七つ道具がついに揃った。東京には、ニャルラトホテプ、広川市長、ロウ・ヒーロー、カオス・ヒーロー、信長、ケフカ横山やすしの七匹の王猫が君臨し、それぞれ強固に支配していると聞く。ワンピースでいうと四皇みたいなものだ。

これまでの僕では到底、彼らには敵わず、挑んだとしてもあえなく破れていただろう。

しかしながら、ついに伝説の七つの秘宝が我がもとへと集ったのだ。これでようやく彼らと闘える。思い知れ! 温水さんの……カタキ!



上から、秘宝名、愛称、能力。





カメラ
葛葉(Kuzunoha)
敵の魂を削り取り吸収したり、永遠(とわ)の記憶を約束してくれたりするオーバー・テクノロジー





時雨(Sigure)
オリハルコンで出来た鉄線。先端がびよんびよんと動き、猫のおそるべき集中力を無効化し、猫を渾沌の極地へといざなう!





スーパーボール
秋水(Syusui)
不気味な亀の亡骸から作られた呪物。ジョジョでいうとシアーハートアタックみたいな感じ!





ネズミのおもちゃ
鉄鼠(Tesso)
僕の得意とする式神。時代によって「前鬼・後鬼」「牛頭・馬頭」と呼ばれたことも。二匹同時に召喚することが出来る!





またたびスプレー
久作(Kyusaku)
その人の一番思い出したくない過去を強制的に鮮明に思い出させ、大混乱に陥れることが出来る最終兵器!





いわし
弥勒(Miroku)
猫の生存本能を的確に突き、まんまと信頼を得ることが出来る! 籠城戦の非常食にも。





青酸カリ
蒼天(Souten)
敵猫に囲まれ、万策尽き、もはやこれまで、死して虜囚の辱めを受けず、といった際に使用する!


ユリリンとエリリンと田中角栄元首相と、念願の猫カフェに行ってきた。

吉祥寺は『きゃりこ(http://cafecalico.com/)』なる、しゃらくさいネーミングの店である。「ふん、かわいい名前で僕をだまそうったってそうはいかん。なにしろ僕は金のためなら赤子でも猫でも無表情で始末する非情の殺し屋だからな。でも赤ん坊と猫は高いわよー、高すぎて誰にも絶対払えないの」とレベルEごっこを一人でしながら吉祥寺に。

途中、遅刻し、なかなか現れない角栄が実はマックでのんびりしていた、という驚くべきハプニングもあったが、我々三人の奪われた時間の対価として、諭吉を奪い取ったので良しとした。

入店してみると、午後三時という半端な時間にも関わらず店内は満員であり、なんと予約が無いと入れない状態だという。想定外の事態に僕は混乱し、窪塚よろしくビルから飛び降りそうになったが、三十分ほど時間を潰せば入れると聞き、ようやく平静を取り戻す。じゃあ、なんつって井の頭公園に行き、入り口の喫茶店でアイスを食す。ここにもにゃんこがおり、グースカ寝てたので頬のゆるみが早くも止まらなくなる。

ほどよい時間になり、猫カフェへ。

店内は極楽浄土であった。

店のシステムを説明する紙のところに巨大な猫が寝ており、肝心の内容がよく見えず、我々は一瞬にして打ちのめされた。「料金がまるで見えないが、たとえ、隠れている部分に”料金はドル換算”と書かれているなどの計算され尽くされたぼったくりだろうが、悔いは無い」は、われわれ一同の総意であった。

あとはもう猫、猫、猫、猫の見渡す限りの猫の一大カーニバルであった。「まあせいぜい8匹もいればいいほうだろう」と思っていた猫たちは、なんと28匹という大軍勢であり、我々は「曹軍100万」と聞いたときの荊州勢のような気分になった。びっくりした。「マジかよー」と絶句した。

小さいのから大きいのからひょろひょろからでぶまで、三毛からアメショーからトラから見たこともないのまで、途方もない数のにゃんこたちで店内は溢れかえっていた。

この世に我一人と傲然と闊歩したり、ソファを我が物顔で占拠し王を宣言したり、玩具の鼠を過剰な加虐心で執拗に攻撃したり、よく分からん隙間に挟まり寝ていたり、謎の猫使いのお姉さんの足下でぼんやりしていたりと、店内は猫に完全に支配されていた。完全に人間に依存しつつ、明らかに人間より上位に立つ存在に、店内は幸せのうちに統治されていた。なぜか、人権は所詮ただの約束事で、全ての権利などは架空に過ぎないのかもしれないな、と、寄生獣を思い出した。

考えることなど馬鹿馬鹿しい、と気づいた僕は、失神しそうになるのを堪え、猫をあらゆる方向から味わい尽くすことに躍起になった。他の三人も、おのおのの精神の要請に従い、活動にいそしんだ。

そして、時間がどれだけ経ったかもう誰にも分からなくなった頃、僕たちはやがて猫に溶けていった。


フフフ、僕はついに己の能力の限界に達しましてね……。到達点です。スタンド能力を手に入れました。

思えば、運動、勉強、仕事などなど、そこそこ無難に何でも出来る人生でした。しかし、一方でこれといって何も突出したものが無く、他人に自慢できる要素は何もありませんでした。可もなく不可もない、凡庸な人間だと自分では思っていました。中庸こそが自分にぴったりだと思っていたため、別にそれに不満や問題意識も無く、平和にのほほんと暮らしてきました。

しかし、しかしです、僕にも一つだけ、素晴らしい能力があったのです。これはもう、この世界を司る上位の存在からのギフトであるとしか思えません。人知を越えた能力です。「平凡で良い」という今までの思想を根底からひっくり返すような、とんでもないものです。

僕に与えられたスタンド能力、それは、『猫にスルーされる』ことだッ!

このブログを始め、カメラを持ち、意識的に猫を追いかけるようになり、気づきました。「猫は僕をまるで相手にしていないっ……!」と。近づき、話しかけ、カメラを構え、ポーズを要求し、撮影する。その間、きゃつらは欠伸をするか、ぼーっとしているか、にゃーと鳴くか、ふらふらどこかへ消えるか、なのです。僕という存在が邪魔で逃げるようなことは、ほとんどないのです。つまり、無視されているのです。

これは恐るべきことです。あの敏感で臆病な猫にまで無視されるとは。

この能力が人間世界でも適用されるとなると、僕はもう大変なことになります。プレゼンは記憶に残らず、発言はシカトされ、手柄は自動的に他の誰かのものになる。給料は振り込み忘れられ、年金記録は紛失し、アマゾンで買ったものは届かない。レストランではウェイターが来ず、葬式にも呼ばれず、ハガキに書いたペンネームはスルーされ本名が読み上げられる。僕に関する一切が黙殺され、社会活動を営むことが不可能となり、あとはもうニンジャになるくらいしか道は残されていません。勿論、必死の思いで敵地の情報を調べ上げレポートを提出しても、気づいてもらえません。本部にも忘れられ、やむなく敵地の住人となろうとしますが、敵地の人たちにも気づいてもらえません。将来的には僕のDNAから、石ころ帽子が開発されます。

しかし、猫を探してうろうろする身としては、これほど素晴らしい能力もそうそうありません。恐らく僕は特質系です。

このスタンド能力を僕は『ノー・サプライゼス(永遠の静寂)』と名付けたッ!

この能力と1000万超人強度画素を誇るカメラで、

『「猫を撮る」と心の中で思ったならッ! その時スデに行動は終わっているんだッ!』

の領域へ到達することにします。


新宿の猫は発光するのだ。

こいつらは光る能力を手に入れた代償として、油断する資質を失ったらしい。常に周囲に注意し、自らのテリトリーを完璧に把握し、研ぎ澄まされた牙と爪で、捕食者として人間を一方的に虐殺する恐ろしい存在である。

JR新宿駅西口には、老朽化したビルが密集し建ち並ぶエリアがある。ここにはビルとビルの間を通る、細く長く広がった、謎に包まれた道が存在する。このエリアは”クレバス・アンダーグラウンド(裂け目の地下世界)”と呼ばれ、人間世界のいかなる権力も及ばない。

ここには数多くのクリーチャーが生息している。酸性雨を浴び続けアメーバ状に変形し知性も失った元人間、エリア内に発生した次元の裂け目から召喚された低級悪魔、新宿の闇に殺された無念を引き摺る怨霊、遺伝子異常で凶暴化した鼠。これらを強力な魔力で統率するのが、発光する猫たちなのである。

猫たちはそこを根城にし、支配者層として振る舞っている。元人間が深夜帯に金銭や光るものを収集し、低級悪魔が出入り口に結界を張り、怨霊は人間を襲いびっくりさせ、鼠がテリトリーを広げたり猫の食事になったりする。ビルの隙間に王国は建国されるのだ。

一方で、権力争いは全生物的な事象であるらしく、同種間での闘争も絶えない。熾烈なパワーゲームに敗れた猫は潰走し、追い出され、栄華の一切を失い、悲惨な路上生活を余儀なくされている。路上に放り出された途端、猫はクリーチャーを統率する能力と資格を失い、ただにゃあにゃあ鳴いたり逃げたりするだけの存在に成り果てる。

僕を隊長とする探検隊は、楽園を追われた猫たちを隊員とする組織で、藤岡弘探検隊に強い影響を受けている。

まとまりは全くなく、僕がハートマン軍曹の物真似をしながら演説したり訓辞をたれたところで、まともに耳を傾ける者は皆無である。おのおの、ゴミ箱を漁ったり、毛繕いをしたり、大声に驚いて逃亡したり、寝たりである。

相手の急所を一撃で切り裂けるよう、隊員の手を取り鋭く動かし、「こう、こうだ! こう、喉笛をブッタ切るんだ!」と実演指導するも、「フギー!!」「うわぁ!」と激高し隊長に牙を剥く始末である。

しかしながら、僕は未知への探求で、隊員たちは権力の奪還で、まとまりは皆無で目的は違えど、我々は一枚板なのだ。毎夜の路上でのビールや牛乳やツナ缶を囲んでの会議。「この道はどこに繋がってるんだ?」「みゃあ」といった綿密な隊員たちへのリサーチと資料作成。帰還を最優先とした危険極まりない斥候。これらの活動により、上述したような新宿の秘密を多少なりとも握ることができた。

未だ、クリーチャーや敵猫(てきねこ)との敵領域での遭遇は無く、実戦経験が皆無なのが不安要素だが、保有する情報量においては我が軍が圧倒的である。よろず物事は準備で全てが決まる。負ける要素は見あたらない。都会のど真ん中に築かれた猫たちの王国を蹂躙する日が楽しみだ。

侵略が為ったその日、僕は、西新宿の猫の王として君臨するのである。王国名を今から考えておかねばなるまい。


『対酒』白楽天


牛角上争何事

石火光中寄子此身

随富随貧且歓楽

不開口笑是痴人




なんかさー、カタツムリが角の上で左右に分かれてケンカしてんだけどさー、バカだよねー。
でも人間のやってることもこんなもんだよね−。人生なんて火花が散るように終わるしさー、大差無いっていうかー。超儚いよねー。
だからさ−、金とかさー、あってもなくても別にいいからさー、とりあえず呑んだほうがいいよねー。
わざわざ酒飲んで沈むとかさー、バカだよねー。酔っぱらって楽しく笑っとけばいいのにねー。

ミケ蔵は伸びる。全ての猫はひっぱると伸びる。世の中には伸びないものもあるが、猫は無条件に伸びる。僕が捕食者や敵対勢力である可能性はゼロでは無いのに、徹底的に油断し、物憂げににゃあにゃあ鳴き、愛撫に身を任せ、抵抗無くずるずると際限無く伸びる。

軍事行動では、夷陵の劉備軍や南方諸島での日本軍を例に出すまでもなく、補給線を伸ばしすぎることは悪手の最たるものとされる。遠からずそれは、敵に分断される、各個撃破され、殲滅され、大敗北へと陥る。もっともやってはいけないことなのだ。兵站の限界値を元にしか戦争をやらなかった曹操は本当に偉大だったといえよう。

それなのに、この馬鹿猫ときたら……! その伸びきった身体を攻撃されたらどうするつもりなのだろう。僕はミケ蔵の危機意識の無さを責めなじる。

「おまえらを猟奇的に殺害する許し難い犯罪が跋扈する昨今において、僕が善人であったことに感謝するのだぞ」
「にゃあ」

などと恩着せがましく話しかけながら、伸ばし、転がし、遊ぶ。僕の熾烈な叱責がよほど身に応えたのか、「みゃあ」との声と共に、ミケ蔵は猫なでパンチを非常に緩慢とした速度で放ち、抗議の意を示す。あっさりと躱しカウンターを決め

「ふん、ばかめ。僕は何時までもおまえに構っているほど暇では無いのだ」
「みぃ」

と悪態をつき、後ろ髪をひかれながらその場を離れ、適当に歩き、本を一冊抱え、喫茶店に入る。気がつくと日は暮れかけ、一日があっという間に終わる。この季節の新宿の空は、午後七時少し前が一番きれいだ。昼間の馬鹿馬鹿しさが沈静し、覆い隠されかけ、別の種類の狂騒が蠢きだす寸前の空。