やれやれ。

そんなに嫌わなくたって…
そう思うのは只の身勝手さなのだろうか?


たしかに色々とたくさん、思うところもあるのだろう。
それは、分かる。


ワカルケレド…


それは、コミュニケーションを拒絶されるほどのことなのかな?
それは、存在の否定をしたいってことなのかな?
それは、、、


いったいどうすれば良いんだろう?
どうすることも出来ないのは良く分かっているけれど…


果てさて。やれやれ。

沈黙、そして… part2

前回更新、「沈黙、そして…」の続きー。




「だからぁ、風俗嬢ですってばっ」
「…う、うん」
「どう、思います?」


どう?と聞かれても…あのさHanaちゃん、風俗って言っても色々あるんだよ?ハード系からソフト系、店舗型から派遣型まで、本当に多種多様なんだよ?極端な話、パチンコ屋さんだって広義の風俗店だしね。風営法のモトで営業をしている職種は、すべて風俗店なのだよ。まぁ、風営法からはみ出してる風俗店も多いけどさ…


「…うーん」
「最低だと思います?」
「いや、最低だとは思わないけどね、仕事は仕事だし…」
「じゃ、どう思います?」
「…うーん…ちなみにジャンルは?」
「えーと、ヘルス?って言うんですか?本番がないヤツ」
「そだね。ピンサロとかもあるけど、あれは違法な店が多いか…」
「それ知らないです」
「そっか、たぶん衛生的にはヘルスのほうが良いんじゃないかな?シャワーあるし」
「詳しいですねー、良く行くんですか!(笑)」
「や、良くは行かないけどさ、一応、男子だしね(笑)」


何か、明るいなー。重くなっても可笑しくない話題なのにね。Hanaちゃんのこういうサバサバしたトコは本当に好きだな、良い娘だ。何で彼氏が出来ないんだろ?ってそういう話じゃないぞ、しっかりするんだ、俺。そもそも、懸命に明るいフリをしているだけかもしれないワケだしさ。


「もう求人情報とかは見てるの?」
「ネットでなら少し見ました」
「そっか」
「で、どう思います?」


そっか、たぶんもう決意はしているんだな。じゃ、俺に何を求めているんだろう?背中を押して欲しいのかな?なんて答えればいーんだろ?…ワカランな、考えても答えのない問いかけだ。うーん…いや、風俗嬢なんて良くない!ってな話じゃないんだよな。ある意味必要な職業だと思うし、本人がしっかりと自分を保つことさえ出来れば倫理観なんてどーでも良いとさえ、個人的には思うし…それに、おシゴトとしては高給を取れるのは間違いないしね。きっと貯金もできることだろう。


「ねぇ、Hanaちゃん?」
「なんです?」
「俺とHanaちゃんは友達だよね?」
「ええ」
「だいぶ仲良しではあるけど、決して付き合ってるわけじゃないでしょ?」
「もちろん!」
「はっきり言うねー」
「少しはショック?」
「いや、まぁ、少しはね。」


少しだけ笑い合う。微妙な空気だ。努めて明るく振舞おうとしてるんだな、やっぱり。さて、どうしたものか…


「二人はあくまでも友達。だとするとね、俺にはHanaちゃんが風俗嬢であろうとカフェ店員であろうとデイトレーダーであろうと、あんまり関係ないんだよ」
「?」
「つまりね、どう?と聞かれても答えようがないんだ」


首を傾げて少し困った顔をしてるHanaちゃん。クエスチョンマークが沢山頭上に浮かんでるみたいだ。そりゃそうだろう。言ってる俺自身、何を伝えたいのかが良くワカランのだ。彼氏であれば、風俗嬢をしなくても良い方法を一緒に考え、その環境を共に作ることを提案できたりするのだろうけど、そうではないのだから自らの夢を現実に変える手段としてHanaちゃんがどんな職業選択をしたとしても、いったい俺に何が言えるのだろう?


「良く分かんないです」
「だろうね」
「どういうことなんです?」
「…うーん、つまり大雑把に言うと、Hanaちゃんが何の職業をしていたとしても、俺はHanaちゃんの友達だってことだよ」
「はしょり過ぎでしょ(笑)」
「そうかな?」
「ですよぉ、ちょっとズルイ…」


ズルイ、か…何か良く聞く言葉だな。いや、でもそうだね、その通りだ。自分の意見を言うことから逃げてるだけだ。それは分かってる。けどね、Hanaちゃん。何で生計を立てていようが、HanaちゃんがHanaちゃんでなくなるわけではないし、俺の知らないHanaちゃんが少し増えるだけのことだ。それはたぶん、付き合っていたとしても同じように俺は考えるだろう。何か少しオカシイのかな?俺って。


「分かりましたっ」
「へ?」
「言いたいことは分かんないけど、困らせてるのは分かりました」
「いや、困ってるわけじゃないけどね」
「いいんですよっ!もう、止めましょ?この話」


不意に、明るく話を終わらせたHanaちゃん。何となく沈黙が続く。テレビから笑い声が漏れる。二人ともテレビのほうを向いているけど、決して見ているわけじゃない。もっと、分かりやすい言葉で伝えることができなかったかな?と俺は考えていた。Hanaちゃんが何を想っていたのかは分からない。


どれくらい時が流れたのか、無言のままHanaちゃんは食器を片付け始めた。たぶんその後、俺が帰るまでに何かしら会話をしたはずなんだけど、良く覚えていない。食器を洗っているHanaちゃんの華奢な後姿だけが瞼に焼き付いている。その後姿に、俺は何か言うべきだったのだろうか?何と言えば良かったのだろう?


で、後日談。
その後、Hanaちゃんと何度かカフェへ行ったのだが、再びこの話がHanaちゃんから持ち上がることはなかった。俺も敢えて聞くつもりはない。友達でも、恋人でも、親子でも、兄弟でも、お互いが知らない姿があってもいーんじゃないかと俺は思う。職業とか何とか、そんな小さなことよりも大切なことって、他にも沢山あるわけだから。

沈黙、そして…

Hanaちゃんは、27歳でカフェで働いている。休日の楽しみもカフェ巡りという生粋のカフェ娘だ。ただ、カフェで働き始めたのは最近のことで、その前はお洒落なバーでくたびれ気味のオッサン相手に、明け方近くまでお酒を作る毎日だったらしい。


「いっつも始発で帰ってましたよぉ」


そう言いながら、Hanaちゃんは冷蔵庫から野菜を取り出してる。160センチ、44キロ、B60。だぶん間違いない。それにしても、あり得ないほどにウェストが細い後ろ姿。あばら骨とか内臓がどうなっているのか、一度解剖して見てみたいと思っている俺は少しアブノーマル?まぁそんなことは、どーでも良いや。


「始発で家に帰って、シャワー浴びて、朝焼け見ながら寝て、午後に起きて、またお店、みたいな毎日だったんですよぉ」


Hanaちゃんはいつでも俺に丁寧語を使う。タメグチでいーよと言っているんだが、職業病なのか歳上のヒトにはどうしても敬語を使ってしまうらしい。律儀な、しかし不器用な娘だ。


「そんな生活じゃ肌が荒れちゃうね」
「そうなんですよぉ、それが嫌で転職したっていうのもあるかも」
「曲がり角も近いしね」
「ひどーい!」


少し頬を膨らませながら、楽しそうに笑っている。少し意地悪だけれど、こうしたちょっとだけ失礼かもしれない質問を敢えて投げかけたりすると、その女の子の素の性格がチラッと覗けたりする。うん、やっぱり良い娘だね、Hanaちゃん。しかし、手元が止まることがないな。テキパキという言葉が、本当に良く似合う。


「おまたせっ」


お魚とお豆腐とサラダとお味噌汁。うん、注文通り。ありがとう。


「それじゃ今の仕事には満足なんだね」
「うーん、好きだし満足と言えばそうなんですけどねぇ」
「何か不満でもあるの?」
「なんて言うか、お給料が少ないんですよねぇ、仕方がないけど」
「バーのほうが稼げた、と」
「うん、稼げた」
「そっか、でもカフェで働くほうが自分に合ってるんでしょ?」
「合ってるっていうか、単純に好きなんですよ、カフェが」
「知ってるよ、それは」
「ですよねぇ、もう何ヶ所一緒に行きましたっけ?」
「…たぶん15、くらいかな?」
「えー意外と少ないですねぇ、もっと行ってるかと思ってた」
「俺はこの街にこんなに沢山のカフェがあることにビックリしてるよ」


箸を休めて少しだけ首を傾げてニッコリと笑う。この娘の癖だ。少し間違えれば嫌味な仕草になりかねないが、絶妙のバランスで男心に突き刺さる。この笑顔に騙されてしまう男子は多いんだろうな。いや、別に騙しているわけじゃないんだろうけど、この仕草をするHanaちゃんには何だかソフトフォーカスがかかっているように見えたりするから、何かを騙しているのかもしれない。


「いくらでもありますよぉ、カフェなんて」
「そう?」
「そうですよ」
「そっか」
「なんか、いっつもそうですねぇ」
「ん、なに?」
「あんまり人を否定したりしないですよね」
「そうかな?」
「うん、そう」
「そっか」
「またぁー」


声を出してクスクス笑ってる。いや、違うんだよ?、Hanaちゃん。俺はキミが感じているような、そんな人間じゃない。正直どうでもいいというか、どっちでもいーんだ、だから否定をしない。それは優しさでもなければ、謙虚さでもなくて、ただ単に自分がないだけなんだ。Hanaちゃんが考えているような立派な理由じゃないんだ。申し訳ないけど。


「あれ?なんの話をしてましたっけ?」
「カフェは好きだけど収入が少ないって話」
「そうそう、少ないんですよ、ほんとに」
「でも、こうやって暮らしていけるくらいは貰えるんでしょ?」
「うーん、でもね、将来お店を持ちたいんですよぉ、自分の」
「そうなんだ?」
「うん」
「そっか、生活は出来るけど開店資金を貯めるのは無理なんだね」
「相変わらず、理解が早いですねぇ」
「ん?馬鹿にしてる?」
「違いますよ、褒めてんですよ」
「そうなん?」
「ですよ、でもね、時々消化不良になったりもしますけど」
「そっか、気をつけるよ」
「何事もやり過ぎは良くないってことですよっ」


そして、クスクス笑っている。消化不良か…何か分かるよ、気持ちは。内容を理解してもらうことが目的じゃない時もあるだろうし、説明をしながら頭のなかを整理したい時もあるもんね。うん、気をつけるよ、なるべく。


「それでね、副業を考えてるんですよぉ」
「貯金のため?」
「そう」
「めぼしはあるの?」
「うふふ」


意味深に笑いながら目を伏せる。本当にこの娘は、細かな仕草のひとつひとつがいちいち女の子っぽい。天然なのか、計算高いのかは分からないけれど、もちろんキライではない。けど、女の子同士だと嫌われたりするのかな?


「なに?株とか?投資系?」
「資金を貯めたいのに、資金が必要なことをやれるわけないじゃないですか」
「まぁ、そだね」
「風俗嬢」
「へ?」




今、お仕事が忙しすぎてもう書けない・・・またしても続く、だ。

バタフライ、その2

前回更新、「バタフライ」の続き。行ってみよー


「ホントにキャッチじゃないの?」
「あたりまえでしょー」
「それなら、こんなオッサンに声かけなくてもいーじゃん」
「えーあんま変わらないでしょ?」
「たぶん、ひと回りくらい違うと思うよ」
「ウッソー、つまんないよ、その冗談」
「まぁ、つまんなくていーからさ、俺は今年で38になるんだよ」


巻き髪ギャルはしばし絶句。そりゃそうだ。38と言えば、中学生の娘がいても大丈夫な年齢だ。但し決して俺は童顔ではない。年相応の何かを身に付けないままで、この歳になってしまっただけだと思われる。恥ずべきコトだ。


「ホントにぃ?」
「ホントに」
「見えないねー、30歳くらいかと思った」
「またまた、ご冗談を」
「なにそのコトバ、ウケるー」


ハスキーボイスでケタケタ笑っている。何が可笑しいのか理解に苦しむが、女の子が笑う姿を見るのは久しぶりな気がする。何か良いな、こういうの…って違うぞ、当初の目的から何かがズレ始めている。ちなみに、ケタケタ笑いつつ巻き髪ギャルの右手は、俺の左ひざ付近にそっと置かれている。やっぱり何か距離感を間違えてるよ、この娘。


「そっか、大人のヒトなんだねー」
「大人かどうかは年齢じゃないでしょ」
「そうだねー、じゃあ大人ってなにー?」
「…難しい質問だな、たぶん経験値?」
「えー、良く分かんないよー」
「俺にも分からんよ」
「なにそれー」


またもやケタケタしてる。明るいな、いや無理して明るく振る舞ってるのかも知れない。それにしても、笑うたびに大きく開いた胸元に覗くバタフライ・タトゥーが揺れている。白い肌の上に舞うチョウチョ。悪くない、生きてるみたいだ。


「…実はあたしね、バツイチなんだよー」
「へぇ…」
「反応、薄っ」
「いや、正解のリアクションが分からないんだよ」
「なにそれー」
「意味なんかないよ」
「なんか、おかしー」
「だってさ、その若さでバツイチってことは、色々あったということでしょ?」
「そりゃーねー」
「だとすると、どんなことを言えば正解なのか、分からないじゃん」
「結構、気を使うヒトなんだねー」
「気を使ってるんじゃないよ、別に」
「ふーん…じゃあさ、離婚経験があるってことはあたしは大人?」
「どうだろ?それも良く分からんよ、俺には」
「分からないことばっかだね」
「そりゃそうだよ、この歳になっても分からんことのほうが多いよ」
「なんか大変だねー」


またもや、チョウチョが揺れる。もう完全に、キャッチなのかどうかとか、お引き取り願おうとか、そんな当初の目的は忘れてしまっていた。揺れるチョウチョを眺めながら、お酒を呑むのもなかなか良いもんだ。そんなことを考えている駄目なオッサンがいるだけだった。


「ねえ、聞きたい?」
「何を?」
「離婚した理由」
「いや、どっちでもいーよ」
「なにそれー」
「話したければ聞くし、話したくなければ聞かない」
「やっぱ、気を使うヒトなんだね−」
「だからそんなんじゃないって」
「普通、聞くってー」
「そうかな?」
「そうだよー、つまんなーい」
「じゃあ、話したいの」
「んー、そうでもないかなー」


揺れるチョウチョが悲しく見える。聞いて欲しいのだけれど、話したくはない。何となく気持ちは分かる。ヒトは色々なものを抱えながら生きている。巻き髪ギャルもそうなのだろうし、俺だってそうだ。それならそれで、この娘のように笑っていたほうが良いに決まっている。笑顔はそれだけで、何となくハッピーな気分を振りまく。それはそれで良いことなのかもしれない。


それから朝まで、生きてるみたいに揺れるバタフライ・タトゥーを眺めながら、大人とは何だろう?と真剣に考えた夜だった。本当に大人って何だろう?気がつけばなっているものなのか、意識的になるものなのか、環境がそうさせるものなのか、果たして…


そうそう結局、離婚理由は分からずじまい。今になって少しだけ気になっている。

バタフライ

前回の続きを書こうかと思ってたんだけど、ちょっと書くのがツライので小休止。なので、先日の夜の出来事を。


久しぶりに少しだけまとまったお休みを会社からもらうことになったその日、フライング気味で退社したその足で羽田へと向かった。沖縄への高飛びを目論んでいた。しかし失敗した。プロ野球のキャンプシーズンだという事を完全に忘れていた。


思いつきだけの行動は空回りしやすい。そのことは経験上良く分かっていたはずなのに、この有り様。何ヶ月かぶりの休みらしい休みだというのに、スタートから不吉過ぎる。そんな事を考えつつも、仕方がないから朝まで呑んだくれることに決める。元々は全てを忘れてリラックスする事が、このお休みの目的なわけだから、これはこれで結果オーライだ。


土地勘のある街まで戻り、初見のダーツバーに入ってみる。ダーツマシンが2台、テーブル席が3つ、それから8人がけのカウンターバー。客層は仕事帰りのサラリーマンがメイン。ハシャギ過ぎる客はいない感じの落ち着いた雰囲気の店内。良かった。これならウンザリしたりせずに、ひとりで気兼ねなく呑める。


カウンター席の左から3番目、齢28歳(推定)の女子バーテンダー正面に陣取る事にする。当座の暇つぶし相手を確保。ちなみにダーツが好きなわけじゃない。ただダーツバーという空間は、ひとりで酒を呑むのに程よく適している。それだけがチョイスの理由。


シャープな顎のラインとロングな黒髪が特徴的な女子バーテンダーと、他愛のない世間話をしながら注文完了。泡盛とピザと豆腐のサラダ。何処のクニやねんというような組み合わせだけれど、まあしゃーない。泡盛があっただけでも良しとしなければ。そうそう、この女子バーテンダー、将来自分のお店を持つ事が目標だそうだ。夢、とは言わず、目標と表現したあたりに、この娘のインテリジェンスを感じて高感度アップ。少しの間、和食談義に華が咲く。


「こんばんは」


女子バーテンダーが忙しくオシゴトに戻っていった頃、不意に左サイドから声をかけられる。女の声だ、しかも中村あゆみ系のハスキーボイスだ。この状況は大抵2パターンに分類される。純粋に逆ナンをされているか、もしくは別のヤヴァイお店の女の子がキャッチしにきているか。俺の場合はもちろん、後者のことである確立が90%を超えているが…


不思議なことに、繁華街では盛りに盛ったキャバ嬢やら怪しげなマッサージ嬢とかに、良くキャッチされそうになる。何でだろう?そんなオーラが出ているのか、俺は。ってどんなオーラ?誰か教えてください。


「こんばんは」
「俺?」
「そう、こんばんは」
「うん、こんばんは」


少しだけ間の抜けた挨拶を交わす。身長157センチ、体重50キロ、E65のボディスペック。いや、当てずっぽうだけど俺の女子スペックチェッカーの精度はかなり高いから、誤差はほとんどないハズ。生活上は何の役にも立たないけれど、俺の数少ない特技でもある。


「で、何だろ?」
「隣、座ってもいい?」


いきなりタメグチ。しかも俺の返事を待たずに着席完了。茶髪の巻き髪ロングヘア、濃ゆいアイメイク、うっすらチーク、けど色は白い。何となく疲れた肌をしているけど25歳前後だろう。いかにもな雰囲気をまとったギャルな女の子だ。と、ちょっと待て。それは反則だ。その服、胸元が開き過ぎでしょ?左の胸に彫られたバタフライ・タトゥーが丸見えじゃないか。外は雪混じりの天気だというのに、何故?ふぅ、ほぼキャッチ決定だな。あとはどうあしらってご退席願うか、たぶん俺は今試されている。


「えっと、キャッチかな?」
「??」
「俺はひとりで呑むのが好きだから、女の子が居るお店には行かないよ?」
「えー、そんな風に見える?」
「失礼かもしれないけど、見える」
「ありえなーい、ちょっと失礼過ぎるってー(笑)」


とここでファーストコンタクト。距離感を間違えてる気がする。もう完全にキャッチだろう。もしくは仕事帰りの暇なキャバ嬢か?何にせよ、俺は騙されん。泡盛のオカワリを注文しつつ、臨戦態勢を整えた。




ゴメン、疲れたからこの話も続くってことで…

終わりは始まり。

この一年、いや正確に言えば約六年間、色んな事があった。その様々な出来事の概要を書き残そうと思う。本当は、今の感情を何らかの作品として昇華できるのがベストなんだろうけど、今の俺にはその力が足りない。だから、これから書く事はあくまでもメモ。ノンフィクションな只のメモ。


七年前、純度100%のメンヘルな女の子と知り合い、そのあまりにも無防備で剥き出しな感情の姿に惹かれ、病気なのだからそのうち治るだろうと、本当に気軽な気持ちで付き合うことになった。彼女が抱えていた問題は、とても複雑で根が深く出口が見えないものだったんだけれど、何とか助けてあげたいと俺の持てる時間と能力のすべてを全力で注いだ。


三度の自殺未遂と三度の浮気を眼の前に突きつけられたりもしたけれど、それでも、信じる事を諦めずに暮らしていた。日々、暴力と罵声を浴びせられ続けながら、この状況は俺の力が足りないせいだと、本気で考えていた。それは、何も出来ない無力な自分を、圧倒的に自覚するだけの毎日でもあった。


最終的に、自分自身が壊れてゆくのにすら、気がつく事が出来なくなっていた。もう限界だ、何度もそう思い、そして何度も思い直し、その度に自分が分からなくなっていった。この娘を助けたいのか?それとも、この状況から逃げたしたいだけなのか?彼女の病気の回復の果てにあるものが何なのかさえ、分からなくなっていた。


その頃は、会社へ行き忙しく仕事をしている時だけが、今を忘れられる時間だった。だから仕事ばっかりしてた。会社のヒトには、モチベーションの高い仕事人間に見えていたのかもしれないけれど、俺はただ、何も考えたくなかっただけだ。現実から逃れたかっただけだった。けれど、そんな生活は長くは続かない。一年半で破綻していた。それは、今だからこそ分かる事だけれど…


破綻している事にすら気がつけないまま、こんな暮らしはもう続けられないということだけを毎日考えていた。どうしたら此処から逃れる事ができるのだろうかと、そればかりを考えていた。問題そのものから眼を逸らし、逃げ出す事ばかりを考えていた。もはや自分が何を望んでいるのか?というような疑問すら、俺の頭に浮かぶ事はなくなっていた。


けれど彼女を見捨てるという選択が、どうしても出来なかった。ここで俺が見捨てたら、彼女は居場所を失い、自ら命を絶ってしまうのがリアルに想像できたから。自分の選択がヒトの命を左右するという現実。自分の保身とヒトを助ける事を天秤にかける行為。それはとても傲慢で偽善的な考えでもあるんだけどね。


その頃から、たぶん俺はおかしくなっていたんだと思う。まず身体に変調が現れた。頭痛、微熱、吐き気、しかもそれは慢性的に。確かに昔から風邪をひきやすい自分ではあったけれど、明らかに何かがおかしかった。唯一の逃避の手段である会社へ行く事ですら苦痛になっていた。会社に迷惑をかけてしまう機会が増え始め、さすがにこれはマズいだろうと俺自身、自ら病院へ行く事にした。


けれど、どの医者もみんな同じだった。薬の処方と休みなさいという言葉。そこには、何の答えも解決策もなかった。まあ、当たり前だよね。医者は病気を治す事だけが仕事であり、俺が抱えている問題と状況を変える事は出来ないんだから。けれど、途方に暮れそうになったのは事実。休めと言うけれど、何処でどうやって休めば良いの?休めという事は、彼女を見捨てろということと同じ意味だろう?


結局、問題解決の可能性すら見いだせないまま、俺は病院へ行く事をヤメた。その時に処方された薬も飲む事はなかった。向精神薬睡眠薬を飲み続けたヒトが、どうなるのかを近くで見ていたから。いや、誤解のないように説明するけど、薬自体は悪くない。ほとんどのヒトの場合、ちゃんと回復に向かうと思う。


ただ彼女の場合、自分の言った事、やってしまった事、それらの記憶が翌日にはほとんど飛んでしまう状態だった。薬の強さや体質に因る部分が大きかったのだろうけど、どう考えてもマトモじゃないと思えた。忘れてしまうから、反省も出来ず、また同じ事を繰り返す。彼女自身も、それについては本当に悩んでいたようだけれど…完全なる悪循環。それら負のサイクルから逃れるすべを探すのを、俺はもう諦めようとしていた。


続く。