054:笛

  • (振戸りく) (夢のまた夢)

  始まりを告げる草笛(ニセアカシアの真っ白な花)

  • (野良ゆうき) (野良犬的)

  後ろから僕らに向かって笛を吹くやつらの肺活量が気になる

  • (五十嵐きよみ) (晴れ、ときどきため息まじり)

  ふざけあい午後のソファでかわすキス笛吹きケトルが騒ぎ出すまで

053:キヨスク

  • (蓮野 唯) (万象の奇夜)

  駆け寄ってドアが閉まった気まずさをキヨスクでガム買って誤魔化す

  • (沼尻つた子) (つたいあるけ)

  1,000円の黒ネクタイは不意の死を待ちわびキヨスクの棚に垂れる

  • (本田鈴雨) (鈴雨日記)

  キヨスクをキヨスケと呼ぶ母の買ふ都こんぶのほのあまき粉


短歌日記

052:考

  • (此花壱悟) (此花帖)

  考えることありまして缶コーヒ買いましたけどフタ開かんです

  • (柚木 良) (舌のうえには答えがでてる)

  考えてみたんだけれどここにこれ突っ込むのって効率いいね

  暇な日があってもいいさ考える人になりきるデスクに向かい

  • (野良ゆうき) (野良犬的)

  考えをまとめてきたと言いながら右手で君が差し出す団子

  • (萱野芙蓉) (Willow Pillow)

  陽にゆるむゼリーをすくひ考へる無邪気なひとの傷つけかたを

  • (市川周) (ミルミルを飲みながら)

  みそラーメンだけが割高そのわけを考えていてもはやゆふぐれ



短歌日記

051:熊

  • (ちりピ) (ちりちりピピピ)

  熊さんにおっかけてきてほしくって落としたピアスがかたっぽのまま

  • (カー・イーブン) (ほぼ31音)

  大人には見えない熊が迷いこみ死んだふりする午後の教室

  • (野良ゆうき) (野良犬的)

  お嬢さんお逃げなさいと熊が言うところあたりですでに怪しい

  • (佐原みつる) (あるいは歌をうたうのだろう)

  それはそうなんだろうけどだからって熊手を飾る気にはなれない



075:鳥

静寂を切り裂くごとくに鳥は往き残れる闇のなお深きかな (ねこちぐら)
失くすまで気づけなかった大切を死守する僕の沖ノ鳥島 (ふしょー)
私にも存在価値はある筈だ飛べない鳥の翼のように (稚春)
高く高く飛んでいくにはとりあえず鳥の言葉を覚えなきゃダメ (小春川英夫)
夕暮れの焼き鳥屋にはめくるめくネギマの秘密をさぐる僕たち (富田林薫)

077:写真

色あせぬ写真の中の兄妹(あにいもと)うさぎの網の前にしゃがんで (新井蜜)
黒いまま写真に写る地点から指先で塗る芝居が観たい (短歌製造機メカ麦3号)
内視鏡写真にはじめてわが見るは大腸といふ赤きトンネル (原田 町)