日々の泡。

popholic diary

2024年3月9日~15日の話。

2024/3/9

あんバタートーストの朝食。あんこはいつ食べても美味しい。朝のうち少し日記を書いて、京都へ。アップリンク京都にて塙宜之監督「漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々」を観る。浅草、東洋館を活動拠点とする漫才協会の個性あり過ぎる芸人たちを追うドキュメンタリー。事故で右腕を無くしながらもリハビリに励み芸人復帰を果たす大空遊平は飄々としながらも芸人としてしか生きられない、生きていくしかない男のかっこ悪いかっこよさがある。離婚後も同居し同じ布団で寝、コンビとして舞台に立つはまこ・テラコのカラッとした明るさには芸人の逞しさがある。会費だけを払い続けながら誰もその存在を知らない謎の芸人。薄暗い団地の踊り場で塙監督と対話するもさらに謎が謎を呼ぶ展開で笑った。若手・ドルフィンソングは漫才協会入りのきっかけとなった水道橋博士主催のイベントを配信で観ていたので頑張ってるなーという感じで微笑ましい。なにより二人をあのチャーミングな声で紹介するキョンキョンのナレーションが素晴らしい。そのほか映画に登場する面々は今どきの人気芸人でもないし、そのほとんどはここで終わっていくであろう芸人だ。諦めが悪く、情けなく、かっこ悪い。でもそれが舞台の上ではすべてうらっ返る。しぶとく、たくましく、強く、明るく、笑い飛ばす。泣き笑いの傑作ドキュメントであった。

地下鉄で二条まで移動。はなまるうどんでかけうどんと竹輪天をさっと食べて本日の2本目。TOHOシネマズ二条で金子修介監督「ゴールド・ボーイ」を観る。完全にノーマークだったのだが、町山智浩さんはじめ多くの見巧者が激賞していたこともあり駆けつける。沖縄で大きく事業を手掛ける実業家の婿養子、東昇。事故を装いまんまと義父母を殺害。完全犯罪に思われたが、偶然殺害現場をカメラに収めた朝陽たち中学生が現れ…。原作は中国のベストセラー小説でドラマ化もされている作品。舞台を沖縄に移したリメイク作。いや、これがもうとてつもなく面白かった!何を言ってもネタバレになるので何も言えないが、天才的殺人者のサイコパス男と中学生。繰り広げられる邪悪な頭脳戦と心理戦。二転、三転の上に決着ついたと思ったら、そこからさらに粘り腰でダメ押しの展開へ。職人、金子修介監督が息の詰まるサイコパス対決に、淡い青春ジュブナイルな味わいをまぶし、切なくも忘れえぬ一夏を描く。サイコパス野郎を演じるのは岡田将生。あまりに美しい顔立ちが心の中の真っ暗な空洞を覆い隠し、得体のしれない不気味さと怪しさを際立たせる。絶品。対峙する少年を演じる羽村仁成が無垢な純粋さの裏側にさらにどっぷりと深い闇を漂わせる。とにかく見て!としかない面白さ。観たら絶対、面白いから見て!と誰かに勧めたくなる。見事な大傑作!一押しです。

夜はTVで「R-1」街裏ぴんく優勝。前に爆笑問題カーボーイでホラ漫談披露してたのがめちゃくちゃ面白かったので喜ばしい。

2024/3/10

玉子とチーズのホットサンドの朝食。いつものごとく妻と買い物行ってあとはぼんやり。午後の映画劇場はアマプラでロジャー・ロス・ウィリアムズ監督「カサンドロ リング上のドラァグクイーン」。メキシコのプロレス・ルチャリブレのスターレスラー、カサンドロの伝記映画。差別的な地でゲイとして生きることの困難さを身をもって味わいながらも、自分のままでいたいと願うカサンドロ。認めてもらいたいと願う父からは拒絶され、唯一の理解者である母も死んでしまう。それでも彼はルチャリブレに命を懸け、闘うことで自分自身の誇りを取り戻していく。エキソティコとよばれ通常は悪役や笑われ役になってしまうゲイのレスラーでありながら、華麗な技で人々の人気を集めていく。やがて国民的なルチャリブレの大スター、エル・サントとの対戦で多くの人々の心をつかみスターレスラーとして輝くのだ。まさに「ドーランの下に涙のカサンドロ」ってな物語であった。

2024/3/11

今日も今日とて外回り。遅めのランチは松のやでロースかつ定食。590円で食べられる美味しいとんかつ。夢はとんかつを裏切らない。とんかつは夢を裏切らない。

2024/3/12

雨の中、今日も外回り。会社に戻ってからもひたすら仕事してあっという間に退社時間。最近はもう早く寝たいという感じで11時には寝てしまう。

2024/3/14

大阪営業。いつもランチの時間を逃してしまう。結局3時頃に目に入った店でチキンカツカレーを食べる。いや、美味しかったしコスパもいいし別にいいんだけど、なんかもうちょっと丁寧にランチと向き合うべきだったかも。いや、十分に美味しかったんだけど。

2024/3/15

仕事の後、野洲まで出て珍しく飲み。以前勤めていた会社のT先輩、後輩のI君から誘われ、今から20数年前に毎日のように飲んでいた駅前の居酒屋へ。転職してはや20年とちょっと。以前勤めていた会社は新卒で入社して丸10年働いた。数年前にその会社は潰れてTさんもI君もそれぞれ違う会社の所属となっている。当時は皆30代だったが、今は全員50代。転職後、10年ほど前に一度会ったっきりだったので久々の再会。TさんI君とともに働いていた頃は朝8時には仕事をはじめ、夜10時までノンストップ。そのままこの居酒屋で12時まで飲んで、さらに近所のラウンジで深夜2時まで。そこから帰宅し、次の日も8時には働いているという…ま、それで精神的にも肉体的にもクタクタになり、転職を決心するわけだけど。とにかくハードコアな時代でよく働いたし、よく遊んだ。バイタリティに溢れお酒大好きで最後必ず説教酒になるT先輩にどれだけ説教されたかというのも今となってはいい想い出。飲みの誘いをいかに断るかをI君と相談してたんすよ!なんて話も笑って話せる。しかしそれも含めてあの地獄とも言えるような日々、共に過ごした仲間たちとの濃厚な日々は確かにあれはあれで「青春」だった。今も仕事の愚痴を書いてるけど、あの頃に比べたらなんてことない。余裕っすよ、ホントは。ビールを浴びるように飲んでいたT先輩も大病をして随分酒量が減ったようだ。当時は一番の若手で独身、恋に翻弄されていたI君もいまや2児の父親。僕もまぁそれなりに頑張ってきた。20年分の募る話は尽きることなく気が付けば4時間。またの再会を約束して終電で大津まで。いい夜だった。

2024年3月2日~8日の話。

2024/3/2

さてバタバタな2月が終わり3月へ。

友達の結婚式へ行く娘を駅まで送った後、京都まで出る。三条の「なか卯」で久々に親子丼。腹ごしらえを済ませMOVIX京都で映画。イ・サンヨン監督「犯罪都市 NO WAY OUT」観る。マ・ドンソクが剛腕刑事マ・ソクトを演じる痛快暴力アクションエンタメの第三弾。説明不要のマ・ドンソク映画。今回の悪役はイ・ジュニョク演じるイケメン悪徳刑事と青木崇高演じる日本から送り込まれた最強の殺し屋。悪役が強ければ強いほどマ・ドンソクの腕力が輝く構造。もはや物語に意味なんかありません。ただただ悪人をマ・ドンソクがぶっ飛ばす爽快感で2時間を突っ走る。青木崇高も日本刀振り回しての快演。これ役者冥利に尽きるだろうな。あのマ・ドンソクと殴り合いできるなんて楽しくて楽しくてしょうがないだろう。それが映画として残るんだから。あと個人的には前2作で班長を演じたチェ・グイファとの軽妙なやり取りが好きだったで、今回は部署が変わってチェ・グイファ不在なのが残念。その代わりと言っては何だがマ・ドンソクとコンビを組むのがキム・ミンジェ韓国映画ファンならお馴染みの顔でマ・ドンソクとの掛け合いも楽しい。暴力アクション同様、目一杯小ギャグが詰め込まれてるのが今シリーズの特徴でもある。東映セントラルアーツのTVシリーズ感がどこか懐かしいのだ。タカ&ユージの「あぶない刑事」と共演して欲しいな。浅野温子とマ・ドンソクの掛け合いとか絶対面白いに決まってんじゃん。

で15分のインターバル、同じスクリーンで三宅唱監督「夜明けのすべて」を観る。PMS月経前症候群)でイライラが抑えられなく藤沢。同じ職場で働くことになった新人・山添の無気力さにイラつき、きつく当たってしまう。だが山添がパニック障害を抱えていることを知り自身がPMSであることを告白する。他人には理解されにくい障害を抱えた二人は、適度な距離を保ちながらお互いの理解者になっていく。素晴らしかった。二人はべたついた関係には陥らない、ましてや恋愛感情もない。それでも同志として理解し合い、必要な時には手を差し伸べ合う。彼らとともに働く職場の人々にもそれぞれに事情がある。そう、すべての人は他人からは窺い知れない事情があり、悩みがあり、様々な想いを胸に抱えているのだ。でもどうしても一人では抱えきれない、はみ出してしまう部分がある。そのはみだした部分を誰かが見ていてくれている、理解してくれているというだけで心は少し軽くなる。上白石萌音松村北斗、主演二人の声が実に良い。トーン、大きさ、スピード、どこをとっても最適で素晴らしい。派手な映画ではないけれど、秀作であり良作。大切にしたい映画であった。

京阪電車で大津まで戻って、商店街で散髪。ちょっとすっきりする。義母お手製のちらし寿司の夕飯。

2024/3/3

8時30分起床。妻と買い物。代り映えしない毎日がいかに大切か、奇跡の上に成り立っているかについて考えるこの頃。蕎麦の昼食、「マルコポロリ」から「ytv漫才新人賞」観る。当然なんだが演芸界も世代交代してるなぁ。昔のように熱心に見ることも無くなった。こちらの感性が古臭くなって、ついていけてないのだ。

2024/3/5

YouTubeで限定公開された沢島忠監督1963年作「おかしな奴」を観る。田舎から出てきて落語家となり苦労の末に人気者になるが32歳の若さであっけなくこの世から去った天才落語家・三遊亭歌笑の一代記。寅さん以前の渥美清がこの落語界の異端児を演じる。若くて勢いのある渥美清の芸達者ぶりに見入る。兄弟子役のこれまた若い佐藤慶が素晴らしい。まだ戦争の残り香が色濃く残る時代だけに映画ははっきりと反戦を打ち出している。

そういえばと思い出し本棚の小林信彦著「おかしな男 渥美清」を引っ張り出す。「『おかしな奴』の失敗」というそのままの章があって読み返す。リアルタイムで歌笑を知る小林信彦歌笑評は「もの珍しいとは思ったが、面白いと思ったことは一度もなかった」と容赦ない。<正統派の芸へのコンプレックスと絶望感からくるやけっぱちのスリリングな魅力>で人気だった歌笑を<落語という古い伝統芸への反逆者>として描いたところで違和感が生まれ<不自然な人形のような主人公>とまで言っている。そして渥美清から電話がありそのことを伝えると、渥美清は<まるで「アラビアのロレンス」みたいな歌笑だろ>とともに笑い飛ばすのだ。二人の冷静さに凄味と怖さを感じる。

2024/3/6

水道橋博士YouTube「博士の異常な対談」ゲスト伊集院光を観る。まさに手の合う二人によるあっちこっちにどこまでも転がり続けるプロの雑談。一つの話が着地する前に道をそれ、さらに枝葉に分かれて勢いづいて転がっていく。それってお喋りのだいご味であり最高に楽しく面白いところだと思う。杉作J太郎さんがラジオで自分で喋りながら「何の話してましたっけ?」と話を見失うとこが最高に好きだ。話を見失うぐらいに転がってるって、それだけ盛り上がってる証拠でしょ。博士と伊集院さん、同じ時代を生きてきた芸人として、同志として、友達として、何より人としてお互いに敬意をもっていることがわかる。決して馴れ合いではなく、それぞれに別のところにいながらも視界の片隅に入っていて、気にしている。二人のお喋りは芸について、鬱について…と様々な方向に転がりながら、自分の思考、自分の場所を確認しあっているようにも聞こえる。二人がそれぞれ他の誰とも違う顔を見せあっている。とてもいいお喋りで嬉しくなる。


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2024/3/7

久々に仕事で大阪へ。朝のうちに2件の商談を終え、ランチは梅田で。事前に調べていた店で親子丼。とっても美味しかったが、いろんな店で親子丼を食べるたびに、いかに「なか卯」の親子丼が美味しいかが浮き彫りになるなぁ。

往復の電車でradiko。伊集院さんの「深夜の馬鹿力」で博士とのYouTube収録話、脱線していくトークについてたっぷり。「東京ポッド許可局」の「PERFECT DAYSおじさん論」、主人公・平山がピン芸人にしか見えないには笑った。最後の泣き笑い顔、今後観るたび爆笑してしまいそう。

2024/3/8

朝から病院。定期的に行っている検査。ここんとこ代休とっても全部病院という感じだ。午後からは会社に出てお仕事。夜、鳥山明さんの訃報。1970年生まれの僕は「ドラゴンボール」より断然「Dr.スランプ」。全18巻、コミックスは全て発売日に買っている。今でも大好きなギャグマンガ。漫画が大好きだったのでアニメ化された時、ちょっと複雑な想いになったのを覚えている。小学生の頃は絵を描くことが大好きで毎日毎日いろんな漫画の模写をして過ごしていた。とにかくその緻密かつ完璧に構成され完成された絵にどれほど感銘を受けたか。第一巻の表紙絵を一所懸命模写したなぁ。何回描いてもあんな風には描けなかったけど。

2024年2月の話。その2

ということで2月に観たもの聴いたもののその2です

S・J・クラークソン監督「マダム・ウェブ」を観る。マーベル初の本格ミステリーサスペンスと銘打ってるものの、普通にアクションエンタメ。救急救命士として働くキャシー・ウェブ。ある日、不意の事故に巻き込まれたことから未来を予知できる能力が覚醒する。ある日地下鉄で偶然乗り合わせた3人の少女、彼女たちが殺される未来を予知したことからその死を回避すべくキャシーは動く。ってなお話。性格もバラバラな3人の少女だが、それぞれに孤独を抱えている。彼女たちとキャシーは、戦いの中で連携を深めていく。それはまた彼女たちの未来であり使命だったのだ。キャシーを演じるダコタ・ジョンソンをはじめ3人の少女たちのキャラクターがはっきりとしていて繋がっていく感じにワクワクする。ヒーローたちの前日譚であり、未来に物語が広がっていくラストも気持ちいい。さすがにマーベルはお話拡がり過ぎててもはや途中から入るのが難しい状態だけどけど、こっち(ソニーピクチャーズ)のマーベル作品はまだなんとか単体でも楽しめる。ちょっと懐かしい雰囲気もあるヒーロー映画。

ミン・ヨングン監督「ソウルメイト」を観る。「少年の君」のデレク・ツァン監督のデビュー作「ソウルメイト/七月と安生」のリメイク。「ソウルメイト/七月と安生」は大好きな作品で、2021年のベストにも入れているほど。今作は舞台を韓国・済州島に移しミソとハウンの16年に渡る友情を描く。何事にも慎重で引っ込み思案なハウン。ある日転校してきた自由奔放なミソと出会い、時間を共に過ごす中で二人はかけがえのない友になる。だが大人になり、ある出来事から小さなわだかまりを抱えたままミソは島を出て二人は疎遠になる。島で自分を抑えたまま堅実に暮らすハウン。自由にだが時に破滅的にたくましく生きるミソ。ぶつかり合いながらも続いていく友情、そして反転していく二人の人生。オリジナルにはない「絵」というモチーフが実に効いている。徹底的に写実的な絵を描くハウン、自由な発想で描くミソ。ハウンの目に映るミソ、ミソの目に映るハウン、そして見つめ合う二人。泣けたー。オリジナル版でチョウ・ドンユイが演じた役を演じるのはキム・ダミ!悲しみも痛みも飲み込んで自由に羽ばたこうとするミソを見事に演じる。ミソと出会ったことで殻を壊し本当の自分を獲得していくハウンを演じるチョン・ソニもまた素晴らしかった。

YouTube「みんなのテレビの記憶」高田文夫先生編を観る。貴重なTVバラエティ史が、高田先生の爆笑トークで語られる。とにかく話のスピードが速くて、挟まれるジョークの数の多さ、当意即妙な受け応え、まさにトンチが効くトークで凄い。令和ロマンより回転早い70代!


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土田英生作・演出、MONO公演「御菓子司亀屋権太楼」観劇。和菓子屋「亀屋権太楼」を舞台に、10年の歳月を描く大河ドラマ。社長を継ぐ人格者の次男、それをよく思ってないいい加減な長男、叔父さんを慕うしっかり者のその娘、先代に恩義がある和菓子職人、10年バイトを続ける男、店を断ち直すために呼ばれた女性店長…10年の中で変わっていく彼らの関係性。ドラマチックなところは直接描かず、すっと時間の経過を示し変わっていく関係性を会話で見せていく。日常の中にある何気ない会話で物語を綴っていくMONOらしさは残しつつ、10年という長い期間、小刻みな舞台転換という新境地。シンプルでいながら工夫の凝らされた舞台装置、転換の仕方も面白い。そして物語の背景には、差別と偏見という社会問題や正しさとはという問いなどがとけ込んでいる。そのとけ込み具合が素晴らしい。全てではないがそれらは日常の一部であり、常にそこに潜んでいるのだ。さりげなくもチクリと胸に刺さる。ある種の残酷さもありながら、優しく、温かく、ちょっと切ない。MONO、最新作にして最高作だと思ったな。素晴らしかった。

MONO公演は新しくできた扇町の劇場で観たのだが、想えば90年代今は亡き扇町ミュージアムスクエアへ妻と一緒にMONOの公演をよく観に行った。恋人~新婚時代の話だ。今ではすっかり老夫婦となったが妻と二人、扇町でMONOの芝居を観る。それもまた良いね。

「不適切にもほどがある」を楽しみに観ている。このドラマに関してはネットなどを観てもいろいろ語られている。自分もまたモヤモヤがないわけじゃないけど、ちょっと思ったのはみんなクドカンに何もかも背負わせ過ぎじゃないか。そして「物語」が「物語」として受け入れられない時代なのかなとも思う。登場人物たちのセリフが全てオピニオンだととらえられ物語が語られない。クドカン高田文夫先生に憧れ、松尾スズキに師事した喜劇作家。どうしようもなく人間臭くて、くだらない人間の業を描く物語の書き手で、そこも含めて人間賛歌を描ける作家だと思っている。だから大目に見てよとは言わない。批判は必要である。でも物語はまだ途中だ。ドラマは5話で大きく転換。クドカンの真骨頂という感じ。阿部サダヲの繊細な演技が光る。そして河合優実がとてつもなく素晴らしい。映画界では既に注目の俳優だったが、一気に人気も高まるだろうな。

とここまで書いたが、自分でもまだまとまらない。正しさとエンタメ。様々な人が指摘する問題点もわかる。だけどめちゃめちゃ面白いと思ってる自分もいる。ま、急がずに考えたいね。

宗像明将著「72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶」読了。鈴木慶一が生まれてから現在までを語りつくすインタビュー本。ムーンライダーズ鈴木慶一さんのことを知ったのは10代の頃。その頃から僕はずっと「鈴木慶一になりたいボーイ」だ。でこの本では慶一さんが自身72年の人生を語りつくす。話は音楽のことだけに留まらない。その裏の裏までもが赤裸々に語られる。例えば90年代、メンバー全員で借金を背負うことになる痺れる話から、北野映画における監督とのヒリヒリする関係まで。もちろんムーンライダーズという稀有なバンドの変遷、慶一さんが果たした役割やメンバーへの想いなどもたっぷりと。日本ロック史の大通りと路地裏を行き来しながら、音楽を追い求め、したたかにしなやかに生き抜いてきた音楽人生。リスペクトあるのみ。

 

2024年2月の話。その1

ということで、2月はまぁいろいろありまして。変則的ではありますが観たもの、聴いたもののまとめ、その1です。

NETFLIXでドキュメンタリー「ポップスが最高に輝いた夜」を観る。1985年1月28日。アメリカンミュージックアワード終了後、A&Mスタジオに音楽界のスーパースターたちが一堂に会した。アフリカの飢餓を救うという目的で作られた楽曲「We Are The World」のレコーディングが始まる-。ライオネル・リッチーマイケル・ジャクソンが曲を書き、クインシー・ジョーンズが編曲・プロデュースを務める。当時僕は14歳。MTVブームがあり僕もまた当時の多くの中学生がそうだったように夢中になっていた。マイケル、プリンス、マドンナ、シンディ・ローパーにヒューイ・ルイス、ブルース・スプリングスティーンetc綺羅星のごとく輝くスターたちの音楽に夢中だった。でそんな頃に出たのが「We Are The World」。あれから38年。その夜に撮影されたスターたちの素顔、ライオネル・リッチーをはじめ参加したスターたちのインタビューで構成。いや、もう最高じゃないですか。突然の抜擢にド緊張するヒューイ・ルイス、うまく歌えず一人居心地悪いボブ・ディラン、そんなディランに付き添うスティービー・ワンダー、神経を張り巡らせ現場を回すライオネル・リッチー、ツアー後に駆けつけバシッと決めるブルース・スプリングスティーン、自由気ままなシンディ・ローパー、プリンスを呼ぶために選ばれたと悟り落ち込むシーラ・E…和気あいあいなだけでなく、ピリつく場面も多々ありつつそれでもそれぞれがどこか高揚している。今を時めくスターたちもかってはスターたちに憧れた音楽少年・少女たち。まさにその高揚感が奇跡の一夜に満ちていた。まさに「ポップスが最高に輝いた夜」だなー。

三谷幸喜作・演出「オデッサ」観劇。舞台となるのはアメリカ、テキサス州オデッサ。何もない田舎町で起きた殺人事件。殺人の容疑で拘留されたのは英語が喋れない日本人バックパッカー。取り調べるのは日本語を話せない日系アメリカ人警官。そこで通訳として呼ばれたのはホテルのジムで働く日本人青年。英語と日本語、3人の間で2つの言語が飛び交い、1つの真実を追う。ってな物語で、まぁなんともよく出来ていて面白い傑作会話劇であった。宮澤エマ演じる警官と柿澤勇人演じる通訳青年の二人の会話は英語。だが舞台上に二人の時は英語という態で日本語で会話が繰り広げられ、そこに迫田孝也演じる容疑者が加わると二人は実際に英語で喋り壁面に字幕が映し出される。そこで生まれる誤解、意図的な行き違いが物語を混乱させやがて解決へとつながる。さらにはそこから大きな展開が。巧みに英語と日本語を切り替える宮澤&柿澤のスキルの高さと演技力に脱帽。迫田のネイティブな鹿児島弁も加わり複雑に絡み合う会話劇。すかっと2時間弱という尺も気持ちよく素晴らしかったなー。

宮島未奈著「成瀬は天下を取りに行く」読了。舞台は滋賀県大津市膳所周辺。まさに地元。成瀬あかりは中学生。膳所のランドマーク、大津唯一の百貨店「西武大津店」閉店のニュースを知り、閉店までの毎日西武に通うことに。そんなちょっと変わった成瀬を中心に彼女を取り巻く人たちの視点で描かれる短編が連なり成瀬という魅力的なキャラクターが立体的に浮かび上がってくる。とにかくこのキャラクターがなんとも魅力的で目が離せなくなる。読後感はすこぶる爽快で幸せな気持ちになった。で舞台が30年近く暮らす大津の街。西武大津はもちろん何度も通ったし、なんなら毎日通勤で歩く道沿いにあった。彼女が漫才の練習をする公園も、友達と食事するびっくりドンキーも、完全に生活圏でそれもまた楽しい。

永井愛作・演出、二兎社公演「パートタイマー・秋子」観劇。夫が失業し、スーパーでパートタイマーとして働き始めた秋子。そこは改革に燃える新店長と古株の店員たちによる確執があった。ベテランたちは仕事に慣れ切っていて、商品をくすねることすら躊躇がない。かっては大企業に勤めていたがリストラにあって今はスーパーで品出しをする貫井生瀬勝久)や店長とともに改革に乗り出す秋子だったが…ってな物語。20年前に書かれた作品を沢口靖子主演で再演。様々な職場で見られるような日本的な風景。20年前の作品ながら古さを感じず、むしろ今を描いてるように感じるのは、そんな「日本的風景」が今もなお変わらず残っている、むしろ深く根付いてるからなのだろう。改革の先に訪れる皮肉なオチに考えさせられる。少し浮世離れした沢口靖子が役にピッタリで素晴らしい。生瀬勝久との軽妙なやり取り

NHKの夜ドラ「作りたい女と食べたい女」。シーズン1がとても良かったので楽しみにしていたシーズン2。野本さんと春日さん、二人の関係がゆっくりと進んでいく。この「ゆっくりと」が良い。自分の気持ちに戸惑い、悩み、向き合い、そして互いの気持ちを言葉にして確かめ合う。互いの気持ちと歩調を合わせることの大切さがおいしそうな料理とともに描かれる。また社会の抑圧に立ち向かうシスターフッド的な側面もあり柔らかくも気骨のあるドラマだと感じている。

アン・テジン監督「梟-フクロウ-」を観る。人質として清の国に抑留されていた16代国王・仁祖の息子が8年ぶりに帰郷。だがほどなくして毒殺と思われる謎の死を遂げる。「仁祖実録」に記された史実を基に盲目の天才鍼医を絡め大胆に歴史のifを描くサスペンス。中盤、タイトルが表すある秘密が明かされてからの手に汗握る展開に唸る。見える・見えない、見る・見ないを文字通りの意味と隠喩として描き、権力による腐敗の構造を浮き上がらせる。歴史ものでありながらしっかり現代に通じるテーマ性があり、それを抜群のストーリーテリングで圧倒的に面白く観せる。これは素晴らしかったなー。盲目の鍼医を演じるリュ・ジュンヨルの静と動の演技も素晴らしかったが、権力に囚われ狂っていく仁祖の怖さと愚かさと哀れさを見事に演じたユ・ヘジンに驚いた。人情味あふれる面白おじさんを演じさせたら天下一品のユ・ヘジンが面白を完全封印し演技者としての凄味を見せつけた。素晴らしかった!

NHKのドキュメンタリー「だから、私は平野レミ」を観る。ご存じ、料理愛好家の平野レミに迫ったドキュメンタリー。明るくてせっかちで奇想天外でというパブリックイメージ、それもまた一面にしか過ぎない。常に周りの人のことを想い愛に溢れた彼女のルーツ。父親が残した50年分の日記には彼女が深い愛情で育てられたことがわかる。彼女もまた自分がいかに父や母から愛されてきたか、深い愛情の中で育てられてきたかを想い返し語る。高校生活に馴染めず、学校に行くことも帰ることもできず、一人電車に揺られた青春時代。そんな娘を包む父の愛情。混血児として生まれ酷い差別にあいながら、自身と同じ境遇の子供たちに手を差し伸べ続けた父。娘は父のそばでその姿を見て、時に手伝い育つ。ただ恵まれていたわけじゃない、その明るさの根源は闇の中に灯される光の大切さを知るからだろう。父が彼女に注いだように夫である和田誠も深い愛情を彼女にそそぐ。「だから、私は平野レミ」というタイトルに繋がっていく。なんだか見ながら何度も涙が溢れた。

NHKドラマ「お別れホスピタル」全4回観る。2018年に放送されたドラマ「透明なゆりかご」はオールタイムベスト級の傑作で大好きな作品。それと同じ原作・沖田×華、脚本・安達奈緒子によるドラマが本作。主演は贔屓の岸井ゆきの。「透明なゆりかご」は人が生まれる場所、産婦人科医が舞台だったが、今作は重度の医療ケアが必要な人や、在宅の望めない人を受け入れる療養病棟、人が死にゆく場所が舞台となる。患者、その家族、医者をはじめとする医療スタッフそれぞれの葛藤や奮闘が描かれるわけだが、まぁもうハンカチ無しでは観られなかったな。死は誰にも平等に訪れる。それでいていつ訪れるかは誰にもわからない。生きている限りは死が背中にぴたりと張り付いている。頭ではわかっていてもそれを受け入れるのは辛いことだ。絶望、無念、未練…その時、胸に去来するのはどんな想いなのか。ドラマの余韻に浸りながらぼんやりと考える。そんな時間を与えてくれる良きドラマだった。

2024年1月27日~31日の話。

2024/1/27

8時起床。朝から映画館へ。京都シネマでマドレーヌ・ギャヴィン監督「ビヨンド・ユートピア 脱北」を観る。北朝鮮からの脱出を図る幼い娘2人と老婆を含めた5人家族。1000人以上の脱北者を手助けした韓国のキム牧師指揮の下、壮絶な脱出劇が繰り広げられる。中国、ベトナムラオス、タイを経由する道行。見つかれば即刻強制送還。それは死を意味する。川を渡り、ジャングルを数時間かけて抜けていく。ブローカーたちは金だけが目的、隙を見せれば騙し高額をゆすろうとする。そんな命がけの道行きにカメラは密着する。尋常じゃない緊迫感がスクリーンに充満する。映画は脱出劇とともに脱北者のインタビュー、北にいる家族を脱北させようと奔走する母親の姿も映し、北朝鮮と言う偽りのユートピアの地獄を炙り出す。死と隣り合わせの脱出をしながらもインタビューでは金正恩を讃える老婆。北朝鮮と言う国が徹底した洗脳によって保たれ、成り立っていることがわかる。この恐ろしさは今はまだ自由であるはずの日本にも芽生え始めている。権力が長きにわたり一か所に集中した先にあるのはこの地獄だ。壮絶なドキュメンタリーは決して他人事ではない。

昼は少し歩いて路地裏の食堂でとんかつ定食。ステンレス皿にのせられた薄めのとんかつにデミグラスソース。付け合わせのマカロニサラダにスパゲティという昭和の洋食スタイル。美味しい。

少し歩いてアップリンク京都へ移動しもう一本。コルム・バレード監督「コット、はじまりの夏」を観る。1981年夏、アイルランドの片田舎の物語。大家族と暮らす9歳のコット。彼女はうまく自分の感情を表すことができない。両親は喧嘩ばかり、姉たちには相手にされず、学校にも馴染めずにいる。母の出産に伴い、母のいとこであるアイリンとショーン夫婦のもとに預けられることになる。コットの汚れた姿を見て、アイリンは彼女をお風呂に入れ優しく丁寧に髪をとかす。心優しいアイリンによってコットは少しずつ変わっていく。最初はコットと距離を置いていたシェーンだったが、彼もまた愛情深く彼女と接する。コットはアイリンとシェーンによって生きる喜びを知る。また悲しい過去があるアイリンとシェーンもコットによって生きる喜びを思い出すのだ。コットの寒々としていた小さな心に、暖かな火が灯っていく。縮こまっていた身体が伸びやかになり表情が変わっていく。自分自身が愛されていい存在なのだと気づく。静かで小さくて優しい、とてもいい映画だった。コットの未来は決して明るいだけのものではないだろうが、この夏の日々がある限り彼女はきっと生きていける。いやー、お父さんはこういう映画に弱いのだよ。

行き帰りに聴いてたのは「爆笑問題カーボーイ」。対談したウディアレンとの話をたっぷりと。MeToo問題でハリウッドを追われたウディアレンとミア・ファローとの泥沼についてもかなり詳しく話しつつ、そのモヤモヤぶりも余すことなく。僕も双方の発言を調べたり本を読んだりしたが、泥沼過ぎてもはや理解が追い付かないという太田さんに同意だなー。

2024/1/28

8時起床。妻と買い物に行って午後の映画劇場はNETFLIXでホ・ミョンヘン監督「バッドランド・ハンターズ」観る。大災害によって荒野となったソウル。「コンクリートユートピア」と同じ世界の数年後の物語。生き残った人々はたくましく生きているが、一人のマッドサイエンティストを頂点とする軍隊組織が唯一残ったアパートを拠点に人々を支配しようとしている。ある日、少女が彼らに連れ去られたことで一人のハンターが立ち上がる・その男は、マ・ドンソク!ということでジャンルはマ・ドンソク映画。オープニングシーンから巨大ワニをぶった切るマ・ドンソク!巨悪を剛腕で張り倒す心優しく力持ち、安心安全なマ・ドンソク劇場。これでいいのか?いや、いいんです!マ・ドンソク映画なんだから。

夜はTVerで1981年の山田太一脚本ドラマ「想い出づくり」を。古手川祐子、田中裕子、森昌子、それにシッ!バッ!タッ!恭兵。さすがにみんな若い。にしても田中裕子のなんとも魅力的なことか。小学生の頃、CMで彼女を見るたびにポーッとしていたことを思い出す。あの目がなんとも、その…。しかし今の俺の年齢は、このドラマと照らし合わせれば児玉清前田武彦、そして佐藤慶の年齢!昭和の親父の落ち着きぶりよ。

指名手配写真の爽やかな笑顔でお馴染み、桐島逮捕。新聞で報じられたその暮らしぶりに「PERFECT DAYS」を想起する。トイレ掃除を終え走り去る役所広司。カメラがそのトイレの壁に貼られたポスターに近づくと、そこには指名手配犯の文字とともに若き日の役所広司の写真が!ってなもう一つのラストシーンを妄想する。

2024/1/29

午後から仕事で大阪へ。ランチのタイミングをまたもや逃し、結局3時過ぎにサブウェイへ。毎度ながら巧く注文ができずどぎまぎしてしまう。最適解がわからない。

2024/1/31

配信で「水道橋博士 VS 東野幸治 with 吉田豪 vol.2」。関西芸人スキャンダル列伝の第二弾。まさに吉本の大スキャンダル勃発中、ダウンタウン一派の左大臣でありながら火中に自ら飛び込む東野幸治の男意気。でしょっぱなから忖度、NG無しで飛ばしまくる。TVのど真ん中、第一芸能界で活躍しつつ、第二芸能界、アンダーグランドなライブに独り身でやってくるかっこよさ。「のりお・よしおTシャツ」をその場で着込み、あくまでフラットに語りつくす。やっぱりこの人は人への興味が強いんだなー。人の心がない、白い悪魔とさえ言われつつ、映画にドラマ、本だけじゃなく、山登りをしたかと思えば様々な芸人たちに会い、話を聴き面白がる。常に世界に対して門戸を開けているのだ。そんな第一線の人間観察者にして人間研究家。博士そして吉田豪と共鳴するのは当然。でトークライブは予定の芸人不祥事関東編に辿り着く前にすでに2時間。どれだけ濃い話が繰り広げられたかということがわかるだろう。ついつい深追い、深堀りする博士に対して、これ以上いけばダラダラと行ってしまう手前でスパッと切り上げたその嗅覚とバランス。現役中の現役、テレビの覇者の手腕を観た。

twitcasting.tv

 

 

さて、ちょっと多忙と言うか、いろいろありまして、しばし日記更新はお休み。とはいえ数週間で復活できると思いますが。では、また。

 

2024年1月20日~26日の話。

2024/1/20

6時半起床。7時には家を出て雨の中イベント仕事へ。体調不良の同僚に変わり急遽出動。屋内ではあったがドア開けっぱなし状態で寒いのなんの。午後には終了。会社に戻り後片付けして3時前にやっと昼ごはんにありつける。ココイチでカツカレー。美味しい。ネットカフェに寄って食後のコーヒー飲みつつ文春などチェックしてから帰宅。急いで日記を書く。簡単なメモ書き程度書いといて土曜に仕上げるというパターンなのだが、やっぱり毎日ちゃんと書かないと零れ落ちるものがあるな。例えば先週で言えば西川のりお師匠のラジオとか。

2024/1/21

いつもは土曜日は一人で映画館、日曜日は妻と過ごすようにしているのだが昨日急遽仕事になったので、今日は朝から映画観に行く。

MOVIX京都でウディ・アレン監督「サン・セバスチャンへ、ようこそ」を観る。映画広報の仕事をする妻・スーとともにサン・セバスチャン映画祭にやってきたリフキン。かっては大学で映画を教え、今は小説の執筆に取り組んでいる。妻とフランス人映画監督の仲に嫉妬しつつ、出会った女医のジョーに恋をして…ってなウディ・アレン丸出しの映画。90近くになって、まだ色恋沙汰やってんのかという気もするし、そこがいいんじゃないという気もする。傑作小説をものにするぞと言いながら結果何もしてないリフキン。妻への嫉妬も、女医との恋も完全なひとり相撲。時にぼんやりと映画の世界に入り込みそこから出られない。サブカルおやじの末路を観ているようで辛い…。サン・セバスチャンの美しい風景と軽くて俗で枯れているというウディ・アレンのスケッチ映画。ハリウッドを追われ、ヨーロッパに流れ着いても何事もなかったかのように撮り続ける。もはや面白いとかどうとか関係なく日記を書くように映画を撮ってる。

映画館横のラーメン屋で昼食。半券提示でチャーシュー麵にっつーことで。ラーメン食べたいなぁとずっと思ってたんだけどいざ食べたらちょっと胃にもたれる。ですぐにまた映画館に戻ってもう一本。

山下敦弘監督「カラオケ行こ!」を観る。合唱部部長の中学生・聡実はどうしても歌がうまくなりたいヤクザの狂児に半ば強引に歌唱指導を頼まれる。いやいやながらもカラオケBOXでレッスンを繰り返す中で二人には奇妙な友情が芽生える…ってなコミック原作だけにマンガみたいなお話。橋本じゅんチャンス大城が演じるヤクザの面々の歌に聡実がアドバイスしていくシーンなどはベタながらも楽しい。桑名正博の歌を桑名正博そっくりの癖強こぶしで歌いダメ出しされるとこは笑った。あと聡実の合唱部での学園生活を描くパートが良い。特に部長に憧れつつアンビバレンスな感情を爆発させる後輩の和田君と、そんな和田君をお守する副部長の中川さんがいい味出してる。キラキラはしてないけど瑞々しい学園生活の一端。狂児との関係性よりむしろこちらの方に惹かれたな。

夜は妻の実家へ。お肉があるからということで義母、義兄夫婦と夕食。美味しい近江牛を頂く。ただし「焼き肉のたれ」はないから、醤油orソースor塩コショウで!というストロングスタイル。塩コショウだけで十分美味しかったからいいんだけど。

2024/1/22

仕事が立て込みハードな一日。もはや記憶がない。

夜はぼんやりYouTubeでウディアレン×太田光のミニ対談など。

2024/1/23

今日もなかなかに忙しかった。夜は部屋でコーヒーを飲みつつ、カーネーションの40周年記念本「カーネーションの偉大なる40年」と「72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶」をパラパラと。ムーンライダーズカーネーション。10代の頃から聴いている二つのバンド、50代になった今でも最高の新作が聴けてこうして関連本が刊行され読める幸せ。よくぞこの二つのバンドのファンになったもんだ、偉いぞ10代の俺。

2024/1/24

寒い。営業車に雪がちらちらと。しかし長く営業仕事をしていると、まぁ営業トークが滑らかで流暢になってくる。「いやぁ寒くなりましたねぇ、雪がちらついてますよぉ」なんて天気の話から入って、テープレコーダーを押したみたいにすらすらすらっと営業トークに展開。「ぜひご検討をお願いします!」なんてことを言って出されたお茶をすする。にこやかに頭を下げ、営業車に乗り込む。エンジンをかけると真顔になり酷く落ち込む。別に人と喋るのは苦にならないし、売れれば嬉しい。でもなぜかビジネスシューズの靴底みたいに心がすり減る。

おっといかんいかん。こういうことを書くからいつまでも中二病を引きずってると言われる。

2024/1/25

この冬一番の寒さ。雪もうっすら積もっている。北部は50cm以上も積もってるとか。通勤もすべらないように気を付けて歩く。もはやこの年になると転倒は命取りになりかねない。

夜は「博士と町山」YouTube生配信。ゲストは青柳拓監督。まだ30歳の若きドキュメンタリー監督。話を聞くだけで青柳監督の世界を観る眼差しの優しさやまっすぐさがわかる。残念ながら映画未見なので新作はぜひ劇場で観たい。監督の話を聴いていると自分がいかに頭でっかちで冷ややかに捻くれて世界を観てしまっているかがわかる。内的宇宙に囚われ小さな自己完結を繰り返す、ひとり相撲の幕下力士。自分は何も知らない、何もわかっていない、腐れサブカル親父に過ぎないとちょっと落ち込む。

2024/1/26

今週はハードだったので代休消化で午後は休みに。3月末までに取り切らないといけない代休が溜まりまくっている。まぁ毎年消化しきれないでいるけど。吉野家で牛すき鍋膳の昼食。これでもう十分満足できる。美味しい。

でユナイテッドシネマで映画を一本。ヨルゴス・ランティモス監督「哀れなるものたち」を観る。橋から身投げする身重の女性。天才外科医ゴッドウィンは死んだ彼女の体に胎児の脳みそを移植し蘇生させる。身体は大人、頭は赤ちゃん、ベラと名付けられた彼女はゴッドウィンの庇護の下、日に日に成長していく。だが籠の鳥のように邸宅に閉じ込められ外の世界を知らない。ある日やってきた遊び人の弁護士ダンカンに誘惑されベラは彼といっしょに冒険の旅に出る。数々の性と生の冒険を体験し学び成長していくベラの姿をキッチュでストレンジ、そしてダイナミックに描く。最初に言っちゃうと大傑作!素晴らしかった!常識や偏見の外側にいて人間の本質を自らの経験で学び取っていくベラ。身体的な喜びの行為であった性行為が時に経済を生み、愛憎や支配関係を生む。娼館で働きながら哲学を学び社会の構造、その不均衡さに気付く。彼女を取り巻く男たちは彼女を独占しその身体を支配しようとする。だが、彼女は自らの知見と力によって奔放に軽々と男たちを飛び越えていく。男たちに踏みにじられ身を投げた一人の女性は、生まれ変わり、冒険を通じて学び、成長し「自分の体は、自分のものだ!」と高らかに宣言する。

彼女を取り巻く男たちがどうなっていくかも見ものだ。ベラを生み出したゴッドウィンは最初は彼女を自分の所有物として支配しようとしたが、彼女に愛情を注ぎ成長する過程を観る中で自身もまた学び成長し彼女を解き放つ。ゴッドウィンの助手マックスはベラの成長を記録していくうちに彼女に恋してしまう。だが彼女を想い、彼女の自由を見守ることにする。遊び人のダンカンは優位者としてベラに接し弄び支配するも、学び成長した彼女にあっさり捨てられ泣いて叫んですがりつく。ベラが生まれ変わる前を知るサディスティックな男・アルフィーは暴力で彼女を支配しようとする。ラストそれぞれの男たちが迎える結末。男たちは刮目せよ!

で撮影はもちろん美術も衣装も音楽がまたもう最高!どこか不気味で歪、だけど同時にとびきり美しい。そして本作のプロデューサーでもある主演のエマ・ストーンが凄すぎた。ここまでやってのけるのかと驚いた。身体性を伴った超絶的な演技。まさに演じる技の凄味を見せつけられた。マーゴット・ロビーは「バービー」を作り、エマ・ストーンは今作を作った。どちらも素晴らしい。マッチョな男性性を振りかざすダンカンを演じるマーク・ラファロも絶品。落ちぶれ具合がとにかく最高。

こういう映画を観ると、本当に映画って面白いなーと思う。これぞ総合芸術。アート映画でありながら難しくなくて学びがある。何度も言うけど素晴らしかった!

そうそう、もしこれを日本でリメイクするなら、ダンカン役を松本人志に、ドSのクソ野郎アルフィー役を長渕剛に演じさせたい。自分たちに何が足りないかを学ぶべき。

夜は宮藤官九郎の新作ドラマ「不適切にもほどがある!」を観る。1986年から2024年へ。クドカン、主演の阿部サダヲと同じ1970年生まれなので、阿部サダヲ高田文夫先生張りに速射砲のように繰り出す言葉の意味がくっきりはっきり分かる。大注目の河合優実に信頼と実績の磯村勇斗なのでそこも今後楽しみ。アップデートを繰り返しているクドカンなので単なる「昭和は良かった、コンプラくそくらえ」で終わるはずないのでこの先どうなるかに期待。

2024年1月13日~19日の話。

2024/1/13

朝から日記を少し書いて、ユナイテッドシネマでヴィム・ヴェンダース監督「PERFECT DAYS」を観る。主人公はトイレ清掃員の平山。毎朝決まった時間に目覚め、植物に水をやり、身支度をして家を出る。缶コーヒー(BOSS)を一本買って車に乗り込む、お気に入りのカセットテープをカーステレオにセットし音楽を聴く。熱心に丁寧に仕事に打ち込む、昼はコンビニで買ったサンドイッチと牛乳。ポケットに忍ばせたフィルムカメラで木漏れ日を撮る。仕事が終わると銭湯で汗を流し、行きつけの居酒屋で晩酌。そして夜は文庫本を読んでから眠る。そんな彼の暮らしぶり、そこに起こるちょっとした出来事をカメラは静かに捉える。清貧とでも言うような彼の慎ましやかな生活。孤独なように見えて、行きつけの古本屋や居酒屋の店員たちは言葉をかけてくれる。彼は決して仕方なく今の生活に甘んじてるわけではない。それは彼の選択である。自由で気高い生き方を彼は選択しそこにいるのだ。

彼が掃除するトイレは東京渋谷のオシャレトイレ。決してち〇この落書きだらけでウ〇コがはみ出したトイレではない。彼が暮らすのはボロアパートではあるが、一人暮らすには十分な広さがあり仕事にも使う車を所有している。昼はコンビニ、夜は居酒屋、毎日銭湯通い。うざい後輩はいるものの何となく憎めない奴で振舞わされつつも適度な距離感。後輩の彼女は平山のかける70年代の音楽に惹かれ、借りたカセットテープのお礼に頬にキスをしてくれる。家出してきた姪っ子は無条件に慕ってくれている。…あれ、なんか皮肉めいた文章になっちゃった。実は彼の暮らしは、日々を情報や経済に追われ、煩悩に惑わされて暮らす我々の理想である。夢のような暮らし。ファンタジーなのだ。正直、観ている間うらやましいなぁと思っちゃったよ。寡黙で誠実な役所広司演じる平山。こんな風に生きられたらいいんだけどねぇ…。

映画が終わりエンドクレジット。企画・プロデュースは柳井康治氏。世界有数の大富豪、ユニクロ柳井正氏の息子で同社の取締役。大富豪が描く清貧…嫌味かっ!

役所広司の演技はそりゃもう絶品。清い心で観れば本当に日々が愛おしくなるすばらしい映画である。だが俺の中のひねくれ者が、映画の裏に見え隠れする傲慢さにモヤモヤとしてしまう。どうもすいません。

一旦家に帰って、インスタントラーメンの昼食。コンビニのサンドイッチは高いので買わない。でまた少し日記を書く。

で再びユナイテッドシネマへ。ジェームズ・ワン監督「アクアマン 失われた王国」を観る。ジェイソン・モモア演じるワイルドで陽気なアトランティスの王・アクアマン。前作では敵役だった異父兄弟の弟・オームとバディを組んで大暴れ。マリオブラザーズみたいなアクション活劇。兄弟喧嘩しながら様々な困難を乗り越え、絆を深めていく二人。ド派手で豪快なアクションにギャグを盛り込みお祭り騒ぎな大エンタメ。あー楽しかった!だけが残る陽気なDC映画の集大成。

夜、YouTube「博士と町山」生配信。今回は早坂伸さん、睡蓮みどりさん、加賀賢三さんを迎えて「性被害」をテーマに。そして過去博士さんや町山さんが行った松江哲明監督擁護や園子温監督へのエールがなぜ問題だったのかを掘り下げ、公開での謝罪が行われた。背筋の伸びるシビアな内容。ただ自分自身も無自覚であり無知であったことがよく分かった。「被害者に寄り添う」と言葉ではわかっていても、そのために何をすべきか、何をしてはいけないか。そう考えると、「松本人志問題」で語られている言葉たちになんと暴力的な二次加害が多いかを痛感する。それにしても自らのYouTubeでここまで自分自身にとって居心地の悪い場を作って向き合って見せた二人の覚悟。そしてそれ以上にゲストのお三方が今までどれだけ晒され、傷つき、心を踏みにじられてきたかを想う。

2024/1/14

サンジャポ」と「ワイドナショー」をザッピング。語ってるようで何も語らずそろりそろりと地雷を避けるワイドナ。週刊誌に乗っかって聴取率稼ぎしてるのに的外れな週刊誌批判。なんだかなー。「サンジャポ」はこの前の「爆笑問題カーボーイ」で語っていた内容をより丁寧に語った感じ。全方位に気を配る太田さん。いつも考えすぎて言葉足らずになっちゃうのだが、太田さんは根底に人間愛があるから好きなんだよね。

妻と買い物行って、昼は焼きそば。麺は具と別に、最初にしっかり焼くスタイル。最後に具とソースと和える。もはやこの作り方でしか食べない。

アマプラで映画を一本。ヨンス監督「パーフェクト・バディ 最後の約束」観る。暴行事件で逮捕されたチンピラのヨンギ。、裁判で社会奉仕活動を命じられ、事故により右手以外の四肢が麻痺し、余命わずかの法律事務所の代表・ジャンスの介助をすることに。真反対の二人だがやがて絆を深めていく…元ネタはフランス、アメリカで映画化された「最強の二人」。さらに韓国ノワール的な要素やそれぞれのバックボーンをがっつり盛り込み中身がぎゅうぎゅうに詰まった作品に。チョ・ジヌンとソル・ギョングという名優二人の共演なんでそこはもう安定に次ぐ安定。ただいかんせん詰め込み過ぎでシナリオに追われてる感があったかな。

夜は先日の博士さんアル北郷さんらの北野映画イベント観て、辛抱たまらずTSUTAYAで借りてきた北野武監督「その男、凶暴につき」を観る。30数年ぶり3回目の鑑賞。もうずっとかっこいい!横の移動、前後の移動、ただ歩くビートたけしの痺れるようなかっこよさと色気。突発的で痛さが伝わる暴力描写、死と隣り合わせのユーモア、漂う無常。韓国ノワールの源流ではないのか。一作目にして映画の神様に愛されてるということがわかるなー。

2024/1/15

寒い。大島育宙松本人志関連動画などを観る。ここまで冷静に言語化できてしまう若い世代が出てきたんだなぁと思う。自分なんぞはもう感性も何もかもが古びてしまってると痛感する。しかしまぁ月曜はいつも疲れ切ってしまい10時過ぎには寝る。

2024/1/16

本日は北野武監督「3-4X10月」を観る。こちらも30数年ぶりの鑑賞。何となく難解な映画だったなーと言う印象が残っているのだが、いやいやめちゃくちゃ面白いし、むしろわかりやすい。大胆なジャンプカットと、普通なら切ってしまうとこを延々映し続ける長回しが独特のリズムと笑いを生み出す。柳ユーレイの「透明感」、ガダルカダル・タカの「本物感」そしてダンカン。裏主役と言わざるを得ないダンカンの活躍ぶり。表情、動き、歌!どこをとっても面白い。また巻き込まれつつもとぼけて愛情深いなんともいい役なんだ。こんなに面白かったの!?とすっかり昔観た時の印象が覆ったなぁ。ま、確かに女性の扱いの酷さは今見るとちょっと引くものがあるが、若き石田ゆり子さんの溌溂さが救い。ぜひ改めてご覧いただきたい傑作ですな。

2024/1/17

マキタスポーツさんの配信マンスリーマキタ。松本人志焼肉屋論。肉の切り分け方を変え細分化することで価値を高めていった焼肉屋=笑いを「大喜利」や「すべらない話」というように細分化することで価値を高めていった松本人志という話、面白い。

水曜日のダウンタウン」。テレビの松本人志もそろそろ見納めか。

2024/1/18

最近はTVよりTVerを観ることの方が多いな。「M-1アナザーストーリー」令和ロマンとヤーレンズ、時々トムブラウン。「霜降り80's」はゲストに早見優松本伊代。82年組話は大好物。しっかりものの早見優、すっとぼけた松本伊代のコンビがまた楽し。デビュー当時の二人は顔がよく似てたんだよね。久々に聴いた早見優のデビュー曲「急いで初恋」最高だなー。

Voicyで「アル北郷の朝礼ラジオ」を聴くのが完全に日課になった。北野映画と私シリーズが本当に面白くて、北野映画全部見返したくなる。手塚治虫のドキュメンタリーで「アイデアは売るほどある。アイデアだけは全く尽きない」という旨の話をしていたのがとても印象的だったんだが、北野監督もまさにそうなんだな。そしてそのアイデアの源泉は絶え間ないインプットと学びにある。

そして今日は天才、たけしの誕生日。77歳。母親と同学年。いやはやかっこ良すぎるよ。人生何度目かのビートたけし北野武ブームが到来中。ということでメモ帳にスケッチした下手なファンアートを。

2024/1/19

会議で久しぶりに神戸まで。凡そ2時間の長旅だが、たまには。本当は会議の後は直帰にしてゆっくりと思ってたのだが、会社に戻らなければならなくなり1時間ばかりの会議の後、ルミナリエを横目にまた2時間かけてとんぼ返り。ま、おかげで「蛤御門のヘン」(プロレス浪漫回相変わらず濃いなー)、水道橋博士ゲスト回のNHK高橋源一郎飛ぶ教室」(時間短すぎる!もっと二人の会話聴きたい!)などゆっくり聴けたけど。