「皇室の名宝−日本美の華−」展:東京国立博物館

「皇室の名宝−日本美の華−」展のプレビューに参加してきました。みんな大好き伊藤若冲の「動植綵絵」全30幅が、東京では83年ぶりに一挙公開される特別展です。期を分けて公開された宮内庁三の丸尚蔵館の展示も、一昨年の京都・相国寺の展示も観たけれど何度だって観たい、孔雀のハートを、砂糖菓子みたいな雪を! ――と思って駆けつけました。でも、ごめん、間違ってた。素敵はそこかしこにあり、当たり前だけど若冲だけではすまなかったのです。
 
はじめのフロアからして奥にそびえる狩野永徳の唐獅子図屏風におののきました。なんかもうね、恐る恐る近づいちゃう感じ。で、獅子の足の爪の感じとかにキュンキュンしちゃう。と思いつつ隣にある左隻を観ると、明らかにテンションが違って何事かとのけぞります。よく見るとこちらは永徳のひ孫さんによる補作とのことで、桃山狩野派と江戸狩野派の様式の違いを比べるのにも良い機会だそうですよ。
 
冒頭からホクホクしてると、次はもう若冲の間、いきなり「旭日白鳳図」。「動植綵絵」の孔雀や白凰と違って羽がハートじゃないのだけど、でも赤×紺、橙×緑でプレッピーぽくてかわいい。波と苔と笹と雲の緩急が気持ちよくて、吸い込まれそうになるところがああ、若冲だにゃーと思う。
 
そして、怒濤の「動植綵絵」30幅。京都の展示よりもゆったりしていて空間が動植物園に! そこら中にチョウチョやおさかながふわふわしています。相変わらず大好きと思ったのは「向日葵雄鶏図」の朝顔(向日葵と朝顔だなんて小学生の夏休みみたい)と雄鶏のモノトーンの尾羽、「芦鵞図」の鵞鳥の羽と芦の描写、「南天雄鶏図 」の南天をこっそり食べてる子がいるところ、「桃花小禽図」のお花の細かさと一羽ヘンなとまり方してる子がいるところ、「雪中錦鶏」や「芦雁図」の甘そうな雪。それから「老松白鳳図」のハートに関しては考えても考えても足りないし、「池辺群蠢図」はトゥーマッチなところも含めてわたしのなかでは非の打ち所がなくって、いつまでもひたっていたくなってしまう。葉っぱに空いた穴までが完璧なんだもん。
 
続く間には円山応挙酒井抱一、そして葛飾北斎。うわー箸休めなし。抱一は「花鳥十二ヶ月」が公開されているのですが、プライス・コレクションとはまた別の「花鳥十二ヶ月」なので比べてみるのも良いです(ほかにも数組存在するそう)。ふたつの「花鳥十二ヶ月」のなかでは、今回出展されている四月の「牡丹に蝶図」が好きです。葉の縁がとても美しいの。北斎の「西瓜図」は目の当たりにするまでノーマークだったのですが、なにこれ、素晴らしすぎます。瑞々しい禍々しさ。逢魔が時っぽい?
 
魂ごっそりもってかれて、でももう山場は超えたかなーと思って進んだら、容赦なく後半戦がはじまりました。ここからはもうとにかく花瓶にずっきゅんずっきゅん。「旭彩山桜図花瓶」はうっすらピンク地と白の山桜のコントラストが乙女ちっくだし、「七宝唐花文花盛器」なんか三色菫を小鳥がくわえてる!みたいな花鳥文様がラブリー過ぎるのです。観覧の際に「もし1点だけ持って帰れるならどれにする?」というお題をいただいたのですが、持ち帰るなら使いたいので「七宝唐花文花盛器」がいいなー。てゆか縮小レプリカのスープボウルとかあったらいいのにって思います。花瓶以外も金色の「菊蒔絵螺鈿棚」とか「花唐草透彫水晶入短刀拵」とか… これほど菊の御紋にうっとりした日もないですよ。あと木彫りの「矮鶏置物」もなんじゃこりゃ!とていう質感だった。木なのに。木なのに。「色絵金彩菊貼付香炉」はちょっと村山留里子さんほいなーと思いましたことを告白します。感動したのは展示スペースの薄水色の壁紙が素敵だったこと。明治宮殿の壁紙を再現したものだそうですよ。愛ある展示ねー。
 
というわけで、かわいいかわいいばっかり言ってますが、ほんとかわいい目的だけでいってもおなかいっぱいになれる展覧会だと思う。第1期は11月3日まで、第2期は11月12日からですよ。国宝指定すら対象外の御物や宮内庁のたからもの。ハプスブルク家の展覧会も今やっているけれど、ロイヤルはやっぱりロイヤルのきらめきに満ちています。
http://www.bihana.jp/
http://www.habsburgs.jp/
※写真の撮影と画像の掲載は主催者の許可を得ています。

SPECTACLE IN THE FARM:那須高原

那須高原に点在する清々しい場所をめぐる羊の冒険。いろんなイベントが同時多発的に企画されていましたが、とりあえず「宴会場劇場第二幕」と表題公演「スペクタクル・イン・ザ・ファーム」の前売りをかって向かう。現地へ行って(宿でさっそく卓球して燃え尽きたあと)、せっかくだからと「宴会場劇場第一幕」にも行くことに。
http://spectacleinthefarm.com/
 
鉄割アルバトロスケット吾妻橋とネタがかぶっていて残念だった上、吾妻橋のヴァージョンの混沌さ加減が良かったので残念。伊藤麻実子さんは好きー。
 
TUTU HELVETICAやくしまるえつこさんは、煙の巻き方がなんだか懐かしい感じ、と思った。いや、煙の巻き方なんて、古今東西そんなに変わらないものなのかも知れないけれど。暗がりから響く声は、やっぱりきれいだった。だれかに似ているとずっと思っているんだけど、思い出せない。
 
オオルタイチさん × 康本雅子さんは、神懸かっておりました。ここさいきんいちばんのパフォーマンスでした(夜の部)。太陽の子と花嫁たんの異種格闘技、もうどうしようというくらい完璧だったので困ってしまいます。しかも、5年前、はじめて康本さんのダンスを観たときの「茶番ですよ、」の振りが入っていたので、ずっきゅん沸きました。
 
○SPECTACLE IN THE FARMは、KATHY × たのしい動物ショー(鷹/鷲/ふくろう/羊/ラマ/山羊/馬) × アルパカのお散歩という、もとから鉄板過ぎる触れ込みでしたが、実際も素晴らしすぎました。ここさいきんいちばんのパフォーマンスでした(昼の部)。期待はしてたけど、まさかここまで動物とからむと思ってなかった。前日とうって変わって曇りの寒空だったのが残念だったけれど、寒さも暗さも吹き飛ばすスペクタクル! ママ、小さなころからの夢が叶ったよ。でも、どうぶつ王国のショーに出てないほうのアルパカちゃんは毛がなかったけど! 刈られていた! ショーック!
 

那須で食べたごはんで印象深かったのは、「山里料理とそば・ほし」と「創造の森・農園レストラン」。どちらも緑の中にあるお店で、気持ちよくっておいしくって素敵でした。お蕎麦はすこし苦いはじめて食べる味で新鮮でした。もうちょっとしたら新蕎麦だったよね、おしい! そばがきもおいしかったなー。農園レストランは、西の魔女のおばあちゃんちみたいなの。雨のなか伺ったけれど、それがまた素敵な雰囲気でした。豆カレーを食べました。

吾妻橋ダンスクロッシング:アサヒスクエアA

いつもおもうけれどオリオンビールがあるのがうれしい。スーパードライだけだったら泣いちゃうから。きみはるちゃんは「あの建物の中にはいることになるとは!」といっていた。
 
○ボクデスさんはハイテックになっていた。「モノのあはれ」だそうですよ。小浜さんは南国料理人で見ようと思った。きみはるちゃんには蟹のひとって教えた。
 
contact Gonzoさんを観るのは二度目なので、そうか、これはスタイルだったのか、と思った。プロフィール文のインスタントカメラへの言及部分がちょっとおもしろいのとまったくおなじバランスで本編でもインスタントカメラがちょっとおもしろいのだけどその程度しかわからないのであった。
 
チェルフィッチュは物足りなかったぜというかもっと観たかった。
 
○ほうほう堂さんはやっぱりかわいらしくてすてきだったなあー。夏休みの午後の畳の上の倦怠。きみはるちゃんもいっていたけれど155cmに見えないマジック! 
 
○快快さんはむかしあったサブリミナルな映画を思い出した。におい、だいじ。あとお肉がボレロっぽかったね。結果、おいしいジャークキチンサンドはその後のうなぎ計画を破綻させたのであった。
 
インスタレーションChim↑Pomさんは貴重な女子トイレいっこ潰しててなぬーってなった。
 
○Line 京急吉行和子(ダブバージョン)はゲストのトトさんが素晴らしく、大谷さんは素敵で、山縣さんのキャラは前にみたときよりうざくなかった。服は同じだった。
 
○鉄割さんは戌井さんがせくしーっぽくてずるいよ。なんかわからないけどゴザっていう装置にびくってした。
 
いとうせいこうさん feat.康本雅子さんは主題も越えて声と音と身体そのものが三角のまんなかでごろんとなったみたいなステージだった。12日だけえごらっぴんの森さんのギターが加わっていたのだけどそうじゃないのってどんな感じにだったんだろう。想像つかない。とはいえ康本さんのひらひらするいろいろにくらくらしてたんでした。康本さんのダンスを見ているとかならずジャーキング現象みたいにびくってなっちゃうんだけどなにこれ? 
 
○飴屋さんので、するっと「よだかの星」が語られたのでうわあってなった。つきなみな表現だけれども、宇宙っぽくて刹那っぽい。ほんと、エーテルにみんなはすっぽりはいっちゃったみたい。あとおもいのほか味噌だった。「三人いる!」見られなかったんだよにゃー。
 
以上吾妻橋メモおわり。そのあと仲見世通りを流してみたら土砂降りになったよ。なので梅園でどらくえのおもしろさについて語り合ったのでありました。

鴻池朋子展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人

展示を観る前にアーティスト・トークに参加。「ちゃんとやってるひとたちに、もうしわけなくなっちゃう」という発言があってその気持ちはなんだかとてもよくわかるなーと考えながら観覧。個々の作品に寄るとキャッチー過ぎて心を通り抜けてしまったり、もっとぎゅっとつくりこんで欲しいなって作品もあったりもしたけれど、全体的としてはギャラリーのすべての空間をつかって構築したアトラクションのような展示で、物語を必要とするわたしたちにはたぶんこれが心地よい世界なんだ、と思った。本のオブジェに投射されていたものと、赤の部屋がすてきでした。6本足のおおかみははじめてみたときからずっとこころのまもりがみになってる。あと、あのアニメーションのいちばん好きなところは、みみおが手をくいっと上に向けるところです。

メアリー・ブレア展

ディズニーのキャラクターデザインはとっても好きなところとすっごく嫌いなところがあって、すっごく嫌いなのはなんかすぐ野暮ったいおじさんっぽくしちゃうところ。プーとかチェシャ猫とか。対して、とっても好きなところは、初期のデザインにみられる、うすむらさきがかったカラーリングとか、いつもちょこっと毒があるところとか。だったのだけれど、そうかそれは彼女のおかげで醸し出されていたのね? マイ・ベストは灰かぶり姫が部屋でひとりぽつんとしてるカットでした。ものがたりの楽しさ、華やかさじゃないところに寄った作品がとくに素晴らしかったのです。それから、イッツアスモールワールドの部屋も、なぜか微妙に不穏な感じがして、それがすごくすごくよかった。

次元爆弾:森本晃司

20分間の濃密デート。それまでのフィルムとはまるっきり違う劇場空間占有だった。とろんとしたゼリーの中に腰からゆっくり沈んでくみたいな感覚、視界には冬の澄んだ空気の清々しさが広がっていて、光と音と記憶が冷たいプリズムの中で乱反射する。観ているあいだ胸が張り裂けそうで、ずっと喉の奥が熱かった。
好き嫌い、わかるわからないに関わらず、この作品を「観念的」ととらえる向きがあるみたい。確かに、描かれているのは物理的に存在する風景だけじゃないから言葉として間違っているわけじゃない。でももしそこに「トリッキー」みたいな意味が内包されているのだとしたら遺憾だなあって思う。わたしたちの世界はほんの少し悲しかっただけでもいとも簡単にブルーになるし、好きな人の部屋に向かう足はいつだって軽い。妄想じゃなくて幻想じゃなくて、世界をそう感じた瞬間が少なくともわたしには何度もあるし、逆に、そうじゃない人の日々はどんなにつるんと摩擦のないものなんだろうと思う(っていうかそんなヤツはいねえ)。
情景は、世界設定や物語やキャラクターみたいにラインで語れるものじゃない。人生にぽつぽつとある点。とてもとても個人的な、内緒の秘密の点。でも、国や人種や時代が違っても、平凡っぽい人生でも奇抜っぽい人生でも、いつのまにか同じ点を踏んでたりするんだよね。それで思いもかけないタイミングで他人の点にふれて、自分と重なってぐわんと心を持っていかれてしまう。それは友だちができるときみたいなケミストリー。どうしてこの感じ知ってるの?ってほっとしちゃう、はじめてあったのに懐かしい、幼なじみみたいな感触なんだ。
その奇跡だけで結ばれた作品が「次元爆弾」なのだと思う。なぜかあのとき伝えられなかった言葉とか、会いたいっていう気持ちとか、なによりなんでもない日々の光… そういうリグレットと祈りであふれてる。生々しくて、ぎゅうってなる。これってまんま、いつものわたしたちの有様なんだもの。