アイルランド現代美術館

 キルメイナム刑務所のすぐそばにあるアイルランド現代美術館にも行って来た。無料で入れる。こんな建物である。

中庭と美術館の建物

 第一次世界大戦以降のヨーロッパ政治と芸術に関する展示と、デリーの映画ビデオワークショップグループなどについての展示が特集展示だった。

床に増殖する金色のもにゃもにゃ、前方にみどりのクマ

 

キルメイナム刑務所ツアー

 休日なのでキルメイナム刑務所のツアーに行って来た。キルメイナム刑務所はアイルランド独立運動家が多数収監されていた刑務所で、イースター蜂起のリーダーの処刑も行われたので、アイルランド史にとっては非常に重要な場所である。現在は刑務所としては使われておらず、史跡として保護されている。見学はツアーのみだが、ツアーは大人気でしょっちゅう満員になるらしいので早めの予約が必須である。

 

柵の後ろにいかめしい建物、アイルランドの国旗

いかめしい玄関。以前はここから囚人を入れていたらしい。

 裁判所の部屋に集合し、ツアーガイドに説明をききながら刑務所を回る。

裁判所の部屋

裁判所。ツアーはここから始まる。

 19世紀半ば頃まではひとり用の独房に無理矢理5人入れるというようなこともあるくらい混雑がひどくて悲惨な状況だったらしい。ただしパーネルは世論の反発を怖れて特別に整備された広い個室に入れられていたとのこと。

古い建物と新しいガラス張りの建物

博物館

 ヴィクトリア朝風のパノプティコンっぽい監房があり、ここは特徴的な建築としてよく知られているので映画の撮影がたびたび行われているらしい。なんと『パディントン2』の刑務所のロケハンはここで行われたそうだ。

三階建ての独房。真ん中に広場のようなものがあり、天井から光が入る

三階建ての独房の入り口が並ぶ壁

刑務所内部

 庭みたいなところに十字架がたっているだけだが、これはイースター蜂起指導者のひとりであるジェイムズ・コノリーが処刑された場所だそうだ。コノリーは蜂起でひどく負傷して瀕死だったため、赤十字などは処刑しないように進言した(数日もたない病状だったらしい)のだが、椅子に縛り付けて処刑したらしい。ツアーの解説によると、コノリーらの処刑の話や、指導者のひとりだったジョゼフ・プランケットが同志でイラストレーターのグレース・ギフォードと処刑数時間前に結婚した話などが報道されたせいでいっきにアイルランドの世論がイースター蜂起に親和的になったらしい。シンプルな展示だが、こういう見せ方はなかなか精神的にきついものがある。

灰色の壁の脇にぽつんと立つ十字架

 

映像を活用したひとり芝居~『ドリアン・グレイの肖像』

 ヘイマーケット劇場で『ドリアン・グレイの肖像』を見た。言わずと知れたオスカー・ワイルドの古典小説をキップ・ウィリアムズが翻案・演出したひとり芝居である。2020年にシドニーで初演されたプロダクションの再演だそうだ。オーストラリアの女優サラ・スノークがドリアン他、全ての役を演じている。

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 映像を駆使した非常に特徴的な演出で、ひとり芝居としてはかなり大がかりなものである。舞台のど真ん中に大きなスクリーンがあり、けっこうな割合の場面はスクリーンの後ろとか端っこでスノークが演じているところをカメラで撮って、それをスクリーンに映すというようなやり方で作られている。複数の登場人物が出てくるところではスノークが事前に撮ったと思われる映像が合成される。ドリアン・グレイの肖像が歪んでいくところについては、スノークが手元のスマホで顔写真にディストーションをかけて表現する。主演女優が観客に見えるところで演技する時も必ずスクリーンには何か映っている。

 ひとり芝居は主演の演技に頼りすぎるフシがあると思うのだが、この作品は映像を効果的に使うという演出上の工夫があるのが評価ポイントだ。もちろん主演女優の演技は大変な熱演でうまいし、舞台上で早変わりしたりするのは面白いのだが、それをきちんと演出が引き立てているのがいいと思う。とくに『ドリアン・グレイの肖像』はもともとイメージと実像の違いに関する話なので、物語じたいの展開と演出のコンセプトがきちんとマッチしている。ただ、欲を言うともうちょっと主演女優をスクリーンの前に置いて演技させる箇所が多いほうがいいかもと思った。イメージと実像の違いを見せる…ということなら、映像を作っているところを含めて主演女優の演技を観客の目の前で見せたほうがもっと効果的なんじゃないかと思うからである。

 

80年代ノスタルジア~Just for One Day

 ライヴエイドについてのミュージカルJust for One Dayをオールドヴィックで見た。

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 現代の若者に歴史としてのライヴエイドを解説する…という枠に入っており、現代の若者からツッコミが入ったり質問が出たりしつつ、ライヴエイドがいかに大変なプロジェクトで大きな成果もある催しだったかということを見せるものである。生演奏のバンドがおり、簡易的なライヴ会場みたいな感じのセットにいろいろなものを持ち込んで場面転換が行われる(マギー・サッチャーボブ・ゲルドフが会談する場面では舞台の後ろを見えないようにして前方にダウニング街10番地が現れる)。ライヴエイドの関係者や体験したファンをはじめとしていろいろなキャラクターが出てくるのだが、主人公はまあボブ・ゲルドフだ。実際にライヴエイドで歌われた曲をたくさん使っており、ライヴエイドを歴史の一部にというコンセプトからもわかるように、少々教育的かつ80年代ノスタルジアに満ち満ちた内容である。「なんでアフリカのためのプロジェクトなのに非白人のアーティストがこんなに少ないの?」みたいな、今なら誰でも思い浮かぶような疑問についてもちゃんと取り上げ、「今ならそう言われて当然だけどこの時代の限界なんだよ」みたいな言い訳もしている。

 まずはボブがテレビを見てエチオピアの飢饉に心を痛め、ウルトラヴォックスのミッジに声をかけて'Do They Know It's Christmas?'を作り始めるところから始まる。後半はライヴエイドの手配なのだが、ボブがあまりのハードワークに死にそうになって諦めそうになる…ものの、最終的には大成功する。たぶん誇張してはあると思うのだが、ボブはまだ出場が確定していないミュージシャンをライヴエイドに出ますということにして逃げられない状況に追い込んだり、ライヴエイドの直前まで'Do They Know It's Christmas?'のシングルの売り上げにかかる高額な税金の件でダウニング街10番地と交渉したり、わりと見切り発車ですすめつつ寝る間もなく働いてそのまんまライヴエイドに突入する。

 そういうわけで最初から最後までボブが過労でつらそうな話なのだが、そのせいもあってとにかくボブがFワードばかり使っていて言葉が汚い。初登場するところでも口汚くて、周りの人に「間違いなくボブ・ゲルドフだね」とか言われている。なお、ボブがテレビで'fucking money'と言ったという話は聞き違え(実際は'Fuck the address')らしいのだが、この作品ではテレビで'fucking money'と言ったことになっている。

 そんなわけでうまくいきっこないというような始まり方をしたライヴエイドだが、どんどん盛り上がり、「これ以上よくなりっこないよ!」などという感想をみんなが言い始めた直後にクイーンが紹介されて…というようなギャグがあり、ここは会場大爆笑だった(みんな『ボヘミアン・ラプソディ』を見ているだろうからな)。クイーンをはじめとして音楽はけっこうどれも盛り上がっていたのだが、ブームタウン・ラッツの'I Don't Like Mondays'を一緒に歌って盛り上がっていた人がいたのにはちょっと驚いた(盛り上がるような内容の歌か!?)。ただ、ここでザ・フー要るかな…などと思うようなところもあり、ここまで80年代ノスタルジアでいくならもうちょっと80年代を強く思わせる曲でコンパクトにまとめたほうがいような気もした。

World Burlesque Games (2) Variety Crown, International Crown, Innovation Award

 ワールド・バーレスク・ゲームズ2日目を見てきた。2日目は Variety Crown、International Crown、Innovation Awardである。Variety Crownは参加者が3名であんまり面白くなかったように思う。他部門についてはけっこう中東欧系のショーガールが多く出演していた。私は少々ジョセフィン・ベイカーの影響があるフランスのドナ・ラ・ドールがけっこういいと思った。

 2日見て思ったのが、パフォーマーの体型はけっこう多様で、あばら骨が見えるくらいやせている人からだいぶ恰幅が良い人まで揃っていてそこはとてもメリハリがあって面白かったのだが、人種の多様性はちょっと少ないな…と思った。ヨーロッパ開催でそんなに出演者も多くないのでしょうがないのかもしれないが、バーレスクは画一的でないいろんな美しさを競うという側面があるので、非白人がもっといてもいいと思う。また、2日続けて登場したスペシャルゲストのフェニックス・ローズのファイアダンスはとても良かった。

World Burlesque Games (1) International Newcomers

 ロンドンでワールド・バーレスク・ゲームズを久しぶりに見た。ブッシュホールで4/5-6にわたって2日間開催される。1日目はInternational Newcomers(国際新人賞)のコンペティションである。『インディ・ジョーンズ』とか『トップガン マーヴェリック』などをテーマにしたショーもあって面白かった。私が一番いいと思ったのはちょっとヴォーギングっぽい感じのヴィタ・ニンジャだった。

『プリシラ』のレビューをTokyo Art Beatに書きました

 ソフィア・コッポラ監督の映画『プリシラ』のレビューをTokyo Art Beatに書きました。以前『ユリイカ』に『マリー・アントワネット』論を書いたことがあるのですが、ソフィア・コッポラ映画のちゃんとしたレビューを書くのは久しぶりです。

www.tokyoartbeat.com