古代の台湾?

岡本隆司*1『物語 江南の歴史』から。
建康(現在の江蘇省南京)に拠った「東晋*2について。


建康を本拠にした東晋は、あくまで亡命政権であり、その姿勢・立場をとりつづけた。「五胡」に奪われた中原の回復を国是とし、移民たちも一時避難のつもりである。政権は来るべき失地回復、故郷帰還を期する意味で、移民たちを別の戸籍にあて、正規税役の対象からも外し、北人優位の体制を確立した。(p.56)
このパラグラフの前半部、「「五胡」に奪われた中原の回復」を、中国共産党に奪われた中国大陸の回復と書き換えれば、中華民国、台湾の国民党政権になる。
また、

東晋は当初、流亡政権として中原の回復と統一王朝の再建をめざした。けれども素志かなわず、四世紀半ば以降、次第に江南に定着した現状・既成事実を認め、それにもとづく制度を作りはじめる。(p.65)
そういえば、中華民国の国民党政権も(東晋と同様に)南京を首都としていたのだった。

この用法は

川上未映子*1「ご機嫌なのです、大眼鏡」(in 『おめかしの引力』、pp.73-75)


以前「しゅっと」という言葉について取り上げたことがある*2
川上さん曰く、


うしし、とうとう買っちゃったんだよねアラレちゃん*3
正しくはアラレちゃんではなくて「アラレちゃん眼鏡」なのだけど。
みなさんは去年あたり*4から、街のなかで結構な割合で目撃されているであろう、八〇年代極まりない、あの大きなフレーム眼鏡のことであります。
好みはあるけど、普通のTシャツにあの大眼鏡をかけてみると、それだけでなんかしゅっと締まるというか、おめかしに気をつかってます感が出て、一年前から欲しいな欲しいなと思っていたんだよね。けれどもいまいち似合う形がなくってじりじりしていた。(p.73)
これは意味がわかりやすい使い方だけど、最近話題になっている使い方とはちょっとずれている。因みに、川上さんは大阪人。

坂本長利

東京新聞』の記事;


坂本長利さん死去 俳優
2024年3月22日 07時26分


 坂本長利さん(さかもと・ながとし=俳優)*120日、老衰のため死去、94歳。島根県出身。葬儀・告別式は26日午後1時から栃木県佐野市韮川町578の1、佐野斎場で。所属事務所「響和堂」*2が主催するしのぶ会を4月21日午後1時から東京都羽村市で開く予定。
 民俗学者宮本常一高知県で聞き取った老人の一代記「土佐源氏*3を一人芝居化し、50年以上演じた。テレビドラマ「Dr.コトー診療所」の村長役も演じた。
(後略)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/316576

市川崑の『股旅』*4にも出ている! ところで、Wikipediaを眺めていると、坂本さんは1970年代初めに日活ロマンポルノの『女子大生SEX方程式』に出ていたことがわかる。遺憾ながら、この映画は未見であり、ストーリーとかも知らないのだけど、タイトルだけは記憶に焼き付いている。この映画のポスターが町中に貼ってあった。まだ中学校にも行っていない童貞の少年の目の前に初めて現れた「SEX」という文字なのだった。木村哲也氏*5曰く、

Steve Harley

Nadia Khomami “Steve Harley, Cockney Rebel frontman, dies aged 73” https://www.theguardian.com/music/2024/mar/17/steve-harley-cockney-rebel-frontman-dies
Noor Nanji “Steve Harley death: Cockney Rebel singer dies at 73” https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-68590846
Adam Sweeting*1 “Steve Harley obituary” https://www.theguardian.com/music/2024/mar/18/steve-harley-obituary
コックニー・レベルのスティーヴ・ハーレイ死去」https://amass.jp/173823/


3月17日、コックニー・レベルのリード・ヴォーカルとして知られるシンガー・ソングライターのスティーヴ・ハーレー*2が英国サフォークの自宅にて息を引き取った。享年73歳。長い間癌を患っていた。
この訃報を最初に知ったのはKate Bush Newsの記事だった;


Seán Twomey*3 “Steve Harley 1951-2024” https://www.katebushnews.com/2024/03/17/steve-harley-1951-2024/


ケイト・ブッシュとの関係について言及されているところを切り取っておく;


Two other members of Cockney Rebel, Stuart Elliott (drums) and Duncan Mackay (keyboards) would play on Kate’s albums. Near the end of her run of shows for the Lionheart Tour in 1979, Kate played a special concert May 12th at the Hammersmith Odeon in aid of Bill Duffield, her lighting engineer who tragically died after the first performance in Poole. Steve Harley was her special guest on the night along with Peter Gabriel, performing on versions of Them Heavy People, The ‘Woman’ With the Child in Her Eyes, Best Years of Our Lives, Make Me Smile (Come Up and See Me) and Let it Be. Always a staunch supporter of Kate’s work, Steve would report on his BBC Radio 2 shows when he’d hear any Kate news worth reporting, and was interviewed on several radio and television programmes for his impressions on Kate’s return to the live stage in 2014.
Kick Inside

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*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080916/1221529020 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20120523/1337701361 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130522/1369244717 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20150404/1428076121 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20150408/1428463911 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20150624/1435119462 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20150630/1435623111 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160111/1452529920 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160309/1457542184 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160424/1461523983 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160701/1467348805 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161112/1478931820 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161225/1482656805 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170125/1485327568 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170126/1485399042 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170519/1495160445 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/10/07/101533 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/07/27/143235 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/01/11/144245 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/01/22/093236 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/02/24/112934 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/06/14/110715 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/01/03/113720 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/01/28/134036 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/05/28/151935 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/02/14/154010

*2:http://www.steveharley.com/ See eg. https://en.wikipedia.org/wiki/Steve_Harley

*3:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110106/1294246640 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/09/07/085321 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/10/04/104930 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/11/12/161626 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/12/22/124409 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/02/24/112934 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/12/23/100011 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/01/13/144201 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/05/31/132915 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/07/30/105916 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/08/04/155758 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/01/08/161527 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/02/29/150259 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/03/27/135225

80th Birthday

Seán Twomey, Krys Fitzgerald, Peter Fitzgerald and Dave Cross "Happy 80th Birthday to John Carder Bush!" https://www.katebushnews.com/2024/03/26/happy-80th-birthday-to-john-carder-bush/


ケイト・ブッシュの長兄であるジョン・カルダー・ブッシュ氏*1が80歳の誕生日を迎えた。
さて、ケイトの”Jig of Life”の後半部ではJCBによる自作の詩の朗読が聴けるのだった。


BEFORE THE DAWN

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4年で!

『スポーツ報知』の記事;


松田聖子中央大学法学部通信教育課程を卒業「法律を学ぶことができた4年間は素晴らしい時間」
3/25(月) 4:00配信


スポーツ報知

 歌手の松田聖子(62)*1中央大学法学部通信教育課程を卒業したことが24日、分かった。学士(法学)の学位が授与された。

 松田は数年前から、レコーディングやコンサートなど音楽活動の合間を縫って、勉学との両立に励んできた。スポーツ報知にコメントを寄せ、「この度、中央大学法学部通信教育課程を卒業することができたことを、大変幸せに思います。中央大学で法律を学ぶことができた4年間は、私にとって素晴らしい時間でした。あたたかくご指導いただきました先生方、関係者の皆様に心より御礼申し上げます」と心境をつづった。

 1980年4月に「裸足の季節」でデビューし、40年以上のキャリアを誇る。アーティストとして第一線を走り続ける中、悔いを残さないために、大学に進学して学び直すと決めた。

 リカレント教育(=社会人になって学び直すこと)を通じて、新たな知識やスキルを得た松田。いくつになっても挑戦を続け、結果を出していくのは努力の賜物(たまもの)だ。来年はデビュー45周年を控えるが、「大学で学んだことを糧にして、これからも仕事に励んでまいります」と誓った。
https://news.yahoo.co.jp/articles/3e7c24813dfaf4faca0017dbd8ef86f9a0cf77d4

学部は何であれ、4年間で通信教育課程を卒業できたということが凄いと思った。正確な統計があるのかどうかも知らないけれど、4年間で通信教育課程を卒業した人はかなり少ない筈だ。さらに、卒業率そのものが低く、学業が途中でフェイド・アウトしてしまったとうことも多い筈だ。何故通信教育を卒業するのが難しいのか。普通、大学に行くというのは、決まった場所にある校舎まで歩いたりとか、また電車などの公共交通で行き、大学側がその時間割を指定した授業に出席するということを基本とする。つまり、何時何処で学習するのかということは、大学側によって他律的に決められている。それに対して、通信教育の場合、何時でも何処でも学習することができる。というか、自由に(自己責任で)学習環境を設定せざるを得ない。また、通信教育の場合、キャンパスや教室という特別な場所がないので、学業は日常的な仕事や家事と空間的に地続きになる。そうだと、仕事や家事が忙しいので学業の方は今いいか! という感じにより流されやすくなる。学業をサボっても、それを責める人は周りにいないので。通信教育というのが孤独な学習であるということも挙げなければいけないだろう。私たちが学習するに当たって、ピア・プレッシャーというのは重要である。特定のクラスメートに対して、競争心を燃やしたり、劣等感や優越感を持ったりすることによって、学業が動機付けられるということはある。通信教育の場合、動機付けにおいて他者に頼ることはできない。モティヴェーションを維持するには自分で自分を鼓舞していくしかないのだ。
松田聖子さんが4年で通信教育課程を卒業できたということは、何よりも自律的に自分の時間管理をする能力があり、自分を鼓舞してモティヴェーションを維持することができたということだろう。
ところで、新型コロナウィルス禍におけるオンライン授業の促進というのは、普通の大学教育をかなり通信教育に近づけることではなかったか。だとしたら、今年大学を卒業した人たちというのは、或る意味で松田聖子さんと似た条件の下で学業を続けてきたわけだ。
また、松田聖子といえば神田沙也加の急死による喪失感ということが報じられた。学業に勤しむことが喪失感を緩和することに役立ったということは想像に難くない。

媒介者など

期間限定で無料公開されるということで、ちょっと前に大林宣彦の『異人たちとの夏*1YouTubeで観た。1988年の作品。原作は山田太一*2の小説だが、山田はこの映画のシナリオには一切関わっておらず、市川森一が脚色を一手に引き受けている。
人気脚本家の原田(風間杜夫*3)は妻と離婚してマンションで独り暮らしを始めたことを契機として、〈異界〉に迷い込む。〈異界〉が原田の世界に侵入してくるといった方が正確かも知れない。具体的に言うと、12歳のときに交通事故で死んだ父母(片岡鶴太郎*4秋吉久美子*5)と再会して、家族の団欒を過ごし直す。また、(実は自殺した幽霊である)桂という女性(名取裕子)とのセックスに耽溺する。原田は勿論父母が既に死んでいることを知っているが、桂が実は幽霊であることには気づいていない。どちらも原田にとっては、悦ばしきことだったが、精力を吸い取られて、原田は目に見えて衰弱してしまう。結局は、〈異界〉との関係を断ち切って、この世に帰還することによって、物語は閉じられる。すごくアナクロニズム的なことを言えば、この映画は中年男版の『君たちはどう生きるか*6であると言えないこともない。
ところで、『異人たちとの夏』には間宮という男(永島敏行*7)が登場する。彼はTV局のプロデューサーで、原田がシナリオを書いたドラマを担当している。しかし、彼は原田と業務上以上の関係を有している。間宮は桂と対決して、原田をこの世に引き戻す(或いは〈異界〉をこの世から打ち払う)原田にとっての恩人である。しかし、他方で、彼は以前から原田の妻に惚れていて、原田の離婚を機に付き合い出し、その再婚相手となる。その意味では、原田の〈異界〉に落とした張本人といえるかも知れない。間宮は原田を〈異界〉へとプッシュし、〈異界〉からプルする。そのような仕方で物語を作動させている。『君たちはどう生きるか』でいえば、アオサギに当たるのだろうか?
アナクロな話をさらに続けてみる。この映画の舞台となっているのは、バブル経済最盛期或いは昭和の末期である。原田の〈異界〉滞在、特に父母が住む古アパートの一室という設定というのは、バブル期の東京再開発(地上げ)への抵抗であると言えないこともない。さて、1980年代、昭和末期のコミュニケーションの主要な道具は固定電話と公衆電話だ。21世紀において映画を観る私は、昔の自分自身がそうだったのにも拘らず、この時代はまだ携帯電話を使っていないんだ! と軽く驚いてしまう*8。その一方で、ノスタルジックなものとして提示される、原田が子どもだった頃の、また父母が今もまだ生き続ける、多分昭和30年代であろう世界においては、一般の家に固定電話はない*9。それで、つい最近まで、大衆的なノスタルジーの対象として提示され・消費されるのは昭和30年代だったということを思い出した。それは1980年代でも変わらなかったのだった*10
なお、『異人たちとの夏』が今頃になって注目されれいるのは、これが英国においてリメイクされたからだろう;


シネフィル編集部「山田太一の傑作小説を映画化。「荒野にて」「さざなみ」のアンドリュー・ヘイ監督が描く愛と喪失の物語『異人たち』監督&キャスト自らガイドする特別映像が解禁!」https://cinefil.tokyo/_ct/17690733
映画チャンネル編集部「山田太一の原作が英国で賞総なめ…その理由とは? 『異人たちとの夏』のリメイク映画を徹底解説。大絶賛の海外評を紹介」https://eigachannel.jp/movie/50538/#google_vignette
八竹彗月「映画『異人たちとの夏』」http://fractal-ihi.sblo.jp/article/190807441.html

*1:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20111211/1323533796 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/04/12/025007

*2:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20080821/1219335534 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110924/1316792856 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161230/1483071439 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/10/20/121524 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/02/01/132933

*3:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20060514/1147587985 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20100712/1278905010

*4:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20111219/1324265873 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161112/1478960736 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180705/1530803122

*5:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070123/1169575048 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20091021/1256098110 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20100916/1284660360 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110208/1297194895 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170422/1492867244 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180714/1531581302 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/07/30/102841 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/12/01/142405

*6:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/08/13/074355 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/09/02/174133 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/10/02/102958 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/03/13/155629

*7:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20131112/1384187757

*8:因みに、原田はワープロ専用機を使って執筆している。

*9:ただ、TVはある。

*10:最近では、ノスタルジックな昭和として提示されるのは1980年代であることが増えてきたようだけど、それは何時頃からなのだろうか?