鈴城芹『家族ゲーム』電撃コミックス
11月にKindleで1冊99円セールをやっていたので、春頃から気にしていた『家族ゲーム』を全巻そろえた。
先ほど読破した。
このところ、小説でも漫画でもリアルタイムで連載を追っているもの以外は、短編や数冊で完結するものばかり読んでいたからか、ひさしぶりに読破という感慨を味わった気がする。
本作は2004年6月から2014年6月までの10年間、ゲーム情報誌『電撃PlayStation』の付録冊子『電撃4コマ』に収録されていた4コマ漫画である。
ゲームをこよなく愛する一家・遊佐家を軸にして、様々な登場人物による群像劇が繰り広げられるコメディ漫画なのだが、物語が進むにつれそこかしこで恋が芽生え、濃厚で濃密な恋愛漫画と化していく。
作品の時間軸が連載とリンクしていて、作中人物もそれに合わせて歳を取るので、1巻1話時点で中学1年生だった遊佐真言(主人公)が最終的には大学卒業まで成長する。当然それに合わせて人間関係も進展し、恋路も進展するのだが、真言という女の子が恋愛に非常に疎い人物として造形されているので、読んでいるこちらは毎回やきもきさせられるのだ。
わけても強烈な印象を放っているのが8巻59話の「まだ秘密」。
真言が自身の恋心を自覚した後、自身が〝恋心に自覚した〟ことを秘したままその相手に笑顔である。補足しておくと、その相手である西浦は以前真言に告白したものの振られたと思っており、そういう進展はないと知りつつも元家庭教師と元生徒の縁の延長線と若干の未練で繋がっている。この関係、部分的に切り取ってもなお文章化するとなかなか壮絶である。
読者の期待を煽りつつ作中人物にとっても進展があるようにする描き方が非常に巧みで、ゲームが大好きという点を除けばごく普通の人が普通のことをしているだけなのにすさまじいまでの引力を持つ作品に仕上がっている、と思う。
とまあ、私の下手くそなレビューでも気になった方は、とりあえず3巻まで読んでみることをおすすめする。
吉田篤弘『流星シネマ』ハルキ文庫
ぽつりぽつりと繰り出される小さな語りが静かに連なっていく。小さな語りに語られた物語の断片が時間の経過をおいて——ときに過去を顧みる行為を経て——ひとつの物語を成していく。
また、語られている物語の舞台は日本なのだけれども、語り部である僕(太郎)の主観がやや曖昧なためか詳細な輪郭がぼやけて見え、どこか知らない国を舞台にしているかのように思えるところがあった。
そして、この文章を心地良いと感じるときとそうでもないと感じるときがある。明確にトーンが変わるのはアキヤマくんが登場する部分で、それまでとても身軽に感じられた僕に過去という重石がのしかかるからなのかもしれない。
そうした印象を受けた。
どうにも取り留めがない。
この本を読んでいるときも前半は集中して読んでいたのだけれど、なかばに差し掛かったところでいったん中断してしまい、少し間を置いてそれなりに集中して読み、読了した。
なかばまで読んで気がそぞろになってしまったのか、気がそぞろになったからそういう読み方をしてしまったのか……。
ここ最近のことを思い返すと恐らく後者であろうと思われる。
『新しい世界を生きるための14のSF』ハヤカワ文庫
最近出版されたSFに触れていないなー、という気がしたので読書保留リストの中から比較的新しいものを手に取ってみた。
AI、愛、実験小説、宇宙、異星生物、動物、超能力、改変歴史、言語、環境激変、VR/AR、バイオテクノロジー、想像力、以上14のサブジャンルに分けられた14の短編を収めたアンソロジー集。
巻頭の前書きに「800ページ超えの超重量級の1冊なので一気に全部読もうと思わないで、一作づつカジュアルに読んでください(大意)」といったことが書いてあるように、本棚に突っ込んで置いて気が向いたときに一編ずつ読むのが良いんじゃないかな。
なかなか読み終わらないので深刻に読書のスピードが落ちたのかと思ったりもしたけれど、なにせ800ページもあるのだ。1冊で2冊分(下手すると3冊分)読むくらいの気持ちで読むべきだったな、と残り3作くらいの地点で気づいた。
電子書籍で読んでいると物理的な重さを感じないので(感じるのはiPadの重さ分だけ)、本の厚さを見誤りやすいのもあると思う。
まとまり方としては「第二回小さな小説コンテスト(さなコン2)」の方向性に近いように思えた。サブジャンルに終末が入っていれば、百合もあるのでほぼさなコン2の様相である。さなコン2の最終選考結果に百合は残らなかったけどな。
読んでいて感じたのは「
」と謳っているだけあって、合う合わないはあるにしてもどの作品にも目を惹かれる部分はあった。合わない場合は「合わない」というその理由こそが目を惹かれた部分である。
最近のと言いつつこれもすでに1年前の本なので、新刊が出たらすぐ買って読む習慣を取り戻していきたいと思う。
TNSK『昇る朝日にくちづけを』集英社
『零合 創刊号』零合舎
読了。百合小説専門雑誌ということで読んでみた。とんがった作品が多く、人によっては刺々しく感じてしまうかもしれない。
序文にあるとおり、読者が主体的に百合を見出して読むのではなく、あらかじめ百合と題している作品を商業小説誌で読む読書体験はたしかに新鮮だった。その上で、個人的な尺度に照らしてどの作品も確かに百合小説たと感じた。