福島第一原発で起きていることを、少しでも理解するために2

まず、被害にあわれた全ての方々に心からのお見舞いを申し上げるとともに、一日でもはやく日本が平穏を取り戻せることを願っています。特別な情報源があるという訳ではけっしてありませんが、混乱状態を切り抜けるには、何が信用に値して何がデマなのかを見極めることが大事だと思う一心で、色々調べてまとめました。

16日までに原子力情報資料室は6回、記者会見を開いていて、福島第一の設計に関わった合計3人の方々(後藤政志さん、田中三彦さん、小倉志郎さん)が発言した。それぞれの方が担当した設備は異なるが、一貫して言えるのは、設計者というものは与えられた「耐震設計条件」を満たすように設備の設計をするということだ。「当たり前じゃん」と思うかも知れないが、何が言いたいかというと、彼らはこの条件以上の事態に対する「余裕」などというものがあるとは考えないし、果たしてその条件が十分な安全を確保できるのかということも考えないのだ(自分たちに与えられた条件を満たしているのだから、これらの点について設計者たちを責めるのはお門違い)。だから、「色々騒いでるけど余裕があるんだから大丈夫」、「日本は技術大国だから大丈夫」といった楽観視には何の根拠もない。設計者たちは、与えられた以上の条件になれば「壊れる」「その先の保証なんて在るわけがない」と考えているのだ。

福島第一は日本に於ける原発建設の初期の段階に作られていて、1号機の設計が始まったころ、東芝はジェネラルエレクトロニック社の開発をコピーしていたという。そして、このGEの設計条件に津波は入っていない。その後、東芝が東電から直接受注するようになると、両社の間で交わした契約書に設計基準が記載されたそうだが、津波を想定しない点はそのまま踏襲された。津波対策は、20代で福島第一の計画にたずさわり、35年に渡って東芝に勤めた小倉さんが定年する頃になって、やっと始まったそうだ。地震についても「マグニチュード8以上の地震は起きない」という思想が前提としてあったという。勿論その後、追加された安全対策はあるものの、とにかく、電源がない場合の冷却方法は具体的に考えられていないし、M8以上の地震と7メートル以上の津波に設備が耐える保証はどこにもない。

いまのところ私は「メルトダウン」という現象について、原子炉の中で核燃料が溶けて底にたまり、原子炉をも溶かしてしまい、外へ流れ出ることと理解しているのだが、この現象が福島第一のどこかで起きた場合、海に流れ出てしまう危険性はないのかについては分からない。ただ、とにかく海や空中へ放射性物質が飛び散ってしまうのを防ぐという理由でやむを得ず、放射性物質を含んだ蒸気を原子炉から逃し爆発を防ぎながら、原子炉と格納容器に海水を注入するという作業に現場の方々があたっているようだ。だが、必要な所へどんどん海水を注入しているはずなのに満たされないと言うことは、入れてもすぐに温度が上がり蒸気となってしまうか、どこからか海水が漏れているか、注入作業そのものがうまくいっていないと考えざるを得ない。蒸発するにしても流れ出るにしても、放射性物質を含んでいることが考えられるし、立地的に海に近いのだから、海に注いでいるかもしれない。

また「建屋の中にそんな風にして使用済み燃料があったの?」と呆気にとられるが、4号機にある核分裂生成物を含む使用済み燃料を冷やしていたプールの水も失われているということで、十分な水を確保できないと、ここにある核分裂生成物も熱を発し始めて(崩壊熱)、放射性物質が飛び散ってしまう。核分裂生成物は、操業中(連鎖反応中)だった燃料を制御棒を入れることで止めた1,2,3号機よりも少ないのかもしれないが、水がなくなれば使用済み燃料だって溶け出すのではないだろうか。あらゆる手段を使ってあちこちを冷却しなくてはならないというのに東電は、現状を把握しているかいないかもはっきりと言わない。それに米軍の遠隔操作が可能な飛行機があることが16日になって明らかにされたが「もっと早く、それ出せなかったの?」と誰もが思っただろう。早くやれよ、と。東電の記者会見は「わかりません、もし訳ありません」が繰り返されるだけで、存在意義がない(それこそ電気の無駄)。もう100%、信頼できないし、民間企業よりは政府の方が自衛隊や米軍と協力しやすいだろうから、政府が強力に統率してほしい。また、発言している社員に余りにも悲壮感がない。知人ともそのことについてメールでやりとりをしていたのだが、会社の規模が大きくて遠くにいる同僚に何の敬意も感謝も感じることができないから、ではないようだ。チラチラと「下請け会社」「関連会社」「協力企業」という言葉が出ているように、現場で一番犠牲を強いられているのは、東電の社員ではないのだろう。今なんとかメルトダウンに歯止めをかけているのは、未だに「なんとかなるんじゃぁ」気分の東電が作った安全対策でも東芝の設計でもなく、現場で命をかけて作業しているひとたちだ。彼らの健闘が実り、日本のみならず世界中の人たちから賞賛を受ける日が来て欲しい。

これだけの惨状を見せられれば、今後は誰しもがはっきりと原発に反対し、世界中から原発がなくなる方向に動いていくだろうと思いきや、原発の建設が止まる様子はない。ロシアとベラルーシはこんな時でも「最新設備で我々は万全をつくすので大丈夫」と、ベラルーシにおける新たな原発の建設に合意した。例え設備が最新であろうと、地震がない地域であろうと、事前に詳細な立地条件の調査が行われようと、自然の力が人間の想像を遙かに凌駕することにも、放射性物質が根本的に生物の生命システムを破壊するということにも、変わりはない。そして今まざまざと見せつけられているように、強い放射線が発せられるところへは誰一人、近づくことすらできないというこの圧倒的無力さ。今後「No more Hiroshima-Nagasaki」にFukushimaを加え、原子力に「安全利用」などあり得ないことを世界中に発信していかなくてはならない。現場にいるひとたちの勇気が的確な指示で実を結ぶよう、世界中が祈っている。

原子力情報資料室(記者会見は中継、録画が観られるようになっています。)
http://www.cnic.jp/modules/news/
原発の歴史
http://www005.upp.so-net.ne.jp/yoshida_n/index.htm
講義ノート原子力
・ロシアとベラルーシ
http://mainichi.jp/select/world/news/20110317k0000m030060000c.html

福島第一で、起きたこと、起きていると考えられること、最悪の場合。

情報が発表されていないのか、本当に混乱しすぎて現場でも何が何だか分からないのか(混乱しているなら混乱していると発表するべきだと思うが‥‥)、現場からの情報伝達がうまくいっていないのか。いずれにせよ、かなり少ない情報や外から確認できることを見た専門家たちが「考え得ること」という前提で発言している。だから、あくまでも「理論的に考えられる予想」であって「事実」ではないことは納得して欲しい。

地震の発生と共に、第一の1,2,3号機は、燃料棒の間に制御棒がつっこまれ、核分裂が止まる。(止まらなかったのがチェルノブイリ。しかも、格納容器がなかった。)核分裂が止まっても原子炉圧力容器の中は260℃から270℃、70気圧、またウランが分裂して出来た核分裂生成物たち(ヨード、セシウム、クリプトンなど、ウランの重さの半分の元素たち)が分裂を続け、その際に熱を発する(崩壊熱)。この熱を除去しないと、原子炉の中の気温・気圧がどんどん上がっていってしまう。設計圧力(運転圧力約70気圧×1.25倍=約87気圧)を超えると原子炉が破損する可能性があるので、自動だったり手動だったりする安全弁から蒸気がふくようになっている(水沸騰するとピーッとなるヤカンと同じ原理。スリーマイルでは周辺住民も「ピーッ」という音を聞いたという)。安全弁が吹き続けたり、開けたときに「開固着現象(開いたまま閉まらなくなる現象)」が起きたり、また配管の破損などで冷却水が漏れたりすると、燃料棒を覆っている水もどんどん減っていってしまうので、燃料棒が顔を出し、燃料が溶け出す。最悪の場合、水が完全になくなり、溶けて底に溜まった燃料が原子炉を溶かし(メルトダウン)、地面に染み渡っていき、そのエリアは核汚染される。そうならないためにも、とにかく何が何でも冷やさなくてはならない。また、原子炉が破損(メルトダウン)した場合、放射性物質が飛び散らないように格納容器も水で満たしておく必要がある。ホウ素を入れるのは、核反応の媒介となる中性子を取るため。核反応は止まっているはずだから本来ならいらないんだろうけれど、こういうのを「念のため」と言うのだろう。

バックアップシステムがなかったという訳ではない。が、第一に、地震津波の規模が設計想定を完全に超えた。津波は最大7メートルとされていたが、14メートルに達した。なので、2台用意してあったディーゼルジェネレーターは海水を被り動かなくなったのだろう。海側に電源が置いてあるのも、また二つとも同じ系統の電源だったのも問題。同じ条件のところに同じ装置があれば、同じ負荷を受ける(これは勿論、同じ仕組みの原発が並んでいる現状に対してもいえる)。更に外部からの電気を送ってくれる変電所(恐らく地震で壊れたから、送電がない)も一カ所だったと思われる。蓄電池があったものの、始めの7,8時間で尽き果てた。第二に、このように電源がなくなることは全く想定されていなかった。電源がなければ「自動」で動くはずのものは動かないし、計器類も機能しないからどこがどうなってるかも把握できない。

水素爆発は電源がなかったことで起きた、と言えるかも知れない。ジルコニウムでできた燃料を入れる容器「被覆管」が高温の水蒸気と反応を起こし、水素が出てジルコニウム酸化物になって、もろくなってしまう(そうならないために今はステンレススティールで作られる)。そのため、この管がなかにある核分裂生成物で破裂(ブレーク)した。こうして発生した原子炉圧力容器の中の水素が、格納容器に漏れ出した。そして更に、格納容器に溜まった圧力を抜く穴から水素が建屋に逃げていった。本来なら格納容器内の水素は酸化させ水にするのだが(サプレッションプール)、電源がないのでこのための装置が作動しなかった。また、建屋は普段、「負圧(エアロックともいうようだ。外の1気圧より少し低くなっていて、外から入るのは許しても、内側からは出さない)」になっていて、圧力が上がると自動で開く窓(ブロワー、ブローウィンドウ)がある、これも電源がなくて動かなかった。結果、建屋内に水素がたまりそれが酸素と反応して爆発したと思われる。

とにかく、国も東電も、何を把握していて何を把握できていないのか、はっきりと具体的に情報を発表してほしい。あと、あまり言われてないようだが、この原発を作った東芝というメーカーも積極的に協力できるのではないだろうか。ホウ素と海水ががちゃんと原子炉に入り、漏れたりしていなければメルトダウンは避けられ、また、格納庫が水で満たされていればメルトダウンが起きても放射性物質が飛散するのを防げるそうだ。とはいえ、原子炉の中はもの凄い圧力だから、その圧力を押し返して海水を入れなくてはならない。だから、ただ単に「海水を注入している」ではなく、海水を原子炉や格納庫に注入するにはどれほどの電気が必要で、果たして電力が間に合っているのか。海水を入れても入れてもどこかしらから漏れていってしまう、だだ漏れ状態にはなってはいないのか。1号機に問題が起きた直後、アメリカからの支援を何故か断った「実績」もある。何故そんなことになったのかの追求はひとまず置いておいて、なりふり構わずとにかく冷やし、放射性物質の飛散や海への流出だけは絶対に防がねばならない、というのが現状のようだ。

放射線の人体への影響

一言に「被曝」と言っても、外部からか内部からなのか、どれくらいの量をどのくらいの時間、浴び続けたのか、などと様々なレベルがある。詳しい分野などは分からないが、研究で放射線を浴びている人たちと、知識があまりなく、「放射線」という言葉をなんとなく恐れている人たちとの間では、認識にかなりの温度差がある。私はどちらかというと後者の方なので、詳しいことは分からないし何の保証もできないが、普通に暮らしていて浴びる量が1年あたり日本では1ミリ・シーベルト、ドイツでは2,2ミリ・シーベルトCTスキャンでは部位によって異なるが5〜30ミリ・シーベルトだそうだ。胸部レントゲンでは0.06ミリ・シーベルト。勿論、「わざわざ浴びたい」というものではないが、大前研一さんという方は福島原発について解説する中で「MITで研究中、口から入っちゃったんですよ」とケロリと言っていた。半減期50年のものを食べちゃってからまだ50年経っていないので、未だに体内に残っているという。子どもや妊婦の場合は事情が異なると思うが、それ以外の人たちにとっては200ミリ・シーベルトくらいから癌発症率が高まり、500ミリ・シーベルトあたりからは実感が出来る症状として、軽い頭痛が出ることがある。そしていわゆる致死量というのは1000ミリ・シーベルトとされている。福島第一に関して、多分一番最初に出た具体的な数字は、「福島第一の正門付近で一時間あたり1050マイクロ・シーベルト=1.05ミリ・シーベルト」というもの。(日経新聞の記事に1050「ミリ・シーベルト」と誤記があった。これじゃ本来の1000倍になってしまう。)そして被曝した住民の方で最も数値が高かったのが40マイクロ・シーベルト以下だという。変な言い方になるけれど、普段から被曝している研究者なんかに言わせれば、もしかしたら「その程度で何を騒いでいるのか?」ぐらいに思うのかも知れない。ただ、放射線による害が怖いのは、東海村JCO臨界事故で亡くなったお二人が見た目は普通だったということからも分かるように、見えないところから、じわじわと根本的に人体が破壊されていくという点。この恐ろしさだけは肝に銘じたうえで、素人目からは「そんな呑気でいいもんなの?」と食ってかかりたくなる研究者の許容量の広さをクッションにして、報道される数値についてどれだけ危険なのかを考えれば、今のところパニックにならなくても済むはず。また報道では「通常の何とか倍」という言い方が多いけれど、これは何も言っていないに等しい。「通常」がどのくらいかなんて、素人は知らないんだから。また、年間に自然から浴びているとされる量も多いところで10ミリ・シーベルトあったりするらしい。

情報源

原子力情報資料室というNPOが行った一回目の会見における田中三彦さん(福島第一の4号機の原子炉の設計に携わった方)の発言、YouTubeにあった大前研一さん(日立製作所高速増殖炉の設計に関わった方)の解説で得た情報・知識をより深く理解するために知らない言葉などを調べながらまとめた。原子力情報資料室では後藤政志さん(もと東芝の格納容器設計者。いままでペンネームを使って原発の危険性を告発してきたが、今回の事態を受けて本名と顔を公開)を中心にどんどん記者会見をおこなっていて、その様子がネット中継されている。が、ちょっと気になったのがこの方、建物の構造的危機を説明しつつも、どれだけの放射線が人体にとって危ないのかについては「専門外です」になってしまう。ここまで詳しく説明してくれるひとは恐らくいないので、大事な情報源ではあるが、唯一の情報源にはできない。

-原子力情報資料室(記者会見は中継、録画が観られるようになっています。)
http://www.cnic.jp/modules/news/
-大前研一さんの解説 
http://www.youtube.com/watch?v=U8VHmiM8-AQ
-n-tvというドイツの報道機関の記事「放射線の人体への影響について」
http://www.n-tv.de/Spezial/Die-Folgen-fuer-den-Menschen-article2822641.html
-独立行政法人 放射線医学総合研究所「CT検査など医療被ばくの疑問に答える」 
http://www.nirs.go.jp/news/etc/etc_11_qa.shtml
-始めの頃、何故か米軍の申し出を断っていた、というロイターの記事
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnJT885857220110312