ゼロ・サウンド・テクスチャー

ゼロ年代中期のエレクトロニカ・アルバムの100作レビュー。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第11回

[CD]I8u + Tomas Phillips『ATAK013 Ligne』

ATAK013リーン

ATAK013リーン

ドローンやフィールド・レコーディングが、何よりもインプロヴィゼーションコンポジションへと転換する音楽であること。柔らかい音と硬質な音の織り合いから生まれる「響き」であること。空気を変える高音のクリスタルのような音響作品であること。何度聴いても飽きない。傑作。09年。


[CD]POMASSL『Spare Parts』

Spare Parts

Spare Parts

硬質な電子ノイズが自在に行き交うPOMASSLのアルバム。その物質的かつ生物的な電子音の動きが快楽的だ。破天荒に聴こえつつも、その実、非常に落ち着いている点も面白い。「冷静さ」と「破格さ」の見事な共存がここにある。ラスター・ノートン。07年。


[CD]Preston Swirnoff『maariv』

リゲティやラ・モンテ・ヤングなどに影響を受けたカルフォルニアの音楽家、08年作品。ピアノやオルガン、ギターやテープなどをエレクトロニクスと共に加工。ガラスが飛び散るような硬質な音響から、豊穣なドローンまで。70年代電子音楽のごとき激シブ音響作品。


[CD]STEINBRUCHEL『MIT OHNE』

高密度の雨音のように、高精度の線と点が音空間を垂直に運動する美しい音響作品。個人的には00年代後期の電子音響/エレクトロニカの傑作の一つと思っている。わずか18分に圧縮された美しい音響の結晶。本当に素晴らしい。12Kから。08年。


[CD]Yair Etziony『Flawed』

Flawed / フラウィド

Flawed / フラウィド

アンビエント/ドローン作品を中心にリリースするSPEKKにおいては極めて異色のビート・アルバム。イスラエルの音楽家の作品。クリック風のビートに、ピアノを加工した音響が見事に融合。ラスター・ノートン風だが音響はスモーキー。07年


[CD]Oren Ambarchi『Grapes From The Estate』

Grapes From the Estate

Grapes From the Estate

Oren Ambarchiの04年にリリースされた3rdにして傑作。レーベルはTouch。ミニマルなギターが鳴り、ノイズやドローンと共に音響をかたち作る。楽器も大胆に導入し、その持続と切断と展開、緊張感と心地よさが耳をうつ。ジャケットも美麗。


[CD]AMPLIFIER MACHINE『HER MOUTH IS AN OUTLAW』

Her Mouth is an Outlaw

Her Mouth is an Outlaw

12Kの異色作で、何とバンド編成のドローン作品である。08年のリリースだが、12Kの「その後」を模索していた時期ともいえるだろう。しかし、こんなに繊細なサウンド・トリートメントのドローン作品は稀だ。個人的には愛聴しているアルバム。


[CD]LEVEL『Opale』

Opale / オパール

Opale / オパール

Barry G Nicholasの2nd。ジャスピアニストLinden Haleとサウンド・アーティストKeith Berryの演奏を緻密に加工。ピアノの響きの美しさはそのままに、独自の音響を展開する。破壊されたガラスのような煌めき。spekk。08年。


[CD]Max Richter『24 Postcards In Full Colour』

24 Postcards in Full Colour

24 Postcards in Full Colour

彼の音楽には芯がある。ピアノ、弦、ノイズやフィールド・レコーディング、ささやかな音響の連なりであっても響かせるべき音を分かっているからか。まさに寒い冬の光景のような音楽=音響。まさにシネマティック。08年。


[CD]Konntinent『Degrees, Integers』

Degrees, Integers

Degrees, Integers

ロンドンのAntony Harrisonのファースト・ソロアルバム。物悲しいギターと繊細なドローン、ノイズなどのレイヤーと反復によるポストロック・ミーツ・アンビエントな作品だ。中編映画を見るかのような音楽=音響。Home Normalから出たセカンドも良い。09年。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第10回

●今回で91枚から100枚目になりました。しかしプラス一枚で101枚。

●第10回は、「2009年のリリース作品」を上げてみます。まだ1年前のことですが、これほどまでに激動・激変の時代ですと、随分と昔のことに感じられてしまいます。でもたった1年前のことなのです。この時間感覚の変化。そう、振り返ってみるまでもなく、09年は「変化の気配」が圧倒的に感じられた時代でした。

●「電子音響/エレクトロニカ」のリリースでは、「2009年」には三つの世代からの作品発表が相次いで起こった印象があります。「00年代」を中心に遡行するかのように、「90年代」から「80年代」を総括するような動きが見られたのです。

●それも、どの世代にもドローンテイストがみられたことが、大きな注目に値することでしょう。時間が圧縮しつつ解凍されるような09年ならではの時間感覚の変容が、音楽の側にも浸食してきたといえるかもしれません。

●70年代後期〜80年代(90年代頭まで)に活動を開始したニューウェイブなベテラン勢の09年新作。90年代後期から00年代初頭に活動を始めた電子音響/エレクトロニカ勢の09年新作。そして00年代後期(最近)に活動を始めた若手勢の09年新作。それらの作品リリースが、同時に一気に進行したのです。

●今回は、その三つの「世代順」に(その括りの中はアルファベット順に)並べてみました。ちなみにAlva noto『Xerrox vol.2』はノト特集の回に取り上げましたので今回は省いていますが、「二番目の世代」に加えられます。

●こうしてみると「2009年」という時の「特殊性と凄さ」が見えてくると思います。過去30数年におよぶ実験的ポップミュージックの「新作」が一堂に会したのですから。これはいささか途方もない(もしくは必然的な)事態ではないでしょうか。CD終焉がはっきりと目前に見えてきた「2009年」に、三つのディケイドの総括が行われたのです。

●これらの作品に、メジャーなベテラン勢の作品として、坂本龍一『out of noise』、デイヴィッド・シルヴィアン『マナフォン』を加えてみると、さらに「09年の総括性」が浮き彫りになるでしょう。また、そこにビートルズのリマスター盤、細野晴臣の歌謡曲ボックスなどの「リイシュー・ボックス」を両側から挟みこむように置いてみるのも一興かと思います。

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[CD]Bruce Gilbert『Oblivio Agitatum』

Oblivio Agitatum

Oblivio Agitatum

09年にeditions megoからリリースされたブルース・ギルバートのソロ・アルバム。世界の終わりに鳴り響くような硬質なノイズ/ドローンサウンドが展開されていく。近年のeditions megoは09年のオリジネイターたちの新作リリースから、10年の若手先鋭的な音楽家のリリースへと連鎖・継続している。09年。


[CD]CINDYTALK『The Crackle Of My Soul』

Crackle of My Soul

Crackle of My Soul

14年ぶりの新作はeditions megoから。硬質なノイズの持続/連鎖が酸性雨のように鳴り響く傑作だ。しかもあのJLG『愛の世紀』からサウンドをサンプリングしている曲もある。ジャケット画のようにアトモスフィアな世界=音響。09年。


[CD]Daniel Menche『Kataract』

Kataract

Kataract

ノイズの大物Daniel Mencheが、09年にeditions megoからリリースした作品。アメリ北太平洋岸北西部の滝の音を録音・加工した本作。そのダイナミックな音響/電子音が自然現象のように大きなうねりを描く。呑みこまれる大音響の奔流!


[CD]Robert Hampson『Vectors』

Vectors

Vectors

元LOOP/MAINのRobert Hampson初のソロアルバムは、新時代の電子音楽/ミュージック・コンクレート。微細な電子ノイズが生物のように音のカタチを変形させていく。録音にはあのGRMが関与している。レーベルはtouch。09年。

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[CD]Florian Hecker『Acid In The Style Of David Tudor』

Acid in the Style of David Tudor

Acid in the Style of David Tudor

Hecker、初のソロ・アルバム。超ハイファイな電子音響が伸縮するかのように音空間を蠢く。ある意味ではSND『Atavism』と対をなす作品ともいえる。ここにあるのは伸縮するかのような物質的な電子音響の快楽だ。チュードアへのオマージュらしいアルバム・タイトルも面白い。editions mego。09年。


[CD]Mokira『persona』

Persona

Persona

スウェーデンのandreas tillianderの09年作品。長い活動歴のMokiraも近年ではドローン化。本作では幽玄なドローンが鳴り響く中、クリック・ハウスのミニマルな痕跡も僅かに聴こえる。そう、「クリック&グリッチからドローンの時代へ」だ。リリースはtype。


[CD]SND『Atavism』

Atavism

Atavism

鼓膜を刺激するビートがハイファイすぎて物質感さえ持ってしまったような驚異のマテリアリズムに耳が震える。圧縮された密度によって音楽=音響の領域を拡大していく感覚。その上コードはどこかラグジュアリー。まさにテクノ(ロジカル)・フュージョン・ハウス。Ranster-noton。09年。


[CD]Tim Hecker『Imaginary Country』

Imaginary Country

Imaginary Country

96年より活動を開始したカナダ人音楽家の09年作品。淡く、ほんの少し刺激的なノイズやシンセ音が幽玄に折り重なり合いながら、壮大な音響空間を形成していく。まるで電子音によるシューゲイザー。規則的なベース音が耳を引きつける。レーベルはKranky。

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[CD]Hildur Gudnadottir『without sinking』

Without Sinking

Without Sinking

アイスランドの女性チェリストのソロアルバム。弦の音に、さまざまなエレクトロニクスが融合。ドローン的な非=運動性というよりは、エモーショナルな音響空間である。どこかシネマティックな音楽が奏でられていく。touch。09年。


[CD]SOLO ANDATA『Solo Andata』

Solo Andata

Solo Andata

「2009年の12K」の最高傑作。オーストラリアの二人組ユニットのアルバムである。ドローンや重層的なフィールド・レコーディング、そしてチェロやギターなどを繊細に重ねながら、幽玄で美しいアンビエントを生みだしている。森の中に響く薄明かりのような電子音響。まったくもって素晴らしい。シングルには坂本龍一氏のリミックスも収録。09年。


[CD]TOMASZ BEDNARCZYK『LET'S MAKE BETTER MISTAKES TOMORROW』

Let’s Make Better Mistakes Tomorrow

Let’s Make Better Mistakes Tomorrow

本作も「2009年の12K」において傑出した出来を誇るアルバムだ。緩やかなドローン&フィールド・レコーディングが耳を優しくクスグル。まさにジャケットのように清冽な音響作品。もしくは空と水の電子音響。こちらも傑作。09年。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第9回

●81枚目から90枚目。アンビエント/ドローン系列の作品を集めました。

●今回は所謂「大物」音楽家が中心。彼らの「00年代中期におけるドローン/アンビエント的活動」の側面として、です。

●「ミッドゼロ」のある部分を「Taylor Deupreeの時代」と括るのも可能かも知れない。00年代はミニマリズムが非常に繊細/先鋭化した時代であり、その重要な部分をTaylor Deupreeが担っていたとも思えるからだ(ポップ/ミニマル)。実際、Deupree以外のアルバムも(結果的に、だが)12K作品が多くなった。


●次回は100枚目。とうとうラスト10枚。


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[CD]Taylor Deupree & Kenneth Kirschner『Post_Piano 2』

Kirschnerのピアノ曲を元にDeupreeが作曲した3曲を、互いにエディット。その結果、ピアノの音は澄んだ空気のような音響/持続音に変化した。圧倒的に美しい作品。12K。05年。


[CD]Mirror『Still valley』

Andrew Chalk、Christoph Heemann 、Jim O'RourkeらによるMirror。透明な持続音に、細やかな音が重ねられていくドローン作品だ。光と空気のような音響彫刻。02年から04年の音源を収録。アナログ盤は05年(CDは06年リリース)。


[CD]Taylor Deupree『Northern』

まさに11月の光景のような音響作品。スウィートというよりはビターな響き。ブルックリンからニューヨーク郊外へと引っ越したDeupreeの日々の記憶の集積か。その繊細な音の持続は、ある意味、Deupreeの集大成。当然12K。06年。2年後にリイシュー。


[CD]Mika vainio 『revitty』

Pan SonicのMikaがCOHのレーベル、wavetrapよりリリースしたソロ。「引き裂かれた・引きちぎった」という意のアルバムタイトル通り、ノコギリ轟音サウンドとなっている。しかしその中にも繊細な空気感も。まさに轟音=沈黙。06年。


[CD]William Basinski『Variations for piano&tape』

Variations for Piano & Tape

Variations for Piano & Tape

80年代初期にBasinskiが録音したというテープ作品。テープ独特の歪んだ質感がノイズのように、鼓動のように響き、簡素なピアノの音色を美しく壊していく。まさに決壊する記憶。44分1曲。06年。


[CD]Giuseppe ielasi『AUGUST』

August

August

イタリア人サウンドアーティストGiuseppe ielasiの4thアルバム。リリースは12K。柔らかいドローン、ギターやピアノなどの楽器、電子音響が見事にレイヤーされていく。その緻密かつ大胆なコンポジションが圧倒的。07年。


[CD]Taylor Deupree & Christopher Willits『Listening Garden』

04年にYCAMで展示されたインスタレーションをベースにしたアルバム。実際の展示で流れた音源と、観客の声、雨音などが非常に繊細にレイヤーされた美しい音響作品。12Kよりリリース。07年。


[CD]Willits + Sakamoto『Ocean Fire』

Ocean Fire

Ocean Fire

Christopher Willitsと坂本教授のコラボレーション作品。教授のピアノをウィリッツが加工し、壮大なドローン作品を生みだしている。海に溶け切ったような音/響が素晴らしい。絵画的な音響作品といえよう。日本盤はcommmons。海外盤は12Kよりリリース。07年。


[CD]ANGEL『KALMUKIA』

Kalmukia

Kalmukia

Ilpo Vaisanen、Dirk Dresselhaus、Hildur Gunadottirらのエレクトロニクスとギターとチェロによる突き抜けたかのようなハード・ノイズ・ドローン・サウンドが圧倒的。リリースはEditions Mego。08年。


[CD]Kenneth Kirschner『Filaments & Voids』

Filaments & Voids

Filaments & Voids

Taylor Deupreeとのコラボレーションでも有名なニューヨークのサウンドアーティストの2枚組アルバム。ピアノや弦の音を加工し繊細なエレクトロ・アコースティック/ドローンを生みだしている。Taylor Deupree & Kenneth Kirschner『Post_Piano 2』(05年)からの関連/継続性も重要だろう。ジャケット写真はTaylor Deupreeによるもの。リリースは12K。08年。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第8回

●さて71枚目から80枚目です。

●8回目である今回は、「05年以降のカールステン・ニコライ=アルヴァ・ノトの作品(コラボ作品含む)」を取り上げました。一人の音楽家のみを取り上げるのは例外的ですが、近年の彼の活動は、「05年以降の電子音響/エレクトロニカ」にある有効な補助線を引くことになるはずです。さらに今回のみ例外的に、「09年、10年の作品」も入れていますが、それはシリーズ作品故にあえてそうしました。そのほうがこの時期のカールステンの作品変化を捉えることができるかと思いました。

●90年代電子音響のオリジネーターたち(ピタ、フェネス、パンソニックなど)の中で、その厳格かつマシニックなサウンドの印象と完成度とは別に、「05年以降」、そのスタイル/フォームが、最も有機的に変化してきたのは、カールステン・ニコライではなかったでしょうか。

●その集成が、あの「Xerrox」シリーズにも色濃く反映されているように思えます。坂本龍一氏とのコラボレーションも影響したのかもしれませんが、通常の「音楽」からもっとも遠く離れていたかに思えるカールステンこそが、実はもっともオーセンティックな意味で「音楽家」的資質を持っていたのでないか。初期の無機質なノト名義の作品にも不意にロマンティックな響きの残響が聴こえてきます。

●その意味で、「05年以降」のカールステン・ニコライの活動は、とてもクリティカルであり、それゆえに非常に濃厚で「美しかった」とすらいえます。もちろん、90年代から00年代初期のオリジネーターとして疾走していたカールステンも素晴らしいし、正直、本当に大好きだが、「05年以降」の「成熟と革新」の両方を生きる彼の音楽家として疾走もまた、とても素晴らしいと思うのです。


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[CD]Alva noto『FOR』

FOR 1+2

FOR 1+2

99年から05年の間に制作された、様々なプロジェクトや人物へ捧げた楽曲を収録をしている。これまでのグリッド&リズムな作風から一転し、アンビエント/ドローンなトラックが中心になっている。続くxerroxシリーズへの予兆を感じさせる重要作。06年。
※写真は、「FOR1」+「FOR2」2枚組日本盤(2010)です。


[CD]Alva Noto『FOR2』

For 2

For 2

前作から数年をおいてリリースされたプロジェクト・シリーズの第二弾。サウンドの幅はさらに広がり、ドローンからフィールド・レコーディング、そしてミニマルな旋律まで「音楽家」としてのカールステン・ニコライのアルター・エゴが次々に表出されていく。10年。


[CD]Alva Noto『Xerrox Vol.1』

Xerrox 1

Xerrox 1

現在も継続中のノン・ビート・アンビエント・プロジェクト第一弾。その名のとおりコピーを主題・題材とした作品だが、その薄い電子音の層の重なりは実に繊細。正に空気を変える音響。00年代ノイズ/アンビエント作品として出色の完成度。07年。


[CD]Alva Noto『Xerrox Vol.2』

Xerrox 2

Xerrox 2

ティーブン・オマリーやマイケル・ナイマンの音源サンプルを使い、さらにドローン/ロマンティック化した第二弾。音の層はダイナミック・クリアに生成と分離を繰り返し、まるで自然現象のようなノイズ/アンビエント作品に仕上がっている。09年。


[CD]Alva Noto『Unitxt』

Unitxt

Unitxt

グリッディなビートにポエトリー・リーディング。縦の線のリズムが言葉によって絶妙にズラされていく快感。つまりはニュー・グリッド・リズム・システム。そして後半の電子音響のイズの饗宴と炸裂。2年前より今こそ聴きたい電子音響のニューフォーム。08年。


[CD]Alva Noto + Ryuichi Sakamoto『Insen』

Insen

Insen

コラボ第2作目。ピアノ+電子音のフォームを生んだ前作から3年、さらに洗練されたトラックを披露した2作目。その分、1作目の互いに拮抗するようなスリリングな瞬間は控えめ。しかし完成度は高い。05年。


[CD]Alva Noto + Ryuichi Sakamoto『Revep』

Revep

Revep

3作目はEP。ピアノと電子音響の融合はまたも進化。ピアノは電子音響に融解し、電子音響はピアノと融合する。互いに拮抗しあう関係から一つの音(響)を追求するようなフォームに。溶け切った「戦メリ」が凄い。06年。


[CD+DVD]Alva Noto + Ryuichi Sakamoto+Ensemble Modern『utp_』。

utp_(初回生産限定盤) [DVD]

utp_(初回生産限定盤) [DVD]

電子音響+生楽器の融合の到達点だ。アンサンブル・モデルンの特殊奏法は、カールステンの電子音響の持続と見事に融解。もちろん教授によるコンポジションや極度にミニマルな演奏も最高に素晴らしい。05年以降、カールステンのグリデッィでありつつも、横の流れを意識した電子音響はここに最初の頂点を迎えたのではないか。個人的にはこの数年で聴いたCDの中でもっとも執着している一作。傑作。08年。


[CD]Aleph-1『Aleph-1』

aleph-1

aleph-1

数学者ゲオルク・カントール「無限集合濃度」理論に、その名の由来を持つカールステン・ニコライ別名義作品。その柔らかくも幾何学ミニマリズムは、どこかインドのタブラのような官能性すら感じる。まさに極上の"眠れない"アンビエント作品。これぞ隠れた傑作。08年。


[CD]SIGNAL『robotron』

Robotron

Robotron

carsten nikolai、olaf bender、frank bretschneiderのユニットは、クラフトワークへのオマージュ!マシニックなリズムに、微細なノイズ、ヴォイス。徹底的に機械的なのに、肉体的なファンクネスも感じる。07年。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第7回

●今回で70枚目。ノン・テーマで纏めてみました。

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[CD]ACUSTIC『Welcome』

Welcome

Welcome

デンマークのRumpよりリリース。あのOpiateのMixCDにも収録されたJesper Skaaningの3rd。細かいビートと柔らかい電子音によるメロディー、ほんの少しだけダビィな質感と、いかにも00年代中期なエレクトロニカIDM。05年。


[CD]Eliot Lipp『Tacoma Mockingbird』

Tacoma Mockingbird

Tacoma Mockingbird

いかにも80年代マナーの楽曲なのに、サウンドのテクスチャーにはミッドゼロ・エレクトロニカ的な質感も。とくにドラムの音色とタイミングの絶妙さと、コード進行のいわゆる80’s感。アップデートされた1985年。05年。


[CD]Dell & Flügel『Superstructure』

Alter EgoのRoman Flugelとヴィブラフォン奏者Christopher Dellのユニット。ハウシーなトラックだが、ポリリズムインプロヴィゼーションを取り入れ、ジャズを安易にクリシェ化してない。06年。


[CD]Kammerflimmer Kollektief『Remixed』

Remixed (Rmxs)

Remixed (Rmxs)

05年『Absencen』リミックス盤。Jan Jelinek、Radian、Aoki Takamasなどの豪華メンバーが参加し、原曲を絶妙に解体・再構築。まさにゼロ・サウンドテクスチャー・ショウケース。06年。


[CD]Miller & Fiam『Modern Romance』

オーストラリアのマイクロハウス・アーティストMillerと、Fiamよるエレクトロニカ・ポストロック・ユニット。生楽器と電子音が融合した、少し捻じれたオーガニック・サウンドは悪くない。00年代的裏ウラ名盤(の一枚)。06年。


[CD]Milosh『Meme』

Meme (Dig)

Meme (Dig)

細かいリズムに、密やかなグリッチ・ノイズ、そしてシルキーなボーカル。ドリーミーなメロディーと心地よく響くサウンド。この少し哀愁と慎ましいセンチメンタル。これぞまさにエレクトロニカ・ポップ。近年の高橋幸宏作品、pupaのアルバムなどがお好きな方にぜひ。06年。


[CD]Secai『Mammoth』

NSDこと並木大典とDASMANこと比留間毅による二人組ユニット。30分一曲入魂、マンモスのごとき巨大なサウンド・ダブ絵巻。荒野をゆっくり悠然と進むような時間を超越したような響きと、時間感覚がスープのように融解していくような感覚が堪らない。06年。


[CD]COH『Strings』

Strings

Strings

ラスター・ノートンのエンジニアであるCOH、その07年作品。グリッチな作品から、ピアノやギターなどの楽器を取り入れた色彩豊かな音楽へと変化してきた時期の作品。アルバム名とおりにギター(弦)を多用しているが、作品の芯には音響への繊細な感性が息づいている。


[CD]Proswell『Bruxist Frog』

Bruxist Frog

Bruxist Frog

エレクトロニカIDMレーベルMerkのラスト・リリース。柔らかい音色に、牧歌的なノスタルジックなメロディー、細かいエレクトロニクスとビートがレイヤーされ、いかにも00年代的なIDMな音が展開していく。あの時代のノスタルジア。07年。


[CD]Renfro『Mathematics』

Mathematics

Mathematics

イギリス・ロンドンの二人組ユニット。芯の強い、ややグリッチなエレクトロ・サウンドに、シルキーなボーカルがのったエレクトロニカ・ポップ。何よりもメロディーが素晴らしいのだ。マスタリングはKramerで音質も良い。まさに隠れた傑作。08年。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第6回

●6回目。つまり51枚目から60枚目まで。

●今回は「アブストラクト・ヒップホップのミッド・ゼロ的展開」です。05年から08年の間の「エレクトロニカな耳」でも聴けるアブストラクト・ヒップホップを取り上げています。私は本格マニアでもファンでもないのですが、どれも非常に素晴らしい盤です。

●この時期、ある種のヒップホップに「ビート/テクスチャー」の感覚がより増幅されている印象があります。まさに「00年代的音響感覚」がもう一つの角度から浮かび上がってくるかと思います。

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[CD]Mumbles『a Book Of Human Beats』

Book of Human Beats

Book of Human Beats

Aceyalone『A Book Of Human Language』のインスト・アルバム。センスフルなサンプリングと深いビート、乾いたトラックの質感が素晴らしい。まさにスプリチュアル・ジャズ・ヒップホップ。05年。


[CD]Dabrye『Two/Three』

Two/Three

Two/Three

エレクトロニカ・ヒップホップのダブリーの3rd。今回は多くの著名MCを起用。だが同じくらいに重要なのはトラックのディープさ。テクノもエレクトロニカニューウェイブも呑み込んだ貪欲/ドープなビート・オブ・テクスチャー・トラック。凄い!06年。


[CD]J Dilla『Donuts』

Donuts

Donuts

遺作である。短いトラック。荒いサンプリング。ズレるグルーブ。ザラついた質感。レコードへの愛。そこに横溢する祈りにも似た音楽への愛。ビート・ミュージックのある種の完成形にして、永遠の未完作品。なぜって?それが音楽だから。音楽は鳴り続ける。06年。


[CD]Madlib『The Beat Konducta: Movie Scenes, Vol. 1-2』

Beat Konducta 1-2

Beat Konducta 1-2

別名義Beat Konductaをアルバム名にした作品。短いトラックで大ネタ使い(M4のクラフトワーク!)を駆使し、サンプリング・ミュージックの核心の革新のごとき作品となっている。06年。


[CD]Dday One『Loop Extensions』

Loop Extensions

Loop Extensions

LAのビートメーカーによるインストゥルメンタル・ヒップホップの傑作。サンプリング・ループ特有のズレを孕んだ、枯れた質感とグルーブが最高。当初500枚限定でプレスされ、あのカット・ケミストも買い逃したという逸話もあるほど。07年。


[CD]Block Barley『Dead At The Control』

Dead at the Control

Dead at the Control

ドイツ「Hong Kong Recordings」。ダーティーアブストラクト・ヒップホップ。複数のテープレコーダーを使い、テープループを作りだしていったという。その即興的なザラついた質感が実にクール。07年。


[CD]Omid『Afterwords3』

AFTERWORDS 3

AFTERWORDS 3

Low End Theoryダディ・ケヴのAlpha Pupからリリース。LAのビートメーカーの「Afterwords」シリーズの3枚目だ。多彩なBPMのビート・トラックに、繊細で奥行きのテクスチャーを満喫できるアルバムとなっている。サンプリング・センスがもたらすサウンド・メイキングのセンスが実に素晴らしい。07年。


[CD]The Opus『Blending Density』

シカゴのプロダクション・ユニットによるセルフMIXCD。彼らの10年に渡るトラック/ミックスワークを凝縮した一枚となっている。細やかなサンプリング・センスと多彩なビート・ワークをスミからスミまで満喫できる。07年。


[CD]TTC『3615』

Ttc

Ttc

驚愕のフレンチ・ヒップホップ。フレンチだからではない。トラックの狂いっぷりにである。素っ頓狂なリズムに、調子の狂ったMC。聴いたことあるようなないような摩訶不思議なビート。プロデュースはメンバーらに加えDJ Orgasmic、Para Oneなど。07年。


[CD]Flying Lotus『Los Angeles』

Los Angeles [解説・ボーナストラック2曲収録・国内盤 ] (BRC196)

Los Angeles [解説・ボーナストラック2曲収録・国内盤 ] (BRC196)

もはや説明不要なほどの傑作。00年代ヒップホップのとりあえずの終結点にして集結点。00年代的エレクトロニカ/音響的な繊細なレイヤーと、00年代的ヒップホップ的なズレを孕んだオーガニックなビートが、ここに融合と融解。まさに超傑作。08年。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第5回

●今回で5回目。つまり50枚目。ということは100枚への折り返し地点。00年代中期の日本人音楽家の作品を集めました。

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[CD]AUS『Lang』

Yasuhiko HukuzonoによるAUS、その06年の4th。柔らかい音色のエレクトロニカ・ポップと思いきや、複雑なドラム・プログラミングが楽曲全体で展開される。オウテカ経由の90年代的ビート(ドラムンベーズ、ブレイクビーツ)の00年代的な展開に唸る。


[CD]Portral『Refined』

REFINED

REFINED

あのInner Scienceのノン・ビート・アンビエント・プロジェクト。レコードから抽出された、その柔らかくも繊細なサウンド・レイヤーによるサウンドは、ミッド・ゼロの「アンビエント・ワークス」。何度聴いても新たな時間が生成する。06年。


[CD]el fog『Reverberate Slowly』

Reverberate Slowly

Reverberate Slowly

ベルリン在住Masayoshi Fujita=el fogのデビューアルバム。深い音像のミニマル・エレクトロニカ。マイクロなビートに、淡いキーボード、オールドタイミーなジャズも…。深夜に満ちていくモノクロームサウンド。07年。


[CD]Inner Science『Forms』

FORMS

FORMS

色が飛び散るようなブレイク・ビーツに耳も眩む。カラフルというよりは黄金、光のようなサウンド=色彩の流れ。そして、音と音の「間」。そう、つまりグルーブ。フリーフォームなリズムの奔流が、ビート・ミュージックの新たな道を切り拓いた。07年。


[CD]LisM『Reverso』

reverso

reverso

ハードテクノを生みだしてきたGO HIYAMAの柔らかなビートとサウンドによる、美しいブレイク・ビーツ。色彩のようにアブストラクトなリズムが世界を揺らす。エレクトロニカにビートの遺伝子を注入した傑作。日常の空気感に心地よく融合する。07年。


[CD]Minoru Sato(m/s. SASW)+Asuna『Texture in Glass Tubes and Reed Organ』

Texture in Glass Tubes and Reed Organ / テクスチャー・イン・グラス・チューブ・アンド・リード・オルガン

Texture in Glass Tubes and Reed Organ / テクスチャー・イン・グラス・チューブ・アンド・リード・オルガン

空気オルガンとガラス管を用いた音の物理現象ドローン。もしくは自然の中で鳴らされるドローン。JON GIBSONの作品のように快楽的だ。07年。


[CD]Snoweffect『Invisible Gardens』

invisible gardens

invisible gardens

涼音堂茶舗からリリースの3人組ユニット。繊細なエレクトロニカに思わせながらもボトムのしっかりとしたトラックを展開。コンセプト「観光系」「空間系」を体現するサウンドはまるでYMOのミッド・ゼロ的な発展のようだ。07年。


[CD]Soundworm『Instincts And Manners Of Soundworm』

instincts and manners of soundworm

instincts and manners of soundworm

庄司広光ソロ・プロジェクト。ディープ・イージー・リスニング電子音楽。世界に融解する波、世界を遊離する音の粒子、世界を変える旋律の妙が音響の彼岸を鳴らす。音の世界・世界の音、の旅。07年。


[CD]Filfla『Frolicfon』

frolicfon

frolicfon

あのFourColor/fonicaの杉本佳一によるソロ・プロジェクト。佐治宣英の驚異的なドラミングが大々的にフィーチャーされており、エレクトロニカのオリジネイター自らそのサウンドの拡張を図る意欲作。しかし仕上がりが断然ポップ。傑作。08年。


[CD]Kyo Ichinose『Protoplasm』

STARNET MUZIK 013 PROTOPLASM Original recording

STARNET MUZIK 013 PROTOPLASM Original recording

ミニマルで美しいピアノの響きに、電子音やフィメール・ヴォイスが絡み合う。エレクトロニカという枠を超えた、美しい旋律と編曲と音色で綴られる柔らかな電子音楽。記憶の中の風景のような音の連なり。08年。