悪は存在しない

先日試写にて。「ハッピーアワー」「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督の最新作でありヴェネチア国際映画祭銀獅子賞作。自然豊かな高原の町にグランピング場の建設計画が持ち上がり、東京の業者に対して地元住民が不信感を持つところから始まる物語は、まずタイトルが不穏、といっては不謹慎かもしれないけれど逆説的なネーミングというのは映画に限らずしばしばあること。なのでもしや悪についての物語では、とそれはそれで期待した次第なのですが、実際どうなのかはぜひ劇場で体感されたし、というよりそんな何が悪で何が悪でないかを言わんとするようななまやさしい映画ではなかった。傑作でした。ほとんどうちのめされました。自然の美しさと厳しさ、無骨な主人公、あまり笑顔を見せない人々、対照的に戯画的なまでにペラい都会のコンサル、あらゆる印象的なショットの中でもとくに忘れがたい2度にわたる長回しの薪割りのシーン、そして映像と呼応する音楽の素晴らしさ。プレスによれば、そもそもは「ドライブ・マイ・カー」の音楽を担当した音楽家石橋英子氏がライブパフォーマンス用のサイレント映像を橋口監督に依頼したところから始まり、最終的にその作品「GIFT」と共に結実したのが劇映画としての本作。映像と音楽における才能と才能の化学反応、対等な関係性のたまものなのでした。

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ARGYLLE/アーガイル

日劇場にて。「キック・アス」「キングスマン」シリーズのマシュー・ヴォーン監督の最新作は、人気女性作家が自分の創作物であるはずのスパイ小説となぜか一致する事件にまき込まれ、自称スパイの男と共に次の展開を考えながら敵と戦わざるを得なくなるアクション・コメディ。出てくるキャラがみんなどこかズレ感があってかっこいいヒーローやヒロインが活躍するスパイ映画の斜め下?をいく予測不能さと、こんがらかった話を笑いと勢いで進めていつしかちゃんと分かっていく(気がする)作りがユニーク。キャストもさりげに豪華で、公式サイトの絵面ではヘンリー・カヴィルがど真ん中に(彼が凄腕スパイのアーガイル役)いるんですが実質的な主役はブライス・ダラス・ハワードサム・ロックウェルの中年コンビといってよく、ここまでやってくれるとは、というぶっ飛んだアクションが楽しかった。

稽古

護身クラス@I道場。しーふーいわく「最初から理屈どおりにやれればいいが最初はとにかく汗かいて何度も繰り返しやるのでいい。あるとき理屈どおりにやれるようになっている」「形は頭で考えてやるもの。形ができたら形を忘れて、心を使うこと」「腕の中を水が通っていくように流れを出せ」「どこの流派が正しいではなく正しいことはどこでも正しい。早くやってもゆっくりやっても正しい技は効く」

ゴールド・ボーイ

不覚にも最近までほぼノーチェック(昨年のTIFFでワールドプレミアされていたのに)だったのですが中国で大ヒットしたネットドラマの原作小説を日本で映画化した話題作と聞き及んで期待満々で劇場へ。果たしてこれぁなかなかすごい、ヤバい面白さ! 完全犯罪のはずだった殺人が偶然にも少年少女が撮った動画に写り込んでいたことから始まるサイコパスvs秀才少年の攻防の、容赦なくエグい展開に時間を忘れて見入ってしまいました。で、例によってあとから知りましたが原作小説の「壊小孩」はすでにニッポンでも「悪童たち」のタイトルで翻訳書が出てました。そして中国で社会現象にまでなったというネット版「隠秘的角落」(秦昊主演!)も「バッド・キッズ 隠秘之罪」のタイトルで配信ずみ、さらに紫金陳原作のサスペンスシリーズは同じく秦昊主演の「バーニング・アイス 無証之罪(原題:無證之罪)」、 廖凡&白宇主演の「ロング・ナイト 沈黙的真相(長夜難明)」もとっくにニッポンで配信されていて、見たいと思いながら見そこねている作品群がやっとこさひとつながりに認識できた次第(遅)。は〜見たいドラマも見たい映画もいっぱいあってとても追いつかないのであります。

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倭文(しづり) 旅するカジの木

オンライン試写にて。「チロンヌプカムイ イオマンテ」(プは小文字)の北村皆雄監督が5年の歳月をかけて完成した、「日本書紀」にすでに記載がある古代の織物・倭文の探求と現代の織物作家たちによる創造的復元を通じて「衣」のルーツにせまるドキュメンタリー。天上からつかわされた二柱の武神(経津主神武甕槌神)が唯一制定できなかった“星の神”を倭文という織物の神が制定したという神話を端緒に、カジの木の樹皮で作られた倭文とはどんな織物だったのかをさぐる中で日本国内だけでなく類似の織物の伝統を持つ海外へも海の道をたどっていくフィールドワークのスケール感とロマンに、全くの門外漢ながら民俗学的好奇心を大いにそそられ、さりげなく凝縮された情報量の多さも魅力的でした。

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おいしい給食 Road to イカメシ

オンライン試写にて。人気TVドラマから劇場版シリーズに派生した給食・命!な中学教師・甘利田(市原隼人)と、同じく給食を味わいつくす受け持ち生徒との給食道を描く映画バージョン第3弾。TVドラマのほうは未見で映画も前作「劇場版 おいしい給食 卒業」しか見ていない自分ですが題材のユニークさと市原隼人の渾身パフォーマンスが楽しすぎてたぶん今後も劇場版は絶対見る派になってます。B級?グルメコメディというだけでなく分かりやすくデフォルメされているものの教育映画・学校映画としても熱くてグッとくる部分も手堅くおさえているのが好感度大。今作では市原隼人の筋肉ショットが挿入されたりまさかの達者な酔拳シーンもあり。舞台が函館だけにイカメシもなまらうまそげです。

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稽古

護身クラス@I道場。しーふーいわく「中心に入ればどの方向にでも半径を作れる。大きい円でも小さい円でも同じ」「常に筋肉を伸ばして相手の力と合流させる。力で引っ張ると相手の力を受けてしまう」「物理的次元では原因があって結果がある。まずそこをちゃんと科学的にやること。気の次元には気の次元の“科学”があるがそれは次の話」