POP2*5

過去にはてなダイヤリーで連載してた連載コラムのアーカイヴです。

ムーンライダーズ『Dororonえん魔くんメ~ラめら』サウンドトラック盤、5月25日発売(キングレコード)




 すでにオンエアが始まっている、『ドロロンえん魔くん』リメイク版の音楽をムーンライダーズが担当。5月にサントラ盤がリリースされるが、そのライナーノーツを担当させていただいた。ライダーズのライナーを引き受けたのは『MOONRIDERS CM WORKS 1977-2006』『moonriders In Search of Lost Time Vol.1』に続き3タイトル目。CM集、デモ集にサントラ盤と、ほぼ傍流を預からせてもらう役回りが続いているが、結成時よりアイドルやバッキング仕事など、メディアを横断してきたバンドだから、周縁文化との関わりの歴史がいちばん面白い。発売元はスターチャイルド。調べたら、メンバーの岡田徹かしぶち哲郎両氏が、『機動戦士ガンダム』のスピンアウト作の音楽を同社で手掛けていたりして、自分もライダーズファンとしてまだまだだなと反省してしまった。そのぶん、ライダーズ側の書き手として、キングレコードとの関わりの歴史、ライダーズのアニメ音楽変遷史などについて蘊蓄を語っていたら、ディレクター氏に面白がってもらえまして、今回も規定の3倍の原稿量で解説文書いておりまする。
 73年にオンエアした『ドロロンえん魔くん』も実は大好き。中山千夏が作詞と歌唱を務めた主題歌が入ってるサントラ盤も持っている。カントリー風のフィドルシタールは、オリジナル版の筒井広志の音楽でもアクセントで使われているが、両プレーヤーをメンバーに擁するライダーズゆえ、今回のオーダーは意外どころが本領発揮という印象である。リメイクに当たり、アニメ本編も原作の舞台である昭和の再現に凝っていて、監督から「70年代ドラマの音楽のテイストを」という要望があったことから、ムーンライダーズが音楽に指名されたらしい。番組中のギャグも、時代考証はみ出して60年代寄りだったりするのが笑えるのだが、それの合わせた悪ノリか、はちみつぱい「赤色エレジー」風のジンタや、クレージーキャッツを模した「だるい人」のフレーズなどが再利用されていて、笑いどころ多し。
 今回はサントラのみならず、主題歌の演奏もライダーズが担当。ザバダックファンには嬉しい、あの方が変名でエンディングも歌っておりまする。編曲クレジットの「鈴木慶一ムーンライダーズ」が泣けるじゃないの。ジャケットが本日アップされたが、原作の永井豪の書き下ろしのライダーズ肖像が使われていて、なかなかレア。


永井師匠のミュージシャンへの寄稿は、コーネリアス『69/96』のアナログ盤以来じゃないかしらん。

Twitterのアイコンが溜まったので、ミニギャラリー公開



Twitter用に、たまに思い付いてアイコンを新調してるのだが、溜まってきたのでここにまとめてみた。不謹慎過ぎて使わなかったものもあり。


日本BGM協会レポート『What's New BGM』7号「日本のBGMビジネスの歴史」を寄稿しますた。


BGM(紙ジャケット仕様)

BGM(紙ジャケット仕様)



 74年に設立された歴史ある組織、「日本バックグラウンド・ミュージック協会」より依頼を預かり、法人会員向けに発行されている会報『What's New BGM』7号に、「日本のBGMビジネスの歴史」を寄稿させていただいた。これはBGMビジネス振興を目的に、業界の主要会社の連絡組織として作られた団体。業界最古参の東洋メディアリンクス、アメリカのBGM史をまとめたジョセフ・ランザ著『エレベーター・ミュージック』にも登場するミューザック社の日本代理店、毎日映像音響システムなどなど、役員のリストには業界のお歴々が名を連ねる。その中の一人、元バッハ・リヴォリューションのメンバーだったミュージシャン、小久保隆氏とイベントで知り合う機会があり、今回業界の歴史をまとめるにあたり、小生を指名していただいたものである。
 『エレベーター・ミュージック』を未読の方に、簡単に内容を要約しておく。ショップで売られているレコード、CDを供給するレコード会社と別に、放送局、銀行、レストランなどの企業顧客向けに、音源を制作して販売するビジネスというものがある。例えば、工場における作業員の疲労曲線に併せて、現場に音楽を流すことで、眠い時間帯には勇ましい音楽で精神を鼓舞し、作業の終わりにはリラックスした音楽で日常への切り替えを促す、といったプログラムが販売されている。「BGMの効能」によって工場の作業効率をアップできると謳ったもので、こうした音楽プログラムを販売する業者として、アメリカで最初に生まれたのが『エレベーター・ミュージック』で紹介されている創始者、ミューザック社であった。また、同社のライバルとして黎明期に登場した3M(ポストイット、スコッチテープで有名)などは、ハンバーガーチェーン「マクドナルド」の店内音楽をプログラムし、音楽が客の心理に影響を及ぼす「売上促進」といった実績を作った。
 YMOBGM』の説明書きにも出てくる「音楽が単なる鑑賞の枠を越えて、精神に影響を及ぼす」という説明は、こうしたミューザック社のコンセプトの影響を受けたもの。「音楽療法」と関わりが深く、古くは妊婦の陣痛を和らげるものとして医療目的に使われたエオリアンハープや、あるいは音楽を戦意高揚のプロパガンダに利用した、ナチスドイツの例(磁気テープはナチの発明品)などがある。ミューザック社も、太平洋戦争時にアメリカ軍から依頼され、軍事放送などのプログラムの制作を受け、シビリアン・コントロールに協力した歴史があった。
 音楽の世界でも、エリック・サティが美術展のために「聞いていることを意識させない音楽」として「家具の音楽」を作曲したり、そのコンセプトを継承したブライアン・イーノが、78年にアンビエント・ミュージックというレーベルを立ち上げたりの例がある。これら商業音楽からはみ出す広大なジャンルを包括するのが、BGMの世界である。三田格監修『アンビエント・ミュージック』のコラムにも同協会のウェブからの引用があるように、THE KLFChill Out』登場が境になったアンビエント・シーンの確立以降、BGMの効能という視点は、ポップスと切り離して考えれないものとなっている。一般の音楽リスナーにとってもなじみの深い世界がそこにはあるはず。
 イギリスにおける歴史はさらに古い。音楽番組『レディ・ステディ・ゴー』の制作したことで知られるレディフュージョンが、世界で初めてのBGMビジネスを立ち上げた会社である。特にイギリスは演奏家協会の権限が強いことで有名だが、戦前のラジオ放送で局に請われていたオーケストラが、レコード登場で廃業に憂き目に。その際に大がかりなストライキを行って、イギリスではラジオ、テレビ放送に於いて、ジングル、BGMでの市販レコードの使用に制限が設けられてきた(その背景は映画『パイレーツ・ロック』、ピーター・バラカン著『ピーター・バラカンのわが青春のサウンドトラック』にくわしい)。そのため、放送用を目的とした音楽制作工房が、イギリスには数多く存在していた。このへんは拙著『電子音楽 in the (lost)world』でも紹介している、ライブラリー・レコードの存在を通して、今日でもその歩みを知ることができる。それらが保有するムード音楽のカタログの二次使用先として、イギリスではケーブル放送などのインフラを使ったBGMサービスが広く普及したのだ。
 日本の歴史は、このイギリスのレディフュージョン社のライセンシーとして、戦後すぐに第一号の会社が起こったことから始まる。しかし、イギリス、アメリカが放送網、ケーブル、AT&Tの電話回線網を利用して音楽を流していたのに対し、日本は放送事業、通信事業が民間に開放されておらず、「磁気テープと再生装置をレンタル」するという業態として普及していく。このような日本のBGMビジネスの歴史については、同じく日本が発祥であるレンタルレコード、カラオケ業界の変遷史に似た独自の歴史があった。そんな日本のBGMのヒストリーについては、過去にもまとめられた文献はほとんどなかったのだとか。歴史のスタートに立ち会った創業者はすでに鬼籍に入られており、現在、当時のことをご記憶の方もわずか。そこで協会として、これまでの歴史をまとめてほしいとの依頼を受け、昨年末に複数の協会員の方にインタビューさせていただいたものが、今回、協会会報に第一弾としてまとめられたというわけである。
 ソニー松下電器などのテープレコーダーの歴史や、FM放送の誕生、著作権法改正など、BGMの歴史にはさまざまな横軸が深く関わり、その取材は『電子音楽 in JAPAN』の取材時に似たエキサイティングなものになった。昨年、取材中に何度かその話をTwitterでつぶやいていたところ、「興味がある」「読んでみたい」という問い合わせを複数いただいた。その旨を協会に尋ねてみたところ、一般の方にも広く読んでもらえれば有り難いとのことで、今回、問い合わせいただいた方への頒布が可能になった。ありがたや。もしご興味のある方がおられたら、「日本BGM協会」のホームページ、または問い合わせメールアドレス[office@bgm.or.jp]のほうにご一報いただければ幸いである。



↑仕上がりイメージ。

EUROX『MEGATREND』23年ぶりのリマスタ復刻版リリース!(3月5日発売→3月20日に変更/ブリッジ)

メガトレンド+2

メガトレンド+2



 長かった……。最初に復刻の話が持ち上がったのは去年の春だから、半年以上の時間が過ぎてやっと実現にこぎ着けた。昨年お手伝いしたTAO『FAR EAST』に続き、その後継バンドであるEUROXの唯一のアルバム『MEGATREND』が今春復刻される。アナログのオリジナルLP盤を紙ジャケで再現。内容は1曲多いCDエディションを採用し、デビュー・シングル2曲をボーナストラックに追加。今回も拙者がライナーノーツを担当し、1万字の解説文を寄せさせていただいた。
 『銀河漂流バイファム』というSFアニメの主題歌だった「Hello, Vifam」で有名なTAOは、82年デビュー組の珍しいプログレ・バンド。同曲は「アニメ界初の英詞主題歌」ということで話題を呼び、30万枚を売るヒットとなった。『機動戦士ガンダム』に継ぐ人気アニメとして本編も支持されており、今でもカラオケナンバーとして愛唱されているという。ワーナーのカタログの復刻仕事を預かったとき、真っ先にリスト出しして願いが叶ったTAO復刻だったが、過去のテクノ系復刻以上の多大な反響をいただき、個人的に実りある仕事となった。そのTAOが、結成一年後に音楽的理由で2つに分裂。作曲家兼ヴォーカリストがTAOの屋号を持ってレーベルを移籍することになり、ワーナーに残ったメンバー、スタッフが、ゼロから再出発をはかったのが、このEUROXというグループである。まるでピーター・ゲイブリエルが脱退した後の、ジェネシスの再始動のようではあるまいか。
 活動後期、カルチャー・クラブのフロントアクトとして全国ホールツアーも果たしていたTAOにとって、グループ分裂はこれから海外進出というタイミングに起こった事件。EUROXというネーミングは、「その夢よ再び」という一堂の願いを込めたものと思われる(エディ・ジョプソンのUKをもじったものと思われ)。実際、その願いは届けられ、デビュー・シングルはヨーロッパで12インチとして発売。詳しくはライナーノーツで触れているが、TAO時代に渡航修行を過ごしていたこともあった、アメリカからもリリースの誘いがあったというほど。
 結果、ヴォーカリストを失ったことで夢破れて終わることになるが、新メンバーを入れて再始動。その矢先に、ワーナーの筆頭アーティストであった中森明菜のアルバム『不思議』から参加要請を受け、うち7曲にコ・プロデュースで参加することとなる。『MEGATREND』はその完成直後にレコーディングされた唯一のアルバム。アナログ/CDの転換期にリリースされた作品ということもあり、プレス枚数も少なく、CDについては中古市場で5桁の高値で取引されていたというもの。23年ぶりの最新リマスタを施した音は、初CD化のTAO『FAR EAST』と同じくファットなサウンドに生まれ変わっており、オリジナルCDをお持ちの方も買い直して損はない充実した内容になっている。
 EUROX時代の最大のヒットとなったのは、『機動戦士ガンダム』と同じサンライズ制作のアニメ『機甲界ガリアン』の主題歌だったシングル「ガリアン・ワールド」、「星の1秒」。こちらも後にOVAが作られたというほどカルト的人気がある作品で、EUROXの主題歌を収録したサウンドトラック盤が昨年ディスクユニオンで復刻され、2枚ともオリコンチャート50位内にランクイン。ネット通販の大手HMVの年間アニメアルバム部門では、『けいおん!』などの現役アニメに並んで売上9位を記録したほどの人気ぶりなのだ。このヒットには、初CD化だったTAO『FAR EAST』ですら後塵を拝しているほど(笑)。新ヴォーカル、根本博を迎えたEUROXは、ディレクター氏をして「最強のラインナップ」と言える存在であった。2枚のシングルを出して第一期EUROXは終了するが、今回は根本時代のデビュー曲である、初CD化となる「COLD LINE」、「OUT OF CONTROL」をボーナストラックに追加収録。これがまたUKニューウェーヴを思わせるブリリアントな2曲で、このためにCD買ってもよいとオススメしたい良曲に仕上がっている。
 TAO時代はファンを自任していた拙者も、アルバム・リリース未遂に終わった根本加入時のEUROX時代については不勉強で、今回改めて関係者などを訪ねて事実関係を調査。わかった謎の解明を全部まとめたら、1万字近くのボリュームになってしまった(笑)。おかけで肉眼では読めないライナーノーツになってしまったが、こういうフリーキーな再発もインディーの強み。どうかみなさま、コピーかスキャンして拡大してお読みくだされ。