宗教権力による子どもの運命の変転~『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』(試写)

 マルコ・ベロッキオ監督新作『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』を試写で見た。

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 1858年にボローニャユダヤ人であるモルターラ一家に突然兵士たちがやってきて、まだ小さい息子のエドガルドを連れ去るところから始まる。なんとエドガルドは勝手に使用人によりカトリックの洗礼を受けさせられており、カトリックだからそれにふさわしい教育を受けさせねばならないというのである。モルターラ一家は息子を取り戻そうとさまざまな活動をするが、一方でエドガルドはだんだんカトリックの学校に馴染んでいくようになる。

 実際にあった事件を映画化したもので、非常に重い話である。両親どころか子ども自身すら知らないところで勝手に子どもがカトリックにさせられていたというのはショッキングだが、一方でそもそも子どもは親の宗教で育てられるべきだということも一概には言えないので(このケースだと勝手な洗礼は児童の人権侵害にあたるが、一方で親が子どもの意志に反して特定の宗教を強制することもよくある)、宗教というもののふたしかさを考えさせられる話でもある。モルターラの一家は大事な子どもであるエドガルドをなんとか取り戻したいと一生懸命頑張って政治的にもいろいろなところに働きかけるのだが、エドガルドは小さいうちからカトリックとして育てられてその文化に馴染んでしまったので、親の努力にあまり感銘を受けず、そのうち拒否するようになるというのがなかなかつらい。一方で時として「よそ者」扱いが顔を出す時もあり、そのあたりもリアルである。この話ではヴァティカンはだんだん世間が世俗化していく中で形式にしがみついているので、ある種の腐敗した権力と言えると思うし、近年の児童虐待問題の経緯などを見ると、その影響はイタリアのみならずカトリック国のいたるところに残っているのではと思うところもある。

ポストモダン・ジュークボックスライブ

 ポストモダン・ジュークボックスのライブに行ってきた。ポストモダン・ジュークボックスはジャズミュージシシャンのスコット・ブラッドリーがやっているプロジェクトで、最近のヒット曲をジャズアレンジで演奏するグループである。YouTubeでバイラルになって世界中でツアーをやっており、ダブリンにも10年ほど前に一度来ているそうで、「前回も来ました」という人もけっこういた(バンドが途中で「前も来た人いますか?」ときいていた)。スコット・ブラッドリーがピアノの即興をやったり、ジャズスタイルのスーパーマリオでタップダンスがあったり、アンコールではダブリンだからということで"I Still Haven't Found What I'm Looking For"をやっていた。

ちょっとバーレスク



王道のスポーツ映画~『リバウンド』(試写)

 『リバウンド』を試写で見た。

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 人数減少で廃部寸前の釜山中央高校バスケ部をコーチのカン・ヤンヒョン(アン・ジェホン)があの手この手で盛り上げようとする…というお話である。緩く実話に基づいているそうだ。あまり予算はかかっていないみたいで地味な作りだが、展開は王道のスポーツ映画といった感じだ。学校がパッとしないバスケ部をつぶそうとする…ものの、だんだんバスケ部に活気が戻ってきて、高校生たちもバスケの試合の結果を気にするようになる様子がコミカルに描かれている。試合の場面などはけっこう気合いが入っている。

全然知らない歴史についての興味深いドキュメンタリー~『革命する大地』(試写)

 『革命する大地』を試写で見た。1969年のペルーの農地改革法を題材とするドキュメンタリー映画である。

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 全く予備知識なしに見たのだが、クーデターで政権を掌握し、大改革を行おうとしたフアン・ベラスコ・アルバラードの功罪についていろいろな角度から掘り下げた作品である。この映画はペルーには改革が必要だというスタンスで作られており、研究者や活動家などいろいろな人にインタビューしている。ペルー映画の引用フッテージが多いのも特徴で、昔の出来事についてのペルーで流布しているいろいろなイメージを喚起することでできるだけわかりやすく政治的な大変動を解説しようとしているようである。知識ゼロの歴史的事項についての作品なのだが、けっこうダイナミックで面白く、ペルーの農地改革についてもっと知りたいという気持ちになった。

大変重要な映画だと思うが、たしかにこんな映画はないほうがいい~『マリウポリの20日間』(試写)

 『マリウポリの20日間』を試写で見た。文字通り、マリウポリがロシアに攻撃された時の20日間の様子をAP通信のチームが撮影したドキュメンタリー映画である。

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 監督のミスティスラフ・チェルノフがアカデミー外国語映画賞を受賞した際にこんな映画は作られなければ良かったとコメントしていたのだが、まさにそういう映画である。突然侵略が起こっていきなり市民が犠牲になり、無抵抗の子どもなどがどんどん亡くなり、インフラがなくなり、病院まで攻撃される…というような様子がひたすらジャーナリスティックに撮影される。全体的に手持ちカメラで撮っているのでけっこう手ブレで気分が悪くなるところもあるのだが、内容が悲惨すぎて気分が悪くなるというところももちろんある。非常に重要な映画だと思うが、もう見たくないし、たしかにこんな映画は本来、なかったほうがいいと思う。しかしながらこのような映画が作られざるを得なかったという悲劇的な状況にきちんと向き合うべきだ。

A Night Out with Irvine Welsh

 リバティ・ホール・シアターで行われたA Night Out with Irvine Welshに行ってきた。アーヴィン・ウェルシュによる『トレインスポッティング』の一部朗読、トーク、質問のイベントである。ウェルシュは一時期ダブリンに住んでいたことがあるということで、その時のことも含めていろいろ楽しい話を聞いた。スコットランドの独立やアイルランドの統合についても以前よりもうちょっと突っ込んだ感じで話していた。なお、スコットランドアクセント(私がかなり苦手な訛り)でFワードをたくさん使うのでけっこう聞き取りがキツいとこもあった。

 

 

『ヴィクトリア朝時代のインターネット』文庫版帯にコメントを寄稿しました

 トム・スタンデージ『ヴィクトリア朝時代のインターネット』文庫版帯にコメントを寄稿しました。これは新入生に是非すすめたいと思っていたのですが入手困難で困っていた本なので文庫版が出てとてもよかったです。