資本集約型ビジネスは労働集約型ビジネスよりも優れているの?

起業の勧めを説く記事では必ずといっていいほど、労働集約型ビジネスと資本集約型(またはストック型)ビジネスの比較をして、後者が優れているのでそちらを目指すべきということが説かれています。別の言い方では、インフラorプラットフォームorルールを作ってそこから儲けるようにするべきだ、とも説明されます。

最近では、この議論を次のような記事で見ました。(以下にリンク)

この議論は一見説得力があるのですが、果たして本当にそんなにうまくいくものなのでしょうか?実は、経済学の初級的な議論からは、違った議論を導くことができます。

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スウェーデンモデルと日本の未来

オリンピックに集中してブログをほったらかしていたら、仕事が忙しくなってブログどころではなくなっていました。久しぶりなので今日は軽めで。

かなり古い記事ですが、"The Swedish model: Admire the best, forget the rest - The Economist"というのを読みました。高福祉国家として名高いスウェーデンの実情について、The Economist一流の分析をしているのですが、読んでいるうちに日本の未来と重なるような気がしてきました。

スウェーデンはいわゆる「北欧モデル」の代表選手で、高い税率と高福祉を特徴としながら、維持可能な福祉システムと高い経済競争力を持ち、国民の幸福度が高い、と一般的に考えられていて、英米型の対極でありながら成功した経済モデルとして参照されることの多い国です。件の記事は、2006年9月の総選挙の直前に書かれたもので、そのスウェーデンの経済について、そんなに甘い世界ではないという現実を分析しています。

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公開会社法の論理学

藤末健三さんの「株主の行き過ぎた権限を抑制する」という記事に対して、池田信夫さんが「マイクロソフトは「株主を保護しない企業」か」と噛み付いた記事に対して、小倉秀夫さんが「「非AでもB」という実例の存在は「AならばB」という命題の反証たり得ない」と噛み付いています。これは論理学の題材として面白いので、ちょっとやってみましょう。

まず、藤末さんの議論は次のような認識が背景にあると考えられます。
「株主保護が強ければ配当性向が高くなり、株主保護が弱ければ配当性向が低くなるため、配当性向が高くなっていると言うことは株主保護が強くなっているということの証拠となり得る。」
これを論理式で書きなおすと次のようになります。

命題: ∀x (A(x) ⇒ B(x)) ∧ (¬A(x) ⇒ ¬B(x)) ≡ ∀x A(x) ⇔ B(x)
A(x) = xの株主保護が強い
B(x) = xの配当性向が高い
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(修正版)30歳代前半の労働時間と子育てについて

2月17日の記事で用いたデータの処理を間違えていたせいで、表1の値が不正確なものになっていたので、再度分析した結果を書きなおしました。

件の記事で指摘した通勤時間の変化について、いろいろ仮説を立てて統計を見ていたのですが、どうしても現象を論理的に説明できる結果が得られないので、再度元になった社会生活基本調査のデータを見直している時に見つけました。この統計は、平成18年のデータは分単位なのですが、平成8年と平成13年は「時間.分」というフォーマットになっていたのですが、これをそのまま小数として処理してしまったために間違いがおきました。

幸い、通勤時間の数値を除いては、データにそれほど大きな差は生まれなかったので、前回の分析の論旨が大きく崩れることはなさそうです。

さた、この分析を行うきっかけは、30歳代前半の子育て環境を生活時間の観点から分析しようという着想でした。そこで、「総務省 社会生活基本調査」を用いて、生活時間の統計を確認しました。

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人件費と配当の本当の関係

【技術経営戦略孝】公開会社法結語:株主の行き過ぎた権限を抑制する」の内容が、事実を無視していてあまりに酷いので、きちんとしたデータを確認するだけしておこうというのが、今回の記事の趣旨です。

件の記事では、株主の力が強すぎることを次のデータを用いて説明しています。

  • 平成18年〜平成20年の間で、配当性向(=配当金÷純利益)が増えている
  • 平成16年〜平成21年の間で、株式発行額が減少するのに対して、自社株買いが増えている(ただし、平成21年は除く)
  • 2004年(平成16年)〜2008年(平成20年)の間で、経常利益が増加するのに対して、平均給与が横ばいである

これらのデータを受けて、2ページ目では次のように述べています。

これらのデータは、他のステークホルダーが係わり稼ぎ出した利益を株主がごっそりと持ち出していると、雄弁に語っているのではないだろうか。

資本会計と損益会計の違いが理解出来ていないことや、純利益に人件費が含まれていないので配当性向と給与との間には何の関係もないことなど、企業会計の基本的なところが全然理解されていないので全く論旨が破綻しているのですが、事実関係の点のみに絞って、人件費(=給与総額)と配当の関係が本当のところはどうなっているのかということについて、数字を見ておこうと思います。

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なぜ最近の若い男性が結婚できないのか?

ちょっと刺激的なタイトルですが、2月7日の労働時間の分析を行っているときに、興味深いデータに気づいたので、少し深く分析してみようと思いました。前回の分析では、有配偶者のデータを調査しましたが、年齢階級別の有配偶者の比率を調査してみると面白いことがわかるのではないかと思ったのです。

有配偶者数と比率は、前回使った「総務省 社会生活基本調査」にも推定値が掲載されていますが、「総務省 国勢調査」の方がより正確な値でより長い時系列データを見ることができます。なお、国勢調査は他の調査とは違い、統計的な標本調査ではなく、全数調査なので、日本国民のほぼ全員からの回答を集計する精度の高い調査ということができます。

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30歳代前半の労働時間と子育てについて - (内容に間違いがあります)

この記事は、データの処理に問題が見つかったため、再度分析して書き直しました。修正版はこちらを参照してください。 - 2010/2/21

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