一般逆行列(その 4)
ようやく一般逆行列の話に戻ります。
最小ノルム形一般逆行列
線型写像 において には で計量を与えて計量空間とする。 のとき、 に対して を満たすもののうち が最小なものを考える。
行列 の QR 分解 (P は置換行列)を作れば
と表せる。ただし () は下三角行列で (i = 1 , … r) を満たす。
これに行基本変形を施すことで、結局
と出来る。そこで方程式系 を
… (*)
と書きかえる。ただし 。
だから
において
である。したがって、
は (*) を満たし、この中で特に
なるものが最小ノルムの解を与える。そこで
(ただし は 型、 は 型で任意)
とおけば である。この を最小ノルム形一般逆行列という。
さて、 の補空間 について以下のことがわかる。
簡単な計算で
がわかるから である。このことから が成り立つ。すなわち、一般逆行列に関する の補空間の取り方として、最小ノルム形の場合は の直交補空間を取らなければならないことになる。一方で の補空間の取り方には自由度が残るので、S を適当に取り換えることで
(ただし は 型で任意)
と書きなおせる。
一般逆行列(その 5)
最小誤差形一般逆行列
線型写像 において、今度は に で計量を与えて計量空間とする。 のとき、 に対して( でも良い !)、 が最小なものを考える。
前回同様、 行列 A の QR 分解 (P は置換行列)を作る。ただし
で、 (i = 1 , … , r , j = 1 , … r) は上三角行列かつ (i = 1 , … r) を満たす。
これに列基本変形を施すことで、結局
と出来る。そこで最小化する目的関数 を
… (**)
と書きかえる。ただし 。すると
に対して
( は任意)
なるものが目的関数 (**) を最小にする。
(ただし は 型、 は 型で任意)
とおけば が求めるものである。この を最小誤差形一般逆行列という。
前回と全く同じ要領で、 の補空間 について である。このことから が成り立つ。したがって、一般逆行列に関する の補空間の取り方としては、最小誤差形の場合は の直交補空間を取らなければならないことになる。一方で の補空間の取り方には自由度が残るので、T を適当に取り換えることで
(ただし は 型で任意)
と書きなおせる。
反射形一般逆行列
通常、A の一般逆行列 について、A が の一般逆行列になるとは限らないが、それが成り立つようなもの、すなわち
が成り立つような のことを反射形一般逆行列という。今までの表現に倣えば
がこれを満たす。したがって、 と の補空間を適当に選べば
と出来ることになる。
この形からすぐにわかることは
であり、逆にこの関係を満たすような一般逆行列は反射形である。また一般には
であるが、 が反射形 の場合には だから等号が成り立つ。すなわち
である。逆に一般逆行列 が
のいずれか一方を満たすとする。
… (i)
ならば、 のとき (i) により となる が存在するので
となり 、すなわち が成り立つ。
… (ii)
ならば
であり任意の は
(ただし )
と書けるので である。
すなわち (i) , (ii) は一方が成り立てば両方が成り立つ。このことから
が成り立つので、以下、簡単な計算で が成り立つから、 はやはり反射形である。
一般逆行列(その 6)
特異値分解(特異値標準形)
結論から言うと、 行列 A に対して n 次の unitary 行列 と m 次の unitary 行列 があって
,
ただし (r = rank A) で
と書ける、という主張で、このときの を A の特異値分解という。
今、 は n 次の Hermite 行列であるが、 が定める Hermite 形式
であるから、 は半正値である。したがって、ある unitary 行列 によって
と出来る。ただし r = rank A であり、
として一般性を失わない。
である。そこで とおいて
に対して
(j = 1 , … , r)
とおくと に対しては
であるから、 は正規直交形をなす。後はこれを含むような の正規直交基底 を一つ選んでおいて
とおけば
となって目的の分解を得る。