VICENZA 薔薇の方位/幾何学の庭へ

北川建次新作展へ。

http://moriokashoten.com/?pid=56064013
茅場町亀島川沿い霊岸橋近くの古い戦前のビル三階とある。橋のところで右折し前方に目を凝らしたのだが左側にまさに古めかしい戦前然とした建築物がある。入り口を入り懐かしい階段を、というよりもとより戦前を知らないこどもではある。硝子の嵌った扉の一室に森岡書店の表示。実験室の扉を開けるように。
コラージュ作品と箱形に仕立てられた立体作品が壁に机に整然と並ぶ。昭和初期の建築が醸す空間と作品群が完全に調和し、硬質な作品世界ははじめてなのに懐かしい。ざらりとした質感、ヒッポグリフの翼(アングルの作品からの引用)が配されたコラージュ作品に暫し魅入る。

乗換駅を地上に出て、お堀沿いの桜の蕾も膨らみをみせる北の丸公園に立ち寄りたい。山茱萸(サンシュユ)夜叉五倍子(ヤシャブシ)土佐水木(トサミズキ)...見事な満天星(ドウダンツツジ)の刈り込みに無数の星がぶら下がるのは桜の終ったころだろうか。

函と球体//眼-命のスイッチ

解読! アルキメデス写本

解読! アルキメデス写本

文字と数学、書物と歴史、形と像、見えないことと見えること、読むこと解ること通じること---アルキメデスの知恵の環を解く知恵の鍵。
この本、書物とは、そして知とは、という問いを紀元前から放物線を描いて投げてくる、そういう趣向なんでしょうか。きれいな放物線とはいえない数奇な軌跡を描き現在に辿り着いた書物は凄いことになっておりました...
はえてして誤解や迫害の元ともなる危険なものであることは歴史が知っている。或いは、理解されそうもないことを知った人は何をどのように誰に伝え得るのだろう。
大文字しか使わず、単語を区切らず、直線 正方形 長方形 円などの語を用いることなく記されたアルキメデスの文は
ユエニカッパシータガシータイプシロンニタイスルヨウニシータイプシロンイプシロンガンマニタイスルユエニカッパデルタジョウガカッパシータデルタニヨッテニタイスルヨウニアルファガンマジョウガアルファイプシロン...
『方法』の宛先はエラトステネス、天文学者にして数学者でありアレクサンドリア図書館館長でもある友人に宛てた暗号にも似た文字の羅列は必然的にアレクサンドリア図書館へ、やがて災禍を免れコンスタンチノープルに渡り羊皮紙に書きかえられ、さらに渡った修道院

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

カンブリア紀の生命の爆発は何に由来するのか...生物の身体を彩る色彩-回折格子、見られるもの-見るもの、光は視界を開き世界は姿を現し、生命は目を醒ました。

『眼の誕生』のタイトルは決定的でもあるが、演繹的にこの説に辿りついたというのが凄い。
三葉虫の複眼、カメラ・オブスキュラと同じ仕組みのオウムガイの窩眼、ホタテガイの凸面鏡を備えた反射眼、巻貝のカメラ眼、精巧な人類の眼、あらゆる光学装置の宝庫のような生命の多様な眼。そして、これら研究を可能にした光学解析装置の眼。

DRUMMING//蝸牛の恍惚

稀有な、音楽的体験。

冬の夜は早い。夜道をバスは渋谷を抜けて東京オペラ・シティへ、クロークにコートを預け、はやばやと会場いり。3階サイドのごく前方の、ステージを真上から見下ろす席。週も開けて間もない、仕事を終えて駆けつける人が多いのだろうか、まだ席はまばらに人が散らばるだけ、年齢層は若いのや白髪の女性などから、徐々に席が埋まり始めると層が厚いのは同年代か...。ステージに並ぶマリンバやドラム、すこし身を乗り出せば、ゲスト出演のスティーブ・ライヒ氏もおがめなくはなさそう。開演の時刻にはほぼ席は埋まった。
拍手...トレードマークの帽子と、もうひとりの男が肩を組んで登場、拍手は止み、
1曲目のクラッピング・ミュージック(1972)
手を叩く二人のリズムが奏でる二本のリズム、並び、並走し、接近し、交わりそしてまた、並奏される音楽。
2曲目、ナゴヤマリンバ(1994)
マリンバの音には高揚がある、リズムが奏でるうたがある。
3曲目、マレット楽器、声とオルガンのための音楽(1973)
曲の構成、変化する瞬間を掴まえ(られ)る快感。
ここまでで40分。20分の休憩を挟み後半は55分間休みなしのDRUMMINGが待っている。席を立って下に下りてもいいけれど今日は上から眺めていよう。何か物販を買う人、飲み物を飲む人、アイスクリームを食べながらお父さんのほうに走って行く小さな外国人の女の子、知人友人を見つける人も。
4曲目ドラミング[全曲](1970-71)
ミニマルミュージックの醍醐味を聴く。音楽は、全身で覚える聴覚的体験だ。聴覚はある極みで視覚と変わらない光を聴きとる。視えないものが視えるものに届こうとする瞬間。
素晴らしい演奏がなり止むと、何かを迎えるような拍手、コリン・カリー・グループの演奏をライヒ氏は後方の客席で聴いていたらしい。ステージに上り、スタンディング・オベーション、なり止まぬ拍手...
はぁ...よかった。
https://www.operacity.jp/concert/calendar/details/121204.php

迷はぬ月に 連れてゆかん

前日の雨も朝には晴れ渡り、新宿御苑を通り抜けて能楽堂に至るコース。
新宿門から入る。菊花壇が設えられている為か午前中から人出は多いようだ。薔薇はまだ咲いているだろうか。芝生でスケッチをするグループ、散歩する老夫婦、どんぐりを拾う幼稚園児。遠めにも鮮やかな花の色が見えた。四角い花壇の両脇を囲むプラタナスの並木はあついくらいの陽射しを遮ってくれそうだ。ずらり並んだベンチに腰掛ける人もいない。一面に降り敷いた大きな大きな落ち葉が立派。なかほどのベンチに腰掛けると行列する金色の円錐は光りながらかさかさと秋の音色を立てる。上のほうからくるくると旋回しながら落ちてくる茶色く朽ちた枯れ葉。

柘植の仕切りを抜けて薔薇園を見て回る。まだ咲いている薄いピンク、黄色、紅薔薇白薔薇も。地面にたくさん終った花も落ちている。Romeoは大きく花を開くと印象は違って、すこし迂闊な感じ。黒味を帯びた蕾は変わらない。

ひとびとが足早に向っていた菊花壇にも足を伸ばすべきだろうか?やや、ルートを戻るように池の端を日本庭園の方向に向う。池の浅瀬で雀たちが盛大に水浴びをしている。亀は動じず甲羅を天日に干している。

懸崖作り菊、自然を技巧的に模したさま。
伊勢菊の縮れた花弁は和菓子のようにほろほろと零れ、丁子菊は丸い花のつくりが愛らしい、嵯峨菊の素っ気無いふうを装った花弁の開きがとても気になる。流儀というふうな菊の並べ方が渋い。
なんとおおきな、一株から五百以上の花を見事な半円に咲かせた大作り菊「白孔雀」、紫のも。
           菊の世界、奥が深いです…

    千駄ヶ谷口から出て国立能楽堂へ、
狂言「蟹山伏」、能「遊行柳」

秋津洲の、国々廻る法の道
国々廻る法の道、迷わぬ月も光添ふ
心の奥を白河の関路と聞けば秋風も
立つ夕霧のいづくにか今宵は宿を旅衣
日も夕暮れになりにけり
日も夕暮れになりにけり

さてはこれが名木の柳にて候ひけるかや
げに川岸も水絶えて、川沿ひ柳朽ち残る
老木はそれとも見えわかず、蔦のみ這ひかかり
青苔梢を埋む有様、誠に星霜年ふりたり
さていつの世よりの名木やらん、委しく語り給ふべし

昔の人の申し置きそは、鳥羽院の北面佐藤兵衛憲清出家し、西行と聞こえし歌人、この国に下り給ひしが、頃は水無月半ばなるに、この川岸の木の下に、暫し立ち寄り給ひつつ、一首を詠じ給ひしなり

謂はれを聞けば面白や、さてさて西行上人の
詠歌はいづれの言の葉やらん

道の辺に清水流るる柳蔭、暫しとてこそ立ちとまり
涼みとる言の葉の、末の世々までも
残る老木は懐かしや、かくて老人上人の
朽木の柳の古塚に、寄るかと見えて失せにけり
寄るかと見えて失せにけり

不思議やさては朽木の柳の、我に言葉を交はしけるとよ

念ひの珠の数々に、念ひの珠の数々に
御法をなして称名の声うち添ふる初夜の鐘
月も曇らぬ夜もすがら、露をかたしく袂かな
露をかたしく袂かな

迷はぬ月に 連れてゆかん

柳の精(西行)が舞う序の舞。
太鼓、鼓、笛の音のリズムはいつしか大地の心音のように心地よく響き、金色の髪を垂らした柳の化身が舞う能舞台をあかるい月の光が照らすように。

秋//薔薇花壇

秋晴れ、庭園に行かなければ...
新宿御苑

青い空に飛行機が白い斜線を引いていく。芝生はふかふか...敷物も持参すればよかった。布のサブバッグを敷いて本日の一冊ピーター・アトキンス『元素の王国』は元素表をサバンナ、谷、渓谷、平原、丘陵、山脈を成す景観として類推の王国を旅していくという趣向。

たとえば硫黄――過去と地獄を象徴する元素――の、見慣れた鮮やかな黄色の一画がある。その隣のセレンは金属的なグレーからルビーの真紅にまで季節とともに変化する。――われわれは一定の元素の多様なかたち(実際は同位体と呼ばれる)――ここでは寓意的に季節と呼ぶ。

葉緑素の中核には「目」のようにマグネシウム原子が一個ある。葉緑素はそのマグネシウムの目を太陽のほうに向け、日光のエネルギーをとらえる。この元素がなければ、葉緑素の目は見えなくなり、光合成は起こらず、われわれが知っているような生命は存在しないだろう。

元素の王国 (サイエンス・マスターズ)

元素の王国 (サイエンス・マスターズ)

見渡す限りの緑、ぎっしり詰まった「目」が太陽のほうを向いている。

色とりどりの秋の落し物。
薔薇花壇の前の芝生は広く極上のふかふか、もったいないので暫く座って風に運ばれた落し物を観察、金茶に色づいた小さな葉のつけ根にひとつずつ小さな袋をつけたもの、袋には小さな種が幾つ入っているのでしょう。自然がつくった色も形も美しい。

遠目に見えた薔薇花壇は四角く縁取った額縁を薔薇で飾り、丁寧に柘植で四角く囲んだ意匠。

イングリッシュ・ローズの甘い色

紅薔薇

白薔薇

Romeo...
黒く紅く固く結んだ蕾が素敵

薔薇の額縁で縁取られた中の四角には円盤に仕立てた柘植で囲んだ高さのある植物。二つ並ぶ額縁の両側をプラタナスが整然と並ぶフランス式庭園
嗚呼...庭は素晴らしい。

一日の太陽が摩天楼の側面を照らしながら西に沈んでいく。
クライスラービル、(見たことないけど)...

落ち葉を踏んで、そろそろ帰りましょう。

理研 RIBF

理研(理化学研究所)の仁科加速器研究センターRIBF(RIビームファクトリー)の見学会に行ってきた。

鉄塊でできた厚い扉。液体ヘリウムの超低音を利用した超伝導の技術により実現した装置。原子核を光速の70%の速度まで回転させぶつけることにより未知の原子核の構造を明らかにできるという。目に見えないものを見る為の。

仁科加速器研究センターにあるレゴで模した核図表<ハイゼンベルクの谷>、お土産に頂いたポスターは解説も解りやすく、じわじわくる。

夥しい数の不安定核の「存在」。超新星爆発(恒星の死)の際に放出される大量の中性子と陽子との結合の多くは数的不均衡の為に崩壊を免れ得ない。それら不安定な核も自らを維持する様々な形状をとるという。
「みかん型の核や、バナナ型の核もあるんですね。」
核は球体である―(安定する)核は球体である

何だか、地球というのは過酷な宇宙の歴史を掻い潜ってきた老残兵か...それとも幾多の困難を華々しく勝利した貴公子...さあ、どちら?
赤赤と燃えるあたたかな太陽は無邪気な水素の核融合だ。邪気無く燃える恒星に養われる宇宙の塵をあつめた惑星で、宇宙のはじまりから終りまで全てを知りたい記述したい科学者たちの夢の装置。

宇宙核物理学入門―元素に刻まれたビッグバンの証拠 (ブルーバックス)

宇宙核物理学入門―元素に刻まれたビッグバンの証拠 (ブルーバックス)

どのプロセスでも安定核が次々に作られていったのではなく、不安定核が重要な働きをしている。恒星中での燃焼しかり、rp過程やR過程においては、安定線から遠く離れた不安定核が次々と作られていく。プロセスの終盤、不安定核がベータ崩壊して安定核ができるのである。

図書館で借りておさらい。正にRIBF計画中の10年前に書かれた研究者の地道な研究の中に現れるおかしな数値、導き出される意外な真実。疑問という知に至る扉。