海賊版を作っているだけ。というのが僕らがいつも感じるていることなのです。政治体制の違いや、社会、民族性の異質さは別としても、やはりまねではなく独創的で、親しめるキャラクターをたくさん発することが日本人の中国に対する理解をより深めることができる。その必要性を中国の人々に分かってほしいと思います。

全文はhttp://d.hatena.ne.jp/ou-sei/20110719/1311010106#cまで

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第4号 縛られる日本メディアの中国報道

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      第4号 (2011年7月19日)
   ▼ 縛られる日本メディアの中国報道
   ▼ 読者感想 努力が足りない中国社会
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▼ 縛られる日本メディアの中国報道

 北京に戻ってから、日本メディアの中国に関する報道は、日本経済新聞を除き、つまらなく感じるようになった。ほとんど決まった論調の記事しかないからだ。「中国メディアが日本本来の姿を伝えていない」というのは日本ではよく聞く話だが、日本メディアの中国報道も縛られている気がする。

 去年1月末、東京で日中両国の有識者による歴史共同研究委員会は双方の報告書を公表した。注目されていた南京大虐殺による犠牲者数については、中国側は東京裁判の数字を引用し、日本側は学者の推定で表現した。双方とも第3者によるデータを使い、激しい対立を避けた。

 その取材に当たったある日本大手マスコミのベテラン記者がさすがに新しい動きを敏感に把握し、原稿を書いたが、編集テスクのところで通らなかった。理由は「国民が対立していると思っているから」だという。結局は記事の見出しが「南京虐殺犠牲者一致せず」で、新しい動きがぜんぜん反映されないニュースとなった。「動きとまったく逆となっている」と、「空気」が読めないとされるベテラン記者がため息をつく。

 この「空気」や決まった論調を纏めれば、だいたい反日、食の安全、偽物大国、人権侵害、デモ多発、海洋権益をめぐる強硬姿勢などとなっている。限られた紙面、人手で日本メディアがこの「空気」に沿って報道する。刺激された多くの読者が「やはり中国がひどい」と思い、更なる刺激な記事を求める。「日本の対中感情とメディアの中国報道が悪循環となってしまった」と、中国特派員の経験も持つある大手マスコミの論説委員が嘆く。

 ここで誤解しないでほしいのは、決して中国への批判記事が嫌いということではない。中国報道に多様性が欠けることが問題なのだ。新しい情報が日本に入ってこないし、病的中国観につながりかねないからだ。一年前、小生のインタビューを受けた経済評論家の堺屋太一氏が、「中国の現代文化が日本にまったく入ってこないような断絶が起こっている」という。

 このように感じたのは私だけではない。北京在住のライターの三宅玲子さんが、漁船衝突事件で北京の中国人は政治と人間関係を切り離して付き合う人が多いと感じたことを日本の友人に話したが耳を貸さなかったという。これをきっかけに仲間を集めテレビや新聞ではひろわれない中国人の素顔のストーリーを集積する「BillionBeats」というウェブサイトを立ち上げた。

 もう一人北京在住のライターの小林さゆりさんが中国社会を客観的に伝えようと、ブログ「北京メディアウオッチ」でフレッシュな中国情報を発信。日本僑報社の段躍中編集長が創業15年で、『必読!今、中国が面白い2011』など日中関連書籍を200冊以上出版。

 だが、彼らの有益的活動はまだまだ日本社会に認識されていない。応援したい。

参考:
北京メディアウオッチ:http://pekin-media.jugem.jp/
Billion Beats:http://www.billion-beats.com/
中国研究書店:http://duan.jp/
段躍中日報(ブログ)http://duan.exblog.jp/

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▼ 読者感想 努力が足りない中国社会

 先月のメルマガ「マイナス財産」が在日ジャーナリスト莫邦富さんのコラム、在中ライターの小林さゆりさんのブログで紹介され、小さな話題となったようです。多くの方から感想もいただきました。改めて感謝いたします。
       莫邦富さんのコラム http://diamond.jp/articles/-/12629
       小林さゆりさんのブログ http://pekin-media.jugem.jp/?eid=1176

 多くの感想が心を打ちましたが、そのうち、中国に9年間滞在し、去年日本に戻ったAさんの感想にとっても感銘を受けました。中国人の私は自省すべきです。それでは、Aさんの感想を紹介いたします。

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 いつもメルマガを楽しみに拝見しております。今回はとても興味深い話題だったので、突然ながらメールを差し上げました。

 わたしも日本に帰国してまもなく1年になります。いまは法律事務所で翻訳の仕事をしています。

 北京生活は9年近くにおよび、王さんの15年に比べれば短いのですが、日本で社会人生活はほとんど経験していないので、王さんとは反対に、日本の社会に溶け込む難しさ、とまどいを感じています。

 わたしはどちらかというと「コツコツと努力する」ほうが得意で「自己PR」が苦手な典型的な日本人タイプだと思うのですが、それでも9年間の中国生活でだいぶ「中国人らしく」なっていたようです(笑)。

 確かに、「日本式」というのは世界の中でもかなり特殊な方式で、それに慣れてしまうとグローバルなプラットフォームで戦っていくのは難しく、ましてや「真逆」ともいえる現在の中国においては、「マイナス」になってしまうのかもしれません。

 ただ、「コツコツと努力する」ことは大変重要なスキルで、実際、日本はこれによって世界から「信頼」を勝ち得てきました。(現在の日本は迷走していて、「コツコツと努力する」という日本の美徳がだんだん失われていることに危惧を覚えます)

 中国は競争が激しく、「努力」していればいつかは認められるというような甘い社会ではないということはわたしも十分承知していますが、それだけに、いまの中国には、「自己PR」ばかりに気をとられて、「真摯さ」や「努力」することをおろそかにする傾向が少しあるような気もします。

 わたしが中国で仕事をして感じたのは、確かに中国の人は概ね「自己PR」が上手いけど、やっぱり本当に優秀な人は、「コツコツと努力」しているということです。「自己PR」が上手いだけの人は、短期的には仕事がまわってきたとしても、最終的には評価されません。

 効率的に物事を考え、「自己PR」が得意な中国人と真摯に物事と向き合い、「コツコツと努力する」ことが得意な日本人。ある意味「真逆」の中国人と日本人がタッグを組んだら、まさに「互補優勢」、向うところ敵なしだと思っています。ただ、「真逆」の中国人と日本人に上手くタッグを組ませるのは難しい。そうしたときに架け橋になるのが、相手国での滞在経験が長い王さんやわたしの役割ではないでしょうか。

 長いメールになってしまってごめんなさい。お互い、日本(中国)での経歴を「プラス財産」にできるようがんばりましょう!

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第3号 「マイナス財産」

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      第3号 (2011年6月6日)
   ▼ 「マイナス財産」
   ▼ 日中間の「パイプ」を育成 塚本慶一教授
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▼「マイナス財産」

 「中国に戻ったから、なるべく日本とかかわらないほうがいいですよ」、早稲田大学大学院卒、十年前北京に戻った中国人弁護士Nさんがこう忠告してくれた。

 17歳から東京で青春を送り、十年間の滞在で身振りや話し方にも日本生活の名残を感じさせられる。こんなNさんが、なぜ!

 お酒を飲みながら、Nさんの話が続く。「北京に戻って、弁護士の資格を取った。中国から長く離れたこともあり、ことばと留学経験を生かして、日系企業を対象に業務を展開し、ライバルに差をつけようと思った」。だが、数年後に、「気が付いたら、日系企業の仕事は労務関係、日常の経営トラブル処理などのようなものばかりではないか。一方、欧米や中国企業についたライバルは資本市場融資、大規模で複雑な企業買収など大きい仕事ばかりをとっていた」。ライバルに差をつけるどころか、つけられたという。

 その後、Nさんが方向転換をし、慣れない融資、企業買収などの業務をゼロからスタートした。いまは日系企業のお客さんを半分まで減らしたが、「ライバルと比べ、まだ遅れている」。それで、「いまはできるだけ日本や日本企業とかかわらないようにしている」という。

 北京に戻ってから一年経った今、私もNさんのような苦い経験も感じはじめるようになった。たとえば、日本社会では目標を定め、中途半端にしないで、こつこつと最後まで努力すればよかったが、中国社会では、努力だけではなく、努力をする前から、上手に自己PRをしなければならい。いうのは簡単だが、中国でほぼ学生一筋で、日本で社会と接触した私にとっては、この理屈に気が付くだけで、たいへん苦労し、時間がかかった。

 この間、成人後に来日した外国人として初めて東証1部上場を果たし、いまは経済評論家として活躍をしている宋文洲さんと会った。「日本での長い経歴はマイナス財産にも、プラス財産にもなる可能性がある。マイナスをプラスにするのは、貴方の課題だ」と指導してくれた。

 そういう話を今度のメールマガジンに書きたいと、Nさんに話したところ、「読者には王さんの日本人友人が多いでしょう?大丈夫ですか」と、日本ならではのやさしさと思いやりで心配してくれた。目頭が熱くなり、「私たちのような特別な人生において感じたことですから、誤解をしないでくれると信じています」と答えた。

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▼ 日中間の「パイプ」を育成 塚本慶一教授

 「Aクラスの日中同時通訳者は日本と中国にはそれぞれ10人程度しかいない。将来、この分野では日本が中国から人を『輸入』するしかないだろう」と、日中同時通訳の第一人者、杏林大学の塚本慶一教授は言う。

 「以前は、中国と日本の間では政治、経済の交流が中心だったが、いまは社会、医学、芸能、科学から原発まで、あらゆる分野に広がっている。だが、Aクラスの英語同時通訳者が日本に約200人いるのと比べ、日中間の『パイプ』はあまりにも細すぎる」。

 同時通訳として30数年日中間のビジネス、政府間交渉などの最前線で活躍してきた塚本教授は、1947年に中国上海に生まれ、66年になってようやく医師の両親とともに日本に引き揚げた。そして、東京外国語大在学中に通訳の仕事を始め、試行錯誤を重ね技術を高めてきた。

 「日本での中国語教育は初級レベル向けのものは増えてきたが、上級レベル向けはまだ少ない」、後継者の育成を自分の責務と感じる塚本教授は、80年代初頭にサイマル・アカデミーで、2007年に杏林大学で中国語通訳コースを立ち上げた。

 「同時通訳者に必要なのは、両国の言葉だけではない。両国の文化に対する理解と経験が重要」なため、そのまま使える教科書がない。塚本教授は両国が発表した公式文書を使い、学生に常に本番を意識させ、訳の長さ、声の高さなど細かく指導する。

 杏林大学修士課程の通訳コースは3期生を迎えたが、毎期10人ほどの学生のうち、日本人は1人から2人程度で、残りは中国からの留学生だという。

 連休を利用し、客員教授として北京語言大学などで通訳講義も行っている塚本教授は、「通訳者は日本人であれ、中国人であれ、日中両国が共有する人材だ。将来は多くの中国人通訳者が日本で活躍する時代が来るかもしれない」と話している。

人民中国ネット版より、写真などをご覧になる方は下記アドレスまで。
http://www.peoplechina.com.cn/home/second/2011-06/02/content_362443.htm

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第2号 外国メディアの中国での「戦い」

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     第2号(2011年5月6日)
  ▼ 外国メディアの中国での「戦い」
  ▼ 東日本大震災復興のシナリオ
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▼ 外国メディアの中国での「戦い」

 中国語ホームページの総合ランキングでは、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)中国語版は32位で、「人民日報」(人民網)の40位を超えた。米Alexa社が統計した訪問者数、PV数、カバー数などのデータに基づき、算出された1733の中国語ホームページの比較結果に驚いた(4月21日までの過去三カ月間)。

 WSJ中国語版がスタートしたのはおそらく05年、小生が共同通信の中国語業務「共同網」にかかわってからのことだった。「後輩分」で、面白くなかったので一笑に付したことを覚えている。

 活字離れで苦闘する世界中のマスコミメディアが、「工場」から「市場」に転換しつつある中国への参入は盛んになってきた。WSJ、共同のほかに、ロイター、フィナンシャル・タイムズ(FT)、韓国の朝鮮日報、聯合ニュース、ロシア・ノーボスチ通信なども中国語のホームページをスタートさせた。

 そのうち、WSJ、ロイター、FTが断然トップ。わけがそれぞれのトップページを開けばわかる。中国にかかわるホット記事がずらりと並び、中国社会の動きと一致しているのだ。三社とも元々のグローバルな視点に加え、編集長を中国人にするなど、現地化が進んでいる。その結果、FT中国語の登録者数が150万人にのぼり、中国企業などから広告をとり、利益をあげる。関係者が「利益がFTグループ全体の20%程度を占めている」と明かす。そのためか、FT中国語の中国人編集長をFT本紙の副編集長にも抜擢した。

 一方、日本のマスコミでは、共同通信とNHKが中国語のホームページを運営している。日本人向けの記事をそのまま翻訳し、日本の動きが中心となっている。日本には大地震、政局大変動などよほど大きな出来事がなければ、一般読者に読まれていない。

 経済が活発となっている中国はリングとなり、各国の企業がプレーし、競争を繰り広げている。日本自動車メーカーの中国に出遅れ、中国市場における日本携帯電話の失敗などを連想すると、日本企業が中国を「工場」とする分野では成功しても、「市場」の中国では順調とはいえないようだ。その背景には共通するものがあるかもしれない。

 一度中国語の業務をスタートし、失敗した日本経済新聞は今年、中国語ホームページを再開し、編集長も中国人にするなど、工夫をしているそうだ。新しい道が開くのか、見てみたい。

参考:
・中国語ホームページ総合ランキング
http://www.iwebchoice.com/Html/ClassChannel.shtml
(米Alexa社の統計が精密的ではないが、これを超える科学的な統計も存在しないようです)

・各国マスコミ・メディアの中国語ホームページ↓
ウォール・ストリート・ジャーナル http://cn.wsj.com/gb/
フィナンシャル・タイムズ http://www.ftchinese.com/
ロイター http://cn.reuters.com/
共同通信 http://china.kyodonews.jp/
NHK http://www3.nhk.or.jp/nhkworld/chinese/top/index.html
聯合ニュース http://chinese.yonhapnews.co.kr/
韓国の朝鮮日報 http://chinese.chosun.com/
ロシア・ノーボスチ通信 http://rusnews.cn/

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▼ 東日本大震災復興のシナリオ

 昨年3月に定年退職した福島大学時代の恩師、鈴木浩先生(専門:地域計画および地域居住政策)が、大地震後に福島県の総合計画審議会の会長などとして、各地の現場や被災者の要望や要求を聞きながら、復旧・復興計画の作業に取り掛かっています。「世界中の原発のある地域にとって、先駆的な取り組みとしてモデルになるような取り組みができれば」と頑張っています。

 近頃、鈴木先生が東日本大震災復興支援ネットワークのブログを立ち上げました。「主要な目標は、この中で、未完の『復興のシナリオ』を提示していますが、それについて皆さんからのご意見をお寄せいただき、完成に近づけることです。復興の見通しがついたときがシナリオの完成、と肝に据えて、地域社会の再生や地域経済の再構築などをめざしたい」と言います。

 ぜひ皆さんのご意見をお寄せくださいますようにお願いします。

東日本大震災復興支援ネットワーク: http://hp-network.jimdo.com/

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第1号 北京で感じる福島原発放射能漏れの恐怖

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     第1号(2011年4月5日)
  ▼ 北京で感じる福島原発放射能漏れの恐怖
  ▼ 中国の「混乱」と「活力」
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▼ 北京で感じる福島原発放射能漏れの恐怖

 八年間も生活した福島が世界の関心を集めているが、原発の放射能漏れの恐怖が北京も襲うとは、とても想像できなかった。3月17日、北京など中国の都市では買占めがあり、スーパーの塩が売り切れとなっていた。北京にある日本料理店には「本店が扱っているマグロは日本から輸入したものではありません」との掲示もあった。

 「いまはたいへん苦しんでいる。中国にいる両親に電話をすると、日本は危険だ、すぐ戻って来いとばかり言われる。知っている情報が私より多いようだ。何回か言われるうちに、自分も不安になってしまった」。福島原発の放射能漏れの問題について、東京で生活している中国人の友人が、こう悩みを打ち明ける。

 だが、原発と60キロしか離れていない福島市在住の元大学教授は落ち着いている。「ガソリンがない、商店も閉店、原発の心配もまだ残っているが、安定に向かっている。外で騒いでいるほどではない」。同じ事件に対して、現場から離れれば離れるほど恐怖感は大きくなるのだ。

 原因はそれぞれ置かれている「情報空間」にあるようだ。今度の被災地とかなり離れている中国では、メディアから情報を得るしかない。だが、メディアの災害報道が被害状況を中心とするため、衝撃な画面を何回も繰り返して放送されている。事件発生地に関する知識も不足、客観的に全体像を把握するのが難しい。そのとき、ネットを通じてデマが飛び交い、恐怖感があおられるのだ。

 中国で反日デモが発生した時、ギョーザ事件の時、日本で起きていた恐怖感も同じであろうか。

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▼ 中国の「混乱」と「活力」

 三月に初めて中国の「両会」(全国政治協商会議と全国人民代表大会)を取材した。最も印象に残ったのは中国共産党中央党学校李君如元副校長をインタビューした時、社会管理強化に関する発言です。社会管理の強化については、「インターネット管理を強化」との見出しで報道する日本のメディアが多いだが、社会主義に市場経済を取り入れるような中国将来十年、二十年の行方に係わるものだ気がする。以下の李君如元副校長の話し。

李君如:

 改革開放後、中国社会は総体的に良い方向に発展しています。ただ一部の人々は、中国社会はすでに「混乱」のなかにあるとみている。たしかに混乱はありますが、「混乱」は、また「活力」とともににあるものです。活力にあふれた社会は、沈滞しきった社会よりも常に良いものです。

 けれど、この「活力」が伴う問題をうまく処理しなければ、「活」は「乱」となり、負の方向に向かいます。このとき、私たちは真剣に、中国社会の構造の変化、変化に対応する管理方式を研究する必要がある。

 中国社会の構造の変化は、主に単一的の社会から多元的な社会へ、静的な社会から流動的な社会へ、閉鎖または半閉鎖的な社会から開放された社会への変化です。個人の具体的ケースでいうと、「会社」のなかにいた人間から「社会」のなかにある人間となり、単一的利益の享受者が、多元的利益の享受者になったということです。

 中国社会にはこれほどに大きな変化が発生し、元来の管理方式と体制を守るだけでは、すでに不適応となっている。ある問題に関しては、コントロールが失われ、不具合が起き、矛盾の激化がみられます。これは社会管理理念、社会管理制度、社会管理方式と社会の変動、現実との間の矛盾、不適応の顕在化です。ですから、この時期に社会管理体制の創新を提案するのは、現在の中国社会の発展が必要とする重要な措置です。

全文は下記アドレスまで
http://www.peoplechina.com.cn/zhuanti/2011-03/06/content_338913.htm

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