ケンカの仕方は教えません。

けんかの仕方教えます (佐江衆一) (岩波ジュニア新書)読了。
思わずタイトル買いした。しかし、「喧嘩上等」「殴るならココだ!」「怖い人たちに囲まれたら…」「地元じゃ負け知らず、A君の日常」などの過激な項目が「岩波ジュニア新書」にあるはずもなく、おじさん(=著者の一人称)による人生論になっている。「ツッパリ大賛成」という項目から始まるこの本で、おじさんは常に中学生や高校生の立場に寄り添おうとする。おじさんは、オトナ社会の矛盾に気づき、腹を立てることを大切だといい、それに対してツッパルことを進める。とはいっても、ガラスを割るとかではなくて、自分の生き方にツッパルということ。
いちばんおもしろかったのは、高校入試の問題に対するツッパリ。著者の作品が使われている入試の4択問題を取り上げて、こう述べる。
P.105

正解を一つ選べるなんて、バカじゃないのかネ!

これを作者自身がいうのは、なかなか痛快だった。

ただ、「けんかの仕方教えます」という割には、全体的にとても真面目な内容だった。あとがきにも書かれているけれど、ちょっと説教じみてるところがある。どうせならば、ガツンと読者にけんかを売ってみるというのもありだったのかもしれない。
「スカートの丈を長くしても……」という小見出しが古臭く感じられるけれど、オトナ社会にツッパッて成長したおじさんの思考を知るには良書。

自分を考えるための、哲学という方法

哲学ってなんだ―自分と社会を知る (竹田青嗣)読了。
タイトルは『哲学って何だ』とあるものの、哲学自体の解説は半分くらい。残りの半分は、哲学を使って「自分」のことを知るための方法が記されている。難解で非日常的なイメージの哲学を、身近な問題を考えるための手段にしている。
自分とは何か。著者はその問いに答えるために、フロイトヘーゲルを取り上げる。それぞれから、無意識(身体性)、自由を承認しあう社会の原理という考え方を取り出して、次のような説明をする。

  • 私たちは、無意識に持っている自己ルール(真-善-美)に影響を受ける。
  • しかし、また私たち人間はその自己ルールを意識し、対話しながら自分自身との関係を持ち続けている。
  • そして、このような自己理解は、他者との関係の中で生まれる。

とここまで書いてはみたものの正直に言って、ぜんぜん理解できていない。今のところ結論を読んでふんふんと頷いてみるだけ。本当は、そこに至る過程を知ることが哲学の面白みなのだろう、とおぼろげながら感じた。
この本を読んで、哲学ってなんだ?という疑問は、哲学って何だ???というレベルに変わった。
余計に分からなくなってる...けれど、せっかく得られたこの疑問符は一度保留しておいて、もう少しいろいろと探索を続けてみようと思う。

これからのこと

見てくれている方は少ないかもしれませんが、twitterよりもこちらに書いたほうが良い気がするので...
先日無事に、大学院に合格しました。とりあえず二年間ですが、情報通信技術を活用して人の役に立てるような研究をしていきます。これまでの授業と違って、自分から行動していくことが大切になってくると思いますが、いろんな人と関わることを大事にしながら、こつこつやっていこうと思います。
就職する同級生を横目に、まだまだ自立できず迷惑をかけてばかりの身ですが、どこかで恩返しをしていけたらいいなぁと思います。

以上、近況報告でした。

もう一つの目で、もう一つの世界を眺める。

知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (刈谷剛彦)読了。
読みながら視界が開けていくような本。心に残ったところをいくつかまとめてみる。
批判のブーメラン
本書では、他者の取り組みを批判することはできても、いざ自分たちが取り組む番になると同じ批判を浴びる学生の事例が取り上げられている。人に対する批判はそのまま自分に戻ってくる。これに対して、違う立場になって考え、文章化してみることが重要だ、と著者は述べている。

疑問から問いへ
疑問は感じるままで終わってしまう。問いの形にすれば、答えることができる。では、どう問えばよいのか?著者は二つの質問の形を提示する。一つは、「どうなっているのか?」という実態探しの問い。もう一つは、「なぜ?」という問い。そしてこれらを、組み合わせて問いを展開していくことがポイントだと主張している。例えば最近の大学生の就職はどうなっているのか?という問いは前者になる。ただ、このような実態探しの問いは、すぐ答えの出るものが多い。例えば今の質問であれば、大卒就職率60.8% 8万7千人が進学も就職もせず(asahi.com)ということになる。ただ、後者の「なぜ?」という質問では、自分で考えることが必要となる。例えば「なぜ8万7千人が進学も就職もしないのか?」という問いには、たくさんの仮説を立てることができる。これには例えば、「就職先がない」からという答えが用意できる。そしてそこから、「就職先はどうなっているのか?」という実態を探す問いに変換することができる。これを繰り返すことが、考えることにつながる。レポートから日々の出来事まで、いろんなことに応用できる方法だと思う。

抽象性と具体性のあいだで
個別の事例は理解の助けになる。けれど、それはどこまで一般化することができるのか?そんな時に役立つのが「概念」である。概念を用いることによって、それぞれの事例で共通する部分が見えてくる。著者は「概念」をサーチライトに例える。例えば、「ジェンダー」という概念が、これまであった男女観を新しい角度から見直すきっかけになったように、概念は新しい見方を提供してくれる。そして、概念のレベルで考えたことを違うケースに当てはめてみることで、そこにある問題の個別性と普遍性が浮かび上がってくる。

なぜそれが"問題"なのか?
"問題"は、なぜ問題として取り上げられているのか。著者は、メタな視点に立つことで物事を複眼的に捉えることができるとしている。男女平等、グローバル化、情報化、エコロジーなど、そもそもなぜそれが"問題"であるのか、考えてみるべきテーマはいくつもある。

なるほど!と納得することの多い本だったけれど、読んでおしまいでは、"単眼"でしか世界を見ることができないのだろう。著者が教育問題を扱っているように、どんな物事でもいいから"複眼"で捉えてみようとすることで、徐々に視界が開けていく。今まで見ていた世界を、もう一度、恐る恐る眺めてみよう。練習"問題"は、そこら中に転がっている。

100冊で生き方が変わる

『新書がベスト』 (子飼弾)を読了。
読み進めるにつれて、次の新書が読みたくなる衝動に駆られる。とりあえず買ったままにしていた新書を整理した。そして、こうしてブログに読書メモを書くことにした。これが記念すべき1冊目。
新書を大人買いするなんて発想は、なかった。もちろん費用のこともあるけれど、一番の理由は、本は選んで買うべきものだと思っていたからだ。でも、それは違っていた。
P.87

自分のアンテナ、つまり関心を持つ領域を広げておくことで、同じ時間内でより多くの幸運や出会いに当たる確率が高まります。

これまでは、こんな本には興味がないと偏食していた。けれど、それは自分のアンテナの感度が低かった、ということなのだろう。えり好みして、世界を小さくしていたかと思うと悔しい。ただ、悔しい気持ちと同時に、もっと読みたいという気持ちも湧いてくる。いつか点と点が結びつくように、次の新書を手に取ろうと思う。

ちっぽけなプライドと譲れない信念の境界線上で。

「第一志望です。」って言わないと落とされるんだよ。
就職の面接を終えた友人たちが口をそろえる。
ばかばかしいね、と僕は思う。

もちろん、企業からすれば、入社する意思のある学生を取りたいのは当たり前だ。第一志望の学生を採りたいに決まってる。けれど、学生からするとそれは微妙な問題だ。志望順位が決まっている人もいれば、とりあえずたくさんの会社を受けている人もいる。そして、どの会社であれ、落とされるよりは採用されたいと思って就職活動をしている。

第一志望って言わなかったら、落とされるよなぁ。

そんなこと学生は分かった上で答える。
そして、企業だってきっと分かった上で問う。

「そんなのマナーみたいなもので「もちろん。第一志望です!」って答えとけばいいんだよ。」と僕自身が語りかける。
「いやいや、嘘吐いて採用されたってうれしくないよ。」と僕自身は反論する。
「そんなちっぽけなプライド、捨ててしまえよ。」僕が囁く。
「でも...それは、僕の譲れない信念なんだ。」僕は主張する。
「じゃあお前の好きにしろよ。」と僕は吐き捨てる。
「ちょっと待ってよ、僕はそんなに強くないんだ。」と僕は僕にすがる。
「それが社会に出て、大人になるって事なんだ。」ともう一人の僕が諭す。

分かったような口を叩くなとも思うし、その通りかもしれないとも思う。
「もちろん、御社が第一志望です!」と言えば、自分を裏切っているように思う。
けれど、「違います。」って言って落とされる程、強い覚悟もない。

「...はい...そうです。」と弱気で答える僕に、面接官たちは苦笑する。
そんな映像が脳内をよぎる。

「結局、そんなこと聞いたって誰も幸せになんかなれない。」とつぶやいてみる。

ちっぽけなプライドと譲れない信念の境界線上をゆらゆらと揺れながら。