『ロードマークス』 ロジャー・ゼラズニイ 遠山峻征訳 サンリオSF文庫
- 作者: ロジャー・ゼラズニイ,遠山峻征
- 出版社/メーカー: サンリオ
- 発売日: 1981/11
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (6件) を見る
そこら辺まで読んだらまあ全てばらばらにしているんじゃないのがわかって少し落胆したんだけれど、内容がぺらっぺらなくせに形式だけとんがっているつまらない作品じゃなくて、とても面白いんだから良い良い。
過去未来どこへでも行くことができる〈道〉を旅しているレッド・ドラキーンに対して、黒の十殺が宣言された。黒の十殺とは10回までなら標的に対して攻撃することができて、10回失敗するとやめることになっているというもの。荒くれものの習慣などではなくて、ゲーム局という公的な組織が行っている。
それで10回攻撃するための人員が紹介されていき、正直こんな奴らに襲われたらどうするんだろうという奴らばっかりだけど、正攻法蒸発天井抜け仲間割れ故障やーめた等等で何とか切り抜けていく。肉弾戦なんかはほとんどないのでそういうものを求めていると肩透かしにあうと思うけど、そんなものを求めてこの本を読む人はいないので多分大丈夫か。あるのはあるが肉弾戦の最中も間に挟まる禅の公案のほうが気になる。
全体としてはロードノベル+RPGだと思われる。ドラゴンなんかも出てくるし、ダンジョンズ&ドラゴンズでしょう。執筆時期とゲームの発売時期も大丈夫だし、途中にいろいろなネタが埋まっているのはアイテム集めだろうな。ということはディレイニーなら『ノヴァ』が一番しっくりくるのである。
『イングランド・イングランド』 ジュリアン・バーンズ 古草秀子訳 東京創元社
- 作者: ジュリアン・バーンズ,古草秀子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/12/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 10回
- この商品を含むブログ (21件) を見る
単純に書いてしまうと2部はグレートブリテン島のすぐ南にあるワイト島にイングランド中のエンターテインメントコンテンツを集めるレジャー計画と、それに参加している男女の仲の進展が交互に語られていく。レジャー計画ではサー・ジャックという名前のとおり愛国者を中心に進められていくが、この話し合いがめためたおもしろい。サー・ジャックの豪腕にかかれば実現不可能な計画が次々に達成されていく。例えば王室でさえも島内にあるレプリカのバッキンガム宮殿に移ることになる。そうして大人物として描きながらも、ものすごく脱力的な方法で品性が貶められてしまうのが個人的にすばらしいと思うところ。プロジェクトの準備委員会に税金控除として呼ばれたフランス人のコンサルタントが、中身があるようでないようで、やっぱりあるようなないような演説をするが、この部分も最高。人を食ったような、煙にまくような文章というのは読んでいて顔がほころぶのである。
男女の仲のほうは一読して何が言いたいのかさっぱりわからなかったけれど、解説を読んでまあ納得。こういうのはやっぱりつらいのです。1部や3部もあまり楽しめなかったけど、全体としてとても楽しむことができました。
10月後半なにを読んだか
前半はSFの傑作ばっかり読んでいたせいか後半はSFをほとんど読まなかったなあ。後半読んだSFは『夜の翼』と『時空の支配者』のニ作品のみ。『時空の支配者』はおもしろかったんだけど『夜の翼』はいけすかない話だった。なにが贖罪だぜまったく。それで後半なにをしていたかというと米澤穂信の再読とか、有栖川有栖とか法月綸太郎とか読んでいました。ミステリの感想なんていまいち何を書いたらいいかよくわからないけれどどれもこれもおもしろかったのでもっと昔の作品も読んでみよう。でもまあ11月はスタージョンが待っている、楽しみ楽しみ。『海を失った男』の解説で触れていた「帰り道」を早く読んでみたい。読みたい本があるというのはすてきなことだね。
『遠まわりする雛』 米澤穂信 角川書店
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/10
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 148回
- この商品を含むブログ (251件) を見る
「わたし、気になります」といった癖になる言葉が多くあるが、「データベースは結論を出せない」なんて心惹かれすぎて涙が溢れることよ。普段は飄々としているけれども、からこそ心情を吐露するシーンは映えるというものだろう。
期待されてかつ結果を残せる人間というのは少数しかいないと思うんだ。期待されてうまくいかず挫折してしまった時、ああ俺ってなんであんなことに対して情熱を注いでいたんだろうと一歩引いてみてしまい、なんだかすべてがどうしようもなくなってしまったあとというのは、いかにしてこんな気持ちを二度と味わないようにするか考えるものだと思う。そうして出された結論というのは、いとおしいものだと思いませんか。僕はシンパシーを感じます。これからの福部里志の成長が楽しみになる作品だった。
さて、「遠まわりする雛」を読んで思うことだが、事の発端や318ページ19行目とか見ていると陣出の行く末は現時点では暗いんだろうね。でも現時点だよ、まだ2年ある!
『わたしを離さないで』 カズオ・イシグロ 土屋政雄訳 早川書房
- 作者: カズオイシグロ
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/04/22
- メディア: 単行本
- 購入: 10人 クリック: 568回
- この商品を含むブログ (547件) を見る
語り手はキャシー・H。介護人の仕事をしており、へールシャムという閉鎖的な寮の出身であり、寮での生活やそれを出てからなどの三部からなっている。回想という体裁をとっているため、しばしば話が前後してしまうが読みにくさはまったく感じなかった。話は寮においての生活や人間関係が中心であり、ほのかに背後の世界が見えてくるのであるが、世界を提示する文は突然出てくるのでびっくりする。けれど語り手にとっては当然のことであるからそこで読み手と語り手の間に落差が生まれる。その落差を保持したまま読みつづけると、読み手の辿ってきた(辿っている)生活と変わらないと考えていたキャシー・Hたちへールシャムの人々の生活が突然違うものに見えてくる。友達と仲たがいしてしまって、仲直りのきっかけがなかなかつかめない、というエピソードもほんとに感動的にうつるなあ。イシグロの作品は他に『浮世の画家』と『日の名残』の二作品を読んだことがあるり、その二つの作品は父‐子や師匠‐弟子の憧憬や抑圧といった関係が書かれていたが、今作品は一切なし。隔絶、断絶。
問題はこの作品がSFであるかどうかだが、僕はSFであると断言したい。技術的な面から申し上げるのではなく書かれたのがイギリスであるからだ。H・G・ウェルズが「タイムマシン」を書いてから百年以上たつが、僕たちと彼ら、もしくは彼らと僕たちを巡る話は百年後も書かれつづけているだろう。そのことが僕は少しかなしい。