空の境界 オールナイトイベント2 レポート


※ブログタイトルから外れた内容ですが御容赦を


昨年末、2007/12/30 24:00〜 池袋テアトルダイヤにて行われた、空の境界 オールナイト2のトークイベントレポートです。

トーク第一部
ゲスト:あおきえい監督、近藤光P、太田克志(講談社)

オールナイト1にも参加した人は?との質問には10人くらいが挙手。

オールナイト参加特典のポストカード、太田氏曰く「講談社の経費を流用して作りました(笑)何でも日本に数台しかない特殊な印刷機を使って作ったもので銀が綺麗に印刷できるとのこと。イベント限定で数百枚しか作っていないが、かなり原価は高いもの、らしい。

このイベントのために地方から来た人は?との質問にも10人くらいが挙手。

進行は、観客からの質問に答える方式。第一部ではあおき監督が来ているので
第一章中心で。
以下、あ:あおき監督、近:近藤P、太:太田克志氏

質 : 橙子が持っていた飛び降りした女子高生のプロフィールの写真が妙に可愛くて、小林尽先生のイラストに似ていると思っていたのだが、第二章のパンフを見たところ小林尽先生がコメントを描いていたのでもしかして原画を描いていたりするのでしょうか

あ: 偶然似てしまったというのが正解。
一章の時点では二章のパンフに小林さんが寄稿されるとは知らなかった。
あの写真の絵は、簡単な設定画を元に原画さんに描いてもらったもの。
小林さんは実は一章の打ち上げにも来てらしたのだけど僕は全然知らなくて後で言われて知りました

太: 小林さんは武内崇さんと昔から知り合いで、パンフへの寄稿はその辺の縁です。
女子高生のデザインについては、奈須さんが『あんな一瞬しか出ないのに何であんなに可愛いんだろう、もったいない』と言ってました

質 : 最初に式が巫条ビルに乗り込むシーン、一階でナイフを抜くシーンがあるが、そのあとエレベータで上の階に上がった後、もう一度ナイフを抜いたような効果音が入る。あれはどういうことか

あ: あれは手に持ったナイフを構える音のつもりで、式とナイフは割とワンセットのようなものなので、式が臨戦態勢に入ったことを印象づけるための演出です


質 : 着物キャラのアクションシーンが多いアニメということで色々と注目していたが、原作を読んでいるときから気になっていたのだが着物の帯が、皮ジャンを着るとき邪魔になるような気がする。そのあたりどう考えていたか

あ: 着物のことは全く知識がなくてよく分からなかったので、資料をまず集めてもらって、それを元に作画監督の須藤さんとああでもないこうでもないと考えて決めていった

近: スタジオに、着物ばっか好きな奴とか銃器にやたら詳しい奴とかがいるんです。そういうのに話を聞いたりして

あ: 例えば着物用の上着というのも実際にあるんですが、着物で上着を着るときというのは本当は袖を丸めるのだけど、あのシーンはこれから式が巫条ビルに乗り込んで行くぞっていうシーンなわけで、そこでいきなり袖を丸め始めたりするとテンポがどうしても悪くなってしまう。
なので、リアリティを追求する上ではまずいと思いつつも、そこは敢えて嘘をつかせてもらってます

太: 今のは非常にいい質問だと思う。実は三章のパンフで藤島康介先生のコメントが載っているのだけど、同じような質問をされていますのでそちらも読んで頂ければと

太: 三章といえば今日ちょうど三章のアフレコだったわけですが、一緒にスタジオ入りしていた奈須さんが『能登さんが本当にすごかった』とコメントしていました。あと、『能登さんは本当に可愛いです』とも

近: アフレコのときは座る場所が必ず決まっていて、僕の左が必ず奈須さんなんです

質 : 最初に橙子の部屋が映るシーンで、長い尺でゆっくりPANしているシーンがあったのだが、あれは何かを意図したものなのでしょうか

あ: あそこは別に画面Fixでも良いのだけど、会話の内容を考えたときに橙子はメガネを外す前なので口調は軽いのだけど一応人が死ぬ話、不吉な話をしているので、その辺の雰囲気が出せればいいなと思ってやっている。
演出の趣味のレベルなんですけど、画面のリズムもありますし

近: 伽藍の洞については美術監督から毎回『伽藍の洞は何カットあるのか』と言われる。それくらい描くのが面倒で嫌らしい。

今出ているアニメーションノートという雑誌を見てもらうと詳しく書いてあるのだけど、スタジオに今、伽藍の洞のセットが作ってある。

あれも、もうそろそろ壊さないと来年の新人が入ってきたときに席がなくなってしまう。

あれは、大工さんを呼んで、あおき監督やまだ発表してない他の章の監督も全員集めて作ったもの

あ: 物が雑然と置いてある雰囲気を出したかったのだけど、適当に置いたように見せるのがすごく難しくて。

意図的なものが表れないようにしないといけないと思って一日ぐらいあーでもないこーでもないと悩んでいた覚えがあります

質 : 式がビルの上に浮かぶ霧絵と幽霊を見上げたとき、数えてみると9人いるんですが

あ: あれは分かりにくくて申し訳ないんですが、まず霧絵がいて、その周りに8人浮かんでいるわけですが、あの霧絵は二重存在として浮いているわけですよね。

一方で、霧絵が最後に死ぬことで9人目になってしまうと勘定が合わなくなってしまう。

そこでアクロバティックな解釈なんですが、あの中には二重存在の霧絵以外にももう一人、病院の霧絵がいることにしています。

霧絵の病室のシーンで、写真立てが置いてあって学生時代の霧絵の写真が写っていますが、あれと同じ姿の幽霊、高校時代の霧絵が、よく観てもらうと八人の中にいるのが分かると思います。

そんな風に、脚本の平松さんと辻褄を合わせるためにあーでもないこーでもないと考えました

質 : 橙子のタバコのマークが大極図マークだがあれはどういうことか

あ: あれは原作だともう少し先、矛盾螺旋の中で、橙子のタバコが台湾製でうんにゃらかんにゃらという会話があるんですが、それで、あ、台湾製のタバコなんだ、と思ったのだけどいざ調べたら台湾製のタバコというのが見つからなかった

近: 「エンドロールでタバコ博物館ていうのがあるけど、あそこで相当調べたんですよ。でも見つからなくて

あ: それでオリジナルで作ろうということになって、撮影の人に十何種類デザインしてもらったうちの一つを使ってます。

なので、架空のデザインです

質 : 一人一人の小説を読んでいるときのイメージというのは違うと思うが小説を映画にするということに対してどう思っているのでしょうか

あ: 小説を読んでイメージした場面やキャラの感情、あるいは直死の魔眼、巫条ビルってなんだろう、といったことは人それぞれ違うと思います。

僕たちスタッフでももちろんそうなので、その辺のコンセンサスを取っていくところがまず最初でした。

僕は監督という立場なので、そういう意味ではイメージは僕の物が一番反映されているとは思うが、これでいいのかとは作っている間ずっと不安だった。

それでも、自分たちの結論としてはこういう感じではないかなと思って作りました

近: 元々この話をもらったとき、今のアニメで表現できる水準というのもあるし、小説と一言一句変えないことが映画化ではないだろうというという考えもあった。

だから巫条ビルにしても必ずしも正確に小説内の描写に合わせているわけではない。

それよりも、観終わったあとの印象が、読了後の印象と違わないのがいいことなんじゃないかという考えで作っています。

そのために、まずうちのスタジオでどこまで出来るかという水準を見極めるところからスタートしている。

アニメを一本作るには大体200人くらいの人数が必要で、社内だけで言うと70人くらいなのだけど、その70人の中でどれだけイメージを統一できるかというのが鍵になってくると思う。

スタッフ間でイメージを共有するため、常に雑談などしながらコンセンサスをとっていった

質 : この作品では非常に光の効果が強くて、画面自体の奥行きが感じられないような絵が多かった。全体的にぼんやりした印象が強まる画面作りで、光の描写をあそこまでにじませるというのはあまり観たことがないのだが、どのような演出意図があったか教えて下さい

近: それについては、今日は撮影監督に来てもらっているのでこのあとその関係の話をしてもらおうと思うが、空気感ということについては我々は常に試行錯誤を繰り返している。

アニメというのは皆さん御存知だと思いますがA4の紙の中で表現されているわけで、その紙の中でどう空気感を出すかという勝負。

これがフィルムだった頃は、セルとセルの間の空間というのがあるので、自然に空気感が出ていたのだが、今は全てスキャナ撮りしてしまうのでそれはできない。

なので、どう表現していくかについては日々考えている。

撮影監督の寺尾君はこの作品が始まってからアパートを引き払って会社に住んでいるような状態。

どうせ部屋には帰らないから家賃がもったいないんでと言われてOKしたんだけど


ここでトークショー第一部は終了。

最後にあおき監督から一言。


あ: 昨日のトークショーよりマニアックな質問が多くて、本当にこんなんでいいのかと思ってしまうのですが、第二章については、僕より全然ベテランの野中監督という方が演出されていて、尺も一章より十分くらい長くなっていますので、このあと上映されますが、楽しんで観て下さい





第二章上映ののち、トークショー第二部開始。

ゲスト:近藤光P、寺尾撮影監督、太田克志(講談社)

以下、寺:寺尾撮影監督、近:近藤P、太:太田克志氏

近: 昨日のイベントでは監督の野中さんに来てもらったんですが、野中さん、ぶっ倒れまして、急遽撮影監督の寺尾君に来てもらいました

寺: この作品に関しては、監督の趣味がありつつも、僕の趣味を結構出させてもらっています

近: 皆さん御覧になってもらってるかどうか、この作品のパンフでは毎回原画解析のコーナーというのがあるんだけど、二章ではそれが黒桐が林の中を逃げ回るシーンがそれにあたる。このシーンについては演出もかなり力を入れていた

寺: 元々の演出プランではあのシーンは真っ黒な闇の中を逃げ回るというのを考えていたのだが、月明かりを上手く表現できないかとか、あとは葉と葉の間から、雨がきらめいて見えたりすると綺麗じゃないかとか、それから僕はスキューバをやるんですが水中で、上から射してくる光の筋がとても好きで、ああいう感じで竹と竹の間から月明かりが射してくるような表現をしたいとか、そのように色々演出を盛り込んでいます

近: これもいつも悩むところなんだけど、暗い絵っていうのは結構つぶれてしまう。

テレビ作品と今回の大きな違いとして、今回はフィルムではなくDLV上映なので、ここの劇場みたいな上映機材でもすごく綺麗に映ってしまう。

こうやって、ハードの水準が上がればあがるほど僕らが一生懸命作りこんだ空気感というものをどんどん綺麗にしてしまうんでその辺が悩みです。

透過光にしてもマスク一枚くらいじゃ全然ダメで、マスクを三段くらい重ねたりしてる

寺: 二章の冒頭の、雪が降る町を結構広い視界で捉えているシーンなども、あれは、まず1m四方の空間にはどれくらい雪が降るかというのを考えて、ロングだとそれが何十倍の箱になるわけだからどれくらいになるか、と考えて、数千万の雪を降らせたあとに空気遠近の効果を考えて消していく、というように作っている


質 : デジタル表現の限界を感じることはありますか

寺: 僕は逆に、入社したときから既に環境が全てデジタルに移行していたので、アナログの方法論というのを知らないんですよ。

具体的にはAfterEffectsを使って作業してるんですが、そういう意味ではデジタルならではの限界というのは考えたことがない

近: 「セルでの表現というのはある一定のラインよりは行けないわけで例えば先ほどの空気感の話もそうだし、セルは透明に見えてもセル色というのがあって、重ねることでその効果がどうしても出てしまう。

デジタルはそういった限界はないのでいくらでも突き詰められるのだけど、今度はどこでやめるかという問題が出てくる。

ここ数年でアニメ業界にデジタルワークが浸透してきたのは本当はコストダウンのためのものだったのだけど、逆にコストアップになってしまっているのが現状です

太: その辺についてはDTPも同じようなところがありますね

質 : テレビと劇場の画面との違いというのがあったが、観るときにどの画面で観るのが一番いいというのはあるでしょうか

近: 100%これというのはないです。

僕らは作るときに、業務用モニタをPCの横においてD/Aコンバータを間に入れて、色の調整をしているのだけど、その業務用モニタの他に、今家庭で一番普及していると言われている一般的なモニタも横に置いて、最終的なチェックはそのテレビを使って、この画面でどこまで観られるか、ということで調整している。

空の境界については劇場公開が前提なので、SONYのPCNの一番ハイエンドなモニタでチェックして、そのあと今度はテアトル新宿の画面でもチェックしている。

この画面だと夜の色はちゃんと出ているけど昼の色はどうなるか、とか

寺: どの画面が一番いいかという御質問についての回答としては、僕の考えでは、例えばipodで音楽を聴くとき、プリセットの設定で重低音を強くしたりとか高音を強くしたりとか自分の好みで変化させて聴くことがあると思います。

それと同じで、映像についてもヴィヴィッドな画面が好きだからヴィヴィッドにしてしまおうとか、そうやって観てもらえばいいと思っています。

もちろんその下地として一番バランスのいい絵というのを考えながら作っているのですが

太: 今回も、上映終了後の劇場で色調整をさせてもらってるんですよね

近: 夜中の新宿にスタッフみんな集まって

質 : 先ほど光の使い方ということで質問させてもらいましたが、この作品の光の効果というのがすごく独特で、よくある十字の輝線とか、そういった新海誠的な光の使い方をしていなかった。冷蔵庫を開けたときの淡い光だとか、そういった表現に、個人的には新海作品以来の新鮮な刺激を受けたのですが

寺: そういうところを見てもらえるのは非常に嬉しいですね。

セルの質感というのとはまた違う、デジタルの表現でのリアリティというものをどう考えるかということなんですが、例えば今ここでも(手振りをしながら)光源から離れれば離れるほど光の影響というのは弱くなりますし、その他に天井から跳ね返ってきた光とういのもある。

また人体というのは透明なので、強い光を受けたりすると骨が透けて見えたりもする。

そういった光を全て再現することで臨場感を出すという考え方と、絵なんだから多少嘘をついてでも綺麗な絵になればいいんじゃないかといった考え方の両方があって、その2つを考えながら一番いいと思える表現を考えるようにしています

質 : 一章と違って、二章は比較的オーソドックスなレイアウトの画面が多かったように思いますが、その中で、右上とか左上に意図的に空間を作るような構図が多かったように思う。あれはどのような意図があってのものでしょうか

近: その辺は好みだと思うよ。

レイアウトの話をすると、大体世の中本当は一点透視しかないはずなんだけど、みんな好みで二点とか三点とかやりたがるじゃない。

まなびストレートなんて三点透視の嵐なの。

これが難しくて、三点の画面の中で歩いたり走ったりするともうぐちゃぐちゃになっちゃうんだけど。

そうした意味でいうと今回の一章と二章ではそんなにレイアウトは変わってないと思う。

むしろ一番変わってるのは舞台が学校かビル街かっていうところだと思うけどね。

美術さんによっては難しいレイアウトの構図とか、特殊効果何もなしで冷蔵庫の光の表現まで描いてくれちゃうすごい美術さんもいるわけだけど

質 : 寺尾さんは会社に泊まっているというお話でしたが、大変じゃないですか

近: まあ彼に限らず今まで何度もあったことなんで。

さっき伽藍の洞のセットを組んだと言ったけど、別の作品で二段ベッドのセットが必要で組んじゃったことがあるんだけど、そこに僕と箕輪君が昔住んでたりとか

寺: あのフロア結構広くて、自転車が置いてあって乗って遊べるんですよね

近: そもそも家賃もったいなかったんでしょ?

寺: 僕、上京してきたとき2万しか持ってなくてしばらく会社に住んでたことがあったんですが、その後一回出たんですが、また戻ってきたような感じですね

近: まあ20台の頃はそれでもいいと思うよ。30台になるとつらくなるんだけど

寺: やっぱり仕事とプライベートは分けた方がいいですね



このあと、プレゼント抽選会(サイン入り台本、サイン入りポスター等)があってトーク第二部終了。

太田氏が最後に「またこういうイベントをやりたい。今度は話数がたまったところで一挙上映みたいなこともやりたい。あと今回、折角音楽を梶浦さんに担当して頂いているのだから、梶浦さんKalafinaさんをお呼びして生ライブなんて出来たら嬉しい。一回ごとにハコを大きくしていって、最終的に武道館で出来たらいいなみたいなことを言ってました。


締めはufo table作品上映会。

29日の新宿ではフタコイオルタの1話、コスモス荘の11話と最終話とテイルズオブファンタジアだったとのことだが、30日はニニンがシノブ伝の1話とフタコイオルタの11・12話、まなびストレートの2話。

近: フタコイオルタについては皆さんお好きかどうか分かりませんがイカファイヤーの回です。この回もまなびの2話もそうなんですが13000枚くらい使ってて、結構動いてます






設定やストーリーに関わるトークはほとんどなし。

監督も近藤Pもしきりに「こんな内容のトークでほんとにいいの?と繰り返すほど、細かい技術論に終始したトークでした。

講談社の太田氏は差し入れとしてVolvicをゲストの人たちに手渡していました(一日目はハーゲンダッツとトマトサンドだったらしい)。

デジタルハリウッド大学特別授業(12/7)

  • 会場は秋葉原ダイビル内、デジタルハリウッド大学大学院。
  • 一般オフィスのセミナールームぽい会場。100人分くらいの長机席が用意されていて、その後ろに椅子だけの席が100人分くらい用意されている感じ。
    机席は学院生の優先席だったようで、一般の聴講者は後ろの椅子席に。
  • 正面にはプロジェクタースクリーン(ほとんど使わなかったけど)と、両脇に椅子。右手が司会者席、左手がゲスト席。
  • 開始時間にはほぼ満席状態。
    司会の人曰く「これまで何度も講師の方を外部からお招きしてお話を伺っていますが、今回は特にたくさんの応募を頂いていて、Webサイトで開催を発表してから三日くらいで枠が埋まってしまいました。それだけ皆さんの期待も大きいものと思います」とのこと。
  • 新海監督、入室。黒い野球帽に黒いスウェット姿。
    「すみません、今日は非常に楽しみにしていたんですが、あいにく何日か前から風邪気味でして、もうほとんど治ってはいるんですが、皆さんにうつしてしまっては申し訳ありませんので、失礼してマスクをさせて頂きますので御了承下さい」とことわってマスク装着。
    「ちょっと怪しいかも知れませんけど……」と自分で言う通り、帽子にマスク姿、全身黒尽くめで超不審人物ルックに(話が始まるとあまり気にならなくなりましたが……)。





(以下、司会:司、新海監督:新)
司 : ほしのこえでのデビューは非常に衝撃的でしたね。うちの生徒でも、新海さんみたいな個人製作を目指して入ってくる人が結構います。


新 : ありがとうございます、本当にそういう方がいらっしゃるようでしたらちょっと申し訳ないですけど……。
今回いらっしゃっている中に学生さんはどれくらいおられるんですか?


    挙手したのは50人強くらい?
司 : 新海さんはほとんどの製作をPCでされていますが、PCでの創作活動を始められたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?


新 : 僕の場合は最初からアニメの道へ進んだわけではなくて、ゲーム会社で5年くらい働いていまして、WindowsPCを使ってWindows用のゲームの、主にOPを作ったりしていたんですが、その過程でアニメを作る技術が身についたという感じですね。


司 : なるほど。アニメを作るためにPCを勉強したというよりはまずPCありきだったということですね。


新 : そうですね。なので、なぜPCでの創作活動を始めたかというより、PCがあることがまず大前提であり、フォトショップがあることが大前提であり、アフターエフェクツがあることが大前提だったんです。

僕は大学では文学を学んでいましたのでアニメ制作については何も知りませんでしたので、まずソフトウェアの使い方から入って、これらを使ってアニメを作ることができるのではないか、と考えるようになったということになります。


司 : これまで挙げていただいたのは2D系のソフトですけれども、3D系のソフトも使われていたんでしょうか。


新 : はい、会社ではLightWave3Dを使っていて、今でも同じものを使っていますね。

秒速〜の中でも、電車の車窓からの流れていく景色などにはLightWaveを使っています。

主に手描きでは難しいところを補うような使い方ですね。

僕は割と伝統的なアニメーション、セルで人物が描かれていて、画用紙に描かれた背景美術の上で動くようなものが好きなので、3DCGを前面に出した作りというのは考えなかったのですが、例えばGONZOさんなんかですとこの二つのレイヤーに加えてもう一枚、3Dのレイヤーを画面に入れてきたりしていますよね。

なので、PCだから・手描きだからというところにあまりこだわる必要はないと思っていて、それよりはどういう絵を作りたいのか、どういう絵が好きなのかというイメージが自分の中にしっかりないと、何を使っても同じことだと思いますね。


司 : 私が秒速〜などを観ていると、すごく質感が出ているというところに打たれるんですが。


新 : そうですね、質感というのも色々あると思いますが、例えばセルですと普通一号影があって、まあ、そこに処理が加えられたりもしますが、それほど凝った描き方はしませんので、質感と言うと主に背景美術でしょうか。

背景美術は、そうですね、大変でした。


司 : さて新海監督の創作の原点になったほしのこえですが、これは初めは会社に勤められながら作っていたということですよね。


新 : そうですね、会社にいた頃から制作は始めていたのですが、僕は会社をやめてからまず一ヶ月くらいminoriというゲーム会社のゲームのOPを頼まれて作っていて、そのあとほしのこえのコンテを一から切り直しました。なので、実制作は8ヶ月くらいということになると思います。


司 : この、ほしのこえを一人で作り上げられた原動力とはどのようなものだったのでしょうか。


新 : まずは作りたいという気持ちですね。その頃会社でもムービーのようなものを作ってはいたのですが、会社の仕事だけではずっと不全感のようなものを感じていて、ひたすら何かを作ることでそれを解消したかったということがあります。

ただそれとは別に、ある種のルサンチマンがあったんじゃないかと思っていて、それは世の中にこれだけ映像作品があふれていて、その中には話題になるアニメーションも話題になるゲームもたくさんある。なのに、自分も同じハードウェア、同じ環境で作っているのに誰も自分の作ったものを観てくれない。どうにかして自分の作ったものを観て欲しい、という欲求が強くあったんじゃないかと思います。


司 : そういった気持ちに後押しされて会社を辞めてアニメ制作に専念されたということですが、不安感はなかったのでしょうか。


新 : 今思うと不安感とかは全くなかったですね。本当はもっと不安を感じるべきだったんじゃないかと思うのですが、その頃はただただ作ることが楽しかったです。

ほしのこえを作っていた頃のような気持ちで作品を作れたのは一生に一回しかなかったんじゃないかと思います。

例えばさっき言った人に認められたいというルサンチマンのようなものも、一度認められてしまえば解消されてしまうわけですし、そうしたらもうあの頃のような気持ちでは作れないわけですからね。


司 : そうした個人製作から、今は一転してチームでの制作活動になっているわけですが、個人で制作している場合と異なって制作のペースですとか役割分担など悩むところも多いのではないかと思います。そうした点で、気を使われることやノウハウなどについてアドバイスを頂けたらと思うのですが。


新 : うーん、難しいですね。そういった点については僕も毎回試行錯誤で手探りでやっているのが現状なので。

一人での制作をやめた一番大きい問題は寂しくなってしまったということですね、一人で深夜机に向かうことですとか。あとは社会の中での居場所も欲しかったですし。

チームで制作する上で一番考えているのは、作品に関わってくれる仲間全員がこの作品に参加したいと進んで思ってもらいたいということですね。

それは例えば作品内容が巣晴らしいからということであっても、あるいは作品制作に対する僕の姿勢が好きだからということでも、この現場そのものが好きだからということであっても何でもいいんですが、理由はどうあれ自分の選択で作品制作に関わって欲しいと思っています。

そう思ってもらうために色々と気を使っている部分はあって、例えば外に出て帰ってくるときにはおみやげを必ず買ってくるようにしたりですとか。これはちょっとしたものでいいと思うんですけど、それこそアイスとかですね。

あとは、週に一度、スタッフの間で持ち回りで料理を作ったりといったこともしていました。

あとは……そうですね、忙しい現場ではあるんですけれども、お茶の時間を夕方に一時間くらい作ってそこで雑談したりとかですね。

とにかく少しでも楽しんで作業してもらえるように気を配ってはいました。


司 : ちなみに持ち回りで料理をする際に、監督の得意のメニューは何だったのでしょうか。


新 : 僕は料理が苦手なので、監督特権ということで免除してもらっていました(笑)。

その代わりお金は出しますということで……。

やっぱり料理は上手い人が作った方がいいですよね。


司 : 今のスタッフはどうやって集まったのでしょうか。


新 : 今のスタッフはほとんど人づてで集めたような形なんですが、その経緯を話すにはまず雲の向こうまで遡りまして、雲の向こうで作画監督をして頂いた田澤さんとはDoGA出身ということでつながりがあったんですね。それで、雲〜のときは他のスタッフも田澤さんを足がかりに募るような形でした。

秒速で作画監督をして頂いた西村さんは、雲の向こうのときに作画スタッフとして来て頂いていたんですが、そのときのつながりで、CWFilmsのプロデューサ経由で打診させてもらいました。そんな感じで、大体毎回人伝いに集まってきてもらっています。

秒速〜の他の原画・動画のスタッフについても西村さんが、今一緒に仕事をされている方ですとか、ジブリやディズニーで仕事をされていたときのツテでベテランの方に声をかけて下さったりという風にですね。

作画スタッフはそのようなかたちで、あとは美術のスタッフですが、こちらは雲の向こう〜のときに基礎となるスタッフは集まっていました。その他に今回、CWFilmsの人間が東京芸大にバイトの貼り紙をして、「アニメの美術を描いてみませんか」ということでバイトを募りました。

集まって頂いた方は、今までアナログで絵を描いていて、フォトショップとタブで描くような経験は初めてという方がほとんどでしたので、まず僕の方でPCの使い方から教えるようなところから始めました。

一方で皆さんとも、絵のスキルに関しては高度なものを持っていますので、そのあたりを教えて頂いたりですとか、お互いに教え合いながら作業を進めていったような形です。


司 : そうやって集まってきたスタッフとも段々連帯感のようなものができてくると思うのですが、どんなときに仲間になったという実感が出てくるものでしょうか。


新 : そうですね、一緒に飲みに行ったりするときにも感じたりしますし、あとは……

今回学生スタッフの方は10歳くらい歳が離れた人もいたわけなんですが、ほんとによく頑張ってくれて、年末年始の休みなどにも出てきて作業してくれたんです。

それで年末に、作業のあとみんなで一緒に初詣に行ったりそこで甘酒を飲んだりしたんですが、そんなとき、仲間になれたのかな、と思ったりしましたね。

あとは、ちょっと美談ぽくなってしまうんですが、作品が完成して初号試写というのが行われるんですね。そこで、上映が終わった後、スタッフが泣きながら『すごく良かったです』と言ってくれたりしたのがとても嬉しかったですね。


司 : そういうときの嬉しさというのはまた特別なんじゃないですか。


新 : そうですね。日常で感じる、他のどんな感覚より嬉しいと思います。


司 : 新海さんと一緒に仕事をしたいといってくる人も多いんじゃないでしょうか。


新 : ええ、よく一緒に働きたいというメールは頂きますね。中には、お金はいらない、何でもするので、丁稚奉公のような形でもいいから働かせてくれ、というようなことを言って下さる方もいて、それがそれこそ、毎週誰かしら手を上げてくれるような状態でもあるんです。

ただ熱意だけはすごく嬉しいんですが、『何でもするから』というのはこちらとしてはちょっと困ってしまいまして。

もし僕が一緒に仕事をしたいと思うとしたら、それはこちらが何十万払ってでも一緒にやりたい、という人と一緒にやりたい。

そういった、いくら払ってもいいという方と一緒にやった方が、作品にとっても幸せだと思うんです。

なので、今一緒にやりたいと言って下さる方は非常に嬉しいのですが、ある程度技術を身につけて頂いた上で、お互いプロとして出会いたい、という風に考えています。


新 : あ、すみません、ちょっと水を飲んでいいですか。


司 : どうぞどうぞ。じゃあちょっと休憩して頂いている間に聞こうと思うのですが、この中でほしのこえを観たという人は。


    ほぼ全員挙手
司 : それでは秒速5センチメートルを観たという人は。


    こちらもほぼ全員挙手
司 : なるほど。秒速5センチメートル、良かったですね。私は二話のコスモノウトがとにかく好きで。


新 : どうしてコスモノウトなんですか?


司 : あの種子島っていう舞台が好きなんです。あの草原ですとか海もそうですしそこにロケットの発射場があるというのがいかにも新海さんの世界で、新海さんにしか描けない風景だと思いました。


新 : ありがとうございます。そうですね、種子島は日本で唯一、物理的に宇宙につながっている場所なんですよね。

小さな島で、電車も走っていない、映画館もないようなところなんですが、実は羽田から二時間くらいで行けてしまうところでもあるので、皆さん一度行ってみてください。


司 : さて、休んで頂いたところで次の質問なんですが新海さんはずっとオリジナル作品を作ってこられているのですが、オリジナル作品ならではの難しさというのをお聞かせ願えればと思います。


新 : そうですね、ずっとオリジナルでやってきていますけど、やはり年々難しくなっているのを感じますね。

一番最初はいいんです。それは彼女と彼女の猫であれ、ほしのこえであれ、自分の好きなものだけぎゅっと凝縮して、それを無自覚に出していくことができたんです。

それがやっぱり数をこなすほど難しくなってきていて、一つには、前より良いものを作らないといけないという気持ちがありますよね。雲の向こうを作るときはほしのこえより良いものにしなければならない、雲の向こうができたら次はもっと良いものを作らないといけない、という風に。

それで段々難しくなってくるというのもありますし、それとは別に最近考えていることなのですが、今、僕が子供の頃観ていたようなものが、ネットで全てアーカイヴされてしまっていて、Youtubeなりニコニコ動画なりでいつでも観られるという環境が出来上がってきてしまっています。

そしてそれらの全てがタグ付けされて、例えば『泣ける』というタグであったり、『才能の無駄使い』というタグであるかも知れないですし、その中の一つとして『新海作品』というタグもあったりするのでしょうが、そうやって自分の好きな物も出来の良い物も全てタグづけされて分類されて観られる状態になっている。

そのような状況で、『何がオリジナルなんだろう』という、これもよくある話ですが、『何百万もの作品が手元で観られる状況が出来上がってしまっているのに、新しい作品を作る意味があるのだろうか』『新たに映像作品を自分が作る意味はないんじゃないだろうか』と考えてしまうんですね。

秒速なりほしのこえなりも、そうした過去の作品のアーカイヴの一つとなっていくと思うんですが、そういった状況でそもそも新たな作品を作る必要がどこにあるのか、ということを最近ずっと考えています。

その意味では、作る方にとっては難しい時代になってきてしまっているな、とは感じます。今から新たに作品を作ろうとする人にとってはハードな状況だと思います。

ただそんな中であっても、それでもやっぱり作品を作りたいという思いはあるわけですよね。

なので、それならば自分の実感から出てきたものだけをせめて作って行こう、と。

既に優れたものがたくさんあるのだから、自分が作らなくてもいいかも知れないという中で、それでも本当に作らなければいけないと自分が思うものだけを作って行こう、とそんな風に思うようにしています。

例えば技術的なテーマを紡いで、今回の作品よりもっと美しい画面にしたい、ですとかもっと良いカメラワークにしたい、ですとか、そういう技術的な課題というのはいくらでも出てくるわけですね。そういった方向でより良くしていくというのも一つあるのでしょうが、そういった技術面ではなく、ちょっと抽象的になってしまうんですが、実存というか、『せめてそれだけをつかまえて作っているという思い』というのを持って作品を作っていきたいとは考えています。


同じようにスタッフにも、どういう動機でもいいのですが自分から望んで作品に関わって欲しいと思っています。

そのためには例えば一緒にロケハンに行って、何日か泊まってその中で美味しい御飯でも食べればもうそれで頑張って作ろうと思ってもらえるかも知れないですし、種子島の海に入ってもらって気持ちいいと感じてもらえれば、その気持ちよさを作品で表現したいと思ってもらえるかも知れない。

そうやって、少しでも前向きな気持ちで作品に関わってもらえるようにはいつも考えています。


司 : 夏休みの絵日記の延長みたいな感じですね。

ところで話は変わりますが、新海監督の作品ではよく男の子女の子の淡い恋、切ない恋が描かれることが多いですが、これは何故なんでしょうか。


新 : 物語を組み立てる上で、観る人があらかじめ分かっていてくれるであろう前提として、恋心というのは誰しも一度は感じたことのある普遍的なものだと思いますので使いやすいというのはありますね。

それと、割と一対一のコミュニケーションを描きたいとはずっと思っているんですよ。

それはほしのこえや秒速〜ではもちろんそうですし、彼女と彼女の猫でも、猫と彼女とのコミュニケーションというつもりで描いています。あとは笑顔という作品ではやはり、人とハムスターのコミュニケーションというつもりで描いています。

そのように限定された関係から何かを引き出したいというのがあって、彼が思っているようには私は思っていない、その逆として私はこう思っているのに彼はそう思っていない、という、ある種のディスコミュニケーションですね、そういう状況から何らかの教訓を引き出したいなと。

それは恋人同士の関係に限った話ではなくて、親と子の関係であっても友人同士の関係でもいいのですが、例えば、彼の期待しているように僕はふるまえなかった、という結果からであっても、何がしか得られるものはあるのじゃないか、そういったものを描いていきたいと思っていますね。


司 : 今普遍的な要素として恋心というのが出ましたが、新海監督の描く普遍的な要素として『空』というのがあると思います。空にはかなり思い入れがあるんじゃないかと思っているんですが、その辺どうでしょう。


新 : 空は、一番最初は映像製作上描きやすかったということですね。一番簡単だなあと。そういう、コストパフォーマンス的なことがまずありました。


司 : そうですよね、これが波だと大変ですよね。


新 : そうなんです。空はそれこそ、PCですからフォトショップのグラデーションツールを5回くらい使えばなんとなく綺麗な空になっちゃうんですよね。

そんなわけで、主に効率が良いというのがあったんですが、今にして考えてみるとそうやってグラデーションツール5回くらいで綺麗な空が描けるというのは、元々昔から空が好きでよく観ていて、自分の中に好きな空のイメージのストックがあったからなんじゃないかという気もします。

どちらにしても最初は技術的な理由から空をよく描いていました。

例えば、ほしのこえのときに結構たくさんの雲を描いたので、終わる頃には雲だけで結構なストックが出来ていたんですね。デジタルなので保存しておけば、ちょっと持ってきて加工したりすると新しく描かなくてもまた使えたりするわけで、気が付くとそういう雲のバンクみたいなものができていたんです。

そうやってストックで組み立てられた雲を見ても、観る人は綺麗だなと言ってくれるんですが、それは多分、僕の描いた雲を見ながら、そのときその人の中の何かの思い出にリンクして、その雲より綺麗な空を思い出して言ってくれているんじゃないかと思うんです。

なので、ある程度ストックの雲でも満足して頂けるんじゃないかとは思うのですが、これは作業者のこだわりとして、一旦それまでのストックを全部破棄して一から描こうと思いまして、秒速〜では全て新しく雲を描きなおしています。

ですから御覧になって頂けると分かるかも知れませんが、ほしのこえから雲の向こうまでの雲というのは、美少女ゲームのOPなどもそうなのですが、同じ描き方になっているはずです。秒速以降は全て描き直した新しい雲になっています。

ただそれも、観る人がどう思って頂くかは自由ですので、描き直したというのはあくまで作業者としての僕のこだわりです。

それはですね、あるとき、僕の作った作品でない別の動画を観ていて、僕の描いたものに非常に似ている空の絵があったんです。それを観たとき、こういう言い方をしてしまってよければ、僕の絵の影響を受けて下さったんだなと。自分の作品の中だけにあった物が、他の作品の中でも確認できたとき、自分の絵がこういう場所まで届いたのだからもう十分だろう。だからこれまで描いてきたものは、もうここで一旦破棄してもいいんじゃないか、そんな風に考えたわけなんですけど。


司 : 新海さんの作品でもう一つ特徴的な点として、タイトルの響きがすごく独特だと思います。こういったタイトルに選ばれる言葉はどのあたりから発想されるのでしょう。


新 : 自分では割と普通につけているつもりなんですが、例えば『ほしのこえ』であれば、宇宙から届く携帯電話の電波が星からの声のようだな、ということでつけましたね。

雲のむこう、約束の場所』というタイトルはちょっと長いので、どうしようかなと悩んだ覚えはあるんですが、こういう情緒的なタイトルがあってもいいかな、ということで決めました。

秒速5センチメートル』については、これまで何度か話しているのですが、定期的にメールを下さるファンの方がいまして、その中であるとき、『新海さん知っていますか?桜の落ちるスピードが秒速5センチメートルだっていう話があるんですよ』という話が出て、面白い響きだな、と思ったもので、新作を作り始めるときに、タイトルに使っていいですか?とその人にメールを送って了承をもらったという形ですね。


司 : タイトルもそうなのですが、言葉の選び方もとても印象的だと思います。そういった言葉のストックというのは普段からされているんでしょうか。


新 : 断片的な言葉ですとか、センテンスを貯めておくようなことはしていないんですが、文章はずっと書き溜めていますね。小説めいたものもあるのですが、その他に日記を、毎日ではないんですが、稀に書くようにしていて、それがもう10年20年分くらいずっと残っています。これが作品を作るときに意外に役に立ったりするのですが、例えば中央線が出てくる場面が作品にあったとしたら、Googleデスクトップというのがありまして、これを使って過去の中央線にまつわる思い出を検索するんですね。そうすると、自分がとうに忘れてしまった思い出のようなものがそこには書いてあるわけです。それを作品のヒントにしたりするといったことはあります。

こういう方法というのはデジタルツールならではかも知れないですね。

普段は過去の日記を読み返したりはしないのですが、そうやって作品を作るときに時々役立ってくれたりします。


司 : 新海さんはどのようなアニメ作品や映像作品に影響を受けているのでしょうか。


新 : これもよくお答えしているんですが、一番好きなのは天空の城ラピュタですね。

ラピュタのどこが好きだったかというと、ラピュタに出てくる雲が好きでした。

雲の描き方が非常に美しいなというのが印象に残っていたのですが、ラピュタの雲を見てから実際の雲を観てみると、ラピュタの雲と同じように美しいと感じたんです。

そのように、現実をどのように見ればいいか、現実の見方が分かるきっかけとなった作品でもあります。

こういうことはよくあると思うんですが、現実を模した作品なのに現実より美しいと感じる。それで改めて現実の美しさを知るということですね。

例えば、僕は中学生くらいの頃Y'sというゲームがすごく好きで、のちにリメイクに関わったりもしたんですが、この中に、Y'sって御存知の方いらっしゃいますか?

    30人くらい挙手。
当然当時はデジタル8色しかなかったんですが、Y'sのゲームの中で表現されている湖だとか草原がとても美しくてですね、その美しさを見て、逆に実際の湖の美しさが分かったりといったようなことはありましたね。

あとは影響を受けたアニメということでは、エヴァンゲリオンにはすごく影響を受けたと思います。

エヴァのどこに影響を受けたかと言うと、主にアニメーションを作るやり方に興味を持ったということですね。

あのラスト3話くらいはほとんど静止画の連続なんですがものすごく張り詰めた空気を感じるじゃないですか。こういう方法もあるんだ、と、製作手法として衝撃を受けました。何かを表現したいという監督の強い思いがあれば、ほとんど絵コンテのようなものであっても、観る人を引き込むことができるというのを学びましたね。


司 : 新海監督のように一人で作品を作る道を目指している生徒もたくさんいるのですが、そういった人たちに何かアドバイスやメッセージのようなものを頂けますでしょうか。


新 : アニメを一人で作るという道を僕が切り開いたようによく言われるのですが、アニメを一人で作るというのは昔からあって、それは昔ながらの紙に手で描くという手法で山村浩二さんですとかノルシュテインさんですとか、もっと昔から作られてきていたんですね。

なので、僕がほしのこえを一人で作ったというのも、あの時点でそう珍しいことではなかったと思うんです。

では、そういった作品と比べてほしのこえが際立っていた点はどこかというと、それはテレビアニメーションの伝統的な様式、美少女がロボットに乗って戦うという様式に則った作品を作って、さらにそれを一般の流通に乗せたことなんじゃないかと思っています。

そしてそれは、個人が作ったということで観る人にインパクトを与えたかも知れないけれども、それはたまたま僕がやっただけであって、他の人がやっても同じように賞賛を受けたと思うんです。

それは、いささか誇大妄想的かも知れないんですが、こういう言い方を許してもらえるならば、あの時点での僕の役割がそういうことだったんじゃないかと。

実際あの頃というのは、そういう空気があったと思うんです。PCの能力が上がって、映像製作がもっとプライベートになっていくんじゃないかと、そんな雰囲気があって、たまたまそこに僕が乗ったというだけなんじゃないかと思います。

そしてその個人に期待する空気というのは、2004年か5年あたりで一旦途切れているんじゃないかと感じています。

それは拡散してしまったということなんだと思います。個人が観たいものや個人が作ることが出来るものが、ですね。

今でももちろんFlashベースであれば蛙男商会さんのように個人作品も作られていますし、ニコニコ動画でもそういった作品を観ることができます。

その中で、僕のようにビジネスシーンの中でやって行くというのは割としんどいことで、何も無理してビジネスにしなくても、個人製作を発表する場もあるしそこでやっていけばいいのではないかと思うんですね。

一方でビジネスシーンの中でやると決めてしまうと、先ほど述べたようなオリジナルを作ることへの悩みというのが付きまとうわけですし。

個人ベースだと全ての責任が個人に返ってきますから気持ちがくじけちゃうとそこでおしまいになってしまいます。
そういった意味で個人で続けて行くことの難しさというのをずっと感じているんですけど、逆に個人製作というジャンルに何を期待されているんでしょうね。


司 : そうですね、私が考えているのは、例えば新海作品が中東で観られているというお話があるんですが、そのようにアニメがグローバル化の流れを辿っている一方で、DVDが売れない、アニメータの生活が苦しい、というようにビジネススキームがクリエイターにとって優しい状況でなくなってきていると思うんです。

一方で、新海さんが仰られたように個人製作の発表の場というのはどんどん出来てきている。そういった中で、一人ひとりのクリエイターにスポットが当たって、正当な対価を得て、作りたいものが作れるような新たな産業構造を作ることができるんじゃないかと思っているんです。


新 : なるほど。そういう意味では、僕はクリエイターとしては非常に恵まれた立場にいると思っています。

それはCWFilmsという会社との出会いも大きいんですが、先ほど言いましたように今はもう実質的にはチームでの製作になっているわけですけれども、今でもお客さんには『あの作品は新海誠の作品だ』と思ってもらえるし、現場の人たちもこれは新海の作品であると思って携わってもらえる。そういう環境づくりが出来ているということですね。

なので、そんな僕から何か言えることがあるとしたら、個人製作というジャンルを本当にやりたいのかということをもう一度考えてもらいたいということですね。

必ずしも自分に著作権があるということがプラスになるばかりではないわけで、それは作品全てに責任を負わなければいけないということでもあるわけです。

あえて個人製作にこだわらなくても、スタジオワークで素晴らしい作品の一翼を担えて、お給料ももらえて、という方が幸せかも知れない。

それでは満足できないという人も、とにかく自分が作品を作るということが、自分にとってどういうことかをよく考えてもらいたいと思います。

何となく甘い言葉に乗るのではなくて。世の中には作品を作るよりも幸せなこともあるかも知れないわけですし。

一ついえるのは、僕のようなやり方はロールモデルがないケースなんですね。

僕のようなやり方で40、50になって作品を作り続けている人はまだいないわけです。

そういった意味で自分の手本となるケースがない、そういうキツさはいつも感じていますね。


司 : 今後の作品作りはどうなっていくのでしょうか。


新 : 多少宣伝めいたことを言わせてもらいますと、アニクリ15という番組向けの作品を作りまして、こちらは近々放送になります。

実は今日、こちらのイベントとアニクリのイベントがバッティングしていまして、僕はこちらのイベントをとったんですが、今、どこかで今監督と河森さんが話しているはずですね。

先ほど、人と人とのディスコミュニケーションをずっと描いてきたというお話をしましたが、このアニクリの作品の中でもそのことをテーマにしたつもりでいます。

ですので、良かったら観て感想を頂ければと思います。

それ以外としましては、ホームページでも既に告知しているんですが、来月から中東でワークショップを行う予定です。中東は文化も違いますし、以前からすごく惹かれていたのでとても楽しみにしています。

そのワークショップのあと、そのまましばらくイギリスで生活をしようと考えています。

僕は、秒速〜の中で、何も劇的なことが起こらない、生活そのものを作品にしたかったんです。SFでもファンタジーでもなくて、二人の関係を阻むような敵も出てこない。

そんな、何もないということそのものを描かねばという思いがあって、それがある程度描けたんじゃないかと思ったとき、次に思ったのが、自分のいる場所を外から見てみたいということなんですね。

言葉にするとなんだか自分探しみたいになっちゃうんですけど、自分が何を作ってきたのか、そろそろ外から眺めてみる時期になってきているんじゃないかと。

なので、向こうに行っても何か作品を作るつもりは今のところなくて、ただ単に生活をしようと思っています。その中で、これを作ろうと思えるものができたら何か作るかも知れないですし、何も作らないかも知れない。

そういう意味で、不安は不安ですね。

幸い、何も仕事をしなくても来年一年くらいはそれで生活できるようにはなっているんですが、いつまでも何も作らないわけにはいかないわけで、いつかは新たな作品にとりかからないといけない。ただ、一度作り始めると一年二年はスタッフを拘束することになるわけで、それに付きあわせていいのかというのはいつも考えるんですが、そういったことで、今割と不安です。

気分としては、高校を卒業して東京に来るときに近いですね。

ほしのこえのときは今ほどの不安はなくて、あのときは交通標識のようなものが見えていたんです。あとはこうハンドルを切れば目的地にたどり着くというのがなんとなく見えていた。

今はそうではないです。

なので、そういう怖さとワクワクする気持ちの両方がありますね。

僕は高校を卒要して田舎から東京に出てくるときも、ほんとは東京なんて不安だし行きたくないけれど、もうそろそろ年齢として東京くらい行かねばという気持ちがあったんですが、それと同じで、そろそろそういう年齢になってきたということなんだと思います。

そういうわけで、次回作についてはすごくゆっくり待っていて欲しいです。

と言っても分からないですけど、もしかしたら半年で帰ってきて新作を作り始めるかも知れないですし。


司 : メールも8年かければ届くわけですしね。


新 : はい(笑)、それほどお待たせすることにはならないと思います。


司 : あ、そういえばアジア太平洋映画賞の受賞おめでとうございます。


新 : ありがとうございます。実はどういう賞か良く分かっていないんですが、こういう賞を頂けると、僕自身というより何よりもスタッフに報いることができたと思います。


司 : 今日は本当に長い時間ありがとうございました。


新 : こちらこそありがとうございます、何度か熱で意識を失いそうになっていたんですが……(笑)


司 : このあと何人か質問を受け付けようかと思っていたんですが……。


新 : あ、はい、まだ大丈夫です(笑)


質 : ノベライズ版秒速5センチメートルを読ませて頂いたのですが、映像で観たときと字で読んだとき、最終的に感じる読後感のベクトルの違いというのは、意識して変えているのでしょうか。


新 : ノベライズするときに一番意識したのは、アニメーションは受動的なメディアであって、そういった中で伝えられるものを考えなければいけない。一方で小説はある程度集中して読まないといけないわけで、お客さんの側から近づいてきてくれるので、伝えられるものが変わってくるということですね。

それは長い時間での気持ちの変化であったりとか、淡々とした日常といったもの、こういうものは小説にした方が伝わりやすいと思っています。

具体的には第三話なんですが、アニメとは逆に小説ではここが一番長くなっています。

第三話というのは貴樹の淡々とした日常の連続なんですが、こういったものは活字であれば表現できるんですが映像だと厳しいので、アニメの方では山崎まさよしさんの歌の力を借りて、PV的な映像の強度で押し切ったということになりますね。


質 : 個人で製作をされていた頃から背景の完成度が非常に高いと思うのですがデッサンの勉強をされたりしていたのでしょうか。


新 : 僕はデッサン的な絵画の勉強はしてきていないです。それが結構コンプレックスでもあって、ほしのこえが終わったあとデッサン教室に一瞬だけ通ったりしたこともあったりとか、あとはデッサンの本だけは買ってしまったり今でもしているんですが、そういうわけで技術がないからこそ、せめて観察する目の方を鍛えるようにはしているつもりです。


質 : 私はアニメというジャンルは、大げさな表現のように、嘘をこそ伝えやすいものだと思っているんですが、新海さんの作品はそれとは逆に日常的な場面を描くことが多いのが画期的だと思いました。そこで質問なのですが、なぜ実写でなくアニメという表現手法をとっているのでしょうか。


新 : 実写を撮りませんか?というお話はよく頂くんですが毎回断ってしまいます。

理由としては二つあって、まずそもそも技術的に実写とアニメは違うというのが一つ。それから、僕自身が、撮られた映像よりも手で描いた映像が好きということが大きいですね。

なので、将来的には分かりませんが今はまだ、手で描いたもので何が表現できるかということを追求していきたいと考えています。

昔は、アニメーションだからこうじゃないといけないんじゃないか、美少女が出ていないといけないんじゃないか、とかロボットが出てないといけないんじゃないか、というのが少しあったんですが、今はそういったことは全く考えてないですね。

特にそういう縛りはなく、こうだと考えたものを作るようにしています。


質 : 秒速5センチメートルの、各話のタイトルに使われている文字がすごく映像に合ってると思うんですが、このあたりは意識されているのでしょうか。


新 : 文字に対するこだわりはあるとは思うんですが、それほど意識しているわけではありません。

文字に対する感覚ということでは、僕は会社にいた頃DTPの仕事を一時期やっていたことがあったんですが、そのときの経験が生きているのかも知れません。


質 : 大学は文学部だったというお話なんですが、大学時代に小説を書いたりしたことはあったのでしょうか。


新 : 在学中は小説を書いたりはしていなかったんですが、僕は児童文学研究会というサークルに所属していまして、そこで自分で絵本を描いたりはしていました。

それで絵本のコンクールに出したりしたこともありましたね。一回も通りませんでしたけど。


質 : いざ物を作って売り出すということになったとき、製作者側と売る側とで売り方の意図や宣伝展開などに意識の差を感じることはあるでしょうか。


新 : 僕たちCWfilmsという会社は非常に少人数でやっていますので、そういう作る側と売る側とでの食い違いということはないですね。

たまに、もっとTVでCMとか流してくれてもいいのになあと思ったりすることもあるんですが、その辺は作品の規模ですとか、色んなバランスを考えた上で今の体制でやっていると思っています。

ただ昔ゲーム会社で働いていたときは、一製作者としての立場と、会社の売り方に差を感じたりもしていましたね。

なので、今でも大きい会社で働けばその辺のギャップは感じるかも知れません。




新 : 次回作については、作りたい作品というかイメージが全くないわけではないけれども、まだ一つの方向をはっきり見ていないというだけですので、もしかしたら案外早くお届けできるかも知れません。

中東は一夫多妻制ということで、確か4人まででしたっけ、奥さんを持つことができるらしいんですが、そういう文化圏の方が秒速〜のような作品をどう観ているのか、とか非常に興味があります。

あちらに行きましても、定期的に近況報告のようなものはホームページ上などでしていきたいと思っています。


司 : それでは最後に、今度渋谷のライズXの方で新海さんのほしのこえが上映されることになっていて、まだ観ていない方は大スクリーンで観ることのできるチャンスですので是非観ていただきたいと思うんですが、そのほしのこえの予告編と、一緒に上映される楓ニュータウンという作品の予告編を観て今日の講演を終わりとしたいと思います。


新 : この楓ニュータウンという作品、僕も既に拝見させて頂いたのですが、『こういう物を作りたい』という気持ちを強く感じる作品でした。とてもいい作品だと思います。




ほしのこえ楓ニュータウンの予告編が上映されたあと、監督退場。







本イベントの告知サイト

http://www.dhw.ac.jp/sp/shinkai/

横浜美術短期大学(10/16)

  • 場所は横浜と言いながら実は長津田近くの住宅街にあるキャンパス。
    美大ということでお洒落な雰囲気満載。オタにはちょっと歩き回りづらい……。
  • 会場は200人強くらい入れそうな教室で、着いた時間がぎりぎりだったこともあってほぼ満席。
    立ち見を覚悟していたら前の方の席が空いているということでラッキーなことにそちらに案内される。その後、立ち見スペースも黒山の人だかりになっていたので座れて良かった。
  • はじめに総合司会の、準教授という方から簡単な説明。

(以下、司会:司、新海監督:新)

司 : 今回、新海さんに講演に来て頂くにあたって、事前に秒速5センチメートルの上映会を行いました。のべ100人くらいに来てもらったんですが、来て頂いた方から質問したいことというのを挙げてもらっていますので、今日はそれを元に進行していきたいと思います。

また司会はうちの学科の学生二人にやってもらおうと思います

    監督入室。
    まず、監督の作品を全部観たことがある人は、との質問に20人くらいが挙手。
    参考にということで秒速5センチの予告編上映。

司 : まず人となりについてお伺いしたいのですが、今の道に進んだ理由と言うのを教えて下さい


新 : 僕は大学時代は中央大学の文学部で、永井荷風の研究をしたりしていて、アニメ関係のことは全くやっていませんでした。

単位もギリギリで一つ落とせば留年、みたいな状況だったんですけど。

そんな中で、就職のことを考えなければと思ったのが大学4年の9月ごろですね。

丁度会社説明会の帰りに、昔から知っていたゲーム会社の看板を見て。

ゲーム業界が丁度盛り上がっている時期で、プレイステーションが発売された頃だったりもして、これからゲームが変わると言われていたんですね。

中学生・高校生の頃はよくゲームをやっていたんですけれど、主にやっていたのはファミコンとかスーファミのゲームではなくて、パソコンでゲームをやったり作ったりしていたんです。

その後大学時代はPCから離れてしまっていたので、就職時期に改めてゲームに出会ったという感じでしたね


司 : アニメを作ろうと思ったのはどういうきっかけだったんでしょうか


新 : それには紆余曲折があって一言では説明しにくいんですが、まずゲームのOPムービーを作るところから始まったんです。

就職した会社には映像を作る部署が最初なくて、自分とあと後輩一人二人と一緒にそういう部署を立ち上げたんです。

その仕事というのがすごく楽しかったんですけど、段々それだけでは飽き足らなくなってきたんですね。

それで、ゲームのための映像ではなく映像のための映像を作りたくなったんです。

丁度その頃、Y's2エターナルというゲームのOPを作っていたんですが、僕が中学生の頃にすごく好きだったのがY's2というゲームで、当時のPCの貧弱な環境でありながら割とリッチなOPがついていたんですよ。女の子が、こう、振り向いたりするアニメがあったりして。


そういうわけで、思い入れの深いOPのリメイクということだったんで頑張って作っていたんですが、その作業をしているうち、ファンタジー世界ではなくマンションとか自販機があるような世界のアニメーションも作ってみたくなってきた。

そこで、彼女と彼女の猫という作品を作りまして、コンテストに応募したんです。

何でそこでコンテストに出したのかということを今考えてみると、何らかのルサンチマンが溜まっていたんじゃないかと思います。

自分は今、世の中で何もできていない、作りたいものがあるのに世に出せていない、という思いがあって。

それが、DoGACGAコンテストでグランプリを頂いたことでもしかしたらやれるかも知れないという思いにつながっていったんだと思います。


それでもアニメーションを仕事にするということはギリギリまで悩んでいたんですがほしのこえを作り出してみたら、それがあまりにも楽しくて。

最初はそれでも、これは売るとしたら何千円で売って何枚売ったら何万円になるから……というようなことを、当時から一緒にやっていた天門さんと二人で考えたりもしていたんですけど、途中でそういうこともどうでも良くなってしまったんです。

それで、会社を辞めて没頭しようということになって。


天門さんとは当時いたゲーム会社で出会いました。10年先輩だったんですが、自分がコンテを描いて天門さんが音楽をつけて、ということをその頃からやっていましたね。

他の方と組んだこともあるんですが、天門さんとが一番やりやすいんです。

僕が何回駄目出しをしてもにこやかに応じて下さる。

他の方だと「そこまで言うなら自分で作ってみろよ」と言われそうな注文でも天門さんは辛抱強くリクエストを聞いて下さいます。

今、アニクリという一分くらいのアニメーションを作っているのですが、これも天門さんに曲をつけて頂いています。

これはNHKで12月頃から流れるので観て頂きたいんですが、秒速とはまた違ってちょっとコミカルな作品になっているんですけど、天門さんの曲がまた素晴らしくて、あんな酒飲みの30過ぎの人のどこにあんな旋律があるのかと思ってしまうんですが。


司 : 影響を受けた作家さんというのはおられますでしょうか


新 : まず、これはよく言われるんですが村上春樹さんの小説にはすごく影響を受けてます。

大学時代は講義に出て授業も聞かないでずっと村上春樹の本を読んでいたりもしました。

主に言葉遣いですとか、文章的に影響が大きいですね。


あとはアニメということですと、大体天空の城ラピュタと答えてるんですが、これはもうビデオが擦り切れるほど観ているんですけど、その他にですね、エヴァンゲリオン新劇場版を最近観に行って、実はすごく好きだったということを思い出しました。

エヴァがテレビでやっていた頃というのは丁度就職直後くらいの暗黒期で、ずっと部屋に引きこもっているような状態だったのであまり思い出したくなかったんですが、それでエヴァを観ていたこととかもすっかり忘れていたんですけど、今回改めて観てこの次レイが何て言うかとか、全部覚えていて、自分でも驚きました。

あとエヴァでもう一つ思い出したのが、僕は中学の頃、アニメージュ風の谷のナウシカのマンガを連載していたのがすごく楽しみで、毎月立ち読みしていたんですけど、それからしばらくぶりに、たまたま本屋で見かけて懐かしいな、と思って手にとったアニメージュが、丁度エヴァンゲリオンというアニメが始まる、という宣伝が書かれている号だったんです。それで、観てみようかなと思ったというのも、最近思い出しました。


司(講師) : エヴァンゲリオンファンとして私も一言言わせてもらいたいんですが、新海さんと庵野監督の共通点として、メカに対する、特に鉄道に対する愛情みたいなものがあると思うんですが


新 : ああ、新劇場版を観て一つ残念だったんですけど、鉄道が全て3DCGになってしまってたんですね。そこがちょっとがっかりしました。

庵野さんの作品なんだから止め絵でスライドするだけでも構わないから手で描いて欲しかったですね。

僕自身は、電車が走っている風景を外から見るのは好きなんですが型番とかは詳しくないんですよ。

なので、鉄子の旅的な薀蓄はないんです


司 : 新海さんの肩書きが、監督とか映像作家とか色々あるんですが、どれが一番ふさわしいのでしょうか


新 : 僕は名刺を作っていないので、そのときそのときで肩書きもばらばらなんです。

よく監督と呼ばれますけど、監督と呼ばれるほどには物をちゃんと作れていないのではないかという思いもあって。

むしろスタッフが一緒にいるときは、「こちら監督です」みたいに紹介されるんですがこれはもしかして責任というか自覚を持て、と言われているのかなと思い始めています。

なので、自分ではこれまで『映像作家』とか幅の取れる表現を使ってきたんですが段々最近になって覚悟を決めないといけないのかな、というように変わってきた感じです


新 : こうして観ると自分のやっていることがびっくりするくらい変わってないのが分かりますね……。

一言で言うと、学生から世の中に出て感じたことをあの作品に詰め込んでいます。

あの頃から、変わった部分はもちろんあるんだけど、最後の「この世界のことが好きなんだと思う」というセリフにこめた、自分自身がそう思い続けていたいという気持ちは、秒速になるまで変わっていないですね


司 : 新海監督の作品は他のアニメ作品とちょっと違うストーリーな印象を受けるんですが


新 : 一番やっていて難しいなとも思うところなんですが、僕は大きなスタジオに所属している訳でもなく、ちょっとインディペンデントな立ち位置で、小ぢんまりしている規模でやっているので、大きな規模で作られている作品とは違うものをやっていきたいとは思っています。

それはハリウッド的な分かりやすさ、誰にでも分かるエンターテインメント性だったりしますけど、そういったものは最初から考えていないです。

それについてはいいところも悪いところもあると思うんですが、世の中に今流通しているものとは違った手ざわりのものを作っていきたいとは思っています


司 : 作品の世界観を構築するために影響を受けたことというのはありますか


新 : これは誰でもそうだと思うんですが、生きていると、あのことがポイントとして世の中の見方が変わった、ということがあると思います。

それが例えば9.11やオウム事件のような社会的な出来事の場合もあると思うんですが自分の場合、それは大抵プライベートな、人と人との関係です。僕の場合はまだ結婚しているわけではないので、主にそのとき付き合っている人との関係などですね。

これまでの人生でそういうことが3度あったんですが、具体的にはあまりにもプライベートなことなので恥ずかしくてちょっと言えないですが、その3度とも一対一の関係の中で影響を受けています。


秒速5センチメートルという作品は、正しくそうした人の心の距離とか変化の速さをテーマにしているんですが、具体的にどういうことかと言葉で説明しようとしても難しいですね。その上手く説明できないことを60分の映像で描いているわけですから……。

ただ、作品づくりとして、同じような環境で育ってきた人たちの、それほど離れていない共通の認識、デジャヴみたいなものに意図的に訴えるような作りにはしています。

ノスタルジーを道具として使うというのは、その人の生きてきた環境にも左右されますので、必ずしも有効に働くとは限らないんですが、作品のフック、釣り針ですね、

そういう観るための入り口にしてもらうためにはいいかな、と思ってずっと使ってきていました。


ただ、それをいつまでも当てにしてしまっていいのかという気持ちが最近になって段々出てきてはいます。

僕の作品は海外でも観て頂いていて、良かったですとは言ってもらえるんですがなにか違わないか、本当にちゃんと伝わっているのか、という不安もあるんです。

作品のプロモーションでヨルダンにちょっと短い間行っていたことがあるんですがヨルダンて一夫多妻制の国だし、猫とかじゃなくてラクダなんじゃないの?とか思ってしまったりして、よく分からなくなってくるんです。

そういうわけで、これまでは戦略だと思ってやっていたところがあって、それはマイナー作品ですから乗れるところには乗っていかないとという思いもあったんですがそういうところをそろそろ外してもいいんじゃないかな、と思い出しています


司(講師) : またちょっと失礼します。新海さんは大学で永井荷風を専攻されてたということでしたけど、永井というのが正にそういう叙情的な作家だと思います。

そのような、日本人的な意識というものと今のお話も関係してきますか


新 : そうですね、万葉集とか読んでも、今と物に対する感じ方が変わらないですよね。

日本人らしさといったときに僕はそれは四季に対する感受性だと思うんですが、そういうものは、連綿として続いている感覚としてはあるんじゃないかと思います。

まあ、そういった前提を当てにした作りは秒速で一段落したんじゃないか。じゃあ次はどうやってこうかと、この数ヶ月ずっと考えているんですが。

そういう意味では、先ほどの話に戻りますが、恋愛で大きく変わったという感覚はこれまで何度かあったんですが、今は秒速以前と以後で意識が大きく変わったという思いがありますね


司 : 自分自身が変わっていくということが怖くはないですか


新 : 自分自身が変わることへの恐怖というのはこれまでの人生であまりなかったですね。

むしろ他人の心が変わってしまうという恐怖の方が、20台半ばくらいまではありました。

ただそれも、省みて自分の気持ちというのも、自分のコントロールを外れて変わってしまうことがあったんですね。

そうすると、自分の気持ちも変わるんだから相手の気持ちが変わってしまうことについて不平を言うのは理にかなってないなと思うようになって、最近はそういう恐怖というのはあまりなくなりました


司 : そういう意味では変わらない思いをずっと持ち続けている貴樹とは逆ということでしょうか


新 : そうですね、あれも……うーん、自分の気持ちと貴樹が今思っている気持ちっていうのはイコールじゃないんですよ。

登場人物と自分の気持ちが100%イコールになることというのはあまりないです。

貴樹に関して言えば、彼はああ振舞うしかなかったんじゃないかと思います。その辺は、登場人物をコントロールしきれていないということになるのかも知れませんが

新 : ここで、笑顔という映像を観て頂こうかと思うんですが、これはNHKみんなのうたのために作った作品です。

作っている当時ハムスターを飼っていたので、作中にもハムスターを登場させているのですけど、ちょっとこの作品については批判を頂いていまして、それについてまず説明をさせて頂きたいと思います。


    (以下、「笑顔」の映像についてのネタバレを含みます)

この中で、ハムスターが回り車で遊んでいたらそれがいつの間にか草原を走っている絵になるという部分があるんですが、ここについて「人間のペットに対する思い込みとか身勝手さが表れている」という批判を頂いたんです。

実際には狭い檻の中の回り車の上を走らされているのに、そこに大草原を走っていてくれればいいなと思い込んでいる、ということですね。

ただ、それは敢えて分かってやっているというか、「だってそれでも僕らはペットを飼っているではないか」という思いがあって。

例えば今の飼い猫というのは、外の世界に放り出されてしまった場合、平均寿命が5年くらいになってしまうという話もあるんですね。

そういう意味で、飼われてでも長生きできて餌の心配もせずいられるのと、自由にいられるということ、どちらが幸せかというのは分からないんじゃないか、と。

だからこの作品のようなペットに対する一方的な思い込みというのは、確かに人間の醜さかも知れない。でも、それが人間の温かさかも知れない、というように考えています

    ここで「笑顔」上映

司 : それでは次に、映像を作って生活していくということについてなんですが


新 : 映像を作って行く上で、小ぢんまりとした体制で作っているからこそ実現できることということはあると思います。

また僕はオリジナル作品がたまたま続いているけれども、特にオリジナル信仰があるというわけでもないです。

ただ、それで食べていけるかどうかというのはまた別の話で、例えばこの『笑顔』の場合NHKの買い取りという形だったので、評判が良くても悪くてもお金は払ってもらえる、という形式でした。

なので、取り敢えず口当たりのいいものにしていきたいなと、というつもりで作っていました


司 : 秒速〜は三話構成になっていますが、ああいった構成にしようというのは、どのように思いつかれるのでしょうか


新 : 作る作品が音楽が前提にあるPV的なものなのかストーリー的なものなのかというのはあると思いますが、どちらにしてもまずワンアイディアがないと取り掛かれないです。

例えば今の『笑顔』という曲の場合、歌詞だけ聴いていると恋人に対する想いですとか親子の間の想いですとか、そういう風に感じると思います。

ただここではそれを少しずらして、ペットとの関係にしてみようかなと思ったんです。

これが例えば『ほしのこえ』であれば、彼女からのメールが届くまでの時間のずれですとか、そういうように作品の核となるアイディアを思いつくことが重要ですね。

これは机の前にいて考えていてもなかなか出てこないです。

例えば電車の中ですとか、ジョギングしているときに思いついて、忘れないように帰ってからエディタを開いてすぐ書き留めるとかですね。

今日もこちらに来る間、小田急線の中で今抱えているゲームのOPの絵コンテについてずっといい案が出てこなくて悩んでいたんですけど、ちょっと思いついたことがあったりしました


司 : 製作には主にマッキントッシュを使われていますが


新 : ハードウェアはそのとき普通に買えるものを使っていますね。

会社時代はお金の関係でミドルレンジの入門スペック的なものを使っていましたが。

あとデジカメを利用した作りというのは彼女と彼女の猫の頃から変わらないですが当時は100万画素くらいのカメラでした


司 : 光の表現などは作品ごとに変えているのでしょうか


新 : 色へのこだわりというのはありますね。それは作品ごとにテーマがあるんですが、作っている間に段々変わって行ったりもします。

この作品はもっとシンプルにやっていくつもりだったのに終わってみたらそうでもなかった、というようなことはよくありますね。


秒速に関していえば、色にはものすごくこだわったつもりです。

キャラ絵についても背景美術が決まってからそれに合わせて色を決めたりですとかちょっと普通のアニメ製作では出来ないようなことをしていますね。

1000カット全てのキャラの色を、美術に合わせて自分でカスタマイズしています。

秒速では1600万色でも足りないと思うことがしばしばありました。同じ黒であっても今よりももっと黒い黒が欲しい、今よりもっと白い白が欲しい、というように。

こういったものは周りの色などとのバランスの問題だとは思うんですけど、背景を描く者としてはそれくらいこだわりを持ってやっています


司 : そういった背景の中でも新海作品といえばやはり空が特徴的だと思うんですが、空には対しては思い入れがあるのでしょうか


新 : 思い入れというか、最初のうちは単純に空を描くのが楽だったんです。

グラデーションもPCで描いてますので一発でかけられますし、雲も不定形ですからアイレベルとパースさえ合わせればがーっと描けちゃうんですね。

色も時間帯や天気によってバリエーションが出しやすいですし。

そういう意味で、制作の上でのコストパフォーマンスが良かったんです。

ただ、お客さんに誉めていただいたり感想をいただくことでそれに引っ張られて空の表現の比重が上がってきた面はありますね。

そう、御存知の方おられるかどうか分かりませんけど、mixiで僕の作品関連のコミュニティがいくつかあるのですが、その中で「新海っぽい写真を上げるコミュ」っていうのがあるんです。あそこは参考にさせてもらいました。

秒速でもそうですし、この間作った長野の新聞社のCMでも同じようなやり方をしています


司 : 秒速5センチメートルが短編連作という形式になったのはどういう理由からでしょうか


新 : まず第一に短い作品を作りたかったというのがあったんです。

映画というのは長いものほど観るのに覚悟が必要になってくるので、気楽に観てもらえるものにしたかったというのと、制作的にも楽なんじゃないかという期待がありました。

雲の向こう〜の制作がすごく大変だったというのがあって。

でも秒速も、実際やってみたら大変だったなというのはありますね


司 : 第二話で、貴樹が出す当てのないメールを打つ癖がついた〜というところがありますけど、自分のことで恐縮なんですが、自分もああいうことをすることがあるんです。なので観ていて正に自分のことだ、と驚いたのですが


新 : そう言って頂けるとありがたいです。

僕自身は、メモとして携帯にちょっとしたアイディアを残しておくようなことはたまにあります。例えば電車に乗っているときですとか。

そうではなく誰かに宛てた文章を打って、すぐ消してしまうというようなことはやったことはないですね。

それは作品の登場人物と作者である自分は違うということでもあるんですが、貴樹の行動はあくまで作品としての必要上出てきたと言うことになりますね


司 : また私自身のことで恐縮なんですが、私も転校の経験が多いので貴樹の気持ちがよく分かりました


新 : そういう意味で先ほどの話と絡めますと、実は転校を続けている人の方が変わってしまうことへの恐れがあるのかも知れませんね。

角田光代さんという方の作品内で「転校をしたことのある人間としたことのない人間は決定的に違う」という文章があるんですが、それを読んだときすごくびっくりしたんです。

なので、秒速5センチメートルで貴樹が転校を繰り返しているという設定もそれに影響を受けているかも知れません


司 : 恋愛にしても、転校が多いとどうしても遠距離恋愛になってしまうことがあって、そのとき相手と気持ちが離れていく様子というのが秒速ではすごくリアルだと思いました


新 : そういう風に思いを重ねて観て頂けるのが一番嬉しいです。

僕自身は遠距離恋愛の経験もないのでそのあたりは基本的に想像力で組み立てているわけですが、普通の恋愛でも何か大きな出来事があったわけじゃないけれども段々間隔が開いていってしまうということはあるわけで、それと同じようなことではないかな、と思って作っていました。

他にも、コスモノウトで女性の気持ちを何故ここまで書けるのか、と言って頂けることもあるんですが、女性になったことはなくても女性の気持ちになってみることはできるわけです。これは女性の作家さんが男性のことを書くときも同じことで「私の好きな男の人はどんな風に思っているんだろう」と考えて書いているのじゃないかと思います


司 : 秒速〜の結末は作っている途中に決まったのでしょうか、最初からあのような形だったのでしょうか


新 : 最初から決まっていました。というより最初はあれ以外の結論は考えてなかったんですが、作っている途中に、本当にこの終わり方でいいのか、観た人の中にすっきりしないものが残ってしまうのではないか、ということで随分悩んだ覚えはあります。

ただそれも制作が佳境に入ってくるとあまり考えなくなってしまって、完成する頃にはラストについてどう作るか悩んだこと自体を忘れてしまっていたんですね。

なので、実際に公開されてから阿鼻叫喚というか「ひどい!」という感想が多くてびっくりしました。

あの結末に納得が行かないという方は、今度発売されます秒速5センチの小説の中にもう少し詳しい事情が書いてありますので読んで頂くと良いかもしれません。

小説版の方がもしかするとしっくりとくるのではないかなあとも思ったりもしています。

今回自分でノベライズしてみて、自分の作品ながら割と小説的な映像だったというのが分かりました。小説に向いている作品だったんだなとも思いましたね。

貴樹に関してはああいう終わり方にしないとまた同じ輪の中に入ってしまうわけで一歩踏み出せたという意味であの結末で良かったのだと思っています


司 : 当初はオムニバス短編集という形式だったということですが、短編のときからああいう結末の作品が一本あったということでしょうか


新 : そうですね。

今回の作品は最初は発表の目処もなかったので、短編をバラバラに作ってネットで公開して、あとは丁度今回の作品の企画を始めた頃からitunesが映像を扱い始めた頃だったので、そこで売ったりしてもいいかな、と思っていたんです。

結局Yahooで先行配信ということをやることになったので、Yahooでやっちゃうとitunesとはライバルですから(笑)そちらで売るというのは結局できなかったんですけど。

まあ今だとニコニコ動画で秒速も全部観られるようになっていますけど(笑)


司 : 背景を描き上げるのにどれくらい時間がかかるのでしょうか


新 : 理想は一人一日2枚というのが美術スタッフの中では言われていました。

でもどうしても大変なところというのは一週間かかっちゃったりしますね。

逆に簡単なところは一日5枚くらい描けてしまったり。

そういう意味では普通のTVアニメシリーズとは配分が全然違います。


今日こちらの大学にお邪魔してデザイン科の作品を見せて頂いてキャンバスに筆で描いたアナログの絵というのを久々に見ましたが、すごいですね。

僕はアナログ美術の勉強をしたことがないので未だにそのあたりはコンプレックスがあるんです。

それは同じアニメの製作者に対してもやはりあるんですが。


僕の場合はフォトショップで描くための美術として最適化されたものを描いているんですね。なので、フォトショップのバージョンアップと描き方の変化が一緒になっているんです。

なんかアドビ大好きみたいになっちゃってますけど、たまに気分を変えてみようかと思って、ペインターを買ってみて使ってはみたけどやっぱりしっくり来ないんですね。

なのでまたフォトショップに戻ってしまいました


司 : 海外でしばらく生活するということですが、村上春樹も海外に行っている間に作品を書いたりしています。監督も現地で作品を制作される予定があるのでしょうか


新 : 今のところはちょっと分かりません。僕の場合は行って一年くらいだと思いますし。

先ほどもちょっと話に出ましたが、同じ場所での共通前提に立った作品づくりから少し離れてみたいというのがあって。

僕は長野から東京に出てきたんですが、もう何年も暮らしているので食事に行こうと思ってもどこに行けばいいかすぐ分かる、夜飲みに行きたくなっても適当な店を知っているという感じで、すごく居心地が良くなってしまっていて、このままでいいのかとちょっと怖くなってきたんです。

一度、「あなた誰?」と言われるようなところで一から勉強し直したいと。

そういう意味では村上さんのように何か手応えがあって行くというわけではないです


司 : 遠距離恋愛の実践というわけではないんですね


新 : そういうわけではないです(笑)


司 : 最後に今後作ってみたい作品として、原作もの、例えば村上春樹さんの作品を映像化したいというようなことはありますでしょうか


新 : 村上さんの作品は思い入れが強すぎるのでちょっと難しいですね。

既にいくつか映像化されているものもありますし。

「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」は映像で観てみたいという思いがあるんですが、確かアニメで、灰羽連盟でしたっけ、あれはちょっと似ていますね。

村上さん以外では、乙骨淑子さんという絵本作家さんがいるんですが、最近はこの方の作品に興味があります




この日もかなり予定時間をオーバーしていたようでサイン会などは無し。

監督は美大の学園祭というのに興味があったのか、しばらくキャンパス内を見て歩きたいとのことで、講師の方が「見かけてもサインとかねだらないようにして下さい」と注意を呼びかけていました。

最後にアンケートがあったのだけど「好きなアニメ」「好きなマンガ」「好きな小説」という項目はどうなんだろう……。

私はトークの中で出た空の話題にちなんで「sola」「宙のまにまに」「空の境界」としときましたが。





本イベントの告知サイト

http://www.yokohama-art.ac.jp/system/event/2007/0928_358.html

東京工芸大学講演会(7/28)

  • 会場は大学のちょっと広めの階段教室。席はほぼ満席で300人くらい入っていた感じ?
  • 開始直前になって監督登場。しかし普通にTシャツ姿で歩いてきて準備中の学生スタッフに入り混じっていて全く違和感がない。
    多分監督知らない人は学生だと思っていたに違いない……。
  • 正面スクリーンにプロジェクターでPCの画面が投影。かのねこダイジェスト・笑顔・ほしのこえ予告・雲予告・秒速予告と名前のついたファイルが置かれている。
  • 司会役の講師の方が登壇し、イベント開始

(以下、司会:司、新海監督:新)

司 : 今回、大学祭に新海さんを呼ぶことになった経緯ですが、学食で『学祭に呼んで欲しいアニメ監督』というアンケートを取ったところ、上位に入っていたためお願いしたところ、引き受けて頂けたわけです。

新 : こうした講演会に声をかけて頂けることもあるのですが、なかなかスケジュールが合わなかったんです。今回はたまたま都合がついたので、非常に楽しみにしていました。

    ここで、まず秒速の予告編を上映。

司 : 今日は、学生時代から今に至る経緯ということでまずお話頂ければと思います。
新 : はい。
(このときの会場の所在地、厚木について)こちらの方に来たのは春に箱根の温泉に行くとき通って以来なのですが、こちらの大学は写真学科などで非常に有名な大学と伺いました。

僕は中央大学という大学に通っていたのですが、そこも山の途中にある学校で、今日こちらに来て、景色の雰囲気は似ているなあと感じました。

それと、大地丙太郎監督がこちらの出身と伺っています。大地監督とは何度かお話させて頂いたこともありますが、有名な作品を幾つも作っておられますよね。



僕は学生時代はアニメとは縁のない、文学部だったのですが、学校にはあまり通っていなかったですね(笑)一番熱心にやっていたのはアルバイトだった気がします。

それと児童文学研究会というサークルに所属していて、そこでオリジナルの絵本を作って、クリスマスに近くの児童館で子供に読み聞かせたりしていました。

専門的に絵を習ったり、誰かに教わったりということはなかったですね。



就職が決まったのは少し遅くて大学4年の9月頃でした。

実家が建設業だったので、なんとなくそちらに行けばいいかなと思っていて、夏頃から活動を始めていたんですが、その建設業界関係の就職活動をした帰り道、たまたま知っているゲーム会社の看板を見つけて、募集要項をもらって帰ったんです。

丁度その頃というのはプレイステーションが発売されたばかりで、これからゲーム業界は盛り上がるみたいな話があったので、ゲームもいいかな、と思って試しに面接を受けてみたらそのまま採用ということになりました。



最初配属されたのは50人くらいのセクションだったんですが、そこで半年くらい雑用というか、雑誌記事の切り抜きの整理をしたりというような仕事をしていました。

次にしたのが、丁度その頃デジタル化という流れが世間的に起きていて、うちの会社でも会社のロゴマークを紙焼きのものからデジタルへ移行していたんですが、その変換作業をやることになって。

ベジエ曲線でロゴをトレスしたりとか、スキャニングしたものをフォトショップで処理したりとかいった作業だったんですが、そのときアドビ製品に初めて触れたんです。



子供の頃もPCで絵を描いたりしていたんですが、そのとき使っていたPCというのは色数がデジタル8色、クロックも4MHzくらいのものだったんです。

それが、会社に入って初めて触れたのがフォトショップの確かVer2.5でした。



僕はアニメーションを作りたいという思いは中学高校通じてなかったんです。

ただ仕事でツールを操ることで、それなりのスキルが身についてくるんですね。

そうすると、それを使って何かを作ってみたいという思いが生まれてくるんです。



そうして、はじめは会社のホームページを作ったりしてたんですが、そのうちDTPの版下を作るようなこともするようになりました。

そのうちに今度は、世間的に3DCGが流行になったんでうちの会社でも3Dのムービーを作ろう、というような話になって、3DCGソフトの選定を行ったり、それを使ってムービーを作成したりしました。

次にそこから、ゲームのOPムービーも作るようになっていって、気づいたらアニメらしきものが作れるんじゃないか、というようなスキルが身についていたんです。



例えばゲームのOPであっても、自分が作っているものを誰かが見てくれている、誰かに伝わっている、というのは嬉しいものなんです。

ただ、僕の場合それとは別に、仕事では解消できない部分が出てきてしまったんですね。

僕がそのとき作っていたのはロールプレイングゲームのムービーで、それはいわゆる剣と魔法の世界で、例えば自動販売機とか電柱があるような、僕らのこの世界というのは書いていなかった。

確かにそういったゲームの世界は非常にドラマチックなわけですが、そうではなくて、僕はもっととりとめもない世界、女の子と喧嘩したりとか今日会社に行きたくないなーという気分とか、そういうものを表現したかった。

そういう思いを吐き出す欲求が高まって作ったのが、『彼女と彼女の猫』という作品でした。





新 : これは確かフォトショップ5.5とアフターエフェクツ4.0で製作していました。

これを作っていた時期というのは実は非常にプライベートが辛い時期でして、これ、最後が『この世界のことが好きなんだと思う』ってセリフで終わってますけど、ほんとにこの世界を好きだと思いたくて作ってたんです(笑)。



これを作っていたときはハードの能力がまだ低かったのでモノクロだったんですが、今観ると90年代の映像だなー、という気がしますね。

エヴァンゲリオンとかの影響がもろに出ているというか(笑)。



製作期間は一ヶ月から二ヶ月くらいでした。

丁度、イースエターナルというゲーム、ちょっと古いゲームなのでここにいらっしゃる方は御存知かどうか分かりませんが、それのOPを会社で作って、終電で1時ごろ帰ってきて、これを4時まで作ってから寝て、また8時ごろに出かけるという毎日を送っていました。



このときはまだ、声優の方にどう声をかければいいのかとか全く分からなかったので、お聞きになって分かると思いますけど僕自身と、それから友人の女の子にお願いして声をあてています。



この作品はコンテストに出して2つのコンテストでグランプリを頂いているんですが、その一つが埼玉のスキップシティというところのコンテストで、こちらで賞金100万円を頂いて、それでいいマシン、いい器材を揃えることができました。このとき買ったマシンがほしのこえを作るのに使ったものになるわけなんですが。



彼女と彼女の猫という作品をたくさんの人に観てもらえたことで、映像を仕事にすることができるんじゃないかと思うようになって、「ほしのこえ」を作り始めました。

まだ会社にいた頃から作り始めてはいたんですが、会社を辞めてから、それまで作っていたパイロット版は全て捨ててしまってそれからの製作だったので、製作期間は実質8ヶ月くらいですね。

当時付き合っていた女の子からなかなかメールが届かないということがあって、それがきっかけになっているんですが。

当初はパイロット映像を作りながらシナリオを練る、という生活を会社に通いながら続けていました。

退職をしようと決めても実際は色々しがらみがあったりするわけなんで、退職を決めてから実際に辞めるまでは結局一年くらいありましたね。



司 : 先ほど、一度パイロット版は全て捨ててしまったというお話がありましたが、自分の絵を捨てるというのは難しくないですか。



新 : 難しいというか……今でもそうなんですが、一ヶ月前の自分の絵と一ヶ月後の自分の絵というのはもう明らかに違うんですね。単に違うというだけでなく、恥ずかしくなってくるんですよ。なのでむしろ見せたくないので捨てたというのが正しいです。

今でもこの頃の絵というのは直視できないですね。



この中にほしのこえを御覧になったことがある方は……(半分以上が手を上げる)これでどういう方々がいらっしゃってるのか分かりますけど(笑)、今日持ってきているのは実は予告編4というものなんですが、予告編1・2・3は世の中に出さないように、って言ってるんです(笑)。



それで、ほしのこえを作っている最中に、「うちから売ってみませんか」というお話をいくつか頂いたんですが、声をかけて頂いた会社のうち、ComixWaveさんが一番誠実な感じがしたんです。

当初は200万円で権利を買い取りますというお話だったんです。ただ、著作権は残しておきたいな、という思いがあって、伝えましたら、それでは、ということでロイヤリティの交渉になったんです。これもはじめての経験でしたね。



ほしのこえが成功してまとまったお金が入らなければ、もうそこでアニメはやめて、また別の会社に入って別の仕事をしていたかも知れないです。

そういう意味で、ほしのこえが公開されたあの日以来、人生が決定的に変わってしまったと思います。

色んな人から怒られもしましたし(ほんとに色んな方から怒られたんですよ(笑))、作品について誉めて頂くこともあれば罵詈雑言を投げつけられることもあり。



司 : ほしのこえを作っていた当時から今も変わっていないことというのはありますか。



新 : 変わらないことというと、フォトショップとアフターエフェクツ、それにライトウェーヴで作業するというスタイルですかね。

変わらないのはそういった技法の部分だけです。

あとは、製作環境も自分の立場も、作品ごとに変わっています。



司 : ほしのこえまでは個人製作で、ある意味一人で何でもできるという状態だったわけですが、そこから次の段階として、チームで製作を行うという方向に変わってきていますよね。変わった理由はどういったことになりますでしょうか。



新 : 大きい理由としては、寂しくなっちゃったんだと思います、一人で部屋にこもって作っているのは。

雲〜では絵のメインスタッフは30人から40人でやっていましたね。



ほしのこえの頃に、別の行くべき方向性というのはあったかも知れません。

僕がほしのこえを発表したとき、これでアニメーションが小説や漫画と同じように個人の情動をベースにしたものになったんじゃないか、とも言われました。

今、振り返ってみると、僕はそちらの道は選ばなかったことになりますね。

そちらの方向性としては、今は蛙男商会さんですとか、やわらか戦車さんとかがFlashアニメという形でやっておられますけど。



僕がそちらの道を選ばなかったことについて、失望された方もいますし、直接怒られたりもしました。「君は個人でアニメを作れるという道を示したのにスタジオワークに行ってしまった」というように。

でも、僕はアニメーションの歴史のために作品を作っているわけではないので、そういわれるのはちょっと……。



雲を作っていたときというのは一番つらかったです。

それは多分、仕事として初めてアニメーションに向き合った時期だったからなんですね。

ほしのこえを作ったときは、お客さんにも見てもらえるしお金も入る、なんて素晴らしい仕事なんだ、としか思わなかったんですが、雲のとき、アニメを作ることが初めて生活になったんです。

これは想像していたことと違って結構大変でした。



それは主に自分のスキルが足りないことによるんですけど、ほしを作っていたときは、アニメを作ること自体がお祭りだったんです。

でもアニメを仕事にするっていうことは、作ることが日常生活であるべきなんです。

僕はそういうスタンスから入らなかったので、いざ仕事となったとき、色々どうすればいいか考えながらやらないとならなかった。



あとはそうですね、結局スタジオワークの作品になってしまって、作っている人たちの顔が見えなくなってしまったというのもあります。

そういった意味で雲は製作中、ストレスが溜まってしまう作品になってしまったので、秒速〜では、渋谷の自宅にスタッフに通ってもらう方式にして、自宅で作っていく作品にしました。

だから製作は楽しかったですね。



司 : 自分の作品でこうしなければいけない、というようなこだわりはありますか。



新 : 特にそういうことはないんですが……。

作品の内容についても、いつも色々なことを言われるんですが、そうした指摘の中にも、ああそうだな、と思うこともありますし、いや、そんなことはないと思うことももちろんあります。



「モノローグが多いよね」とか「映像作品なんだからセリフで表現せずもっと映像で語るべきだ」とか「電車が出てくる場面が多いですよね」とか言われるわけですが、そう言われると、じゃあモノローグをもっと多くしようだとか、じゃあ電車をメインにしてしまおう、とか逆に思ってしまう(笑)。



映像作品なんだから映像で語るべきだっていうのが、正直よく分からないんです。

映像作品と言ったって、要素として絵だけじゃなく音だってあるわけですから。

音、特に声には力があります。それは声優さんの生の声だからだと思うんですが、それだけ力を持っているのだから声によりかかった場面というのがあってもいいだろうと思うんです。



あとはこだわりというと、やはり色彩ですね。

アニメというのは普通キャラと背景の絵の作り方が違うんですが、今回の作品はキャラもフォトショップで作画することで、両者が同じ空間にあるようにしたかった。

他には……音楽とのシンクロとか、セリフの選び方というのは、こだわりというわけじゃないんですが、どうしても自分のカラーが出てしまいますね。

そのあたりは、いい意味で捉えて頂ければ作家性ということになるんじゃないかと思います(笑)。

ただ、そうやって自分のカラーが出来てくることの反動で、全く別の作品を作ってみたいという気分もあることはあるんですが。



ある意味ワンパターンというのは重要だと思っていて、それが個人製作のアニメですと作家性ということになるんだと思うんですが、秒速〜は大人数で作っているけれども僕の作品になっていると思うんです。

一方でお金をかけた作品というのが、それに見合うよう段々と平均化された作品になってしまうのだとしたら、商売として成り立つのであれば作家性に拠った作品というのがあってもいいんじゃないかと思っています。



司 : 今後、実写で作品を作りたいというような気持ちはありますか。



新 : そのつもりはあまりないですね。

手で描かれた絵が好きだからアニメーションをやっているというのもありますし、今は違いますけどやろうと思えば一人でもやれてしまうところがアニメーションの魅力だとも思っています。

子供のころ、勉強している合間にノートの片隅に落書きをしたりしていた、あの頃の延長で今も作っているようなものなんです。

誰しも自分の中には、まだ語られていない、胸のうちにはあるんだけれども外に出て行っていない物語というのがあるんじゃないかと思います。そうした物語を語るのに、アニメーションというのはふさわしい方法なんじゃないか、と。



実写というのは、半ば俳優さんのものでもあるわけで、コントロール欲求が強い人にはあまり向かない気がします。

あとはコミュニケーションが苦手な人とかもですね……。



それと、アニメーションはコンピュータと相性のいいメディアだと思うんです。

全ての素材をパーツとして扱えるのがコンピュータですから。



司 : これまでの人生で身につけてきたことで良かったと思うことはどういうことでしょう。



新 : よく学生さんからも、アニメーションの道に進みたいんだけれど何を勉強すればいいでしょう、といったことを相談されるんですが、こうしたらいい、ということは言い切れないんです。

それは僕自身が映像製作を始めたのが30近くになってからなので、学生の頃からアニメの勉強をしていたわけではないですし、学生時代は宮沢賢治ゼミですとか永井荷風研究といったようなことをやっていたんですが、あの頃やっていたことが今役に立っているかというとそういう実感もない。



なので、最初からあまりコースをがっちり決めないで、迷いを持ったときにはそのときの流れに乗ってしまうというのもいいかも知れないです。

最近でも、秒速〜の小説を書いていたときは小説家もいいかな、とか思ってしまったんですが、それも三ヶ月書いたら「やっぱりいいや」となってしまいましたし(笑)。



新 : 今日、僕の話を聞いて作品に興味を持ってくださった方は、ネットにつながる方でしたらニコニコ動画ででも今は全部観られますので(笑)。

作品を発表して対価を得ている立場としてはあまり好ましい状況ではないのかも知れませんが(笑)、物を作っている者の根源的な欲求としては、出来るだけ多くの人に、出来るだけ遠くに届いて欲しいというのがまず第一なので、そういう意味ではいい時代になったと思います。



そうして観て頂いて、これは次回作を作ってもらいたいな、とか、これは手元に置いておきたいな、と思って頂ければ買ってもらえるとありがたいですし、たとえそうでなくても、観た人の想いっていうのは何らかの形で作者の元に戻ってくるものだと思っています。



あと、僕のやっているような映像製作というのは、やってみれば意外と出来てしまうものですので、皆さんも気軽に着手してみてはどうでしょうか。



司 : 予定時間を過ぎてしまっているのですが、折角の機会ですので新海監督に質問があるようであれば、少しだけ受け付けたいと思います。



新 : あ、時間の都合がある方は、退席して頂いても構わないです、出て行かれても別に傷つきませんので(笑)。



質 : これまで一貫して切なさとか寂しさといったことをテーマにした作品を作り続けておられますが、理由はありますでしょうか



新 : 僕自身がそういう感情が好きだからというのが大きいと思います。

悲しかったり寂しかったりした、孤独な時間が多かったからかな、と……あまり人付き合いが上手な方ではないので。

そういった意味では、かつての自分自身に向けて作っているという側面はあるのかも知れません。

(では、これからもこういった作風を続けられるということでしょうか?)

はい、多分そうなるんじゃないかと思います。



質 : 僕は新海さんの下で働きたいと思っているのですが、どうすればいいでしょうか。



新 : 難しいですね……基本的に、固定でスタッフを置ける体制ではないんです。

製作が決まった段階で、原画マンさんの知り合いなどのつてを頼ってスタッフを集めるような体制でやっていますので。

それとか、背景美術の方が学校で教えている学生さんにバイトで来てもらったりとかですね。

そういうわけで、難しいとは思うのですが、ComixWaveの人に声をかけてみると何か教えてもらえるかも知れません。



質 : 商業的に、作品への条件を出されたとき、自分の中でどう折り合いを付けるものなのでしょうか。



新 : 商業的な条件ということで一番大きいのは締め切りですね。これはもう商売でやっているのだから仕方がない。

ただ、内容的な面については、折り合いをつけたことはないんです。つける必要がないということなのですが。

ComixWaveは、好きなものを好きに作って下さい、という非常にありがたい会社なんです。

もしかしたらそういったことが僕の作品の欠点に結びついているのかも知れませんが、僕自身も、そういう風に出来る環境を作ってきたつもりでもあります。

そういう意味では、内容を作るより先に自分で好きにやれるような枠組みを作ってしまうというやり方もあるんじゃないかと思います。



質 : 新海さんの作品に特徴的な、印象的なシーンのエフェクトについて教えて下さい。



新 : 使っているツールはほとんどアフターエフェクツのみですね。

複数のエフェクトを組み合わせていますが自作のエフェクトを作ったりはしてないです。

プラグインも市販のものを使うことがほとんどで、代表的なものとしては4種類あります。

まずファイナルフォーカスですが、これはアフターエフェクツ本体のガウスの単純なぼかしでは満足できない人にはお勧めです

(アイリスフィルタは使わないですか?)

あれはライセンス料が高いので……(笑)

あとは桜花抄の雪などは、パティキュラーで作ったものをほぼそのまま使っています。

それから、ノルライトファクトリ。これはレンズフレアなどの効果ですが、カスタムで組み合わせて使っています。

あと、55mmというのがあって、これは画面全体にデフュージョンをかけたりといった効果のために使っています。

簡単なエクスプレッションを自分で作ったりはしますが、それ以上の複雑なことはやっていないです。



質 : 秒速〜のキャラの影はどうやって塗っているんでしょうか。

単純なやり方では出来ないと思うんですが



新 : レタスのようなツールでは多分できないですね。

あれはフォトショップでグレースケールのまま取り込んで、なげなわツールを使って選択しながら地道に塗っていくという作業の繰り返しでした。



質 : 背景はロケハンで撮った写真を加工してるんでしょうか



新 : ロケハン写真を元にした絵が400枚、それ以外が600枚くらいの割合なんですけど、写真を直接加工するようなやり方ではなくて、まずフォトショップの一番下のレイヤに撮ってきた写真をおいて、そこで一旦パースの引き直しを行います。

次に、写真には映っていない物の配置を行います。

その状態で一旦線画を別に起こして、あとは写真をモデルにしながら彩色していくような感じです。




このあと特別にサイン会が行われて、結局さらに一時間近く監督は壇上に残っていました。





参考

上記の質疑応答の中で出てきたプラグイン関係については下記を参照のこと。



ファイナル・フォーカス、アイリスフィルタ

http://www.too.com/digitalmedia/movie/sakura/sakura_index_right.html
ジブリなども使っているプラグイン



パティキュラ

http://www.cvalley.co.jp/ae_plugin/trapcode/particular.html

ノル・ライトファクトリ

http://www.cvalley.co.jp/ae_plugin/red_giant/knoll_light_factory2.html

55mm

http://www.cvalley.co.jp/ae_plugin/digital_film_tools/55mm.html

その他、プラグイン関係のインデックス

http://www.cvalley.co.jp/ae_plugin/index.html





本イベントの告知サイト

http://www.t-kougei.ac.jp/about/event/2007/017.html

明治大学アニメ・声優研究会主催イベント(6/24)

  • 会場の北区赤羽会館は普通にきちんとした市民ホールタイプの建物。
  • さすがに満席にはならず、会場の1/3〜半分程度が埋まっている感じ。
  • 会場では入り口でefのゲーム&アニメ(まだ放映開始前)のチラシを配られる。
  • ステージでは椅子が向かい合わせに置かれた形で、トークイベントらしい配置。
  • まずminori酒井氏が袖から登場。続いて、呼ばれる形で新海監督登場。

(以下、酒井氏:酒、新海監督:新)

酒 : 最初に、いくつか質問しておきたいんだけれども、まず今日来ている中で、働いてない人は?

なるほど、社会人が半分くらいという感じか。

あと、minoriというのはポルノ産業なんですが、それ御存知の方は?

あー、なるほどね。

じゃあ、新海監督のことを御存知の方は?

まあ、これで大体どういう感じで話をすればいいのか分かりました

酒 : onsenで、minoriのラジオ番組があるんだけど、これがいつもひどいんですよ


新 : あれはひどいですよね


酒 : なんか新海さんに会うたびに『onsen聞いてますよ』って言われるんだけど


新 : ああ、あれは半分嫌がらせです

酒 : 今日はまず一部・二部で映像論・技術論的な話をしていって、三部は裏話的なことにしようと思ってるんですが、じゃあまず一部ということで。

秒速5センチメートルなんですが……


新 : 今日はefのお話ですよね?


酒 : いやいや、秒速5センチの話でしょ。

……ちなみにefっていうのはminoriで作っているゲームなんですが、この中で、買ったという方はどれくらいいますか


新 : これでどういう方々が来ているのか分かりますね


酒 : じゃあ、買ってないのにプレイしたという方は?

……ああ、なるほど……。いいんですけどね。

まあ、買っていただけると次が作れますので……

酒 : 秒速5センチメートルは今年の早春公開って言われてたんだけど、3月は早春じゃないんじゃね?


新 : いや、早春って3月のことを言うんですよ

酒 : 秒速は何で三部作にしたんですか?


新 : いや、何で二部作にしたのかっていうのもあるんですけど……(※efのこと)。

まあ、最初は短編を作りたかったってのがあって、結果的に三部作になったんですが


酒 : じゃあ、まずフォーマットありきだったんですか


新 : 割とそうですね。

雲の向こうが90分だったんだけど、割としんどかったんですよ。

なので、もうちょっと気楽に向き合えるものを、と思って


酒 : それ聞いて、90分でも60分でも大差ないだろうと思っちゃったんですけどね


新 : 結局カット数は同じくらいになっちゃいましたからね。

まあ、見通しは付きやすかったです。一本一本が短かったので


酒 : 観ていてテーマ的なものが伝えづらい形で描かれてるように思ったんだけど、これはギミック的にこう書くとユーザにどう見えるかっていうテストケースだったりしたんですか


新 : いや、テストケースとかは特に考えずに、素直に作ったらああなっちゃったんです


酒 : 基本的に直球投げないですよね。

観ててね、これ絶対伝わらなくて、わかんないって暴れる奴いるぜって思ったもん。

結果論から言うと、いわゆる普通のアニメじゃないんですよね


新 : 最近小説版も書いていて、思ったんですけど、小説の方が伝えたいことをストレートに言えますよね。

今観ると映像になって結構こぼれ落ちちゃった部分があるなあと思いました。

映画っていうのは、お客さんが観ていられる時間にも限界があるし、あまりあれもこれも詰め込むことはできないんでどうしてもこぼれる部分は出てきてしまいますね。

自分としては、正道のアニメーション作品というのは世の中にたくさんあるし、こういう作品があってもいいんじゃないかと思っていて


酒 : ああ、それは分かる。

うちのゲームも、もっとAIRみたいにして下さいとか、D.C.にして下さいみたいに言われるんだけど、それはAIRとかD.C.をやればいいのであって……


新 : 時かけ』みたいな映画を作って欲しかった、と言われたりもするんだけど


酒 : 他人と同じもの作っても、大抵そっちの方が上なんですよね


新 : なるべくたくさんの人に気に入って欲しいとは思うんですけど、そうすると薄まってしまう部分というのもあると思うし、そういう意味では直球にしろ変化球にしろ、濃いものを出して行けたらいいなと

酒 : で、第一部はひとまずここまでになるんですが、第一部の内容に関連したことで幾つか事前に質問頂いているのにお答えしていこうかと思うんですが、まず一つ目、『作中で埼京線の待ち合わせで武蔵浦和駅が出てきますがここを選んだ理由は?』っていうことなんだけど


新 : 武蔵浦和駅で実際待ち合わせがあるっていうだけの理由だったんですけど、昔住んでいたことがあったっていうのもちょっとあるかも知れないですね。

自分が住んでいた場所を映像に出したい、という気持ちがありますので


酒 : minoriの作品でもはるおととかWindは実在の場所が出てくるんだけど、あれはここに行ってこういう写真を撮ればいい、ってのが分かるから使っているというのもあるんだけど


新 : はるおと、中込線出てきますよね。

僕の場合作品を作るということが生きることとどうしても重なるので、自分が生きてきた足跡を残しておきたいというのがありますね。

あのとき自分が何をやっていたのかと考えたとき、ずっと部屋にこもって仕事してたな、となってしまうのが嫌なので……

酒 : じゃあ二つ目、『声優を選ぶ際にはどの辺を基準にしてるんですか』


新 : 本職の声優の方であるとか俳優の方であるとかこだわらずにMDでもらったものをオーディションして選んでます。

僕の作品はモノローグが多いので、主に声を聴いて感じる気持ちよさを重点にしてますね。

ゲームの場合ってどうなんですか?


酒 : 声優事務所からデモテープが送られてくるんで、それを聴いて選びますね。

大体2000人くらいかな。

efのときはCDで22枚くらいあって。

ただ、意識はしてないのに結局同じような人になってくるってのは、その人の声が好きってことなんだろうけど。

自分の場合は、チャートを作るんですよ。高い声〜低い声とか。で、そこに当てはめていくんだけど。

どうしても好きだけで選んでると、作品の中で同じような声ばっかりになっちゃうんだよね


新 : 僕の作品は登場人物が少ないんでまだいいんですけど、efみたいなのは大変ですよね


酒 : ドラマCDになったときが最悪でね。

そういう意味でなるべく声優喋りにならない人を選ぼうと思ったりしてるけど、あとはドラマCDだと、滑舌が悪い人ってのが、意外とキャラ立てになったりするんで


新 : そういう意味では僕の作品でもあまり演技しないで下さいと言いますね。

言い淀みとかも含めて、そこは自然な感じが欲しいので。

なのでアニメに慣れている声優さんほどリテイクが多かったりしますが

酒 : じゃあこんなところで、第一部についてまとめると、物語というのは自分たちの生きてきた証みたいなものだと


新 : 何もあとに残らないよりは、違和感でもいいから引っかかるものがあってほしいですね。それがたとえマイナスの印象であっても構わないので……

    ここで、第二部開始前にminori作品のOPをまとめて編集した動画上映。

新 : このOPのあとに、latter taleのOPが入るんでしょ?


酒 : efに関してはね、二部構成という形だけど、こういうのは本当は一本で作るべきだと思ってるんだけど、言い訳をするならば、ぶっちゃけお金がかかり過ぎました


新 : あのOPだけでも随分使わせて頂いちゃいましたからね


酒 : ただ二部にしたことで色々と良い面もあって、まず半分にしたことでリスクマネジメントしやすくなったというのがある。

それからアニメの話ももらったし……。

まあアニメに関してはWindのとき、アニメの影響はほとんどゲームの売上げに関係しないってことも分かっちゃったんだけど、もしかしたら第一部より第二部の方が売れるんじゃないか、と思ったりもする。

あとは、まあ、ひぐらしをやってみて、ゲームって分割して売っても許されるんじゃんと……


新 : こちらとしても秒速の作業やっている間にムービー2本は難しかったんで、後編の発売が伸びたのは助かったんですが


酒 : efはCGの枚数が極端に多いんでどうしても時間がかかってしまう


新 : そこはたくさん詰め込んだ方がいいと思いますよ


酒 : 新海さん詰め込みますよね。

OPをお願いするとき、新海さんによく曲の歌詞を直されるんだけど、大抵言葉が増えて帰ってくる。

はるおとのとき、元々はあれ、『時計の音が動き出す』って歌詞だったんだけど、直されて戻ってきたら『時計の針の音が今動き出す』ってなってて二箇所も増えてた


新 : 密度が高い方が好きですね。OPについてもいらない部分はどんどん切って密度を上げるようにしてますから

新 : そもそも、『美少女ゲームのOPなんて誰が見るんだろう』って最初思ってたんですよ。

ただ、作らせてもらえるのであれば、『こんなもの今まで観たことない』というものにしたいと思って。

それは今も変わってないですね。Windのときもはるおとのときも、前より10倍良いものにしたいと思って作ってました。

作るとき、びっくりする箇所を3箇所くらい作れば90秒持つかな、と思ってるんですが、例えばWindだと冒頭、カメラを振り上げるところから細かいカット割につながる部分と、中盤の屋上でゆっくりカメラを流すところ、最後の線路が流れていくところですね。

はるおとだと、冒頭のカット割り、靴下を履いたりイチゴを食べたりするところと、中盤の空を歩いていくところ、あとは最後の傘をパッと開くところですとか、それとその前の、曲がり角を走ってくるのがカーブミラーに映るところですね、ここはミラーの中は冬だけどカメラが切り替わると春になってる、という風にしています(※はるおとは宣伝用のものだとムービーが一部異なっているので注意)。

efでは冒頭の紙飛行機が飛んでいくところ、中盤の屋上でのカメラ回り込み、あと紙飛行機がパッとはじけて羽根になるところですね。

酒 : 出だし10秒くらいで掴めないと最後まで観てもらえないですね。

あと、すごく派手ですよね


新 : それは、僕は地味めにしたいんだけど派手にしてって言われるからですよ。

efのOPで紙飛行機がかけ上がっていくところがありますけど、あれ、最初に作ったののBG(背景)倍くらいにって言われましたからね。

結局一万ピクセルくらいになっちゃって、作業的には結構重くて大変だったんですけど。

あとefで、酒井さんに『紙飛行機にレンズフレア入れてください』って言われて、いや、紙なんだからフレアしないでしょ、と。

でもそれに影響されたのか段々派手好きになっちゃってるのかも知れないですね。

はるおとでも、空を歩いているところがありますけど、あれの美術はこんきちさんという方が描かれていて( 酒『おっぱいマンガの人ですよね』  ※別名山田秀樹。「魔乳秘剣帖」で新海氏に帯の推薦文を書いてもらっている)、それに僕が効果とか入れてるんですが、『こんなに派手にしないで下さい』と嫌がられるのを無理矢理派手にしてましたから。

ただ、レンズフレアの派手さで言えば他の方の使い方のほうが派手だと思うんですよ


酒 : ノル・ライト・ファクトリの50ミリとか好きですよね


新 : 50ミリ好きですね。あと最近ではファイナルフォーカスっていって、フォーカスをぼかすことができるプラグインなんですけど、これはefで初めて使ったんですが


酒 : あんまり他では見ないですよね。もっと使って欲しいですよね


新 : まだ他で使ってるのは見たことないですね


新 : あと、はるおとでは色トレスっていって、輪郭線を全て手作業で塗ってるんですけど。

地味に。でもそういうとこで差が出ますよね


酒 : 目の中、あれ、全部ブラシ吹いてるんですよね


新 : ですね。あと髪の毛のグラデーションとか……最近アニメでも、まなびストレートでしたっけ、あれでやってますよね。

背景美術の密度は、ある程度これが限界かなっていうのが見えてきてるんで、あとはセルの密度をこれからは上げていくしかないなと思っていて。

秒速ではセルにもフォトショップ使ってるんですよ。

って言って、分かる人はそこでどれだけとんでもないか分かっちゃうんですけど、説明すると、鉛筆の原画の完全に閉じてない線をそのまま使って、フォトショップ使って、普通はバケツツールかなんかでワンクリックで塗っちゃうところを、途切れた線を選択範囲で一つ一つ囲って塗っていって。で、あとはグラデ処理入れたりして


酒 : 俺それ聞いたときね、そりゃ海の水をバケツで汲んで捨ててるようなもんだよな、って思ったんだけど、よく終わったよね


新 : その辺は学生さんのバイトが頑張ってくれました。大変だったんでもうやらないと思いますけど

酒 : ビスタサイズ好きですよね


新 : ビスタ好きですねえ。

レイアウトとして人の目で見た映像に近いと思うんですよ。

絵の構図として座りがいいし、かっこいいですよね

酒 : ということで、第二部はこの辺までということになりますので、また幾つか事前に頂いている質問から答えて行こうと思うんですが、まず一つ目、『3Dソフトをレイアウト用に使ったりしているのでしょうか』ということなんですが


新 : そうですね、使っている部分もあります。

efでも、tsukuneさんという方が3Dでモデリングして下さってます(※Iris motion graphics社のtsukune氏と思われる)

まあ、絵コンテの際にラフで大体レイアウトしてはいるんですが、ちょっと話が違いますけど、efでキャラの作画をして下さった亜細亜堂の浅野さんという方が(※ベテランアニメーター浅野文影氏のこと?)、『屋上のシーンは作画を頼まれたときにもったいないなと思った』と仰っていて、どういうことかというと、このシーンはフルアニメ、要するに秒間24コマを全て描いているわけなんですが、それが豆粒みたいに小さい人がゆっくり歩いているっていう絵なんですよ。

浅野さんはアニメーターさんなので、こんなごま粒みたいなのじゃなくて、もっとキャラを大きく描いた方がいいんじゃないかと思ったらしいんですね。

ただ出来上がったものを見たら納得して頂けたようで、こういう絵を持ってくるのはアニメーターの視点からは思いつかなかったと言って下さって


酒 : アニメ業界も古い業界だし、その辺は色々固まってきちゃってる部分もあるんじゃないのかと思いますね


新 : 浅野さん自身は、亜細亜堂の方なのにminori社員みたいな雰囲気なんですけどね。

最初の質問に戻りますが、他の作品で言うと、はるおとでは目に見える形としてはほとんど使ってないですけど、公園のシーソーの部分は3Dでモデリングしてますね。あと、杭とかも。3Dでモデリングしたものに手で描いたものを貼り付けて背景美術にしています。

背景動画っていうのは今は中々やりにくいんですよね。

ほんとは手間のかかる作業なんですけど、余程丁寧にやらないと逆に手抜きに見えてしまう

酒 : 二つ目の質問なんですが、『次回作の予定について教えて下さい』ということなんですが


新 : まだ何も決めてはいないんですが……劇場長編はまたやってみたいですね。

今決まってる仕事でいうと、efの後編のムービーが一番大きいです。

あとはアニクリと、それから今ちょっと発表できないんですが短いものが1本(※信濃毎日新聞のCM映像のことと思われる)ですね。

なんだかんだで、短い映像だと作業もすぐ終わるんですよ。

自分がアニメーションを作るのが退屈になるなんて思ってもみなかったんですけど、やっぱり長い作品だとそうもいかないですね


酒 : efはね、もうやることは決まってるんで、あとはやるだけなんですけど。

CGをあと400枚くらい描かないといけない


新 : でも、まだコンテができてないとかだといつ終わるか分からないと思うんですけどそうでないなら、あとは描けばいいだけなんで、いつかは終わりますからね

酒 : じゃあ三つ目。『監督のフィルタにかかる風景はどんな風景なんでしょう』


新 : うーん、どこっていうか、どこでも好きですよ


酒 : うわ、優等生だなー


新 : いや、そうは言っても田舎も東京も武蔵浦和も好きですし


酒 : (武蔵浦和は)ちょっとチョコレートくさいけどね


新 : あとはそうですね、女の子が寂しそうに一人でいる風景とか、いいなあと思いますね。

終電が終わったあと、女の子がぽつんと駅前で座っているところとか、グッときますね


酒 : 俺が今住んでるところはそういうのないからなあ……新海さん、ピストルの音って知ってます?プスップスッっていうんですよ


新 : それは引っ越したほうがいいかも知れませんね


酒 : さて第三部なんですが、ここには『自分史』って書いてあるんですけど


新 : 誰が興味あるんですかね


酒 : 普段何してたんですか


新 : 学校行ってましたね。

部活やって、犬の散歩して、部屋にこもってX1TURBOで絵を描いたりしてました。

当時まだ4096色中8色とかで。

今それが何万色ですからね。楽しくってしょうがないです


    (中略)


酒 : 今喋ったことネットとかで書かないで下さいね。人生まだあるんで


酒 : じゃあ最後に会場の方から質問受け付けようかと思うんですが

質 : efのOPの動画を携帯で配信して欲しいんですが。あと、efの後編はいつ出ますか


酒 : 動画配信ですけど、すみません、公式では、色々あってちょっと難しいです。

efの第二部は、一番効率のいいときに出したいと思ってるんです。要するに儲かるときに、ってことなんですが。

あとはまだ製作にちょっと時間がかかりそうなので……

質 : 新海さんは以前絵本を描かれたりしていたそうですが、今、絵本を描いてみたいというような思いはありますか。また、その他、画集のようなものを出されたりしないんでしょうか


新 : 児童書は今はちょっと興味が薄れてきてしまっているので、今のところ予定はないです。

背景画集というものは予定があるようなんですけど


酒 : 絵本の話とかは普通に来ないんですか?


新 : たまに出版社から依頼があったりもするんですけれどね


質 : あ、その依頼をした者です

新 : はるのあしおとのときは主にゆうろさんとこんきちさんが描いていて僕は描いてあるところを上から塗りつぶす係だったんですけど。

自分の描いたものは中々削れないんですけど、人の描いたものは削れるんですよね。

はるおとのときは、まだ全く別の人に描いてもらうというのが不安で、1カット2カットは自分で空を直したりしていたんですけど、段々そういった心配もしなくなりましたね

質 : efのサントラはいつ発売なんでしょうか


酒 : まだ出ません、なぜかというと後編があるからです

質 : 新海さんがminoriのラジオに出演される予定はありますか?


新 : 出ていいんですか?

というか、結構ハードルの高いラジオなんですよ。

もうちょっと番組内容がちゃんとしてきたら考えようかと

質 : 新海作品で男女が離れ離れになるというのは、体験から来ているんでしょうか


新 : 自分の経験はほとんどないです。

ああいうことがあったらいいな、と思っているのかも知れませんけど……。

第一話で『貴樹くんは大丈夫』って言われてるけど第三話で明らかに大丈夫じゃないですよね。

今、小説版書いているんですが、第三話が分量的に一番長くて、アニメで語られてないことが色々書かれています


酒 : あの最後の貴樹はバッドエンドみたいに言われてるんだけど、あれ、幸せじゃん。

会社やめてるし


新 : どうもそう取られないんですよね、堕落してってるように思われるんですかね


酒 : だから最初観たとき言ったんですよね、そう受け取られるぜって。僕らが観ると違うんだけど。

会社を辞めるってことは、僕らにとってはステップアップなんですよね。会社を辞めたのに食えるってことは、それなりのスキルを身につけているっていうことなんだから


新 : 彼女と別れることについても、自分で決めた道を選んだってことなわけで、ある意味ポジティブなんですけどね。

あれが不幸な状態っていうことは、僕達がネガティブに見られているっていうことですかね……。

心の健康だけみても、僕は辞めて良かったと思いますよ


酒 : あとはうちらで観ていたとき、一話の最後、あれ、絶対ヤってたよねとか言ってましたね。

お前らの脳は腐ってる、とか言ってたんだけど


酒 : 秒速〜はもうすぐDVDが発売でしたっけ。

でも最近DVDって売れないんですよね……


新 : ゲド戦記のあとなんですよね、発売が


酒 : らきすたの一週間あとじゃん


新 : 酒井さんらきすた大好きですね……


酒 : まあ世の中では京アニ厨とか言われてますけどね。つかさが好きで


新 : 僕もOP毎晩観てますけどね


酒 : 携帯で意味なくバルサミコス酸とか入れたりとかね

    (場内爆笑)
新 : (一人きょとんと)え?なんでみんなそれ分かるんですか



最後に質問が採用された人へのポスタープレゼントなどがあって終了。

どうでもいいことだけど、第二部の質問コーナーの最初の質問(3Dソフトが云々……)は私が応募のメールで書いていたものだったりする。

本イベントの告知サイト

http://animeiji.s80.xrea.com/event2007/