再開発に揺れる目黒区美術館に行ってきました。2028 年に解体される計画があるそうです。まだ築 35 年だそうで、もったいないことです。たった 35 年しか使っていないものを取り壊す計画が立案されてしまい、もしこのまま実行されたらこれより不便な建物が建って、それは 30 年も使用されないかもしれないですね。この日、この美術館に行ったのはまったくの偶然だったのですけど、「あ、ここがこないだニュースで見た……」と思いました。そういう資本主義のエンジンに対して抵抗できる政治をつくれたらなあ。
この再開発のことが念頭にあったわけではなく、偶然手にしたチラシを見て「刺繍……?」と驚いて行ったのです。チラシを見たら「あ、あの目黒区美術館だ」と。
これが刺繍なんですよ。
これも、
これも、
みんな刺繍なんです。描いたんじゃなくて、縫ったんですって。
「刺繍少年フォーエバー」というタイトルはまるで追悼の趣ですが、ご本人はお元気で目黒区在住で、この日会場にお見えでした。
「これ、縫ったんだ」とびっくりしたレシート、木の葉、吸い殻などが落ちているところ。
ウィリアム・モリスの『民衆の芸術』もありました。
ウィリアム・モリスが牧師ジョージ・ベイントンに宛てた長い手紙の一節も縫われていました。
(a) 略奪者階級が個人的な利益を守ること(われわれが競争と呼ぶもの)と、(b) 富裕階級が労働者を強いて無駄に働かせることによっていま生じている労働力の浪費は終わりを迎えるだろう。(川端秀雄訳)
すべての仕事にやりがいがあり、芸術的であれば、労働者は無駄な労働から解放されるというウィリアム・モリスの主たる理論の一部です。
こちらはロバート・オーウェンによる有名なスローガン「仕事に 8 時間、やりたいことに 8 時間、休息に 8 時間」の言葉を縫い込んだインスタレーション。
労働について、格差について、資本主義について、こんな考えこみ方があったんですねえ。
特に好きなのは、このシリーズです。
インクジェットプリントに手縫いの布部分だけ刺繍するシリーズ。これらをこうした環境で縫っているそうです。
ミシンじゃなくて手で縫った方が早いと思うんですよね。現に縫っているところを撮影した映像もあって、それを見ると、ミシンからはいかにも工業製品らしい音がしているのに、刺繍絵はほんとにじわじわとしか出来ていかず、その時間まるごと全部、考えることに費やしているんですね。
おもしろかったです。6 月 9 日まで。おすすめです!
🎨 おしまい 🏠