アミューズトラベルはウェブサイト閉鎖すべきでない

先週の万里の長城遭難事件直後から、御社ホームページ、支店ブログへのアクセスができなくなっている状態が続いています。

報道によれば、観光庁の自粛要請にもかかわらず事故直後の11月8日よりペルーの登山ツアーが出発しているそうです。

そのような状況下で、顧客への情報提供や広報機能を果たすホームページを閉鎖するべきではないのは明らかです。

社会的な責任を負った企業がやるべきことではありません。

事故に対する謝罪や今後のツアーの安全、現時点で御社が認識している事実関係を掲載すべきではないでしょうか。CSR以前の問題として、社会常識が疑われます。

観光庁、登山ツアー企画の50社超を立ち入り検査へ

登山ツアー企画の50社超を立ち入り検査へ 観光庁 :日本経済新聞
登山ツアー企画の50社超を立ち入り検査へ 観光庁

2012/11/13 12:30

 中国河北省の万里の長城付近で日本人ツアー客3人が死亡した遭難事故を受け、観光庁は13日、国内外で登山ツアーを企画・主催する旅行会社50社以上を立ち入り検査する方針を固めた。ツアーを企画する際、社員が現地を下見したかどうかなど、安全対策の実施状況を調べる。早ければ12月から検査に入り、事故の再発防止につなげる。

 観光庁は立ち入り検査に先立ち、旅行会社の社内規定や登山ツアーの運行マニュアルの策定状況などを調べるよう、日本旅行業協会などの業界団体に要請した。

 各団体は週内にも加盟企業にアンケートを送付。安全対策の状況を確認し、各団体が定めたルールに違反する事例があった場合、注意や指導をする。アンケート結果は業界団体が年内にまとめる海外ツアー登山の運行マニュアルの策定にも生かすという。

 観光庁による立ち入り検査は業界団体からアンケート結果の報告を受けて順次始める。

 社員が現地を下見したかどうかは出張関連書類などで確認。登山中の通信手段の確保などについても詳しく調べる。

観光庁も何度も指摘していますが、以下の3点は非常に重要です。
1.登山計画に先立つ、事前の資料分析や調査(現場視察を含め)
2.リスク回避の判断基準
3.連絡体制

これらはガイドや添乗員が現場でそのつど考えることではなく、旅行企画会社があらかじめ用意しておくべきことです。

2のリスク回避の判断基準はなぜ旅行会社がつくる必要があるのでしょうか。
事件は会議室で起きているのではない、現場で起きているのだ、というふうに思う人もいるかもしれません。だから山のことをよく知らない旅行会社ではなく、ガイドに判断を任せればいいではないか、判断を任せられるガイドを雇うことが重要なのだ、と。

私はそれは違うと思っています。

リスク回避の判断基準というのは、ある意味で、車の交通ルールとよく似ています。
車の運転は、運転者や歩行者がルールを共有することによって、お互いの行動予測を立てることができるとともに、シートベルト着用義務や制限時速、悪天・災害時の通行規制など運転者の安全のためのルールでもあります。

こういうルールが登山でも計画段階でつくることができるわけです。
もちろん、自分で企画して登山する場合、俺ルールでよいのです。
雨の日は休み、それだけでも立派なルールです。
自分の登山歴と技術水準に見合った、俺ルールを考えておけばいいわけです。

登山ツアー企画会社の場合は少し異なります。
リスク回避の判断基準は、お客様の水準に見合った、ある程度標準化されたものである必要があります。さらに、その判断基準は少なくともお客様に対しては公開されるのが望ましいでしょう。そうでなければ、いざというときの対応をする際に、お客様にとってガイドやリーダーがどのような判断をするかわからず、自らの行動予測が立てにくいからです。
たとえば、天候が荒れてきたと思ってもガイドさんが前進をつづけていると「あれ?以前、別の山では同じような荒天で引き返しの判断をしていたのに?」という困惑をお客様にもたらすかもしれません。そうすると、その後の自己防衛行動に大きな影響を及ぼす恐れがあります。たとえば「てっきり今日の荒天では小屋で停滞だと思って、衣服の乾燥まじめにやってなかったのに、え?出発するの?マジで?」みたいなお客様にとって予想外の展開もありうるからです。

この判断基準は、企画会社が明確にルール化しておくことが大切です。
いいかえれば旅行会社としては「ガイドさんが中止や引き返し、停滞の判断をしたときは従ってください」という説明だけではダメなのです。

なぜダメなのでしょうか。優秀なガイドさんが適切に判断すれば十分なのではないかと思うかもしれません。実際、個人ガイドのツアーでは、ガイドの判断がすべてになります。
しかし、登山ツアーを旅行会社が企画した場合は、バックアップ体制をとる会社本部の人間はガイドがどのような判断をするかについて事前に把握しておくことがより安全に資するからです。
今回の万里の長城遭難事故では、登山の専門家は口をそろえて、悪天候が予想されるなかでの当日の出発自体が無謀であったと述べているようです。現場のことなど何も知らないにもかかわらずです。つまり、晩秋の11月、5時間以上の行程で、朝から小雨が降っており、雪に変わるかもしれないという情報があれば、それだけで中止の判断ができてしまうことを意味しています。机上で答えが出ていることであれば、はじめから計画のなかに中止の判断基準を明記することでお客様自身の判断に余裕を与えることができるはずです。もし私がガイドであれば、たとえ一日中小糠雨でも、76歳の高齢者を連れて6時間とか【ちょっとどうかなぁ】と思います。しかし、そのようなあいまいな空気を引きずると危険です。現場にいるとついこの程度ならばなんとかなるんじゃないかとか考えてしまって、フンギリがつかないものです。いっそ、初めから、ある程度のことまでは決まっていたほうがいいんですよ。それこそ雨天時の交通規制のように一定の時間雨量を越えれば自動的に通行止めになる、という具合の単純明快な基準があればいいわけです。
登山の場合であれば、たとえば、晩秋、気温10度以下、行動7時間(往路4H復路3H)、雨天行動は2時間以内を限度とし、下山時刻は16時をリミットとする、などと決めてしまうわけです。そうすれば、あとは現場でやるのは時間の計算です。その日の後半から天候が崩れる予報であれば、出発後2時間経過した時点が重要な判断地点になります。ここで初めてリーダーの天気判断能力が問われますが、少なくともここまでは旅行企画会社と判断基準を共有するべきでしょう。この判断基準は登山計画によってさまざまです。だからマニュアルの整備ではなくて、登山計画策定プロセスが重要になってくるわけです。
では、どうやって気象判断の基準を設定したらいいか。
正攻法は、過去の登山記録とその日の天気図等気象情報を調べることです。
過去に同じような気象条件で登山者がどのような行動をとったかを調べることです。


また、このことは先に述べた3の連絡体制の確保にもつながります。
もし、リスク回避の判断基準が事前に本部とツアー団体との間で共有されていれば、かりにツアー団体が行方不明になったり事故に巻き込まれたときに、遭難地点や時間、エスケープ経路などについて、ある程度は推測できるようになります。登山パーティが何時ごろ出発したかを推測する手がかりになります。ここがポイントなんです!この点が極めて大切です。

アブナイ登山ツアーを見極める7つの視点

万里の長城遭難事件の続報を目にするたびに、アミューズトラベル社に対する失望が深まるばかりですが、旅行会社を責めるだけではなく、消費者もいいかげんな会社かどうかを見極めるリタラシーを身につけなければいけないでしょう。報道によると、会社は当初、現地ガイドの名前もいえませんでした。だとすると、ツアー客も誰に案内されるのか知らされずについて行った可能性もあります。いいんですか?そんなことで。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121105-OYT1T01326.htmによれば

中国河北省北部の万里の長城付近で、登山ツアーに参加していた日本人4人を含む5人が強風と大雪で遭難した事故で、ツアーを主催したアミューズトラベル(東京都千代田区)の板垣純一総務部課長が5日、記者会見し、悪天候にもかかわらずツアーを強行した判断は中国人添乗員と現地ガイドが行ったと述べた。

 会社としてはツアーの詳細をよく把握していなかったという。

結局、最後の一言につきています。私なりにいいかえると、この会社はプランニングというプロセスが欠如しているんです。
登山界では、登山計画というと、警察に提出するペラ紙一枚の行程表のことだとされています。どういうわけか勘違いされていますが、本来、計画とは登山検討のプロセスを色濃く凝縮した、緻密で具体的なものであるべきです。防災の計画がまさにそうです。とはいえ、自治体や国交省整備局のつくるような電話帳のようなズッシリ感のあるものを作れといっているのではありません。安易にリーダーの経験に頼るな、といいたいのです。登山界では事故あるとすぐにガイドの経験不足が取りざたされる傾向がありますが、経験はプラスにもマイナスに働きます。もっとも、身の程を知るという意味での経験知は大切だと思いますが、経歴だけでは登山の安全性はわからないものです。

たとえば、しばしば引き返す勇気といいますね。これは違います。
引き返しの判断基準と判断する場所を事前の計画でフィックスしてしまえば、天候が悪化するなどの修羅場にきてもガイドが頭を悩ます必要がなくなりますし、留守本部としても、リーダーがどのような判断をするかを計画段階で理解することができるので事故があった際の、行動を推認することが容易になります。地図上で考えうることはすべて事前に検討しつくす。現場での頭脳作業の負担を減らし、そのうえで登山メンバー(客)の行動変容をすばやく察知し、行程の進め方にフィードバックし、未熟な技術のお客さんのサポートに全力をあげるのが正しいリーダーです。勇気などなくても計画どおり粛々と判断すればいいじゃないですか。

最終的な判断は添乗員やガイドがする。しかしながらその判断基準は事前に本部との間で共有されてしかるべきです。


さて、では消費者はどんなモノサシで、ツアー企画の安全性を推測することができるでしょうか。登山計画を綿密に組み立てている会社なのかどうかをチェックできる7つの指標を考えてみました。
1.ルート情報の正確性、2.確かな根拠に基づいた登山の進め方や戦略、3.リーダーの資質、4.登山チームとしての能力水準の把握、5.緊急連絡体制、6.装備チェックリストの有無、7.既存の登山記録との比較、の7項目です。

1.登山ルートについて正確な地形図を用いて、各行程の時間配分、危険箇所、安全箇所、樹林等防風ポイントの有無、各行程での目標物の有無、各行程で必要とされる行動技術、風向風力、気温など行動可能な天候基準、気象情報の入手手段、行動可能なルートの状態、下山後もっとも近い人家、緊急時の医療機関等の登山イメージについて具体的に説明を受けていますか。

まずは事前に調べうる客観的な事実をどれくらい把握しているかをみましょう。

2.登山続行が不能になる場合の天候・ルート状況について、計画のなかで具体的な判断基準が示されていますか。また続行不能になった場合の戦略・シュミレーション(予備日利用、エスケープルート等)について説明されていますか。

登山の進め方についての考え方を把握しましょう。たとえば、雪渓の通過、という局面では、どのようなやり方でどれくらいの時間でお客さんを通過させるつもりなのかの具体的な方法まで聞きましょう。引き返しが必要な場合について、たとえば、A地点を最終判断地とし、タイムリミット、気温、風、視界といった定量的な指標で一定水準を下回ったら自動的に撤退の判断をする、ということが客に事前に伝えられるかどうかを確かめましょう。

3.登山のリーダー(ガイド・ツアコン)のプロフィール・登山経歴、救助技術、リーダーとしての方針(山行の進め方)は開示されていますか。

リーダーの登山哲学を事前に知っておきましょう。
慎重派なのか、おおざっぱなのか。冷静なのか、キレやすいのか。コミュニケーションが苦手なのか、これも相性があるはずです。

4.ルートに照らし合わせて、客として登山を遂行するに必要な行動技術と生活技術水準が明示されていますか。また客の年齢、体力水準、病歴、常用する薬、悪天行動経験、最近の登山記録、事故歴、参加人数は事前にガイドに情報共有されていますか。またガイドからそれらの情報についてフィードバックする機会はありますか。

ガイドはお客さんの能力水準や体調をできるだけ正確に把握する責任があります。

5.緊急時の連絡体制(とりわけ客の自力下山も想定)や会社のバックアップについて具体的に説明を受けていますか。

会社はガイドの名前をちゃんと知ってますか?いざというときの連絡体制、連絡手段をお客さんにも周知しておくべきです。

6.団体および個人で必要な装備・食料・医療品について、すべてリスト化されていますか。

個別の登山での持ち物を具体的に把握する必要があります。極端にいえば、誰が何を着ているか、何をもっているか、フリース衣類やキットカットの一本一本まで、プライバシーにかかわるもの以外はリーダーおよびツアー会社は把握すべきです。

7.当地での登山記録、類似の登山計画、実績などと比較し、当計画に無理がないかを推測する判断材料はありますか。

そうしないと、未知のチャレンジに挑む冒険登山にいつのまにか参加していることになりかねません。


以上の7項目を満足するツアー会社はまずないのではないでしょうか。またこうしたことが事前に検討されるべきだとの自覚もないでしょう。それくらい、今の登山ツアー業界は病んでいると私は思っています。

行程表一枚を登山計画だと勘違いしている人たちにいいたい。
登山ツアー会社は、図上演習にもっと慣れてもらいたい。図上演習はプランニングプロセスを体感できるよくできたマネジメントツールです。
地図上で、登山のイメージを具体的に展開し、事前に把握していることと把握しえないことの区別を明確にしておきましょう。演習を通じて判断の枠組みを留守本部も共有しましょう。
とくに登山パーティの強み弱みをきちんと把握することが大切です。
初めて図上演習を行う場合は事前に資料を十分に読み込んだ上で、なるべく多くの関係者を参加させて、一件あたり3時間ほどじっくり時間をかけて実施しましょう。演習の最中に出てきたコメントや意見は議事録で正確に記録しましょう。

登山専門家の意見として、事故を起こした会社はリスク管理ができていない、教訓を活かしていないと報道されている。しかし、本当にわかっていっているの?遭難事故分析で有名な羽根田さんを含め、大いに疑念がある。具体的な提言が皆無だから。登山業界がえらそうにリスクマネジメントが必要と事故ったツアー会社に説教たれるのであれば、防災分野でやっていることと同じレベルのことを自分たちもやってみてはいかがでしょうか。

アミューズトラベル社の気象遭難防止対策

万里の長城遭難について、大変痛ましく報道をみています。
現地は52年ぶりの記録的な大雪とのことで捜索が難航していたようですが、
さきほどのニュースでは行方不明者が遺体で発見されたとのことです。

3年前の大雪山遭難事故を踏まえて、同社は気象遭難を防止する取り組みを進めていたはずでした。
同社は山岳気象予報会社と契約をして、より確かな情報をもとに基準を明確にして気象判断をすると説明していました(*下記 同社の取り組み参照)。
今回、同社の取り組みはどれくらい活かされていたのでしょうか。
それだけに、また気象遭難か、という失望感はぬぐえません。

以下、Googleキャッシュから、アミューズトラベル社の「トムラウシ山遭難事故調査報告書」の提言を受けて当社の取り組みを掲載します。ウェブサイト閉鎖していることも相当に残念ですね。

トムラウシ山遭難事故に関してのお詫び

トムラウシ山での遭難事故に関しまして、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆様には衷心よりお詫び申し上げます。

さて、トムラウシ山遭難事故後、弊社役員の安全登山に対する強い信念と決意のもと、安全を最優先のツアー運営を実践するため様々な対策を講じてまいりました。又、トムラウシ山遭難事故調査委員会より「トムラウシ山遭難事故調査報告書」が提出され、この報告書で指摘された諸課題を真摯に受け止め、安全登山の確保に向けてより一層の改善努力を尽くして参ります。

トムラウシ山遭難事故調査報告書」の提言を受けて当社の取り組み

*リスク・マネジメント等について
安全山行委員会は、企画を立案し販売する会社側と現場でツアーを実際に運営し挙行する、ツアーリーダーとの間に事故に関する危機管理に齟齬がないかを都度確認し、現場の実情を把握しつつ、安全対策に対する様々な方法の提案などを相互に協議する場として運営して参ります。
具体的には同委員会の委員を中心に、リスク・マネジメントの体制を整え、どうしたら事故を未然に防ぐことができるか。そのためには何をすれば良いのかに重点を置いてツアー内容を検証し、ツアーリーダーの意見が企画やツアー運営に今まで以上に反映できる体勢を構築し安全登山を実践して参ります。
日ごろのツアー運営でも安全配慮を最優先させますが、万が一危機的状況下に見舞われた際は、現場ツアーリーダーは一体となり強い意志を持って参加者の安全確保を最優先に行動すべく、ツアーの中止や変更、あるいは延長せざるを得ない場合など、あらゆる手段を講じて参ります。また、ツアーリーダーが決定したツアーの中止や延長の判断を会社が尊重して行くことで、ツアーリーダーが精神的な予備日(自己裁量できる余裕)を持てるように会社としてバックアップいたします。

*ツアーリーダー研修内容について(特に低体温症の研修)
当社の設立以来、現場において発生した事故は、滑落・転落等にともなう事故が殆どであり、当社が行うリーダー研修会は滑落・転落等のレスキューが主な内容で、他のリスクについての検証が十分になされていなかった点を深く反省しております。2005年に「低体温症」に関するレポートとその対策を掲示しましたが、その後は、山の緊急医療ハンドブック(低体温症も掲載)を配布しておりましたものの、具体的な低体温症についての研修は行っておりませんでした。ツアー登山における低体温症等の山での危機管理について継続して検証し、今後は研修会の必須項目として「低体温症」を取り上げて参ります。

*ガイド(ツアーリーダー)の選定方法など
今回の添乗員、ガイド、サブリーダーともに経験豊かで実力を持ったスタッフを配置しましたが、結果として遭難事故となってしまいました。今後のスタッフの選定は「安全山行委員会」の委員を中心に執り行い、 リスキーなプランにおいては、危機対応の力を中心に歩行クラスや山の難易度に応じたツアーリーダー(ガ イド)選びを今まで以上に慎重に選定いたします。
また、ツアーリーダー同士の打ち合わせを徹底し、天候やルート上の危険に関する共通認識、旅程上の問題、 参加者の個人情報を共有し山行の危急時に対応いたします。各々のツアーでは、ツアーリーダーの中から「山 行責任者」を選定して山行中のリーダーをお客様とスタッフに明確に分かるようにいたします。

(補足)
◎ツアー全体の責任者は添乗員であることに変わりありませんが、山中ではガイドの判断が優先 されるため、山行中のリーダーの明確化が必要です。そこでツアー毎に「山行責任者」(ガイド)を指定し山中での責任者を明確にします。山行責任者は山行前に、本ツアーのリスクについて参加者に事前説明を行います。
◎添乗業務を兼務するツアーリーダーには旅程管理主任者資格の取得を義務付けます。

*気象判断について
当社催行のツアー登山において、天候不良によってツアーの延泊、変更、登頂断念による下山という事態を余儀なくされたケースは、2008年からトムラウシ山遭難事故前(2009.7.15)までの間、ツアー本数にして47回以上ございます。その殆ど全てが現場ツアーリーダーの判断でおこなったものです。かように当社では、「想定外の悪天になった場合は、添乗員は他者の行動に惑わされずツアーの中止や停滞など顧客の安全を最優先して判断すること」との規定を念頭に安全の確保に努めてきた経緯にありますが、具体的な判断基準としては不十分ではないかという反省から、山岳気象予報専門の「(株)ヤマテン」と契約を交わし、すでに天候判断の基準として利用しています。利用方法としては、現場ツアーリーダーはツアー出発前に天候の推移を確認し、山行時にもヤマテン社と直接交信し天候の推移に関しては細心の注意を払うことに努めます。

*予備日について
今年度より予備日付のツアーを設定しました。予備日付以外のツアーでは、全てのツアーが予定通りに進まない場合があることを参加者に十分ご理解いただき、その意味において「全てのツアーに予備日(日程の延長)がある」と啓蒙してまいります。現場ツアーリーダーには「安全登山を全てに優先させます」との会社理念を徹底させ、その結果としてツアーリーダーの裁量に基づく判断(延泊や途中下山など)については、参加者にご理解を賜りますように会社としてお願いをして行きます。

*避難小屋(無人)・テント泊など
避難小屋の持つ社会的機能を尊重し、これを利用することを折り込まず「テント泊」と明記します(幕営禁止場所等、一部除く)。テント泊ツアーでは「衛星電話」を携行させ連絡体制を確立し、ラジオを携行させます。停滞などに備え予備食料の持参などを旅程表に明記します。さらに、テント泊ツアーではお申し込みから出発までの間に申込者に適宜連絡をおこない、テント泊に伴うリスクを伝えて理解を求め、又山行歴をヒアリングするなどして申込者の体力や技術並びに必要とする装備を予め確認させていただきます。
また、ほとんどのツアー登山では、通常数時間〜半日程度、携帯電話(衛星電話を含む)が通じないリスクがあることを参加者にご理解いただくように啓蒙して参ります。

*顧客管理や申込み基準等について
ツアーリーダーはツアー終了後に参加者の歩行基準を検討し、目的の山に見合った体力や技術が不十分と思われる顧客の情報を安全山行委員に集約させ、その顧客の体力や技術に合ったツアーを提案していきます。
さらに、登山に役立つ日常のトレーニング方法なども日頃から啓蒙して参ります。
また、当社のツアー参加基準では、体力度★4と技術度★3の参加年齢は70歳以下とし、体力度★5と技術度★4の参加年齢は65歳以下で募集しております。今年度からは、難所、長距離・長時間、高山病などリスクの高いツアーでは、募集パンフレットに「リスクマーク」を表示し危険箇所の具体的な注意を促します。

※本文中の「ツアーリーダー」とはガイド(山行中のガイド及び山行責任者)、 添乗員(ツアー中の総責任者/旅程管理資格者)、サブリーダー(ガイドや 添乗員のサポート)等の総称でツアー中のスタッフすべてを指します。



*これは Google に保存されている http://amuse-travel.co.jp/amuse_x/index.php?cID=228 のキャッシュです。 このページは 2012年10月22日 02:19:48 GMT に取得されたものです。 そのため、このページの最新版でない場合があります。

アミューズトラベル社のツアー運営体制

万里の長城遭難事故の続報によると、ガイドの人選は、去年入社した中国国籍の添乗員や現地の旅行会社に任せ、会社としてガイドの名前や経験などは把握していなかったそうです。

万里の長城 会社でコースの下見行わず(NHK News Web)
11月5日 19時24分


中国の河北省の山間部で、日本人観光客4人を含む5人が大雪で遭難し、3人が死亡した事故で、ツアーを企画した旅行会社によりますと、日程やコースなどの計画は地元の旅行会社からの情報などを基に決定し、会社としてコースなどの事前の下見は行わなかったということです。
海外の山岳ツアーに詳しい専門家は、3年前、同じ会社のツアーで起きた、北海道大雪山系トムラウシ山での遭難事故の教訓が生かされなかったのではないかと指摘しています。

ツアーを企画した東京・千代田区の「アミューズトラベル」の説明によりますと、「万里の長城」を歩くツアーは今回初めて企画したものでしたが、日程やコースなどの計画は、地元の旅行会社からの情報などを基に決定し、会社としてコースなどの事前の下見は行わなかったということです。
また、今回のツアーには現地のガイドがついていましたが、ガイドの人選は、去年入社した中国国籍の添乗員や現地の旅行会社に任せ、会社としてガイドの名前や経験などは把握していなかったということです
今回の事故について、日本山岳ガイド協会の理事長で、海外の山岳ツアーの旅行会社を経営している磯野剛太さんは、「まれな大雪だったとはいえ、どうして3人が死亡するような結果になったのか、非常に疑問だ。初めて企画するツアーでは通常より手厚い態勢で臨むのが普通であり、ガイドの名前も能力も分からないというのは考えられない。ツアーの態勢に問題があった可能性がある」と話しています。
アミューズトラベルは、3年前、北海道のトムラウシ山でガイドを含む8人が死亡した登山ツアーを企画した会社で、この事故のあと、磯野さんは、業界として事故原因の調査に当たりました。
今回の事故の原因について、磯野さんは、「冷たい雨が雪に変わるなかで行動を続けたため、低体温症になって衰弱した可能性が考えられる。そうなる前になぜ引き返す判断ができなかったのか、ガイドや添乗員の判断が問われることになる。トムラウシ山の遭難事故のあと、アミューズトラベルは会社として再発防止に取り組んでいると聞いていたが、今回、判断が現場任せになっていたのを見ると、教訓が生かされておらず、取り組みが不十分だったと言わざるをえない」と指摘しています。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121105/k10013266291000.html

あまりにお粗末な話ですが、もっと残念に思うのは、上記のNHK報道記事中にある、日本山岳ガイド協会の理事長さんのコメントです。
このブログで私は、同協会が出した「トムラウシ山遭難事故調査報告書」にはいくつかの不備があると指摘してきました(トムラウシ山遭難事故調査報告書のまやかしと盲点 - + C amp 4 +参照)。
このなかで、私は事故調査報告書は、リーダーの過失・能力不足に焦点を当てたために、全体として、ガイドをもっと鍛えようというマッチョな結論に仕上がっていて、本来ツアー会社が監督すべき登山計画策定プロセスへの考察が抜け落ちていると指摘しました。また同報告書はツアー会社のリスクマネジメント体制に問題があるとしながら、同社への踏み込んだ調査を実施した形跡がみられないことも調査不足を感じました。

本報告書はきちんと旅行会社について事実を確認したのだろうか

報告書はこういった形での提言がなされなかったのみならず、実際の事故を起こしたツアー会社において、それをしていたのか、どの程度なされていたのか、それともしていなかったのか、その事実についてもあいまいな記述の仕方をしています。

そのために、スタッフ・ミーティングをしっかり行なうよう、会社としての指導が徹底されていたとは思えない。(P40)

などと報告者自身の憶測や認知を表明しているのはあきれます。それならば何の取材もせずに書けるブログでもできることです。いったい何を調査してきたのでしょうか。

企画会議の議事録の入手やインタビュー調査まで行ってほしかった。

事実を入手してはじめて意味のある提言ができるというものです。
トムラウシ山遭難事故調査報告書のまやかしと盲点 - + C amp 4 +参照

同様の不満は『トムラウシ遭難はなぜ起きたのか』羽根田治, 飯田肇, 金田正樹, 山本正嘉共著にも感じています。
ガイド協会にしても、これらの著者には事故を起こした会社のマネジメント体制を調査し、教訓を世間に共有する社会的責任があったと思っています。それが欠落した報告書や著書には失望していましたが、教訓を伝える責務があったのは、アミューズだけではなく、磯野さんあなた方の協会だったのでは?業界の一部じゃないですか。アミューズ社を放置した責任を少しは感じていただきたい。

大雪山遭難の旅行業者「アミューズトラベル」業務停止期間に営業活動、観光庁から厳重注意を受ける

観観産第622号
平成23年3月8日
 アミューズトラベル株式会社
  代表取締役社長 板井 克己 殿
観光庁観光産業課長
鈴 木 昭 久

厳 重 注 意 書


貴社は、旅行業法(昭和27年法律第239号)に基づき、観光庁長官より、平成22年12月16日から平成23年2月4日までの51日間、本社営業所における旅行業務(既に締結された旅行契約の履行に必要な業務を除く。)についての業務の停止を命じられていたものであるが、貴社に対して立入検査を実施したところ、当該業務停止期間の開始前に本社営業所で申込みを受けていた募集型企画旅行に関して、申込みを受けていれば既に締結された旅行契約の履行と同視し得るものと誤認し、これを取り扱っても業務停止命令の内容に反しないとして、当該業務停止期間中に、契約を成立させた上で、旅行者を当該募集型企画旅行に参加させていたことが判明した。
このような行為は、故意に業務停止命令の内容に違反したものであるとまでは言えないものの、既に申込みを行っていた旅行者の利便を考慮してもなお正当化されるものではなく、業務停止命令の内容を逸脱するものとして不適切であると言わざるを得ない。
そもそも、貴社に対しては、平成22年3月31日付け文書により、旅行業法及び関係法令、関係官署等の指示の遵守等に万全を図るよう、厳重に注意していたにもかかわらず、今回このような行為が行われたことは極めて遺憾である。
ついては、貴社に猛省を促すとともに、あらためて、旅行業法及び関係法令、関係官署等の指示を遵守し、旅行業務の適正な運営確保及び旅行の安全確保に万全を図るよう、厳重に注意する。
なお、貴社の法令順守の状況等については、引き続き注視していくことを念のため申し添える。
http://www.mlit.go.jp/common/000136832.pdf

ウェブサイトの様子からして、うすうすそんなところではないかな、とは思っていましたが。残念なことですね。

アミューズトラベル本社営業所の業務停止命令〜大雪山遭難事故のその後

 北海道・大雪山系トムラウシ山で昨年7月、登山ツアー客ら8人が死亡した遭難事故で、観光庁は15日、ツアーを企画した「アミューズトラベル」(東京都千代田区、板井克己社長)に対し、本社営業所の業務を16日から51日間停止するよう命じた。
 観光庁によると、業務停止期間は記録の残る1997年以降で最長。同庁は「必要と定められた旅行業務取扱管理者を長期間置かないなどの事情を考慮した」としている。
 アミューズ社は、昨年7月13日から17日のツアーに際し、安全確保のため必要な計画作成などをしなかった。また、札幌営業所では2006年1月から3年7カ月、旅行業務取扱管理者を置いていなかった。 
http://ameblo.jp/travelrakuten/entry-10737765967.html

業務停止のニュースは年末に聞いていました。
しかし、東京営業所だけだったのですね。同社ウェブサイトに告示がありありました。

弊社は、ツアー登山における管理運営において旅行業法に違反があった為、監督官庁である観光庁より東京営業所の旅行業に係る業務停止(すでに契約を締結された旅行に関する履行の為の業務を除く)の命令がありましたので、2010年12月16日より2011年 2月4日まで東京営業所の業務を停止します。観光庁からのご指摘や処分の内容を真摯に受け止め、再発防止のために努めて参ります。
アミューズトラベル株式会社 代表取締役 板井 克己

http://wwwtb.mlit.go.jp/hokkaido/press/presspdf/H22/2212/221215kankou.pdf参照。

御社には東京のほか、大阪・名古屋・福岡・仙台・広島・札幌の各営業所がある。

御社がその後、安全確保のため必要な計画作成をしているのかどうかウェブサイトからはうかがい知れません。
http://amuse-travel.co.jp/amuse_x/index.php?cID=228において述べられているリスクマネジメントの体制作りは進んでいるのでしょうか。

もし進めているのであれば、ぜひウェブサイトにニュースレターのような形でよいので情報公開をしてほしい。

御社には、日本における安全登山ツアーの最先端をゆく会社に発展してほしいと切に願っています。
それがあなた方の業界に課せられたCSR(企業の社会的責任)というべきです。

事故の検証をつづけてください

御社をふくめ、この業界に与えられた使命はなんでしょうか。それは二度とこのような悲劇を起こさないことです。
その使命を全うするために、これまでさまざまな検証がなされてきました。
昨年3月に発表されたトムラウシ山遭難事故報告書(日本山岳ガイド協会)、それから事故からちょうど一年経過した2010年7月に出版された羽根田治 ・飯田肇・金田正樹・山本正嘉 編著の『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』
トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか
いずれも発表と同時に読ませていただきました。
私にとって、低体温症の分析がこれほど緻密になされているのをみるのはこれが初めてでした。
また運動生理学の知見は、ツアー登山のみならずすべての登山者に生かしてもらい素晴らしい成果の発表だと思います。
このような成果に関係者が注目するきっかけとなった事件は大変不幸なことでしたが、より深い見識を深める機会でもありました。

ただ残念ながら、登山計画にかかわるリスクマネジメントについては、報告書も『トムラウシ遭難はなぜ起きたのか』双方ともあいまいで具体的な提言に乏しいものに私の目には映りました。報告書については、いままで散々書いてきましたが、ダメ押しにもう一度書いておきます。
強いリーダーシップを育てるという、報告書の提案する処方箋は、強いチームを育てて難しい山を攻略する登山家的な方法論です。しかし、ツアー業界に求められているのは、弱いチームを守る方法論です
トムラウシ遭難はなぜ起きたのか』についても、ひとつ不満があります。防災マネジメントに関わる身からみれば、愕然とするほど具体的な中身に乏しく、必要な理論立ても、実践例も何一つ紹介されていない。これらは業界の今後の課題というには、あまりにもお粗末な状態と思えます。もし著者に直接お会いする機会があれば、この点はぜひともお聞きしたい点でした。リスクマネジメントの必要性と書いてあるが、あなたは正直なところ、具体的なイメージをもっていますか、と。
さらに、http://amuse-travel.co.jp/amuse_x/index.php?cID=228にしても、反省文のニュアンスが強く、具体的な対策が全くみえません。
お客さんの命を預かる企業には反省文以上のものが求められているのです。まずは安全対策のプロジェクトなり常設検討会を立ち上げ、責任者を決め、スコープ(目標設定)とスケジュール(デッドライン)、予算・人員配置を明確にした活動計画を作成したほうがよいです。
もしすでに実施しているのであれば、情報公開をしてください。

リスクマネジメントの言葉の意味を他の分野から学んでください

ひとの命を守るということはどういうことでしょうか。
あらゆるリスクマネジメントは、何を守りたいかということについてのコンセンサスが非常に大切な出発点です。
安全とひとことでいうのは簡単です。しかし何をもって安全なのか、どこまでが安全なのか、対象は何か。あるいはどれくらい真剣に守りたいと思っているか、です。
ボロボロになっても生きて帰れればよい、といったことが目標になるのか、それとも十分に余裕をもって帰るのが目標になるのかは、最初にコンセンサスをとるべき”価値”によって決まります。

防災マネジメントの目からすれば、と先ほど書きましたが、実際にごらんにいただければわかるのではないでしょうか。

新潟県の事例

例えば、ためしに新潟県三条市の防災のウェブページをざくっとクリックしてみてください。
http://www.city.sanjo.niigata.jp/category00001328.html
住民の生命財産およびインフラを守るために、ここまで具体的な計画をたてているのには、ある災害に対する教訓がありました。
2004年7月13日から18日にかけて発生した平成16年7月新潟・福島豪雨 - Wikipediaです。ウィキペディアによれば、死者は福島県昭和村での1人を含め16人。全壊70棟、半壊5,354棟をはじめ、20,655棟に被害が出た洪水を中心とした災害でした。
2004年は新潟県にとっては受難の年で、秋には中越地震が発生、多くの犠牲者がでました。三条市新潟県も、この年の災害から何を学び取ったかというと、それは明確な目標管理型のマネジメントです。とくに中越地震では避難所の運営に失敗したがために、高齢者を中心に疲労が蓄積し、そのために亡くなった事例が建物の倒壊などといった直接的な打撃による犠牲をはるかに上回っていたのです。そこで、新潟県地震災害、水害ともに、災害対応に必要なタスクをすべて洗い出したうえで、緊急時のタスクチームを明確にし、タイムフレームで区切ったタスクごとの目標を管理するマネジメント計画を徐々につくっていったのです。例えば医療救護のタスクについてみると、6時間以内に医療救護チームを派遣するために、1時間以内に医療機関の被災状況と患者の受け入れができるかどうかを調べ、3時間以内に救護所を設置するものとしています。こういった検討作業というのは、本当に時間がかかるものです。新潟県でも形になるまで3年近くかかっています。その成果は、3年後の新潟中越沖地震の応急対応でいかされることになったのですが、新潟県はそこでも教訓を抽出し、さらなる取り組みを続けています。

先のトムラウシ山遭難事故報告書は、ガイドの人材育成を強調するものでした。リーダーやガイドへの研修を強化したり、資格制度の検討という話は決して間違ってはいません。防災の世界でも人材育成は急務の課題です。しかし、そういった事柄は検討すべき全体像のごく一部にすぎません。
また、御社はウェブサイトで『気象判断について』という項目において以下のように書いていますが、若干疑問があります。

具体的な判断基準としては不十分ではないかという反省から、山岳気象予報専門の「メテオテックラボ社」と2009年8月6日に契約を交わし、すでに天候判断の基準として利用しています。利用方法としては、現場ツアーリーダーはツアー出発前に天候の推移を確認し、山行時にもメテオテックラボ社と直接交信し天候の推移に関しては細心の注意を払うことに努めます。

正確な気象情報を入手することと判断することは別のことです。一体どのような基準であれば登山の継続を断念するのか、この記述からは全くあきらかではありません。もう少し具体化すべきです。また、判断をアウトソーシングするわなについて、危機意識をもってもらいたい。

だからといって、連日連夜検討を重ね、つくりこんだ計画書を練り上げ、電話帳のような厚さのものをひとつつくればいいかといえば、それもまた違います。現場のハンドブックと全体計画はきっちりと分けて考える必要があります。

山口県の事例

もうひとつ事例をあげさせてください。山口県防府市の取り組みです。
09年7月、記録的な集中豪雨が防府市を襲い、土石流により多くの家が破壊され、17名の犠牲者が出ました。
平成21年7月中国・九州北部豪雨 - Wikipedia

おりしも大雪山遭難の数日後のことでした。
この災害で、防府市、とりわけ市長はその後猛烈な批判にさらされました。なぜなら、市による避難勧告が遅すぎたからです。土砂災害警戒情報が山口県及び下関気象台から災害発生の4時間前には発せられていたにもかかわらず、避難勧告を出したのは、土石流が発生した3時間後のことでした。
しかしながら、これまで防府市は災害に対して全く無警戒で、計画もずさんだったのかというと、そうでもなく、河川氾濫に対する警戒は住民たちの意識のなかにもありました。むしろ国交省河川局と専門家による啓蒙活動が盛んな地域でありました。ところが風化花崗岩による大規模な土石流がどういうタイミングで発生するかについて警戒が足りなかったのです。

議論の透明性を確保してください

私が紹介したいのは、そのあとの話なのですが、防府市はこの災害をうけて、豪雨災害検証委員会を立ち上げました。
これがまた批判されるのです。まず立ち上げ時期が遅い。2010年1月の中国新聞によれば

山口豪雨災害発生から21日で半年 '10/1/20

 ▽26世帯が今も仮住まい 農地の復旧工事はこれから

 死者17人、家屋の全半壊111棟など山口県内に甚大な被害をもたらした7・21山口豪雨災害は21日、発生から半年を迎える。防府市では今も26世帯が仮住まいを続け、防府、山口両市の農地などはほぼ手つかずの状態となっている。

 防府市によると、26世帯は市営住宅雇用促進住宅、民間賃貸住宅での暮らしが続く。多くが自宅が全壊したり、半壊したりした世帯。自宅近くでは砂防ダム建設や河川改修が続いており、本格的な生活再建には時間がかかるという。

 砂防ダムの建設は本年度、34カ所で始まる一方、農地や農業用施設の復旧はこれからだ。農地、農業用施設の計207カ所が被害を受けた山口市は工事着手がゼロ。農地と農業用施設の計93カ所で被害が出た防府市も着手は1カ所にとどまる。

 災害の課題を探るため、県が設けた4検討委員会は今月、検討結果をまとめたのに対し、防府市の対応は遅れている。市の検証委は20日にようやく初会合を開き、初動対応の検証に取り掛かる。(石井雄一)

とあります。また市議会もまた市行政の対応を批判します。
初会合に出席した防府市のある議員のブログでは次のように怒りをぶちまけています。

総務委員会の所管事務調査を傍聴しました。内容は先日行われた豪雨災害検証委員会の報告。説明もしどろもどろ、答弁も出来ない、とひどい内容でした。
災害検証委員会のメンバー構成に納得がいきません。員20名の内、6名が市の職員。市は災害対応について検証される側であるはずなのに、なぜ検証をする側の委員になっているのか。更に、小野地区、右田地区の連合自治会長や、被害の大きかった田の口地区、真尾地区の自治会長が委員になってはいますが、死者の出た奈美地区、勝坂地区の自治会長が入っていません。
・・・
検証委員会の委員長は瀧本先生という山大の准教授で、防府市の防災ネットワーク推進会議議長も努められている方です。私も著書を読んだこともある地域防災の専門家。この方も、最初はメンバーに入っていなくて、議員からの「なぜ入れない」という指摘でやっとお願いしたようです。
http://blogs.yahoo.co.jp/hisashi_ito_hofu/60808197.html

いろいろと批判はされたものの、防府市では昨年6月、防府市豪雨災害検証報告書をまとめ、公けにしました。
報告のための会議については市民の傍聴ができ、会議録も一字一句記録されています。私自身、被災地住民の親戚筋ということもあり、しかも職業として防災に関わる仕事をしているため、大変大きな関心をもってことの成り行きをみていました。
私がここで防府の事例をあげたのは、新潟県のように防災計画が緻密だからではありません。
地方行政において、議論の透明性が確保されていることに感動を覚えたからです。これは、ひとつの被災地域に継続的な関心を持ってはじめて気がついたことでした。
かつて片山善博氏(現総務大臣)は、全国最年少の若き鳥取県知事としてデビューしたてのころ、透明性こそが地方分権のキーファクターであると述べたことがあり、印象に残っていますが、まさに議論が開かれていることによって、さまざな意見を吸収し、批判に耐え、よりよいものを目指してゆく、ということの意義を感じます。また議論が透明であることによって、議論をして結論がでないまま、うやむやになるということを避ける利点があるし、さすがに論理的に議論を積み上げてよいものを残さないと恥ずかしいという話になる。サービスを受ける側にとっても行政の誠実さを公正さをそこに見出し、さらにInformed publicとなることによって政治参加への契機ともなる。それらが相乗効果となって行政と住民との信頼を醸成する機能をも果たす。そして結果としてよいマネジメント体制につながっていけばいいのであって、途中途中で批判されようが何しようが、前進するだけの仕掛けがあるかどうです。

防災分野では、こうしたWinWinのプロセスが成り立っている。山口県の事例ではその点を強調したいのです。

では、ふりかえって山岳ツアーではいかがでしょうか。
遭難事故報告書が出された3月以降、何か進展はありましたでしょうか。昨年の5月にはこんなニュースがありました。
依然として、消費者には十分な情報が与えられず、うっかりついていったツアーがいつ地獄絵になるかわからない状態だとすれば残念です。

ツアー登山、3割の旅行会社でマニュアルなし

2009年7月、北海道大雪山系トムラウシ山(2,141m)で、台風が近づく悪天候の中、ツアー登山に参加していた登山者ら8人が凍死した。この遭難事故を受け、観光庁は、ツアー登山を行う旅行会社に、登山マニュアルを作成しているかアンケートをとった。
 報道によると、アンケートの結果、添乗員や山岳ガイドのための登山マニュアルを作成していないと回答した旅行会社は三分の一に上ることがわかったという。 
 今年三月、調査結果をふまえて、観光庁はマニュアル作成を業界団体に要請したそうだ。観光庁の担当者によれば、各社が天候が悪化した場合の危険を回避するための判断基準などを具体的に決め、最低限の約束事を決めるべきだという。

http://tomosibi.blogspot.com/2010/06/3.html

私はこのトムラウシの事故がなんとなしに風化してゆくのは見るに耐えません。
その意味で、実は今回の業務停止命令という行政処分は、時期を得たものだったのかもしれないとも思っています。
制裁が必要だという意味ではありません。
必要なのは、開かれた議論です。業務停止期間は、こうしたことを考えるよい機会なのではないでしょうか。以前も書きましたが、提案として、机上訓練を実施するなど、業界でそういった試みが共有されるのも有益でしょう。机上訓練の面白さは、必ずしも正解が出てこない場合があることです。そこで初めて気がつくわけです。机上でも迷う問題を現場に投げてはいけないと。

時間がかかってもよいので、業界全体として、努力しているのだという誠意をみせていただきたい。
アミューズトラベル社は、その先導役になってよいとおもいます。



もうひとつ、最後に。
刑事事件として立件されるだろうといわれてもう1年半。会社はともかく、ガイドにつきましては、もしかりに、書類送検するのであれば一日でも早くしていただきたいと祈っています。送検が遅れればそれだけ不安定な状態におかれ、社会復帰も遅れます。一日もはやい社会復帰を願ってやみません。