『僕の彼女はサイボーグ』
映画を見るうえで長年ワタシのお師匠さん的存在だった双葉十三郎先生の採点方法で、見た映画を評価。
あくまでお遊びの精神です。
基準は双葉先生の『ぼくの採点表』にならって以下のとおり。
☆ひとつはおよそ20点、★は5点前後といった感じで、だいたいの目安にすぎません。
テーマや主張が立派だというだけでは評価できません。基準はやはり、いかに映画的に楽しませてくれるかです。
☆☆☆☆以上 ダンゼン面白い
☆☆☆★★★ 上出来デス
☆☆☆★★ まずまず面白い
☆☆☆★ いま一歩の出来
☆☆☆ いささか退屈
☆☆★★★以下 カネ返せ!と言いたくなりマス
監督のクァク・ジェヨンはアルフレッド・ヒッチコック映画に出てくる女性が大好きだそうだ。ウ〜ン、分かるような気がする。
たとえば『裏窓』のグレイス・ケリー。彼女は足の骨折で動けないジェームズ・スチュワートの制止を振り切って妻殺しの男の部屋に侵入するし、『逃走迷路』のプリシラ・レインや『北北西に進路を取れ』のエヴァ・マリー・セイントは殺人犯に間違えられたロバート・カミングスやケイリー・グラントの逃走を手助けする。ヒッチコック作品に登場する女性は行動的で勇気がある。
たしかにクァク・ジェヨンの『猟奇的な彼女』や『僕の彼女を紹介します』の“彼女”たちもめっぽう過激で気が強く、ひ弱な男を圧倒している。男女の関係逆転というか、性的に倒錯した関係性がクァク・ジェヨン監督作品の特色であり、最大の魅力だ。ヒッチコックよりもむしろ、『赤ちゃん教育』『僕は戦争花嫁』などのハワード・ホークスに似ていると言った方がいいかも知れない。
『僕の彼女はサイボーグ』もやはり男女の関係逆転、つまり“性的倒錯”が主題。しかも“彼女”は未来からやってきたサイボーグなのだから過去最強の女性で、その“彼女”がいかにして男をリードし守ってやるかが本作最大の見せ場となる。ある意味『ターミネーター』の女性版でもある。
しかし本作は過去のクァク・ジェヨン作品に比べると、CGや作品の造りが少々大掛かりになりすぎていてそこが彼本来の持ち味を殺してしまっているような気がする。彼女がサイボーグでは、いくら不死身で強くてもそれは当たり前なので、“可愛いのにパワフルな彼女”というギャップの面白さが出ないのである。
綾瀬はるかの可愛さに負けて★ひとつオマケです。
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『4ヶ月、3週と2日』
非合法の堕胎を扱った映画では、人助けと思って施術を行っていた夫人が主人公の『ヴェラ・ドレイク』が記憶に新しい。『4ヶ月、3週と2日』では『ヴェラ・ドレイク』とは反対に施術を受ける側の女子学生が主人公。露見すれば投獄されるチャウシェスク政権下のルーマニアのお話で、女子学生とその友人はホテルの一室を借りて堕胎手術を秘密裡に受けようとする。
物資不足の中で横行する闇タバコや賄賂、ホテルのフロントの横柄で官僚的な応対、点滅する古ぼけた蛍光灯、ぬかるんだ道、オンボロの自動車、灯のない夜道など、共産主義体制化の活力のない、くすんだような社会が鋭い観察力で描写されていく。堕胎手術場面はさらにリアル。あたかも実際に起こっているかのような現実感を醸し出す監督の力量は、並大抵ではないと言える。
それにしても、この重く、暗く、汚い描写の連続はいかがか。映画に決して現実の再現を求めているわけではない者としては、はなはだ気が滅入った。今この題材を、このような手法で描く必要とは何か、その辺がよく分からない。チャウシェスク夫妻を公正な裁判によらずに私刑によって抹殺してしまった国である。なにやらこの国の底知れない根の暗さを垣間見たようで、後味がどうもよくない。
『父、帰る』『ある子供』『ヒトラーの贋札』などと並んで、このような映画ばかりだったとしたら、今すぐにでも映画を見ることをやめたくなる映画。
『最高の人生の見つけ方』
家族のためだけに生きてきた謹厳実直な修理工のモーガン・フリーマンと、何度も結婚に失敗し実の娘とも疎遠になっている大富豪のジャック・ニコルスンが、癌治療でたまたま同室に入院し、ともに余命わずかと宣告されるが、すっかり意気投合して、死ぬまでにやりたいことのリスト(これが原題になっている)を作り次々実行に移してゆく。
スカイダイビングに挑戦したり、憧れのスポーツカーをぶっ飛ばしたり、タージ・マハルに出かけたりと、世界中を駆け巡る。が、やはり愛する家族と共にすごすことが一番の幸せと悟ったフリーマンは妻のもとに帰宅。その夜倒れて帰らぬ人となる。一方、ニコルスンはファーストフードで独り者のわびしさを味わう。
「荘厳な景色を見る」とか「世界一の美女とキスをする」といったリストにそれぞれ粋なオチがつけられていて、久々に映画らしい脚本の妙が味わえる作品。
主演の二人はさすがに千両役者で、悠々と楽しげな演技が本作最大の見もの。特にニコルスンは小憎らしい末期癌患者の老人を快演。泣かせて笑わせて緩急自在の名演を見せる。モーガン・フリーマンのナレーションは『ミリオンダラー・ベイビー』などでも実証済みだが、相変わらず作品に風格を醸し出す名調子で感動を盛り上げる。
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『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』
六〇年安保闘争に始まり、一〇・二一新宿騒乱事件、東大安田講堂の攻防戦を経て、全共闘・新左翼系学生運動が四分五裂・離合集散の果てにあさま山荘事件へとなだれ込む経緯が、当時の記録映像と、赤軍派・革命左派両派の主要メンバーを簡潔に紹介するモンタージュとともに提示される導入部から『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』は一気に核心へと突き進む。
一度は逃亡しながら運動に復帰した赤軍派・森恒夫が、自らの負い目や後ろめたさを払拭するため、かつて高邁な志を共有し合った同志たちを取るに足らぬ理由によって執拗に査問し、狡猾で嫉妬深く猜疑心の強い革命左派・永田洋子と主導権争いを演じるかと思えば一転共闘して、不倶戴天の仇敵に対するよりも激しい憎しみをもって仲間たちにリンチを加えてゆく場面は、凄惨をきわめる。
しかしながら『実録・連合赤軍』の本当に凄いところは、怒号と威嚇そして恐怖による支配と服従という、悲惨な光景の連続が、まるで深作欣二の『仁義なき戦い』を思わせるダイナミックなエンターテインメントになっている点。誤解を恐れずに申せば、そのめったやたらな面白さには正直興奮を禁じえなかった。三時間余りの長丁場は瞬く間に過ぎ、一瞬たりとも緊張が緩むことはなかった。
尤も、あさま山荘事件の直後に製作された『仁義なき戦い』自体、戦後間もない頃のやくざ間の抗争を描いているとはいえ、所詮時代と切り結ぶことを宿命付けられる映画のことゆえ、全共闘運動の敗北の影を色濃く落としているのは否定できないし、両作に通底する混沌とした負のエネルギーは、ある意味双生児のようにも感じられる。
森恒夫ら首謀者の、あさま山荘以後がテロップで紹介される最後に至って、時代の潮流に屹立し押し潰されていった幾多の青春に思いを馳せ、深い諦観と悲しみの念を禁じえなかった。
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『うた魂』
『スウィングガールズ』と『歓喜の歌』を掛け合わせて『フラガール』の二匹目のドジョウを狙ったような企画。だけれども、脚本は雑、演出もアマチュア。アマチュアっぽいところが良いと仰る御仁もおられようが、身銭を切る側としてはそれではコマリマス。
音楽映画なのに少しもスウィングしないところが致命的だけれど、その他にもいくつか問題点が・・・・。
たとえば、産休の代用教員である薬師丸ひろ子の挿話が本筋に巧く絡んでいない。たとえば『フラガール』の場合、はじめまったくやる気がなかった都落ちのダンス教師が生徒の熱意にほだされて徐々に本気になるところがドラマの核心になっていたのだが。
次に、ヤンキースタイルが問題になってコンクール出場停止になりそうになった湯の川学院高校合唱部が土壇場で舞台に立つが、絶体絶命のピンチは、そのプロセスをきちんと描いてはじめて映画的なクライマックスになり得るのに、出番まで残りわずか数十分という時間の中でどうやって衣裳を替えたのか、肝心の細部がまるで描かれていない。これはまったく拍子抜け。「省略」は使い方次第で非常に面白い効果を生むが、本作は逆に面白くなる部分を完全にすっ飛ばしている。呆然。
もうひとつ。せっかくゲスト出演しているゴスペラーズが本編で歌っていない。エンドタイトルで歌声は流れるが、出演しているのだから是非とも本編中で歌ってもらうべき。それが音楽エンターテインメント映画の常識、王道、約束、決まりごと、なのだ。監督さん、音楽映画の百本も見て、今一度監督業の修行でもなさったらいかが?
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『スルース』
三十五年ほども前に見たジョゼフ・L・マンキーウィッツ監督の『探偵 スルース』にはまんまと一杯喰わされたことを覚えているけれども、推理ゲーム的な面白さに尽きる映画なので、二度目を見るかと訊かれたらたぶんNoと答える。したがって、リメイク作に期待したのは、オリジナルに対してどれだけ違いを出してくれているかだが、率直なところあまり感心しなかった。オリジナルとほとんど違わないものをいまさら映画化する狙いもよくわからない。前作を知らない人ならそこそこ楽しめる映画にはなっていると思うが、本作よりもビデオで旧作を見ることをむしろお勧めする。
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『胡同の理髪師』
めざましい経済発展で成金が増えたせいなのか、近年の中国映画にはどうも高慢ちきで傲慢な考え方をするものが多く、あまり好きになれないが、本作は年老いた理髪師と路地裏の住人たちの生活点描に枯れた味わいがあって、とても好感が持てる。貧しい年金生活者の老人がアパートから追い立てをくらう『ウンベルトD』(ヴィットリオ・デ・シーカ監督)などをちょっと思い出させる。老理髪師もついに大往生?と思わせて最後まで死なないのが大いに結構。晩年の笠智衆さんを主役に日本でもこういう映画があったら良かったのに。