承前*1
本を買った。
金井美恵子『ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ』中公文庫、2024
大江健三郎『晩年様式集』*2講談社文庫、2016Via https://nessko.hatenadiary.jp/entry/2024/03/18/084114
津田雅之氏*1のツィート;
カエルの編みぐるみが、凧揚げをして、空を見上げながら草原で寝そべっている動画。イギリスの編み物作家 India Rose Crawford の作品 pic.twitter.com/bJJE0NkVDX
— Masayuki Tsuda (@MasayukiTsuda2) 2024年3月12日
伊藤亜紗*1「障害と科学技術 呪縛からの解放」『毎日新聞』2023年1月14日
キム・チョヨプ、キム・ウォニョン『サイボーグになる』という本の書評。
キム・チョヨプは一九九三年生まれのSF作家。聴覚障害の当事者で女性、大学では自然科学を専攻した。キム・ウォニョンは一九八二年生まれの弁護士。骨形成不全症*2という難病の男性であり、作家、パフォーマーとしても活動している。(後略)
著者たちが注目するのは、サイボーグのリアルな姿だ。技術を含む物理的環境の影響を受けやすい障害者は、機械と身体の接合部が決して滑らかではないことを知っている。「皮膚のただれや炎症」は日常茶飯事だし、「バッテリー残量五パーセント」の恐怖は消えず
機械は高価で専門的なメンテナンスを必要とする。科学技術は輝かしい未来を描くことで希望を与えるが、それはあまりに楽観的で時として過大広告的だ。必要なのは、遠い未来の最先端技術や医療の画期的な発展ではなく、「継ぎ目」をケアしてくれるもっと現実的なアイディアなのだ。
本書の核となっている概念のひとつは「クリップ・テクノサイエンス」である。「クリップ(crip)」は直訳するならば「不具」という意味。性的少数者を指す「クィア」と同様に、当事者があえて差別用語を使うことによって、その意味を反転させようとする言葉だ。日本ではあまり馴染みがないが、米国では二〇〇〇年以降広がりを見せている。
つまり「クリップ・テクノサイエンス」とは、「不具の技術科学」のこと。従来の技術開発が主に障害者の「ために」、非障害者によってなされてきたのに対し、「 クリップ・テクノサイエンス」は、障害者自らが知識の生産者になろうとする。前者は、善意に基づくとしても、障害は克服すべき欠陥とみなしがちだったのに対し、後者は障害を可能性の源とみなす。技術の向かうべき方向に当事者が介入することは、建物の入り口に車椅子用のスロープをつけることと同じ、いやそれ以上に根本的な、環境への重要な介入なのだ。
(前略)私たちは科学技術を「最適解」「合理化」「普遍」の呪縛から解放する時期に来ているのではないだろうか。人々の生を支えるものである以上、科学技術は多様な視点に対して開かれたものであるべきだ。著者たちの特徴は、当事者でありながら障害を語ることに距離があることだ。障害学以外の学問的背景をもつ彼らだからこそ、具体的かつ実践的、創造的な議論ができているように思う。すがすがしい。
*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180731/1532975436 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180803/1533248568 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180927/1538016252 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/03/19/104339 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/07/21/232927 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/09/16/113655 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/09/21/121043 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/03/31/101958 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/05/16/022908 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/08/19/145235 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/01/05/102447 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/02/01/084538 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/03/08/125557 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/03/15/164204 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/03/25/153156 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/05/30/104207 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/07/08/143208 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/07/18/145109 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2023/04/08/162749
*2:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161211/1481446096 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180212/1518403530
末木文美士『日本の近代思想を読みなおす2 日本』*1から。
国学を「自尊主義」的方向へ「大きく一歩を進めた」のは本居宣長の弟子、服部中庸*2だった。
(前略)中庸の『三大考』は、天・地・泉の成立を図を用いながら論じたもので、虚空からアメノミナカヌシ・タカミムスビ・カミムスビの三神の力で、天・地・泉が形成される過程を十段階に分けて論じている。天(タカマガハラ)は日(太陽)であって、アマテラスが支配し、泉(ヨミ)は月でツクヨミが支配する。地はスメミマ(皇御孫)が支配するところである。中庸は天文学にも通じており、神話の世界観を天体と結びつけ、その成立論を体系的に論じたところに、画期的な意味があった。その中で、皇国はイザナギ。イザナミの二神から生まれ、天に通じている点で、他の諸国に優越する。他国は二神の産んだ国ではないので、その点ではっきりした差別が生ずることになる。
このように、『三大考』は、宣長がなしえなかた日本古典に基づく世界観を体系化し、その中に日本優越の自尊主義を理論づけた。その際、注目されるのは、第一に、死後の魂の行方の議論が関わってくることである。宣長は死後の魂は黄泉に行くとしたが、それ以上のことはわからないと断念した。それに対して、中庸がはじめて読みの位置づけを明らかにしたことは、この語の議論に大きな影響を与えることになった。第二に、世界に優越する支配者として天皇が大きくクローズアップされることである。皇国の天皇のみが世界の支配権を委託され、代々継承していく。その支配の範囲は当然日本のみに限られず、この地上の世界全体にわたることになる。この説は、この後の平田派の神道家たちに継承され、さらに天皇支配を根拠とする自尊主義は昭和の国家主義・超国家主義にもつながることになる。
『三大考』は、宣長生前に『古事記伝』*3の刊本の最後に、宣長の推薦を付して刊行された。即ち、宣長のお墨付きを得たことになる。それが宣長没後に問題になり、養子の大平*4が批判を展開するなど、大騒動に発展した(金沢英之『宣長と『三大考』』、二〇〇五)。その中で、『三大考』を積極的に受容したのが、平田篤胤であった。篤胤の主著『霊能真柱』は、『三大考』の修正版と言ってよく、その図を踏襲する中から自説を展開している(後略)(pp.28-30)
*1:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2024/03/11/031455
*2:See eg. 本居宣長記念館「服部中庸(ハットリ・ナカツネ)」https://www.norinagakinenkan.com/norinaga/kaisetsu/hattori.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%8D%E9%83%A8%E4%B8%AD%E5%BA%B8 「中庸」はナカツネと念む。
*3:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20161222/1482425853
【ニュース】マティスの「切り紙絵」に着目 ― 国立新美術館で「マティス 自由なフォルム」
— アイエム[インターネットミュージアム] (@InternetMuseum) 2024年2月13日
4×8メートルもの大作《花と果実》は日本初公開!展覧会の公式アンバサダーは、安藤サクラさん#マティス自由なフォルム #マティス展 https://t.co/KYKKzNuaKO pic.twitter.com/0hORuxRW6C
国立新美術館の『マティス 自由なフォルム』*1を観た。入館したのが夜の7時を回っていたので、かなり慌ただしかったけれど。
この展覧会の目玉はやはり晩年の切り紙絵の大作「花と果実」(410 × 870cm)の日本初公開、そしてマティスがデザインした「ヴァンスのロザリオ礼拝堂」の内陣の再現ということになるのだろう。さて、アンリ・マティス*2ならよく知っている。ヴィヴィッドな色彩とリズミカルな運動性のあるフォルム。しかし、この展覧会で気づいたのは、そうしたマティスらしいマティスではないところのマティスだった。マティスは若い頃、絵画と並行して彫刻(木彫やブロンズ)も実践していた。これも知らなかったマティスなのだけど、そこに感じたのはリズミカルな運動性のあるフォルムとは真逆のこと。あらゆる運動を吸収してしまうような物質性(塊=マッス)へのこだわり。これが何よりもいちばんのショックだった。勿論、この展覧会でマティスらしいマティスに触れる幸福を享受することは否定されないので、安心すべきだろう。
それから、マティスのテキスタイル・デザイナーやバレエの衣裳デザイナーとしての側面も紹介されている。「ロザリオ礼拝堂」に関して、彼は司祭の服(カズラ)のデザインも行っているのだった。
*1:https://matisse2024.jp/ See eg. https://bijutsutecho.com/exhibitions/13005
*2:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20101112/1289534333 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110314/1300124753 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110724/1311516630 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20141125/1416841903
承前*1
Japanese manga artist Akira Toriyama, creator of the influential and best-selling Dragon Ball comic, dies at 68 https://t.co/Ul1dcS7QMc
— BBC Breaking News (@BBCBreaking) 2024年3月8日
Fan Wang*2 “Dragon Ball: Japan manga creator Akira Toriyama dies” https://www.bbc.com/news/world-asia-68444060
Arata Yamamoto and Andee Capellan "‘Dragon Ball’ creator Akira Toriyama dies at 68" https://www.nbcnews.com/news/world/akira-toriyama-dragon-ball-dead-rcna142397
Nicholas McEntyre "‘Dragon Ball’ creator Akira Toriyama dead at 68" https://nypost.com/2024/03/08/entertainment/dragon-ball-creator-akira-toriyama-dead-at-68-after-suffering-serious-brain-injury/
CBS and AP “Akira Toriyama, creator of "Dragon Ball" series and other popular anime, dies at 68” https://www.cbsnews.com/news/akira-toriyama-dies-dragon-ball-creator-anime-dead-age-68/
本を買った。
柴崎由香『百年と一日』ちくま文庫、2024
【待望の文庫化】柴崎友香『百年と一日』(ちくま文庫)見本が出来上がりました!
— ちくま文庫 (@chikumabunko1) 2024年3月1日
単行本刊行時、読む人に新鮮な感覚を呼び起こし、各紙書評や第1回「みんなのつぶやき文学賞」第1位など話題となった一冊。1篇を追加し、深緑野分さんの解説も加わり待望の文庫化!
3月11日頃発売予定。お楽しみに。 pic.twitter.com/N3K8mkjSho
今回「その人には見えている場所を見てみたいって思うんです、一度行ったことがあるのに道がわからなくなってしまった場所とか、ある時だけ入口が開いて行くことができる場所のことを考えるのが好きで、誰かが覚えている場所にもどこかに道があるんじゃないかって、と彼は言った」が増補されてます。
— ちくま文庫 (@chikumabunko1) 2024年3月1日
柴崎友香さんの『百年と一日』がこのたび文庫になり、単行本時に寄せた帯文を引きつづき使っていただきました。今世紀のもっとも瞠目すべき日本文学作品の一つだと思っているので、とても光栄です。
— 岸本佐知子 (@karyobinga) 2024年3月4日
そして柴崎さん、芸術選奨 文部科学大臣賞、おめでとうございます🎉㊗️🎊 pic.twitter.com/WGrgsEDkri
【待望の文庫化】柴崎友香『百年と一日』(ちくま文庫)、いよいよ発売です! 2020年の単行本刊行時に「こんな作品読んだことない…!」と新鮮な感動を呼び起こした一冊が、ついに文庫化。人間と時間の不思議がここにある。1篇を増補しています。
— ちくま文庫 (@chikumabunko1) 2024年3月8日
解説は深緑野分さん、帯文は岸本佐知子さんです! pic.twitter.com/9VFU8N5Kws
柴崎友香『百年と一日』文庫も、装画は長谷川潾二郎「紙袋」。装丁は名久井直子さんです。
— ちくま文庫 (@chikumabunko1) 2024年3月8日
単行本発売時に開設された特設サイトでためし読みも可能です。
https://t.co/ipfgS3Gsvs
早いお店では本日あたりから並んでおります(週明けになるお店もあるかと思います)。よろしくお願いいたします!
『百年と一日』が文庫になりました。
— 柴崎友香 (@ShibasakiTomoka) 2024年3月8日
1篇増えて34篇、よろしくお願いします。 https://t.co/RNJzAx5NgA
編集を担当した、柴崎友香『百年と一日』文庫版、発売となりました!この1冊、34の物語を読むことで、この地球の、過去・現在・未来の、様々な人や場所に会ってみて下さい。 流れる時間とそこに佇む人に触れるうち、様々な感情が去来するはず。解説は深緑野分さん、帯文は岸本佐知子さんです。ぜひ! pic.twitter.com/wlXdxuGh87
— 河内(『北と南』) (@kita_to_minami) 2024年3月9日
単行本に続き、装丁は名久井直子さん、装画は長谷川潾二郎の作品です。今回も素晴らしい仕上がり…!紙袋がこの作品の世界のありように本当にぴったりです。
— 河内(『北と南』) (@kita_to_minami) 2024年3月9日
本日発売の柴崎友香さんの『百年と一日』(ちくま文庫)に、深緑が解説を書かせて頂いております!
— 深緑野分(※本人に代わり『告知の人』が運用中) (@fukamidori6) 2024年3月11日
とても素敵な作品です。ぜひ皆さんも手にとってみていただければと。柴崎さん刊行おめでとうございます㊗️ https://t.co/GDoQAqgS1z
ありがとうございます!
— 柴崎友香 (@ShibasakiTomoka) 2024年3月11日
『百年と一日』(ちくま文庫)、深緑野分さんに解説を書いていただきました。深緑さんが小説をすごく読まれていることと小説への愛がひしひし感じられる解説で、そこで丁寧に語ってもらえた『百年と一日』は幸せ者です。
単行本で読まれた方も解説をぜひ読んでほしいです。 https://t.co/8DpqraYpUw
こちらこそ素晴らしい機会をありがとうございました!本当に大好きな作品なので、関わらせていただけて幸せです。今後一層たくさんの方の元に届きますように!!(本人より)
— 深緑野分(※本人に代わり『告知の人』が運用中) (@fukamidori6) 2024年3月11日